第三十三話 空中戦
前回までのあらすじ
サクヤ達と別れた杏利とエニマは、空中国家ノアを探しているという双子の冒険者と出会う。杏利は二人の為、ノア捜索に協力する事にした。
「おお~……」
飛空船サグベニア号が地上から離れて、もう三十分以上経つ。だがエニマは、窓から全く離れずに外を見ていた。
「よく飽きないわねぇ。同じ景色ばっかりでつまんないでしょうに」
杏利はベッドの上で、窓の外を見ているエニマを見る。
「飽きたりせんぞ! 何せ七百年ぶりに空を飛んでいると実感したんじゃからな!」
とても楽しそうに話すエニマ。よく考えてみれば、彼女は七百年間あの地下にいたのだ。杏利が連れ出すまでは、一歩も外に出なかった。和美と話し合って決めたからというのもあるし、槍の姿のままでは動けなかったからというのもある。
とにかく、外に出ていないのだ。外界の情報を得る手段は、時々やってくる王族や兵士と話をする事。それから、次元干渉能力で世界を覗き見る事。しかし話を聞くのと体感するのは違うし、今自分がいる世界は見られない。どのみち出来るのは見るだけで、体感は出来ない。
だから、こうやってあらゆる出来事を体感出来るという行為は、どんなに小さな事でもエニマにとって楽しいのだ。
「しかし、肝心の空中国家にはまだ着かんのかのう……」
とはいえ、エニマも早くノアに行きたいらしい。杏利は時計を見た。
「まだ三十分ぐらいしか経ってないじゃない。どこにあるのかもわかってない場所だし、まだまだかかると思うわよ?」
ノアは常に動き回っている国だ。いくら超広範囲を探知出来るレーダーを持っていても、発見には時間がかかるだろう。
「もっとわしの次元干渉能力が安定していたら、すぐに見つけてやれたんじゃがなぁ……」
先程も説明した通り、エニマの次元干渉能力はとても不安定だ。しかし、これは仕方ない。この世界の技術をもってしても、次元に干渉するというのはとても難しい事だ。加えてこの能力も、エニマの意思も、より強力な使い手を見つける為だけに与えられたものである。勇者のみを知覚し、召喚する。正確には、勇者のいる世界を知覚するので、勇者のいない世界は知覚出来ないし、勇者以外の人間は呼び出せない。リベラルタルの住人以上の力を持つ使い手を、異世界に求めてしまったから、こうなったのだ。
なら異世界に行ってからリベラルタルの状況を見ればいいと思うかもしれないが、異世界転移の為には専用の道具を使って作った専用の魔法陣が要る。これは今いる世界に必要な為、行ったら戻ってこれない。
「不便な槍ですまん……」
「そんな事一言も言ってないでしょうが。簡単にいく旅じゃないって、わかってるし。それに今となっては、もっとあんたと一緒にいたいしね」
「あ、杏利……!!」
自分を必要としてくれていると感じ、エニマは喜んだ。
しかし、その喜びも束の間、突如として船内にアナウンスが入った。
「みんな敵襲だ!! 俺達は操縦しなきゃいけないから、甲板に出て敵を迎え撃ってくれ!!」
ビスケの声だ。どうも空中国家より先に、魔王軍を見つけたらしい。しかも、向こうからも見つかってしまったようだ。
「もうあたし達の出番? 早いわね……」
「杏利!」
「わかってるわ。行きましょ!」
「うむ!」
せっかくの飛空船を堪能する暇もなく、いきなり魔王軍との戦闘だ。杏利は槍化したエニマを手に、部屋を飛び出した。
以前にも説明したが、飛空船は飛行機と船が合体したような乗り物だ。だから甲板に出られるし、出た人間が風で吹き飛ばされたりしないようにもしてある。
杏利が外に出た時には、ゼドを含めた冒険者達が全員出ていた。しかし大きな飛空船だ。二十以上の人数が出ているというのに、全く問題なく行動出来る。
「……あれね」
杏利は敵の姿を確認した。背中から蝙蝠の羽や鳥の羽を生やした造魔兵や、ジェットパックを装備した造魔兵が向かってきている。それらの造魔兵の後ろには、巨大な空飛ぶ戦艦のような物体も何機か見えた。空戦型造魔兵と、魔王軍の飛行戦艦。思っていたよりガチな部隊である。
