第五十二話 試験、開始
前回までのあらすじ
特訓は続く。
遂に、待ちに待った時が来た。杏利とエニマはアヤ達に連れられて、ニルベルオスマジックアカデミーに向かう。
応接室に通される杏利とエニマ。
「お久しぶりです勇者様方。お待ちしておりました」
間もなくして、校長とレティシアがやってきた。
「お初にお目に掛かります。アヤさん達のクラスの担任の、レティシア・ラクシャーナと申します。本日は私が、小等部六年生の中間試験を担当させて頂いています」
丁寧に名乗るレティシア。杏利達も名乗る。
「それではもうすぐ朝礼が始まりますので、終わり次第お迎えに参ります。それまでおくつろぎ下さい」
「ではごゆっくり」
コーヒーと菓子を出して下がるレティシアと校長。
しばらくして朝礼が終了し、レティシアが迎えに来た。
「お待たせ致しました。これより試験を開始致しますので、こちらへお越し下さい」
「はい」
レティシアは杏利とエニマを連れて、試験場へと案内する。
着いたら場所は、校舎の裏手にある森の前。今回の試験は、ここで行われる。
試験場では既に、六年生達が待っていた。
「皆さん、今回の試験を見学して下さる、勇者一之瀬杏利様と、その槍エニマ・ガンゴニール様です。さぁ、ご挨拶して!」
『おはようございます!!』
「はい、おはようございます」
「おはようなのじゃ!」
レティシアに促されて挨拶する生徒達と、それに応える二人。少し気恥ずかしい感じがしたが、悪い感じではない。
「ではこれより、中間試験を開始します。まずは、試験内容の説明です。前もって話してあるけど、今回はタイムアタック制よ」
レティシアは小さな魔法の杖を取り出し、それを振る。すると、近くの木の陰から、人間大サイズの土で出来た人形が、一体出てきた。
「これはターゲットゴーレム。今回の試験の為に作成された、特別製のゴーレムよ。森のあちこちにこれと同じものが四十体配置してあるから、出来るだけ速く全部破壊して」
ターゲットゴーレムを全滅させた時間に応じて、得点が変化する。五分以内に全滅させれば百点。六分なら九十点。七分なら八十点。八分なら七十点。九分なら六十点。十分以上掛かれば五十点だ。
「忘れないで欲しいのが、これ」
再び杖を振るレティシア。すると、また木の陰から、今度は顔に大きく、白い×が書いてあるターゲットゴーレムが出てきた。
「ダミーゴーレムよ。これは壊しちゃ駄目。十体森の中に配置されていて、一体壊す毎に五点ずつ減点するから、気を付けてね」
十体とも壊してしまえば、五十点減点というわけだ。
(あれが、ダミーターゲット……)
壊してはいけないターゲットがいる事は、アヤ達から聞いている。
しかしその問題のダミーターゲット、顔に×印が書いてあるだけで、それ以外の相違点がないのだ。
(ターゲットの中に紛れていたりしたら、一瞬わからないかもしれないわね……)
「それからどちらのゴーレムも、様々な手段で攻撃してきます。それにも気を付けてね。まぁ壊すといっても、一定のダメージを与えれば機能が止まるわ。その段階で破壊されたとみなされるから、無理に壊す必要はありません。」
つまり、完全に壊す必要はないとの事。壊れたとしても、一つのチームの試験が終了すれば、自動的に再生して復活するらしい。ちなみに、全てのターゲットゴーレムを撃破すると、ダミーゴーレムの機能も停止する。それから土で作ってはあるが、公平の為にどんな攻撃でもダメージが与えられるように魔法が掛けてある。
「一番優秀な成績を出したチームには特別単位をあげるから、頑張ってね。受ける順番は、朝礼で渡したリストの通りよ。それじゃあまず、一~三までのチームはこっちに来て」
朝礼の時に、受ける番号とチームの人数が書かれたリストを配ってある。あとはその順番で受けるだけだ。
「他の人は自由時間よ。好きな事をしてもいいけど、試験に支障が出る事はしないでね」
そう言ってから、レティシアはまた杖を振る。すると、ゴーレム達が森の中に消えていく。持ち場に戻ったのだ。
