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レジェンドガール  作者: 井村六郎
第一章 杏利の旅立ち
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第十話 杏利の怒り

前回までのあらすじ


ギーグ達に助けられた杏利とエニマは、邪竜を倒した。よかったよかった。と、思うよ。

 邪竜を打ち倒し、エーシャの村に帰還した杏利とエニマ。

「あら?」

 と、杏利は異変に気付く。村が何やら騒がしいのだ。たくさんの村人が、村長の家に向かって走っていく。

「……まぁいいわ。とりあえず、ギーグさん達に報告しなくちゃね」

 ギーグの家は、牢屋を出た後に見た。すぐ近くだ。

 杏利は中に入り、ギーグとシルムに、邪竜を倒せた事を伝える。

「私達が何をしても倒せなかったあの邪竜を……杏利さん、あなたは本物の勇者だ!!」

「ありがとうございます!! おかげで娘も助かりました!!」

 杏利に心からの礼を言う二人。さて、これからアルマを牢屋から出し、村長やあのいけすかない大魔導師に、この事を伝えなければならない。

「あ。そういえば、村がちょっと騒がしいみたいですけど、何かありました?」

 杏利が尋ねると、シルムが少し不安そうな顔をして説明する。

「実は、さっきちょっと見てきたのですが、トリアス様です」

「トリアス? あの大魔導師?」

「はい。突然胸から大量の血を噴き出して倒れられて、みんな今看病に」

 シルムはこっそり瞑想の間に行き、トリアスの様子を見ていたのだが、トリアスはいきなり何の前触れもなく苦しみ出したかと思うと、胸から血を噴き出して倒れたのだという。新手の奇病か呪いか何かではないかと、村長宅では今大騒ぎらしい。

「一体どうしたのかしらね……」

 嫌なやつではあったが、そんな事になると心配になる。

「……ん?」

 ふと、杏利は今シルムが、奇妙な事を言っていたのに気付く。いや、既に充分奇妙な出来事が起こっているのだが、一際奇妙な出来事だ。

「シルムさん。今胸から血を噴き出したって言ってましたけど、どんな感じだったんですか?」

「ええと……遠目に見ただけですけど、右肩から誰かに斬られたみたいな傷が見えました」

「……」

 変だ。右肩からからの切り傷といえば、杏利が邪竜を斬りつけた時と同じ箇所である。

(こういう話、どっかで聞いた事がある)

 一目見た時から、トリアスには強烈な違和感があった。今起きている出来事と照らし合わせると、杏利の頭の中に一つの仮説が組み上がる。

「杏利さん?」

「どうかなさいましたか?」

「……まずはアルマさんを助けないと。次に、村の人達の避難ね」

 杏利の予想が正しければ、邪竜との戦いはまだ終わっていない。終わらせる為、杏利は準備を始めた。



 幻惑の宝光を使って見張り番の手からアルマを助け出し、制服に着替えた杏利。ここは村外れだし、避難を呼び掛ける必要はないだろう。杏利はギーグ達に村人達を避難させるよう呼び掛けると、村長宅に乗り込んだ。