「寄ってくるやつらを片っ端からぶっ飛ばしてくれ!! 大砲を使ってくれても構わない!!」
再び、ビスケからのアナウンスが入る。この船には使用人も大勢乗っているが、それでも魔王軍と戦うには足りない。だからこそ、杏利達が集められたのだ。
空戦型造魔兵が大挙して押し寄せ、空中戦艦からは大砲の砲弾が飛んでくる。いや、砲弾だけではない。奇妙な物体が、複雑な軌道を描いて飛んでくる。あれはミサイルだ。魔王軍は、ミサイルまで持っているのである。
「よーし!」
「やってやるぜ!」
「私の魔法の出番ね!」
戦いが始まった。ミサイルという未知の武器を目の当たりにしても、冒険者達は怯まない。弓を持つ者が矢を放ち、魔法使いが魔法を放つ。
冒険者の中には銃を持つ者もおり、それで迎撃している。銃種はライフルで、杏利が見た事のない形状をしていた。恐らく、この世界で独自に造られたものだろう。一発で造魔兵を撃破しているあたり、威力は悪くない。
他の遠距離攻撃手段を持たない冒険者達は、使用人達を手伝い、大砲で敵を撃ち落としている。 ゼドは赤く輝く火属性のエーテルブレードを無数に精製し、それを次々と高速で射出して造魔兵を刺し貫いていた。刺さったエーテルブレードは爆発を引き起こし、近くにいた造魔兵も一緒に焼却している。
魔法使いがバリアを張って防ぎ、他の者も激しく戦っている為、造魔兵も砲弾もミサイルも、空中で落としている。撃ち漏らしもあるが、バリアのおかげで船体に被害はない。乗り込んだ造魔兵も、次々と冒険者達が撃破している。
「それじゃああたしも、一発でかい花火を打ち上げましょうかァッ!!!」
杏利の右手に魔力が集中する。
「わしの加護を受け取れ!!」
同時に、エニマが自身の加護を杏利に与えた。エニマの加護は物理攻撃だけでなく、魔法攻撃の威力も増幅する。
「バニドライグ!!!」
杏利の右手から放たれる、特大の炎の奔流。それはここにいる者達のどの遠距離攻撃よりも強力で、大量の造魔兵を巻き込んで灰に変え、飛行戦艦に直撃した。
「よっしゃあ!!」
ガッツポーズをする杏利を、ゼドが無言で見る。少し見ない間に、杏利の魔力がまた強大になっていた。予想を遥かに上回る成長速度だ。
杏利の攻撃を受けた飛行戦艦。火の手が上がっているが、しかしまだまだ戦闘の続行は可能そうだった。
「ちぇっ。じゃあもう一発……」
もう一度バニドライグを使おうとした時、杏利は気付いた。杏利の右手の中指に、いつの間にか指輪が嵌まっている。黒いリングに赤い宝玉が嵌めてある、不思議な指輪だ。
「何これ? 指輪? いつの間に……」
「おおっ! どうやらわしと杏利の適合率が、また上がったようじゃな! それはニーベルングの指輪じゃ!」
「ニーベルングの指輪?」
杏利とエニマの適合率がまた上がった為、加護が強化された。このニーベルングの指輪はその証拠で、この指輪を着けている間はエニマを手放していても加護が受けられ、また離れた場所にいるエニマを手元まで呼び戻す事が出来る。投擲による攻撃がよりスムーズに行えるようになり、戦略の幅が広がった。
「またパワーアップしたってわけね。じゃ、パワーアップしたあたしの魔法を、受けてもらいましょうか!!」
再度バニドライグを使う杏利。先程バニドライグが命中した箇所を、よく狙って放つ。爆炎の奔流は脆くなっていた装甲をぶち抜き、内部を焼き払う。強烈な炎はあっという間に広がり、エンジンに到達。結果、飛行戦艦は大爆発して、地上に落ちていった。
「やったぁ!! どんなもんよ!!」
杏利は再びガッツポーズ。
(この短期間でここまで……少々この女を過小評価しすぎていたか……)
自分と別れてそれほど時間が経っていないはずなのに、凄まじい成長を遂げていた杏利。そんな彼女の評価を、ゼドは密かに改めるのだった。
「ふぅ……なんとか切り抜けたな!」
