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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第三章 猛襲、ロイヤルサーバンツ!
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第二十五話 危険な男、ウルベロ

前回までのあらすじ


ロージット達から魔法を教わり、次の町へと旅立った杏利とエニマは、屍の山を築き上げていた超魔、ウルベロに出会った。

 ウルベロ。目の前にいる超魔は、確かにそう名乗った。

「あんたが……ウルベロ……」

「ん~? 俺の事知ってんの? 俺はお前の事知らないんだけどな~」

 知らないのは当然だ。杏利は名前を聞いただけで、ウルベロとは初対面。知っているはずがない。

「まぁいいや。お前も俺を殺しに来たわけ?」

「そうなるわね。魔王を追ってるから」

「イノーザ様を追ってる? ……ああ! お前か槍の女勇者って!」

「あんたはあたしを知ってるみたいね。あたしの名前は一之瀬杏利よ」

「わしはエニマ・ガンゴニールじゃ」

 ウルベロが名前を教えてくれたので、杏利とエニマも名乗る。それから、今気になっている事をウルベロに尋ねた。

「あんた、ゼドに何をしたの!?」

「ゼド? ゼド……ゼド……おおそうだ思い出した思い出した! あのガキか! 確かそんな名前だった!」

 ウルベロはゼドの事を覚えていたようだ。

「でもそんな事知ってどうするんだ? お前が代わりに俺を殺すのか?」

「知りたいだけよ」

「……お前、おかしなやつだな。他人の過去を知りたい、だなんてよ。じゃあ教えてやる」

 ウルベロはゼドに、何をしたのか、杏利に教えた。


「五年前、俺はあいつの姉貴を殺した」


「!?」

 杏利は驚いた。ゼドに姉がいたというのにも驚いたが、その姉をウルベロが殺したという事にもだ。



 五年前。魔王イノーザは世界に宣戦布告すると同時に、自分の部隊を世界各地に送り込み、散発的な攻撃を仕掛けた。ウルベロはその時、たまたまゼドの故郷イルボートを発見し、イノーザからそこを攻撃するよう命令されたのだ。

「十人くらいぶっ殺したところで、妙に俺に突っ掛かってくるガキが二人いたんだ。そいつらのやり取りを見て、姉弟だって事がわかった」

 少々ムカついたウルベロは、この姉弟に対して最悪の思い付きをする。

「俺は強いやつと戦うのが好きでな、弟の方に見所があるって思った俺は、ゼドの姉貴を目の前で殺してやったんだ。憎しみは人間を強くする。だから、あいつが俺をものすごく強く憎むようにな」

 ウルベロはゼドを成長させ、後に殺す為、姉を殺した。

「あいつを必死で守ろうとしてる姉貴の首を、目の前で斬り落としてやったんだ。そしたらゼドのやつわんわん泣いてな! 姉さ~ん!! って! 傑作だったわ。もう最高!」

 笑いながら話すウルベロ。他人が苦しんだり、悲しんだりする事を心から喜ぶ最低の男。


 気が付けば杏利は突撃し、ウルベロの顔面へとエニマを突き出していた。


「……おいおい。知りたいって言ったのはお前の方だぜ?」

 それを剣で防ぐウルベロ。杏利は当然の事ながら、怒っていた。しかしウルベロは、なぜここまで杏利が怒っているのか、本当にわからないという顔をしている。ゼドが怒るならわかるが、他人の杏利がなぜ怒っているのか、全くわからない。そう言いたそうな顔をしていた。

 その反応が、余計に杏利の怒りを煽る。

「黙れこのクソ野郎が……!!」

 さらに強くエニマを押し込む。ウルベロはそれを利用して、背後に飛んで逃れた。

「あーダメだ。ダメだダメだ。お前全っ然ダメだ」

「何がダメよ!!」

 杏利飛び掛かり、ウルベロに攻撃を仕掛けるが、ウルベロは全てかわしてしまう。かわしながら、ウルベロは指摘した。

「お前には憎悪がない。ここに転がってる連中は、理性が残ってる程度だが俺への憎悪を持っていた。だがお前には、怒りしかない」

 ウルベロが今しがた殺していた人々は、全員ウルベロへの憎悪を抱いており、ウルベロを倒す為に団結したのだという。

「あんた、ゼド以外にもそんな事したの!?」

「ああ。だって楽しいからよ」

 救いようのない外道だ。己の為に復讐者を増やし、自分を憎む者達を見て喜んでいる。これを外道と呼ばずして、何と呼ぶのか。

「やっぱり、あんたを放ってはおけないわね」

「俺を殺すか? やだねぇ。憎悪を持ってないやつとは、戦いたくねぇってのに」

 次の瞬間、ウルベロの全身の皮膚が黒く染まり、鎧が鋭角的に変化した。

「……本気になったって事。だったらこっちも全力よ! エニマ、加護を!!」

「わかった!!」

 エニマは自身の加護を全開にし、杏利に付与する。

 二人は同時に突撃した。ウルベロは剣を振りかぶって斬りつけ、杏利はそれに合わせて刺突を繰り出す。二人の力の激突で衝撃波が発生し、周囲の木々や死体を吹き飛ばした。

 杏利は斬り、払い、突き、石突と柄で打つ。ウルベロは剣を片手に持ち、それを払う。

(強い!!)

