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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第四章 旅の再開
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第四十二話 泉の攻防

前回までのあらすじ



エニマがスライムに襲われた。


幼女のサービスシーンだぞ。ほら、鳴けよ。豚みたいに。

「お、お前は槍の女勇者!!」

「あら、杏利あいつ知ってる?」

 ゾニアは杏利の登場に驚き、キリエは杏利に尋ねる。

「知るわけないでしょ。最近たくさん超魔を倒したから、連中にマークされてるってだけ」

「へぇ。あんたも人気者ね」

 既に杏利の力は、魔王軍にとっても無視出来ないレベルにまで高まっている。だから超魔達は杏利の顔をロイヤルサーバンツから教えられ、危険人物の一人としてマークしているのだ。

「槍の勇者……この女が……ゾニア様。この女の始末、私にお任せ下さい」

 邪精霊の復活は後回しだ。それよりも、目の前にいる女勇者、一之瀬杏利を片付ける。杏利を倒さなければ邪精霊復活は出来ないし、何よりこの場で杏利を倒せば、魔王軍における自分の地位は確固たるものとなる。欲望に火が点いた召喚術師は、杏利を倒そうと進み出た。

「お前一人では無理だ。私もやろう」

「……わかりました」

 本当は自分一人でやりたかったが、杏利についての情報は、魔王軍の一員であるゾニアの方が多く持っている。そのゾニアが言うのだから、言う通りにした方がいい。そう思った召喚術師は、渋々ながらも了承した。

「はぁっ!!」

 ゾニアが気合いを入れると、先程と同じ異空間が出来る。そして、ゾニアの両手に二挺の銃が出現した。種類はAK-74だ。

「出でよ、我がしもべ達よ!!」

 自分が魔王軍に参入し、さらに出世出来るかどうかが懸かっている戦いである。全力を尽くす為、召喚術師は自分が使役しているモンスターを全て呼び出した。

 狼と人間が合体したようなモンスター、ワーウルフが三体。

 三つの目を持つ黒猫、バロールが四体。

 顔のない悪魔、ナイトゴーントが二体。

 ヤギの頭と人間の身体を持つ悪魔、バフォメットが一体。

 火を吹く大トカゲ、サラマンダーが一体だ。

「結構強力なモンスターが揃ってるわね……」

「超魔はあたしとエニマでやるわ。キリエはババアの方をお願い!」

「了解!」

 ゾニアは杏利が、召喚術師とそのしもべ達はキリエが、それぞれ相手をする事になった。

「さぁ行け!! この小娘どもを血祭りに上げろ!!」

 召喚術師がモンスター達に命じ、戦いが始まった。



 ゾニアは両手に構えたAK-74を、杏利目掛けて乱射する。

「「アタックガード!!」」

 すかさず防御力を上げる杏利とエニマ。だが、AK-74は威力の高い銃なので、防御壁の上からもじわじわとダメージを受けている。

「スキルアップ!!」

 あまり時間は掛けられないと思い、身体能力を強化する杏利。銃弾をひょいひょいとかわし、ゾニアを斬りつける。

 だが、その瞬間にゾニアが消えてしまった。

「がぁっ!?」

 その直後、背中に銃撃を受ける。よけながら見てみると、そこにはゾニアがいた。

「ここはあいつが作った空間だから、何でも出来るってわけね……!!」

「杏利!! この空間はバリア貫通能力で破壊出来る!! お前の攻撃全てに、能力を付加するぞ!!」

「サンキュー!!」

 空間さえ壊してしまえばいい。ゾニアは何度でも作ってしまうが、その度に壊し続け、隙を突いてゾニアを倒せばいい。

「そうはさせるか!!」

 ゾニアは力を解き放ち、空中にたくさんのAK-74を精製し、配置した。上も前も右も左も、全て銃が杏利を狙っていて逃げ場がない。

「死ねぇっ!!」

 杏利から逃げ場を奪ったゾニアは、そのまま射撃を開始する。四方八方から杏利を襲う、AK-74の銃弾。

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 杏利はバリア貫通能力を付加し、エニマを無茶苦茶に振り回す。銃弾はかき消され、何もない空間が斬り裂かれ、地面が粉砕される。

「バニス!!」

 休んでいる時間はない。すぐさま火球を大量に作り、周囲のAK-74に向けて飛ばす。火球は炸裂してAK-74を破壊し、その空間すら打ち壊す。しかし、まだ終わらない。急いでこの空間を破壊しなければ、ゾニアはまた攻撃を再開してしまう。今までの攻撃で、かなりのダメージをこの空間に蓄積させた。もうすぐ破壊出来るはずだ。

