第五十三話 中間試験の延長戦
前回までのあらすじ
試験はラトーナが仕組んだ罠だった。
「えっ? 何? これ、どうなってるの!?」
杏利は困惑していた。突然マップに、大量の黄色い点が現れたのだ。どう考えてもおかしい。
「バリアが張ってあるわ。いつの間にこんなものが……」
キリエはバリアに触れる。全く気付かないうちに、森の入り口にバリアが張ってあったのだ。まるで、外から誰も入れないようにしているかのように。
「……まさか……!!」
杏利の中で、嫌な予感が加速する。軍隊のような中間試験の内容。突然姿を消したレティシア。そして、今のこの状況。
「……まだ確証はないけど、とにかくアヤ達が危ないわ!」
杏利はエニマを槍に変えてバリア貫通能力を発動し、振り下ろす。
「はぁっ!!」
杏利が通れるだけの裂傷が入った。
「勇者様!」
「アヤちゃん達、大丈夫だよね!?」
ただならぬ事態を察して、心配そうに杏利を見てくる生徒達。
「大丈夫よ。あの子達は絶対に、あたしが連れて帰ってくる」
杏利はそう笑顔で告げてから、バリアの中に突入した。
「私も行くわ!」
続いてキリエも飛び込んだ。
「大切な人材だから、殺しちゃダメよ!」
造魔兵に命じて襲わせるラトーナ。造魔兵は麻酔銃やスタンバトンを手に、アヤ達に襲い掛かる。
対するチェルシーは、魔導銃で造魔兵の頭を正確に狙撃する。造魔兵の耐久力はゴーレムより高く、倒す事は出来なかったが牽制にはなった。
「操雷乱舞!!」
動きが鈍った隙にアヤが魔法剣を連発し、ティナがマジカルシャフトで叩き潰し、ミーシャが光魔法で援護する。
「あはははっ! 無理しない無理しない! あんた達はゴーレムとの戦いを終わらせたばっかりで、魔力の残りが少ないんだから!」
それを見て笑いながら、ラトーナは次々と造魔兵を呼び出す。
(確かにその通りだ。私達は疲弊している……!)
ラトーナの言う通り、チェルシー達は四十体ものターゲットゴーレムを相手にした後で、魔力がほとんど残っていない。このままでは、魔力切れで全滅だ。
(だが!)
チェルシーはいつも、トラベルポーチを身に付けている。冒険者志望である為、常に様々な事に対する準備を怠っていない。
「アヤ!」
チェルシーはポーチからエーテルポーションを取り出すと、アヤに投げ渡した。
「これ、エーテルポーション!?」
試験中に魔力回復アイテムを使う事は反則だが、終わった後に使うのは構わない。試験終了後は多分疲れきっているだろうと思ったチェルシーは、他の三人にも振る舞う為にエーテルポーションを買っていたのだ。
「飲め! 君が攻撃の要だ!」
「ありがとう!」
アヤは素早く木の陰に隠れる。
「魔力の回復なんてさせないわよ! あの子を優先的に攻撃して!」
ラトーナの命令に従い、アヤが隠れている木の陰に向かう造魔兵達。
「たりゃああああっ!!」
しかし、その間にティナが割り込み、造魔兵達を攻撃した。
「チェルシー! あんたも飲みなさい! まだあるんでしょ!?」
「ここは、私とお姉ちゃんで食い止めるから!」
「スキルアップ! センスアップ!」
ティナは身体能力と感覚を強化する。彼女は開幕に強化魔法を使ってそれっきりなので、魔力にそれなりに余裕がある。だからこそ盾役を買って出た。
(強化魔法も充分魔力を消費するのに……)
「……すまない! スキルアップ!」
チェルシーはミーシャにスキルアップを使い、木の陰に隠れて魔力回復に努める。
「ここから先には、一匹も通さないわ!」
ティナはマジカルシャフトを一気に伸ばし、
「もう一回おまけに、スキルアーーップ!!」
