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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第四章 旅の再開
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第四十一話 囮作戦

前回までのあらすじ



子供が消えているという村に来た。同じ事するなとか言わない!

 子供を拐う何者かを誘き出す為、子供に変身出来るエニマを囮として使う。危険だが、他に何か有効な方法があるわけでもなく、エニマは囮になる事を了承した。

「しかしなぁ……本当に引っ掛かってくれるんじゃろうか?」

 作戦の為、村長が自分の家を貸してくれた。村長もまた、自分の子供を誘拐されたのである。エニマは村長の子供のベッドに腰掛け、犯人が現れるのを待っていた。

 とはいえ、本当に現れるかどうかはわからない。何せエニマは外見だけなら少女だが、内面は七百歳を越えるロリババアなのだ。現れたものの、途中で正体に気付いて逃げられる、という事態に陥るかもしれない。

 しかし気にしても仕方ないので、エニマはぼんやりしながら、ただひたすら待っていた。近くには、以前コーサリムで購入したステルヴィの魔石で姿を隠した、杏利とキリエが張り込んでいる。さらに杏利には、ニーベルングの指輪を装備させているのだ。通常ある程度近くないとテレパシーは使えないが、これさえあればかなり離れてもエニマと通信出来る。何かあっても、瞬時にエニマを呼び戻す事だって出来るのだ。万全の態勢を敷いている。

(っと。十二時じゃな)

 エニマは部屋の時計が、深夜十二時を差したのに気付いた。子供達はこの時間帯に拐われたので、そろそろ何か起こるだろう。

(……何も起きんな)

 一分待ったが、特に異常は起きない。やっぱり、気付かれたのだろうかとエニマは心配するが、ふと気付く。

(あ。寝ていた方がいいか)

 今さら気付いた。起きていたら警戒されるに決まっている。そう思って、エニマはベッドに入った。

(……これは……)

 やはり警戒されていたようだと、エニマは理解した。横になったエニマに、力が襲い掛かってきたのだ。何を言っているかわからないと思うだろうが、そうとしか形容出来ない。周囲に人の姿も、気配もない。だがその力は、エニマの頭へと働きかけようとしていた。

 エニマにはわかる。この力は、魔力だ。目には見えないが、洗脳の類いの魔法が行使されている。眠らせて、操ろうという意思が魔力から感じられるのだ。

(ううむ……)

 だが残念。エニマにその手の力は、掛からないようになっている。加護ではなく、デフォルトで掛からないように設定されているのだ。持ち主を守る為の機能である。だから、エニマの意思では解除出来ない。謎の存在の洗脳には従えない。

 しばらくすると、魔力は収まった。洗脳出来ないとわかって、諦めたのだろう。しかし、油断してはいけない。すぐ次の手段を使ってくるはずだ。

 そう思っていると、エニマはまた自分に魔力を掛けられている事に気付いた。自分の身体が、少しずつどこか持っていかれているような感覚。赤子が目の前で消えたという、あれだ。

(来たか。これを待っていたぞ)

 エニマは抵抗せずに力を抜いて、そのまま連れ去られた。



「エニマの魔力が消えた?」

 キリエがドアを開けて入ると、エニマの姿はどこにもなかった。

「どうやら、してやられたみたいね」

「大丈夫よ」

 誰がエニマを連れ去ったのか二人にはわからなかったが、手は打ってある。

(エニマ。聞こえる?)

 杏利はテレパシーでエニマに語り掛けた。

 しかし、返事はない。

「……なるほど」

 この反応で、杏利は今エニマがどこにいるかわかった。

「どうしたの? 何かわかった?」

「場所がどこかはわからないわ。でも、エニマが結界の中にいる事がわかった」

 エニマは拐われたらすぐにテレパシーで連絡すると言っていた。しかし、テレパシーが返ってこないという事は、テレパシーが使えない状態にあるという事だ。恐らく外部と連絡を取られないよう、テレパシーを遮断する結界が張られているのだろう。

「いずれにせよ、あたし達はエニマから返事がくるまで待てばいいわ」

「大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。あの子強いから」

 杏利は全く心配していない。心配するはずがない。エニマがどれくらい強いかを、よく知っているから。



「……ここは……」

 拐われたエニマは周囲を見回し、今自分がいる場所を確認しようとしていた。

 見た感じ、ここはさっきまで自分がいた村だ。しかし、人の姿は一切見当たらない。

(どうやらここは、異空間らしいな)

