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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第1章 鋭い眼光と硬い装甲
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タルトゥーガ討伐戦②

 今回の任地、ウルカグアリ。この間のニュクス村よりは、距離的に近い。この街では何か珍しい鉱石が採れるとかで、それを目当てにいろんなやつが出入りしていると聞く。

 出入りしているやつらには、正式に取引している商人のみらなず、密かに採掘し、不正に売りさばく輩もいるらしい。


 今回は前回と比べて隊員の数が多いため、3台のフェニックスで任地へと向かっている。

 俺は前回同様エルフィアの操縦するものに割り当てられた。それから、メディアスも同乗している。俺の事情を知っている2人だし、意図的だろう。


 エルフィアの操縦するフェニックスに乗りながら、作戦を聞き終わった後は特にすることもないので辺りを観察してみる。

 ふと、機内を歩き回っているメディアスが目に入った。何かを確認しているようだが、どうしたのだろう。

 しばらくそうしてから、メディアスはエルフィアに問いかける。


「ウィンガード、これは新型か?」


「さすがメディアスさん、分かります?やっと新型に乗れるように免許の更新ができたので、今回からなんですよ」


 エルフィアは、嬉しそうに声を弾ませている。しかし、新型って、この間とどこが違うのか、俺にはよく分からない。見た目に変化はないように思えるのだが。


「前のものよりも、回復系統が良くなっている。俺もフェニックスの免許は持っているが、しばらく更新していない。俺が操縦できるのは、だいぶ前の型だ。そろそろ更新した方がいいかもしれないな」


 回復系統……つまりはフェニックスのオプションの性能がよくなったという訳か。土のコアを持っていない俺には、感知できない訳だ。

 操縦士が土のコアを持っていれば常時、回復魔法が乗客に適用され続けているという話だったから、今もそうなのかもしれない。救護部隊員のメディアスなら、そういったものに敏感だろう。


「メディアスさんなら筆記の方は問題なさそうですし、それほど操作に変更はないので実技の方も大丈夫だと思いますよ」


 免許の更新についてはあまり詳しくないが、数年おきに更新しないと失効するくらいは知っている。だが、今の話を聞く限りだと、新型が出る度にも新たに試験を受けなくてはならないようだ。俺はまだ何の免許も持っていないが、大変そうだな。


「検討しておくか。……何だ、俺に用か?」


 2人のやり取りを見ていた俺の視線にメディアスが気がついた。うわ、何か睨まれている気がする。


「い、いや……することがないだけだ」


「暇なら、任務内容の復習でもしておけ。時間を持て余すな」


 メディアスは俺にそう注意し、息を吐いた。


「オプセルヴェは随分とお前を甘やかしたようだな」


「うるさいな……」


 俺はそっぽを向いたが、メディアスの言うことも否定できない。俺の様子にまたため息をつくと、メディアスは俺の隣に座り、勝手に話し出した。


「今回はタルトゥーガの討伐だが、相手にするのは俺も初めてだな」


「そんなに珍しいやつなのか?」


 思わず、俺はそう聞き返した。メディアスの隊員歴は決して短くはないはずだが、それでも戦ったことがないというのだろうか。そういえば、メディアスは救護部隊員だった。でも、彼の口ぶりからして相当、戦闘慣れしていそうだったし、やっぱり珍しいやつなのかもしれない。


「自由に動き回っていることが珍しい。本来、こいつらは封印されているはずなんだ。今回は、何らかの理由でその封印が解かれたと考えるのが妥当だが、どうしてそうなってしまったのか……それが謎だ」


「封印?」


 聞き慣れない言葉に、俺は聞き返す。


「ああ。昔、ウルカグアリ周辺には多くのタルトゥーガが生息していた。だが、あまりにもその被害は大きくてな。ウルカグアリは、鉱石プリゾナが採掘されている場所だ。プリゾナは、ウルカグアリ発祥の種族である番人ガーディアンが、代々伝わる封印術を唱えることで共鳴し、その力を発揮する。番人ガーディアンたちはプリゾナでできた洞窟にタルトゥーガを誘い込み、その中に封印したんだ。特にタルトゥーガはプリゾナとの相性が悪く、この封印術を受けると仮死状態になるらしい」


