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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第1章 鋭い眼光と硬い装甲
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タルトゥーガ討伐戦④

 街を見て回ると、何とかしてタルトゥーガの動きを止めようと、番人ガーディアンたちが必死になって戦っていた。再び封印を試みているのか、その手にはプリゾナの結晶が握られている。しかし、封印術を使おうにも、術を発動させるまでの時間が稼げない。次々と、番人ガーディアンたちが吹っ飛ばされていく。


「みなさんは下がっていてください!後は、我々アブソリュート隊員が何とかします!」


 隊員たちが避難を誘導するも、何やら言うことを聞かない住民がいるようだ。番人ガーディアンの男性が、止める隊員たちの手を振り払う。


「これは、私たちの封印術が解かれてしまったことが原因です。その未熟さ故に、あなた方を危険にさらしてしまいました。やれるだけのことは、やらせていただきます」


「しかし……」


「これ以上、治療の手間が増えては困る」


 戦う気でいる番人ガーディアンの男性の前に、メディアスが現れた。その背には、タルトゥーガの被害を受けたであろう負傷者が背負われている。


「もし怪我をしても、放っておいてもらってかまいませんから……」


 それでも退かない男性に、メディアスは語気を強める。

 

「そんなこと、できるわけがないだろう。俺たちは、住民の安全を確保することが任務だ。仕事の邪魔をするな。どうしても何かしたいというのなら、怪我している者を、フェニックスに運ぶのを手伝え。その方が、何倍も役に立つ」


「……分かりました。タルトゥーガは、お任せします」


 メディアスの言葉を聞いて、ようやく納得したように頷くと、傷ついた仲間たちの元へと走って行った。それを確認すると、メディアスも背負っていた男性をフェニックスの方へと運び始める。

 俺も、自分の仕事をしないとな。


 とりあえず、目の前に接近してきていた1頭のタルトゥーガに標準を合わせる。弱点は関節付近だという話だったな。だが、まずは攻撃してみないと始まらない。

 左手に握ったグラディウスに光を纏わせ、俺から見て右の前足を狙う。だが、その攻撃が届く前に、タルトゥーガは危険を察知し、甲羅の中に頭や足を引っ込めた。この状態では攻撃が効かない。いったん、俺は後ろに飛びのいた。

 しかし、しばらく待っても、再び出てくる様子がない。今なら、間合いを詰められるか?そう思って、俺はタルトゥーガに接近した。だが、それはあまりにも軽率な行動だった。


「なっ!?」


 俺が手の届く距離くらいまで近づいた瞬間、タルトゥーガの甲羅から鋭い棘が何本も出現した。それは俺のいる位置まで届き、左腕を貫通した。慌てて引き抜き、右手で傷口を抑えながら大きく後ろに下がる。


「くそっ……その状態でも攻撃できるとか、反則だろ」


 でも、よくよく思い出してみれば、この情報は与えられていたのだった。俺が忘れていただけか。


「利き腕をやられた……」


 左腕は、タルトゥーガの鋭い棘で貫かれ、どくどくと血が溢れていた。応急処置で、持っていた白い布を巻き付ける。しかし、その布も、すぐに赤く染まってしまった。何とかグラディウスを握ってはいるが、いつものように振り回せそうにはない。

 そんな様子を知ってか知らずか、他のタルトゥーガたちが俺の周りに集まってきていた。さっきのタルトゥーガも甲羅から再び顔を出し、俺の方に近づいてくる。


「くそっ……魔法で攻めるしかないか」


 これは、本当にまずいかもしれない。


****


 フェニックス内部では、怪我をした住民たちの治療が行われていた。メディアスは隊員たちに指示を出しながら、誰よりも多くの患者を診ていく。もちろん、いい加減な治療ではなく、どれも的確な処置だ。

 鬼と恐れられるメディアスだが、誰よりも自分に厳しい。他者に注意する分、自分は隙を作らないようにしなければならない。それが彼のやり方だ。


「状態の判断を的確にしろ。重傷者が優先だ」


「……あ!メディアスさん、ファスさんが!」


 突然、エルフィアが外を指さす。忙しく動いていたメディアスだったが、その声に振り向く。エルフィアが指さす方を見てみると、そこには5頭のタルトゥーガに囲まれるファスの姿があった。


「あいつ……だから、単独行動をするなと言ったのに」


 メディアスは、ファスが左腕を庇っていることに気がついた。思うように使えない左腕の代わりに、何とか光魔法で対抗策を打ち出したようだが、怪我の痛みのせいなのか上手く魔法の形成ができていない。このままでは、やられるのも時間の問題だろう。

