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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第二章 運命の出会い
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第二十一話 旅の宣教師達

前回までのあらすじ


この作品は杏利無双かと思った?残念!ゼド無双でした!また引っ掛かったな!www

 しばらくして、杏利は目を覚ました。

「気が付いたか」

 すぐそばには、人化したエニマがいる。

「あんた、真っ二つにされたんじゃ……」

「わしには自己修復能力がある。回復魔法は使ったが、顔はまた痛むか?」

 杏利は自分の顔を触る。そして思い出した。自分はゼドと戦い、敗れたのだと。殴られたダメージはエニマが治してくれたので、全くない。しかし、心に負った傷は癒えていない。負けたのは初めての経験だったし、悔しさに涙を流したのも初めてだった。

「……強かったな……」

「うむ。まさか、ブラックオリハルコンで出来ておるこのわしを、ああも容易く叩き斬るとは……」

 ゼドは、ただ刀を強化して斬ったのではない。斬る直前に、ゼドの刀は闇属性の魔力を纏っていた。エニマは光属性の槍であり、闇属性との戦いを得意としているが、逆に弱点でもある。エニマの方が相手の闇を上回っていれば一方的に潰せるが、負けていれば逆に一方的に潰されるのだ。伝説の聖槍であり、この世界最強の武器の一つでもあるエニマの保有魔力を上回るというのは、やはり異常すぎるのだが。

「一体どこで、どうやってあれほどの魔力を身に付けたのか……」

「悩んでも仕方ないわ。次に会った時は必ず勝つ。それだけよ」

 杏利とエニマは魔王を追っており、ゼドはその配下の超魔を追っている。目指すものは、結局同じなのだ。ならば、いつか必ず、また会える。その時に勝てばいいだけの話だ。

「その時までに、もっと強くなっておかないと。とりあえず、今回はあたしもいろいろと準備不足だったから」

 まず杏利は、ヒンベルを尋ねる事にした。ヒンベルが使える魔法を全て教えてもらい、杏利の力とする。急いで戦いたかったから、その余裕がなかったのだ。杏利なら、すぐに覚えられるだろう。



 ヒンベルに魔法を教えてもらった杏利とエニマは、次にどこに行けばいいかもついでに教えてもらった。ここからもっとに西にある、コーサリムという街だ。この街には、ライズン教団というリベラルタル最大の宗教団体の支部があるらしい。魔法を学びたいなら魔法使いの魔法だけでなく、僧侶の魔法も学ぶべきだとの事。

 そんなこんなで、二人はコーサリムにやってきた。ちなみにエニマは人化している。

「僧侶の魔法って言ったら回復魔法を思い浮かべるんだけど、どんな感じなの?」

「そういう認識で間違いない。具体的には……そうじゃな……より専門的な知識といったところか」

 魔法使いになる過程でも、回復魔法は学ぶ。だが、ごく初歩的で、傷を癒すとか、簡単な回復魔法だ。僧侶が使う回復魔法は、重傷からも復活出来る、より強力な回復。毒や麻痺などの、状態異常の治癒などだ。精度も魔法使いとは比べものにならない。ヒンベルも大魔導師である為、魔法使いよりは強力な回復魔法を覚えていたが、僧侶の方が上手であるそうだ。また回復しか使えないというわけではなく、光属性を主とする浄化の攻撃魔法が使える。

「なんか、あんたと相性が良さそうね」

 杏利はエニマに言った。ここなら、エニマの光の力も強める事が出来るだろう。

「わしも強くならねばな。わしの光属性がゼドを上回れば、斬られる事はない」

 もう二度と、杏利に惨めな思いはさせないと、エニマは誓っていた。



 さて、肝心の僧侶の魔法を覚える方法だが、どうすればいいかを考えていなかった。

(やっぱり聞いて回る? でも勧誘とかされたら嫌だし……)

 杏利は宗教というものを、あまり良く思っていない。宗教と言えば、利益があるだの、やらないと天罰が下るなどと言って、金をせしめるイメージしかなかったからだ。この世界の宗教団体は実際に力を持っているから、利益も天罰もあるだろうが、あまりいい気分ではない。

(けどそんな事言ってたらゼドには……)

 ゼドだけでなく、魔王と戦う上でも必要になる。などなど、いろいろ考え事をしながら歩いていた時だった。

「杏利! 前!」

 エニマから鋭い声が飛んできた。

「えっ? いたっ!」

 しかし少し遅く、杏利は曲がり角から出て来た誰かとぶつかって、転んでしまいそうになった。なったというのは、転ぶ寸前で相手が杏利の手を掴んで引っ張った為、転ばなかったからである。

「失礼しましたお嬢さん。気を配っていたのですが……」

「い、いえ。こちらこそ、考え事をしていたもので……」

 杏利は自分がぶつかった相手をよく見てみる。白い服を着た神父のような初老の男性で、眼鏡を掛けて本を持っていた。

「お怪我はありませんか?」

「あたしは大丈夫です。あなたはもしかして、ライズン教団の方ですか?」

「ええ。もっとも私の管轄はシルムヘルトで、ここには布教と査察の為に訪れたのですが」

 シルムヘルト。ライズン教団の総本部であり、この世界で最も清らかな場所であると言われている聖地だ。

「すごい所から来ておられるんですね」

「私の誇りですよ」

 褒めてもらえたのが嬉しかったのか、男性はにこやかに答えた。

 と、エニマが尋ねる。

「不躾な事をお伺いするが、もしやそなたはパラディンではないかの?」

「なぜそう思われるので?」

「杏利を助けた時の身のこなしが、並みの聖職者ではなかった。それに上手く隠しているが、とてつもない魔力を感じる」

「……お察しの通りです。僭越ながらパラディンの称号を賜った、ロージット・カートマンと申します」

「……ねぇエニマ。パラディンって、聖職者の最高位の?」

「お前が思っておるもので間違いない」

 リベラルタルにおいて、勝手に称号を名乗る事は許されない。職業ギルドというものがあり、そこで手続きをした時に、希望の職業を名乗る事が出来る。

 しかし全ての職業がそうかというと、そうではない。転職する為に特殊な条件や、技術が必要となるものもある。パラディンもそうだ。パラディンはシルムヘルトにある、ホワイトモノリスという石に力を示す事でなれる。ホワイトモノリスはよほど強い力を持つ聖職者でないと、パラディンの称号を授けない。だから、ロージットはとても強い力を持つ聖職者なのだ。

