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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第7章 陽気な少年
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友達?④

 『最後の砦』は、相変わらずの外装だった。その中で、今回の事件の発端である正面扉だけが真新しくて存在感を放っている。

 しっかりと取り付けられたそれは、修理の丁寧さを物語っていた。荒々しいロロの性格とは反して、手先は器用らしいことが伺える。

 店に入ると、急かす兄を抑えながら、まずは俺たちの本来の目的を優先するからとルルは言った。忘れそうになっていたが、エイドは武器のメンテナンスをしてもらうはずであったのだ。

 早くしろ、と渋々引き下がったロロは、ギロリとフォグリアを睨む。睨まれたフォグリアは、うぅ、と唸って小さくなっていた。


 ひとまず兄を抑えカウンターに構えたルルは、いらっしゃいませー、と改めて挨拶した。すると、ロジャードがささっ、とカウンターまで近づく。


「やっぱり、ルルちゃんはこの店の華だなぁ。急に明るくなったよ」


 満面の笑みでそう言うロジャードに、またこいつは、と呆れるしかなかった。

 ルルの方はもう慣れているのか、軽く受け流して話題を変える。


「ロジャードさん、最近メルカさんとはどうなんですかー?」


「うっ……」


 すると、一瞬にしてピシッ、とロジャードの表情が強張り、言葉を詰まらせる。話の中に出てきた『メルカ』という、女性の名前らしきものに反応したようだ。目を泳がせて、もごもごと口ごもる。


「にゃあ……また他の女の子と一緒にいたのばれたんですね」


 ルルに冷ややかな視線を向けられて、ようやくロジャードは小さな声で呟くように言う。


「食事しただけなのに……」


「そのうち愛想尽かされますよー」


 呆れたようにため息をつくと、ルルはエイドの方に視線を移した。


「エイドさんは、この前言っていた刀のメンテナンスですかー?」


「ああ、親父さんいるかな?」


「奥の仕事場にいますよー、呼んできますか?」


「いや、俺が行くよ。仕事中だろうしね」


 ルルはそれに頷くと、俺たちを店の奥に案内してくれた。その先にあったドアから一度外に出て、店よりひと回りほど小さい別の建物に移動する。

 煉瓦づくりの建物に入ると、ムワッと熱気が立ちこめていた。そして、カーン、カーンと何か金属を打ちつけているような音が聞こえる。どうやら鍛冶場のようであると、俺は察した。

 その音が大きくなる方へ近づいていくと、小柄ながら逞しい上半身を露わにしているドワーフの男性が目に留まった。汗を流しながら、熱された金属を鍛造している最中の男は、俺たちが背後に立ってもなかなか気づかない。

 仕事の邪魔をしても悪いかと思い、男が気づくのを待っていると、しばらくして金属を叩く音が止んだ。ようやくこちらの気配に気がついたようで、首から下げていたタオルで汗をぬぐいながら振り向く。


「おう、エイドか。いつものメンテナンスだろ?そこに置いとけ。毎度のことだが、すぐにはできねぇ。その間の代わりは、その辺にあるやつ選んでくれ。分かってるだろうがな」


「毎回すみません、ありがとうございます。それにしても、本当にこの刀、俺がもらっても良かったんですか?」


「ああ。桜と不知火は、特別な刀だ。俺だって誰でも良くて渡したんじゃねぇさ。お前に使ってもらった方が、俺がこのまま持ってるよりもそいつらにとっていいと思ってそうしたんだ」


 大らかな雰囲気を纏った男は、エイドと少し言葉を交わしてまた仕事に戻ろうとする。しかし、急にエイドから視線を移すと、首を傾げた。


「んん?そっちの坊主は……」


「俺、ロジャードって言います!ルルちゃんとは同い年で……」


「お前じゃねぇよ。その隣の黒髪のやつだ」


 ばっさり切り捨てられたロジャードは、口を閉ざして小さくなる。

 どうやら、坊主というのは俺のことを指しているらしい。そのことに気がついたエイドは、自分の弟であると言った。『弟』という単語に少し引っかかりつつも、そこに突っ込むのは止めた。


「ファス=ウィズだ」


「おう、俺はバルドだ。よろしくな」


 オプセルヴェの姓は名乗らなかったが、特に気にした風もなく、ルルの父親は左手を差し出してきた。少しためらいながらもそれに応じると、力強く握り返された。大きくて色黒な、使い込まれた手。なんだか、とても温かかった。

 握手を終えると、今度はまじまじと俺を観察し始める。隊員証コアバッジが目に入ったのか、バルドに質問された。


「坊主は、光と闇のコア持ちか?」


「いや、まぁ……実質、光だけだ」


 時折思うのだが、俺の隊員証コアバッジは紛らわしい。『ファス』であるときは光、『アンヴェール』であるときは闇に入れ替わるため、同時に2つの属性の魔法を使うことはできないのだ。それでも、持っているコアは光と闇の2つとカウントされるため、銀の台座には白と黒、2つの石がはまっている。

 バルドは、そうか、と呟いた後もしばらく観察を続けると、感心したように息を吐いた。


「ほぅ……若いのに随分と鍛えてるな」


 そう言うと、バルドはにやりと笑って立ち上がる。そして、先ほど握手をした大きな手を俺の頭の上にのせて、髪がぐしゃぐしゃになるほど撫でてきた。


「気に入った。坊主、ちょっと頼まれてくれねぇか?」


「頼み?」


 ようやく解放されて顔をあげると、バルドは穏やかな表情で俺を見ていた。


「俺には、絶対に完成させなくちゃならないものがある。それを、坊主にもらって欲しい」


「完成させなきゃならないもの?」


「まぁ、ちっと約束みたいなもんでな。今までどうにも行動に移せなかったんだが、坊主を見てたらなんか造れそうなんだよ」


「でも、約束って……そんな大事なもの俺なんかに渡していいのか?」


「俺も長年鍛冶屋をやってるが、剣でも槍でも、相応の持ち主の手元にあって、力を引き出されてこそ生きると思ってる。俺が持ってても使わねぇし、俺が使うんだったら坊主に使ってもらった方が何倍も活き活きするだろうしな」


