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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第四章 旅の再開
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第五十三話 中間試験の延長戦

前回までのあらすじ



試験はラトーナが仕組んだ罠だった。

「えっ? 何? これ、どうなってるの!?」

 杏利は困惑していた。突然マップに、大量の黄色い点が現れたのだ。どう考えてもおかしい。

「バリアが張ってあるわ。いつの間にこんなものが……」

 キリエはバリアに触れる。全く気付かないうちに、森の入り口にバリアが張ってあったのだ。まるで、外から誰も入れないようにしているかのように。

「……まさか……!!」

 杏利の中で、嫌な予感が加速する。軍隊のような中間試験の内容。突然姿を消したレティシア。そして、今のこの状況。

「……まだ確証はないけど、とにかくアヤ達が危ないわ!」

 杏利はエニマを槍に変えてバリア貫通能力を発動し、振り下ろす。

「はぁっ!!」

 杏利が通れるだけの裂傷が入った。

「勇者様!」

「アヤちゃん達、大丈夫だよね!?」

 ただならぬ事態を察して、心配そうに杏利を見てくる生徒達。

「大丈夫よ。あの子達は絶対に、あたしが連れて帰ってくる」

 杏利はそう笑顔で告げてから、バリアの中に突入した。

「私も行くわ!」

 続いてキリエも飛び込んだ。



「大切な人材だから、殺しちゃダメよ!」

 造魔兵に命じて襲わせるラトーナ。造魔兵は麻酔銃やスタンバトンを手に、アヤ達に襲い掛かる。

 対するチェルシーは、魔導銃で造魔兵の頭を正確に狙撃する。造魔兵の耐久力はゴーレムより高く、倒す事は出来なかったが牽制にはなった。

「操雷乱舞!!」

 動きが鈍った隙にアヤが魔法剣を連発し、ティナがマジカルシャフトで叩き潰し、ミーシャが光魔法で援護する。

「あはははっ! 無理しない無理しない! あんた達はゴーレムとの戦いを終わらせたばっかりで、魔力の残りが少ないんだから!」

 それを見て笑いながら、ラトーナは次々と造魔兵を呼び出す。

(確かにその通りだ。私達は疲弊している……!)

 ラトーナの言う通り、チェルシー達は四十体ものターゲットゴーレムを相手にした後で、魔力がほとんど残っていない。このままでは、魔力切れで全滅だ。

(だが!)

 チェルシーはいつも、トラベルポーチを身に付けている。冒険者志望である為、常に様々な事に対する準備を怠っていない。

「アヤ!」

 チェルシーはポーチからエーテルポーションを取り出すと、アヤに投げ渡した。

「これ、エーテルポーション!?」

 試験中に魔力回復アイテムを使う事は反則だが、終わった後に使うのは構わない。試験終了後は多分疲れきっているだろうと思ったチェルシーは、他の三人にも振る舞う為にエーテルポーションを買っていたのだ。

「飲め! 君が攻撃の要だ!」

「ありがとう!」

 アヤは素早く木の陰に隠れる。

「魔力の回復なんてさせないわよ! あの子を優先的に攻撃して!」

 ラトーナの命令に従い、アヤが隠れている木の陰に向かう造魔兵達。

「たりゃああああっ!!」

 しかし、その間にティナが割り込み、造魔兵達を攻撃した。

「チェルシー! あんたも飲みなさい! まだあるんでしょ!?」

「ここは、私とお姉ちゃんで食い止めるから!」

「スキルアップ! センスアップ!」

 ティナは身体能力と感覚を強化する。彼女は開幕に強化魔法を使ってそれっきりなので、魔力にそれなりに余裕がある。だからこそ盾役を買って出た。

(強化魔法も充分魔力を消費するのに……)

