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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第三章 猛襲、ロイヤルサーバンツ!
33/89

第三十二話 双子の依頼

前回までのあらすじ


ファンタジーの世界で、突然時代劇が始まった。


パクりとか言わない!!これだって立派なファンタジー!!

 とある町。

「なぁゴロー」

 モヒカンの大男が、ハゲ頭の屈強な男に話し掛けた。

「なんだいビスケ」

 ハゲ頭、ゴローは答える。ビスケは続けた。

「魔王のせいで、今世界は大変な事になってるよなぁ?」

「そうだよなぁ。どこもかしこも、魔王軍への対応にてんてこ舞いだ」

 魔王軍の攻撃は熾烈を極める。一時期こちらが盛り返していたが、最近になって魔王軍が突然強力な武器を使い始めたので、またしても劣勢に立たされた。

 どの国も魔王軍と戦争戦争。血みどろの争いが続き、今この世界には夢も希望もない。

「だからって、俺達の夢を諦めていい事には、ならないよなぁ!?」

「いいわけないだろビスケ!!」

「その通りだゴロー!! いいわけない!! むしろこんな時代だからこそ、夢を見るべきだ!!」

 どんなに絶望が深い世界でも、決して夢を見る事を諦めない。ゴローもビスケも、全く同じ気持ちだった。二人は、ぐわぁしぃっ! という音が聞こえるかと思うほど、強く握手する。

「というわけで、君には俺達の夢を手伝って欲しいんだ」

「えっ?」

 すぐ近くを通りがかった杏利は、ゴローに肩を掴まれて無理矢理止められた。

「よし、これで頭数は揃ったな!」

「ああ! これでようやく、俺達は俺達の夢を叶えられる!」

「長かったなゴロー!」

「本当に長かったよなビスケ! さぁ、行こう!」

「ちょ、ちょっと! その前に詳しく事情を説明してよぉぉぉぉぉ!!」

 勝手に盛り上がっている二人に、杏利は引きずられていった。



「「すいませんでした」」

 ビスケとゴローは頭に大きなたんこぶを作り、正座させられていた。

「それで、あたしを拐おうとした理由は何?」

 殴った当人の杏利は腰に左手を当て、二人から事情を聞いていた。

「拐うだなんてとんでもない!」

「俺達は君に協力してもらいたかっただけなんだ!」

「だからって強引にも程があるでしょうが!!」

「「すいませんでした」」

 再び謝るビスケとゴロー。

「……まぁいいわ。あたしに協力してもらいたかった事って?」

「ああ。実は俺達の夢、空中国家ノアの為なんだ」

「空中国家ノア?」

「何だ知らないのかい? すごく有名なんだぞ」

「知らないわ。だってあたし、この世界の人間じゃないもの」

「「え?」」

 杏利は二人に、自分とエニマの素性を話した。

「なるほど。異世界から来た勇者様だったのか」

「それじゃあ知ってるはずないな。よし、順を追って話そう。魔科学世界大戦の事は知ってるかい?」

「……それなら聞いた事があるわ」

 パルフルで聞いた、千年前に起きたという最悪の戦争。それが、魔科学世界大戦だ。二人の話によると、その戦争はある国が開発した最強の魔科学兵器に、当時最も激しく争っていた国が滅ぼされた事で、終結したという。その兵器の力の前に、自分達の愚かさと魔科学の恐ろしさに気付いた人間達が、魔科学を捨て去った為、世界から魔科学が消えたらしい。

「何でもこのリベラルタルを消滅させる事も出来るっていう、無茶苦茶な兵器だったそうだ」

「その兵器に威嚇されたから、全員戦いをやめたってわけさ」

「ところがその兵器を前にして脅威を感じ、空に逃げた国があった。その国の名前がノアさ」

 最強兵器に恐れをなし、ノアは魔科学の力で国土と民衆の全てを抱え、空に逃げた。ただ飛ぶだけなら、最強兵器は空を飛んで追撃出来るのだが、高度な迷彩システムを積んでいたので、誰にも行方がわからなくなった。

