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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第三章 猛襲、ロイヤルサーバンツ!
32/89

第三十一話 成敗!

前回までのあらすじ


緊縛プレイ。

 町長宅の地下室。エニマとともに幽閉された杏利は、目を覚ました。

「エニマ! エニマ!!」

 すぐそばに転がっているエニマに呼び掛けるが、応答はない。どうやら力だけでなく、意識までも封印されてしまっているらしい。エニマは本当に、頑丈で破壊力があるだけの、ただの槍になってしまった。

(賢明な判断ね。エニマは人化しなくても、ある程度は動けるから)

 そう思いながら、杏利はもがき続ける。しかし、鎖は杏利の全身をがっちりと縛っており、拘束は全く緩まない。ちょうど、夕べエニマにやられたような感じだ。鎖には錠前も付いていないのに、手も足も動かせない。

 このままでは本当に、ヴィガルダとやらに引き渡されてしまう。そう思っていた時、杏利は上から、何か物音が聞こえてくるのに気付いた。

「……!?」

 この地下室には天井裏があり、そこを見る為に用意されている入り口の蓋が外されたのだ。

 開かれた天井裏から、赤髪のポニーテールで忍者装束を着た女性が降りてきた。女性は口に人差し指を当て、杏利に騒がないように指示する。それから、扉を何回かしつこくノックした。

「何だ」

 地下室の見張り番をしていた兵士が尋ねてくる。すると女性は腰から小太刀を抜き、狙いを定めて扉の隙間を斬り、鍵を破壊した。

「何だ!」

 驚いた兵士が剣を持って入ってくる。ここは刑務所でも牢獄でもないただの地下室なので、中を覗く小窓のようなものがない。だから、入って直接確かめるしかないのだ。

 そして入ってきた瞬間、女性が兵士の喉に手刀を喰らわせ、怯んだ隙にみぞおちに鎧がひしゃげるほどの強烈な膝蹴りを浴びせた。喉を攻撃された為に声も出せず、兵士は気絶する。女性は周囲を確認し、他に見張りがいない事がわかると杏利のそばに駆け寄った。

「今鎖を外します」

 女性は腰から小太刀を抜いて、二人を縛る鎖を断ち切った。すると鎖は封印の力を失って、跡形もなく消える。

「杏利!!」

「エニマ!!」

 封印が解かれて自我が戻ったエニマは、早速人化して杏利に抱き着く。そこで杏利は、女性に尋ねた。

「あなたは?」

「私はアカガネ。あなたの知る方から命じられ、この町で偵察を行っていた者でございます」

「あたしの知ってる? ……それって、もしかしてサキさん!?」

 アカガネと名乗った女性は頷く。最初からただ者ではないと思っていたが、思った通りだったようだ。

「あの人一体何者なんですか?」

「私が答えるより、直接お聞きになられた方が良いでしょう。もうすぐそこまで参られているはずですから」

 サキはもう、ここに向かってきているらしい。

「私はもう少し彼らを追い詰める証拠を集めます。あなたの護衛は、必要ありませんね?」

「はい。助けて頂いて、ありがとうございました。行くわよ、エニマ」

「うむ!」

 杏利はアカガネに礼を言い、槍に変わったエニマを手に、地下室を脱出した。

「さて、それじゃあ……」

 アカガネは今しがた気絶させた兵士を起こす。

「洗いざらい喋ってもらうよ。あんた達と魔王軍の繋がりについてね」



 アカガネが杏利達を救出していた頃、町長の部屋にサキ達一行が押し掛けていた。

「何ですか突然。あなた達は今、警察に突き出されても文句を言えない事をしているんですよ? それが嫌なら、今すぐここから出ていって下さい」

 町長は如何にも自分が被害者であるという風を装い、サキ達を追い出そうとする。サキは言った。

「出ていきますよ。ただし、警察に突き出されるのはあなたです」

 サキの言葉を聞いて、町長は一瞬沈黙した。

「……何を言うかと思えば……私が何をしたと? 考える限り、罪になる事は何もしていません」

 しかし、町長は再び自分が何もしていないと、白々しくもとぼけようとする。

「本当にそう思っていますか? 私には全てわかっています。あなたが魔王軍と繋がり、己を売り込もうとしていると。理由は定かではありませんが、大方保身の為か、この世界を支配する為でしょう。私が今まで出会った魔王と繋がる者は、全員そのどちらかでしたから」