「……すまない! スキルアップ!」

 チェルシーはミーシャにスキルアップを使い、木の陰に隠れて魔力回復に努める。

「ここから先には、一匹も通さないわ!」

 ティナはマジカルシャフトを一気に伸ばし、

「もう一回おまけに、スキルアーーップ!!」

 スキルアップを唱えながら横に振って、造魔兵達を薙ぎ払った。麻酔弾の込められたマシンガンで反撃してくるが、ティナは全てかわす。

 麻酔弾の嵐はミーシャにも襲い掛かる。弾切れするまで麻酔弾を撃つ造魔兵達。だが、ミーシャの両腕が消えた。いや、消えたように見えるほどの速度で、腕を動かしている。

 再びミーシャの腕が現れた時、彼女の両手の指の間には、大量の麻酔弾が挟まっていた。

 コンセントレイトカウンターの派生技、アローガード。ミーシャは魔力で肉体を強化する技術を身に付けており、さらに感覚を強化するところまで昇華している。あとはコンセントレイトカウンターと同じ要領で神経を集中し、飛び道具を叩き落とす。指で挟んで止め、指の間に収まらなくなったら投げ捨て、それを繰り返す。見ると、ミーシャの周囲には大量の麻酔弾が散らばっていた。

「みんなを傷付けるのは、絶対に許さない!!」

 力強い瞳で造魔兵達を睨み付けるミーシャ。その気迫に圧される造魔兵達を、ティナが倒していく。

 飛び道具が効かないとわかった造魔兵達は、スタンバトンを使った接近戦へと切り替える。だが、ミーシャのコンセントレイトカウンターを破る事は出来ず、次々と投げ飛ばされる。

「シッ!!」

 向かってきた造魔兵のスタンバトンをかわし、横に回転しながらの飛び蹴りを喰らわせる。技の名は、スパイラルシュートだ。顔面に喰らった造魔兵は、他の造魔兵を巻き込みながら吹き飛んだ。

「お待たせ! もう大丈夫よ!」

「今度は君達が回復する番だ」

 アヤとチェルシーが復帰し、チェルシーはエーテルポーションをミーシャに渡す。ティナも戻ってきて受け取り、二人は木の陰に隠れる。

「アクアル!」

 チェルシーが魔導銃で足止めしている間にアクアルを唱え、造魔兵達の足元を水浸しにするアヤ。

「サンダーソード!」

 そこにサンダーソードを発動したソウルブレードを地面に叩き込む。水を伝わって電気が流れ、多くの造魔兵が倒れた。

「やはり惜しい逸材ね。ますますあんた達が欲しくなったわ!」

 大人でも造魔兵に勝てる者は少ない。それなのに、こんなに簡単に大量の造魔兵を倒してみせたアヤ達。魔王軍に引き込めば、必ず強力な兵士になるだろう。そう思ったラトーナは、スイッチを連打し、造魔兵を追加する。

「これだけの造魔兵が、まだ……!!」

 今までも相当な数を倒したはずだが、ラトーナはまだまだ召喚してくる。

「無理なの? 私達、連れていかれるしかないの……?」

 アヤは絶望した。敵の戦力は、ほぼ無尽蔵。チェルシーが持っていたエーテルポーションは、あの四本だけだ。ティナとミーシャも回復して戻ってきたが、それでも長くはもたない。このままでは四人ともいつか力尽き、ラトーナに連れていかれてしまう。


「バニドライグ!!」


 その時、四人の後方から炎が飛んできて、造魔兵達に炸裂した。密集していた為、かなりの数の造魔兵が吹き飛ぶ。

 続いて、四人の前に上から飛んでくる人影。それは、アヤ達を鍛え、勝利へと導いた女勇者。

「杏利お姉ちゃん!!」

 一之瀬杏利、その人だった。

「私もいるわよ」

 さらに、キリエも駆けつける。

「キリエお姉ちゃんも!」

「アヤ、みんな、私達が来るまでよく頑張ったわね」

 キリエは四人が無事だった事を知り、安堵する。エニマは状況を見て言った。

「造魔兵か。こやつらは人間ではないが、見たところ人間型ばかりじゃな。それでマップが人間と誤認したのかもしれん」

「みたいね。そして、それをやったのは……」

 杏利は、目の前にいる元凶を睨み付ける。

「やっほ―。久しぶり」

「ラトーナ! 全部あんたが仕組んだ事だったのね!?」

「あれぇ? まだ何も話してないのにわかっちゃった?」

「最初からおかしいとは思ってたのよ。けど、まさかあんたが背後に控えてたとは思わなかったわ」

「私も杏利ちゃんがこの町に紛れ込んでいたなんて思わなかったよ。計画の邪魔になるやつがいたら始末するよう、洗脳したメタモールを町に放しておいたんだけど、杏利ちゃんがここにいるって事は失敗したみたいね」

