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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第3章 募る不安と忍び寄る影
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連続爆破事件の調査④

 野生のタルトゥーガたちは、七色に輝くプリゾナ鉱山を中心にしてぐるりとその周りに建てられた民家を襲っていた。元々、この鉱山を囲む形は鉱山の中に封印されたタルトゥーガたちを外に出さないために考えられたものなので、建物の強度は内側に行くにつれ強くなる。そのおかげか、甚大な被害は出たものの、外部に逃げられることはなかった。だが、言い換えれば外から攻められると弱い。

 最近は野生のタルトゥーガたちの生息域が遠ざかっていたこともあって、番人ガーディアンたちも少し安心しているところがあった。それでも、巫女がいるうちは、その高い封印術によって街を取り囲む結界を張っていたらしい。残された番人ガーディアンたちも巫女の真似をして結界を張ってはいたようだが、巫女ほどの強度はなく、あっけなく破られてしまった。

 先日の爆破事件により、街の中心部もまだ建て直しが進んでいない。そのせいで、あっという間に街の中心部まで侵攻を許してしまっていた。


「1、2、3……中心部まで侵攻してるのは10頭か」


 エイドは目でその数を数える。中心街でこの数だから、まだ他にも仲間がいるかもしれない。そんな不安はあるが、とりあえず、ここにいるタルトゥーガは早急に何とかする必要がある。間違ってプリゾナ鉱山に突っ込まれでもしたら、それこそ手が付けられない。


「これでも、前回脱走した数よりは少ないと思うぞ」


 数だけで言えば、メディアスはもっと多くの頭数を目にしている。しかし、今回はそれを素直には喜べなかった。


「でも、こっちは野生だしなぁ……難易度としては、同じくらいかな」


「いけそうか?」


「うーん、ランクはCだよね。弱点さえ見つかれば、数頭は」


 危険生物モンスターには、その討伐難易度によってランクが大まかに振られている。個体差はあるので、すべてがその限りではないが、目安として設定されているものだ。

 上から順に、A、B、C、D、Eとなり、タルトゥーガは中間となる。ただし、今回は野生のものなので、Cの中でもB寄りだ。ちなみに、プリュネルはE。最後にアンヴェールが倒した大型はD寄りのEだ。

 また、この5つのランクの他に、Sランクというものが存在する。滅多にお目にかかれるものではないが、SランクはAランク以上の超危険種。間違っても単独でそれに挑もうなどとするのは無謀なことだし、隊を組んでいたとしても即刻逃げることをおすすめする。

 エイドが今まで実際に相手にしたことがあるのはBまで。Aにも会ったことはあるが、その時は少数名での任務中であったし、その危険生物モンスターの討伐目的ではなかったため、気づかれないようにその場を後にした。

 とはいえ、Bまで相手にしたことがあるとはいっても、エイドは仮にも諜報部隊員だ。戦闘部隊員なら単独で相手にすることも珍しくはないが、エイドはそれなりに人数がいる時に対応した記憶しかない。今回はそれよりランクの低いC。しかし、Bに近いCだ。エイド自身、やってみないことには分からなかった。



「うわあぁぁぁ!?」

 

 状況把握のために周囲を確認していた時、突然男性の悲鳴が聞こえた。慌ててそちらに目をやると、ウルカグアリに残っていた隊員らしき青年が腰を抜かして尻餅をつき、その眼前にタルトゥーガの巨体が迫っている。

 エイドは持っていた桜を地面に突き立て、空いた右手で光魔法を形成した。


閃光フラッシュ!」


 それを聞いた青年は、急いで自分の両目を腕で覆う。

 エイドの右手から放たれた丸い光の玉は、青年を襲おうとしているタルトゥーガの前で弾ける。そして、目を開けていられないほどの光が、あたりに広がった。それと同時に、タルトゥーガは悲鳴のようなものをあげ、暴れながら下がっていく。

 閃光(フラッシュ)は、敵の目くらましによく使われる魔法だ。殺傷能力はない。光のコアを持っていないと使用はできないが、その代わりに市販で閃光弾(フラッシュボム)という、閃光(フラッシュ)の魔法を閉じ込めた道具が売られていたりする。ただし、時間が経つにつれ、中の魔法がじわじわと拡散してしまうため、買ったらすぐ使わなければならないのが難点だ。