「あっ! お前は!」

「どうやって牢屋から出たのか知らないが、ここから出ていけ!」

「そうだそうだ! 今俺達は忙しいんだからな!」

 思いっきり杏利を警戒する村人達。だが杏利は全く怯む事なく、村人達に尋ねた。

「大魔導師はどこ?」

「は? お前何を言って」

「大魔導師はどこにいるのかって訊いてるのよ!!」

 凄まじい剣幕で怒鳴る杏利。彼女の気迫に圧された村人達は、仕方なくトリアスの居場所を教える。

「……奥のお部屋で休養を取られている」

「ありがとう。それじゃ、次はこの家にいる人達を全員避難させて。今すぐ。急いでね」

 杏利は村人達に避難するよう言うと、奥の部屋へ進む。

 奥に行くと、二人の男が見張り番として立っており、杏利の行く手を阻んだ。

「トリアス様に何の用だ」

「今トリアス様は、重傷を負ってお休みになられている」

「そこをどいて、今すぐこの家から逃げなさい。死にたくなかったらね」

 言うが早いか杏利は男二人を押し退け、部屋の中に入った。

 一番奥の真ん中に、レースの付いた大きなベッドがある。トリアスは寝ているようだ。

「いつまで寝たフリをしているのかしら?」

 しかし、杏利にはわかっていた。トリアスは、寝てなどいないと。そして、トリアスに言い放つ。


「とどめを刺しに来てあげたわよ。大魔導師トリアス! いいえ、邪竜!」


 杏利の言葉に、二人の見張り番は驚いた。

「な、何を言っているんだお前は!?」

「トリアス様が、邪竜だと!?」

 信じられない。信じられるはずもない。杏利は一つ一つ、種明かしをしていく。

「あたしの予想が正しければ、あんたは分身する能力と、人間に変身する能力を持ってる。その能力で自分を二つに分けて、片方を人間、大魔導師トリアスに変身させた」

 杏利が元いた世界ならあり得ない話だが、この世界ならばあり得る話だ。そして片方がダメージを受けると、もう片方がダメージを受けるという性質を持っているに違いない。邪竜に負わせた傷と、トリアスが負った傷の場所が一致しているのは、この為だ。もっとも邪竜の方は殺したので、こちらも死んでいなければおかしい。ダメージを軽減する機能はあるようだ。

「あんたは邪竜の方にこの村を襲わせ、そこに人間の方を割って入らせる事で、救世主トリアスを演出した。この村を餌場にして、生け贄を搾り取るためにね」

 邪竜が村を襲った時期と、トリアスが村を救いに来たのは同時期だ。偶然と言うには、タイミングが良すぎる。

 さらに、邪竜がどうやって生け贄となる人間を選んでいたかも不明だ。あの洞窟の地底湖に引きこもっていた邪竜が、村の内情を知るはずはない。ならば、村に内通者がいたと見るのが自然な流れである。

「しかも邪竜が選んだ生け贄が誰かは、あんたが伝えてたんでしょ? 何であんたなの?」

 いつもトリアスが生け贄について伝えていた。これもおかしな話だ。村の一大事なのだから、村長に伝えるべき事のはずである。

「あんたが邪竜なら、あれだけあんたがあたしの邪竜退治を止めようとした事にも説明がつくの。どう? まだ証拠が欲しい?」

 杏利はトリアスに問う。まだ何か、自分が邪竜であるという証拠を突き付けて欲しいかと。トリアスの答えは、沈黙だった。未だに起き上がろうとしない。

「ネタは上がってんのよ!! いい加減正体を現しなさい!!」

 痺れを切らした杏利が、エニマを構える。

 すると、

「……ふふふ……なかなか強く、賢い小娘が現れたようだな」

 遂にトリアスが起き上がった。

「と、トリアス様!?」

「まさか、彼女の言った事は、本当だというのですか!?」

 目の前の現実をまだ信じられない見張り番二人。

「滑稽だったぞ。トリアス様、大魔導師様、と、お前達が我に従う様はな。尽くしている相手が、お前達が何より恐れる邪竜だというのに」

 トリアスは自ら、正体を明かした。杏利の推測通り、トリアスの正体は邪竜だったのだ。

「覚悟しなさい!!」

「覚悟だと? まさかお前、先程のように行くと考えているのか? 一度倒した相手など取るに足らないと、そう思っているのか?」

 トリアスは、杏利に負けない自信があった。

「お前が言った通り、我には変身能力と分身能力がある。だがな、お前は我の能力の本質を知らぬ」

 トリアスの分身能力で二人になると、トリアスの能力も二分割されてしまうのだ。分身はいつでも回収でき、そして先程回収した。

「今、我の力は先程の我の二倍だ。本来の力に戻っただけ、とも言うがな!」

 トリアスが紫色の炎に包まれ、巨大化する。部屋を破壊し、村長の家を粉砕し、トリアスは邪竜としての本来の姿を現した。

「うわあああああああああ!!!」

「邪竜だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 杏利の言葉の意味をようやく理解し、見張り番の二人は慌てて逃げ出す。逃げなかったのは、杏利とエニマの一人と一本のみ。