「あの化け物あんたの飼い犬だったの!?」

 興味本意でメタモールを捕獲した魔王軍は、自在に操れるよう洗脳した。ラトーナはモンスター避けを破ってからそれを町に放ち、魔王軍が危険視している者がいれば殺すよう命じていたのだ。

「けどおあいにく様ね。あたしがそう簡単に死ぬと思ったら大間違いよ!」

「だろうねぇ。でも、今回は杏利ちゃんと戦いに来たわけじゃないの。そっちのちびっこちゃん達を、イノーザ様のところへ連れて行かなきゃいけないのよ。せっかく連れて行きやすいよう一番最後にしたんだからさ」

 校長からアヤ達が杏利に鍛えられていると聞いた時、真っ先にアヤ達のチームを最後にしようとラトーナは思った。杏利に鍛えられたアヤ達なら、間違いなく最も優秀な成績を叩き出すとわかっていたからだ。

「メインディッシュは最後に取っておくって、よく言うでしょ?」

「そうはさせないわ!!」

 ラトーナと戦うのは今回が初めてではない。以前戦った時に、その力をよく理解している。

 だが、杏利は以前より遥かに力を増したのだ。今なら勝てる。いや、勝たなければならない。

「今回はもらう!!」

 飛び掛かり、エニマで刺突を放つ。ラトーナはそれをかわして、スイッチを連打し、減ってしまった造魔兵を補充する。

「スパレイズ!!」

 だが、キリエが造魔兵達を薙ぎ払っていく。今回はキリエもいるのだ。

「!」

 それでも造魔兵を召喚し続けていたラトーナだったが、突然造魔兵が現れなくなった。ラトーナが連れてきていた造魔兵を、全員使いきってしまったのだ。

「打ち止めみたいね」

「……ちっ!」

 ラトーナは杏利にスイッチを投げつけ、杏利がそれを斬る。

「みんな、今のうちに逃げて! 私達が入ってきたところから、外に出られるわ!」

 造魔兵の追加が止まり、残りの造魔兵を吹き飛ばしたのを見計らい、四人に逃げるよう促すキリエ。

 と、いきなりラトーナがニヤリと笑った。今度は杖を取り出して、それを振る。すると、ターゲットゴーレムとダミーゴーレムが集まってきた。

「このっ!」

 それに気付いたティナが、ゴーレム達をマジカルシャフトで潰す。杏利もまた、割り込んできたゴーレムを破壊した。

 直後、またラトーナが杖を振った。すると、ゴーレムが再生したではないか。

「これ、便利よねぇ。魔力を持ってなくても、この杖を振るだけで、ゴーレムを操れるんだから」

 ラトーナが持っている杖にはあらかじめ魔法がかけてあり、魔力持ちでなくともゴーレムを操る事が出来るのだ。

「あの杖を何とかしないと……!!」

 ゴーレムを攻撃しながら、キリエは焦る。ラトーナから杖を取り上げ、ゴーレム達を停止させなければ、アヤ達を逃がせない。

 この状況を見て、アヤ達四人は頷き合う。

 まず動いたのは、ミーシャとチェルシーだった。ミーシャは、ラトーナに向かって突撃する。その間には当然、何体ものゴーレムが待ち構えているのだが、ミーシャは魔力弾をかわし、拳をかわして駆け抜けていく。

 チェルシーは魔導銃を使い、ラトーナを攻撃する。

「あははっ! 当たらない当たらな―い!」

 驚くべき速度で、杏利の攻撃もチェルシーの攻撃もかわしていくラトーナ。

「操雷乱舞!!」

 と、ラトーナが大きく飛んだ隙を見計らって、アヤが操雷乱舞を発動した。

(なっ!? これを狙って!?)

