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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第五章 光の勇者
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第五十八話 宣教師達との再会

前回までのあらすじ



絶体絶命の危機に陥った杏利だったが、エニマの記憶を見たことで、己の中の本当の願いに気付き、心想を会得。見事ヴィガルダを撃退した。

「心想、顕現」

 一日使ってたっぷりと休養を取った杏利は、自分の心想について理解を深める為に、特訓をしていた。

「世界に降り注げ、黄昏の光(アルフヘイム・ラグナレク)」

 杏利の身体から黄金の光が溢れ、心想が発動する。だがその輝きは、ヴィガルダと戦った時ほど強くはない。

「いくつかわかったわ」

 心想とは、心の中に想い描く感情の強さで出力が変わるという事。それから、一度使うだけでもかなりの体力を消耗するという事を、理解した。

「消耗の方は、まぁ慣れでしょうね。何回も使っていけば、そのうちあんまり疲れなくなってくると思うわ」

「和美も最初のうちは、慣れるまで苦労しておった。お前なら和美以上の速度で、己の力に適応するじゃろう。しかし驚いたぞ? お前が心想を、それもあんなタイミングで、和美と全く同じ名前と効果のものを使えるようになるとはな」

 もしかしてとは思っていた。しかし杏利が身に付けたら心想は、和美の心想と全く同じだったのだ。運命を感じずにはいられない。

「あたしもびっくりしたわ。心想を使えるようになりたいって思ってはいたけど、こんなに早いなんて思わなかった」

 ゼドに会ったら、彼も驚くだろう。もっとも、心想を得たからといって、それだけで勝てる相手ではない。ゼドは杏利が目覚めるよりずっと前から心想が使えて、以降使い続けている。だから杏利よりずっと使い馴れているし、出力も上だ。まぁ、それはおいおい解決する事にしよう。

「じゃ、そろそろ出発しましょ」

「もう少し休んでいかなくて大丈夫か?」

「平気平気。モタモタしてたら、魔王軍に逃げられちゃうわ」

 エニマは杏利の身体を気遣ったが、今の心想は一瞬使っただけで、立って歩けなくなるほど疲れてはいない。それに、急がなければ決定的な何かを逃がしてしまう。もしまたイノーザやヴィガルダ、他のロイヤルサーバンツと鉢合わせるような事があったとしても、簡単には負けない。杏利とエニマはすぐ出発した。



 突如壊滅した町、クマイトに向かって旅を再開する杏利とエニマ。馬車の馬が全滅してしまったので、歩きだ。杏利の心想はどんなダメージも回復させられるが、死んでしまった者を生き返らせる事は出来ない。

 二人が半日ほど歩いていた時、エニマは後ろを振り向いた。

「どうしたの?」

「……馬車じゃ」

「えっ?」

 なんと、馬車が来ているのだという。自分達は、馬車の停留場にもなっている休憩所がある方から来たのだが、これは一体どういう事だろうか。

 杏利が振り返って見てみると、確かに馬車がやってきていた。だがこの馬車、杏利達が乗っていた馬車とは感覚が違う。

 白いのだ。馬車の車体も、引いている馬も、御者も、全て白かった。そして何より、スピードが違う。普通の馬車の二倍くらいの速度で、あっという間にこちらまで来た。

 と、馬車は杏利達の真横で止まり、車体の扉が開く。

「杏利様!!」

「ロージットさん!?」

 なんと馬車には、ロージット、マリーナ、ジェイクの、三人の宣教師達が乗っていたのだ。

「しばらくぶりですね、杏利様にエニマ様」

「はい。本当に……もしかしてロージットさん達もクマイトに向かってるんですか?」

「やはり杏利様も……」

 クマイトが壊滅し、状況を確認してくるよう大僧正から指令を受け、ロージット達もまたクマイトに向かっていたのである。

「どうでしょうか? 目的地は同じなのですし、ご一緒されませんか?」

「……そうですね。お願いします」

 こうして、杏利とエニマはロージット達に同行させてもらう事になった。

 走り出す馬車。外の景色が、飛ぶように通りすぎていく。まるで自動車に乗っている気分だ。

「わぁ、速い!」

「この馬車はライズン教団専用の聖馬車ですからね」

「これなら二日もあれば着きます!」

 マリーナとジェイクが説明した。この馬車は、ライズン教団が急ぎの旅に使用する、聖馬車という馬車だ。鍛え上げられ、祝福儀礼を受けた馬は、普通の馬の何倍も強い聖馬となる。車体の方もホワイトミスリルで造られており、またなるべく速く走れるように作ってあるのだ。

