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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第三章 猛襲、ロイヤルサーバンツ!
31/89

第三十話 杏利捕獲作戦

前回までのあらすじ


お嬢様登場。




あとエニマはSもMもイケる。

「何? 邪魔が入っただと?」

「は。申し訳ございません」

 造魔兵から報告を受けた超魔は、どうするべきか考える。

(今騒ぎを起こせば、俺と町長に繋がりがある事が知られる可能性がある。そうなれば計画の遂行は困難だ……)

 魔王軍はとある目的から、自分達の力を求める者に力を与えている。その事を町の住人達に知られてしまえば、この町を潰すしかない。いずれはそうする事も視野に入れているが、今はまだ早い。

(しかし、ヴィガルダ様は勇者一之瀬杏利との接触を望んでおられる。この任務、何としてでも成功させなければ……)

 とはいえ、杏利の捕獲はロイヤルサーバンツの一人、ヴィガルダから与えられた指令だ。最高幹部から与えられた命令は、出来る限り成功させたい。

「夜が明ければ、一之瀬杏利は再び行動を開始するだろう」

「では……」

 造魔兵にも、自分で任務を遂行出来るだけの知能はある。その知能が、超魔の意図を読み取った。

「他の者を集めろ。一之瀬杏利捕獲作戦を実行する!」



 翌日、鎖を髪に戻したエニマと宿を出た杏利は、再び情報収集を開始した。昨日の今日ですぐ新しい情報が入るとは思えないが、動かないよりはマシだ。

(杏利)

(わかってる)

 そう思って行動を始めた矢先、問題が起きた。造魔兵が尾けてきている事に、気付いたのだ。恐らく、昨日と同じ個体で間違いないだろう。一体は。

(今日は多いわね……)

 今回は尾行してきている造魔兵の後ろから、さらに複数の造魔兵の気配を感じる。姿は見えない。確認の為に振り向いたりしたら、またいなくなってしまうから、見れない。

(上等。これぐらいの人数なら、簡単にやれる)

 しかし、複数とは言ってもさほど多くない。昨日やろうとしたのと同じ、人気のない場所に誘い込む。

 杏利は戦いに適した人気のない路地を見つけると、そこに入り込んだ。何も知らない造魔兵Aは、これ幸いとばかりに杏利を追って素早く路地に入る。

「はっ!」

 入った瞬間に、杏利は槍に変身したエニマで、造魔兵の胸を貫いた。

「ぐっ……」

 短く小さな断末魔を上げて、造魔兵は絶命する。

 また次の瞬間、杏利を囲むようにして、周囲の建物の屋根の上から、造魔兵達が顔を出した。

「上にいたわけね」

 誰も気付かないわけだと思いながら、杏利は上を見る。見た時、杏利は気付いた。造魔兵達が、飛び降りてこない。それもそのはず。造魔兵達は、スナイパーライフルを持っていたのだ。スナイパーライフルなら、屋根の上から攻撃した方がいい。だから、降りてこない。

(スナイパーライフル!? 武器が剣や槍じゃない!!)

 降りてこない理由はわかった。だが、造魔兵達がなぜこんな異質な武器を持っているのかはわからない。

 今まで戦ってきた造魔兵の武器は、先程杏利が挙げた剣や槍に加え、斧や弓だった。ところが、スナイパーライフル。杏利は銃に詳しくないので、モシン・ナガンという名前の銃だという事は知らないが、とにかく銃だ。

(やばっ……!!)

 反射的に今突き刺した造魔兵を盾にする杏利。同時に、造魔兵達が一斉にモシン・ナガンを撃ってきた。サプレッサーを装着しているのか、撃っている音はほとんど聞こえない。だが、弾は間違いなく放たれている。造魔兵の死体に命中する音で、それがわかるのだ。

「っ!?」

 と、杏利は足が片方痛むのに気付いた。見ると、右足に棘のようなものが刺さっている。

 さらに気付いた。先程造魔兵が入ってきた通路からもう一人、別の造魔兵が入ってきており、拳銃をこちらに向けていたのだ。

 そしてそれに気付いた直後、杏利を猛烈な眠気が襲ってきた。

(麻酔弾!?)