スキルアップを唱えながら横に振って、造魔兵達を薙ぎ払った。麻酔弾の込められたマシンガンで反撃してくるが、ティナは全てかわす。
麻酔弾の嵐はミーシャにも襲い掛かる。弾切れするまで麻酔弾を撃つ造魔兵達。だが、ミーシャの両腕が消えた。いや、消えたように見えるほどの速度で、腕を動かしている。
再びミーシャの腕が現れた時、彼女の両手の指の間には、大量の麻酔弾が挟まっていた。
コンセントレイトカウンターの派生技、アローガード。ミーシャは魔力で肉体を強化する技術を身に付けており、さらに感覚を強化するところまで昇華している。あとはコンセントレイトカウンターと同じ要領で神経を集中し、飛び道具を叩き落とす。指で挟んで止め、指の間に収まらなくなったら投げ捨て、それを繰り返す。見ると、ミーシャの周囲には大量の麻酔弾が散らばっていた。
「みんなを傷付けるのは、絶対に許さない!!」
力強い瞳で造魔兵達を睨み付けるミーシャ。その気迫に圧される造魔兵達を、ティナが倒していく。
飛び道具が効かないとわかった造魔兵達は、スタンバトンを使った接近戦へと切り替える。だが、ミーシャのコンセントレイトカウンターを破る事は出来ず、次々と投げ飛ばされる。
「シッ!!」
向かってきた造魔兵のスタンバトンをかわし、横に回転しながらの飛び蹴りを喰らわせる。技の名は、スパイラルシュートだ。顔面に喰らった造魔兵は、他の造魔兵を巻き込みながら吹き飛んだ。
「お待たせ! もう大丈夫よ!」
「今度は君達が回復する番だ」
アヤとチェルシーが復帰し、チェルシーはエーテルポーションをミーシャに渡す。ティナも戻ってきて受け取り、二人は木の陰に隠れる。
「アクアル!」
チェルシーが魔導銃で足止めしている間にアクアルを唱え、造魔兵達の足元を水浸しにするアヤ。
「サンダーソード!」
そこにサンダーソードを発動したソウルブレードを地面に叩き込む。水を伝わって電気が流れ、多くの造魔兵が倒れた。
「やはり惜しい逸材ね。ますますあんた達が欲しくなったわ!」
大人でも造魔兵に勝てる者は少ない。それなのに、こんなに簡単に大量の造魔兵を倒してみせたアヤ達。魔王軍に引き込めば、必ず強力な兵士になるだろう。そう思ったラトーナは、スイッチを連打し、造魔兵を追加する。
「これだけの造魔兵が、まだ……!!」
今までも相当な数を倒したはずだが、ラトーナはまだまだ召喚してくる。
「無理なの? 私達、連れていかれるしかないの……?」
アヤは絶望した。敵の戦力は、ほぼ無尽蔵。チェルシーが持っていたエーテルポーションは、あの四本だけだ。ティナとミーシャも回復して戻ってきたが、それでも長くはもたない。このままでは四人ともいつか力尽き、ラトーナに連れていかれてしまう。
「バニドライグ!!」
その時、四人の後方から炎が飛んできて、造魔兵達に炸裂した。密集していた為、かなりの数の造魔兵が吹き飛ぶ。
続いて、四人の前に上から飛んでくる人影。それは、アヤ達を鍛え、勝利へと導いた女勇者。
「杏利お姉ちゃん!!」
一之瀬杏利、その人だった。
「私もいるわよ」
さらに、キリエも駆けつける。
「キリエお姉ちゃんも!」
「アヤ、みんな、私達が来るまでよく頑張ったわね」
キリエは四人が無事だった事を知り、安堵する。エニマは状況を見て言った。
「造魔兵か。こやつらは人間ではないが、見たところ人間型ばかりじゃな。それでマップが人間と誤認したのかもしれん」
「みたいね。そして、それをやったのは……」
杏利は、目の前にいる元凶を睨み付ける。
「やっほ―。久しぶり」
「ラトーナ! 全部あんたが仕組んだ事だったのね!?」
「あれぇ? まだ何も話してないのにわかっちゃった?」
