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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第7章 陽気な少年
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友達?⑤

 本部に戻ると、すでに日は傾いていた。

 建物の中に入ると、はぁぁ、と大きく息を吐き、がくりと肩を落としながらフォグリアは口を開く。


「一時はどうなることかと思ったけど、とりあえず何とかなる範囲に収まったかなぁ。それでも痛い出費だけど……助かったよ、エイド」


「今度からは気をつけてよ?俺がいつもいるとは限らないし、そしたらメディあたりが苦労するんだから」


 いつもいるとは限らない、というセリフに俺は何か嫌なものを感じていた。

 フォグリアはエイドの言葉に表情を曇らせる。


「メディアスにばれたら怒られる……」


「俺にばれたら何だと?」


 聞こえるはずのない声が背後からかけられ、みんな一斉に振り返る。そこに立っていたのは、アクスラピアまで仕事で出かけていたはずのメディアスだった。


「げっ、メディアス!?いつ帰ってきてたのさ?」


「報告のために一時的に帰還しただけだ。すぐに戻る」


 青ざめて怯えるフォグリアに、何食わぬ顔でそう言い放った。そして、さらに問い詰める。


「それで、何があったんだ?」


「えっと……」


 口ごもりなかなか話し出そうとしないフォグリアを見やると、淡々とメディアスはエイドに尋ねた。


「オプセルヴェ、こいつを借りても問題ないか?」


「あ、えと……うん」


 ちらりとフォグリアの方を見て、迷いながらもエイドは頷く。自業自得とはいえ、なんだか可哀想になるくらい怯えていた。

 そんなフォグリアの腕を掴み、有無を言わせず連れていく。


「さて、俺が戻るまでに全部吐いてもらうぞ」


「ひっ、メディアスごめんって!!」


「俺は、まだ何も聞いていないが?謝るようなことがあったということだな」


 じわじわと追いやられながら引きずられていく様を、俺たちは見送った。

 その姿が見えなくなると、何を思ったのかロジャードが楽しそうに笑い始める。


「賑やかだなぁ、ファスの周りは。俺、こういうの好きだな」


「そうか?」


 怪訝に思って首を傾げると、ロジャードは穏やかに目を細めて頷く。


「うん。誰かが傍にいてくれるって感じられて安心するから」


 不意に垣間見た、どこか寂しげな表情を俺は見逃さなかった。こいつ、こういう顔もするんだな、と少し意外だった。

 しかし、それはほんの一瞬で、また高いテンションに戻る。


「今日はありがとう。色々あったけど、ルルちゃんにも会えたし満足かなぁ。俺、そろそろ部屋に戻るよ。じゃあ、またな!」


 そう言い残し、ロジャードは去っていった。俺とエイドだけになった途端、急に静かになる。すると、忘れていた疲れがどっ、と襲ってくるようだった。どうも、あのテンションにはついていけない。

 俺はひとつ伸びをして身体をほぐす。


「あいつ、騒がしいやつだよな」


「でも、悪いやつじゃないだろ?」


「まぁな」


 確かに悪いやつではないのだろう。今になって思えば、外出しようと言い出したのも、思いつめた顔をしていたであろう俺をリフレッシュさせるためだったのではないだろうか。そこまで考えていたのか、真相は分からないが。

 俺が頷いて見せれば、エイドは穏やかに笑った。


「いいと思うよ、お前にはああいう『友達』がいた方が」


「友達?」


 聞き慣れないフレーズに、思わず聞き返す。頭の中でその単語を何度も再生し直してみるが、やはりピンとは来なかった。


「いや、友達とは違うぞ」


 そう否定すると、エイドは少し困ったように苦笑する。


「お前も頑固なとこあるからなぁ。こっちから見てるとそう見えるし、ロジャードもたぶん友達だと思ってるはずだけど」


「そんなこと一言も聞いてないぞ?」


「まぁ、宣言しないとなれないようなもんでもないからな」


「うーん?」


 そういうものなのか。俺には、よく分からなかった。

 エイドは首を傾げる俺を見て笑った後、俺の前を歩き出す。その背中を眺めながら、俺も後に続く。今日の講義もひと通り終わったのか、隊員たちが雑談しながら廊下を歩いている。

 窓から差し込む夕日の光が、景色をオレンジ色に染める。ふいに、その光がエイドを照らして、霞んだように見えた。それが、忘れかけていた不安を掻き立てる。


「エイド」


 立ち止まった俺の口から、彼の名が零れた。


「どうした?」


 不思議そうにしながらエイドも立ち止まって振り向く。どうした、ともう一度問いかけられ、俺は自分がエイドの名前を呼んだことを認識した。

 別に何か用があったわけではないのだが、呼び止めなくてはならないような気がして無意識にそうしてしまったようだ。少し考えてから、俺は再び口を開く。


「何か……危ないことに首突っ込んでるんじゃないのか?デゼルの件でも、だいぶ動いてるだろ」


「戦闘部隊のお前に比べたら全然だと思うけどなぁ。それに、デゼルの件は、実際に手合わせしたお前の方が巻き込まれてるだろ?」


 またそれだ。エイドは自分の話が振られると、すぐ別なやつの話にすり替える。ここまでくると反射的なのだろうが、少しは自分の心配をした方がいい。エイドは戦闘部隊の方が危険だと言うが、裏の仕事も請け負うエイドたち諜報部隊こそ、本当は最も危険であるとよく耳にする。戦闘部隊のように表立って戦闘する場面こそ少ないが、俺たちの知らないところで何をしているのかは極秘となっていることも多く、公になってはいない。


「断れるなら断れよ。お前以外にも動けるやつはいるんだろ?」


「今は隊員の数も不足してるから……どうだろうね。なんだ、心配してくれてたのか?」


 俺は答えなかったが、エイドから視線は逸らさなかった。

 それが肯定の意味であることは伝わったようで、俺の反応に、エイドは少し驚いたような顔をする。それもそうか。いつもなら、そんなことないなどと言ってしまう。だけど、今はそんなことを言っている場合ではないような気がした。

 しかし、エイドはすぐに、またいつもの優しい笑みを浮かべる。


「俺は大丈夫だから。お前こそ、無理するなよ」


 そして、エイドはその後すぐ、任務があるからと再び出て行った。まだ不安は残っていたが、俺はそれを見送るしかなかった。 


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