 空に浮かぶ国だから、空中国家。今ではどこかに落ちたとも、さらに遠い空の彼方まで飛んでいってしまったとも言われている、伝説の国だ。

「その伝説の国が、最近になって見つかったっていう情報が入ったんだよ!」

 とある高い山で、一人の老人が雲の中に消えていく、巨大な国を見たという。その情報を聞いたビスケとゴローは、是非ともノアに行きたいと思い、ノア捜索の為の人員を求めていたのだ。

「今何かと物騒だろ?」

「もし魔王軍の造魔兵と鉢合わせでもしたら、俺達じゃ対応出来ないからさ」

 確かに、空戦型の造魔兵もいると聞いている。たった二人だけでは、命はないだろう。だから、人員を集めているという理由はわかる。

「で、何でノアに行きたいの?」

 しかし、ノアに行きたい理由がわからなかった。こんな時代に、死の危険を犯してまで行くような場所には、とても思えなかったからだ。

「何でって、ロマンだよロマン! 古代魔科学文明の遺産が、空を飛んでるんだぞ? そりゃあもうロマンを感じるだろ!」

「何せ俺達は冒険者だからな! そういうところには行ってみたくなるんだ!」

「……好きねぇ、そういうの」

 杏利は呆れた。

「こんな時代じゃなかったら、俺達二人だけで行くつもりだったんだ」

「ああ。魔王さえいなけりゃ、他の人間に迷惑をかける事もなかったんだけどな。あ、勇者様を責めてるわけじゃないぞ? ただ今の俺達の気持ちを言っただけなんだ」

 二人にはそう言われたが、杏利は負い目を感じている。好きな事を思い切り出来ないのは、魔王イノーザがいるからだ。そしてそれは、いつまでもイノーザを倒せないでいる、自分のせいだと思った。

「いいわ。協力してあげる」

 ならばせめてもの償いとして、杏利は二人に協力する事にした。

「いいのか杏利?」

「うん。魔科学文明が詰まった国っていうのは興味があるし、その国の技術を使えば、イノーザの居場所を見つけられるかもしれない」

 ノアにはきっと、魔科学文明の産物がたくさん詰まっているはずだ。今も使えるかどうかはわからないが、何せ国を一つ千年も空に浮かべていられるのだから、期待は出来るはずだ。それらを活用すれば、イノーザを見つけられるかもしれない。魔科学兵器でそのまま空から魔王を撃破、という事も出来るかもしれない。

「「やったぁ!!」」

 これで必要な人員が全員揃ったようで、ビスケとゴローは子供のように喜ぶ。

「よし! じゃあ来てくれ!」

「俺達のアジトに案内するよ!」

 ビスケとゴローは、杏利とエニマを自分達の拠点に案内した。



「……何であんたがいるの?」

「……なぜお前がいる?」

 杏利は尋ね、全く同じ質問をゼドが返した。

 案内されたビスケとゴローの家には、既にたくさんの冒険者が集まっていた。今回の依頼は冒険者ギルドにも貼り出している、正式なクエストだからだ。ビスケとゴローの二人で街灯スカウトするだけでは戦力が集まらない為、ギルドに申請したのである。案の定空中国家ノアに興味がある者は多く、参加者はかなり多く集った。

「俺は一応正式な冒険者だ。依頼を見てきた」

 ゼドはまだ姉が生きていた時に、姉と一緒に登録していた冒険者だ。駄賃を稼ぐのと修行が目的で、よく二人でクエストに挑んでいた。今回もこの町にやってきたゼドは、旅の路銀稼ぎと修行が目的で、クエストに参加していたのだ。

