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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第1章 鋭い眼光と硬い装甲
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タルトゥーガ討伐戦①

 ファスと初めて任務に出てから数日後、エイドはネオに呼ばれ、最高司令官室にやってきた。内容は、またファスを討伐任務に派遣するとのこと。予想していたとはいえ、エイドはなんとも言い難い気分だった。

 それに追い討ちをかけるように、今回はファスとエイドが別任務に就くことを聞かされる。


「え、今回の任務は俺が同行しちゃいけないんですか?」


「君には、別な任務にあたってもらいたい。それに、いつまでも君だけに彼を任せるわけにはいかないだろう」


「それはそうですけど……」


 ネオの言うことも尤もだが、ファスが慣れるまでは同行したいと思っていた。人見知りだし、上手くやっていけるか心配だ。

 そんなエイドの心を見透かすように、ネオは微笑む。


「だが、安心してくれ。今回、彼を任せるのは君もよく知っている隊員だ」


****


「次がお前で本当によかったよ、メディ」


 救護室に向かったエイドは親しげに、眼鏡をかけ、黒い制服の上に白衣を着た、すらりと背の高い人間(ヒューマ)の青年に話しかけていた。青年はエイドを部屋に入れたが、すぐに仕事をするため椅子に座り直し、忙しそうに書類にペンを走らせている。今書いていたものを横に置き、新しい書類に手をかけながら、青年はエイドに応じた。


「今回はたまたまだ」


 メディアス=クラスト。エイドの同期で、ルーテルと同じく救護部隊員だ。彼もエイドと同じく全属性使いコアマスター。この2人は入隊以前からの友人だ。実のところ、エイドと同期の特に親しい友人には、あと3人ほど全属性使いコアマスターがいる。エイドが入隊した年は豊作で、黄金世代などと言われていた時期もあった。


「俺が前に話してたから、引き受けてくれたんだろ?」


「たまたま手が空いていただけだ。お前の弟だからどうこうの話じゃない」


 ちらりと横目でエイドの方を見て、メディアスは冷ややかに言い放った。

 そうクールに言ってはいるが、少しも手が空いているようには見えない。こんな朝早くから、よくこんなに仕事ができるなと感心してしまう。任務前に今日の分はすべて終わらせようという勢いだ。


「たまたま……ねぇ。まぁ、何にせよ本当に助かった」


「先に言っておくが、俺は何かあったら強行手段もとるからな。確か、正当防衛の許可も下りていたはずだ。他の隊員の安全が脅かされるのなら、殺されても文句は言えないぞ」


 メディアスはいったんペンを置いて、椅子をエイドの方へ向ける。


「……ああ、その時は仕方ないよね」


 メディアスの言葉に、少し溜めてからエイドは答えた。即答できなかったことが、彼の本音だろう。万が一にもファスに何かあれば、エイドがどんな顔をするかメディアスには想像できた。


「……まったく、そんな顔で言われてもな。万が一の話だ、最善は尽くす。別任務があるんだろう、早く行け」


「ああ、分かった。そろそろ行くよ」


 何度か振り返りながら、エイドは部屋を出ていった。

 エイドが部屋を去った後、メディアスはデスクを離れ、何やら鍵のかかった棚を開けると、カルテを探し始めた。きちんと整理してあるため、さほど時間もかからずに目当ての資料を見つけ出す。


「これか。──ファス=ウィズ、年齢15歳。1月1日生まれのハーフエルフ。使用できるコアは、光と闇。備考……通常は光のコアのみ使用可能。口外はできる限り控えてもらいたいが、凶人格と入れ替わることがある。その際、使用できるコアは闇。入れ替わった時は、細心の注意を払い、最終手段として正当防衛も許可する、か。まさか、俺が監視役になるとはな」


 隊員の健康診断の記録の管理も、救護部隊が行っている。その管理主任をしているのが、メディアスだ。この間、やっと新入隊員の記録もチェックし終えたところなので、細かいことまで覚えている訳ではないが、一応全員分の情報を頭に叩き込んであった。その中には、ファスのものももちろん含まれており、特殊な事例だったためによく覚えている。

 ネオから監視役を頼まれた時には驚いたメディアスだったが、引き受けることにした。救護部隊員だとはいえ、メディアスは戦闘訓練もちゃんと受けている。ある程度ならば対処できるはずだが、この“入れ替わり”という部分が問題だ。もしそうなってしまった場合、果たして抑えることができるのだろうか?

 メディアスはカルテをしまうと、別の棚の鍵を開けた。中から取り出したのは、注射器に入った麻酔薬。かなり強めのものだ。いざとなったら、こいつを使うしかない。使える隙があるのかは怪しいところだが。数本用意し、ケースにしまう。それを、さっと懐に入れ、メディアスは白衣を椅子に掛けた。


「……行くか」


 メディアスは服装を整えると、集合場所へと向かった。


****


 前回同様、俺たちは正門前に集まった。しかし、プリュネルの時より数が多くなっている気がする。その中にエイドがいないことは、あらかじめ知らされていた。

 朝起きて早々に、食堂で今回の任務について教えてくれたのは、エルフィアだ。前回、俺たちと一緒に任地へ赴いた操縦士だが、今回も同行するらしい。おまけに、エルフィアには前回の任務終了後、俺に関しての事情が説明されていたらしい。それを知った上で、彼女は同行すると言ってくれた。彼女ならそう言ってくれるだろうと踏んで、組織も頼んだのかもしれない。

 だが、エルフィアが監視役という訳ではないらしい。誰なのか聞いたところ、メディアスという救護部隊員だという話だった。


 それで、今回の任務内容だが、事件は夜中に起こったらしい。急を要するということで、さっき聞かされて食堂から直行してきたような形だ。急いで来たから、脇腹が痛い……じゃなくて。今回も危険生物(モンスター)の討伐だが、危険度はプリュネルの比ではないらしい。

 危険生物モンスターが暴れていると報告があったのは、ここから南に少し行ったところにあるウルカグアリという街だ。目標は、とてつもなく硬い体を持った、タルトゥーガというやつらしい。甲羅を背負っていて、危険を察知するとその中に隠れる。隠れた状態でも攻撃できるそうなので厄介だ。しかも、甲羅はただでさえ硬い体のどこよりも硬い。そんなやつ、どうやって倒せばいいのかと思ったが、硬い中にも少しだけ柔らかい部分があるらしい。そこを見つけて何とかしろというのだが、どうやってそれを見つけろと?


