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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第三章 猛襲、ロイヤルサーバンツ!
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第三十六話 空中国家の復活

前回までのあらすじ


突如として現れたロイヤルサーバンツの一人、ヴィガルダと交戦する杏利。ヴィガルダは杏利に、守るべきものがあるか、命を懸ける覚悟があるかと問いかけ、姿を消す。その直後、謎の兵士達が杏利達を包囲した。

「アレクトラ?」

「アレクトラって、まさか!?」

 突然現れた謎の兵士達に、困惑する冒険者達。

「ねぇ、アレクトラって誰?」

 兵士のリーダーが口にしていた、アレクトラという名前。どうやら他の冒険者達は知っているらしいが、杏利は知らない。すると、ゼドが答えた。

「千年前ノアを治めていたという国王だ」

「ノアの国王!? でもこの国は……!!」

 明らかにノアは滅んでいる国だ。しかし今現れた兵士達は、滅んでいるはずの国の王の命令に従っているという。

「騒ぐな!! 抵抗すれば即射殺する!!」

 威嚇するリーダー。

「……ここは大人しく従った方が良さそうね……」

 杏利一人ならどうとでもなる相手だ。ゼドも心配ないだろう。だが、問題はそれ以外の冒険者達だ。勝手な真似をして、彼らを危険にさらすわけにはいかない。

(エニマ。あんたが意思を持ってる武器だって事は内緒にしておきたいから、ただの槍のふりしてて)

(わかった)

 この正体不明の連中にこちらの手を知られるとまずい。エニマの力を隠しておくだけでも、相当なアドバンテージとなる。だから杏利は頭の中で語りかけ、エニマにただの槍のふりをしておくよう頼んだ。

「いいわ。連れていって」

 杏利が皆を代表して、リーダーに言う。

「ただし、あたし達の武器を取り上げる事は許さないわ。こっちはあんた達の事、信用してないんだから」

「貴様……自分の立場がわかっていないようだな」

 杏利の顔に銃を近付けるリーダー。

「は? よろしいのですか?」

 と、リーダーが突然独り言を呟いた。いや、誰かと話をしているようだ。

「……了解しました。陛下からお許しが出た。陛下のお慈悲に感謝するんだな」

 どうやら、アレクトラと話をしていたらしい。恐らくアレクトラもエニマと同じで、テレパシーが使えるのだろう。それによると、武器を没収する事はしないらしい。

「さぁ、早く来い!」

 とはいえ、状況が危険な事に変わりはなく、杏利達は大人しく引っ立てられていった。



 兵士達に連れられて歩く城の廊下は、やはりというか当然というか劣化が激しく、所々床が壊れたり、天井に蜘蛛の巣が張っていたりしている。まぁ、千年も空をさまよっていてこの程度の老朽化で済むのなら、奇跡と言うよりほかないが。

「それにしても、あんたが大人しくしてるなんてね」

 杏利はゼドに言った。こういう事は嫌いそうなものを、ゼドは暴れるどころか敵意の欠片も見せない。まぁ、その方が助かるのだが。

「暴れる理由がない。俺は元々、こいつらに会う為に来た」

「……まるでこの人達の事を知っていたみたいな口振りね」

「千年前には、魔科学の力で老化を止め、不老不死になる技術や、肉体を仮死状態にする事で永遠に保存する技術があったと聞いている。なら、誰か生きていても不思議はない。俺は魔科学の全盛期時代の相手と戦いたかった」

 ノアに誰かいるかどうかは賭けだったが、ゼドはその賭けに勝った。これで最も強力な魔科学と戦えるという事で、大人しくついてきていたのだ。

「お前達。無駄話をするな」

「はいはい」

 兵士の一人から怒られて、杏利は気のない返事をし、ゼドは黙った。

 かなりガタが来ている扉の先、玉座の間に通された一行。玉座に座っている人物を見て、杏利は驚いた。

「あれがノアの国王!?」

 なんと、そこにいたのは杏利やゼドとさほど変わらない外見をしている、青年だった。国王というからには、もっと年老いた男を想像していたのだが、全く違う。

「驚いてもらえて何よりだ。私はアレクトラ。お前達に一つ、聞きたい事があって来てもらった」

 挨拶は抜きに、アレクトラと名乗った青年は、杏利達に尋ねる。

「あの兵器は……竜帝ルカイザーはどうなった?」

「……ゼド!」

「なぜ俺に?」

「あんたがいろいろと知ってるからよ!」

 杏利に説明を求められて、ゼドは仕方なく話す事にした。

 竜帝ルカイザーとは、千年前、魔科学世界大戦の末期に造られ、数々の国を滅ぼして大戦を終わらせたという、最強の魔科学兵器だ。三つの首を持つ、巨大なドラゴンの姿をした生物兵器だったらしい。