「ああ! これなら、思ってたより簡単にノアにたどり着けそうだ!」
墜落の危機が去り、一息つくビスケとゴロー。正直どうなる事かと思ったが、魔王軍の飛行部隊をこうもあっさりと撃破出来る存在がいるのなら、ノアで何が起こっても大丈夫だ。
「ん?」
そう思っていた時、サグベニア号のレーダーが、何かを捉えた。もしかしてノアか? そう思ってレーダーを確認するビスケ。
「……ああ、まずいぞ……」
だが、ノアではなかった。無数の小さな反応。そしてその後ろから向かってくる、七つの大きな反応。
それらが何なのか、杏利達にもわかっていた。だって、見えているのだから。大量の空戦型造魔兵と、七隻もの飛行戦艦が。
「魔王軍の……飛行艦隊……!!」
魔王城。
「どうやら、我が軍の船が撃墜されたようですな」
空中に映し出された映像を見て、ヴィガルダが言う。
「あのような粗末な船で、私の飛行戦艦を落とすとは、なかなかやるな」
イノーザは楽しそうに笑う。
「さて、この数相手にどう戦うかな? お手並み拝見といこう」
事実、楽しくて仕方がない。戦いが好きなのだ。自分が戦うのも、他人が戦うのを見るのも。
最初の一隻目との戦いは、杏利のおかげでさほど苦戦せずに終わった。その為、あまり疲弊していない。戦う力はまだまだ残っている。
しかし、この数はあまりに多すぎた。杏利とエニマ、ゼド意外は全員がたじろいでいる。
「……上等よ!! さっきみたいに吹っ飛ばしてやる!!」
一難去ってまた一難。しかし、杏利は退かない。
「バニドライグ!!!」
気合いを入れ直し、バニドライグを放つ。しかし、炎の奔流が明らかに小さく弱い。飛行戦艦までは届かず、造魔兵の軍団の一部を焼き払うのみに留まる。
「あれ……?」
杏利は全身から力が抜け、エニマにもたれかかってしまった。
「杏利!? どうした杏利!?」
「ごめんエニマ……ちょっと、魔力を使いすぎたみたい……」
(……おかしいとは思っていたんだ)
ゼドはバニドライグの威力低下と、杏利の状態について理解する。
ざっくり説明すると、杏利は魔力全てを使いきるような感覚で、バニドライグを使っていたのだ。そんな感覚で上級魔法を使えば、当然すぐ魔力切れを起こす。それでもたった二発で頑丈な飛行戦艦を撃墜出来る魔力は評価に値するが。
「平気よ。魔力切れなら、これがあるから」
杏利はポーチから、液体が入った瓶を取り出す。
エーテルポーション。魔力を回復する為の、魔法薬だ。サクヤと出会ったあの町で、買っておいたのである。
杏利がエーテルポーションを飲むと、青かった顔色が少し元に戻った。
「これは、外から吹き飛ばすより、中に潜り込んで内側から破壊した方が良さそうじゃな」
エニマは作戦を立てる。さっきのような戦い方をしていれば、すぐにまた魔力切れを起こしてしまう。
それよりも、寄ってくる造魔兵を最低限片付けて飛行戦艦に乗り込み、エンジンを破壊して爆破した方が魔力の消耗は抑えられる。一見非効率的に見える戦い方だが、杏利は魔法戦より肉弾戦の方が得意な為、こちらの方が戦いやすい。エーテルポーションも数に限りがあるし、一回の服用では全魔力を回復しきれないのだ。
「それしかないみたいね……」
潜入戦を決意する杏利。しかし、潜入しようにも、ここから敵の戦艦まではかなりの距離がある。
どうやって飛び移ろうかと考えていると、先にゼドが動いた。甲板を駆け抜け、空に向かって飛び出していく。
「ゼド!?」
杏利が驚いてそれを見た。このままでは落ちてしまう。
だが、ゼドは落ちなかった。跳躍した先に、氷のエーテルブレードが出現する。ゼドはその上に着地してまた跳躍し、その先にまたエーテルブレードが出現した。ゼドは自分が飛ぶ先にエーテルブレードを精製し、それを足場にして飛び移っているのだ。足場に使い終えたエーテルブレードは、そのまま造魔兵に向かって射出している為、無駄はない。