「気を付けろ杏利。先程の分身体とは、また別物じゃぞ」

「大丈夫よエニマ。いつも言ってるでしょ? あたしは天才。何でも出来るって」

 間違いなく今までで最大の激戦になる。しかし、杏利に恐れはなかった。エニマが自分のそばにいる限り、負ける事はないと信じていたから。

 杏利はエニマから加護を受け取り、邪竜トリアスに向かっていった。



「死ね!!」

 村長の家が燃えるのにも構わず、口から炎を吐くトリアス。それをエニマで切り裂く杏利。

「バニスド!!」

 すると、今度はトリアスの目の前に炎が出現し、杏利に襲い掛かった。

「こんなもの!!」

 再び炎を振り払う杏利。

「スパルビ!!」

 トリアスは巨大な雷を飛ばしてきた。バニスドとスパルビ。どちらも中級魔法で、バニスとスパルクの上位にあたる魔法である。

「マジックガード!!」

「くぅっ!」

 すかさずエニマがマジックガードを唱えるが、中級魔法だけあって完全に防ぎきる事は出来ず、杏利は少しダメージを負う。

「コフィラナ!! アクアロン!!」

 巨大な氷と水の塊を飛ばすトリアス。本来の力を取り戻した事で、魔法を織り混ぜた戦いが可能になったのだ。

「くっ……」

 範囲の大きな攻撃で、防ぎきれない。杏利は仕方なく、村長の家の中を走り回ってかわす。こんな狭いところにいては、とても戦いにならない。

「たぁっ!」

 杏利は窓を突き破って外に飛び出し、トリアスの背後に回り込んでエニマを巨大化させ、斬りつけた。通常時の攻撃が効かないとわかっている以上、無駄な攻撃はしない。さっさと有効な攻撃方法を使い、勝負を終わらせる。

 しかし、杏利の攻撃は弾かれてしまった。

「なっ!?」

「ラチェイン!!」

「うっ!!」

 さっき効いたはずの攻撃が効かなかった事に驚き、一瞬杏利の動きが鈍ったところを、トリアスの拘束魔法が捕らえた。

「だから言ったではないか。先程までと同じようにはいかぬと」

 分身を回収する事で、トリアスは防御力まで増したのだ。そのまま、右の前足を握り込み、杏利を殴り付ける。

「アタックガード!!」

 咄嗟に防御力強化の魔法を使うエニマ。しかし、邪竜ほど強力な攻撃力の持ち主が相手では、軽減しきれない。

「アタックガードか……ディリーテスで解いてはラチェインまで解けてしまうな。仕方ない。ではこのまま、なぶり殺しといこう!」

 ディリーテスは魔法を無効化する魔法だ。バニスやスパルクのような攻撃魔法はもちろん、アタックガードやマジックガードのようなバリア系魔法も解除出来る。

 しかし、ラチェインのような相手の動きを止める魔法まで解除されてしまう為、このまま不用意に使えば杏利を自由にしてしまう。少々時間はかかるが、先程の憂さ晴らしも兼ねて、杏利をなぶり殺しにする事にした。

「ほらっ! ほらっ! ほらぁっ!」

「うっ! ぐっ!」

 ラチェインは相手の動きを止める魔法だが、精度が上がれば相手をその空間に固定する事も出来る。杏利はいくら殴られても、蹴られても、尻尾で打ちのめされても、吹き飛ばされない。逃げる事も、エニマで受ける事さえ、出来ない。

「させるか!! もう一度アタックガードを……!!」

「いらないわ!!」

 エニマはもう一度アタックガードを使おうとしたが、杏利はそれを拒否し、トリアスに殴られ続ける。

「そんな事しなくても、自力でこいつを解いてぶちのめしてやる!!」

「無理じゃ!! 拘束魔法は力技では解けん!!」

 杏利は全身に力を込めるが、身体は動かない。ラチェインが解けない。

「やってみせる!!」

 さらに力を込める杏利。殴られながら、杏利はトリアスがした事を思い出す。村人を襲い、暴虐の限りを尽くし、搾取を続けている。人間をとことん侮辱し、舐めている真似だ。

「ううう……!!」

 許せない。必ずぶちのめす。杏利はさらに力を込めていく。

「さて、そろそろ終わりだ。お前を殺したら、この村を食い尽くして他の村に行くとしよう」

 口の中に炎を溜めていくトリアス。あの炎を受けたら、アタックガードがあっても助からない。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 杏利はトリアスの言葉に激怒し、さらに力を込めた。


