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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第13章 死の叫び
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タルタロスの森 中層②

「駄目だ、外層にはいない。中層に行くしかないかな……」


 外層を捜してはみたものの、今のところ収穫はなし。昼も過ぎたかというところで、フォグリアはそう言った。


「危ないからこの先はあたしに任せて、皆は外層の捜索を続けてて。日が暮れても戻らないようだったら、中層に入って捜そうなんて思わないで組織に戻って報告ね」


 フォグリアがいなくとも外層のメンバーもそれなりにこの森のことは知っているため、無理をしなければ無事に帰れるだろう。それよりも、ひとりで中層に入ろうとするフォグリアの方が心配だった。彼女が強いことは分かっているが、皆も同じ気持ちのようだ。


「俺も行く。そもそも、俺はこっちに残れないからな」


 自分から中層に行くなどと言い出す輩は珍しいのだろう。驚きと好奇の目が向けられる。しかし、俺はそもそもフォグリアからは離れられないのだ。

 中層でアンヴェールが出て来てしまうことが心配ではあるが、あいつ・・・が出てくるのは俺に余裕がなくなった時や、好敵手に出会ったときだ。前者は気をつければ大丈夫だろうが、後者の場合はしばらくそちらに気がいくだろうから、その間にフォグリアには逃げてもらうなりすればいいだろう。このまま外層に残ってアンヴェールがもしも現れた時の方が問題だと考えた。


「そういえば、そうだったね。でも、この先は命の保証はできないよ?」


「誓約書は書いてる」


「君も頑固だねぇ。ま、君がいいならいいか」


 最初は迷っていたが、どうにか納得してくれた。


 俺とフォグリアは、昼の休憩のあと中層の捜索を開始した。

 中層は、外層よりも一層草木が生い茂っており、時折危険生物モンスターの通ったような獣道がある以外は、道なき道を進んで行くしかない。

 さすがにこれは迷ってしまわないだろうかと不安になっていると、前を行くフォグリアがそれを察したのか振り返る。


「大丈夫。私は中層の方が詳しいからね」


 それは、どういうことだろうか。

 しかし、躊躇いなく進んで行く彼女の背を見ていると、そうなのだろうという思いが湧いてくる。それを信頼する以外ないだろう。


「あと、歩きにくいからって、むやみにその辺の植物とか素手で触ったりしちゃ駄目だからね。危ない奴もあるからさ」


 ちょっと言うのが遅い。今日は長袖の制服を着てきたが、手袋は利き手の左手にしかはめていなかった。そっと草をかき分けていた右手を離す。今のところ何もないが、あとから何かあるかもしれない。もうどうしようもないが。


「心配しなくても、今のところ危険な奴はなかったはずだから。見落としてなければ」


 そういえば、彼女は組織の植物研究会に所属していたのだった。植物に関しては詳しいはずである。彼女の言葉が事実であることを祈りたい。


 しばらく捜したが、やはりすぐには見つからない。このままではらちが明かないと判断したフォグリアは、別の方法をとると言いその場に立ち止まり、俺には動かないよう指示した。

 フォグリアは靴を脱ぎ、裸足になる。そして、そのままじっと目を瞑ったまま立つ。

 何をしているのか問えば、足の裏から地面に根を張り、伸ばしているらしい。ただ、普通の根ではなく神経が通っているもので、振動があれば感じ取ることができるそうだ。普通ならできる芸当ではないが、彼女が植物系の種族の血を引いていることに関係がありそうだった。


「誰か近くにいるね」

 

 しばらくして、フォグリアは誰かの動きを感知した。この森では、彼女の先導に任せるしかない。それが捜していた隊員たちであればいいのだが。しかし、感知できたのはひとりだけだったそうだ。いなくなったのは複数名だったはずなので、これが当たりでも全員というわけではない。

 彼女が動きを察知した方向へ急ぐ。すると、しばらくして前方に人影のようなものが現れた。それは木に隠れるようにして、辺りの様子を伺っている。

 暗いため顔までは分からない。果たして捜していた隊員なのか判断しかねるため、武器に手をかけつつ近づいていく。途中でその人影もこちらに気がつき、戦闘態勢に入るのが分かった。攻撃に備えてこちらも身構えたが、それはすぐに解かれる。