 拳銃の造魔兵は、そのまま二発麻酔弾を放ち、杏利の両足に命中させた。

「バニス!!」

 杏利は複数の火球を作り出し、目の前の造魔兵と周囲の造魔兵に向けて放ち、吹き飛ばした。

「くっ!」

 脅威を排除してから、足に刺さった麻酔弾を全て抜く。

「スリプレス……!!」

 眠気に押し潰されそうになりながら杏利が唱えたのは、自身の体内から眠気を誘発する物質を排除し、目を覚ます状態異常回復魔法、スリプレスだ。これにより、杏利の眠気が消え去る。

「大丈夫か杏利!?」

「うん。でも、こんなものを使ってくるなんてね……」

 杏利はエニマに刺さっている造魔兵を振り落とす。今まで原始的な武器しか使ってこなかった為、油断していた。そういえば前回、魔王軍と結託していた神父が拳銃を持っていた。あの拳銃は、魔王軍が与えたものだ。なら、造魔兵が使えるのは当然というもの。

「何でこんな町の中に造魔兵がいるのかしら?」

 次に、なぜその造魔兵が町中にいるのかという疑問にたどり着く。

「まさか、もうこの町の人達、魔王軍に付いたんじゃ……」

「そうかもしれん。前例がある」

 そんな考えにたどり着きたくなどなかったが、前例がある以上もうそれしか考えられない。

 ならば、一刻も早くこの町の魔王軍を全滅させ、町民達の目を覚まさせてやる必要がある。今回も神父の時と同じように、イノーザとの中継点となる超魔が指揮を取っているはずだ。その超魔がどこにいるのか、捜さねばならない。

「しかし、捜すと言ってもどこを捜すのだ? 誰が超魔と繋がっておるかもわからんのに」

「……とりあえず、この町の町長のところに行きましょう。何か知ってるかも」

「うむ……」

 現状、他に有効な手立ても思い付かない。ふと、エニマの脳裏をサキ達の姿が掠めたが、その考えは消し去った。巻き込むわけにはいかない。向こうの狙いは自分達なのだから、自分達で解決する。

