第十一話 新しい町で
前回までのあらすじ
トリアスは邪竜だった
杏利がキレた
槍がロリになった
ピロイの町。エーシャの森を抜けて、数時間歩くとたどり着ける場所だ。杏利とエニマは、この町で一泊する事にした。エニマは人化している。
「いらっしゃいませ」
「一泊させて下さい」
「かしこまりました。お二人様で?」
「はい」
「当店は一晩三十ギナとなっておりますが、よろしいでしょうか?」
「はい」
「オプションはいかが致しますか?」
杏利は考える。そういえば、オプションがどういうものか、詳しく知らない。
「オプションってどんなのがあるんですか?」
「こちらがオプションの一覧表でございます」
店員は、オプションが書かれているらしい表を出した。表には、食事や衣服のクリーニングなど、様々なオプションの内容が書かれている。
ふと、杏利の目にある項目が止まった。浴場の利用と書いてある。以前杏利が止まった宿は、部屋に備え付けの風呂があったのだが、あれとは別物という事だろうか。
「この浴場っていうのは?」
「当店では通常のお風呂の他に、温泉が沸き出しているのでございます。浴場をご利用になられる場合は、タオルやシャンプーなどの貸し出しをしております」
やはり、普通の風呂とは違うらしい。ここ以外には滅多にないオプションのようだが、こんな事なら前回泊まった宿のオプションも確認しておくべきだったと杏利は後悔した。
「じゃあオプション付きで」
「オプション付きですね? そうなると追加で十ギナ頂きますがよろしいですか?」
「はい」
杏利は料金を払い、名前を書く。
「ありがとうございます」
店員は宿帳の名前を見てから、十六と書かれた青い紙を、鍵と一緒に杏利に渡した。
「ではこちらがオプションカードでございます。浴場を利用される際、浴場のスタッフにこちらをご提示下さい。杏利様のお部屋は、二階の十六号室でございます。ごゆっくりおくつろぎ下さいませ」
「ありがとうございます」
受け取った杏利はエニマを連れて十四号室に行き、荷物を置いて一息付いた。
「のう杏利。わしを槍のままにして泊まれば、宿代が浮いたのではないか?」
エニマは杏利に尋ねる。ここは二人部屋だ。一人部屋より料金が高い。なので、エニマを槍の状態にして一人部屋に泊まれば、その分宿泊費を浮かせられたのだ。
「あたしもそれは考えたんだけど、バレたら後が怖いから」
「……うむ」
「それより、お風呂行きましょ。温泉なんて久しぶり」
まず風呂に入りたい。そう思った杏利は、エニマを連れて浴場に向かう。
浴場で番をしているスタッフにオプションカードを渡すと、タオルとシャンプー、ボディーソープなどを貸してくれた。二人はタオルを身体に巻き、浴室に入る。
「わあ……本当に温泉がある!」
「杏利は温泉が好きなのか?」
「大好き!」
杏利は子供の頃から温泉が好きで、今も結構はしゃいでいる。誰もいないので、貸し切り気分だ。
「さて、まずは身体を洗うのじゃ」
「そうね。エニマ、洗ってあげるから座って」
「うむ」
まずは互いに身体を洗う。しかしと、杏利は思った。この浴場、シャワーや蛇口がある。シャンプーやボディーソープも、ちゃんとプラスチックの容器に入っていた。中世ヨーロッパのような町並みなので、てっきり井戸やら木の容器やらを想像していたのだが、意外と科学が浸透している世界のようだ。
互いにタオルを取ってエニマを座らせ、頭にお湯をかけてやり、まずシャンプーから始める。
「かゆいところはありませんか~?」
「ありませんのじゃ~」
ふざけ合う二人。こうして見てみると、仲のいい姉妹のようだ。とても異世界から来た勇者と、その槍には見えない。
シャンプーを流してから身体を洗う。エニマが前面を洗い、杏利が背中を洗った。
「交代なのじゃ」