 急いでいるなら飛空船を使えばいいと思うかもしれないが、クマイトの近くには飛空船が着陸出来る場所がない。それに、地上には造魔兵がいる可能性もあるのだ。それは無視出来ない。



「そうですか……杏利様も、過酷な旅路を歩まれたのですね」

 ジェイクは杏利の戦いを労うように言った。本当に、生きているのが奇跡と言えるような激闘と冒険の数々だ。杏利もまた、自分は才能だけだがよく生きていると思っている。

「ロージットさん達はどうでした?」

「我々の旅は順調ですよ。しかし残念な事に、二人、魔王に寝返った者がいました」

 ロージット達は杏利達と別れた後も旅を続けたが、あれから二人の背信者と出会った。どうにかして救おうと説得を続けたが、それも叶わず、殺すしかなかったという。

「やはり元凶の魔王を討たない限り、これからもこういった者が現れるでしょう」

「……ごめんなさい。あたしがあそこで、イノーザを倒せるくらい強くなってたら……」

 自分がもっと強ければ、あの時点で全ての悲劇を終わらせる事が出来た。力不足悔やんで、杏利はロージットに謝る。

「いいえ! 杏利様はよくやって下さっています」

「魔王と戦って生きているというだけでも、充分すぎる功績です。杏利様以外では、こうはいかなかったでしょう」

「異世界の住人でありながら、関係ない世界の為に命を懸けて下さっている。我々はあなたに感謝しております」

 ロージット達は慌てて訂正した。本来自分達の手で解決しなければならない事を、他の世界の人間にさせるなど、あっつはならない事だ。ロージット達もまた、力量不足を感じているのである。

「でも、次に会った時は必ずあたしが勝ちます。だってあたしは」

 杏利がイノーザとの戦いに備えて得た力について話そうとした時、突然聖馬車が急停止した。

「どうしましたか!?」

 驚いて飛び出すロージット達。杏利とエニマも続く。

 聖馬車の行く手には、大量の造魔兵が展開されていた。人間型だけでなく、獣人型や陸戦型、空戦型までいる。

「こんな所にこれだけの大部隊を展開するとは、どうやら当たりらしいのう!」

 聖馬車が向かう先には、クマイトがある。クマイトは元々、ノアがあった場所。そしてこの魔王軍の大部隊。何か拠点があるわけでもないここに、これだけの兵力が展開されているなど、どう考えても不自然だ。考えられる理由としては、ここから先に他者を近付けたくない、何らかの理由があるという事。そしてその理由は――。

「アレクトラが生きていてイノーザと手を組み、何かをしているから、か……上等!! まとめて蹴散らしてやるわ!!」

「その意気じゃ!!」

 杏利はエニマを槍化して手に持ち、構える。もはや疑う余地はない。アレクトラは確実に生きている。でなければ、これだけの異常事態に説明が出来ない。

「ジェイク! 私とマリーナが前線に出ます! あなたは馬車に造魔兵を近付けないように!」

「はい師匠! リュートさん、隠れて下さい!」

「はい!」

 ここまで来て足を潰されては困る。ロージットとマリーナが前衛となり、ジェイクは後衛でサポートに回る役だ。リュートと呼ばれた御者は、馬車の中に隠れた。

「何を企んでるのか知らないけど、させないわ!!」

 杏利は突撃した。



「「スキルアップ!!」」

 杏利とエニマが同時にスキルアップを唱え、二重の能力強化をしてから、正面の造魔兵に刺突を繰り出す。人外の力で繰り出された一撃は、目の前の一体のみならず、その後ろにいた造魔兵数体をも衝撃波で貫き、バラバラに粉砕する。素早くエニマを引き抜いた杏利は、そのまま横薙ぎにエニマを振るう。小さな嵐と見紛うような衝撃波が、飛んでくる弾丸もろとも造魔兵を吹き飛ばした。

 ロージットは退魔法を唱えてから聖鎧を纏い、マリーナと強力して造魔兵を次々と倒していく。ジェイクもまた光魔法を唱え、造魔兵を寄せ付けない。

「それにしても、なんて数……!!」

 マリーナは戦慄する。倒しても倒しても、造魔兵の数は減らない。通常は人間型のみで構成されている魔王軍だが、今回は獣人型や陸戦型、空戦まで加えられているという混合部隊なのだ。

