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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第五章 光の勇者
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第六十話 魔科学兵器ノアギガント

前回までのあらすじ



アレクトラはやはり生きていた。キリエを救う為、杏利とエニマはロージット達とともに、恐怖の魔科学兵器、ノアギガントに立ち向かう!

 ミサイルが飛ぶ。光線が飛ぶ。着弾し、爆発し、土煙が舞い上がる。

 戦場。もはやそうとしか呼べない場所に、一之瀬杏利はいた。

「ふははははははは!!」

 アレクトラは高笑いしながらノアギガントを操作し、ミサイルや光線を放つ。いや、ノアギガントが両手を向けた。その指先が開き、マシンガンのような速度で光弾を連射してくる。

「くそっ!! 近付けない!!」

 杏利達も最初は前進していたが、激しさと物量を増した弾幕の前に進むのを断念し、回避と防御に専念していた。だが、いくらしのいでもミサイルは次々と再装填され、光線と光弾もやむ気配がない。

「このノアギガントには、魔力物質化装置が搭載してある!! 魔導ミサイルをいくらでも再装填出来るのだよ!!」

 魔力物質化装置とは、文字通りあらかじめ設定しておいた物質に、魔力を変化させる装置である。これにより魔導ミサイルを使い切ったそばから再装填し、即全弾発射に移る事が出来るのだ。

「弾切れなど待つだけ無駄だ。わかったら静かに敗北と死を受け入れろ!!」

 休む事なく攻撃してくるノアギガント。アレクトラの言う通り、弾切れは期待出来ない。

「このままじゃ、キリエの魔力がなくなっちゃう……!!」

 魔力がなくなれば、今度はキリエの命を魔力に変換して使うだろう。アレクトラがそれを見落としているとは思えない。そうなれば、キリエは死ぬ。なんとか魔力が尽きる前に、キリエを救出しなければならない。

 すると、ロージットが杏利に言った。

「杏利様!! どうにか敵の攻撃を防いで頂けませんか!?」

「出来ると思いますけど、どうするんですか!?」

「少し時間があれば、あの魔科学兵器にダメージを与えられます!! 時間を稼いで下さい!!」

「……わかりました!!」

 ロージットが何を考えているのかわからないが、今はノアギガントを止めるのが先決だ。その方法があるというのなら、喜んで協力する。

「アタックガード!!」

「マジックガード!!」

 魔導ミサイルは、火薬の代わりに火属性の魔力を詰め込んだミサイルであり、着弾と同時に炎が炸裂し、標的を爆破・焼殺する。魔力を無効化出来ても、ミサイル自体の質量と、ぶつかった時の衝撃。炸裂した際に飛び散る鋭利な金属片によって、物理的なダメージを受ける。ノアギガントの攻撃は、物理と魔力の複合攻撃だ。

 だから物理防御と魔法防御を両方高めないと、防ぐ事は出来ない。杏利がアタックガードを、エニマがマジックガードを唱え、ロージット達の盾となる。

「神は慈悲深く、されど邪悪の徒には容赦をしない。故に己を崇める者に力と、敵を討ち滅ぼす機会を与える。これは神の使徒の最高の栄誉なり。神が生み出した八つの子らは、刃となりて使徒に従う」

 杏利とエニマが攻撃を防いでくれている間に、ロージットは光導の書の力を高め、聖刃型に変え、攻撃の準備を始める。

「マリーナ!! ジェイク!!」

「「はい!!」」

 次にマリーナとジェイクがロージットの後ろに立ち、背中に片手を当ててロージットに魔力を送り込む。

「くぅぅ……!!」

「杏利!! 大丈夫か!? アタックガード!! マジックガード!!」

 凄まじい威力の攻撃に、防御力を上げていてもダメージを受ける杏利。彼女を守る為、エニマはアタックガードとマジックガードを唱える。

 一方ロージットは、マリーナとジェイクから魔力を受け取りながら、光導の書を操る。螺旋を描くように飛ぶ光導の書。これは以前背信者と戦った時に使ったロージットのオリジナル魔法、裁きの聖光(ジャンジ・ホーリィ)を使う為の動きだ。しかし今回は上から下に落とすのではなく、斜め上に撃つ為の、砲台を形成する動き。