「だがルカイザーについては、俺もあまり知らない。俺が知っているのは大戦を終わらせる為に造られたという事と、どこかに封印されたという事だけだ」

 大戦終結後、ルカイザーはその強大な力を悪用されないよう、封印された。どこに封印されたのかは誰も知らず、封印の解き方も、記録すら残されていない。事実上消滅したと見ていいだろう。

「そうかそうか。ルカイザーは封印されたか。くくく……」

 すると、アレクトラは嬉しそうに笑った。

「もしかして、教えちゃまずかった?」

「らしいな。アレクトラは野心家として知られている」

「それ絶対教えちゃまずかったでしょ!!」

「教えろと言ったのはお前だ」

 誰もが魔科学兵器の威力を競っていた中で、アレクトラだけは自国の魔科学で世界を征服するつもりでいたという。

「ふはははははは!! ルカイザーさえいなければ、誰も私を阻めない!! これでようやく、世界征服計画を再開出来る!! 感謝するぞ未来人達よ!!」

 アレクトラは元々ルカイザーの力を恐れて空に逃げたのだ。たった一体の魔科学兵器の為に断念した、世界征服。敗走。屈辱の撤退。

 ルカイザーの度肝を抜く性能を前にして、アレクトラはルカイザーが消えるまで待つ事にした。

「千年か……実に長かった。千年もの長い時間を、コールドスリープで棒に振ったのだ! あの忌々しい竜帝のせいで!!」

 笑った後怒り出すアレクトラ。ルカイザーがいなくなってくれたのは、もちろん嬉しい。だが、それまで千年も待ったのだ。千年もあれば、余裕で世界を支配出来たはずなのに。

「だが、もう待つ必要はない。私はもう充分に待った! 今よりこの世界は私のものだ!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 今下の世界は、イノーザっていう魔王が支配しようとしてるの! ここであんたまで動き出したら、この世界が一体どうなるか!」

 イノーザの存在を伝えて、侵略戦争をやめるよう言う杏利。もし今アレクトラまで戦いに参加すれば、想像を絶する被害がリベラルタルに出る。それだけは、絶対に避けなければならない。

「魔王? 知った事か。ならば私が魔王を滅ぼし、誰が真の支配者として相応しいか教えてやろう!」

 完全に聞く耳を持っていない。アレクトラは全てに対して戦いを挑み、世界を征服するつもりだ。千年前なぜ戦争が起こったのか、よくわかった。こんな身勝手な人間がいれば、起きても仕方ない。事実、千年前には大勢いたのだろう。アレクトラのような、頭のおかしい王が。

「……仕方ないわね。あんたにそんな事をさせるわけにはいかないわ」

「ほう? 自分が置かれている状況がわからんか?」

 こうなったら戦うしかない。しかしアレクトラの言う通り、杏利達は依然として危険な状態だ。周囲の兵士達は先程と変わらず、銃を向けている。

(何か……みんなを逃がす方法は……!!)

 はっきり言って、ゼド以外の冒険者は足手纏いである。だから、彼らには逃げてもらった方がいい。

 見たところ、ビスケとゴローの姿がない。恐らく、まだ捕まっていないのだろう。なら、サグベニア号にいるはずだ。何とか冒険者達をそこまで逃がす事が出来れば、あとは杏利がやる。

「これを見なさい!!」

 杏利はエニマを高く掲げ、幻惑の宝光を使う。アレクトラ達を洗脳する。それが、現時点で一番確実にここを切り抜ける方法だ。

 しかし、

「……何だそれは?」

 アレクトラには効いていない。いや、アレクトラだけでなく、兵士達にも効いていなかった。

「どうして!? 何で幻惑の宝光が効かないの!?」

「幻惑? もしや我々に催眠術でも掛けようとしていたのかな? だとしたら生憎だったな。我々の意思は確固たるもの。故に催眠など効かんよ!!」

「何ですって!?」

 幻惑の宝光は、強靭な精神力の持ち主には効かない。それだけアレクトラの、世界を支配したいという気持ちが強いのだ。

(アレクトラに効かないのは百歩譲ってわかるけど、兵士にも効かないってどういう事よ!?)

 アレクトラに効かないだけならわかる。しかし、兵士にすら効いていないというのは異常だ。兵士もアレクトラ並みに世界を支配したい思っている、という事になる。

「我々の意思を操ろうとしても無駄な事」

「我々の肉体と精神はノアと、陛下と一体である!」

 口々に言う兵士達。杏利はなぜ効かないか理解した。全員が妄信的に、狂信的に、アレクトラを崇拝しているからだ。その魂の奥底までに、ノアという国の精神を刻みつけられている。洗脳……いや、刷り込みだ。生まれた時から既に、ノアの為だけに生き、ノアの為だけに死ぬよう教育されているのである。

「さて、お前達はノア復活後最初の労働力にしてやろうと思っていたが、ここまで反抗的では仕方ないな」

 まずい。アレクトラが兵士達に、攻撃を命令してくる。

(エニマ!!)

