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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第17章 最悪な遭遇
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討伐任務見学①

 王位継承、エイドの不可解な行動──組織の上層部では絶対動きがあるはずなのに、まだ訓練生の段階にある俺たちの生活は、気味が悪いほどに変わらなかった。

 王位継承の件は、最初こそ動揺があったものの、しばらくしてみれば国民たちもその決定を受け入れている。元々、その優しい人柄もあって、ディン王子が国民に好かれていたことも関係しているのだろう。

 そちらの件は落ち着きを見せ始めていたが、エイドに関しては、数日経った今でも、消息が掴めないでいた。アルテストの行方も不明なままだ。

 今はまだ、組織の働きかけもあってか、世間にそのことは広まっていないようだが、時間の問題だろう。組織の人間が、世界的有名画家を誘拐した──いったん情報が流れれば、あっという間だ。


 不安を抱えながらも、俺の生活はいつも通りに進む。

 ひとつ違うとすれば、今日は戦闘部隊の新入隊員たちが初めて、野外に出て、先輩が危険性物(モンスター)討伐しているのを見学する予定があることだろうか。

 俺は訓練経験だけでいえばかなり長いが、組織に入隊したのは今年なので、その集団の中にいた。もちろん、こんな時でも監視はつけられているが。


「事情は司令官から聞いている。今日、君の担当となるゼロ=グランソールだ。よろしく頼む」


 今日の担当は司令官の息子だった。以前会った時と同様、目がチカチカするような真っ赤な制服に身を包んでいる。

 本来ならばフォグリアの方が適任な気もするが、タルタロスの森で調査があるらしく、そちらの方が忙しくて来ることができなかったそうだ。俺だけのために時間を割いてもらうわけにはいかないし、当然か。


「顔色が優れないようだが、体調は大丈夫か?」


 ゼロが俺の顔を見て聞いてきた。体調はなんら問題なかったが、晴れやかな気持ちにはなれない。それが顔に出てしまったのだろう。


「ああ……問題ない」


「そうか、無理はしないように」


 それ以上詮索はされなかった。誰からも真面目過ぎると言われている彼は、ひとの言ったことを素直に信じる性質らしい。ひとの裏を読んでこようとはしないので、見落としも多いのだろうなと思う。しかし、今の俺にはそれが楽だった。


「……エイドについて、何か知らないか?」


「エイドがアルテスト殿を誘拐し、消息を絶った。それ以上の情報は知らない。その件に関しては諜報部隊が調べているだろう。特に、諜報部隊の持つ情報の詮索は禁じられているからな。こちらから聞きだすようなことはしない」


 予想はしていたが、模範解答だった。まぁ、ここでエイドにまつわる新情報が出てきたら出てきたで、良いことはなかっただろうが。


 新入隊員たちは複数のグループに分けられ、各班に指導隊員がついている。俺のグループは、俺の監視を務める作戦部隊員のゼロを除き、戦闘部隊員と救護部隊員が3名ずつ配属されていた。もちろん、今回俺は見学側なので、戦闘には参加しない。

 今回討伐の見学をするのは、俺が組織の戦闘部隊に入隊して初めて与えられた戦闘任務で討伐した、危険度は最低ランクのE、ひとつ目玉のコウモリのような危険生物モンスタープリュネルだった。各隊に配属されている戦闘部隊員たちは、プリュネル程度ならばひとりでも問題なく倒せるレベルだ。プリュネルの特徴を説明しながら、指導隊員たちは戦闘準備に入る。新入隊員たちは初めての危険生物モンスター討伐見学とあって、メモをとったり、質問をしたりと、真剣に取り組んでいた。


「うわー、俺あいつ苦手かも……」


 そんな中、プリュネルを見ながら俺の隣でそう呟いたのは、ロジャードだった。俺より1つ年上だが、お前は経験不足だと複数の教官に言われているため、新入隊員たちに混ざって参加していることも多い。この流れにも、もう慣れてきた。


「お前も戦闘部隊員だろ。そのうち相手にすることになる」


「やだなぁ……」


 俺の隣でロジャードがぶつぶつ言っているうちに、戦闘態勢が整ったようだった。

 しかし、その戦闘が始まることはなかったのだが。


 誰もが、口を開けたままそれを見ていた。プリュネル5匹ほどの小集団が、炎にあっという間に焼かれる様を。隊員の誰も動いていないにも関わらず、焼け焦げた個体が地面に落ちる様子を。

 いち早く反応したゼロが、皆を庇うように前に出る。


「衝動的に破壊したくなる時ってあるよね」


 物騒なことを言いながら、立ち込める煙の中を潜り抜けるように、ひとりの男が近づいてくる。その男には、俺も見覚えがありすぎた。隣にいたロジャードも、インダストリア邸で見た男だと気づいたようで、息を呑むのが分かる。


「それで、ちょうどいいところに危険性物(モンスター)がいたもんだから、軽く炙ってみたんだけど」


 デゼルは、炎のように赤い、ギラギラした瞳を俺たちに向けた。


「これはこれは、随分と可愛い戦士たちじゃないか!」


 俺も、ロジャードも、ゼロも、そして何も分からないであろう新入隊員たちも、その場にいた全員が一斉に身を固めた。


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