「行くわよ、エニマ」

「うむ」

 こうして二人は、町長の家に向かった。



 杏利達がその場を離れてすぐ後の事。

「ぐ……ガ……」

 杏利の攻撃で仕留めきれていなかった造魔兵が一体、起き上がろうとしていた。

「おっと。そのままくたばっててもらいましょうか」

 しかし、突然その上に現れたシキジョウが、腰から木立を抜き、造魔兵の首筋に突き刺した。これで今度こそ、造魔兵の活動は停止する。

「……連中を締め上げる証拠は、これで充分だろう。あとは、現場を押さえるのみ。杏利様が手遅れになる前に、お嬢様に連絡しねぇとな」

 シキジョウは造魔兵達が持っていた、モシン・ナガンを始めとする銃器を回収し、サキに報告しに向かった。



 町長宅。

「だから、町長さんに会わせてって言ってるでしょ!?」

「ですから何度も言うように、町長は今とても忙しいんです。お引き取り下さい」

 押し掛けた杏利は門番に町長に会わせるよう言うが、門番は頑として聞かない。

「……もういいわ」

「わかって頂けましたか」

 杏利が帰ると思って安心する門番。

「強行突破よ!」

 もちろん帰るはずがない。幻惑の宝光を使い、門番に催眠をかける。

「ここを通しなさい」

「……はい」

 門番は虚ろな目で返答し、門を開けて杏利を通す。

 杏利とエニマは催眠を使いながら駆け抜け、町長の部屋までたどり着いた。

「おや。今日は誰も通さないように言っておいたはずなのですが……」

 町長は机に座り、事務仕事をしている。

「すいません。でも、緊急事態なんです。この町のどこかに、魔王と繋がっている人がいます」

 単刀直入に用件を告げる杏利。

「魔王と繋がりを?」

 驚く町長に、杏利は自分の素性と、この町であった事を話す。

「町長さんは何か知りませんか? 魔王と繋がっていそうな人とか……」

「……実は、心当たりがあります」

「本当ですか!?」

「ええ」

 これは朗報だ。まさかこんなに早く、魔王と繋がりのある人間の話を聞く事が出来るとは思わなかった。

「それで、誰なんですか!?」

 事態を解決する為、早くその情報を聞き出そうとする杏利。

 そして、町長は答えた。


「私ですよ」


「……えっ?」


 杏利は、町長の言葉が理解出来なかった。理解する為に、一秒掛かってしまった。


 その沈黙が、致命的な隙となってしまった。


 次の瞬間、後ろから無数の鎖が伸びてきて、杏利とエニマを絡め取ったのだ。

「あ、杏利……」

「エニマ!?」

 エニマの様子がおかしい。苦しげな声を上げた後、それっきり黙ってしまった。杏利の呼び掛けに応じない。

「俺の能力は封印だ。鎖で捕らえた者の力を、封じ込める事が出来る」

 首だけを動かして後ろを見てみると、超魔の男がいた。その両手から鎖が伸びて、杏利とエニマを締め上げている。

「貴様のデータは既に我々にも届いている。その槍の力が主力らしいな? 封じさせてもらったぞ。お前の力と一緒に」

「作戦成功ですな。ラカラ様」

「ええ。あなたの読み通りです」

 ラカラと呼ばれた超魔と、町長は作戦の成功を喜んでいる。

「作戦って、何よ!?」

 鎖から逃れようともがく杏利に、ラカラは告げる。

「貴様を捕獲する作戦だ。我らの上に立つお方、ロイヤルサーバンツの一人、ヴィガルダ様が貴様に会いたいとご所望でな」

「ロイヤルサーバンツの一人!?」

 ラカラが造魔兵達と作戦会議をしていた時、町長も参加してきた。そして、こんな作戦を立てたのだ。

 まず、麻酔弾を装填した武器を持つ造魔兵を、何体か杏利のところに送り込む。これで杏利の捕獲に成功すればそれでいいが、その可能性は低い。捨て駒だ。

 しかし、町に造魔兵が潜伏しているとわかれば、杏利は必ず行動を起こす。その時来るとなれば、町長の家だ。情報屋よりも、町の内部を知り尽くしている町長を頼ってくる。

 あとは町長が隙を作り、その隙を突いてラカラが捕らえる。その目論見は見事に成功した。

「魔王の部下が、あたしに何の用よ!?」

「さぁな知らん。俺はとにかく貴様を捕らえて連れてくるよう、命令されただけだ」

 少しして、造魔兵が一体やってくる。杏利はもがき続けるが、鎖は切れない。

(力が入らない……本当に封印されて……!!)

 いつも感じている魔力さえ感じない。魔法を唱えても無駄だとわかる。

「しばらく眠っていてもらうぞ」

 ラカラがそう言うと、造魔兵が拳銃を出して麻酔弾を放ち、杏利の足に命中させて眠らせた。

「しかし、なかなか強い連中だ。封印するのにほとんど力を使いきってしまった」

 自分の手から鎖を切り離すラカラ。封印の力は残ったまま。しかし杏利とエニマの力を封印出来るほどの鎖を作るのに、ラカラはほぼ力の全てを使いきってしまった。それほどまでに、二人の力は強大だったのだ。

「では、私はヴィガルダ様に作戦成功の報告をしてきます」

「勇者殿は、地下室にでも放り込んでおきますか?」

「はい。お願いします」

 ラカラはヴィガルダと連絡を取る為、部屋を出る。町長の事は信用しているし、杏利とエニマも完全に拘束した。だがそれでも、イノーザの居場所を教えるわけにはいかない。ヴィガルダからも、城には連れてくるなと言われた。合流地点を用意するから、そこに連れてくるようにと。

 ラカラが部屋から出るのを待って、町長は自宅を守る兵士達を呼んだ。この家にいるのは、全員町長が信用している魔王派の人間である。内通者も裏切り者もいない。この家は魔王と取引が出来る、安全な場所なのだ。

「これで私の身の安全は保証された。世の中、悪魔に魂を売った者の方が、長く生き延びられるのだよ。子供にはわからんだろうがね」

 運ばれていく杏利とエニマを見ながら、町長は呟いた。


 今までの事態を、全て天井裏から見ていた者がいた事に、誰も気付けなかった。



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