「最初からおかしいとは思ってたのよ。けど、まさかあんたが背後に控えてたとは思わなかったわ」
「私も杏利ちゃんがこの町に紛れ込んでいたなんて思わなかったよ。計画の邪魔になるやつがいたら始末するよう、洗脳したメタモールを町に放しておいたんだけど、杏利ちゃんがここにいるって事は失敗したみたいね」
「あの化け物あんたの飼い犬だったの!?」
興味本意でメタモールを捕獲した魔王軍は、自在に操れるよう洗脳した。ラトーナはモンスター避けを破ってからそれを町に放ち、魔王軍が危険視している者がいれば殺すよう命じていたのだ。
「けどおあいにく様ね。あたしがそう簡単に死ぬと思ったら大間違いよ!」
「だろうねぇ。でも、今回は杏利ちゃんと戦いに来たわけじゃないの。そっちのちびっこちゃん達を、イノーザ様のところへ連れて行かなきゃいけないのよ。せっかく連れて行きやすいよう一番最後にしたんだからさ」
校長からアヤ達が杏利に鍛えられていると聞いた時、真っ先にアヤ達のチームを最後にしようとラトーナは思った。杏利に鍛えられたアヤ達なら、間違いなく最も優秀な成績を叩き出すとわかっていたからだ。
「メインディッシュは最後に取っておくって、よく言うでしょ?」
「そうはさせないわ!!」
ラトーナと戦うのは今回が初めてではない。以前戦った時に、その力をよく理解している。
だが、杏利は以前より遥かに力を増したのだ。今なら勝てる。いや、勝たなければならない。
「今回はもらう!!」
飛び掛かり、エニマで刺突を放つ。ラトーナはそれをかわして、スイッチを連打し、減ってしまった造魔兵を補充する。
「スパレイズ!!」
だが、キリエが造魔兵達を薙ぎ払っていく。今回はキリエもいるのだ。
「!」
それでも造魔兵を召喚し続けていたラトーナだったが、突然造魔兵が現れなくなった。ラトーナが連れてきていた造魔兵を、全員使いきってしまったのだ。
「打ち止めみたいね」
「……ちっ!」
ラトーナは杏利にスイッチを投げつけ、杏利がそれを斬る。
「みんな、今のうちに逃げて! 私達が入ってきたところから、外に出られるわ!」
造魔兵の追加が止まり、残りの造魔兵を吹き飛ばしたのを見計らい、四人に逃げるよう促すキリエ。
と、いきなりラトーナがニヤリと笑った。今度は杖を取り出して、それを振る。すると、ターゲットゴーレムとダミーゴーレムが集まってきた。
「このっ!」
それに気付いたティナが、ゴーレム達をマジカルシャフトで潰す。杏利もまた、割り込んできたゴーレムを破壊した。
直後、またラトーナが杖を振った。すると、ゴーレムが再生したではないか。
「これ、便利よねぇ。魔力を持ってなくても、この杖を振るだけで、ゴーレムを操れるんだから」
ラトーナが持っている杖にはあらかじめ魔法がかけてあり、魔力持ちでなくともゴーレムを操る事が出来るのだ。
「あの杖を何とかしないと……!!」
ゴーレムを攻撃しながら、キリエは焦る。ラトーナから杖を取り上げ、ゴーレム達を停止させなければ、アヤ達を逃がせない。
この状況を見て、アヤ達四人は頷き合う。
まず動いたのは、ミーシャとチェルシーだった。ミーシャは、ラトーナに向かって突撃する。その間には当然、何体ものゴーレムが待ち構えているのだが、ミーシャは魔力弾をかわし、拳をかわして駆け抜けていく。
チェルシーは魔導銃を使い、ラトーナを攻撃する。
「あははっ! 当たらない当たらな―い!」
驚くべき速度で、杏利の攻撃もチェルシーの攻撃もかわしていくラトーナ。
「操雷乱舞!!」
と、ラトーナが大きく飛んだ隙を見計らって、アヤが操雷乱舞を発動した。
(なっ!? これを狙って!?)