「そういうあなた方も、ただ者ではないとお見受けしますが?」

 さすがパラディン。どうやら、二人が普通の人間ではないとわかったようだ。二人は自己紹介し、素性を話した。

「ほうほう。あなた方が新しく召喚された勇者と、伝説の槍でしたか。お噂はかねがね」

「はい。それで、よかったら僧侶の魔法を教えて頂きたいんですけど……」

 聖職者の最高位ともなれば、強力な魔法をいくつも修得しているだろう。僧侶の魔法を習う相手としては、絶好の相手だ。

「本来僧侶の魔法とは、僧侶にしか教えてはならぬもの。パラディンであるこの私が、その掟を破るわけにはいきません。と言いたいところですが、相手が勇者様なら話は別です。このロージット、尽力致しましょう」

 一瞬教えてもらえないかと思ったが、協力してくれるようだ。

「本当ですか!?」

「勇者様にご協力出来るなら、それはこの世界に生きる人間の誉れです。これも神の思し召しでしょう」

 早速魔法を教えようとするロージット。

 その時だった。

「「師匠せんせい!!」」

 二人の人間が現れた。男と女で、どちらも聖職者の装いをしており、彼らは杏利とあまり年齢が変わらない外見をしている。

「ジェイク、マリーナ」

 二人の名前を呼ぶロージット。ジェイクと呼ばれた男は、ロージットに尋ねる。

「ここにおられましたか。こちらの方々は?」

「もしかして、お取り込み中でしたか?」

 続いてマリーナと呼ばれた女も、ロージットに尋ねた。

「異世界の勇者一之瀬杏利様と、その槍エニマ・ガンゴニール様です」

「これは失礼しました。ジェイク・ベルトルトと申します」

「マリーナ・アーキンソンです」

 二人は一礼して名乗る。ロージットは二人について補則説明をする。

「私の教え子達です。シルムヘルトから一緒に来ました」

「はぁ……」

「ジェイク、マリーナ。どうかしましたか?」

「は。例の件ですか、捜査に進展がありました」

「それと、師匠にご相談が」

「……杏利様。申し訳ありませんが、急用が入りました。ですが私達はまだ数日この街に滞在するつもりですので、余裕がある時にまたお会いしましょう」

「わ、わかりました」

「では、あなた方に神の導きのあらん事を」

 ロージットは二人に案内されながら、足早にどこかに向かった。

「……一体どうしたのかしら……」

「どうやらこの街で、ライズン教団絡みで何か事件が起きているようじゃな」

 ロージットは強いようだから、何も心配はないだろう。それより、もうすぐ日が沈む。今日の夜を越える為、二人は宿を取る事にした。



 宿泊した二人。

「あーあ。もうちょっとで魔法を教えてもらえると思ったのに……」

 杏利は残念そうに呟く。一刻も早く強くなる事が必要な彼女にとって、とんだ足止めである。

「早くゼドより強くなりたいのにな……」

「……のう杏利。一つ思ったんじゃが……」

「ん?」

 エニマは、朝から感じていたモヤモヤとしたものを払う為、杏利に質問する。

「お前は、ゼドが好きなのか?」

「……何言ってんのあんた?」

 意味がわからない。なぜ自分がゼドを好きにならなければならないのか、杏利には全くわからない。

「お前、強い男が好みだと言っておったじゃろ? ゼドはお前より遥かに強い。それにお前、朝からずっとゼドの事ばかり考えておる」

 確かにそう言った。だが、ゼドを好きにはならない。何せ性格が杏利と合わないし、向こうも杏利を嫌っているようだった。初めて自分に敗北を与えた人間だから、気にするのは当たり前の事だと思うのだが。

「のう杏利。もっとわしを見てくれ」

 と思っていると、エニマが杏利の上にのし掛かってきた。

「ちょ、ちょっとエニマ!」

「いや、わしだけを見ろ。あんなやつの事を、考える必要はない」

 顔を近付け、杏利のおでこにキスをするエニマ。

「な、何すんのよ!?」

「ファーストキスと処女を奪うのは、もう少し待ってやろう。その代わりに、わしの事しか考えられなくしてやる」

 ゆっくりと杏利の胸を揉み始めるエニマ。

「ふあっ! え、エニマ……」

「杏利。好きじゃ。わしのものになれ……」

 嫉妬。自分の持ち主でありながら、自分以外の事を考えている。それが許せなくて、エニマは快楽で杏利を屈服させようとしている。自分以外の相手の事は、何も考えないように。


「いい加減にしろ!!!」

「やんれずっ!!!」


 もちろん屈服などするはずのない杏利は、真横からエニマの頬を殴り飛ばし、エニマは吹き飛んで隣にある自分のベッドに突っ込んで気絶した。

「はぁ、はぁ……またやんのかこのくだり……」

 もう何をする気も失せた杏利は、天井を向いたまま目を閉じ、眠りについた。

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