 狙いは、ノアギガントの右足の付け根だ。

「裁きの聖光!!」

 二人から魔力を受け取り、さらに威力を増した光線が、聖刃の砲台の中で増幅され、ノアギガントの右足の付け根に向かって飛んでいく。

「無駄だ!!」

 しかし、突如としてノアギガントが両腕に装備している盾が発光し、光はノアギガント全体を覆う巨大な半透明のバリアを形成。宣教師達の合体魔法を、容易く弾いた。

「馬鹿な!!」

「それだけではないぞ」

 バリアに弾かれ、儚くも霧散した光属性の魔力。しかしその魔力は消える事なく、バリアをすり抜けてノアギガントに吸い込まれた。

「魔力を……吸収した……?」

 マリーナは呟く。通常、霧散した魔力はそのまま自然に溶け込んでしまうものなのだが、今回その現象は起きず、ノアギガントに吸収されてしまった。

「あれを!!」

 ノアギガントの足下を指差すジェイク。見ると、ノアギガントの足下の土が、変色している。土色から黒へと、少しずつ変わっているのだ。その現象が、どんどん広がっている。

「これは、まさか……!!」

 嫌な想像をするロージット。アレクトラがノアギガントの中から、答え合わせをした。

「そうだ!! ノアギガントには、魔力吸収装置も搭載してある!!」

 ノアギガントの動作には、魔力が必要だ。光線を撃ったりマシンガンを撃ったり、魔導ミサイルを全弾発射して再装填までしているともなれば、一体どれほどの魔力が必要になるか。

 そう。キリエ一人の魔力で、ノアギガントの動作を完全に賄えるわけがないのである。ノアギガントには周囲の魔力を吸収する装置が搭載されており、それを使って大地から魔力を吸い上げて使っているのだ。動力として魔力持ちを組み込むのは、起動に必要なのと、人質に使う為だけである。

「馬鹿な!! そんな事をすれば大地が死んでしまう!! この世界が滅んでしまうぞ!!」

 ジェイクはアレクトラに指摘した。魔力はリベラルタルを構成する要素の一つであり、その魔力を奪われた大地は死んでしまう。ノアギガントの足下の土が変色していたのは、土が死んでいたからだったのだ。

 このままノアギガントが魔力を吸い続ければ、リベラルタル中の魔力がなくなってしまう。死土と化した大地は雑草すら生えず、蘇生まで何年もかかる。そしてその間に、どれだけの生物が死滅する事か。

「構わんさ。後に私が、絶対に安全な国を作り上げてやる。私を王とする国をな」

 その言葉を聞いた瞬間、ロージット達が殺気立った。アレクトラは、恐怖の独裁国家を再興しようとしている。その為には他者の命を省みない。もはや説き伏せる事は不可能。世界を救うには、この暴帝を殺すしかないと。

「だがお前達には死んでもらう。このノアギガントの糧となってな!」

 次の瞬間、大地の死土化が早まった。アレクトラがノアギガントの魔力吸収装置のパワーを強化し、吸収範囲を広げたのだ。

「うっ!? がっ……!!」

「ううっ……!!」

「おお……!!」

 同時に、ロージット達が苦しみ出す。魔力吸収装置が吸収出来る魔力は、大地の魔力だけではない。人間やモンスターからも、魔力を吸収出来る。これで相手の魔力を吸収する事で、無力化するのだ。魔力を吸われれば魔法は使えず、意識も薄れる。その意識を保つ分の魔力まで奪われれば、気絶してしまうのだ。

「これさえあれば、あの魔法剣士も倒せる。今や私の敵はこの世に一人もいなくなったのだ!!」

 ゼドへの対抗手段を得て笑うアレクトラ。心想を使われる前に意識を奪えば、あとはどうとでもなる。

「パラディンロージット!! シスターマリーナ!! ジェイク神父!!」

 三人を呼ぶリュート。一応教団員ではあるが、彼は非戦闘員だ。多少は魔法の心得があるが、三人ほどではない。

「何を勝ち誇ってやがんのよ!! まだあたしがいるわ!!」

 だから代わりに杏利が動いた。スキルアップを唱え、ノアギガントに向けて突撃する。彼女も魔力を吸い取られているが、エニマの加護のおかげで、その速度はかなり軽減されている。