「ん。ありがとう」
エニマを洗い終えてから、今度は杏利を洗う。杏利も洗い終えると、二人は湯船に浸かった。
「ああ、いいお湯……」
久しぶりの温泉でくつろぐ杏利。以前温泉に入ったのは一ヶ月ほど前だが、今温泉に入ってみると、なんだかものすごく久しぶりに入ったような気がする。世界が違うから、そう錯覚しているのだろう。
「……エニマ」
ふと、杏利はエニマを見た。さっきからずっと黙っているので、変に思ったのだ。
エニマはずっと、ある方向を見ている。そう、杏利の胸を。
「お前、思ったより乳がでかいのう」
「えっ?」
一瞬エニマが何を言ったのかわからなかったが、理解した瞬間杏利の顔が真っ赤になった。
「ば、バカッ! どこ見てるのよ!」
「お前のおっぱいを見ておる。服の上から見た時はそれほどでもないと思っていたが、着痩せする女かの?」
「き、着痩せって……」
「何を恥ずかしがっておるんじゃお前は。おなご同士じゃろうに」
エニマは恥ずかしがって胸を隠す杏利に呆れ、自分の胸を見た。
「……口惜しいのう。あの邪竜の人化の完成度がもっと高かったら、今頃わしのおっぱいもばいんばいんに……」
エニマが杏利ぐらいの歳の人間に人化すると、ばいんばいんになるらしい。
「あいつの人化って、そんなに完成度低かったの? 見分けが付かなかったんだけど」
「あらゆる姿、あらゆる性別の人間に化けられるようになって、ようやく人化は完璧と言えるのじゃ。恐らく邪竜は、あの姿にしか化けられなかったんじゃろうな」
なるほど。そういえば杏利も、あの姿以外のトリアスの人化を見ていない。エニマの話が正しいのなら、確かに不完全な人化と言えるだろう。
「ところで杏利。お前のおっぱいはどれくらい大きいんじゃ?」
「え。今の流れでそれを訊く?」
「当たり前じゃ。とにかくサイズを言え」
「……Eよ」
「Eか。なかなかじゃな。わしなんかAじゃぞ。つるぺったーんじゃ」
「……あんた、もう少し恥じらいを持ちなさいよ……」
「盛大にぱんつを見せながら暴れ回っとるお前が何を言うか」
「えっ!? 見えてたの!?」
「当然じゃろ。あんなミニスカであれだけ動き回れば、見たくなくても見えるわ。ま、わしは目の保養になったが」
「あ、あんた……」
どうやら、エニマはちょっとアレらしい。とりあえず誰もいなくてよかったと、杏利は安堵した。
温泉から上がった杏利は、ポーチから新しい下着を出して着用した。洗濯して欲しい衣服や下着は、スタッフにカードを見せながら渡せばいいらしい。エニマは人化能力で服や下着を作れるので、洗濯の必要はない。
「これ、お願いします」
杏利は下着が入った籠を、オプションカードを見せながら渡す。
「かしこまりました。では洗濯が終わり次第、お部屋にお届けします」
スタッフはオプションカードの番号を紙に書いて控え、籠を受け取った。
しばらくして受け付けに行った杏利は、オプションカードを店員に見せ、食事をお願いした。二人は食事を摂る。エニマはバルンガの特性である、食物を魔力に変換する能力を得ている為、食事は摂れるのだ。ちなみに、宿の料理は普通だった。
食べ終わってから、二人は今後について考える。また魔王の居どころについて、情報を集めて回らなければ。
「でも、この町で何か情報を得られるかっていうと、ちょっと望み薄なのよね~……」
だが杏利は気が進まなかった。こんな魔王の支配と縁遠い町では、魔王の情報など到底得られないだろう。酒場もそんなにいい空気の場所ではないし、行きたい場所ではなかった。
「愚痴を言っておっても仕方あるまい。日没まで情報収集あるのみじゃ」
「……それしかなさそうね」
この旅の目的は、魔王を倒す事。魔王を倒すまで、二人の旅は終わらない。早く元の世界に帰りたいなら、早く魔王がどこにいるかを探り出し、殴り込みをかけて倒すしかないのだ。
