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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第一章 杏利の旅立ち
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第十二話 地獄の門

前回までのあらすじ


エニマは合法ロリ。あとレズ。

「……ん」

 杏利は目を覚ますと、時計を見た。時刻は既に、八時を回っている。

「……ずいぶん長く寝ちゃったみたいね。エニマ、起きて」

「ん? ここはどこじゃ? わしは誰かの?」

「わかりやすい記憶喪失のフリしないの」

「バレておったか。う~……まだ頭がずきずきするのじゃ……」

 記憶喪失のフリをするエニマ。彼女は昨晩、杏利に夜這いを仕掛けて返り討ちに遭い、頭を殴られている。相当強く殴ったようで、エニマの頭には、まだ少し痛みが残っていた。

「何で大人しく犯されてくれないんじゃお前は? わしはこんなにもお前を愛しているというのに」

「あのね……あたしにそっちの趣味はないの。普通に男が好きだから」

「嫌じゃ! お前を男になんぞ渡したくない!」

 杏利を独り占めしたいようで、エニマはとても嫌がっている。

「あんたは子供か! まぁあたしも、普通の男は嫌だけど……」

「普通は嫌? ならどんな男が好みなのじゃ?」

 エニマからそう聞かれて、杏利は返答に困った。彼女は異性関連についてはノーマルであり、至って普通の感性の持ち主である。しかし、どういう異性が好みかと聞かれると、答える事が出来ない。何せ、恋をしようと考えた事がないのだ。結婚するなら当然男。だがどんな男と結婚したいか、具体的な希望はない。

「しいて言えば、あたしより強い人かな。それ以上の事は、これから考えるわ」

「考えすぎて行き遅れにならんようにな。そうなったらわしがもらってやるが」

「うっさい」

 杏利はこの瞬間、絶対に行き遅れにならないと決意した。

 それはそうと、エニマに尋ねる。

「ねぇ、夕べこの辺りが騒がしかった気がするんだけど。家がどうとか……」

「そうか? わしは気絶しとったからわからん」

 どうやら杏利は、眠りに落ちる寸前に何かを聞いたらしい。まぁエニマは気絶していたから、というか気絶させられたからわからなかったようだが。

「なんか、すごく困ってたみたいだった」

「本当か? なら、町を歩き回って原因を突き止めてみるといい。きっとすぐ見つかる。勇者の見聞を広める為にも、人助けは積極的にやっておかなければ」

 それは一理ある。見聞を広めてたくさんの人に杏利の事を知ってもらえれば、この世界の人達にとっては希望になるのだ。行く先々で助けてもらえる。

「じゃ、行きましょっか」

 杏利はエニマを連れて宿をチェックアウトすると、外に出掛けた。



 二人がしばらく外を散策していると、公園に一人の女性がいた。何だかひどく疲れた様子で、あまり眠れてなさそうな気配がありありとしている。夕べの声の主は、恐らく彼女だろう。

「すいません」

 杏利は女性に声を掛けた。

「こんな事訊いたりして本当に申し訳ないと思ってるんですけど、もしかしてあなたすごく困ってません?」

「……あなた、冒険者の方ですか?」

 女性はエニマを見て尋ねてきた。ちなみに、今エニマは槍モードになって杏利の手に収まっている。なぜなら、冒険者を捜しているだろうと思ったからだ。

 この世界では昔から、荒事の解決には冒険者と相場が決まっているらしい。だから冒険者のフリをしていれば、困っている人は声を掛けやすいはず。そう予想した作戦である。

「似たような事をしています。何かあったなら協力しますけど……」

 女性はしばらく考えてから、杏利に話した。

 彼女の話によると、名前はシャノン。昨日この町に引っ越してきたらしい。夫と娘もいるのだが、荷物の受け取りの為、自分だけ先に来たそうだ。

「新しい家には地下室があって、そこを物置にしようと荷物を運んでいた時でした。壁に立て掛けてあった、奇妙な棺桶を見つけたんです」

 最初下見に来た時に、こんな物はなかったはずなのだが、気になったシャノンは棺桶を開けてみた。それが、悲劇の始まりだった。

「中からモンスターが出てきたんです! 命からがら逃げ出して、モンスターを家の中に閉じ込めるのが限界でした……」

 ドアに鍵を掛け、物を置いて塞ぎ、モンスターが出てこれないようにした。だが、これではとても新しい家として住めない。

「しかも逃げる途中で、大切な家宝のペンダントを落としてしまったんです。絶対に手放さないよう言い伝えられていたのに……」

「……わかりました。じゃああたしがモンスターを倒します」

「!! やって下さるんですか!?」

 女性の顔が喜びに輝いた。

「はい。家の場所を教えて頂けませんか?」

「こ、こっちです!」

 シャノンは杏利を、自分の家に案内した。



 軽く外を回って見てみたが、ドアは塞がれたままで、窓や壁も壊されていない。モンスターが外に出た様子はないようだ。まだ中にいる。杏利はつっかえを外し、シャノンに言った。

