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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第15章 その誇りとして
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竜人の姫君①

 雲ひとつない青空を、白地に金の鳥の模様が施された機体が飛んでいた。

 スピード重視型の飛行機サンダーバード。その最新型を操縦しているのは、アブソリュート運搬部隊のエース、サナキ=ヴェイキュールだった。

 気持ちのいい日和ではあったが、操縦桿を握るサナキの顔は曇っていた。今回与えられた任務は、あまり気の進むものではない。


「サナキ、操縦中に気を散らすなよ」


 そんな彼を見かねてか、唯一同乗していた整備士のガレットが声をかける。彼の方がサナキよりも5つほど年上だが、歳は関係なく、隊の中で一番気の許せる仲だった。


「分かってるっての。自分以外の命も預かってる時に、下手な運転はしない」


 そうは言うものの、苛ついているのは確かだなと、ガレットは感じていた。

 しかし、それは仕方のないことである。彼の性格を考えれば、こんな任務は引き受けたくなかっただろう。それでも彼が首を縦に振ったのは、司令官の言葉を否定(・・)したかったからに過ぎない。そんなことはないと証明するために、彼は今、操縦桿を握っていた。


 しばらく無言のまま操縦していたサナキだったが、突然あっと声をあげて進行方向を転換する。


「どうした?」


「悪ぃ、少し寄り道する」


 それに気がついたガレットが問うと、焦った様子でサナキは応えた。

 ガレットは立ち上がり、窓の外に目をやる。すると、遠くに小さな鳥のようなものが飛んでいることが分かった。どうやら、サナキはそれに向かっているようだ。

 しかし、近づくにつれて、それが鳥ではないことに気がつく。それが何であるのか、ガレットにも目視で確認できる場所まで近づいた時、彼も驚きで小さく声を漏らした。

 空を飛ぶそれ・・は、こちらの機体に気がつくと向こうから寄ってきた。緊急事態にしか、飛行中に扉を開けるなどということはしないのだが、サナキはサンダーバードの扉を開き、飛んできたものを迎え入れた。


 そうして回収したのは、新緑を思わせる長い髪を後ろで三つ編みにした幼い少女だった。しかも、ただの少女ではない。背中に立派な翼を生やした、竜人(ハーフドラゴン)の少女だ。

 困惑するガレットに操縦を代わってもらい、サナキは少女に駆け寄る。サナキの姿を確認した少女は、ぱあっと目を輝かせて飛びついた。


「サナ!」


「ちょっと、何でこんなところにいるんですか!?しかも、ひとりで?」


 サナキが、珍しく丁寧な口調で話している。しかも、明らかに自分よりひと回りほど年下の少女を相手に。


「サナ、会いたかった!」


「そんな理由で……冗談やめてくださいよ、姫様」


 困惑するサナキをよそに、少女は嬉しそうに飛び跳ねている。しかし、そうすればそうするほど、サナキの顔は雲っていった。

 

 少女を迎えて間もなく、こちらに飛んでくる別の影があった。その姿を確認したサナキは、拒むでもなく扉を開けるようガレットに促す。


「姫様!ご無事ですか!?」


 遅れて飛び乗ってきたのは、濃い緑色の長髪を少女と同じように三つ編みにした、サナキと同じくらいの歳に見える竜人ハーフドラゴンの若い女性だった。

 少女の元気な姿を確認してほっとした様子の女性とは異なり、サナキは強い口調で問いただす。


「おい、ちゃんと見張ってたのか?」


「すまない、サナキ……」


「ほんと、勘弁してくれよ。何のためにオレがここにいるのか、分からなくなる」


「本当にすまなかった」


 頭を下げて謝る女性に、サナキはふうとひとつ息を吐いて怒りを鎮める。そして、いつもの口調で少女を注意した。


「ま、本当に悪いのは姫様ですよ?」


「アリア、サナに会いたかっただけだもん」


「それが駄目だって言ってるんです」


「何で?何でサナと一緒にいちゃいけないの?」


 納得できない、と頬を膨らませる少女にサナキは困ってしまった。


「姫様、早くオボロと帰ってください」


「やだ!」


「姫様、これ以上サナキを困らせないでやってください」


「でも、アリアずっと会いたかったんだもん!」


 オボロと呼ばれた女性も少女をなだめようとするが、少女も頑なだった。


「姫様」


 そんな少女を見て、サナキは口を開いた。


「オレは……会いたくありませんでした」


 絞り出すようにそう言うと、サナキは目を伏せる。

 その言葉を聞いた少女は、ついに口を閉ざした。そして、唇をぎゅっと結び、小刻みに肩を震わせている。


「すまない、サナキ……私からもよく言い聞かせておく」


 そんな少女に寄り添うように、オボロは少女を連れて空へ戻って行った。


 その一部始終を見守っていたガレットが、操縦しながらサナキに尋ねる。


「……いいのか?このまま行かせて」


 あのふたりが誰だったのか詳しくは知らないが、ガレットもサナキから聞いたことのある名前が飛び交っていた。彼にとって大切なひとたちであることには違いないのだろう。それなのに、あのような別れ方をしてしまってよかったのかと心配していたのだった。

 サナキとしても、あれは言いすぎだったかもしれないと思ったが、ああでもしないと退くような子ではないと知っていた。


「いいんだよ。こうなるの分かってたから、任務で立ち寄る時もなるべく会わないようにしてたんだ。ま、これだけ言っても懲りないかもしれないけどなー」


 そして、サナキとガレットは目的地へと向かっていく。

 アブソリュート本部よりはるか南、ひっそりと誰にも気づかれないような場所にある『竜族の集落』へと。


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