それからレティシアは、ローラー付きボードを持ってきて、また杖を振る。ボードには森全体を表したマップが張ってあり、あちこちに赤い点と青い点が見える。これはゴーレムの位置を示しており、赤い点がターゲットゴーレムで、青い点がダミーゴーレムだ。
「これを見れば、今のチームの活躍が見れるからね。じゃあ第一チーム、位置について」
レティシアの指示で、まず最初のチームがスタートラインに立つ。
「レディー……ゴー!!」
そして、試験開始の合図。同時にチームは駆け出し、森の中へと消えていった。同時に、マップにも変化が現れる。一番右端に、四つの黄色い点が出現したのだ。黄色は、人間である。どうやらここは、森の一番右端にあるらしい。
二十秒もしないうちに、マップに次の変化が現れる。一番右端にあったターゲットゴーレムの反応が、次々と消えていっているのだ。点は動き回っており、ゴーレムが戦っている事が伺える。
「ほう、面白いの」
興味深げにマップを見ているエニマ。杏利は疑問に思って、レティシアに尋ねた。
「レティシア先生。さっき思ったんですけど、これ中に入った子達が怪我したりとかはしないんですか?」
「その点は大丈夫です。ゴーレム達は、相手を無力化する攻撃しかしませんから。それに、近くには医療班も待機しています」
魔法を学ぶ場所なのだ。常に怪我が絶えないので、ちゃんと医療班がいる。それならと、杏利は安心した。
「杏利お姉ちゃん!」
そこへ、アヤ達がやってくる。
「みんな! 待ってなくて大丈夫なの?」
「心配ないよ。私達の番は最後だから」
チェルシーがリストを見せる。すると、彼女達の番は確かに一番最後になっていた。
六年生は三組まであり、一クラスごとに四十人ずつだ。昼休憩も挟むので、アヤ達の番までは相当かかる。
(キリエの試験は、確か十時から二時までだっけ)
大魔導師の試験は、十時から十二時までである。ペーパーテストと実技テストで、一時間ずつだ。そして、もうその二時間で結果がわかるらしい。合格していれば、十四時まで講習を行ってから解散だ。
結構な時間拘束される事になるのだが、アヤ達が一番最後なのだから、間に合うかもしれない。
「ゼドさんは?」
アヤが尋ねる。杏利は少し答えにくく思いながらも、答える。
「……来ないって」
「……そっか……」
残念そうな顔をするアヤ。杏利も、何度も誘った。しかしゼドは、俺がそこまでする義理はないの、一点張りだったのだ。
「ゼドさんの事を気にしても仕方ないわ。ここは最優秀結果を出して、ゼドさんを驚かせましょ!」
「……うん。そうね!」
ティナに励まされ、アヤは頷く。
と、マップ全体に大きく、試験終了という文字が現れ、次に掛かった時間が表示された。タイムは、七分十五秒だ。続いて、ダミーゴーレムの数も表示される。数は十。このチームは一体も破壊しなかったらしい。
「はい、お疲れ様」
記録を手元の記録用紙に書き込んでいくレティシア。
黄色の点が、ゆっくりとマップの端に消えていく。最後のターゲットゴーレムを倒すと、空中に『試験終了です。速やかに森から出て下さい』という文字が現れるようになっているのだ。
「よし」
チームが退避したのを確認して、杖を振るレティシア。すると、マップに表示された文字が消えた。どうやら、あの杖でこの試験に関するものを操っているらしい。マップには、赤い点が元通りになっている。ターゲットゴーレムが復活したのだ。
「じゃあ第二チーム、位置について」
次のチームをスタートラインに立たせるレティシア。
「レディー……ゴー!」
第二チームもスタートする。出来る限り時間を短縮したいという気持ちで、全てのチームが限度一杯の四人なのだが、これはアヤ達の番までかなり時間が掛かりそうだ。
試験は滞りなく順調に進み、昼休憩も終わって試験が再開する。
「はい、お疲れ様」
記録を続けるレティシア。
そして、
「さぁ、いよいよお待ちかねよ。第三十チーム!」
