第三十七話 驚異の独裁国家
前回までのあらすじ
ノアの国王、アレクトラが国民と共に復活し、再び世界征服に乗り出した。杏利とエニマ、そしてゼドは、この恐るべき恐怖の王国と対決を始めた。
「ん!? みんなどうしたんだ!?」
突然慌てて戻ってきた冒険者達に驚くビスケ。約束の時間までには、まだ少しだけ早い。
「この国の人間が生きてたんだ!! よくわからないけど、この世界を支配するって!!」
「槍使いの女の子が、ここにいたら危ないからって俺達を逃がしてくれたんだ!!」
事情を聞いて二人はさらに驚く。
「勇者様の事か!?」
「勇者様はどこに!?」
「俺達を逃がす為に、魔法剣士と残って……自分が何とかするから今すぐ逃げて欲しいって!!」
「……わかった」
「ビスケ!?」
「ゴロー。勇者様を信じよう!」
「……仕方ない。出航だ!!」
自分達では役に立てない事はわかっている。だから、ここは戦える者達の足手纏いにならないよう、戦線から離脱する事にした。
「撃てーっ!!」
杏利が駆け抜ける先、マシンガンを持った何人もの兵士が、杏利に向かって乱射してくる。
このマシンガンは、魔導機関銃という魔科学兵器だ。通常のマシンガンと違って、マガジンに魔力を込めて使用する。込められた魔力は引き金を引くと同時に、瞬時に圧縮、硬質化して弾丸となり、発射される。その威力は通常の実弾銃を上回り、魔力を持つ者が使えば弾切れを心配する事なく使える。
「杏利!! あれは実弾ではなく魔力を使っておる!!」
「マジックガード!!」
エニマから弾の特性を聞かされた杏利は、瞬時にマジックガードを使う。アタックガードでは防げないが、マジックガードなら防げるのだ。
弾を防ぎつつ駆け抜けながら、杏利は兵士の中に子供がいるのを見つけた。ノアでは子供を、少年兵として徴兵し使っているらしい。だが少年の目からは、迷いが一切感じられなかった。ノアの兵士として戦う事に、誇りを持っている。ノアの敵を殺す事が栄誉だと、本気で思っている。そういう目だ。
「……バニスド!!」
杏利は顔をしかめながらも火球を放ち、爆裂させ、兵士達を吹き飛ばした。
開けた道を走る杏利。ちらりと横目で見ると、他の兵士に混じって子供の兵士が黒焦げになって死んでいるのが見えた。こんな事、本当ならしたくなかった。だが、こうしなければ杏利が殺されていたのだ。イノーザを倒し、元の世界に帰る為、断じて死ぬわけにはいかない。
『命を懸ける覚悟はあるのか?』
ここに来る前にヴィガルダから問われた言葉が、杏利の脳裏を過る。
「……大きなお世話よ」
(杏利?)
「何でもない。アレクトラのやつ、絶対に許さない!!」
杏利はヴィガルダの言葉を踏み潰し、国民の思想を狂わせたアレクトラを、必ず倒す事を誓った。
「いたぞーっ!!」
「撃て撃てーっ!!」
また兵士達が現れた。
「バニスド!!」
再びバニスドを放つ杏利。しかし、その瞬間にクリアブルーの壁のようなものが展開され、バニスドを防いだ。
「結界発生装置!?」
あの壁は見た事がある。以前要塞都市ヒルビアーノでの戦いで見た、結界発生装置で作った壁だ。よくよく考えれば、ノアは魔科学の全盛期から存在している国である。あの装置を持っていたとしても、何もおかしくはない。
「……バニスド!!」
もう一度バニスドを使う杏利。今度の火球は結界に阻まれる事なく、貫通して装置ごと兵士達を吹き飛ばした。
今杏利は、ヒルビアーノでの戦いで手に入れた、バリア貫通能力を使ったのだ。実はあの能力、魔法攻撃にも付加出来る。火属性魔法のような広範囲に影響を与える魔法と組み合わせて使えば、大破壊をもたらす防げない魔法という、凶悪な攻撃方法が出来上がる。
いくら殺さなければならない連中だとわかっていても、杏利は完全に割り切る事が出来なかった。だから、直接手を下さず、魔法でせめて苦痛を感じないよう、一瞬で終わらせるという戦い方を選んだのだ。
「……ごめん」
杏利は呟くと、アレクトラを捜して城の中を走った。
「ぶち殺せ!!」
魔導機関銃を乱射しながら叫ぶ兵士。その首が、一瞬で地面に落ちた。
「うおおおおおおおおおおお!!!」
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
仲間を殺した男、ゼドに向けて、魔導機関銃による射撃を行う兵士達。ゼドは飛んでくる鉄よりも硬い魔力弾をかわし、避けきれない最小限の攻撃を刀で弾き、兵士に接近して斬る。
「弱い」
そう呟いたゼドへと、さらなる魔力弾の嵐が迫る。しかし物量を増やしたくらいでは、ゼドにとって脅威にならない。今度は火と雷のエーテルブレードを大量に作成し、それをぶつけて弾幕の意趣返しをする。
「弱い」
桁外れの攻撃力を持つゼドを止める為、結界発生装置を展開した小隊が向かってきた。
「弱い!!」
対するゼドは滅万象を使い、兵士達を結界もろとも消滅させる。
「こんなものかお前達の魔科学兵器は!! この程度では現代の魔科学兵器と何も変わらんぞ!!」