 そんなことを考えている間に、全員そろったようだ。それを確認すると、腰は曲がり、杖をしわしわになった手で握りながら、長い白髪と白髭を生やした男性が一同の前に立った。額には角らしきものが一本生えている。おそらく、ユニコーンと何かのハーフだ。

 ユニコーンは、治癒の薬の材料として密猟者に捕まることも多く、数は激減している。そのため、絶滅が危惧される種族の保護もしているアブソリュート内には、ユニコーン保護チームが組まれている。何も、狙われるのはそのハーフも例外ではない。そのため、絶滅危惧種の血を引く者は緊張感を持って暮らしているそうなのだが……。


「え~とね、今回はね、忙しいところメディアス君に来てもらったからね。じゃあ、あとはよろしくね~」


 そう言うと、一緒に連れて来ていた長身の青年に場所を譲る。そして、自分は本部へと戻ろうとしたが、その途中ぴたりと足を止めて振り返った。


「……え~とね、メディアス君、会議は何時から始まるんだったっけね?」


「会議なら、昨日終わったはずですが」


 メディアスが眉間にしわを寄せながら答える。


「あ~、そうだったね。うん、思い出した。ありがと、ありがと。じゃあ、あとはよろしくね~」


 うんうんと年老いた男は頷き、ゆっくりと建物の中へ戻っていく。


「あの爺さん大丈夫なのかよ?」


 思わず口から洩れた言葉に、隣に立っていた先輩の戦闘部隊員が俺を肘でつつく。


「馬鹿!あの方が救護部隊の隊長だぞ!?まぁ、見た目はああだが……治癒魔法に関しては、組織一だ」


 隊長……だったのか。現段階じゃ、まったくそうは思えないが、いざという時は変わるのだろうか?

 よろよろと歩いていく後姿を見ていると、先ほどの青年の咳ばらいがひとつ聞こえ、慌てて前を向く。こちらは打って変わって目つきが鋭く、常にあたりに気を配っており、隙がない。


「俺はメディアス=クラスト、救護部隊員だ。今回は怪我人が多数出ているという報告を受け、救護部隊員の数を増やしている。他部隊員には、治療の妨げにならないよう目標の討伐を速やかに遂行してもらいたい」


 彼の名前は、以前エイドの話で聞いたことがある。アブソリュート入隊以前からの友人だとか。確か、エイドが入隊した年の筆記試験で、エイドは3位、首席がこのメディアスだったという話だ。


 ひと通り話が終わり移動が開始されると、隣に立っていた青年が大きなため息をつく。


「今回の任務はメディアスが参加するのか……気が重い」


「どうしてだ?」


「新米には分からないか。鬼なんだよ、メディアスの仕事っぷりは。少しさぼってただけで怒られ──」


 その言葉を言い終わる前に、背後からよく通る声が聞こえた。青年が目を見開いて振り返ると、そこには獲物を睨みつけるかのような目をしたメディアスが立っていた。


「さぼっていることに対して注意するのは、間違っていないと思うのですが?」


 口調からして、おそらくメディアスの方が彼より後輩なのだろうが、まったく物怖じはしていない。


「げっ、メディアス!?くっそ……どんだけ地獄耳なんだよ」


 あからさまに嫌そうな顔をして、青年は舌打ちする。


「今回も、ちゃんと見張っておきます」


「いらねーよ、ちゃんと真面目にやるっての」


 鬱陶しそうな顔をすると、青年はさっさとその場を離れていった。その後姿を見ながらメディアスは、ひとつため息をつく。その後、俺の方へ向き直った。


「お前がウィズだな?オプセルヴェから話は聞いている。問題は起こすなよ」


 俺の方を向くなり、メディアスはそう言い放った。かなり言い方が厳しめというか、威圧感がすごい。


「……分かってるよ」


「先に言っておくが、俺はあいつのように甘くはないからな。危ないと思ったら、たとえあいつの弟でも強行手段をとらせてもらう」


「別に……弟じゃない」


「何でもいいが、任務に支障をきたすなよ」


「……お前は大丈夫なのかよ。救護部隊員なんだろ?」


 随分と俺に注意してくるが、メディアスはどうなのだろう。救護部隊員らしいが、今回は危険な任務に参加されられるのだ。俺よりも、自分の心配をすべきではないだろうか。

 

「だからといって、戦えないと決めつけないでもらいたいな」


 メディアスの目つきがきつくなった。鋭い眼光に、思わず怯む。確かに、心配は無用だったかもしれない。これ以上、余計なことを言ったら俺が危なそうだ。


「先に行っている。お前も早く来い」


 メディアスはそう言い残すと、ずんずん歩いて行ってしまった。その背中を見ながら思う。


「これはこれで……やりづらいな」


 エイドとは対極だな。あいつのように甘すぎるのも問題だが、こうきっちりしすぎているのも息が詰まる。なるべく、早く終わらせて帰れるようにしよう。



読んでいただき、ありがとうございます。

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