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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第18章 強さの在り方
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教官レオン③

 レオン教官が組織に戻ってきて1日が経った。

 朝、食堂でばったり顔を合わせると、教官は俺を向かいの席に座るよう促す。素直に従うと、教官は朝食を口に運ぶ手は止めないまま話し出す。


「久々にこっちにきたんだ。街に出るから、お前も来い。荷物持ちだ」


「は、はぁ……」


「なんだ、そのやる気なさげな返事は」


 じとり、と睨まれてしまい、慌てて言葉を続ける。


「いや、教官のことだから、さっさと訓練するぞって言い出すかと思ったので拍子抜けしたというか」


「お前のためだけに時間割けるかよ。こっちにも予定ってものがあるんだ。急かさなくても、終わったら弛んだ精神みっちり鍛え直してやるから安心しろ」


「それは安心できません……」


「ほら、時間の無駄だ。さっさとお前も食っちまえ」


「分かりましたよ。それにしても、朝だからって、それで足りるんですか?」


 教官の前に置かれた盆の上には、今食べている食パンのトーストがのせられていた白皿が1枚と、コーヒーが入ったカップが1つあるきりである。朝からそれなりに量をとる自分と比べると、その差は明らかだった。以前は、朝であってももう少ししっかり食べていたと思ったのだが。


「5年も組織から離れてたんだ。前みたいな量、いきなり食えるわけないだろ。これが普通なんだよ」


 確かに、そんなものだろうか。組織にいた頃と比べれば、それほどエネルギーを使わない生活を送っていたのだろう。どんな生活をしていたのか詳しいことは教えてもらえなかったため、あくまでも想像でしかないけれど。

 そんなやりとりをしていて、少し不思議に思った。


「なんか、教官少し優しくなりました?」


「俺はいつでも優しいだろ」


「いやいやいや……前は、もっとこう、手がすぐ出ていたというか」


 前は、こうした他愛もない質問をするたび、いちいちくだらないことを聞いてくるなと怒られたり、殴られたりだった。それでも、しっかり質問には答えてくれるのだったが。


「なんだ、殴られたかったのか?」


 俺の話を聞いた教官は、すっ、と食事をとる手を止める。俺は急いでそれを制した。


「違います、違います!ただ、変わったなぁと思って」


「そりゃあ、変わるだろうよ。ずっと同じまま変わらない生き物なんていないだろ」


「まぁ、そうなんですけど」


「ごちそうさん。先にエントランスに行ってるからな。さっさと食って、外出許可もらって来い」


 いつの間にか食べ終わっていた教官は、さっさと片づけを済ませて食堂から出ていった。

 やっぱり、変わったなぁと思う。別に、それが悪いという意味ではないのだけれど、なんだか落ち着かない。そんなことを考えつつ俺も食事を済ませ、外出許可をもらった後、教官の元へと向かった。


 教官と合流し、久しぶりに街を散策する。そういえば、最近いろいろあって、こんな風にゆっくり出歩くことはなかった。口数が多い方ではない教官と俺は、黙々と何を話すでもなく歩き続けた。どこに向かっているのかもよく分からないが、教官のあとをついていく。

 しばらく街をうろつき、ふらりと立ち寄ったのは「最後の砦」だった。ここに来るのも、いつぶりだろうか。文字が消えかけた看板を見上げながら思う。

 中に入ると、看板娘のハーフケットシーの少女、ルルが出迎えてくれた。


「あっ、ファスさんいらっしゃいませー!!それと、レオンさん?にゃあ、お久しぶりです!!」


「お前、ルルか。もうすっかり看板娘が板についたな」


「にゃあ……お兄ちゃんには怒られてばっかりなんですけどね。代金の支払い、もっとちゃんとさせろって」


「はは、ロロは今も相変わらずか。あいつは金の亡者だろ。まぁ、言ってることは尤もな部分もあるけどな」


 ルルの兄のロロとは、フォグリアの扉破壊騒動で顔を合わせている。あれは、なかなか強烈だった。

 教官と話し終えると、ルルは遠慮がちに俺に尋ねる。


「ファスさん、エイドさんは見つかりましたか?」


「いや、まだだ」


 やはり、ルルのところにも噂は広まっているのか。俺がまだ見つかっていないことを伝えると、白銀の猫耳がぺたりと垂れる。


「そうですか……見つかったら、また店に顔を出してくださいって言っておいてください。待ってますから」


「ああ、分かった」


 この様子だと、相当心配してくれているのだろう。なおさら早く見つけなければと思った。

 ルルとそんなやり取りをしていると、奥の仕事場から、ルルの父親で鍛冶職人のバルドが顔を出した。


「レオンって聞こえたが、本当にあのレオンか。随分と痩せちまって、大丈夫か?」


 教官とは顔見知りだったらしく、驚いたようにバルドの目が丸くなる。教官はうんざりした顔でため息をひとつついた。


「会うやつみんなそれ聞くのな。組織にいた時みたいにバリバリ訓練とかしてねーんだよ。こんなもんだろ」


 俺が感じていたように皆も教官の変化を心配している。ただ、本人が何でもないと言うものだから、それ以上深く聞きはしないのだが。

 あまり納得いかない顔をしながらも、バルドも追及はしなかった。代わりに、くるりと表情を一転させて俺の頭をがしがし撫でる。結構な力でそうするものだから、首がもっていかれそうになった。


「そっちも久しぶりだな、坊主。もう完成してるぜ。最近来なくなったから、届けに行くか迷ってたところだ。まぁ、お前も色々あったんだろうからな」


 色々というのは、おそらくエイドのことを指しているのだろう。それ以外にも、ここ最近は本当に色々なことがあった。まだ解決していないことも、不安なこともあるけど、悪いことばかりでもなかったのは確かだ。