「……今まで出会った……?」

 サキがそこまで言って、町長はようやく彼女が何者かを理解した。

「……衛兵!! ここへ来い!!」

 理解して、大声で叫んだ。

「町長!!」

「何事ですか!!」

 たちまち衛兵達が集まり、サキ達を包囲する。

「そいつらを殺せ!! この女は旅人を語る盗賊だ!! 犯罪者どもだ!!」

 挙げ句町長は、サキ達を無理矢理犯罪者に仕立て上げた。

「図星を突かれて口封じですか。素直に罪を認めていれば、手荒な真似をしなくて済んだのに……仕方ありません。シンガ! リュウマ! 成敗です!!」

「「はっ!」」

 サキの命を受けたシンガとリュウマは腰から刀を抜き、襲ってくる衛兵達と戦いを始める。

「やぁぁぁぁ!!」

「でぇぇい!!」

 二人の衛兵が、シンガに斬り掛かった。シンガは攻撃を弾き、衛兵の首筋を斬り付ける。刀は峰に返してあり、殺してはいない。

「はぁぁぁ!!」

「でゃぁっ!!」

「ううういっ!!」

 三人の衛兵がリュウマに攻撃する。リュウマは一人目の攻撃を刀で止め、二人目の攻撃を腕を掴んで妨害し、三人目が攻撃する前に腹に蹴りを叩き込んだ。その後、一人目を刀で弾いて顔面に肘打ちを喰らわせ、二人目を引き寄せてバランスを崩させて、振り向いたところで額を斬りつけた。

「だっ!!」

 衛兵がサキを斬りつける。しかしサキは、剣を首で受け止めた。首には傷一つなく、驚いている衛兵の首を掴んで投げ飛ばし、壁に叩きつける。

「ええい!!」

 戦況不利と見た町長は、服のポケットから何かのスイッチを出し、それを押した。すると、造魔兵が三体出現する。

「こいつらを殺せ!! お前は私と来い!!」

 町長は造魔兵二体にサキ達の相手を任せ、一体を護衛に付ける。護衛の造魔兵は拳で壁を破壊して道を作って町長を逃がし、残りの二体が拳銃を抜いた。しかし抜いた瞬間にサキが駆け出し、一体に拳を、もう一体に蹴りを叩き込んで撃破した。



「なになに!? 一体何が起こってるの!?」

 地下室から脱出した杏利はエニマを振るい、向かってくる衛兵を次々と薙ぎ倒していた。彼らは普通の人間なので、もちろん殺していない。

「どうやら、誰かがここに襲撃を仕掛けておるらしいな」

「それってサキさんよね!?」

「間違いないじゃろう!」

 そう言いながら、二人は衛兵を倒し続け、騒動の中心へと向かう。



(あいつら、なぜここに!?)

 二人が暴れているのを隠れて見ていた町長。

(一体誰があいつらを解放した!? ええい、こうなったら……!!)

 杏利が通りすぎたのを確認し、町長は地下室に向かう。

(イノーザ様から頂いた武器の数々を使えば……!!)

 イノーザと協力関係を結ぶ際、たくさんの銃火器を譲り受けた。それら全てを使えば、侵入者達を倒せる。そう思って、地下の武器庫へ飛び込んだ。

「なっ!?」

 しかし、武器庫には銃火器がなかった。慌てて探す町長。

「おやおや。そんなに慌てて、もしかしてこれをお探しですかい?」

 突然声を掛けられて振り向くと、そこにはシキジョウが。そしてその後ろには、町長がしこたま溜め込んだ銃火器が山積みになっていた。

「あ、い、いや~。何の事でしょうか?」

「とぼけたって無駄だよ!」

 無関係を装ったが、また声を掛けられて振り向く。

「あんたが魔王と結託して武器を手に入れたって事は、全部こいつに吐いてもらったんだからね!」

 そこにはアカガネがいて、尋問した衛兵の頭を掴んで立っていた。

「ぐ、うぐぐぐぐ……!!」

 弁明も逃走も不可能だ。しかし、町長は諦めない。せっかく勇者を手元まで引き寄せて、出世のチャンスを手に入れたのだから、諦められるわけがない。

「くそぉぉぉ!!!」

 再びスイッチを取り出し、二回連続で押した。すると、六体の造魔兵が出現する。

「私を守れ!! 道を作れぇぇぇぇ!!」

 町長が護衛も含めた全ての造魔兵に命令し、造魔兵は銃を乱射しながら突撃。シキジョウは射撃をかわして顔面に手裏剣を投げつけ、アカガネは衛兵を離して小太刀を抜いて応戦し、造魔兵を全滅させるが、町長は戦いに乗じて逃げてしまった。

「くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ!」

 走りながらスイッチを連打する町長。このスイッチはラカラからもしもの時を見越して渡された、造魔兵の召喚装置である。一回押すごとに三体ずつ造魔兵が呼び出され、町長の命令に従う。しかし無限に出せるというわけではなく、ラカラが連れている分しか召喚出来ない。

「侵入者どもを抹殺しろ!!!」

 全ての造魔兵を召喚し終えた町長は、杏利とサキ達を倒すよう命令し、造魔兵はそれに従って動き出す。

「これで勝ったと思うなよクズどもめ。私がイノーザ様から頂いた武器は、あれだけではない」

 そう呟くと、町長は屋上に向かって駆け出した。



「おああああ!!」

 リュウマに投げ飛ばされた衛兵が、窓を突き破って外に飛び出る。外にも衛兵や造魔兵がおり、シンガとリュウマはそれに対応する為、飛び出して暴れ回る。サキも同じく飛び出て、あらゆる攻撃を寄せ付けずに敵を倒していく。

「サキさん!!」

 そこに合流する杏利とエニマ。

「話は後です! 造魔兵を全滅させて下さい!」

「はい!」

 サキの指示に従い、造魔兵と優先的に戦い始める杏利とエニマ。途中でミニミ機関銃を装備した造魔兵が一斉に射撃をしてきたが、

「「アタックガード!!」」

 加護に加えて二重のアタックガードに守られる杏利とエニマには傷一つ付けられず、斬り倒される。

 やがてシキジョウとアカガネも合流し、造魔兵は全滅。主戦力が全て使えなくなっても、なお衛兵達は抵抗を続ける。

「シンガ! リュウマ! もう充分です!」

 今が頃合いと見たサキは、二人に戦いをやめるよう言う。

「はっ! 全員武器を納めよ!!」

「これ以上の抵抗は、反逆罪とみなすぞ!!」

 シンガとリュウマの言葉の意味がわからず、動きを止めて沈黙する衛兵達。

 すると、サキの身体が光り始め、その後ろに桃色に輝く六枚の花弁を持つ桜の紋章が現れた。

「あれは、六枚桜の紋章!!」

「という事は、まさかあの方は……!!」

 衛兵達に緊張が走る。シンガが声も高らかに、衛兵達に語った。


「このお方はヒノト国の姫君、サクヤ・テンノウイン様である!!」


「……えっ!?」

 杏利は驚いた。サキがヒノト国出身だとは聞いていたが、ヒノト国の姫だとは思わなかったのだ。

「貴様ら控えい!! サクヤ姫の御前であるぞ!!」

 リュウマが叱責を飛ばすと、衛兵達は戦いをやめて、一斉に膝を折った。

 ヒノト国の王家、テンノウイン家は、七百年前も現在も、魔王が現れた時どこの国よりも早く手を打ち、正義の先駈けとなって戦った者達である。邪悪に対して一歩も退かない勇猛さと高い武力から、ヒノト国は世界的にとても強い影響力を持っているのだ。その為、どこの国の者もテンノウイン家の人間を目にした時、無意識に敬意を払ってしまう。それほどの威光を持っている。

「貴様らの悪事、既にこのサクヤがしかと見届けておる。この国の領主より厳しき沙汰あるものと覚悟致せ!」

「は、ははーっ!」

 サキ、否、サクヤの声色には覇気がみなぎっており、衛兵達は全員ひれ伏して、頭を地面に着けている。

 ここにいる全員が、サクヤの噂を聞いているのだ。世界のあちこちに魔王と繋がる者がおり、その者達を成敗して回っていると。その彼女が言うのだから、全てが見破られていると衛兵達は観念した。


「何がヒノトの姫だ!!」


 その時、家の屋上から声がした。見てみると、そこにはトンプソン・サブマシンガンを持った町長がいる。

「シキジョウ! あんた全部の武器を押さえなかったのかい!」

「押さえたはずだったんだが、どうも一挺だけ別の場所に隠してやがったみたいだな……」

 アカガネは怒るが、シキジョウはあんな武器を知らない。押収した武器の中に、トンプソン・サブマシンガンはなかった。この銃は町長にとって最後の切り札であり、屋上に隠してあったのだ。こんな所に隠してあるなど、誰にも予想出来ない。