 村そっくりの異空間。杏利にテレパシーで呼び掛けても、応答がない。エニマは閉じ込められていた。

「ほう、思っていたより大人しいな」

 すると、突然背後から声が掛かった。振り向いてみると、いつの間にかそこには老婆がいた。

「こっちにおいで」

 どこかに向かって歩いていく老婆。間違いなく罠だと思ったが、エニマはついていった。

 やがてたどり着いたのは、村長の家だった。くどいようだが、ここはディーネの村に似た異空間である。だからここは、村長の家に似た別の家だ。

「!!」

 老婆に続いて家の中に入ると、エニマは絶句した。子供達だ。子供達が、この家の中に集められていたのだ。男の子も女の子も、赤子もいる。全員虚ろな目をして、その場に座り込んでいた。

 同時に老婆の姿が消え去り、ドアが閉まる。驚いたエニマが駆け寄り、ノブを回したり叩いたりしてみても、ドアは開かない。

「閉じ込められたか……」

 エニマは呟いた。


 この空間のどこか。

「どうだ。子供は集まったか?」

 そこには仏頂面をした男の超魔がおり、老婆に尋ねていた。

「はい。これでようやく、封印を砕けます」

「よし、では早速始めよう」

 二人は悪巧みをしていた。



「無駄な事じゃ」

 エニマは笑った。そう、無駄だ。ここは異空間。言ってみれば、バリアと同じようなもの。エニマのバリア貫通能力を使えば、容易く破壊出来る。

「はぁっ!!」

 バリア貫通能力を発動させたエニマがドアを殴ると、ドアはガラスのように粉々に砕け散った。

「よし、この空間をぶち壊してやる!!」

 エニマはバリア貫通能力をフルに使い、魔法の乱射を始めた。

「バニスド!! スパルビ!! アクアロン!! コフィラナ!!」

 前へ、後ろへ、上へ、下へと、次々に魔法を放つ。バリア貫通能力を付加された魔法は空間を砕いていき、空間は破壊されていく。

「ウイエルガ!! ギルビライツ!! ジアーシー!!」

 壁が砕け、空が割れ、地面に亀裂が入る。もちろん子供達には当たらないよう気を付けている。そうやって魔法を唱え続けていき、とうとう空間は跡形もなく消滅した。

「こ、ここは!!」

 空間を破壊してから、エニマは今自分がいる場所に気付き、驚愕した。

 泉だ。邪精霊が封印されている、あの泉だったのだ。つまり、最初訪れた時、もうあの空間はここにあった。見つけられなかったのだ。

「き、貴様!! 私が作った空間を破壊したのは貴様だな!?」

 さらに気付くと、超魔と老婆がいる。

「なるほど、お前が作った空間だったか。そして子供を拐う役目は、そっちのババアといわけかの? 悪いが、子供達は返してもらうぞ」

「妙に落ち着いていたからただの子供ではないと思っていたが、罠だったか!!」

 ようやくエニマの作戦に気付く老婆。超魔は焦る。

「どうするのだ!?」

「……心配はありませんよ。子供達は、まだ私の術中にあります」

 空間が破壊されても、子供達は虚ろな目で座り込んだままだ。これは、老婆が掛けた魔法のせいである。

 エニマの分析通り、老婆と超魔は役割を分担していた。老婆が子供を拐い、超魔が拐った子供を集めておく為の空間を作る。その為、老婆が掛けた魔法が、まだ解けていない。老婆をどうにかしなければ、子供達を助けられないのだ。

「それにあの子供、今まで集めた子供達とは比べものにならないほど、大きな力を持っている。何としても捕獲したい」

 どうやら老婆は、エニマを捕獲するつもりでいるらしい。

「ゾニア様。ここは私におまかせを」

「う、うむ……」

 ゾニアという名前らしい超魔を下がらせ、老婆が進み出る。

「来たれ、我がしもべ達よ!!」

 老婆がそう唱えると、老婆の左右の地面が光った。魔法陣が出現したのだ。そして魔法陣の中から、二匹のモンスターが出現した。

「貴様、召喚術師か!?」

「そうさ! この泉の邪精霊を手土産に、私はイノーザ様に降る! 邪魔はさせないよ!!」

 魔法を使える職といっても、魔法使いだけではない。魔法使いから転職出来る、上級職もある。そして、一般的には魔法使いの上級職は大魔導師だが、それだけではない。魔法使いから派生する上級職が、四つある。

 一つ目は先程挙げた、大魔導師。

 二つ目は僧侶の魔法と魔法使いの魔法を併せ持つ、賢者。こちらはどちらかというと大魔導師から派生する上級職だが、一応魔法使いの派生職として挙げておく。

 三つ目は戦士からも転職出来る、魔法剣士。ゼドが就いているアレだ。ゼドの場合は家が魔法剣士の家系であった為、最初から専用の修行を積んで魔法剣士になっているが。

 そして問題の四つ目、召喚術師。魔法だけでなく、モンスターや精霊など、人外の存在を使役して操る事が出来る上級職だ。この老婆は召喚術師としての力で、邪精霊を使役するつもりらしい。これでなぜ邪精霊を復活させようとしているのか、その目的がはっきりした。

