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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第三章 猛襲、ロイヤルサーバンツ!
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第二十四話 屍の山の向こうにいた者

前回までのあらすじ


光導の書はチートアイテム。

 魔王城。

「イノーザ様ぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 玉座の間に、踊り子の装いをしている女性の超魔が一人飛び込んで、イノーザに抱きついた。

「おお、戻ったかラトーナ」

「お久しぶりですイノーザ様!! ただいま戻りましたぁん!!」

 ラトーナという超魔はとても嬉しそうに、イノーザの片腕に抱きついてすりすりしている。イノーザもまた嬉しそうに、ラトーナの頭を撫でた。

「イノーザ様、イノーザ様~」

「ん。しょうのない娘だ……」

 それから、二人は口付けをする。ラトーナはまるで恋人にするような顔で、イノーザは子供をあやすような顔で、舌を絡ませ合い、名残惜しそうに口を離した。

「……戻っていたのか、ラトーナ」 そこにやってきたのは、ヴィガルダ。悪い場面に遭遇してしまったという顔をしている。

「あら、いたのねヴィガルダ」

 対するラトーナは、ヴィガルダへの興味などないといった感じだ。先程までの熱っぽさが、完全に失せてしまっている。

「お前も知っているだろうヴィガルダ。ただしたいからあんな真似をしているわけじゃない」

 ラトーナはイノーザに対して恋愛感情を抱いているようだが、イノーザは自分の部下としての好意こそあれ、恋愛感情はない。ただ、一つの目的があってしているだけだ。

 その目的とは、ラトーナの強化である。イノーザは自分の力を少しずつ、口を通してラトーナに流す事で、強化しているのだ。一気に強化はしない。そんな事をすれば、イノーザの力に耐えられず、ラトーナが内側から弾け飛んでしまう。少しずつ少しずつ流し込む事で、力を馴染ませてラトーナの肉体を進化させ、強化させていっている。

「ヴィガルダ。あんたもしかして、妬いてる?」

「馬鹿を言え。ただ、何度見ても慣れんというだけの話だ」

 ラトーナは茶化したが、ヴィガルダは乗らない。ラトーナはヴィガルダと違ってこの世界で造られ、まだ実戦に出られるようになって間もない。それに、イノーザが今まで集めたデータの一つを、キスを使って強化するという方法を試している初めての相手である。それはわかっている。わかっているが、慣れない。

「……ところでウルベロは? あいつはいないの?」

 不意に周囲を見回したラトーナは、ここにあの男がいない事に気付く。ヴィガルダは教えてやった。

「外出中だ。いつものア(・)レ(・)でな」

「……ああ……」

 アレ。その一言で、ラトーナは全てを理解した。あの男の性質上、それをするのは仕方ない事なのだが、ラトーナは慣れなかった。ヴィガルダがラトーナとイノーザのやり取りに対して慣れないのと同じくらい、慣れない。

 そしてそれは、ヴィガルダも同じだった。慣れるには、あまりにも悪趣味すぎる。

「しかし困るわねぇ。いくら必要な事とはいえ、ちょっとここを離れすぎじゃない? あいつには、ロイヤルサーバンツとしての自覚がないのかしら?」

 ロイヤルサーバンツ。ラトーナが名付けた、イノーザを守る選ばれた超魔の総称である。今のところ、ヴィガルダ、ウルベロ、ラトーナの三人しかいないが。

「そもそも、イノーザ様があんな能力をあの男に授けなければ、こんなに出歩く事もなかったはずですのに……」

「サンプルが必要だったからな。仕方ないさ」

 造魔兵は、この城にあるラボで造られている。超魔の製造を行っているのは、その中でも専用の部署だ。そこで、様々な固有能力を持つ超魔を造っている。

 イノーザ達はその技術力によって様々な能力を開発してストックし、超魔にそれを移植する。ロイヤルサーバンツの三人も、そうやって能力を付けられた。しかしどのような能力が有効かはわからない為、気になる能力を移植されたサンプルが必要だ。使える能力なら、その能力を持った超魔を量産する。

「サンプル……イノーザ様にとって私達三人は成功作ですか? それとも失敗作ですか?」

「おかしな事を言う。失敗作なら精鋭としてそばに置いたりなどせんさ」

「イノーザ様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ラトーナはイノーザの答えが嬉しくて、強く抱き着いてすりすりする。

「もう、私達のご主人様はこんなに素晴らしい方なのに、ウルベロったらやっぱり自覚不足ね!」

(……自覚不足、か……)

 ヴィガルダはよく考えてみる。確かに、ここ最近ウルベロは、必要以上に外出しすぎな気がする。

(……それだけではないかもしれんがな……)



 杏利とエニマは半日ほどかけて、ロージット達から魔法を教わっていた。

「すごいですね。私達でも修得するのに、かなりの時間を費やした魔法だというのに」

 杏利が魔法を修得する速度は、ロージットが舌を巻くほどだった。攻撃魔法に回復魔法に補助魔法。様々な魔力を教わり、杏利の力はかなり強化された。

「……でも、正直あいつに勝てる気がしないんですよね……」

「あいつ、とは?」

「ロージットさん達は、ゼドっていう魔法剣士を知ってますか?」

「……ああ、彼ですか……」

 杏利が誰を目指していたのか、ロージットは察する。

 実は彼らも以前、成り行きでゼドと共闘した事がある。たまたま一緒に道を歩いていた時、群れで狩りをするハンターワイバーンというドラゴンに襲われ、迎撃したのだ。共闘したといっても、ゼド一人で充分だった。そう断言出来るほど、ゼドは強かった。