 その後、バルドの仕事場に呼ばれ、前からつくってもらっていた俺用の武器を受け取った。幼いころから使い慣れたグラディウスと型は変わらないが、より軽く丈夫に、使いやすく改良されている。装飾はいらないと頼んだので、シンプルなつくりだ。


「ありがとう。これ、光と……闇の魔法の属性補助効果付いてるのか?」


 手にとってみると、自分の中の魔力がふっ、と高まるような不思議な感覚がした。属性補助効果がついた武器は、魔力があまり高くないひとや、コントロールが苦手なひとに重宝されている。

 こちらから頼んだわけではなかったが、俺は後者の人間なので、バルドの施してくれたことは大いに役に立つだろう。


「ああ、坊主は光と闇のコアを持ってるみたいだったからな。ちょうどいいと思ったんだ」


「ちょうどいいって、どういうことなんだ?」


「俺は、いつか光と闇の属性補助効果がついた武器を作らないといけなかったんだ。兄弟との約束があってな」


 バルドは、そう言って昔話を始める。

 バルドの家は、代々鍛冶屋を営んでいた。父親は名工で、彼の作る武器は大変重宝されたそうだ。その息子4人のうち、次男バルドとその兄は父親と同じく鍛冶屋の道を選ぶ。

 時は流れ、名工である父は亡くなった。亡くなる間際、父は息子たちにそれぞれ自分でも傑作だと自負する名刀を一振りずつ譲り渡した。いずれ、その名刀に相応しい使い手に渡すようにと言い残して、父は息を引き取った。

 その名刀こそ、エイドが受け継いだ名刀、桜と不知火だった。残りの二振り、夕立と吹雪は弟たちが持っているという。バルド自身が譲り受けたのは桜のみだったが、同じく鍛冶の道を選んだ兄が病に倒れ、この先どうなるか分からないからと自らが受け継いだ不知火を預けたため、バルドが桜と不知火を所持する形となっていた。兄はまだ生きているが、とても仕事ができる状態ではないらしい。しかし、バルドと兄の間には、どうしても果たしたい約束があった。

 父が果たせなかったことを、自分たちが成し遂げよう。そうふたりは約束していた。父は、生前四振りの名刀を生み出した。しかし、四振り合わせて四季四刀しきよんとうと呼ばれるそれは不完全であった。

 光の属性を持つ刀と、闇の属性を持つ刀、二振りを作って初めて、名刀は完成する予定だった。しかし、残りの二振りを完成させることは叶わずに父は亡くなってしまう。

 六元六刀むげんろくとうを完成させることこそ、父の願いであり、息子たちが引き継ぐ父の意志だった。兄が倒れ、それを叶えるためには、バルドが光と闇の属性を持つ武器を完成させる必要があった。しかし、名工と呼ばれた父に負けないものが作れるのかという重圧の中で、どうにも重い腰を上げられずにいたのだという。

 そんな時、俺はバルドと出会った。ちょうど組織に入隊したてで、エイドと一緒に武器を探しに来た時だ。俺と初めて会った時、バルドは急に作ろうと思い至ったのだという。理由を聞いても、直感だと言われてしまった。

 

「でもこれ、刀じゃないだろ。俺に合わせて良かったのか?」


「武器は使われてこそだ。形にこだわって、持ち主をおろそかにしたら意味がない。それに、俺には親父ほどのものは作れない。へたに真似るよりいいだろうさ。親父ほどではないにしろ、俺が今まで作ってきたものの中では最高傑作だぜ」


「こいつ、名前はあるのか?桜とか不知火みたいに」


 その問いに少し考えてから、バルドは答える。


「表裏一体――ってところか。光と闇は表と裏みたいなもんで、互いに切り離せない。そう考えれば、光と闇をひとつの剣にするっていうのも、間違っちゃいなかったな」


「切り離せない……か」


 その言葉が、妙に耳に残った。

 話が終わったのを見ていたのか、武器コーナーを物色していた教官がバルドに尋ねる。


「俺も何か買ってくかな。軽めの剣は置いてるか?」


「おう、その辺の棚に置いてあるやつは軽くて丈夫だぜ」


「そうか、じゃあおすすめのやつ貰うかな」


「俺の一押しはこいつだが、補助効果はついてない。それでもいいのか?」


「ああ、必要ない・・・・。あっても、意味がない・・・・・からな」


 教官の答えにバルドは、そうか、と難しい顔で頷くだけだった。俺も、内心どうしてだろうと思った。元々、魔法を使う人ではないし、それよりも使いやすさを重視したというところだろうか。

 おすすめされた短剣を購入すると、教官はさっさと帰るぞと急かす。こういうところは、相変わらず自由な人だ。

 見送りとして、バルドとルルが店先まで出てきてくれる。


「ありがとーございました!また来て下さいねー!!」


「また顔出せよ」


「これ、ありがとう。メンテナンスの時にでも、また来る」


「おう、気をつけてな。レオンも、また来いよ」


 しかし、教官はふい、と顔を逸らして何も答えはしなかった。


「行くぞ、馬鹿餓鬼」


「ちょっと、待ってくださいよ!」


 挨拶くらいしたらいいのにと言おうと思ったが、教官はどんどん先に行ってしまう。昔からだいぶ自由な人ではあったが、俺以外の相手にこんな態度をとる人だっただろうか。 

 教官は何も教えてくれないけど、やっぱり会っていなかった5年の間に変わったなと思った。

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