「あたしが中に入ったら、念の為鍵を掛けて下さい。モンスターが出てきたら、大変ですから」

 モンスターに中から鍵を開けるという知恵はないだろうし、出る時は杏利が開ければ大丈夫だ。

「は、はい!」

 シャノンは持っていた鍵を開ける。あとはドアを開けて、突入するのみだ。

「一、二、三!」

 杏利は中に入ると素早くドアを閉め、シャノンが鍵を掛けた。

「ウァァァァ!!」

 杏利が入った瞬間に、それが襲い掛かってきた。

「!!」

 杏利は素早くエニマを振るい、脳天から両断し、それは倒れる。

 襲い掛かってきたのは、ぼろぼろの衣服を纏い、全身のあちこちの肉が腐っている、人間の男だった。もちろん、ただの人間がこんな状態で生きていられるはずがない。ゾンビだ。言わずと知れた、アンデッドモンスターである。

「これが棺桶に入っていたモンスターね」

 なるほど、いかにも棺桶に入っていそうなモンスターだ。とはいえ、これでモンスターは倒した。もう安心だ。杏利はドアの鍵を開けようとする。

「杏利!!」

 しかし、エニマがそれをやめさせた。杏利が驚いて振り向いてみると、

「ウウウ……」

「アァァァ……」

「オゥゥ……」

 なんと、大量のゾンビが、こちらに向かってきていた。

「どういう事!? 棺桶に人間って、一人しか入らないわよね!?」

 慌ててエニマを構える杏利。話が違う。なぜこんなに、ゾンビが家中を徘徊しているのだろうか。

「杏利!! とりあえず、ゾンビが出てきたという棺桶を探すのじゃ!!」

「そんなの探してどうするのよ!?」

「わしの予想が合っていれば、かなり危ないかもしれん。とにかく棺桶を探せ!!」

 どうやらエニマは、何か心当たりがあるらしい。

「……確か棺桶は、地下室にあったって言ってたわね……」

 杏利は向かってくるゾンビを倒しながら、地下室へ向かう。



 杏利とエニマは、地下室の入り口を発見した。

「すぐには降りるな。ゆっくりと降りて、棺桶の状態を確かめろ」

「わかったわ」

 杏利はアタックガードを使い、背後からゾンビに攻撃されないよう注意しながら、ゆっくりと地下室に降りた。

 少し階段を降りると、杏利は地下室に着いた。気を付けて、エニマと一緒に中を覗き込む。中には確かに、例の棺桶があった。

「!?」

 次の瞬間、驚くべき現象が起こる。棺桶の中から、ゾンビが三体出てきたのだ。

「どうなってるの?」

「やはりか。あれはトラップじゃ」

「トラップ?」

「罠じゃよ。落とし穴とかトラバサミとか、お前も知っとるじゃろ?」

「知ってるけど、それが何だっていうのよ?」

「この世界にもトラップはある。あれはその中でも特に残虐な部類に入る、ヘルゲートというトラップじゃ」

 ヘルゲートとは、箱や壺など、とにかく蓋が出来るものを、魔法でモンスターの巣へと繋げたトラップである。古来から戦争で使われているトラップで、プレゼントと偽って相手の城などの拠点に送り込み、開けさせて中から攻め落とすという恐ろしい罠だ。

(トロイの木馬みたいな罠ね……)