三つの電撃がラトーナに殺到する。
しかし、電撃はラトーナのスルーしていった。
「あらあらどうしたのかしら?」
外したのだと思い、嘲笑うラトーナ。
だがその時、ラトーナをスルーして飛んでいったはずの電撃が、Uターンして戻ってきて、ラトーナの背中に直撃した。
「がぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ダメージを受けて動きが止まるラトーナ。
「そこだっ!!」
その隙を突いて、ティナがマジカルシャフトを伸ばす。マジカルシャフトはラトーナの手に命中し、杖を弾き飛ばした。
「っ!」
それを見たミーシャは跳躍し、空中にある杖をキャッチ。
「ミーシャ!!」
チェルシーが再び魔導銃を撃つ。魔力弾は空中で大きな氷塊に変化し、ミーシャはそれをラトーナ目掛けて蹴り飛ばしながら、足場にして宙返りし、地面に着地。
「ぐぅっ!」
氷塊はラトーナに命中してまた動きが止まる。その間に、奪った杖を振るミーシャ。これにより、ゴーレム達は動きを止める。
「ナイスプレー!」
あまりに息の合ったチームプレーに、キリエは歓声を上げる。
「これで人形もいなくなったわ!」
ラトーナにエニマを向ける杏利。ラトーナは杏利を少し睨み付けてから、視線をアヤ達に向ける。
「ねぇちびっこちゃん達。さっき言ってたあんた達の担任の先生だけど、実はまだ生きてるって言ったらどうする?」
「「「「!?」」」」
ラトーナの言葉に、四人は目を見開いて驚いた。レティシアが、生きている。ラトーナは今、確かにそう言った。
「……ウソだ。ウソに決まっている!」
それに対し、反論するチェルシー。理由がないからだ。レティシアを生かしておいても、ラトーナにとって何の利益もない。むしろ、邪魔だ。だから、生かしておく理由がないのである。
「これを見ても同じ事が言える?」
そう言うと、右手で指を鳴らすラトーナ。
その時だった。ラトーナの手元に、両手を後ろ手に縛られ、やつれ果てたレティシアが現れた。ラトーナはレティシアを拘束する。
「はい、ご対面」
「み、みんな……」
「「「「レティシア先生!!!」」」」
本当だ。レティシアはまだ生きている。四人は驚いて、レティシアの名を呼んだ。
しかし、冷静さを取り戻したのは、やはりチェルシーだった。
「いや、やっぱり本物じゃない。お前はさっき、ナイフの力で分身を作ったり、変身したり出来ると言っていた! どうせそれは、お前の分身を先生に変身させたものだ!」
「……へぇ、あんたのナイフってそんな事も出来るんだ?」
杏利はラトーナのナイフ、オベロンに分身が作る能力があるのを知っている。だが、変身能力については今初めて知った。
「出来るよ。ついさっきまでこの人に変身してたし。でも、杏利ちゃんは知ってるよね?」
ラトーナは杏利に問いかけながら、何の躊躇いもなくレティシアの左足をオベロンで刺した。
「あああああっ!!」
足からはどくどくと血が流れ出し、地面を赤く染めていく。激痛に悲鳴を上げるレティシア。ラトーナはレティシアの身を全く考える事なく、オベロンを引き抜いた。
「私の分身には耐久力がない。だからこれくらい大きなダメージを受けると、形を維持出来なくなって消えちゃうの。砂漠の戦いで散々見せてあげたよね?」
以前戦った時、ラトーナは大量の分身を作って攻撃した。だが、全ての分身をゼドのエーテルブレードによって、一撃で倒されている。確かに、ラトーナの分身は少し脆い。
「これでわかった? この先生は本物なの。あんた達が望むなら、返してあげてもいいわ。でも、タダでとは、いかないわねぇ」
人質だ。イノーザの軍門に降らなければ、レティシアを殺すと脅しをかけている。この為に、最後の切り札として、ラトーナは彼女を生かしておいたのだ。
「みんな、言う事を聞いちゃ、駄目よ。私はどうなってもいいから……!」
「うるさい!」
「うあああああああああっ!!」
レティシアはラトーナの要求に従わないよう言うが、ラトーナに右足もオベロンで刺され、再び悲鳴を上げる。ラトーナはレティシアの物言いに相当苛立ったのか、オベロンを深く刺し、ぐりぐりと抉ってから引き抜いた。
