第四十七話 海賊退治
前回までのあらすじ
海賊登場。しかし、杏利を敵に回したのが運の尽き。
杏利がカイラを狙った海賊達を片付けていた頃、桟橋には海賊船が到着していた。もう一隻来ると言っていた船とは、この船の事である。
「お頭、これ」
「ご苦労だったな」
海賊は降りてきた頭にデザートイーグルを渡す。
「さて、魔王軍が来るまでもうしばらくある。それまで、お前らの村で待たせてもらうか」
「お前達何する気だ!」
「長老具合悪い! お前のせいでもっと悪化したらどうするつもりだ!」
原住民達は海賊達に、村に行かないよう言う。特に長老は身体に不調がある為、あまり強い刺激を与えると寿命を縮めるかもしれないのだ。
「俺達はとにかくこの島を手に入れるよう頼まれてるんだよ。じゃないと制海権が手に入らないどころか、俺達が魔王軍に消されるんだ。お前らの事情なんかどうでもいいんだよ」
だが、頭は原住民達の言葉に耳を貸さない。
「けど、魔王軍が来るまでの間は生かしといてやる。お前ら。こいつらを見張っとけよ」
部下達にレノやシーモアの監視を任せ、頭は村へと向かっていった。
「なるほどね。つまりあんた達は、権威欲しさに魔王の手先になったと」
「ああ、そうだ」
杏利は幻惑の宝光を駆使し、海賊達から目的を聞き出していた。
(情けないわねぇ……海賊って誰にも靡かない、海の男だって思ってたのに)
杏利としては、海賊とは誇り高く、むしろ魔王のような存在とは率先して戦う人種だと思っていた。
(まぁああいうのはフィクションの話だし、実際はこんなもんよね。だって賊は賊だもの)
これが現実だ。とはいえ、妄想と現実のギャップを嘆いている暇はない。
「あんた達は魔王軍が来るまでどうするつもり?」
「村で待たせてもらう。ありったけの食料と水と宝を奪いながら。魔王軍が来たら、村人もリヴァイアサンも、皆殺しだ」
「……そう。じゃああんた達、しばらく寝てなさい。全部終わったら、海軍に引き渡してやるから」
杏利が命じると、海賊達は眠った。
本当は殺してやりたいところだが、こんな保身と欲望しかない連中など殺す価値もない。それより、然るべき相手に引き渡して、たっぷりと苦しんでもらう。
「キュウ……」
「大丈夫よ。あんたのお母さんは、あたしが必ず助けるから」
心配そうに覗き込んでくるカイラの頭を撫でてやる。
「とりあえず、しばらくここから離れてて。新手を呼び込まれでもしたら大変だから」
「キュウ!」
カイラは杏利の言う事を聞き、湖の外へ出ていった。これで、カイラが海賊に捕まる事はないだろう。次は、村だ。
「今頃は、海賊のアタマが村に着いてるわよね?」
「恐らくな。しかし、気を付けなければならんぞ」
いわば原住民全員が人質に取られている状態だ。暴れるわけにはいかない。面倒だが、見つからないように一人一人、海賊を始末していく必要がある。
「ま、あたしに任せてよ」
杏利はレノ達を救う為、村へ向かった。
村に着いた海賊の頭は、長老の家に居座っていた。
「ねぇお頭~。こんな連中、さっさとぶっ殺しちまいましょうよ~」
「馬鹿。そんな事したら、シーモアが暴れる」
原住民など、最初から危険対象として認識していない。彼らはシーモアを何とかする為に、ここに来たのだ。
一番何とかしたいと思っているのは魔王軍だが、シーモアの戦闘力は脅威であり、まともにぶつかっても勝ち目は薄い。そこで、自分達より海の事情に詳しい海賊達に依頼したのである。
海賊達は島の事情を調べ上げ、商船を襲って商人に成り代わるという回りくどい真似をした。そうでもしなければ、シーモアに近付く事さえ出来ない。そしてようやく、人質を取るという形で、シーモアを無力化する事に成功したのだ。それなのに一人でも原住民を殺そうものなら、シーモアはタガを外して怒り狂い、暴れ回るだろう。
「気持ちはわかるがな、全てはシーモアを片付けた後だ」
海賊達の装備では、強固な鱗に守られたシーモアを殺傷する事は出来ない。だから、より強力な装備を持っている、魔王軍の到着を待たなければならないのた。
村のあちこちを、海賊達が警備している。大事な人質だ。ただの一人も、逃がすわけにはいかない。
「ん?」
と、村の反対側の出口、洞窟へ続く出口を見張っていた二人の海賊のうち一人が、もう一人に訊いた。
「なぁ。お前今俺の事呼んだか?」
海賊は、突然誰かに肩を叩かれた気がしたのだ。
「呼んでねぇよ。もうちょっとシャキッとしろお前」
だが、もう一人の海賊は、そんな事をしていない。相方を叱りながら、警備に戻る。
「……シャキッとしろって言っただろ!」
「な、何だよ?」
「何だよじゃねぇ! 今お前俺の肩叩いただろ!」
今度は、もう一人の海賊が、誰かに叩かれたと錯覚した。
「た、叩いてねぇよ……」
「ウソつけ! じゃあ誰が」
その直後、二人は倒れて気絶した。
「あたしでーす」
理由は、杏利が殴り飛ばしたからだ。
彼女は透明になる魔法、ステルヴィを習得している。透明になったまま、少しずつ海賊達を倒していこうという作戦だ。
(遊んでないで、もっと手際良くやったらどうじゃ?)
