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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第17章 最悪な遭遇
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討伐任務見学⑤

 最高司令官室へと向かっている途中、救護室の近くを通りかかった。すると、前方から見覚えのある人影が現れる。その姿を確認した俺は、思わず足を止めた。同じようにロジャードも足を止め、嬉しそうに顔を綻ばせる。


「その様子なら、上手くいったんだな」


 前方からやってきた人影──ロジャードの彼女メルカは、俺の姿を確認してから、ロジャードに視線を移した。


「うん、大丈夫だったよ。分かってもらえた」


「そうか、良かったな」


 話についていけない俺は、2人の会話に首を傾げた。俺のことを話しているのは分かったが、それならなぜ、俺のことをメルカは責めないのか。


「今回は無事に済んだみたいだし、これからもこの頼りない男を頼むよ」


 それどころか、そんなことを頼んでくるメルカに、俺は聞かずにいられなかった。


「いいのか?ロジャードを傷つけたのは俺だ。それは事実なのに」


「こいつがいいって言ってるんだ。あたしがどうこう言うことじゃないよ。それに、あたしがこいつの立場でも、たぶんそうしただろうからさ」


 メルカは何でもないような顔で、そう答えた。思わず唖然としてしまう。どれだけ、この2人はお人好しなのだろうか。最初に見た時は仲が悪いのかと思ったが、実は似た者同士で、お互いのことをよく分かっているからこその対応だったのかもしれない。


「外出許可はもらってるだろうけど、ちゃんと療養もしとけよ。退屈だからとかいう理由でずっと出歩いてたら治るもんも治らないし」


 心配はしているのかメルカがそう忠告する。


「まぁ救護室にいるのは退屈だったけど、メルカに看病してもらえるなら、それもいいかなーなんて」


 実にロジャードらしい返答をしたが、それは呆れた顔のメルカにばっさり切られる。


「あたしは仕事があるから、もう帰るぞ?元気そうだし、もう看病はいらないだろ」


「え……」


 絶望したような顔で、ロジャードは固まる。別れの挨拶を軽く済ませると、メルカはその横を通り過ぎていった。


 床に手をついてがっくり項垂れるロジャードをどうしようかと思っていると、メルカと入れ替わりに、ルーテルと顔を合わせることになった。知り合いに会うのは、やはり勇気がいった。今回の件は、ルーテルも知っているはずだ。

 俺を見たルーテルは、迷わずこちらにやってくる。近づいたところでロジャードに気がつき、困惑した顔でこちらに尋ねる。


「ロジャードは、どうしたの?」


「ああ、いや……そっとして置いてくれ」


 メルカ、メルカ、と壊れた機械のように呟くロジャードが、どうにも可哀想になった。落ち着くまでそっとしておこう。


「そ、そう……分かった。ファスは、大丈夫?」


「俺は何ともない」


「そう、良かった」


「本当に良かったのか、これで。どうして、こんなにすんなり俺は解放されたんだ?」


 どうして解放されたのか、それは未だに謎だった。少し悩んだ後、ルーテルはそこに至るまでの事情を素直に話し出す。


「ゼロさんは、ファスの拘束を解くのに反対してたの。仲間を傷つける危険性が高い隊員を放って置くことはできないって」


 それは、真っ当な意見だ。だからこそ、俺の今の状況が飲み込めない。


「私が言っても聞いてもらえなかった。でも、ロジャードが頼んだんだよ、ファスのこと解放してくれって。すごく必死だった」


 ルーテルは、そう続けた。

 頼んだ、といっても、あのゼロを納得させるのは相当至難の業だろう。それを成し遂げたということは、本当に必死・・に頼んでくれたはずだ。


「当の本人が言ってるわけだから、ゼロさんも少し考えたみたいでね。もう次はないってことを条件に、ファスの拘束を解くのを司令官に頼んでくれたみたいなんだよ」


「どうして、俺なんかのためにそこまで……」


「どうでもいいと思ってる相手に、そこまでしないよ。ロジャードにとって、ファスは大事な存在なんだと思う。だからファスも、その想いに応えてあげて欲しいな」


「……ああ」


 友達だと言ってくれたロジャード。その言葉は本物だった。俺も、嬉しかったんだ、その言葉が。だから、少し素直にならないといけないだろう。俺も、変わらないといけないだろう。今まで、傷つけることが怖くて、ひとりで生きようとしてきた。でも、そんなの無理だった。ひとりで生きていけるほど、俺は強くない。エイドがいなくなってみて、自分の脆さを知った。

 自分のことなんて、どうでもいいと思っていた。でも、嬉しいと感じることがある。寂しいと感じることがある。自分の感情は素直だった。気づくのが遅かったけど、誰かに手を差し伸べられることを、俺は心のどこかで願っていたのだろう。

 ロジャードは、俺に手を差し伸べてくれた。今度は、傷つけるんじゃなくて、守れるように。そうしたら、本当の友達になれると思うから。後悔なんて、させたくないから。


 その後、復活したロジャードがルーテルに気がつき絡もうとしたが、華麗にかわされ、また落ち込むことになった。今日だけで、随分と感情の起伏が激しいようだ。

 落ち着いてから、俺とロジャードは最高司令官室に向かった。部屋にいたのは、最高司令官ネオとその息子のゼロ、そしてソワンだった。ネオとゼロは厳しい表情でこちらを見ている。ソワンの表情は曇っていた。エイドの件もある中で、本当に申し訳ないことをしてしまった。

 司令官の前まで進む俺のすぐ後ろを、真剣な顔でロジャードがついてくる。ロジャードの姿を見たネオは体調を尋ね、ロジャードは問題ないと答えた。問題ないことはないだろうに。

 俺が、今回の件について、謝って許されるものではないだろうが謝罪しようとすると、その前にゼロが頭を下げてきた。


「今回の件は、未然に防げなかった私にも責任がある。すまなかった」


 なぜゼロが謝るのか困惑していると、ネオが今後の処遇について説明を始める。


「今回は、監視の不注意があったことをゼロも認めている。何より、ロジャード本人が君の解放を強く望んでいた。今回の件は、これ以上問題にしないこととする。しかし、次はない。それは、心しておくように」


「ゼロは悪くない。あいつを抑えられなかった、俺の責任だ。……すみませんでした」

 

 今回の件は、テミス送りにならなかっただけでも良かったというのに、これ以上問題にしないなどというのは、どれだけ寛大な措置なのだろう。いくら謝っても足りないくらい、十分な処遇だった。

 ひと通り話し終えてから、ネオの表情が少しだけ優しいものになる。


「だが──君のおかげで、デゼルの注意が他の隊員たちに逸れることはなかった。君がいたから、助かった命もある」


 司令官の言葉に、俺は不意を突かれる。


「これからも組織の一員として、よろしく頼むぞ」


 ネオは、そう俺に告げた。

 俺は、まだここにいても良いのだろうか。俺は色々なひとたちに救われた。今までだってそうだった。それなのに、俺は未だに何も返せないでいる。

 まだここにいることを許されるのなら、少しずつ返していこう。俺に、できる限りのことを。 

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