 三つの電撃がラトーナに殺到する。

 しかし、電撃はラトーナのスルーしていった。

「あらあらどうしたのかしら?」

 外したのだと思い、嘲笑うラトーナ。

 だがその時、ラトーナをスルーして飛んでいったはずの電撃が、Uターンして戻ってきて、ラトーナの背中に直撃した。

「がぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 ダメージを受けて動きが止まるラトーナ。

「そこだっ!!」

 その隙を突いて、ティナがマジカルシャフトを伸ばす。マジカルシャフトはラトーナの手に命中し、杖を弾き飛ばした。

「っ!」

 それを見たミーシャは跳躍し、空中にある杖をキャッチ。

「ミーシャ!!」

 チェルシーが再び魔導銃を撃つ。魔力弾は空中で大きな氷塊に変化し、ミーシャはそれをラトーナ目掛けて蹴り飛ばしながら、足場にして宙返りし、地面に着地。

「ぐぅっ!」

 氷塊はラトーナに命中してまた動きが止まる。その間に、奪った杖を振るミーシャ。これにより、ゴーレム達は動きを止める。

「ナイスプレー!」

 あまりに息の合ったチームプレーに、キリエは歓声を上げる。

「これで人形もいなくなったわ!」

 ラトーナにエニマを向ける杏利。ラトーナは杏利を少し睨み付けてから、視線をアヤ達に向ける。

「ねぇちびっこちゃん達。さっき言ってたあんた達の担任の先生だけど、実はまだ生きてるって言ったらどうする?」

「「「「!?」」」」

 ラトーナの言葉に、四人は目を見開いて驚いた。レティシアが、生きている。ラトーナは今、確かにそう言った。

「……ウソだ。ウソに決まっている!」

 それに対し、反論するチェルシー。理由がないからだ。レティシアを生かしておいても、ラトーナにとって何の利益もない。むしろ、邪魔だ。だから、生かしておく理由がないのである。

「これを見ても同じ事が言える?」

 そう言うと、右手で指を鳴らすラトーナ。

 その時だった。ラトーナの手元に、両手を後ろ手に縛られ、やつれ果てたレティシアが現れた。ラトーナはレティシアを拘束する。

「はい、ご対面」

「み、みんな……」

「「「「レティシア先生!!!」」」」

 本当だ。レティシアはまだ生きている。四人は驚いて、レティシアの名を呼んだ。

 しかし、冷静さを取り戻したのは、やはりチェルシーだった。

「いや、やっぱり本物じゃない。お前はさっき、ナイフの力で分身を作ったり、変身したり出来ると言っていた! どうせそれは、お前の分身を先生に変身させたものだ!」

「……へぇ、あんたのナイフってそんな事も出来るんだ?」

 杏利はラトーナのナイフ、オベロンに分身が作る能力があるのを知っている。だが、変身能力については今初めて知った。

「出来るよ。ついさっきまでこの人に変身してたし。でも、杏利ちゃんは知ってるよね?」

 ラトーナは杏利に問いかけながら、何の躊躇いもなくレティシアの左足をオベロンで刺した。

「あああああっ!!」

 足からはどくどくと血が流れ出し、地面を赤く染めていく。激痛に悲鳴を上げるレティシア。ラトーナはレティシアの身を全く考える事なく、オベロンを引き抜いた。

「私の分身には耐久力がない。だからこれくらい大きなダメージを受けると、形を維持出来なくなって消えちゃうの。砂漠の戦いで散々見せてあげたよね?」

 以前戦った時、ラトーナは大量の分身を作って攻撃した。だが、全ての分身をゼドのエーテルブレードによって、一撃で倒されている。確かに、ラトーナの分身は少し脆い。

「これでわかった? この先生は本物なの。あんた達が望むなら、返してあげてもいいわ。でも、タダでとは、いかないわねぇ」

 人質だ。イノーザの軍門に降らなければ、レティシアを殺すと脅しをかけている。この為に、最後の切り札として、ラトーナは彼女を生かしておいたのだ。

「みんな、言う事を聞いちゃ、駄目よ。私はどうなってもいいから……!」

「うるさい!」

「うあああああああああっ!!」

 レティシアはラトーナの要求に従わないよう言うが、ラトーナに右足もオベロンで刺され、再び悲鳴を上げる。ラトーナはレティシアの物言いに相当苛立ったのか、オベロンを深く刺し、ぐりぐりと抉ってから引き抜いた。

「見ての通り、私はこいつを殺す事なんてどうとも思ってない。断れば、本当に殺すわ。杏利ちゃんも余計な事しないでね。出来る限り人死には出したくないでしょう?」

「くっ……!」

 ラトーナはオベロンをレティシアの首に押し当て、杏利が助けに入れないよう機先を制する。これだけ密着されていては、キリエも援護出来ない。レティシアを盾にしている為、どんな魔法を使っても、レティシアを巻き込んでしまう。