「まさか、七百年も未来の世界で、あれを見る事になるとはな」

「塞ぐ方法はあるの?」

「簡単じゃ。蓋を閉じればいい」

 ヘルゲートは事故を防ぐ為、蓋の裏側にモンスターが中から開けられないよう、特別な術式が刻んである。だから蓋を閉めてしまえば、ヘルゲートは塞げるのだ。

「よし。一気に駆け抜けるわよ!」

 杏利はパワーアップした加護を活用し、棺桶に向かって駆け抜ける。途中でゾンビが向かってきたが、杏利の敵ではない。素早く片付けて、棺桶の蓋を閉める。

「これで一安心ね。それにしても、誰がこんなものを……」

 最初来た時はなかったそうなので、誰かが置いたという事になる。誰がこんなふざけた真似をしたのかは知らないが、悪趣味極まりない。

「で、これどうしたらいいの?」

 それから処分に困る。下手に手を出して、そのままゲートが閉じられなくなったりしたら大変だ。

「跡形もなく消し飛ばすか、魔法を解いてもらうかのどちらかじゃな」

「それなら、いい魔法を覚えたじゃない」

 ちょうど魔法効果を解除する魔法、ディリーテスを覚えている。早速使って、この危険な罠を解除しよう。

 そう思った時だった。

「ゥゥゥ……」

 上の階からゾンビがやってきたのだ。

「その前に、ゴミ掃除が必要そうね」

 罠を解除する前にゾンビを全滅させて、安全を確保した方が良さそうだ。



「もうゾンビはいないわよね?」

 杏利は家中を念入りに調べ、ゾンビを一匹残らず駆除した。外に待機させていたシャノンを呼び、家の構造を聞いて調べ尽くすという徹底ぶりだ。

「……ない」

 ふと、シャノンは呟いた。ゾンビを探しながら、家宝のペンダントも探していたのだが、いくら探してもペンダントが見つからないのだ。

「ペンダントだけじゃありません。あのモンスターの死体も……」

「えっ? もしかして棺桶から襲い掛かってきたモンスターって、ゾンビじゃなかったんですか?」

「はい。もっと邪悪で、言葉では形容出来ないモンスターでした」

 シャノン曰く、自分に襲い掛かってきたモンスターは、まるで闇が凝縮して出来たかのような、ゾンビとは似ても似つかない、邪悪なモンスターだったという。

「……まさか、そのモンスターが、棺桶の向こうにある自分の巣に、ペンダントを持ち帰ったとか?」

 杏利は嫌な想像をした。さすがにモンスターにそんな知能があるとは考えにくいが。

「可能性としてはあり得ます。あのペンダントは、不死王リッチの力の源と言われていますから」

「不死王リッチ?」

 不死王リッチとは、四百年前、魔王グライズ亡き後に、密かに新たな魔王になろうとしていた、アンデッドモンスターの支配者で、シャノンの先祖が封印したのだそうだ。ペンダントは、その際リッチから奪った力の源らしい。肌身離さず持っているよう言われたのは、ペンダントとリッチは引き合っており、世界のどこかにあるリッチの遺体にこれが戻ると、リッチが復活してしまうからだそうだ。

 これでようやく全てが繋がった。この家にあの棺桶を置いたのは、リッチの復活を目論む者である。なぜリッチを復活させようとしているのかは知らないが、そうでもなければこんな事態にはならない。ないはずの棺桶があった事も、棺桶の中からゾンビが出て来た事にも、全て納得出来る。そして杏利の予想が正しければ、リッチとリッチの協力者は、あの棺桶の向こうにいる。

「……行くしかなさそうね」

 不死王リッチ。名前からして、いい存在ではないのは間違いない。何としてでも復活を阻止し、ペンダントを取り返す必要がある。

 杏利はシャノンと一緒に地下室に行き、シャノンに頼む。

「あたしは今から棺桶の向こうに行きます。あたしが入ったらまたゾンビが出て来ないよう、すぐ棺桶の蓋を閉めて下さい。開けて欲しい時は、あたしが合図します」

「わかりました」

 棺桶の蓋に触れないのはモンスターだけで、人間は触れる。だから、軽くノックなり何なりすれば、杏利が戻ってきたとわかるのだ。

「行きます!」

 シャノンが棺桶の蓋を開けると、杏利は勢い良く向こう側に突入し、シャノンは素早く蓋を閉めた。



「……うわ……」

 棺桶に入ってしばらくは洞窟だったが、しばらく進んで開けた場所に到着し、杏利は自分がどういう場所に来たのかを知る。

「地下墓地……!!」

 見渡す限り、十字架の形状をした墓石が立ち並ぶ、荒廃した地下。ここはもう、地下墓地としか言えない場所だ。不死王と呼ばれるモンスターが封印された場所だけはある。

 墓地はずっと奥まで続いていて、先が見えない。リッチがいるのはこの向こうだ。

「嫌ねぇ……あたし昔からこういう雰囲気大嫌いなのよ……」

 杏利は墓地とかお化け屋敷とか、こういう陰鬱とした空気の場所が大嫌いだった。

「何じゃ。怖いのか?」

「怖いっていうより気持ち悪い。空気はベタついてるし中は暗いし、長居したくないからさっさと行きましょ」

 そう。長居は無用だ。さっさと終わらせて、さっさと帰るに限る。

 杏利が墓地を駆け抜けようとした時だった。突然地面から、ボコッ! と音を立ててゾンビの腕が出現し、杏利の右足を掴んだのだ。

「きゃっ!」

 もう一本ゾンビの腕が出て来て、左足も掴む。見ると、他の墓からゾンビが出て来ており、杏利に向かってきていた。

「離せ気色悪い!!」

 このままでは動けない。杏利はエニマを振るって、頭を出してきたゾンビの顔面を突き刺して倒し、足を解放する。

「無礼な連中じゃのう! 杏利の美脚はわしのもんじゃというのに!」

「あんたねぇ……」

 こんな状況でもぶれないエニマ。だが、杏利にとっては心の支えだ。エニマと一緒なら、暗い地下墓地も怖くない。

「一気に行くわよ!!」

「うむ!!」

 杏利とエニマはゾンビの軍団に突撃した。

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