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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第一章 杏利の旅立ち
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第十三話 地下墓地

前回までのあらすじ


杏利とエニマのゾンビゲーム。

 杏利がゾンビの胸をエニマで突き刺し、他のゾンビに向かって放り投げる。通常の何倍も腕力を強化された杏利は、もはや存在そのものが凶器と化しており、腐ったり肉が削げ落ちたり部位欠損したりしているとはいえ、人間の大人と同じサイズのゾンビも軽々と投げ飛ばせるのだ。

 またゾンビは、長い年月のせいで身体が腐敗して脆くなっており、さほど力を加えずとも容易くその肉体を粉砕出来る。今も杏利が投げ飛ばしたゾンビと、それをぶつけられたゾンビ達が砕け散った。

「はっ!」

 石突で胸を突き、柄で足を払い、穂先で脳天から両断する。

 武器の中には属性を備えているものも存在する。火、水、土、風、雷、氷、光、闇、無の九つだ。属性が付加された武器は、炎を纏って斬りつけたり、軽く殴っただけで大地を隆起させたりと、普通に攻撃するだけでなく様々な恩恵を受けられる。

 エニマは光の属性を持つ槍だ。光属性の武器はゾンビのような闇属性持ちや、不浄な存在に特効を持ち、急所である頭を狙わずとも打ち据えるだけで、滅ぼす事が出来る。光と闇の属性は、九つの属性の中でも特に強い力を持ち、武器への付加も難しい。その為、光属性を付加されているという事は、強い武器である事の証明なのだ。

「キリないわね……」

 それでも、数の差は脅威である。先程から杏利は、向かってくるゾンビを次々と薙ぎ倒しているが、いくら倒しても地中から出現し、一向に終わりが見えない。

「!!」

 杏利は暗闇の向こうから、何かがやってくるのに気付いた。

 骨だ。鎧や剣と盾で武装した人骨が、次々と向かってくる。

「スケルトン!?」

「杏利!! このまま馬鹿正直に相手をしていては、いつまで経っても終わらんぞ!!」

「……死体相手に使うのはちょっと気が引けるけど、仕方ないわね!」

 ざっと見た感じで、この地下墓地には百を越える数の墓石がある。これら全てにゾンビやスケルトンが入っているとすれば、まだまだ出てくるだろう。正面突破しても負ける事はないと思うが、消耗を避ける為にも、あれを使う。

「幻惑の宝光!!」

 エニマの穂先からルビー色の光が放たれ、地下墓地全体を照らす。

「道を空けなさい!!」

 アンデッドモンスター達に下がるよう命令する杏利。

 しかしアンデッドモンスター達は、一瞬怯みはしたものの、すぐまた向かってきた。

「効かない!?」

 幻惑の宝光が効いていない。この技は光を見た相手を、人間モンスター関係なく操る。しかし、強い精神力を持っている者には、掛からない。アンデッドモンスター達には掛からなかった。という事は、アンデッドモンスター達には強い精神力があるという事になるが、それはあり得ない。

「恐らくこのアンデッドモンスター達は、何者かに操られておる」

 幻惑の宝光が効かない相手がもう一つあった。既に操られている相手である。先に操られていると、後から発動した術では操れない。

「はあ? 死体を操るって、ネクロマンサーでもいるっての?」

「どうもそうらしいな」

「……冗談半分で言ったんだけど、ネクロマンサーっているのね」

「いるにはいる。数は少ないがな」

 屍霊術師ネクロマンサー。死体や魂を媒介にして操ったり、人間を生きたままゾンビに変えたりする、魔法使いのグロ担当。杏利もマンガやネットなどでよく知っている。もちろん杏利の世界には実在しないが、魔法使いの中でも特に危険な部類として、世間では知られていた。

 このリベラルタルでもそれは変わらないようで、死者の肉体や魂を扱う魔法の使用は認められていない。そもそも真っ当な感性の持ち主なら、手を出そうとさえ思わない。しかし、たまにいるのだ。絶対に侵してはならない禁忌の領域に、自ら踏み込もうとする者が。永遠の命を、滅びる事のない肉体を求めて、禁断の研究をする異端の魔法使い。それが、ネクロマンサーである。