 とはいえ、あまり長期間は戦えない。魔力を吸い尽くされる前に、ノアギガントを破壊する必要がある。

「無駄だと言っているのがわからんか?」

 ノアギガントの両腕の盾は単なる盾ではなく、魔導バリア発生装置。魔法攻撃も物理攻撃も寄せ付けないこのバリアは、魔力吸収装置と組み合わせて使う事で、さらに防御力を増す。アレクトラはこれを展開しながら待つだけで、簡単に戦場を制圧出来るのだ。


 だが、今回ばかりは相手が悪かった。


「エニマ!!」

「うむ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 杏利は構わずノアギガントに突撃し、

「はーーーっ!!!」

 バリアを突き破った。魔力エネルギーの壁が、ガラスのように舞い散る。

「何!?」

 驚愕するアレクトラ。エニマはスキル吸収能力で、バリア貫通能力を得ている。どれほど頑丈なバリアでも、エニマさえいれば突破出来るのだ。

「ダルマ落としよ!!」

 杏利はエニマの刃を巨大化しながら全力で振るい、ノアギガントの右足首を斬り落とした。

「おおっ!?」

 右足首を失った事でバランスを崩したノアギガントは右に倒れ、右手を着く。

「次はその腕!!」

 跳躍した杏利は、ノアギガントの右腕を盾ごと切り裂いた。これでもう、魔導バリアは張れない。さらにノアギガントがバランスを崩し、切れた腕で地を着いた。巨大な魔科学兵器だが、今はもうひと跳びで届くほど、アレクトラが乗る頭部が地面に近付いている。

「終わりよアレクトラ!!」

 コックピットごとアレクトラを貫いてやろうと、跳躍する杏利。

 だが、ノアギガントの頭は杏利の方を向き、口を開いて光線を吐き出した。同時に目からも、光線が発射される。この一撃でアレクトラを仕留めるつもりでいた杏利だったが、慌ててガードに移り、地面に押し戻されてしまった。

 次に残っていた左手が動き、その大きな手のひらで杏利をはたき飛ばす。

「ああっ!!」

 すぐにガードしたが、質量とパワーの問題で、杏利は大きく吹き飛ばされてしまった。

 さらに、腕と足の切り口から無数のコードが伸び、切り落とされた部分と繋ぎ合わせ、元通り綺麗さっぱり修復されてしまう。ノアギガントには、自己修復機能も搭載されているのだ。

「その行動力は評価しよう。だが、ノアギガントの前では全てが無駄なのだ」

 唯一攻撃を届かせる事が出来る杏利ですら、ノアギガントの破壊に失敗した。もはや、打つ手はない。

「さて、これだけ魔力をチャージ出来れば、もう充分だろう」

 モニターに映るメーターを見たアレクトラは、頃合いであると察し、ノアギガントを操作した。

「お前達に教えてやる。私はこれから、ペイルハーツに向かう!」

「何ですって!?」

 魔王軍の襲撃を受けたペイルハーツだったが、滅ぼされてはいない。造魔兵達は高い魔力を持つ者を捜しているとわかったキリエが、アヤ達を守る為に自ら身を捧げたからだ。

「さらなるエネルギーを集める為、そしてノアギガントの力を世界に知らしめる為に、ペイルハーツには犠牲になってもらおう」

「ちょっと待って!! 話が違うわ!!」

 キリエは造魔兵達を率いていたヴィガルダと取り引きしたのだ。自分が行く代わりに、町を見逃して欲しいと。そしてヴィガルダは、確かに約束してくれた。

「その話は造魔兵達から聞いた。だが、それはその場の話だ。その後見逃すとは言っていない。そもそも、私はその取り引きに応じていないのだよ」

「貴様……!!」

「はははは!! 恨むなら魔力を持つ人間として生まれた己を恨むのだな!! これからお前の故郷を滅ぼしてやる。せの様子を特等席で見ているがいい!! ふはははははははは!!」