次に発されたのは、失望と落胆の言葉。ノアの魔科学兵器の精度は、どれも現代の物を遥かに上回っている。造魔兵程度なら、何の問題もなく始末出来る威力だ。
しかし、戦っている相手はゼドである。精度や威力を上げ、手数を増やした程度では、この男を倒す事など出来ない。
「!」
と、先程まで射出していたエーテルブレードが、消えた。新たに作成する事が出来ない。それだけでなく、魔力を使った身体能力強化も出来ない。魔力の使用事態が、出来なくなっていた。
「お前の魔力は封じた!! 大人しく投降しろ!!」
ゼドが魔法を使えなくなった事がわかり、兵士達は銃を向けて包囲を狭めながら、ゆっくり近付いてくる。
周囲を確認し、ゼドはいつの間にか奇妙な装置が用意されている事に気付いた。奇妙な文字がたくさん刻まれた、石板のような何かが台座にセットされており、文字が光っている。恐らく、あれが魔力の使用を阻害している装置なのだろう。
「魔導機関銃は、魔力封印装置の影響を受けない!」
「こっちから一方的に攻撃出来るんだ! 諦めて剣を捨てろ!!」
ゼドに降伏するように言う兵士達。ゼドは刀を鞘に納める。
だが次の瞬間、ゼドの手が目にも止まらぬ速度で振るわれた。
気が付いた時、魔力封印装置が立てていた駆動音が、やんでいた。見てみると、装置に何かが刺さっている。
針だ。人間の指の長さより少し長い針が一本刺さっていて、魔力封印装置が壊れていた。
「な、何だこの針は!?」
「影鉄針。少しは面白い兵器が出てきたが、俺の前で使うべきではなかったな」
影鉄針。魔法が使えなくなった時の為に、ゼドがコートの中に隠している武器だ。魔力封印装置は確かに厄介な装置だが、ゼドの前に持ってきた時点で勝負は着いていた。魔力を取り戻したゼドは、兵士達を蹴散らした。
しかし、また魔力が封印される。
「学習能力のない……!!」
すぐさま新たな魔力封印装置を発見したゼドは、装置目掛けて月の影鉄針を投げつける。しかし、影鉄針は結界に弾き返された。
「結界発生装置か」
ゼドはかつてヒルビアーノに立ち寄った事がある為、結界発生装置を見た事がある。兵士達は魔力封印装置と、結界発生装置を併用して使ってきた。
「なるほど。だが……」
ゼドが隠し持っている影鉄針は、一本だけではない。
まず一本、魔力封印装置に向けて投げる。当然結界に防がれるが、影鉄針が結界に弾かれる前に、二本目の影鉄針を投げる。二本目は一本目の後ろに、重なるようにして突き立つ。
三本目、四本目と次々に影鉄針を、重なるように投げつけるゼド。彼の力は魔力なしでも相当強く、突き立てられた一本がどんどん結界に刺さっていき、七本目で後押しされた瞬間に貫通。魔力封印装置に刺さって、破壊した。
「ば、馬鹿な!!」
「こんなものだ」
ゼドは驚く兵士達ごと、全てを滅万象で消し飛ばした。
サグベニア号。
「なぁゴロー」
「何だいビスケ」
ビスケはゴローに尋ねた。杏利達が予想以上に暴れ回っていて対応に追われているのか、復活して間もないせいで国の機能が回復しきっていないのかは定かではないが、特に攻撃される事なく無事に逃げ延びる事が出来た。
「このままあの国から逃げて、本当にいいのかな?」
だが、あの国にはまだ、自分達を逃がす為に戦ってくれている者達が残っている。あの二人はどうなってしまうのか、ビスケはとても気になっていた。
本当に勝てるのか気になる。勝ったとしてあの二人が、無事に地上に帰れるのか気になる。いても立ってもいられなくなったゴローは、一つの決断を下した。
「……いいわけないだろビスケ!!」
そう言ってゴローは、サグベニア号を方向転換させる。
「そうだよな!! 俺、みんなに伝えてくるよ!!」
「ああ、頼む!!」
ビスケは放送で冒険者達を集め、話をしに広間に向かった。
「せっかく逃げられたのに、ごめん。でもやっぱり、あの二人を見捨てるわけにはいかない」
冒険者達に、戻って杏利達を助ける旨を話すビスケ。冒険者達は、沈黙して静かに聞いている。
「全部俺達のわがままのせいだ。ここまで付き合ってくれて、本当にありがとう。でも、もう少しだけ! もう少しだけ付き合ってくれ! この通りだ!」
戻れば命の安全は保証出来ない。しかし、自分達の力だけでは杏利達を助けられない。だからビスケは土下座し、誠心誠意謝罪しながら、協力を依頼する。
「……そうこなくちゃ」
冒険者の一人が、ビスケの考えに賛同した。
「ずっと引っ掛かってたんだ。このまま逃げ帰って、本当にいいのかって」
「助けに行きましょう。あの二人を!」
「俺達は冒険者だ! 命の危険なんて日常茶飯事だぜ!」
「あたし達現代に生きる冒険者の力、古代人どもに見せつけてやろうよ!」
冒険者達は次々に賛成し、やがて全員がノアと戦う意思を示した。
「みんな、ありがとう!!」
もう一度頭を下げ、ビスケは心から礼を言う。
(ノアは目覚めさせてはいけない国だった。永遠に封印されたままにしておくべき場所だった!)
