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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第17章 最悪な遭遇
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討伐任務見学④

 地下からはすんなり出され、俺とロジャードは地上に戻る。許可をもらった、というのはどうやら本当のことらしい。

 地上へ続く階段を上っていくと大きな鉄の扉があり、そこを開くと薄暗い地下に日の光が差し込んだ。目が慣れてから外の様子を確認すると、そこは本部の訓練場の傍であることが分かった。壁で隔てられているためそちらの様子は分からないが、隊員たちの声や剣を交える音が聞こえてくる。壁で隔てられたこちら側には、門番をしている隊員二名を除いて人気(ひとけ)はない。

 外に出てから、ロジャードに、着いていくから手を放すよう伝え、彼もそれを了承する。


「──それで、どこ行くんだよ」


「んー、そういえば決めてなかったなぁ。とりあえず、あそこから出さないとってしか考えてなかったし」


 後のことは特に考えていなかったらしく、ロジャードはうーん、と唸っている。

 もちろん、俺もここから出るつもりがなかったので、行くあてなど決めているはずがないのだが。


「最高司令官のところに行った方がいいだろうな」


 俺がここにいることは、司令官も知っているはずだ。まして、彼の息子が一部始終を見ているのだから尚更だ。俺を解放する許可を出したのは、おそらく司令官だろう。ならば、行ってみる必要はある。

 それを聞いたロジャードは、少し険しい表情をしたあと、決心したように頷いた。


「じゃあ、俺も行くよ」

 

「お前、救護室抜け出してきたんじゃないのか?その怪我でメディアスが外出を許可するとは思えないんだが」


「大丈夫だよ。最初は反対されたけど、最終的には外出許可もらってるから。あの人、思ったより融通利くんだね」


 ロジャードは、少し意外だったなと零した。実質、救護室の管理を主で行っているのはメディアスだ。彼が許可したのならロジャードが咎められることはないだろうが、まさか、あいつが許可を出すなんて。

 結局、ロジャードも同行することになった。

 しかし、最高司令官室に向かおうとした、その時。訓練終わりの隊員たちとばったり顔を合わせることになった。俺たちを見た隊員たちは、ひそひそと話し始める。どうやら、何があったか噂は広まっているらしい。


「ファスだっけ?あいつ、仲間に怪我させたんだってよ」


「うわ、怖っ」


「噂で聞いたんだけど、大人しそうな顔して実は凶暴なんだって」


「エイドの弟だっけ。兄弟揃って怖いな……」


 別に自分のことはいいが、エイドの名前が出ると無視できず、顔はそちらに向いた。すると、目があった隊員たちは「怖い」などといいながら、やや大げさな素振りを見せる。

 今回、アンヴェールが簡単に表に出てきてしまったのは、俺に隙ができていたからだ。エイドのことで、頭がいっぱいだったこともあるだろう。ここで、感情を表に出しては、また同じことを繰り返す。

 だから、何を言われても、冷静でいようと意識した。

 その隊員たちは、怪我をさせた仲間というのがロジャードであることにも気がついているようで、話はそちらにも振られた。


「おい、ロジャード。そいつ、お前を殺そうとしたやつだろ?放っておけよ」


「こいつの兄貴もやばいじゃん?一緒にいてロクなことないぞ」


「あっ、もしかしてこいつに脅されて?」


「マジか!!おい、ロジャードそんなやつの言うこと聞くことな……」


 だんだんと、隊員たちの声は熱を帯びてくる。


「俺の友達のこと悪く言うの止めてくれるかな?」


 それを一喝したのは、ロジャードだった。普段の彼らしからず、その顔からは笑みが消えている。これには、みんな黙ってしまった。想定外の反応に、俺も含め、戸惑いを隠せない。


「エイドさんのことも、俺は何か事情があってのことだと思ってる。まだよく分かってないのに、変な噂は流さないでよ」


 ぽかん、としていると、ロジャードは俺の方を振り返る。


「行こう、ファス」


 未だ口を閉ざしたままの隊員たちを残し、俺たちはその場を離れた。


 何も言えないまま、俺は最高司令官室までの道を、ロジャードと共に歩いていた。すると、沈黙に耐えられなくなったのか、ロジャードが口を開く。


「俺、簡単に見捨てるって、できないみたいなんだよね」


 俺は、黙ってその言葉に耳を傾ける。


「大事なものでも、いつかはなくなっちゃうから。でも、だからこそ、大事にしたいと思うんだ」


 何かを思い出すように、ロジャードは遠くを見ていた。そういえば、俺はこいつのことをあまり知らない。どういう過去があったのかとか、聞いたこともなかった。知ろうとしていなかったのだから当然か。

 

「俺といたら、お前も変な目で見られるぞ」


「そんなのいつものことだよ。俺、問題児だからね」


「お前が思ってるより、重いぞ」


「うーん、俺、馬鹿だから言われただけじゃ分からないんだよね」


「後悔しないのか」


「そんなのまだ分からないよ。初めから後悔すること前提に考えてたら、何もできなくなっちゃうし。ずっとそれに怯えて生きてたら疲れるし、後悔なんて、してから考えるよ」


 俺は、どうしようもなく駄目なやつだけど、周りにいるのはどうしてこんなに優しくて、お人好しなやつばかりなのだろう。


「改めて、これからもよろしく!」


 屈託のない笑顔に、俺はただ頷くことしかできなかった。

 ちゃんと俺に向き合ってくれたことが嬉しくて、言葉にならなかったのだ。


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