「さぁお行き!! あの小娘を捕らえておいで!!」

 召喚術師は、呼び出したモンスター達を操る。

 右の魔法陣から現れたのは、人間の大人と同じくらいの大きさを持つ、紫色の蜘蛛、アトラ。左の魔法陣から現れたのは、黒いスライム状のモンスター、ショゴス。どちらも相手を捕らえる事に特化しているモンスターだ。アトラが口から、エニマに向けて糸の塊を吐き出す。それは空中で弾け、蜘蛛の巣となってエニマの身体に降り注ぐ――

「バニス!!」

 ――前に焼き払われた。

「わしをただの餓鬼だと思っておると、痛い目を見るぞ?」

 エニマはただの子供ではない。魔力を持つ槍が、人の姿へと変わったものなのだ。

「テケリッ!!」

 次にショゴスが動き出す。その見た目からは想像も出来ないようなスピードで左右に動き、フェイントをかけてからエニマに飛び掛かった。包み込むように、大きく広がる。

「フリズン!!」

 エニマは片手を向けて、ショゴスに冷気を放った。強烈な冷気で相手を凍らせる、氷属性の中級魔法だ。冷気に触れたショゴスの身体は凍っていき、エニマは跳躍しながら拳でショゴスを砕いて脱出した。

「シュッ! シュッ!」

 それを見たアトラが、口から二回連続で糸弾を飛ばす。しかしエニマは一回バニスを唱えると、火球を二つ出現させ、広がる前に焼き尽くした。

 糸が通じないとわかったのか、飛び掛かるアトラ。しかし、エニマは大蜘蛛の腹に蹴りを喰らわせ、着地した。それでもアトラは、繰り返し立ち向かっていく。

「うりゃあっ!!」

 跳躍しながら、アトラをアッパーカットで殴り飛ばすエニマ。

「バニスド!!」

 そのまま中級火属性魔法を唱えて、アトラを焼き殺した。着地するエニマ。

 しかし、足元からべちゃっと不快な音がした。

「うぬっ!?」

 見てみると、エニマの足元を黒い粘液が覆っており、エニマはその上に着地してしまったのだ。

「何じゃこれ!? 離せっ! このっ!」

 エニマは足踏みしたり、足を擦ったり、足を引っ張ったりしてみるが、粘液はしっかりとエニマのローファーに食らいついて離さない。先程砕いたショゴスの破片が解凍され、エニマを捕らえようと罠を張っていたのだ。

「なかなか頑張ったじゃないか。でも、終わりだよ!」

 召喚術師が言った直後、ショゴスの全身の解凍が終わり、エニマの全身に絡み付いた。

「んあああっ!! 離せぇぇっ!!」

 エニマは暴れるが、凄まじい怪力を誇る彼女でも、絡み付いてくるネバネバのスライムからは逃げられない。腕にくっつき、足に粘つき、胸とお尻にも絡みついていて、振りほどけなかった。

「はぁ……一時はどうなる事かと思ったが、捕獲成功だな」

「はい。では、このまま封印解除の儀式を、始めるとしましょうか」

 子供達に片手をかざす召喚術師。子供達から命を吸い取り、それをぶつけて封印を破るつもりだ。

「……少し遅かったようじゃな」

 ショゴスに捕まりながら、エニマがニヤリと笑った。すると、エニマの姿が消える。

「ビルツジライガ!!!」

「デゲッ!! リリィィィ!!!」

 直後、巨大な光線が飛んできて、ショゴスを消滅させた。

「何!?」

「スパレイズ!!」

「っ!? マジックガード!!」

 驚く召喚術師。そこへ雷が飛んできて、召喚術師は慌ててマジックガードを唱えるが、防ぎきれずに吹き飛ばされた。

「ん?」

「えっ、なに?」

「ここ、どこ?」

 召喚術師がダメージを受けた事で、子供達に掛けられた魔法が解除される。ゾニアが見てみると、今魔法が飛んできた方向に、杏利とキリエ、そしてエニマがいた。

 エニマは戦っている間、現在地と状況を、逐一テレパシーで杏利に伝えていたのである。今までの戦いは、杏利とキリエが到着するまでの時間稼ぎだ。

「みんな、こっちへ!!」

 キリエが呼び掛け、洗脳が解けた子供達を村へ逃がす。赤子や動けない子供は、年長の子供が抱えて逃げていった。

「く……貴様ら……!!」

 ダメージを受けながらも、起き上がる召喚術師。

「行くわよエニマ」

「うむ!」

 エニマは槍へと姿を変え、杏利はエニマを持って構えた。

「じゃあ、第二ラウンドを始めましょうか」


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