 七百年前の時点で数は少なかったし、今はもう一人か二人くらいしか残っていないのではないだろうか。しかし、その数少ないネクロマンサーが、この先にいるかもしれないのだ。不死王リッチの復活は絶対に阻止しなければならないし、復活したのなら必ず倒さなければならない。

「いずれにせよ、搦め手が効かないんだから、力押ししかないわよね。ま、こっちの方があたしらしいんだけど」

 幻惑の宝光が効かないなら、やる事は一つだ。杏利はエニマを水平に構えて、全速力で駆け出した。目の前には、ゾンビとスケルトンの群れ。このまま突き進めば、アンデッドモンスターの軍団にぶつかってしまう。

 当然というか、杏利は死体の軍団にぶつかった。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 だが杏利は、構う事なくそのまま突き進む。アンデッドモンスター軍団は止めようとするが、腐って脆くなった筋肉やぼろぼろの骨の身体では、超馬鹿力になっている今の杏利を止められない。

「っしゃあ行くぞぉっ!!」

 アンデッドモンスター軍団を一点突破した杏利は、そのまま地下墓地の奥に向かって走っていった。

「……わしはお前が女なのか男なのか、時々わからなくなるのじゃ……」



 奥へ奥へと突き進む杏利。しばらく行くと崖があり、崖の向こうの壁には服を着た白骨死体が埋まっていた。他の死体とは明らかに違う、桁外れの気配の大きさを持つその白骨死体。あれが恐らく、不死王リッチなのだろう。胸の中心には、光を放つペンダントがかけてある。

 その前、崖の上に、黒装束を着込んだ何者かがいて、一心不乱に呪文を唱えている。

「待ちなさい!!」

 杏利が声を掛けると、その人物は驚いて振り向いた。歳若い青年だった。

「何だ貴様は? いや、何者だろうと関係はない。ここに来た以上、理由は一つ。不死王リッチの復活を阻止しに来たのだな?」

「そうよ。あんたはネクロマンサーね?」

「そうだ。言っておくが、何をしようと全ては手遅れだぞ。不死王リッチは、もう間もなく復活する。お前はこの地下墓地で埋葬された死者達の、仲間入りをするのだ!」

 言うが早いか、ネクロマンサーは服のポケットから、黒い宝石を取り出した。宝石は一瞬光ったかと思うと、ネクロマンサーの手から離れて変化する。

 それは、闇としか言いようのない怪物だった。煙の形をした闇の中に、頭骸骨が浮いている。

「殺せ!! シャドウスピリット!!」

 そのシャドウスピリットというらしいモンスターは、ネクロマンサーが命じると杏利に飛び掛かってきた。シャノンが言っていた棺桶から出てきたモンスターは、こいつで間違いないだろう。

「このっ!」

 杏利は攻撃を仕掛けるが、煙のように蠢き、ひょいひょいとかわされてしまう。

「うかつに仕掛けるな杏利!! 生気を吸い取られるぞ!!」

 この世界ではきちんと死者を弔わなければ、アンデッドモンスター化する。シャドウスピリットもその一つで、行き倒れて死体を野ざらしにされ、誰にも弔ってもらえなかった旅人の魂が悪霊と化したモンスターだ。エニマの攻撃なら一発で倒せるが、その変幻自在な魂の肉体で、当たる前に身体を変化させてかわしてしまう。その隙を見計らって相手に取り憑き、生気を吸い尽くしてしまうのだ。

「くっ!」

 非常に避けづらいが、何とか回避していく杏利。しかし、厄介なモンスターを使役していたものだ。

 ネクロマンサーは詠唱を再開している。詠唱に従ってペンダントの光が強まっているので、本当に復活は間近なのだろう。止めに入りたいが、ネクロマンサーの元に向かおうとすると、シャドウスピリットが割り込んで邪魔してくる。やはり、こちらから先に始末する必要がありそうだ。