 認めたくはなかったが、ウルベロは強かった。加護の力も強まり、ガッシュやバイオラ程度の超魔なら瞬殺出来る程に強くなったのに、杏利はあしらわれている。

(ムカつくけど、こいつは本当に強いわ……)

 ウルベロを倒す方法を考える杏利。加護を使ってもあしらわれるなら、さらにブーストをかけるのみ。

「スキルアップ!!」

 身体能力増強魔法。これで五分間、杏利はさらに数倍の身体能力を得られる。

「おっ! とっ、とっ……!!」

 杏利の攻撃を片手で防ぐ余裕がなくなり、ウルベロは両手で剣を持って防ぎ始める。

 だが、ウルベロの剣に亀裂が入り始めた。ただの剣だったのか、ゼドのように魔力を込めて強化する術をウルベロが持たなかったのか、剣の耐久力が限界を迎えている。

「はぁぁぁっ!!」

 この機を逃さない。杏利は駆け抜け、より一層力を込めてエニマを振り抜いた。

 パキン、と音がして、遂にウルベロの剣が折れる。

「はっ!!」

 間髪入れずにもう一撃放つが、さすがにそう簡単には行かず、かわされてしまった。

「あらあらまぁまぁ。安物だけど折れちゃったよ。お前やるなぁ」

 ウルベロは武器を破壊されたのに、対して未練もないといった感じで、折れた剣を後ろに放り投げた。

「終わりよ!!」

 あまりにもウルベロ余裕がありすぎる。妙に思った杏利は、何かする前に仕留めようと飛び掛かり、エニマを振り下ろした。

 しかし杏利の攻撃は、突如としてウルベロの手に出現した大剣に遮られ、杏利は跳ね返される。

「仕方ねぇな。もう少し遊んでやるよ。このオルトロスでな」

 ウルベロが、オルトロスというらしい大剣を振るう。

 次の瞬間、オルトロスの刀身が伸びた。ただ伸びたのではない。鞭のように、しなる。よく見ると、オルトロスの刀身はいくつにも別れており、その間がワイヤーで繋がれていた。蛇腹剣。これがウルベロの、本来の得物らしい。

「くっ!」

 伸びてきた刀身を弾く杏利。ウルベロはオルトロスを、まるで猛獣調教師が鞭を打つかのように、振り回す。

「だったら……!!」

 杏利はオルトロスを大きく弾き、ウルベロに向かって突撃する。蛇腹剣と戦うなど初めての経験だったが、杏利は既にこの武器の弱点を掴んでいた。すなわち、接近戦だ。接近戦なら、鞭のようにしなるその長い刀身は、かえって邪魔になる。一度伸ばした刀身を弾き飛ばせば、すぐ剣に戻すという事は出来ない。それより近付いて、本体を斬りつける方が早い。

(取った!!)

 杏利がそう思った時だった。突然エニマが、杏利の身体をあらぬ方向へと引っ張ったのだ。バランスを崩して倒れそうになったが、何とか持ちこたえる。

「!?」

 その瞬間に、目線だけはウルベロから離さないようにしていた杏利は見た。さっき伸びきったはずのオルトロスの切っ先が、杏利のすぐ後ろまで迫ってきていたのを。エニマが気付いて杏利を引っ張らなければ、ウルベロを斬りつけるより先に背中から串刺しにされていた。

