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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第一章 杏利の旅立ち
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第四話 洗礼の洞窟

前回までのあらすじ


国を魔王軍から救った杏利は、戦い方を学ぶ為に洗礼の洞窟という初級ダンジョンに来た。

 ホーンラビット。頭に一本の角が生えた、ウサギ型のモンスター。可愛らしい見かけによらず、凶暴で雑食。草を食うだけでなく、人間やモンスターをも角で仕留め、骨まで食い尽くしてしまう。

「はぁっ!!」

 吸血大蝙蝠。血液を主食にしている、人間の子供と同じくらいの大きさの巨大なコウモリ型モンスター。一度噛みついたら最後、あっという間に獲物の血を吸い尽くす。

「そこだっ!!」

 ブラックバイパー。真っ黒なヘビ型モンスター。牙に強力な猛毒を持っており、噛まれたら急いで解毒しないと死んでしまう。

「うりゃあっ!!」



 杏利は現れるモンスターを次々と撃破していた。飛び掛かってきたホーンラビットを真正面から両断し、吸血大蝙蝠の攻撃をかわして下から突き刺し、ブラックバイパーの頭を上から貫く。

 これらの他にもゴブリンやスライムなど、たくさんのお馴染みと言えるモンスターが出現したが、杏利の敵ではなかった。暗い洞窟での戦いも、エニマが光って照らしてくれる為、何の問題もない。

「手応えないわねぇ。やっぱり初級者向けのダンジョンってところかしら?」

 危なかったのは、入り口で戦ったエビルスタッフだけだった。こう考えてみると、あの冒険者パーティーがエビルスタッフから逃げたのは、当然だったと言えるかもしれない。あれだけ明らかにレベルが違いすぎるのだ。あれ以外のモンスターは、魔法なんて使ってこなかったし。

 この世界での戦い方を理解する為に、弱いモンスターと戦うのは別に構わない。必要な事だ。しかし一度理解してしまえば、弱い相手との戦いは途端に物足りなくなる。物理攻撃が効きにくいと思っていたスライムさえ、魔法を使う必要もなく、コアの正確な破壊で倒せてしまう始末だ。もうこの洞窟に、長く留まる理由はないだろう。

「まぁお前はこの世界に来たばかりの段階で、あれだけの造魔兵を蹴散らしたのじゃ。この程度の相手では満足出来まいよ」

 敵が弱いのは仕方ないと言うエニマ。確かに杏利は、普通のモンスターよりずっと強い造魔兵の大軍を撃破しているのだ。物足りないと感じるのも無理はない。

「じゃ、もう用はないわね。さっさと次のダンジョンなり町や村なりに行きましょうか」

 もっとレベルの高い相手が必要だ。ちょうど今いる場所がこの洞窟の最奥部らしいし、洗礼の洞窟はクリアということで、引き返す事にする。

 杏利が踵を返した時だった。

「……?」

 そこには、全身からトゲと、申し訳程度の長さの手足を生やした、ボールのような小さなモンスターがいた。

「ま、まずいぞ杏利! こやつは……!」

 エニマが警告する。だが、遅かった。目の前にいるモンスターに、変化が起きたのだ。

 身体がどんどん膨れ上がっていく。やがて、三十センチくらいしかなかったモンスターは、五メートルを越える巨体になり、手足も、全身も、トゲすらも頑丈に変化して、顔付きも凶悪なものになった。

「な、何よこいつ!?」

「こやつはバルンガというモンスターじゃ」

 バルンガは食べた物を魔力に変換し、体内に蓄える能力を持っているモンスターだ。しかし、魔法は使えない。ではなぜ魔力を蓄えるかというと、蓄えた魔力を使って、身体を大きく、頑丈に変化させる能力を持っているからだ。その有り様が、まるで風船が膨らむように見える事から、バルンガと呼ばれているのである。加えてバルンガは、ホーンラビット以上の雑食モンスターだ。草や人間やモンスターはもちろん、岩や土さえ食べる。しかし魔力への変換効率が最もいいのが肉なので、人間を見つけると優先的に襲い掛かるのだ。

 このバルンガもまたエビルスタッフと同じように、外からやってきて住み着いたのだろう。こいつも初級冒険者が相手に出来るモンスターではない。

「最後の最後で思わぬ大物が出てきたってわけね。ちょうどいいわ。もうこの洞窟のモンスターじゃ、満足出来なくなってたとこだったのよ!」

 杏利は飛び掛かり、バルンガを脳天から斬りつけた。

「!?」

 だが、エニマの刃はバルンガの頭に多少の傷を付けただけで、刺さっていなかった。

「グゥッ!!」

「うっ!」

 バルンガは押し返し、杏利は反動を利用して着地する。

 バルンガがどれだけ巨大で頑丈に変化出来るかは、魔力量に掛かっている。魔力を蓄えれば蓄えるほど、バルンガの脅威度も変動するのだ。造魔兵の鎧を易々と斬り裂いたエニマの刃が、全くと言っていいほど通らない。相当の魔力を蓄えていたのだろう。