「貴様!! 貴様ぁぁぁぁぁぁーっ!!!」

 キリエは怒りの叫びを上げるが、既に抵抗出来ぬほどに魔力を奪われた彼女には、どうする事も出来ない。

 そうこうしているうちに、ノアギガントの背中に搭載されているブースターが点火され、ノアギガントが浮き始めた。ノアギガントは飛べるのだ。

「ではさらばだ!! 地を這う小虫ども!!」

「逃がすか!!」

 このままではアレクトラを逃がしてしまう。それどころか、ペイルハーツまで滅ぼされてしまう。そんな事を、絶対に許すわけにはいかない。

 駆け出した杏利は、エニマを元に戻してから一部を鎖に変え、ノアギガントの足に向けて伸ばした。鎖はノアギガントの右足に絡み付く。

「やった!!」

 だが、同時にノアギガントが、ペイルハーツに向かって凄まじい速度で飛んだ。

「わぁっ!?」

 当然耐えられず、杏利もノアギガントに引っ張られて飛んだ。

「杏利様!! くっ……!!」

 それを見たロージットは、光導の書を回収しながら、聖馬車に向かって駆け出す。マリーナとジェイクも、慌ててロージットを追いかけた。

「あの魔科学兵器を追いかけて下さい!!」

「わ、わかりました!!」

 ロージット達が乗り込むと、リュートは急いで聖馬車を走らせる。彼らの力では、ノアギガントに対して決定打を与えられない。だがそれでもノアギガントと、身体を張った無茶をしている杏利とエニマを、見過ごす事など出来なかった。

「なんて速度だ!! 追いつけない!!」

 だが聖馬車の速度を以てしても、飛空船を超える速度で飛ぶノアギガントには追いつけない。みるみるうちに距離を離されていく。

「ならば、奥の手だ!!」

 こうなれば仕方ない。そう思ったリュートは、懐から瓶を取り出し、蓋を開けて中身をぶちまける。

 その瞬間、聖馬車の速度が上がった。

 今リュートが開けた瓶の中には、ライズン教団特性の強聖水が入っていた。この聖水を浴びた者は、能力を飛躍的に上昇させる。強聖水を使い、聖馬車の速度を上げたのだ。

 しかし、それでもなお、ノアギガントには追いつけない。

「行かせ……ないわよ……!!」

 杏利は風圧に妨害されながらも自分を引き寄せ、ノアギガントを止めようとする。やがて杏利は、ノアギガントの足にしがみついた。急いでブースターを破壊し、地面に叩き落とさなければならない。

「しつこい虫ケラが!!」

 だが、杏利がしがみついている事に気付いたアレクトラが、ノアギガントを操作して無数のミサイルを飛ばす。ミサイルは空中で反転し、杏利がしがみついている足を破壊した。

「あっ……」

 落ちる。落ちてしまう。ノアギガントが、行ってしまう。


「キリエェェェェェェェ―――!!!!」


 杏利はノアギガントに左手を伸ばし、叫んだ。


 その時、ニーベルングの指輪から光が飛び出し、杏利を包み込んで地面に降ろした。


「!?」


 そして光が消えた時、杏利は大きな黒い馬にまたがっていた。

「こ、これは!?」

「スレイプニルじゃ!! わしと杏利の適合率が、また一段階上がったようじゃな!!」

 この馬は、エニマとの適合率が高まると使えるようになる勇者の馬、スレイプニルだ。杏利が心想に目覚め、エニマとの心の距離がさらに近付いた事で、使えるようになったのだ。

「スレイプニルはお前の意のままに操る事が出来る馬じゃ。この世界のどんな馬よりも速いぞ!」

 例え乗馬の心得がなくとも、自在に操れる馬。これで杏利は、ノアギガントに追いつく手段を得た。

「よし……走れ、スレイプニル!!!」

「ヒヒィィィィーン!!」

 杏利が命じると、スレイプニルは上体を上げて高くいななき、ノアギガントに向かって走り出した。

 周囲の全ての景色を、音すらも置き去りにして、スレイプニルは走る。

(は、速い!!)

 杏利が驚くほどの速度だ。そのスピードはマッハを超えており、気を付けないと振り落とされそうになる。

「スレイプニルの速度はこんなものではない!! もっともっと速くなるぞ!!」

 エニマの言葉に杏利は驚いたが、これならノアギガントに追いつけそうだ。

「もっと……もっと速く!! お願い!!」

「ブルル!!」

 杏利が命じると、スレイプニルはそれに応えるように鳴き、さらに速度を上げた。

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