 杏利の身体が強く発光し、遂に杏利はラチェインを解く。

「ば、馬鹿な!?」

 驚いたトリアスは炎を吐くのを中断した。

「!! これは……」

 エニマはこの光を知っている。加護の強化だ。使用者とエニマの練度と適合率が一定値を突破し、加護が強化された証しだ。光はすぐ治まったが、強化された加護の力は残っている。

「はぁぁぁっ!!!」

 今の杏利の身体能力は、先程までの四倍。跳躍し、トリアスの顔面を殴り付ける。

「ぐぁぁぁっ!!」

 トリアスの巨体が転倒した。杏利の攻撃は、まだ終わらない。

「はっ!!」

 着地した杏利は、トリアスの尻尾を切り落とす。

「ぎゃあああああ!!!」

 絶叫するトリアス。だが、こんなもので杏利の怒りは治まらない。

「テメェは塵一つ残さねぇ……!!!」

 杏利はエニマを振り上げ、さらにエニマを巨大化させた。それだけでなく、エニマの刃に魔力を纏わせる。ガンゴニールストライクの魔力だ。しかし、杏利自身はその魔力を全く纏わず、エニマにのみ纏わせている。トリアスは起き上がったが、もう遅い。

「ガンゴニィィィィィィィィルッ!!! スラァァァァァァァァァァァァッシュッ!!!!」

 杏利は怒りに任せてエニマを降り下ろし、新たなる必殺技、ガンゴニールスラッシュを喰らわせた。

「グガァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 エニマの切れ味で切り裂かれ、魔力で爆砕され、断末魔を上げながら消滅するトリアス。

「はぁっ、はぁっ……!!」

 荒い息継ぎをする杏利。力を使いきり、エニマは元に戻る。

「やったな、杏利!」

 エニマは戦いの終わりを告げた。



 杏利とエニマの活躍によって、村を支配していた邪竜の恐怖は消え去った。村では三日三晩、宴が開催され、杏利もエニマも楽しんだ。



 たっぷり英気を養った二人は、再び魔王討伐に向けて出発する。

「最初トリアスを倒した時能力を奪えなかったのは、倒した相手が分身だったからみたいね」

「うむ。恥ずかしい話じゃが、分身する相手など初めて倒したから、今までわからんかった」

 今回の一件で、一人と一本はスキル強奪能力について新しい発見をした。敵が分身能力を持っていた場合、分身の本体、あるいは分身全てを倒さないと能力は奪えないという事。この方法は、相手が分身かどうか判別するのにも使える。

「ところで杏利。わしは今回の戦いで、新しい能力を得た。それをお前に見せようと思うんじゃ」

「新しい能力?」

「……ふむ。服装は、杏利とお揃いがいいな」

 そう言ったかと思うと、エニマが杏利の手から離れ、光に包まれる。光の中で、エニマの姿が変わっていくのがわかった。

「……あっ……!」

 エニマが何の能力を使おうとしているのか、杏利は理解した。トリアスが村を支配する為に使っていた能力、人化能力だ。エニマは今、人間になろうとしているのである。

「うむ。人の肉身を得るなど、実に七百年ぶりじゃな。どうじゃ杏利? 人化したわしは美しいじゃろ?」

 人間の姿に変身出来て、満足そうなエニマ。しかし杏利は、怪訝そうな顔でエニマを見ている。

「どうした杏利?」

「……いや、まぁ、可愛いって言ったら可愛いけど、美しいかどうかは……」

「何じゃ?」

 どうもわかっていないようなので、杏利はポーチから手鏡を出してエニマに見せる。

「な、何じゃこのちんちくりんは!?」

 エニマは杏利と同年代の女性になろうと思っていた。しかし、エニマが化けたのは金髪でポニーテールの、小学六年生くらいの幼女だったのだ。

「こ、こんなはずでは……」

「……あ。でもさ、もっと人化出来る敵を倒せばいいんじゃないの?」

 どうやらトリアスの人化能力は不充分だったらしい。しかしエニマのスキル強奪能力は、不充分な能力でも複数強奪する事で、精度を上げる事が出来る。また倒せばいいのだ。

「それに、あんたが可愛い事に違いはないしね」

「あ、杏利……!」

 杏利は落ち込むエニマの手を取った。エニマの顔が、ぱあっと輝く。

「さ、行きましょ!」

「うむ!」

 心機一転。一人と一本、いや、二人は次の場所へと旅立った。

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