(平気よ。五回も重ね掛けしたもの)
テレパシーで返す杏利。途中で効果が消えたりしないよう、しっかり重ね掛けしておいた。二十五分もあれば、充分全ての海賊を撃退出来る。とりあえず、今気絶させた海賊は、近くの茂みの中に放り込んでおく。
(さ、どんどん行くわよ!)
(うむ!)
ここからは、二手に別れて行動する。杏利は民家に入って暴れている海賊を無力化しに、エニマは出入口を塞いでいる海賊を排除しに行った。
「……ねぇお頭。なんか、外が静かじゃありませんか?」
異変に気付いたのは、頭の側近だった。声が聞こえないというか、人の気配がしない。
「気のせいだ」
しかし頭は特に何も感じていないようで、気のせいとあっさり決めつけた。
この村に、ドアというものはない。その代わりに、モンスター避けの効果を持つ特殊な植物を編み込んだ、布を使っている。その布が、突然海賊達の目の前ではためいた。
「……お頭。何ですか今の?」
「風……じゃなさそうだな……」
さすがに様子がおかしいと気付き始めた頭。
だが、気付いた時には遅かった。杏利の侵入を許した時点で、もう勝負は決まっていたのだ。
「ぐあっ!」
殴り飛ばされる側近。
(何だ今のは!? まさか、ステルヴィ!?)
頭は驚異的な直感で杏利がステルヴィを使っている事に気付いた頭は、素早く隣の部屋に飛び込んだ。
「ど、どうしたんですかお頭!?」
その部屋には長老と、長老を見張っている海賊が一人いる。頭は海賊の腕を掴んで立たせると、今自分が入ってきた入り口に向かって突き飛ばした。
「な、何をがはっ!」
遅れて入ってきた杏利に殴り飛ばされる海賊。しかしその間に、頭は同じように長老を立たせ、デザートイーグルを抜いて首に押し付けた。
「動くな!! 一歩でも動いたら、このジジイを殺すぞ!!」
人質。その作戦は、杏利に有効だったかもしれない。透明にさえなっていなければ。
「ごぁぁっ!!」
杏利は音を立てないように気を付けて近付き、頭の顔だけを正確に殴り飛ばした。
「馬鹿なやつね~。ま、やっぱり海賊は海賊か」
人質を取るぐらいなら、弾切れを起こすまで銃を乱射した方が、まだ勝率があった。
「な、何が……」
長老は再びベッドの上に倒れ、そこでちょうどステルヴィの効果が切れる。
「長老さん大丈夫ですか?」
「ゆ、勇者様! 来て下さったのですか! い、いえ、私の事はどうでもいい。早く桟橋へ! レノ達を助け出して下され!」
「わかりました」
長老の頼みを聞き入れた杏利は、海賊達を引きずりながら外に出て、エニマと合流する。全ての海賊を気絶させたが、目覚められると面倒なので、縄で縛っておく。その役目は自由になった原住民達が引き受けてくれた。
「次は桟橋ね」
「うむ、行こう」
「「ステルヴィ!!」」
二人はステルヴィを掛け直し、桟橋へと急いだ。
桟橋。
「もうすぐ魔王軍が到着する。そうなったら、この面倒な仕事も終わりだ」
海賊の一人が、懐中時計を見ながら言う。あと少しで時刻は正午になる。正午は魔王軍と合流する時間だ。もう少ししたら、魔王軍の艦隊がこの島に押し寄せてくる。
「……お前達の企み、必ず失敗する」
「……何だと?」
レノは負けじと言い返した。
「お前達の企み、成功する事絶対にない。私達にはまだ、勇者様いる」
「勇者ぁ? そういや確かに場違いなガキがいたが、まさかあいつか? 何か出来るとは思えねぇがなぁ?」
「ところがどっこい。出来るのよねぇ」
「!?」
突然何もない場所から少女の声が聞こえ、海賊達が目にも止まらぬ速さで一掃される。
「ば、馬鹿な……」
最後に残った海賊も、意識を刈り取られた。
「「ディリーテス!!」」
杏利とエニマはディリーテスを唱え、ステルヴィを解除する。
「勇者様!」
「レノさん! シーモア! 村は無事よ! カイラも!」
(本当か!)
驚いたシーモアは、テレパシーでカイラに呼び掛ける。
「キュウ!」
すると、カイラが現れてシーモアに頭をこすりつけた。
(カイラ! ああ、よかった……!)
シーモアも同じように、自分の頭をカイラにこすりつける。
「……あっ!」
唐突に、原住民の一人が声を上げた。見ると、水平線の彼方から、多数の軍艦が向かってきている。
「魔王軍の艦隊!! もう来たのか!!」
時刻は、今ちょうど正午になったところだ。時間ピッタリに、魔王軍が攻めてきた。
(おのれ……姑息な手を使いおって……!!)