「イノーザ様のお力はこの世界のどんな力よりも強いのだ!! 強い力に迎合して何が悪い!! 貴様のような世間知らずは、イノーザ様から頂いたこの銃で、木っ端微塵にしてくれるわ!!!」

 町長は引き金を引いた。銃口が火花を放ち、吐き出された熱い死の雨がサクヤを襲う。

 しかし、サクヤの背後にあった紋章が手前まで移動し、攻撃を防いだ。

「何!?」

 驚いた町長は、引き金から思わず手を離す。

「貴様とて知らんはずはなかろう。テンノウイン家の六枚桜の加護を」

 ヒノト国には、六枚の花弁を付ける六枚桜という、巨大な神木が存在する。テンノウイン家の人間は、血にその桜の力の加護を受けて生まれてくるのだ。サクヤの血にも、当然その力が宿っている。

 六枚桜は守護桜。加護を受けた者を、あらゆる攻撃から守る。加護を発動させれば、サクヤは自分に危害を加えようとする攻撃から、自動で守られるのだ。

「魔王ごときの力で、この加護は砕けん!!」

「おのれ……!!」

 トンプソン・サブマシンガンでも撃ち抜けない六枚桜の加護。

 だがその時、突然鎖が伸びてきて、サクヤを絡め取った。


「報告を終えて戻ってきてみれば、こんな事になっていたとはな……」


 そこにいたのは、報告の為にここを離れていたラカラだ。封印の鎖で、六枚桜の力を封じ込める。

「これでわかっただろう!! 最後に勝つのは、悪魔に魂を売った者なのだ!!」

 今度こそサクヤを仕留めようと、引き金に再び指を掛ける町長。

 だが引き金を引くより早く、下から跳躍してきた杏利が、目の前に現れた。

「うわっ!!」

「「アタックガード!!」」

 慌てて引き金を引いたが、再びアタックガードを使った杏利とエニマにはダメージを与えられず、死の雨は全て弾き返され、

「はぁぁぁぁっ!!」

 杏利にトンプソン・サブマシンガンを破壊され、喉元にエニマの切っ先を突き付けられた。

「無礼者!!」

「去れぃ邪悪の使徒めが!!」

「がはぁっ!!」

 ラカラもシンガに鎖を斬られ、バランスを崩した隙にリュウマに頭から両断されて、絶命した。

「最後に勝つのは、何だって?」

「う、ぐ……!!」

 武器を破壊され、手下を無力化され、後ろ楯も失って、町長は遂に己の敗北を認めた。



 その後、町長はこの国の領主から寄越された警察に逮捕され、連行された。

「まさかあなたがお姫様だったなんて……」

「忍びの旅です。どうかこれからも私の事は、サキとお呼び下さい」

 自身の素性を隠す為、サクヤはサキと名乗って世直しの旅を続けている。だから杏利とエニマにも、自分の名前はサキと呼ぶように頼んだ。

「それにしても、まさか町のトップが魔王と繋がってるなんてね」

「魔王が世界征服を宣言してから、こういう輩があとを絶たないのです」

「我々も、もうかなりの内通者を成敗しているのですが、やはり大元を断たない事には……」

 シンガとリュウマの言う通りだ。イノーザを倒さない限り、これからもイノーザを求める者は現れ続けるだろう。

「大丈夫です。あたし達が必ず、イノーザを倒してみせますから!」

「では我々は、杏利様が少しでも戦いやすくなるよう、世直しの旅を続ける事とします」

「いつか、ヒノト国にも来て下さいな。みんな歓迎しますんで」

「はい!」

「ではの」

 アカガネとシキジョウに、そしてサクヤとシンガとリュウマに礼を行って、杏利とエニマは出発する。

「ではシンガ、リュウマ、シキジョウ、アカガネ。参りましょうか」

 そして、サクヤ姫一行もまた、魔王に迎合する者を倒す世直しの旅へと、再び発つのであった。



 イノーザの城。

「反応ロスト、か。やはり人任せはいかんな」

 ヴィガルダはラカラの生体反応が消えたのに気付いていた。

「いつになるかわからんが、俺が直接出向かねばなるまい」

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