「お前もギルドに登録していたのか? 異世界の人間が?」

「登録してないわ。あの人達に頼まれたのよ」

「……おい。いいのか? 登録していない人間を誘って」

「彼女は勇者様だからな。それにすごく強そうだ。強いなら誰でも問題はない」

 ゼドが訊くと、ビスケが答えた。このクエストはとにかく強い人員を集める事が目的なので、ギルドに登録していない人間も募集している。

「締め切ってきた!」

 そこに、ギルドに募集の締め切りをしに行っていたゴローが、戻ってきた。

「よし。みんな、聞いてくれ! 今回の依頼の説明を始める!」

 ゴローが戻ってきたので、ビスケは手を叩きながら大声で呼び掛け、冒険者達の意識を引く。

「俺達は今から伝説の空中国家ノアへ向かう。みんなにはその護衛の為に集まってもらった」

 すると、一人の冒険者が挙手をして質問した。

「どうやって行くんだ? 相手は空中にいるんだろ?」

「よく訊いてくれたな。みんな、こっちに来てくれ!」

 ビスケとゴローは、杏利達をどこかに導く。

 たどり着いたのは、リフトだった。全員が乗ったのを確認すると、ゴローがレバーを引き、リフトは下へ降りていく。

 一番下に着いたところで再びリフトが止まり、またビスケが全員を連れて歩き始める。

「な、何これ!?」

 その奥で、杏利は思わず驚愕の言葉を吐き出した。そこは、格納庫だったのだ。そしてその中央に、巨大な船がある。

「飛空船か。個人でこれを持っている人間を見たのは初めてだな」

 ゼドは呟く。格納庫の中央にあったのはただの船ではなく、空を飛ぶ船、飛空船だ。

 リベラルタルにも、空路はある。しかし、使うのは飛行機や戦闘機ではなく、飛空船だ。当然とても高価な代物で、一介の冒険者に買えるはずはない。

「紹介するよ。飛空船サグベニア号だ!」

「ただの飛空船じゃないぞ? 俺達が作ったんだ。当然、性能は保証するよ」

 実はビスケとゴローは双子である。また冒険者であり、技術者でサグベニア家という富豪の一族の息子達でもあるのだ。

 金持ちの坊っちゃんとしての生活に嫌気が差し、冒険者としてデビューした二人は、様々な困難を乗り越えるうちに、ひょろ長のガリから筋骨隆々の大男になった。しかし冒険には空路も使う必要があるとわかり、技術者にもなったのだ。

 この地下格納庫付きの家は、二人が有り余る金を使って用意した別荘兼冒険の拠点で、飛空船も同じように金にものを言わせて部品を集め、一から作り上げた冒険専用である。サグベニア号という名前も、二人で作ったという意味を込めて付けたのだ。

「こいつはそこいらの飛空船よりずっと速い。それに戦闘に必要な道具や、超広範囲を探知出来るレーダーも付いてるんだ。ノアも魔王軍も、誰よりも早く探し出せる」

 得意げに言うビスケ。サグベニア号は普通の飛空船よりも少し大きく、また速い。大砲もたくさん用意してある。二人が作った飛空船はこの一隻だけだが、戦闘力は高い。魔王軍が仕掛けてきても、冒険者の中には遠距離攻撃を行える者もいるので、心配いらない。

「他に質問のある者はいるか?」

 ゴローが確認するが、質問する者は誰もいない。

「よし。じゃあ全員乗り込んでくれ! 早速出発しよう!」

 ゴローの言葉で、全員がサグベニア号に乗り込む。

「では、これよりサグベニア号、発進する!!」

 コックピットに乗り込んだビスケが、無線で外と中にアナウンスをする。サグベニア号の前にはビスケとゴローが雇った使用人がおり、旗を振って誘導を始めた。

 この世界の飛空船は、両側に羽が付き、船底に車輪が付いている。飛行機と船を合体させたような乗り物だ。誘導に従って、サグベニア号の羽のバーニアが点火し、ゆっくりと進み始める。やがて誘導を行っていた使用人が、脇へとよけた。ぐんぐんスピードを上げていくサグベニア号。

「ここら辺は飛行機と同じなのね」

「わしはドラゴンに乗って飛んだ事しかないから、ここからどうなるか楽しみじゃ」

 杏利と人化したエニマが、与えられた部屋から窓の外を覗く。杏利にとって、空路を行くなど久しぶりだ。飛行機に乗るような感覚で、飛空船を楽しんでいる。

「さぁ、行くぞ!!」

 さらにサグベニア号を加速させるビスケ。サグベニア号は開かれたゲートを通り抜け、空へと飛翔していった。

(空中国家、か……)

 サグベニア号が無事出発出来たのを確認してから、杏利はベッドの上に横になった。考えてみれば、確かにロマンのある場所である。

 杏利が空中国家ノアに思いを馳せるそばで、

「おお! 速い! 速いのじゃ~!!」

 エニマは外を見ながら、はしゃいでいた。

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