 見かねたメディアスが、ひとつ大きなため息をつく。


「ここ、少し任せるぞ」


****


「くっ……」


 左腕の痛みで、集中力が切れる。集中することは、魔法形成において非常に大切なことなんだと、講義のとき聞いた気がする。本当に、その通りだ。魔法を形成しようにも、安定しない。さっきから、雷撃サンダーを形成しようとしているのだが、バチバチとわずかに形になりかけてはいるものの、すぐに消えてしまう。


「まずい……これは本当にまずいぞ」


 タルトゥーガたちは、そんなことお構いなしに俺の周りを取り囲み、距離を詰めてくる。これはピンチだ。逃げ場がない。

 何だっけな、この感じ。前にもあったな、本気で“死”を考えた瞬間。あれは、そうだ。まだ俺が5歳くらいの時か。俺が、この組織に入るきっかけになった事件の時だ。ああ、嫌だな。よりにもよって、あの時と状況が似すぎている。10年生き延びて、結局は皆と同じ運命を辿るのか。


「水のコアよ、鎖となりて敵を取り巻け。火のコアよ、その力を鎮め冷気を与えよ」


 俺が諦めかけた時、張りがあり、よく通る声が響いた。


「メディアス!」


 驚いて振り返ると、そこには詠唱するメディアスが立っていた。俺の聞き間違いでないならば、メディアスは2つのコアを同時に使うつもりだ。同時に2つ以上のコアを扱うには技術が必要で、誰にでもできる代物ではない。

 タルトゥーガの方に視線を戻してみると、タルトゥーガたちは水でできた鎖のようなもので縛りつけられていた。精度はさすがだが、ここまでは普通の水魔法だ。ここから、どうするつもりだろうか?


氷刃ひょうじん


 メディアスは最後の言葉を詠唱する。すると、先ほどまで液体だった水が固体となり、鋭い氷の刃へと変化した。そして、その刃がタルトゥーガに突き刺さる。しかし、硬いタルトゥーガの体にはダメージを与えられず、氷の刃は粉々に砕かれてしまった。

 だが、突然タルトゥーガが苦しそうな鳴き声をあげる。どうしたのかと見てみると、何と左後ろ脚の関節部分に氷の刃が刺さっていた。あそこが弱点か!

 水で全身を包み込み、氷に変化させる。弱点がどこにあるか一回一回攻撃して確認するよりも、こっちの方が何倍も効率がいい。


「これで弱点は分かっただろう。後はお前の仕事だ。俺はまだ治療が残っている。コアを無駄にはできないからな」


 不機嫌そうにしながらも、メディアスは俺の左腕に治癒魔法をかける。治癒魔法には個人差もあるが、一瞬で傷が消え去るような代物ではない。完治には、それなりに時間がかかる。しかし、メディアスの治療は、今の俺には十分だった。全回復とはいかないものの、止血と鎮痛は完璧だ。グラディウスを振り回すまでにはいかないものの、魔法の形成に支障はない。これなら、まだ戦える。


「……助かった」


 諦めかけていたが、今回もまた俺は命拾いした。

 先ほどまでは形成が上手くいかなかったが、今度は両手にちゃんと雷の力が集まる。そして、メディアスが突き刺した氷の刃がある部分を狙って魔力を開放した。


雷撃(サンダー)!」


 5方向に分かれた雷は、まっすぐにタルトゥーガの弱点をめがけて走った。そして、その雷を受けたタルトゥーガたちが体勢を崩す。ようやく、まともに攻撃が通じたようだ。


「よし、これを繰り返せばいける!」


 確かな手ごたえを感じ、突破口が開けた。そう感じた時だった。


(つまらないね。チマチマやって、何が面白いのさ?ていうか、何でこんなやつ相手に怪我してるの。本当に弱いね、お前は)


 頭の中に、突然あいつの意識が飛び込んでくる。馬鹿にするような笑い声が聞こえてくるようだった。


「こんな時に!」


 あいつ……出てくる気だ。前回もそうだが、やっぱり最近出てくる頻度が多くなっている。せっかく今まで抑え込んできたのに、俺の戦闘任務参加が引き金を引いてしまったか。


「どうした?まさか……」


 メディアスが俺の異変に気がつく。ああ、そのまさかだ。まずい……だめだ。


「離れろ……メディアス」


 そして、俺の意識は闇に呑まれた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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