「バニスド!!」

 やはりここは、より広範囲を攻撃出来る火属性魔法に限る。自分の周囲に六発の大きな火球を作った杏利は、火球を無差別に飛ばし、空間を攻撃する。

 炸裂する炎。焼き払う熱風。そして、砕け散る空間。杏利の攻撃によって、空間は爆砕された。

「くっ!!」

 すぐにまた新しいい異空間を作ろうとするゾニア。しかし、それをさせるはずがない。

「「スキルアップ!!」」

 再びスキルアップを唱える杏利とエニマ。せっかく破壊したものをまた作られても困るので、一気に駆け出した。瞬間、杏利のスピードは音速を越える。

「がっ……はっ……!!」

 充分にスピードが乗った斬撃を喰らわせ、杏利はゾニアを頭から真っ二つに両断した。新しい空間を作る暇さえない、即死だった。



「スパレイズ!!」

 キリエは雷を放ち、ワーウルフ二体を倒した。

「お前はただの魔法使いか!! 召喚術師である私に、勝てると思うんじゃないよ!!」

 他のモンスター達が攻撃するのに混じって、召喚術師も攻撃してくる。

 キリエは、自分以外にも魔法を使う相手と交戦した経験はあるが、いずれも魔法使いレベルだ。大魔導師や召喚術師と戦った事は、一度もない。相手は数で攻めてくる上、年季もある。キリエにとって、圧倒的に不利な相手だ。

「負けないわよ!! ただの魔法使いの意地、見せてやろうじゃない!!」

 しかし、負けるつもりはなかった。精霊を悪事に使う者など、絶対に許せなかったからだ。ましてや、魔王軍に合流する為に使うなどもっての他である。

「邪精霊の復活なんてさせない!! あんたは私がここで倒す!!」

 コフィアイザーを唱えるキリエ。巨大な氷の塊が、召喚術師に向かって飛んでいく。しかし、その間にバフォメットが割り込み、コフィアイザーを受け止めると、バニドライグを唱えて溶かしてしまった。

「はっ!」

 そしてキリエは気付く。上級魔法を唱えている間に、バロール達が自分を取り囲んでいる。

 それに気付いた時、バロール達の額にある第三の目が、紫色に怪しく光り始めた。

「ぐっ!! がっ、あっ……!!」

 頭を押さえて苦しむキリエ。バロールは精神攻撃を得意とするモンスターで、第三の目から相手にありとあらゆる苦痛を感じさせる精神波を放つ。あまり長くこの精神波を受けていると、精神崩壊を引き起こしてしまう。

「行け!!」

 召喚術師が命令を下すと、ワーウルフとナイトゴーントが襲い掛かってくる。

(落ち着け!! バロールの攻撃を防ぐには……!!)

「コフィアイザー!!」

 精神波に頭の中を乱されながらも、キリエは地面に向かってコフィアイザーを唱えた。すると、キリエを囲むように氷塊が出現し、全方位からの攻撃を防ぐ防壁となった。飛び掛かろうとしていたワーウルフとナイトゴーントが、キリエを追い詰めていたバロール達が、慌てて後退する。

 バロールの精神波は、遮蔽物があれば防ぐ事が出来るのだ。加えてワーウルフやナイトゴーントからの攻撃も防げて、一石二鳥である。

「ちっ……サラマンダー!!」

「ゴォォォォォ!!」

 召喚術師からの命令を受けて、サラマンダーが口から火炎を吐く。溶けていく氷塊。このままでは、キリエは焼き殺されてしまう。

「アクロディア!!!」

 だがキリエは、黙ってやられるような女ではない。彼女は魔法使いである為、魔力は生命線。だから魔力を切らさないよう、エーテルポーションを常備している。周囲を氷で囲んだ事で小休止を得たキリエは、エーテルポーションを飲んで魔力を回復し、ありったけの魔力を込めてアクロディアを唱えたのだ。

 強烈な水流は氷の壁を突き破り、サラマンダーに激突して粉々に打ち砕いた。

「なっ!?」

 そして出来上がった唯一の入口へと、ワーウルフとナイトゴーントが殺到する。

「スパレイズ!!」

 それも作戦のうち。たった一つの入口に集中した事で、キリエはワーウルフとナイトゴーントをまとめて打ち倒した。

「ラチェイン!!」

 飛び出したキリエは、飛び出すと同時にラチェインでバロール達の動きを封じ、

「バニスド!!」

 火球を四つ作って飛ばし、バロールを全滅させた。これで召喚術師が使役しているモンスターは、バフォメット一体だけである。

「テイムアッパー!!」

 すると、召喚術師が何かの魔法を唱えた。それから間もなくして、バフォメットの姿が消える。

「アタックガード!!」

 それに恐怖を感じたキリエは、咄嗟にアタックガードを唱えた。直後、バフォメットが目の前に現れ、キリエを殴り飛ばす。

「がぁっ!!」

 アタックガードを使ってもダメージを軽減しきれず、吹き飛ばされるキリエ。

 召喚術師が唱えたのは、召喚術師という職だけが使える特殊魔法、テイムアッパーである。この魔法を使うと、使役しているモンスターを強化する事が出来る。身体能力だけでなく、魔力も強化出来る超強力な魔法だが、消費魔力が非常に多く、ここぞという場面でしか使えない。使役しているモンスターが次々と倒され、追い詰められたから使ったのだ。

「ブファッ!!」

「マジックガード!!」

 バニドライグ、スパレイズ、アクロディアと上級魔法を連発するバフォメットに対し、キリエは回避を選択するが、かわしきれずにマジックガードを使用する。だがバフォメットの魔力はあまりにも強化されており、その余波さえ軽減しきれない。

(このままじゃ、まずいわ……!!)