(うむ!!)

 だが杏利は、その前にどうしたらいいかを直感し、エニマに命じる。

「みんな!! 伏せて!!」

 それからゼド達に向かって叫び、エニマを逆に持って振り上げた。

 鎖付きの石突が、振り上げられた勢いのまま伸びていく。

「はぁぁっ!!」

 続いて加護を発動し、鎖を振り回す。強い腕力で振り回された鎖は、伏せていたゼド達以外の兵士達を全て弾き飛ばし、壁に叩きつけて気絶させた。

「ほう! お前の槍にはそんな事も出来たのか! これは武器を取り上げさせなかったのは失敗だったかもしれんなぁ~」

 アレクトラのみ倒せていない。なぜなら彼がいる玉座は階段の上にあり、鎖で薙ぎ払ったのはその下だからだ。自分の横に兵士を配置していなかったのが少し気になるが、とにかく邪魔な連中は排除した。

「みんな、すぐサグベニア号まで逃げて! ビスケさんとゴローさんは、たぶんまだ捕まってない! あたしが時間を稼ぐから、サグベニア号に乗ってすぐこの国から離れるのよ!」

「君はどうするんだ!?」

「この国を潰す!!」

「残るっていうのか!?」

 冒険者の一人が尋ね、杏利はノアと戦う事を宣言した。こんな恐怖の王国を、このままにはしておけない。相手の力はまだ未知数だが、自分なら互角以上に渡り合えるはずだと、杏利は自負している。

「心配いらないわ。あたしはあたしで、何とかするから」

「……わかった」

「絶対に死なないでくれ!」

「生きて必ず、また会いましょう!」

 遺憾だが、自分達では杏利の力になれそうにない。そう思った冒険者達は、仕方なくこの場を杏利に任せ、サグベニア号に逃げていった。一応彼らも高い実力を持っているので、包囲さえ解けば自分達で何とかするだろうと、杏利は思った。

「……あんたも行っていいのよ?」

「俺がこの国に来た目的は教えたはずだ」

 だがただ一人、ゼドだけはこの場に残った。杏利を助ける為ではない。彼は彼個人で、この国と戦う為だ。

「はぁ……好きにすれば」

「そうさせてもらう」

 そう言った瞬間、ゼドは倒れている兵士達全員の真上に雷のエーテルブレードを作り出し、そのまま飛ばして突き刺した。

「ちょっとゼド!?」

「とどめを刺させてもらった。目を覚まして追ってこられても面倒だからな」

 ゼドは何の躊躇いもなく、まだ生きている兵士達を殺した。あまりに突然で、あまりに素早い行動だった為、杏利は止める事も出来なかった。

「ふむ……ここは、逃げるが勝ちかな?」

 アレクトラは笑いながら呟くと、玉座に付いていたスイッチを押す。すると、アレクトラの姿が消えた。瞬間移動装置。ノアで開発された魔科学技術の一つだ。

「待ちなさい!!」

 どこに逃げたのかはわからないが、とにかくアレクトラを追いかけようと、部屋の出口に向かって駆け出す杏利。

「奴を追う前に訊いておこう。お前、なぜ穂先ではなく石突を使った? なぜさっきの攻撃で兵士どもを殺さなかった?」

 しかしゼドの質問に、杏利は足を止めた。

「殺さなくとも無力化すればそれで済むと思ったのか? 生きて罪を償わせ、改心させようとでも思ったのか?」

 次々に質問していくゼド。杏利は答えない。今ゼドが言った事を、そのまま実現しようと考えていたからだ。

「無駄だ。お前もわかっただろう? この国の連中は全員、身も心も魂も、完全にアレクトラの所有物と化している。恐らく、非戦闘員の国民もな。そういう国だったと記録に残されている」

 強力な魔科学兵器と戦う為に、ゼドは魔科学を使っていた国について調べ上げた。結果、それらがどういった国であったかも理解した。

「この国はもう滅ぼすしかない。救えないんだ。だから向かってくる連中は、きっちり殺しておけ。俺に後始末をさせるな。迷惑だ」

「……」

 薄々感じてはいた。この国の人間は、もう救えないのだと。同じような国が、杏利の世界にもあった。こうなってはもう、本当に仕方ないのだ。狂っている国王が治める国に生まれた事が不幸なのだと、諦めるしかない。

「俺の邪魔をすれば、この国もろともお前を斬る。よく覚えておけ」

 自分の邪魔をしないよう杏利に言い聞かせ、ゼドは刀で壁を破壊して外に出た。

「……くっ!」

 まさかモンスターや造魔兵以外を、人間を殺す事になるとは思っていなかった。そう思いながらもアレクトラを止める為、杏利は駆け出した。

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