 まるで魂が宿るものであるようにバルドは話した。それを聞いて断る理由もないし、むしろ俺の方が助かる。申し出を承諾すると、バルドは満足げに笑った。

 その後、いつも使っている武器は何かと聞かれたので、両刃の短剣グラディウスだと答えると、それに合わせて造ると言ってくれた。どうやら、どんな形の武器にするかは問題ではないらしい。


 ひと通り用事も済んだので、鍛冶場を出て店の方に戻る。

 戻って早々、そこには不機嫌なロロとすっかり大人しくなったフォグリアが待ち構えていた。ロロは用事が済んだと見るや否や、さっさとドアの確認をするように促す。エイドは苦笑しながら、それに従った。

 エイドは、修理されたドアの様子を見ながら、持っていた白い紙に時折何か記録していく。しばらくそうしていたが、やがてペンを走らせる手が止まり、その用紙に書かれた内容を再確認するように視線が移っていった。

 そして、ひとつ頷くと、その用紙をロロに手渡す。ざっとそれに目を通すロロの後ろから、覗き込むようにフォグリアが身を乗り出した。フォグリアの方はそれを見て肩を落としつつも、少しほっとした様子で後ろに下がる。ロロの方はというと、不満そうな様子で鼻を鳴らした。


「約10分の1まで金額が下がったか……おい、これはいくらなんでも低すぎだろう。こっちは多大な迷惑をこうむってるんだ。もっと慰謝料上がらないのか?」


「まだ取る気なんだ……フォグリア自身も反省してるんだし許してやってくれないかな?」


「ど・う・な・る・ん・だ?」


 エイドがフォローに入るも、ロロはさらに詰め寄る。


「それでも、15万リフ。これ以上は上がらないよ」


「チッ」


 その返答を聞いたロロは、不満ありありの顔で舌打ちした。

 そんなやり取りをしていると、鍛冶場の方から移動してきたバルドが姿を現す。


「おい、ロロ。まぁた、やってんのか?いい加減にしとけよ」


 そう注意されれば、ロロは眉間にしわを寄せて言い返す。


「親父は甘すぎ。俺とお袋がいなきゃ、こんな好き勝手やってられねぇよ」


 ロロは、吐き捨てるようにそう言った。バルドはやれやれと困った表情を浮かべながら頭をかく。


「ロロの気持ちも分からないことはないけど、修理費用自体は10万リフもかかってないだろ?慰謝料を見積もっても、今回はこれくらいが妥当だよ」


 なだめるようにそう言ったエイドだったが、ふと思い出したように口走る。


「あ、営業妨害もあったんなら上乗せだっけ」


「何?その話、詳しく聞かせてもらおうか」


「エイド!?」


 予想通り食いついて来たロロと、悲痛な声をあげるフォグリア。板挟みになったエイドは、ずいっと身を乗り出してくる双方を両手で制しながら苦笑する。


「おっと……でも、俺も仕事だからズルはできないし。俺に頼んだのフォグリアだからね?でもまぁ、足りないなら俺も貸すから」


 また自分の身を切るようなことを、と呆れていると、バルドが助け舟を出した。


「別に営業妨害される程のもんじゃねぇよ。なぁ、ルル?」


 同意を求めるようにルルの方を見ると、彼女は大きく頷いた。


「はい。お客さんの数もそれ程大きく変動してませんし」


「そうですか。なら、この金額のままで」


 エイドとフォグリアは、ほっと胸を撫で下ろす。


「チッ、お袋が留守じゃなきゃこんなことには」


「あいつは仕入れに出てるだろうがよ」


 ロロは大きく息を吐くと、バルドを睨んだ。


「なるべく安く、良いものを仕入れる。あの手腕には感服だ。それなのに、折角お袋がコスト削減しても、ルルと親父がこんなだからプラマイゼロになるんだろうが!」


「それはまぁ……悪いとは思ってるが、今回のは別だろ?」


「いいや、今回の件だって、俺がいなかったら無視しようとしてただろ。いくらウチが組織の補助店だとしても、これはサポート対象外だ。一回きつく言っとく必要がありそうだな……おい、ルル!お前もこっちにこい!!」


 矛先はバルドとルルの方へと向き、俺たちがいることも忘れて説教を始めてしまった。

 請求書の件も一応片がついたので、その隙に俺たちは店を後にした。フォグリアは急いで店から離れるように促したが、何をそんなに急ぐ必要があるのかと尋ねれば、ルルの母親が帰ってきたら言いくるめられてしまう可能性があるから、というものだった。

 面倒事に巻き込まれはしたが、思わぬ収穫もあった。何を思ったのかは知らないが、バルドは武器が完成したら、俺にくれるらしい。店に置いてあった武器もほとんど彼が造っているものらしく、質はかなり良いことが予測できる。

 ただ、完成がいつになるかは分からないことと、俺を見ていると構想が浮かぶとかで、ちょくちょく顔を出すように言われた。俺にも事情があるのでそう簡単に通えはしないが、エイドが店に行くときにでも同行することにしよう。


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