「アンデッドモンスターの弱点は光だけど、次によく効く弱点は……!!」

 光属性はアンデッドモンスターにとって絶対の弱点。だがアンデッドモンスターには、もう一つ弱点が存在する。

 それは、火属性だ。

「バニスド!!」

 杏利はエニマの穂先から、巨大な火の球を放つ。火属性の中級魔法、バニスドだ。バニスに比べればかなり範囲が広いので、これならかわせない。

「ギャアアアアア!!」

 狙い通り、シャドウスピリットはバニスドをかわせず、炎の塊に燃やし尽くされてしまった。魂を燃やすというのは何だか妙な話だが、とにかく倒せた。

「魔法も使えたのか!? シャドウスピリットを倒すとは……!!」

 杏利が魔法を使えたのは予想外だったのか、ネクロマンサーは慌てている。地下墓地のゾンビ達を呼び寄せようにも、ここはかなり奥にある為、あの鈍足では時間が掛かる。リッチ復活の為には、あと一節呪文を唱えなければならない。杏利が攻撃する方が早いだろう。


 だがその時、


「ご苦労だったな。ここまでくれば、もうお前の力はいらん」


 崖の向こうのリッチが声を発した。次の瞬間、岩壁が木っ端微塵に吹き飛び、残ったリッチが宙を浮いて崖の上に降り立った。

 不死王リッチは、優れた魔法の技術者である。というより、彼は元々人間の、ネクロマンサーだった。不死王という呼び名は、その時の彼の異名である。

 不死不滅の秘法が、あと一歩で完成するというところで倒されてしまい、力を奪われ封印された。奪われた力はペンダントに変えられ、シャノンの家が代々守ってきたのだ。長い年月の間に肉体は白骨化してしまったが、不滅の存在まであと一歩だった為、力を取り戻しさえすれば、問題なく行動可能である。

「おお、リッチ様!」

 ネクロマンサーは自身の憧れであるリッチに、歓喜の表情を浮かべて近付く。リッチはネクロマンサーを労った。

「我を蘇らせる為、よくぞここまで働いてくれた。だが、邪魔者がいるようだな」

 次に、杏利とエニマに視線を移す。忌まわしき、光属性の武器を振りかざす者。それはネクロマンサーにとって、最大の天敵である。

「心配には及びません。私とリッチ様の力があれば、あのような小娘一匹恐るるに足らず! あの者を蹴散らした後は、あなたがたどり着いたという不死不滅の秘法を、どうか私にも伝授下さい!!」

 夢にまで見た不死不滅の秘法が、あと少しで手に入る。その為にネクロマンサーは、この地下墓地に道を繋いだ棺桶を、あの女の家に配置し、シャドウスピリットにペンダントを奪わせるなどという面倒な手順を踏んだのだ。


「断る」


 しかし、リッチは何の前触れもなくそう言い放ち、右手でネクロマンサーの心臓を貫いた。骨と化してはいるが、魔力で硬化する事で、鋼をも上回る硬度を得ている。

「な、何を……」

「言ったはずだ。お前の力はいらんと」

 リッチは驚く杏利とエニマの目の前で腕を引き抜き、ネクロマンサーは絶命した。その後、ネクロマンサーの遺体から何かが飛び出し、リッチはそれを吸い込む。今リッチが食ったのは、ネクロマンサーの魂だ。

「だが、せっかく我を復活させてくれたのだ」

 リッチは魂なき遺体に手をかざし、魔法を唱える。

「リバイグ!!」

 すると、

「ウウウ……」

 ネクロマンサーが呻きながら起き上がった。

「せめて我の配下に加えてやろう。ゾンビとしてな」

 今唱えた魔法は、リバイグという闇魔法。死体をアンデッドモンスターとして蘇生させ使役する、ネクロマンサーの初級魔法だ。

「さて、では肩慣らしと行こうか」

 リッチは再び、杏利とエニマを見た。二人の後ろからも、ゾンビ達が向かってくる。

「ネクロマンサーってのは、どいつもこいつも頭がおかしいみたいね……」

 不死王リッチは復活してしまった。なら、倒すしかない。杏利はエニマを強く握り締めた。

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