「フォグリア!?」


 振り返り際に剣を抜きかけた青年だったが、慌ててそれを止める。左胸には銀の隊員証コアバッジ。どうやら当たりだったようだ。


「本当に来てたんだね、君……」


 驚く青年とは裏腹に、フォグリアは見つけて嬉しそうな顔をするでもなく、険しい表情を浮かべていた。本当に、今日の彼女はおかしい。


「救援信号はどうして出さなかったの?」


「実は追われてるんだ。同じ場所に留まってると危ない」


 顔までは暗くて分からなかったらしいが、調査中に何者かに襲われたらしい。口ぶりから、まだ近くにいるということか。辺りを見回してみたが、視界が悪いためよく分からない。しかし、彼の他には近くに隊員がいないことは分かった。


「一緒に調査に来てた隊員たちはどうしたの?」


「あいつらとは途中ではぐれたんだ。お前たちは会わなかったか?」


「いや、見てないよ」


「そうか……」


 青年はがくりと肩を落とす。

 しかし、そうしてもいられないと、俺たちと一緒に残りの隊員たちの捜索をすると名乗り出た。


 青年は、マレディクスというらしい。それに、俺やフォグリアと同じ隊だ。フォグリアとは知り合いのようだったが、先ほどから視線が合わない。というより、どちらも合わせようとしない。

 その場に居づらくなっていたところで、マレディクスが彼女の名を呼ぶ。


「フォグリア、俺は──」


「今は、仲間を捜してここを出るのが先だよ。森を出たら、いくらでも話は聞くから」


「……そうだな」


 しかし、珍しくフォグリアは話に乗って来ず、マレディクスもそれきり黙ってしまったので、また嫌な静けさに包まれた。


 しかし、その静けさは再び裂かれる。

 マレディクスに向かって、後方から大人の人間ヒューマの顔ほどもある黒い魔法の弾が放たれた。いち早く魔法の気配を察したフォグリアは素早く彼の前に移動し、彼女の武器である蔓型の刃物を使って魔法の軌道を変える。少し反応の遅かったマレディクスは、彼女の機転がなければただでは済まなかっただろう。

 近くの木にぶつかった魔法は炸裂し、その一帯を空き地へと変貌させた。暗い森に、太陽の光が差し込む。


「フォグリア……」


 そう呟くと、驚いてぽかんと口を開けたまま、マレディクスは地面に尻餅をつき、フォグリアを見上げている。彼の前に立って庇うような態勢で構えつつ、フォグリアは攻撃を仕掛けてきた主を捜していた。


 攻撃が仕掛けられた方向に目をやれば、木の上に2つの人影を捉えることができた。

 片方は、場違いな黒いフリルのドレスに身を包んだ長い黒髪の少女だった。歳は俺と同じくらいだろうか。少女は、隣に見覚えのある大男を従えながら不服そうな表情を浮かべている。


「なぜ庇う?そなたを苦しめているのは、そやつだろう。そやつが消えれば、そなたの苦しみはなくなるのではないのか?」


 そう言うと、少女はふわふわと舞うように木から下りる。前にエイドがやっていたような、風魔法による落下速度の調節だろう。隣にいた男も、少女と同じように木から下り、少女の少し後ろからやり取りを見ている。やはり、この男には見覚えがあった。


「そっちのおじさんは、前にも会ったよね。そっちの子も、おじさんも、どうしてあたしにそんなこと聞くのさ」


 フォグリアもそれには気がついていたようだが、俺には何のことだか分からない話も進んでいく。


「逆に聞かせてもらうが、お前はこの場所にいても何も思い出さないのか?」


 男の問いかけに、フォグリアは眉間にしわを寄せながら言葉に詰まる。

 一体何の話をしているのか、俺には分からなかった。マレディクスの方を見れば、彼も何か事情を知っていそうな様子だ。この場で何も知らないのは俺だけか。


「どういうことなんだ?」


 思い切って聞いてみれば、いつもは煩いくらいのフォグリアが消えそうな声で呟くように答える。


「あたしは、ここで産まれたんだ」


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