そうこうしている間にゼドは飛行戦艦に潜入し、飛行戦艦のあちこちから爆発が起こる。乗り込んだゼドが、早速破壊活動をしているのだ。
「なるほどね」
ゼドの姿から移動方法を見出だした杏利は、
「コフィラナ!!」
中級氷属性魔法を唱え、氷塊を射出する。その上に飛び乗り、飛行戦艦に向かって飛んでいった。
飛んでいる最中にも、造魔兵が攻撃してくる。マシンガンを持つ者や、長く伸びた爪を持つ者。剣を持った者が、杏利を妨害してきた。当然敵の戦艦も、大砲やミサイルで応戦してくる。
杏利は接近戦を仕掛けてくる者には攻撃をかわしてエニマで斬りつけ、遠距離攻撃を仕掛けてくる者と砲弾、ミサイルには魔法で反撃する。
氷塊が落ち始めた。どうやら、一発でたどり着くのは無理らしい。仕方なく杏利は氷塊の後ろをエニマで叩き、造魔兵の一体にぶつける。ぶつける寸前で跳躍し、再びコフィラナを唱えて、ようやく飛行戦艦にたどり着いた。
同時に、隣の飛行戦艦が爆発した。見ると、爆発する飛行戦艦からゼドが脱出し、エーテルブレードで足場を作りながら別の飛行戦艦に向かうのが見えた。
「……さっすが」
もう一隻目を破壊したらしい。こちらも負けてはいられない。
「スキルアップ!!」
杏利はスキルアップを唱えて身体能力を上げると、エニマを床に叩きつけて甲板を破壊。そのまま下に向かって落ちていく。
しばらく落ち続けた杏利は、どこかの廊下に着地した。目の前から、造魔兵達が銃を乱射しながら向かってくる。
「アタックガード!!」
今度はエニマが魔法を唱え、杏利の物理防御力をアップ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
攻撃力と耐久を得た杏利はエニマを振り回しながら駆け抜け、壁や床、造魔兵を破壊しながらエンジンルームを目指す。
「はぁっ!!」
正面の壁を破壊した杏利は、広い空間に出た。その中央には、炎を放つ巨大な機械がある。
「あれがこの戦艦のエンジンね!!」
どうやら杏利は、エンジンルームにたどり着いたらしい。
「ギルジライツ!!」
杏利が中級光属性魔法を放つとエンジンに穴が空き、そこから炎が吹き出る。それから、エンジンのあちこちが爆発を始めた。
「引き上げるわよ!!」
このままここにいれば、一緒に撃墜してしまう。杏利は来た道を引き返し、今しがた自分が穴を空けた甲板の真下まで戻ってきた。
「エニマ、お願い!!」
「うむ!!」
杏利がエニマを振り上げると、エニマの穂先が鎖付きの刃となって伸び、鉄骨の一本に巻き付いた。それからエニマは鎖を巻き取り、杏利と自分を引き上げる。
鉄骨の上に乗った杏利はエニマの鎖を外し、そこから次々と鉄骨に飛び乗って甲板に帰還。
「コフィラナ!!」
コフィラナを唱えて氷塊に飛び乗り、次の飛行戦艦に向かう。
その直後、今杏利がエンジンを破壊した飛行戦艦が爆発し、吹き飛んだ。
「間一髪だったわね……」
杏利は片手で額の汗を拭い、それを隙だと思って斬り掛かってきた造魔兵を、剣ごと裏拳で殴り砕いた。
ゼドは早くも三隻目の飛行戦艦を破壊しようとしていた。杏利すら破壊に苦戦しなかった飛行戦艦なのだから、杏利よりも遥かに強いゼドが苦戦するはずがない。
「ふっ!!」
ゼドはファイアーソードでエンジンの壁を斬り裂き、中にさらなる炎を流し込む事で熱暴走を引き起こし、エンジンを破壊した。
戦艦一つを内側から吹き飛ばす爆発を喰らえば、さすがのゼドも無事では済まない。エンジンを破壊した後は、当然爆発する前に脱出する。
ただ杏利のように来た道を戻るような真似はせず、刀で別の壁を斬り裂いて進み、途中で邪魔してくる造魔兵とその銃撃を斬り払って走り、最後にまた壁を斬って外に飛び出す。同時にエーテルブレードを精製して足場を作り、飛び移りながら戦艦から離れる。爆発音を背中越しに聞きながら、ゼドは次の戦艦を目指した。
これといって苦戦もせず、順調に戦艦を破壊したゼド。しかし、戦艦はまだまだあるし、造魔兵も大量に残っている。