「お願いやめて!! もう先生にひどい事しないで!!」

「アヤ!!」

 ラトーナの元へ行こうとするアヤを、チェルシーが止める。

「やめて欲しかったら、私のところに来るのよ! 何度も同じ事を言わせないで!」

 もちろん、ラトーナにレティシアを離すつもりなどない。アヤ達はまだ子供だ。こうやって脅し続ければ、必ず屈する。勝利を確信するラトーナ。


 だがその時、何かが飛んできて、ラトーナの手からオベロンを弾き飛ばした。


「なっ!?」


 驚いて自分の手を見るラトーナ。その瞬間に彼女の手にも、それが刺さる。

 それは、針だった。

「ぎゃあああああああああああ!!!」

 レティシアを離し、自分の手を押さえて叫ぶラトーナ。

「影鉄針。俺の里に古くから伝わる暗器だ」

「ゼド!!」

 針を投げたのはゼドだ。いつの間にかゼドがやってきていて、ラトーナをレティシアから引き離してくれた。

(何よ……結局来たんじゃない)

 しかし、いつもいつもいいタイミングで現れてくれる。まるで、テレビアニメのヒーローのようだと、杏利は思った。

「杏利!」

「っと、いけないいけない」

 エニマに言われて、石突を鎖に変えて伸ばす杏利。鎖は生き物のように、レティシアと地面の間に滑り込み、レティシアを絡め取ると、レティシアを引き寄せて救出した。

 レティシアの安全を確保する為、一度下がる杏利。

「先生!!」

 そこに、アヤ達が集まってくる。

「これくらいなら……リカレル!」

 杏利がレティシアを寝かせると、ミーシャが容態を確かめて、回復魔法を唱える。足の傷は治り、衰弱していた身体も回復していく。もっとも、回復魔法だけでは治しきれない為、病院に運ぶ必要があるが。

「これで形勢逆転ね」

 ともあれ、もう人質はいない。これでようやく、ラトーナを倒す事が出来る。

「まさかまたお前に会うとはな。あの時と同じ質問をもう一度だけするぞ? ウルベロはどこだ」

 ゼドは杏利の隣に立ち、ラトーナにウルベロの居場所を尋ねる。

「……知らないわよ……知ってたとしても教えない……テメェみてぇなクソ野郎には!!」

 影鉄針を抜いて投げ捨て、オベロンを引き寄せて手に取り、砂漠の戦いでも見せた戦闘形態に変身して、ラトーナはゼドを睨み付ける。

「そうか。ならば死ね!!」

 ゼドは刀を抜き、ラトーナに斬り掛かる。杏利もエニマを構えて、ラトーナに突撃した。

「はぁっ!」

「ぐぅっ!」

 片腕にダメージを負った事で、ラトーナの戦闘力は低下している。オベロンを振り、炎を飛ばし、氷を放つが、動きにキレがなく、二人には当たらない。

 ゼドがオベロンを弾き、杏利が柄でラトーナのみぞおちを叩く。杏利がエニマで斬りつけ、ラトーナがそれを防ぎ、杏利がラトーナの頭を掴んで投げ飛ばし、ゼドがアースソードの土をぶつける。

「ラチェイン!!」

 キリエはラチェインを唱えた。ラトーナはもがくが、拘束は解けない。

「終わりよ、ラトーナ。ビルツジライガ!!」

「黒龍咆哮!!」

 杏利の手から光魔法の一撃が、ゼドの刀から闇魔力の奔流が、同時に放たれる。

 絡み合う白と黒のコントラストが、互いを打ち消す事なく、絶大な破壊の力となってラトーナに殺到する。


 しかし、その必殺の同時攻撃は、上から降ってきた光に踏み潰された。


 驚愕する一同の目の前で、光の中から現れたのは、ドレスに身を包んだ女性。


 杏利もエニマもゼドも、キリエもアヤも、ティナもミーシャも、チェルシーもレティシアも驚いていたが、一番驚いていたのはラトーナだった。


 信じられなかったからだ。この女性が、こんな所に現れるなど。ラトーナは、彼女の名を呼んだ。


「イノーザ様!!!」


 これを聞いて、杏利は目を見開く。この世界を滅亡の危機に陥れている魔王、杏利がこの世界に呼ばれた目的である存在が、ここに現れたのだ。


「あまり私の部下をいじめないでくれないか」


 妖しく笑いながら、イノーザは杏利達にそう言った。

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