「見ての通り、私はこいつを殺す事なんてどうとも思ってない。断れば、本当に殺すわ。杏利ちゃんも余計な事しないでね。出来る限り人死には出したくないでしょう?」
「くっ……!」
ラトーナはオベロンをレティシアの首に押し当て、杏利が助けに入れないよう機先を制する。これだけ密着されていては、キリエも援護出来ない。レティシアを盾にしている為、どんな魔法を使っても、レティシアを巻き込んでしまう。
「お願いやめて!! もう先生にひどい事しないで!!」
「アヤ!!」
ラトーナの元へ行こうとするアヤを、チェルシーが止める。
「やめて欲しかったら、私のところに来るのよ! 何度も同じ事を言わせないで!」
もちろん、ラトーナにレティシアを離すつもりなどない。アヤ達はまだ子供だ。こうやって脅し続ければ、必ず屈する。勝利を確信するラトーナ。
だがその時、何かが飛んできて、ラトーナの手からオベロンを弾き飛ばした。
「なっ!?」
驚いて自分の手を見るラトーナ。その瞬間に彼女の手にも、それが刺さる。
それは、針だった。
「ぎゃあああああああああああ!!!」
レティシアを離し、自分の手を押さえて叫ぶラトーナ。
「影鉄針。俺の里に古くから伝わる暗器だ」
「ゼド!!」
針を投げたのはゼドだ。いつの間にかゼドがやってきていて、ラトーナをレティシアから引き離してくれた。
(何よ……結局来たんじゃない)
しかし、いつもいつもいいタイミングで現れてくれる。まるで、テレビアニメのヒーローのようだと、杏利は思った。
「杏利!」
「っと、いけないいけない」
エニマに言われて、石突を鎖に変えて伸ばす杏利。鎖は生き物のように、レティシアと地面の間に滑り込み、レティシアを絡め取ると、レティシアを引き寄せて救出した。
レティシアの安全を確保する為、一度下がる杏利。
「先生!!」
そこに、アヤ達が集まってくる。
「これくらいなら……リカレル!」
杏利がレティシアを寝かせると、ミーシャが容態を確かめて、回復魔法を唱える。足の傷は治り、衰弱していた身体も回復していく。もっとも、回復魔法だけでは治しきれない為、病院に運ぶ必要があるが。
「これで形勢逆転ね」
ともあれ、もう人質はいない。これでようやく、ラトーナを倒す事が出来る。
「まさかまたお前に会うとはな。あの時と同じ質問をもう一度だけするぞ? ウルベロはどこだ」
ゼドは杏利の隣に立ち、ラトーナにウルベロの居場所を尋ねる。
「……知らないわよ……知ってたとしても教えない……テメェみてぇなクソ野郎には!!」
影鉄針を抜いて投げ捨て、オベロンを引き寄せて手に取り、砂漠の戦いでも見せた戦闘形態に変身して、ラトーナはゼドを睨み付ける。
「そうか。ならば死ね!!」
ゼドは刀を抜き、ラトーナに斬り掛かる。杏利もエニマを構えて、ラトーナに突撃した。
「はぁっ!」
「ぐぅっ!」
片腕にダメージを負った事で、ラトーナの戦闘力は低下している。オベロンを振り、炎を飛ばし、氷を放つが、動きにキレがなく、二人には当たらない。
ゼドがオベロンを弾き、杏利が柄でラトーナのみぞおちを叩く。杏利がエニマで斬りつけ、ラトーナがそれを防ぎ、杏利がラトーナの頭を掴んで投げ飛ばし、ゼドがアースソードの土をぶつける。
「ラチェイン!!」
キリエはラチェインを唱えた。ラトーナはもがくが、拘束は解けない。
「終わりよ、ラトーナ。ビルツジライガ!!」
「黒龍咆哮!!」
杏利の手から光魔法の一撃が、ゼドの刀から闇魔力の奔流が、同時に放たれる。
絡み合う白と黒のコントラストが、互いを打ち消す事なく、絶大な破壊の力となってラトーナに殺到する。
しかし、その必殺の同時攻撃は、上から降ってきた光に踏み潰された。
驚愕する一同の目の前で、光の中から現れたのは、ドレスに身を包んだ女性。
杏利もエニマもゼドも、キリエもアヤも、ティナもミーシャも、チェルシーもレティシアも驚いていたが、一番驚いていたのはラトーナだった。
信じられなかったからだ。この女性が、こんな所に現れるなど。ラトーナは、彼女の名を呼んだ。
「イノーザ様!!!」
これを聞いて、杏利は目を見開く。この世界を滅亡の危機に陥れている魔王、杏利がこの世界に呼ばれた目的である存在が、ここに現れたのだ。
「あまり私の部下をいじめないでくれないか」
妖しく笑いながら、イノーザは杏利達にそう言った。