(面倒だな……)
いちいち内部まで乗り込んでいては時間が掛かる。そこでゼドはさっき杏利がやっていた、大威力の攻撃で一気に戦艦を破壊するという方法を取る事にした。
消耗が激しいが、杏利とエニマの合計の二十倍という、驚異的な魔力を持つゼドならば、そんな無茶も出来る。ゼドが魔力に付加出来る属性は、光以外の全てだ。エーテルブレードの上を飛びながら、ゼドは刀に魔力を込め、その魔力に闇と無以外の自身が使える全ての属性を付加した。
属性というものは、組み合わせによっては反発を引き起こし、互いを消し合う。全ての属性を一度にぶつければ、属性同士で打ち消し合い、結果、強力なエネルギーが発生する。そのエネルギーは、あらゆるものを消し去る消滅エネルギーだ。その消滅エネルギーを、無属性の魔力を纏わせて、制御する。
「滅万象!!!」
消滅エネルギーを巨大化させて周囲の造魔兵を薙ぎ払い、巨大な消滅エネルギーの剣で戦艦を斬り裂き、消滅、爆散させる。これぞ、エグザリオン流魔法剣の奥義、滅万象だ。
この必殺技で、ゼドは戦艦の撃墜と敵の撃破を加速させた。
杏利とエニマも、順調に戦艦を破壊していく。
「杏利!! わしらの飛行船が!!」
と、エニマに呼び掛けられて、杏利は気付く。二隻残った飛行戦艦の一隻が、サグベニア号に接近しており、大量の造魔兵からサグベニア号が集中攻撃を受けている。
「オッケー!!」
ちょうど今いる飛行戦艦から脱出するところだった杏利は、サグベニア号に帰還し、造魔兵達をあらかた片付けた。
「ったく、油断も隙もないわね……」
自分達が離れている間に襲撃されていたのを見て、杏利は呟く。
さて、あの一隻を潰しに行こうと思った時だった。
「全くじゃ。ここはこれよりわしと杏利の情事の場所になるというのに……」
「……」
エニマの文句を聞いて、杏利の中の何かがキレた。
「ねぇエニマ。あたしここからでもあの戦艦を撃ち落とせる、すっごい必殺技思い付いちゃった」
「む? 本当か?」
「うん」
杏利がそう言って向かった先は、大砲。
「ちょっと貸して」
砲撃を行っていた使用人に断りを入れ、その大砲を飛行戦艦に向ける。
そして砲弾の投入口から、エニマを入れた。
「……ん?」
エニマの声が聞こえるが、杏利は構わず、指先に小さなバニスの火を灯す。
「な、何をするんじゃ杏利。すっごく嫌な予感がするぞ!?」
エニマを無視して、杏利は導火線に火を点けた。
「おい杏利!! やめろ!! やめるんじゃ!!」
導火線が燃える音が聞こえたのか、エニマの悲鳴が聞こえる。だがそれすら無視して、杏利は叫んだ。
「必殺!! エニマキャノン!!!」
そして火薬に火が移り、砲口からエニマが発射された!! 発射された瞬間に杏利が魔力を飛ばし、さらに加速させる!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
悲鳴を上げながら飛んでいくエニマ。通常の砲弾より遥かに威力のあるエニマを弾にした結果、一発で飛行戦艦のエンジンを貫通し、飛行戦艦を撃墜した。
そこにちょうど、最後の戦艦を撃墜したゼドが戻ってくる。
「おい。お前、今……」
「大丈夫よ」
しかしゼドが何か言うより早く、杏利がニーベルングの指輪に、強く念じた。
すると、今大砲で撃ち出されたエニマが、杏利の目の前に現れたではないか。
「あ、うえ……?」
戻ってきたエニマは、涙声を出している。
「さっき加護のレベルが上がってね。こういう事が出来るようになったから」
「……そうか」
ゼドは納得した。確かに、こういう事でも出来なければ、あんな事はしない。
「杏利のバカ~!! 怖かったのじゃ~!!」
エニマは人化し、杏利にすがりついて泣きじゃくる。
「ったくもうあんたは……」
杏利は溜め息を吐いた。
魔王軍を撃破した一行は、再びノアへと向かう。いろいろあるが、やはりこのメンバーなら大丈夫そうだ。