「ありがとうエニマ!」

「大丈夫か?」

「うん」

 エニマに礼を言う杏利。オルトロスの切っ先はウルベロに刺さる寸前で止まると、元の剣に戻った。

「いい武器だな。もうちょっとで女勇者の串刺しが出来たのに」

 残念そうに言いながらオルトロスを肩に担ぎ、ウルベロは説明する。

「オルトロスは刀身を俺の意思で自在に操れるのさ。そして、これだけじゃねぇ!」

 再度オルトロスを振るうウルベロ。だが今度はただ伸びたのではなく、刀身が真ん中から二つに割れ、別々に伸びながら襲い掛かってきた。

 オルトロスとはギリシャ神話に登場する、二つの頭を持つ犬の魔物である。それと同じで、ウルベロの剣は刀身を二つに分けて操る事が出来るのだ。

 二本の刀身が、あらゆる方向から別々に襲ってくる。手数が増えて、これではとてもウルベロに接近出来ない。

「ほらほらほらほら! もっと頑張れよ! 俺にここまでの事させたんだからさぁ!」

「くっ! うっ! うぅっ!」

 さらに攻撃速度が速くなり、杏利は防戦一方だ。少しずつ後ろに下がっていくが、まだまだオルトロスの射程内から出られない。

「杏利! 一度距離を取れ!」

 エニマの指示に従い、大きく後ろに下がる杏利。

「射程から逃げようったって無駄だぜ!! オルトロスは俺が力を込めれば、どこまでも伸びるんだからな!! そうら!!」

 一度オルトロスを引き、大きく振るって、ウルベロはまた刀身を伸ばす。

 だがその刹那、エニマが水平になり、穂先と石突が伸びてきて、オルトロスを打ち払った。

「何!?」

 驚くウルベロ。この能力は、二人が先日倒したギロチンのモンスター、アニマの能力だ。本来はギロチンを出現させる能力だが、エニマは自分の一部を鎖付きの武器に変える能力へと変え、穂先と石突を鎖に繋いで伸ばしたのである。

「ちぃっ……!!」

 予想外の反撃を受けたウルベロはオルトロスを操り、さらに素早く刀身を振る。エニマはそれに合わせて、穂先と石突を振るい拮抗した。

「へへへ……だがな、俺の攻撃手段は、オルトロスだけじゃないんだぜ!!」

 ウルベロが駆け出す。彼にはまだ、エネルギー弾という攻撃手段がある。さっき女を消し飛ばした、あれだ。確実に当てられるよう、杏利に接近するウルベロ。

 しかし、杏利もまた同じように駆け出した。なぜなら彼女もまた、同じ事を考えていたからだ。走りながら片手を向け、杏利は唱える。

「ビルツジライガ!!!」

 放たれる巨大な光弾。ロージット達から教わった、ギルジライツのさらに上に位置する、光属性魔法。

「!!」

 ウルベロは光弾を受けて吹き飛んだ。彼が戦っていたのは、杏利とエニマ。二人のコンビネーションによって、ウルベロは打倒されたのである。


「いてて……」


 と、思っていた。ウルベロもただ攻撃を受けたわけではなく、受ける瞬間にエネルギー弾を当てて、ダメージを軽減したのだ。立ち上がって、攻撃を受けた場所を払っている。

「やっぱ憎悪のないやつの相手は苦手だわ。悪いが、逃げさせてもらうぜ」

「ま、待ちなさい!」

 突然逃げる宣言をしたウルベロに、とどめを刺そうとする杏利。エニマを元に戻し、急所を狙い穿たんと駆け出す。

 だがそれより先にウルベロがオルトロスを消し、両手からエネルギー弾を出して地面に叩きつけた。立ち込める土煙が消えた時、もうそこにウルベロの姿はなかった。

「逃げられた……もう少しで倒せたのに……!!」

「うむ……じゃが、奴もまた魔王の部下の一人。魔王を追っていけば、いつか必ず再びまみえる事になる」

「その時は、今度こそギッタギタにしてやるわ!!」

 思わぬ強敵、超魔ウルベロ。他の超魔とは一線を画す相手だったが、次に会う時は杏利もエニマも、もっと強くなっている。今度こそ許されざる外道を倒す事を、

「……仇は必ず取ってあげる」

 利用された人々の仇を取る事を誓い、二人は手を合わせてから、旅を再開した。



 魔王城。

「いや~、ひどい目に遭った」

 ウルベロは帰還し、玉座の間へ報告しに来た。

「ウルベロ! あんた今までどこ行ってたの!?」

「お仕事だよお仕事。それよりイノーザ様。例の槍の女勇者とやり合ってきました」

 イノーザに抱きついているラトーナを軽くあしらい、ウルベロはイノーザに報告する。

「ほう。で、どうだった?」

「結構やりますよ。他の勇者を名乗る連中とは、レベルが違うって感じました。このままだと、俺達の脅威になるかも……」

「ふむ……」

 イノーザは杏利の強さを知り、どうするべきか思案している。

 そこで、ラトーナが一石を投じた。

「イノーザ様。よかったら今度は、私に行かせてもらえませんか?」

「お前に?」

「はい。ちょっと興味があったんです」

 ラトーナは杏利に前々から興味があったようで、会ってみたいと思っているらしい。

「……よし。許可しよう」

「やった! というわけでウルベロ、槍の女勇者がどこにいたか教えなさい」

「……砂漠の近くにある山の中だよ」

 ウルベロは嫌そうにしながらも、ラトーナに杏利と会った場所を教えた。

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