 造魔兵は基本的に、人間よりも頑丈で力も強いが、腕に覚えのある冒険者なら苦戦はしないし、魔法を使える者と連携すれば、さほど腕が良くなくとも勝てる。だが、他の造魔兵が追加されれば、そうはいかない。

「いくら師匠と杏利様がいても、これでは……!!」

 いかんせん数が多すぎる。二人とも善戦しているが、このままではジェイクも、聖馬車を守りきれない。

「……仕方ないわね。ロージットさん!! マリーナ!! 少しでいいから時間を稼いで下さい!!」

「わかりました!!」

「了解です!!」

 杏利の命を受けて、ロージットとマリーナが動いた。

「神の威光よ。我が拳に宿りて、邪悪を打ち砕きたまえ!!」

 ロージットが唱えると、彼の右拳に光が集まる。そして、腕を大きく引き、正拳突きを繰り出した。

「正義の光拳(ジャスティス・フィスト)!!!」

 すると、ロージットの拳から巨大な光弾が飛び出し、敵陣に風穴を空けた。

「キックエッジ!!」

 マリーナも大きく足を振り、光を飛ばす。ロージットほどではないが、こちらも敵の数を減らした。

(これだけ減らせば!!)

 正直まだまだ造魔兵は残っているが、杏利にとっては多少多い方がいい。新しく手に入れた、あの力に慣れる為には。

「心想、顕現」

 杏利の身体から、黄金の光が溢れる。

「世界に降り注げ、黄昏の光(アルフヘイム・ラグナレク)」

 それは、杏利の心想が発現した証。詠唱なしの心想。それがどの程度の力があるか、確かめる為のちょうどいい練習台が欲しかった。

「はっ!!」

 杏利はまず、空を飛び回っているうるさい蝿へと意識を向けた。すると、杏利の身体から溢れた光は拡散し、空戦型造魔兵達を呑み込み、消滅させた。

「まだまだ!!」

 次は光を纏ったエニマを高速で、何度も突き出す。エニマの切っ先からは光線が飛び、一発で数十の造魔兵を貫通、消滅させる。

「これでラスト!! スーパーガンゴニールストラァァァァァァァァァイクッ!!!」

 最後に、ガンゴニールストライクを繰り出す杏利。心想と組み合わせたガンゴニールストライク。その破壊力は、今まで使っていたガンゴニールストライクが可愛く思えるほどで、地を埋め尽くす人間型造魔兵も、巨大な陸戦型造魔兵もまとめて一撃で消し去った。

「すごい……」

「これが、杏利様の心想!!」

 マリーナとジェイクは、杏利が手に入れた新しい力、世界に降り注げ、黄昏の光の力を目の当たりにして、その破壊力と神々しさに感動していた。

(これが心想……神に最も近いと言われる力……)

 クリアレスもまた、心想を使う事が出来ると言われている。ゆえに心想はこの世界において、神に最も近い者が身に付けられる、神聖な力とされているのだ。

 ロージットはライズン教団一の力と信仰心の持ち主だ。しかしそんな彼でさえ、心想は会得していない。

(……いけませんね。この私が嫉妬など……まだまだ信仰が足りません)

 自分に使えない力を杏利が使っているところを見て、わずかだが嫉妬を抱いてしまったロージットは、内心猛省していた。

「……うっ!」

「杏利!」

 造魔兵を全滅させ、心想を解除した杏利は、膝をついた。すぐエニマが人化し、杏利を支える。

「大丈夫よ。ちょっと疲れただけだから」

 だが、雑魚相手なら詠唱をせずとも充分全滅させられる事がわかった。やはり、心想は強力な技だ。

「杏利様、大丈夫ですか!?」

「はい。まだ使い慣れてなくて、疲れるんです」

「そうでしたか……」

 駆け寄ってきたロージットは、杏利を抱き上げる。

「ろ、ロージットさん?」

「また助けられてしまいましたね。ありがとうございます。ゆっくり休んで下さい」

「……まぁ、当面は多用出来んという事じゃな」

 エニマは少しむっとしながらも、ロージットの行動が善意である為、特に何も言わなかった。

 こうして杏利を回収した一同は、クマイトに向けての旅を再開した。

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