「じゃ、行きましょうか」
仕方なく杏利は情報収集に出掛けた。
あちこちで聞き込みをしてみたが、結局魔王の情報は得られなかった。やはりこんな小さな町では、欲する情報は手に入らないようだ。
こうなると、もっと大きな町に行くしかない。きっと魔王軍との戦いの、最前線になっているような町があるはずだ。明日はその町についての情報を聞き出し、すぐに向かおうと思ったところで、杏利とエニマは宿に帰った。
小さな町ではあったが、隅から隅まで歩くと予想以上に体力を消耗してしまい、もう一度温泉に入って部屋に戻り、眠ってしまった。
「……」
起きたのは真夜中だ。杏利は自分の胸を襲う妙な感覚で、目を覚ました。
「……何してんのあんた」
杏利は自分の服をはだけさせ、胸をわしづかみにしているエニマに問いかけた。
「夜這いをしておる」
「夜這いとか言うな!!」
エニマの口から飛び出しとんでもエロワードに、杏利は顔を真っ赤にして声を荒らげた。
「不完全で幼いとはいえ、せっかく人間のカラダを得たのじゃ。堪能させてもらわんとのぅ」
「あ、あんたやっぱり……ぅあっ……!」
エニマは予想以上にアレだった。胸を揉んでくるエニマに、杏利は艶っぽい声を上げてしまう。
「一目見た時から、わしはお前しかないと思っておった。冒険と戦いを重ねれば重ねるほどに、どんどん惹かれていったんじゃ。もう我慢なんぞ出来んよ」
「こっ、のっ……いい加減にっ!」
ひたすら胸を揉んでくるエニマ。杏利はとうとう怒ってエニマの両腕を掴み、強引に引き剥がそうとする。
「ひゃぁぁんっ!?」
だがエニマの手は離れず、杏利の胸は引っ張られてしまい、不意に襲ってきた快楽に声を上げてしまう。
「おお。男らしいやつじゃと思っておったが、こんな可愛らしい声も出せるんじゃな」
「な、なにっ、今のっ!?」
「魔力でわしの手とお前のおっぱいをくっつけたんじゃ」
魔力の無駄遣いである。
「さてどうする? 無理矢理引き剥がそうとすれば胸を快感が襲い、かといって何もしなくても快感が襲ってくるぞ。わしを気絶させれば、助かるかもしれんな?」
「うっ、あっ……! や、やめろぉ……」
話している間も、エニマは絶え間なく杏利の胸を揉む。
「ほれほれ。わしはこんな見た目じゃが、齢七百年じゃぞ。何をしても許されるぞ。というかわしが許す。何でもやってみるがいい」
杏利に快感を与えながら誘惑してくるエニマ。確かに、エニマは外見こそロリだが、実際には七百歳のババァである。もっと言うと、人間ですらないのだが。
「き、気絶させれば、いいのね?」
「うむ」
「何をしても、いいのね……?」
「もちろんじゃ。お前のヤりたい事を、何でもヤってみるといい。さぁ、早くお前の手で、わしを気持ち良くさせてみろ。さもないと、わしが先にお前をイカせるぞ?」
胸を揉まれながら確認を取る杏利と、何をされるのか期待しながら誘惑するエニマ。
「じゃ、じゃあ、もう少し、頭を寄せて……」
「こうかの?」
エニマは誘導に従い、頭を杏利に近付ける。
直後、杏利がエニマの脳天にげんこつを喰らわせた。
「れずっ!!」
目から火花を散らし、大きなたんこぶを作って、エニマは気絶する。
「望み通り、あたしがしたい事をしてやったわよ」
これでエニマの手は離れた。エニマを自分のベッドに戻し、杏利も自分のベッドに戻る。目覚めたばかりだというのに、今のやり取りでどっと疲れた。夜明けまではまだまだ遠く、杏利は再び眠りについた。
同じ時刻。杏利とエニマが泊まっている宿に、一人の女性が走ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
女性は呼吸を整えながら呟く。
「わ、私の、私の家が……!!」