遂に、最後のチームであるアヤ達が呼ばれた。
「き、来たぁ!」
「はぅぅ……!」
アヤとミーシャは緊張する。その緊張を、他ならぬ杏利とエニマがほぐしてやった。
「大丈夫よ。あんなにいっぱい特訓したじゃない」
「四人とも、一週間前とは比べものにならんくらい強くなった。あとは、ベストを尽くすだけじゃ。お前達が力を出し尽くせば、必ず最高の結果を出す事が出来る。それは疑いない」
四人の脳裏に、杏利達との厳しい特訓の日々が蘇る。それはたった一週間という短い期間ではあったが、彼女達にとってかけがえのない思い出だ。あの努力が、決して無駄なものであるはずがない。
「「頑張れ!」」
最後に、杏利とエニマがエールを送る。
「「「「はい!!」」」」
元気をもらって、スタートラインに立つ四人。
「レディー……ゴー!」
そして、遂にレティシアが試験開始を宣言した。
「「「スキルアップ!!」」」
開幕と同時に、アヤ、ティナ、チェルシーの三人が、スキルアップを使う。ミーシャは使えないので、チェルシーが魔導銃からスキルアップの魔力を発射して付加する。身体能力を、スピードを増した四人は、森の中に飛び込んでいった。
「チェルシー! 索敵、お願い!」
「わかった。サルチレイド!」
アヤに頼まれ、チェルシーはある魔法を発動する。チェルシーの手から一瞬で見えない魔力の波紋が広がり、また一瞬で波紋が戻ってきた。
チェルシーが使ったのは、サルチレイドという無属性魔法。生命力や魔力を察知し、人間やモンスターの数を調べる魔法だ。チェルシーは前回の試験で、再びタイムアタックが行われるのに備えて、この魔法を習得していた。
「このまま真っ直ぐだ! 六体いる!」
「了解!」
二秒後、四人は開けた場所に出た。地上に四体、木の上に二体、ゴーレムがいる。全てターゲットゴーレムで、ダミーゴーレムはいない。
視界に挑戦者達を捉えたゴーレム達が、指先から灰色の光線を発射してくる。この光線には弱いラチェインの魔力が込められており、当たると数秒動けなくなってしまう。この試験において、たった数秒でも動きを封じられる事は命取りだ。解除魔法を持っていても、解除魔法を使った分魔力と時間を消費する為、絶対に喰らえない。
「操雷乱舞!!」
早速、ゼドが伝授してくれた技を使うアヤ。彼女が飛ばせる雷の数は三本までしか増えなかったが、充分な威力を持っており完璧に操れる。一本を地上の、二本を樹上のターゲットゴーレムに使い、一体は機能を停止し、二体も機能を止めながら落ちてきた。
残るは三体。その内一体にティナが飛び掛かり、マジカルシャフトを振り下ろす。ターゲットゴーレムは真っ二つになった。
「伸びろ!」
ティナはその場を動かず、マジカルシャフトを伸ばし、二体目を攻撃する。二体目は大きく吹き飛ばされ、木にぶつかって機能を停止した。
「ビライツ!」
最後の一体はミーシャが光魔法でダメージを与え、動きが止まったところを、チェルシーが氷の魔力弾で頭を撃ち抜いた。
「サルチレイド!」
休んでいる暇はない。素早く二度目のサルチレイドを発動させるチェルシー。
「右に四十メートル! 今度は九体だ!」
チェルシーの指示を受け、四人はすぐに走る。
今度は狭い場所に九体ゴーレムがおり、内二体はダミーゴーレムだ。
「はぁっ!」
魔力は節約する。先程と同じように前衛を務めるアヤは、ターゲットゴーレムの一体を斬りつけ、それをカバーするようにティナが横から来たターゲットゴーレムを弾き飛ばす。出来る限り木にぶつけ、地形を利用してダメージを与える。
と、ターゲットゴーレムの一体が、上から飛び降りてきた。すぐにチェルシーが火属性の魔力弾を放ち、ターゲットゴーレムに当たった瞬間に破裂させて吹き飛ばす。
「お姉ちゃん!」
鋭く叫ぶミーシャ。ティナはゴーレム達に包囲されており、殴られ、蹴られ、袋叩きにされている。その中にはダミーゴーレムがおり、上手く攻められないのだ。
(落ち着いて狙え!)