 召喚術師は、自らが前衛に立って戦う職ではない。モンスターに前衛を任せ、自らは後衛で指示を出したり魔法を使うなど、サポートに回る。だからモンスターさえ全滅させれば、召喚術師の戦闘力はないに等しい状態になるのだが、それが難しいのだ。

 守勢に回っていては削り切られる。かといって攻勢に回ったとしても、押し切られて終わりだろう。

(何かこいつを倒す方法を考えなきゃ!!)

 必死に考えを巡らせるキリエ。

 ふと、キリエの頭の中に、一つだけこの状況を打開する方法が思い浮かんだ。実は、今練習している魔法がある。それを使えば、バフォメットを倒せる。倒せないまでも、隙を作る事が出来る。だがその魔法は、まだ一回も成功した事がない。

(……一か八か……!!)

 しかし、今はそれに頼るしかないのだ。

 魔法を使う上で大切なものは、イメージ。どんな魔法を使うか、そのイメージを頭の中ではっきりと作り上げる事が、魔法の発動に必要な技術だ。

(鏡だ。この魔法を使う為に必要なのは、鏡のイメージ!!)

 攻撃を避けながら、必死で頭の中でイメージを固めるキリエ。

(今だ!!)

 イメージが固まった瞬間、キリエは足を止める。

「ブフォアァッ!!」

 キリエに向けてバニドライグを唱えるバフォメット。キリエもすかさず、魔法を唱える。

「リフレック!!!」

 その時、キリエの目の前に水色の魔力の膜が出現した。バニドライグは魔力の膜に命中すると、向かってきたそのままの勢いで、バフォメットへと跳ね返る。

「バボァッ!!!」

 跳ね返ったバニドライグはバフォメットに命中して爆裂する。黒焦げになったバフォメットは地に落ちて、そのまま事切れた。

 リフレック。魔法を跳ね返す魔法だ。マジックガードは魔法を防ぐ盾、もしくは壁のイメージが必要になるが、リフレックは魔法を跳ね返す鏡のイメージが必要になる。先にマジックガードを覚えて長く使っていた為、頭の中では鏡より盾のイメージが固まってしまい、今まで使えなかったのだ。

「馬鹿な……私のモンスター達が……」

 召喚術師は狼狽える。同時にゾニアが作っていた空間も砕け、ゾニアが死んだ事も悟る。もう、召喚術師を守る者はいない。

「あんたの負けよ。観念しなさい」

 ゾニアを倒した杏利はエニマを召喚術師に向け、大人しく投降するよう命令する。召喚術師は杏利を、それからキリエを見た。

「……うううああああああああああ!!!」

 その時、召喚術師が突如として吼え、自分の胸に右手を叩きつけた。直後、召喚術師は胸から手を離す。だがその手には、光り輝く何かがあった。

「それは……お前の命か!?」

 エニマはそれが何であるかを見抜く。召喚術師は、自分の命を取り出したのだ。

「お前達のような存在に屈するくらいなら、私は死を選ぶ。だが、ただでは死なん!!」

 白く光る召喚術師の命が、黒く染まっていく。命を魔力に、闇属性の魔力に変換しているのだ。

「イノーザ様の為に、お前達を道連れにしてくれるわ!!」

 命を完全に魔力に変換した召喚術師は、死ぬ前に最後の力を振り絞って、魔力を泉に投げつける。跡形もなく吹き飛ぶ泉。泉だけでなく、祠も破壊される。その光景を見ながら、召喚術師は絶命した。

 その後、異変が起こる。泉があった場所から、何かが空中に浮かび上がってきた。

 それは、女性だった。元は青だったと思われる、黒く濁った肌。同じ色の羽衣を纏い、赤く光る目でこちらを睨み、牙を剥き出しにして怒りの表情を向けている。

「水の精霊、ウンディーネ……!!」

 キリエは呟く。この女性こそ、かつてこの地に封印された邪精霊、ウンディーネなのだ。あの召喚術師は己の命を犠牲にして、ウンディーネの封印を解いたのである。

 邪精霊となったウンディーネが、する事は何か。

「ウガァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 長年封印されていたその鬱憤を、目に映る者全てにぶつける事である。

「まさかの第三ラウンド……」

 もはや戦いは避けられない。杏利は苦笑いしながらも、エニマを握る手の力は緩めなかった。

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