「確かに彼は強い。しかし、彼を目指すのはおやめなさい」

「えっ? 何でですか?」

「彼の強さはとても危うい。あの途方もない力の源は、復讐心です」

「復讐心……」

 ロージットの言葉を聞いて、前にゼドと会った時、ヒンベルが言っていた事を思い出した。


『君の心に、とても強い憎しみの色が見える』


 ゼドはやはり、ウルベロに何かされたのだ。

「憎しみは、確かに人を強くします。ですが、それは諸刃の剣です」

「使い方を誤れば、己自身が斬り裂かれる。いつか彼の憎悪が暴走し、自滅する日が来るような気がしてならないのです」

 その予兆を感じながら、マリーナも、ジェイクも、ロージットにも、ゼドは止められなかった。ゼドが強すぎて、止められなかったのだ。

「ゼドがどうして復讐心を持っているか、知ってますか?」

「……いいえ。ですが、魔導の心得がある故、わかるのです。彼が憎悪を、尋常ならざる復讐心を胸の内に抱いている事が」

 ロージット達にも、ゼドは己の本心を明かさなかった。しかし、何がなんでも、ウルベロを殺さなければならない。そう思っている事だけはわかったという。



 もう一日宿泊して、杏利とエニマはコーサリムを発つ事にした。今から行けば、日が沈むまでには隣町にたどり着けるという。

「ただし、道中にはモンスターが出る山があります。お気を付けて」

「いろいろお世話になりました」

「助かったぞ」

 杏利とエニマは、魔法を教えてくれたロージット達に礼を言う。

「魔王を倒す。我々の目的は一つですから、きっとまたお会い出来ますよ」

「その時まで、どうかご無事で!」

「それではお二人供。神の導きのあらん事を」

 マリーナ、ジェイク、ロージットは、杏利達を精一杯応援し、二人は次の町へ向かう。

 しばらく歩くと、大きな山が見えてきた。あれが、モンスターが出るという山だろう。あの山の向こうには、砂漠があるらしい。町はちょうど砂漠の手前にあり、厳しい砂漠の旅の準備をしていくのだそうだ。

「砂漠かぁ……海外旅行なら高校の修学旅行で行った事があるけど、砂漠は初めてね」

「気を付けんとな」

 山に入ってから二人は、まだ見ぬ砂漠に心を馳せ、しかし油断しないように進んだ。



 山の中腹まで進んだ時、杏利は異変に気付いた。

「モンスターなんて出てこないわね」

 これだけ進めばモンスターの一匹や二匹は出てくるはずだが、何も出てこない。モンスターどころか、生き物の気配を感じなかった。

「!」

 さらに進んだところで、杏利の鼻をツン、とある匂いがつついた。

 血だ。血の匂いがする。驚いた杏利は嫌な予感を覚え、足を早める。

「!!」

 やがて開けた場所にたどり着き、杏利は絶句した。

 死体。死体死体。死体死体死体。死体死体死体死体。死体死体死体死体死体死体死体死体死体。おびただしい数の人間の死体が、そこら中に転がっていたのだ。どれもこれも、鋭利な刃物で急所を貫かれ、首を斬り落とされたり、胴体を真っ二つにされたりしている。全てが即死の死体だ。

「一体、何が……」

 杏利は呟く。声が震えていた。間違いなくこの死体達は、何かと戦っていたのだろうが、これだけの死体を量産するなど並みの相手ではない。しかも、鋭利な刃物で斬り裂かれている。

(ゼド……?)

 嫌な想像が頭を駆け巡った。まさか、これをやったのはゼドではないかと。

「まだ生きている者がいるかもしれん」

「……そうね。急ぎましょう!」

 死体はまだ新しい。損傷がひどいが、腐敗してもいない。それなら、まだ戦いは続いているかもしれない。今から加勢すれば、まだ間に合うかもしれない。そう思った杏利はエニマを握りしめ、駆け出した。



 またしばらく進むと、開けた場所に出た。ただし、さっきのような自然に出来た場所ではない。周辺の木々は切り倒され、薙ぎ倒され、吹き飛ばされている。戦った後に出来たような場所だ。

 その中心に、男はいた。剣で女の腹を突き刺し、持ち上げている。

「弱い弱い。やっぱり徒党を組むなんて理性が残ってるやつの憎悪は、こんなもんか」

 髪を頭の後ろで結んでいる男は、剣を振って女を投げる。投げた女に向けて片手からエネルギー弾を放ち、跡形もなく消滅させた。

「……ん? やれやれ、今日はお客さんが多いな」

 男は杏利の存在に気付き、こちらを振り向く。頬に刻まれた独特な刺青。男は超魔だった。

「あ、あんた、一体何者なの!?」

「俺を知らない? 俺を追ってきたんじゃないのか? なーんだ、残念」

「答えろ!!」

 杏利が自分を知らないとわかって、超魔は露骨に残念そうな顔をしている。それでも杏利がエニマを突き付けて脅迫すると、超魔はうんざりしながらも答えた。

「わかったわかった教えてやるよ。ウルベロ。俺の名前はウルベロだ」

「「!!」」

 杏利とエニマは衝撃を受けた。

 超魔ウルベロ。ゼドが捜していた相手が、今、二人の目の前にいた。

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