チェルシーは魔力弾を放ち、ターゲットゴーレムだけを正確に撃つ。破壊には至らなかったが、動きを止める事には成功し、その間にアヤがフォローに回ってターゲットゴーレムを全滅させた。
「そのまま前方へ! 次は十三体だ!」
すぐにサルチレイドを使う。ダミーの相手などいくらやっても無駄なので、さっさと離れるのが吉だ。一定の距離を取れば、もう追ってはこない。四人は素早く離れる。
「リカイア!」
次の相手へ向かう四人。ティナが受けたダメージは、ミーシャが治しておいた。
今度はターゲットゴーレムが十体で、ダミーゴーレムが三体だ。
「落ち着いていくわよ!」
顔でしかターゲットとダミーの識別が出来ないとはいえ、落ち着いてしっかり見れば間違える事はない。アヤは三人に注意を促し、敵の群れへ飛び込んでいった。
「すごい!」
時計で時間を計りながらマップを見ていた杏利は、興奮していた。僅か二分程度で、アヤ達は敵の半数以上を攻め落としていたのだ。今まで挑戦したチームの中で、一番の速度である。
「杏利! エニマ!」
そこへ、キリエがやってきた。
「キリエ! 試験は終わったの?」
「この通りよ」
キリエは二人に、大魔導師免許と書かれた紙を見せた。紙にはしっかりと、認定と書かれた印が押してある。
「これであとは、アヤ達が合格するだけね」
「試験はどんな感じ?」
「すごいぞ。かなりのペースじゃ」
そう言いながら、エニマがマップを指差す。今は三分で、ターゲットの数はさらに減っていた。
「あれ?」
ふと、杏利はある事に気付く。
「レティシア先生、どこ?」
さっきまで一緒にマップを見ていたはずのレティシアが、いつの間にかいなくなっていたのだ。
「この奥に四体! それで最後だ!」
チェルシーがサルチレイドを使い、ゴーレムの数を調べる。ダミーは全てスルーしたので、あとはもうターゲットだけだ。
「一気に行くわよ!」
全速力で駆け抜けるアヤ達。たどり着いた場所は、森の最奥部。そこにはアヤ達と同じ数の、四体のターゲットゴーレムがいた。
「ここまでくれば!」
「総攻撃よ!」
この四体をたおせば試験は終わりだ。もう出し惜しみする必要はない。
アヤが魔法剣で、ティナがマジカルシャフトで、ミーシャが光魔法で、チェルシーが魔導銃で、一体ずつ攻撃して倒す。
チェルシーが最後の一体を撃ち抜いた瞬間、ターゲットゴーレムが仰向けに倒れ、空中に試験終了の文字と、タイムが出現する。
掛かった時間は、四分二十五秒だ。
「「「「やったぁ!! 最速タイム!!」」」」
飛び上がって喜ぶアヤ。それに飛び付いて、三人も一緒に飛び上がる。
彼女達が叩き出したのは最速のタイムで、ダミーは一体も壊していない。百点満点であり、特別単位間違いなしだ。
「おめでとうみんな!」
そこに現れたのは、レティシアだった。
「あっ! レティシア先生!」
「すごいでしょ!? 最速タイムよ!?」
それに気付くアヤと、時間を指差して大はしゃぎするティナ。
「みんなすごいわ! 本当にすごい! あなた達は私の誇りよ!」
レティシアもまた、最優秀成績を出した四人に対して喜んでいた。
と、ミーシャは尋ねる。
「先生、どうしてここに?」
なぜレティシアがここにいるかわからなかった。今までずっと、あのスタート地点で待っていたのに、今回だけここにいる。
「それはもちろん、あなた達に特別単位をあげる為よ」
「えっ? 特別単位って、今もらえるものなんですか?」
今度はアヤが尋ねる。単位というものは、試験の集計後に付けられるものだと思っていたのだが、今もらえるらしい。
「そうよ。今あげる」
そしてレティシアは、特別単位の内容を告げた。
「魔王軍に参入する許可って特別単位をね!」
そう言った瞬間、レティシアの姿が変わった。踊り子の服装をして、頬に刺青を刻んでいる、女性の姿に変わったのだ。
「せ、先生!?」
「……違う! あれは先生じゃない!」
驚くミーシャ。しかし、チェルシーは言う。彼女は聞いた事があったのだ。頬に奇妙な刺青を刻んでいる、とある存在の事を。