「ふーん……」


 要するに、これから行く街には番人ガーディアンという種族が暮らしていて、暴れまわっていたタルトゥーガを封印していたってことか。それにしても、プリゾナにはそんな力があったんだな。


「プリゾナにはいろいろな使い道がある。この封印術を利用して、牢獄を作っている国もあるらしい。だが、ここでしか採れないために、希少価値が高い。俺たちアブソリュート隊員には、とても手の届かない代物だな」


 まぁ、アブソリュート隊員は万年金欠だからな。高値で売れるとなれば、それを狙ってくる輩も多くなるわけだ。


「だが、今回の目的はプリゾナじゃない。タルトゥーガの討伐と、住民の安全の確保だ。俺たちは怪我人の治療に専念したい。討伐の方は任せたぞ」


 メディアスはそう言って立ち上がる。そういえば、俺は聞きたいことがあったんだった。


「あ、そうだ。弱点、だっけ?あれ、どうやって見つければいいんだ?」


 俺の問いかけに、メディアスは首を横に振る。


「さっきも言ったが、俺も実際に戦ったことはないんだ。だが、文献によると少なくとも甲羅にはない。大体は関節付近にあるという話だが……実戦でやってみるしかない」


「関節……その辺を集中的に探してみるか」


 とはいえ、どんな姿のやつなのかもよく分からない。封印されていて、ほとんど相手にしたやつがいない危険生物モンスターだ。メディアスは本か何かでその姿を見たことがあるのかもしれないが、ここにいる大多数がその実態を知らないだろう。

 一番知っていそうなメディアスでさえもよく分からない相手なのだから、これ以上の情報は自分の目で確かめるしかない。

 そうひとりで考えていた俺に、メディアスは助言する。


「何でもいいが、単独行動は控えろ。ひとりでやれることには、限界があるからな。怪我をされると、俺の仕事が増える」


「……そうだな」


 なんだかんだで、心配してくれているのか。エイドみたいに分かりやすくはないけどな。


「どうして俺の心配をするんだ?やっぱり、エイドのお……関係者だからか?」


 弟、と言いかけて慌ててその言葉を飲み込む。


「いや、それは関係ない。さっきも言ったが、何かあれば容赦はしないぞ。それにしても、あいつを兄とは呼びにくいか?」


 メディアスはそう聞いてきた。まぁ、呼びにくいかどうかで言えば、そうだ。自分でも、エイドのことは本当の兄貴と変わらないような存在だと思っている。だが、それでも心のどこかで納得していない。どこかで、自分とエイドの間に線を引いてしまっている。


「……まぁ、な。馬鹿だと思うか?」


「いや、いいんじゃないか」


「へ?」


 何か言われるかと思ったのだが、その答えは意外にもあっさりしたものだった。


「何だ、その反応は?」


 メディアスが俺の反応に眉をひそめる。


「い、いや……何か言われるかなと思ったんだけど」


 俺がびくびくしていたのを読み取ったのか、そんなに怯えられてもな、と言ってメディアスは肩をすくめる。こうしてみると、なんで俺はびくびくしていたのかと不思議な感じだ。

 まぁ、メディアスだっていつも厳しいわけじゃないんだろうけど、雰囲気がな。今だって、何だか睨んでるみたいに見えるし。怒られるんじゃないかと思ってしまう。いつもエイドが緩すぎるから、よりそう感じてしまうのかもしれないが。

 だが、話してみるとそうではない一面が見えてくる。見た目で判断してはいけないとよく言うが、他者と話すことをあまりしてこなかった俺は、まず見た目で入ってしまうことが多い。今回の件で、少し反省。


「俺も、お前の気持ちは分かるつもりだ。俺とお前は、少し幼少期の境遇が似ているからな」


 鋭い目つきは変わらずだったが、メディアスはどこか遠くを見つめるように視線を移す。


「それ、どういう……」


「時間だ、行くぞ」


「あ、ああ……」


 それ以上メディアスは答えず、他の隊員たちと最後の確認を始める。幼少期の境遇、か。俺には、あまりいい思い出がない。メディアスは、俺とどこが似ていると言いたかったのだろう。エイドなら、知っているかもしれない。この任務が終わったら、聞いてみようか。

 メディアスの言葉が引っかかりつつも、眼下にはウルカグアリが姿を現し始めていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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