ゴローはサグベニア号のエンジンを全開にし、ノアへと引き返す。
(それなのに、俺達がたどり着いたせいで目覚めさせてしまったんだ!)
自分達の行いの軽率さを恥じ、しかしノアへと急ぐ。
(俺達がしてしまった事は、俺達の手で始末をつける!!)
「死ねぇっ!!」
爆炎を突き破って、鎧に身を包んだ兵士が、高速振動剣を杏利に振り下ろす。魔力を通す事で防御力を高めた魔導ヘビーアーマーと、魔力で刀身を振動させる魔導振動剣だ。
「スキルアップ!!」
「邪魔よ!!」
エニマがスキルアップを唱えて杏利の攻撃力を上げ、杏利はエニマを横に振って魔導振動剣を破壊し、ギルライツで兵士を魔導ヘビーアーマーごと消し飛ばす。敵の攻撃が激しくなり、エニマもただの槍のふりをしているのが難しくなった為、普通に協力している。
「吹っ飛べ!!」
巨大な砲台から、魔力弾が飛んでくる。爆裂する巨大な魔力弾を放つ、魔導榴弾砲だ。
「「マジックガード!!」」
杏利とエニマは同時にマジックガードを唱え、マジックマントを盾に、これを真正面から防ぐ。
「バニドライグ!!!」
次にバニドライグを唱え、炎を砲身に放り込んで大爆発を起こす。
「砲台がやられたぞ!!」
「構うな!! どんどん撃て!!」
「突っ込めーっ!!」
「我らが王の敵を、生かして帰すな!!」
ここまでの事をやっても、兵士達が戦いをやめて降伏したり、逃げたりする様子は見えない。
兵士の中には女性や子供、老人や老婆の姿さえある。アレクトラは本当に、国民全員を兵士化して己の所有物にしてしまっているのだ。そんな彼が、多少味方がやられたからといって戦いをやめる事はない。負ければ死罪。逃げても死罪。降伏しても死罪。裏切っても一族郎党皆殺しにされる。完全な軍国主義。独裁恐怖政治。それに牛耳られてしまっているのだ。
「ったくもう、鬱になりそうよ!!」
魔法を連発していた杏利だが、少々使いすぎた。これ以上は、アレクトラ戦の為にも、魔力を温存しておかねばならない。仕方ない。これまで散々忌避してきた接近戦だが、やらねばならない。ここでノアを壊滅させなければ、世界中が大変な事になる。
「……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
覚悟を決めた杏利は、咆哮を上げながら突撃し、兵士達を一気に蹴散らした。あまりに速く、あまりに強い攻撃に、兵士達は何が起こったのかもわからないまま死んでいく。
そんな風景に苦い顔をしながらも、杏利は叫んだ。
「アレクトラァァァァァァァッ!!! どこに逃げやがったてめぇぇぇぇぇぇ!!! ぶちのめしてやるから出てこぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!!!!」
普通、ぶちのめすと言われたら出てこないと思うが、杏利はそんな判断も出来ないほどに激怒していた。
すると、
「えー、敵兵の二名様ー。私をお捜しのようですのでー、至急地下においで下さいー。私は地下にいるよー」
突然どこからともなく、アレクトラの馬鹿にしたような声が聞こえてきた。
「地下ね……」
「よせ杏利!! これは罠じゃ!!」
「他にめぼしい場所が思い付かない以上は、行くしかないわ」
エニマは杏利に行かないよう止めるが、杏利の言う通りアレクトラがどこにいるのかわからない。ならば罠だとわかっていても、行くしかない。
「大丈夫よ。あたしとあんたの二人なら、あいつがどんな罠を仕掛けてようとぶっ飛ばせる」
「……そうじゃな。これまでだってずっとやってきた事じゃ!」
「その意気よ。行きましょ!」
「うむ!」
杏利とエニマはアレクトラを倒す為、この城の地下へと向かった。
「地下か……」
同じく放送を聞いていたゼドもまた、地下に向かうのだった。