「魔王軍の、超魔だ!!」
「ご名答~。私はラトーナ。イノーザ様に仕える一番偉い超魔、ロイヤルサーバンツの一人よ」
四人に名乗ってから、ラトーナは自身の目的を語った。
魔王城では様々な造魔兵や超魔を量産している。しかし、それだけでは面白みがないという事で、人間を魔王軍に引き入れるという計画が考案されたのだ。
ラトーナは自身の武器、オベロンを取り出す。
「このオベロンは私の分身を作ったり、私を別の人間や超魔に変身させる事が出来るの。これを使って、あなた達の担任の先生に変身させてもらいました」
レティシアに変身したラトーナはアカデミーに潜入し、近々中間試験が行われる事を知った。これを利用してラトーナは、より軍事向きな内容に試験を組み直したのだ。そして最も優秀な人材を、魔王軍に引き入れるつもりだったのである。
「子供なら洗脳もしやすいしね」
「そ、そんな……」
アヤは絶望する。あれだけ頑張ってきたのに、全てはラトーナを喜ばせるだけだった。この試験は最初から、ラトーナが仕組んだ罠だったのだ。
「……ちょっと待って。先生は? レティシア先生はどうしたの!?」
ティナはラトーナに訊く。変身元となったレティシアを、一体どうしたのかと。
「……うふっ♪」
その笑い声を聞くだけで充分だった。四人の顔が青ざめる。次にラトーナは、小さな機械を取り出した。
「これ、相手の記憶を読み取る機械なの。学校の事さえわかればよかったから、それがわかったらあとはポイよ」
殺したのだ。ラトーナはアヤ達の担任を、殺して成り代わったのだ。
「さぁみんな、私達の軍においで。先生と同じになりたくなかったらね」
ラトーナは機械をしまい、四人に手を差し伸べる。
しかし、
「断る」
それをチェルシーが拒否した。
「あら、何で?」
「私達には夢がある。私達がこのアカデミーに入ったのは、夢を叶える為だ。お前達の兵士になる為じゃない!」
「チェ、チェルシーちゃん……」
啖呵を切るチェルシーを見るミーシャ。彼女も、魔王軍になど入りたくない。だが相手は、魔王軍の中でも最強の超魔の一人だ。逆らえるはずがない。それなのに、チェルシーは逆らった。彼女の姿が、ミーシャにはとても頼もしかった。
(怖い……でも、しっかりしないと……!!)
本当はチェルシーだって怖かった。だが、屈するわけにはいかなかったのだ。自分がラトーナの言う事に従ってしまったら、誰も逆らえないと思ったから。
「……そうよ。チェルシーの言う通りよ!」
「あたし達は勇者様に鍛えてもらったの! それなのに、魔王の仲間になんてなるわけないじゃない!」
チェルシーの気丈な姿を見て勇気を奮い起こし、アヤとティナも抗う。ミーシャもまた、ティナの手を握りながら、ラトーナを強く睨み付ける事によって、抵抗の意を示した。
「ふーん、そういう事言っちゃうんだ。だったら……」
ラトーナは何かを取り出す。それは、杏利が以前見た事のある、造魔兵転送スイッチだった。
ラトーナが持つのは改良型で、一回押す毎に五人の造魔兵を呼び出す。ラトーナは五回スイッチを押し、アヤ達を二十五人の造魔兵が取り囲んだ。
「少し思い知ってもらっちゃおっか。あんた達に選択権なんてないって。ああ、そうそう。森全体にバリアが張ってあるから、逃げようとしても無駄だからね」
痛め付けて強引に連れていくつもりだ。
「みんな、落ち着くんだ」
チェルシーは三人に言う。
「この状況は、ゴーレムが造魔兵に変わっただけだ。杏利姉さん達の指導通りに戦えば、必ず勝てる」
確かに、その通りである。むしろ倒してはいけない相手がいない分、試験より楽だ。敵は強く、大勢で、退路も断たれているという絶望的な状況だが、そう思えば、気分も少し軽くなる。
「逃げられないなら、勝つしかないわね」
ソウルブレードを強く握り締めるアヤ。無駄な抵抗だと笑いながら、ラトーナは大声で告げる。
「さぁ、中間試験の延長戦よ!!」