だがシーモアに、恐れはない。それどころか、卑劣な手段を使った魔王軍に怒りを燃やし、それに比例してシーモアの口が光り始める。
(アクアブレス!!!)
シーモアは口を大きく開き、光を解き放った。
「さーてと。あの海賊のバカどもは、上手くやってるかな?」
艦隊を率いる超魔、バーキは、今度こそ憎きリヴァイアサン、シーモアを始末出来ると意気込んでいる。
「前方から、大熱量接近」
しかし、異常事態を告げる造魔兵。
「えっ?」
バーキが間の抜けた声を上げた瞬間、光が炸裂し、魔王軍の艦隊は光に呑まれ、塵一つ残す事なく消滅した。
核兵器。この光景を目の当たりにした杏利は、まさしくそれを連想した。
シーモアの口から放たれた巨大な光線が命中したかと思うと、光線はさらに巨大な爆発を起こし、魔王の艦隊を綺麗さっぱりこの世から葬り去ったのだ。
「アクアブレス。水属性の光線じゃ。その破壊力は島を一つ容易に消し飛ばし、その上あらゆる防御を貫通する性能を持っておる。一応弱点属性を突けば破る事は出来るが、まぁ現実的ではないの。リヴァイアサンが海原の絶対王者と呼ばれておる由縁じゃ」
雷属性で破ろうにも、島破壊以上の魔力が必要になる。実質心想持ちでもなければ、リヴァイアサンには敵わない。エニマの説明を聞きながら、杏利はシーモアが敵でなくて本当によかったと思った。
「っていうかあれ、津波起きない?」
(心配はいらない。私の力で海の水を操っている。津波が起きる心配はない)
海にはネプチューンという精霊がいる。リヴァイアサンはそれに次ぐ海の権限を持っている為、海水や海流を操れるのだ。それでアクアブレスの破壊の余波を抑え、津波が起きないようにしている。万全だ。
「あっ! また別の艦隊来た!」
再び叫ぶ原住民。だが今度の艦隊は、少し様子がおかしい。魔王軍の軍艦よりも、サイズが小さいのだ。
「あれ、海軍の軍艦。たぶん、勇者様捜しに来た」
「えっ!?」
杏利は驚いた。あれは、海軍の軍艦らしい。
「杏利!!」
しばらくして海軍は島に到着し、乗っていたキリエは軍艦から降りてきて、杏利に抱きついた。
「キリエ!!」
「よかった……ずっと捜してたのよ……」
この海軍は、杏利を捜索する為に結成された捜索隊だ。キリエは自分から志願し、一緒に杏利を捜していたのである。
「近くにリヴァイアサンが守っている島がある事を思い出してね。もしかしたらと思って来てみたら、運良く流れ着いていたようだ」
シーモアが住む島については、よく知られている。海で遭難した人間が、時々この島に流れ着いている事もだ。それを思い出した将校が、急遽船をこちらに回したのである。
海賊達は海軍に逮捕された。今回の作戦が失敗した事で、魔王軍も少し大人しくなるだろう。もう大丈夫だ。
「勇者様、本当にありがとう。これ、私達からのお礼」
レノは杏利に、小さな袋を渡した。杏利は袋を開けて、中を見てみる。中には、小さな植物の種が一つ、入っていた。
「これ、蘇りの種。これを枯れてる植物の根元に植えると、植物が生き返る。あんまりたくさん手に入らないから、一つしかあげられなくて申し訳ない」
レノが杏利に渡したのは、ライフツリーという特殊な木がつける、蘇りの種という種だった。作物が不作だった時に使う、この島の宝だ。
「そんな貴重なものをいいんですか?」
「大丈夫。あんまり使われないかもしれないけど、お礼の気持ち」
「……ありがとうございます」
杏利は蘇りの種を、ポーチにしまった。
「お礼を言うのはこっち。勇者様、本当にありがとう!」
(この恩は生涯忘れない。あなた達の旅の幸運を祈っている)
レノ達は杏利とエニマに礼を言い、杏利達も別れを告げて出発する。
「それにしても、まさか海で遭難するなんてね。いや~、人生何があるかわかんないわ」
「ホントよね。私も友達が海に落ちるなんて初めてだったから、心臓が止まるかと思ったわ」
甲板で海を見ながら、楽しく談笑する杏利とキリエ。
「杏利!」
と、何かに気付いたエニマが、杏利を呼ぶ。
「キュウ!」
「カイラ!」
海を見てみると、カイラが追いかけてきていた。
(オネェチャン、アリガトウ!)
杏利の頭の中に、片言だがはっきりと、言葉が伝わる。カイラがテレパシーを使えるようになったのだ。
「元気でね!! カイラ!!」
やがて軍艦の速度が上がり、カイラが引き離されていく。杏利は身を乗り出して、カイラに手を振った。
「キュウ~!!」
カイラの鳴き声が、天高く響いた。
アクシデントはあったが、杏利とエニマは旅を再開する。目指すはキリエの故郷。魔法の国、ペイルハーツ。