「まだまだァッ!!」

 とはいえ、杏利もまだ本気ではない。先程以上の力で打ち込む為、再度突撃する。

「ガァッ!」

 前足を振りかざすバルンガ。杏利は急ブレーキを掛けてバックステップで下がり、かわして前足を斬りつける。与えられたダメージは、頭と同じくらいだ。

「はっ! やっ!」

 一度で駄目ならと、刃で斬りつけ、石突で打ち付ける。エニマの加護は間違いなく受けているのに、ダメージがうまく入らない。

「!!」

 攻撃に夢中になっていて気付くのが遅れた。バルンガがもう片方の前足を振るい、杏利を攻撃したのだ。

「ぐぅぅ……!!」

 それを受け止める杏利。だが止めきれず、弾き飛ばされて後ろの岩壁に叩きつけられてしまった。

「あっ!」

「杏利!!」

「……平気よ。これくらいっ……!!」

 バルンガの次の攻撃が始まった。トゲをこちらに向け、突進してきたのだ。急いで避けたが、バルンガは追尾してきた。予想外の機動力に、杏利は避けられない。


「アタックガード!!」


 その時、突然杏利身体を、緑色に光る薄い膜が覆った。

「っ!!」

 吹き飛ばされた杏利。だが、トゲは杏利の身体に刺さっておらずさしたるダメージも受けていない。

 今のはアタックガードという魔法だ。その名の通り、五分間物理攻撃に対して高い防御力を持つバリアを発生させ、ダメージを軽減する。エビルスタッフが覚えていた魔法の一つを、エニマが唱えたのである。

 ちなみにこの系統の魔法は重ね掛けが出来るが、二つタイプがある。効果時間を伸ばすタイプと、複数展開して効果を高めるタイプだ。前者ならもう一度唱えると、アタックガードの持続時間が五分プラスされる。後者ならバリアの上にさらにバリアが張られ、より大きなダメージを軽減出来る。

 一回の発動でバルンガの攻撃のダメージは無効化出来るので、後者は必要ないだろう。使うとするなら前者だが、魔力切れには注意しなければならない。バリア系の魔法は、消費魔力がでかいのだ。

「ならこれはどう!? バニス!!」

 杏利はエニマをバルンガに向け、火属性魔法バニスを使った。覚えた魔法や技は、杏利の意思でも、エニマの意思でも、どちらでも自由に使えるのだ。

 放たれた魔法は、バルンガの顔面に命中する。

「グルルル……」

 鼻の頭に火傷が出来た。先程よりはダメージがある。しかし、気持ち大きいといった感じのダメージだ。魔法に対する防御力も、恐ろしく高い。

「スパルク!!」

 雷属性魔法スパルクを使っても、同じ事だった。このまま続けても、バルンガを倒す前にこちらの魔力が尽きてしまう。

「頑丈なやつ……」

 杏利は呟いた。今まで倒してきたモンスターのレベルが1~3だとしたら、エビルスタッフは7。そしてこのバルンガは、10である。いきなり強くなりすぎだ。

「仕方ないわね……エニマ。ガンゴニールストライクを使うわよ」

 この強敵を倒す為、仕方なく杏利は、切り札のガンゴニールストライクを使う事にした。

「よしわかった!」

 ガンゴニールストライクを使う為、魔力を放出し、バリアを張るエニマ。

 ふと、杏利は思った。造魔兵の鎧より遥かに頑丈なバルンガの表皮を、本当にガンゴニールストライクを放つだけで貫通出来るだろうかと。

 そして、考えた。

「エニマ。ガンゴニールストライクのパワーを、穂先の一点に集中して」

「う、うむ」

 確実に貫くには、エニマの力の一点集中。それしかない。以前使った時より、バリアの規模は小さい。しかし小さいだけで、一点に向けた破壊力だけは前回以上だ。

「「ガンゴニール……!!」」

 杏利はバルンガの顔面に狙いを定め、バルンガが突進してくる。

「「ストラァァァァァァァァイクッ!!!」」

 それに合わせてガンゴニールストライクを繰り出し、飛び出す杏利。

 杏利の身体は宙を舞い、エニマの穂先はバルンガの顔の中心に命中。それだけでは終わらず、バルンガの頭を、身体を貫き、完全に突き抜けたところで、着地する。

「……ウゥ……」

 バルンガの巨体は轟音を立てて崩れ落ち、元の大きさに戻った。杏利とエニマにどでかい風穴を空けられたので、魔力が抜けたのだ。死に様すらも風船のようなモンスターである。

「やったな、杏利」

「もうこんな厄介なのは出てこないでしょうね?」

 自分の身体からエニマの加護が消えていくのを感じる。魔力を全開にして突撃する技なので、魔法も使えなくなる。魔力は時間を置けば回復するが、それまで杏利の戦闘力は大きく下がるだろう。バルンガやエビルスタッフのような強敵が出てこない限り、加護なしでも杏利が負ける事はないと思うが。

「他の場所に住んでいたモンスターがやってくる事はそうそうない。さすがにもうないじゃろ」

「だといいんだけどね」

 いずれにせよ、ここにいるとまずい。杏利とエニマは、すぐに洞窟から脱出することにした。



 道中モンスターに遭遇する事もなく、無事に脱出出来た杏利とエニマ。

「一時はどうなることかと思ったけど、パワーアップも出来たし、戦い方もだいたいわかったし、いい感じね」

「……なんかお前、楽しそうじゃな。あんなに怖がっとったのに」

「あたし順応性は高い方なの」

 来たばかりの頃が嘘のようだ。命の危機に晒されたというのに、杏利は全く怖がっていない。

 というのも、杏利は非常に高い順応性の持ち主だからだ。ここはこういう事がある世界で、自分もしなければならないのだと理解してしまえば、すぐ慣れる。だから、もう恐怖はない。

 それより、杏利はもっとこの世界を知りたかった。冒険がしたかったのだ。

「……最初お前をこの世界に呼んだ時は、巻き込んでしまってすまなかったと思っていたが、今は呼んでよかったと思っておる。今のお前、すごく生き生きしておるぞ」

「そう? 確かにちょっとはしゃいじゃってるかも」

 自分は結構子供っぽいと、杏利は思った。

「じゃが、あまり頑張り過ぎるのは良くない。少し村で休もう」

「……じゃあ、そうしようかしら」

 杏利はポーチから鞘を出すと、エニマの刃を納め、村に向かって歩いていった。

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