 桜を抜き、エイドは青年の傍に駆け寄る。両目を覆っていた腕を下ろし、青年は大きく息を吐いた。額には、汗がにじんでいる。


「エイドさん……助かりました」


 よろよろと立ち上がり、青年は頭を下げる。顔は青いものの、話はできるようだ。エイドは、現状を尋ねる。


「戦闘部隊員は何人いるの?」


「5名です」


 ちなみに僕は違いますよ、と彼は手を振った。彼は、どうやら作戦部隊員らしい。


「じゃあ、あとの隊員たちはその他の所属なのか……1頭に1戦闘部隊員は無理か」


 中心街の時点で、すでに不足している。やはり、時間稼ぎが限界だろう。せっかく回復したばかりの番人ガーディアンたちには避難しておいてもらいたいし、前回より個体数は少ないとしても厳しいものがある。


「本部に救援は要請済みです。それまで抑えられれば」


 予想通り、救援は要請してある。しかし、組織で一番速い移動手段を持っている隊員――これまたエイドの友達――は、現在出張中で本部にいない。いくらここが本部と近いといえど、彼でもない限りは期待するほどすぐにはやってこれないだろう。

 多少の無理はしないといけないことを、エイドは理解した。


「うーん……俺とメディ……メディアスはペアにしといてもらえる?それなら、俺たちは2人で2、3頭抑えとくから」


「2人でって……大丈夫なんですか?」


 青年は目を丸くする。

 エイドにも、できるかどうかはやってみないと分からない。しかし、今までの経験からすれば、Cランク2、3頭は大丈夫だろうという判断だった。


「やってみないことには、何ともね。でも、少なくとも2頭は抑えるようにするから。あとは、そっちで振り分けて。それから、住民の避難を最優先に」


「分かりました、気をつけてください!」


 青年と話を終えたエイドは、眉間にしわを寄せたメディアスの元に戻った。そういえば許可を取っていなかったことを思い出したエイドは、申し訳なさそうに頭をかく。


「メディ、俺とお前で何頭か相手にするって言っちゃったけど……いいかな?」


「いいも何も、事後報告だろう」


 メディアスは、何か勝手に話をつけてきた上に、それに自分が巻き込まれているだろうということは、会話中ちらちらエイドがこっちを見ていた時点で、薄々感じていた。


「はは……ごめん」


 人が良過ぎて、自分から大変な仕事を背負い込む性格なのは、昔から知っている。しかし、今回ばかりは仕方がないだろうと、メディアスは息を吐いた。


「俺は構わないが、実質戦力はお前だけになるぞ?俺はサポート程度しかできない。分かっていて引き受けたんだろうな?」


 メディアスは、あまり戦闘向きではない。救護部隊員の中では高い方だが、エイドたちと比べれば劣る。しかし、戦闘任務に出ていてもある程度自分の身は自分で守れるので、危険な任務の中では回復要員として重宝されているのだ。

 とはいえ、主戦力にはならず、あくまでサポートが主な仕事だ。戦闘スタイルは魔法が主で、武器といえば、土のコアの力を高める補助効果が付加された護身用の短剣を持ち歩いているくらい。いわずもがな、救急セットは常備している。得意としているのは回復魔法と氷魔法。回復魔法の方は仕事柄、ある程度継続して高い効果を維持できるのだが、氷魔法の方は、前回使用した時のように鋭利な刃物状にするなどして、足りない威力をカバーしている。


「もちろん、引き受けた手前もあるし、俺が主だよ。ただ、お前のサポートがあるとやりやすいかなってだけで」


 エイドも、無理をすれば自分だけでも何とかなるものを請け負ったつもりだ。ただ、安全面からも単独行動は避けたい。メディアスとは、まだ本格的な任務が始まる前に、それなりの回数一緒に組んだことがあった。その時は戦闘任務ではなかったが、望まずして危険生物モンスターと遭遇することはある。そういう場面では、2人で協力して倒したことがあった。その時、メディアスのサポートが非常に的確だったことを覚えている。


「2年経っているから、どうだろうな」


 メディアスは乗り気ではないものの、袖をまくった。


「まぁ、やれるだけやってみよう。とりあえず、3頭いってみるよ」


「無謀にも、ウィズはもっと多く相手にしようとしていたみたいだがな。それよりは少なくて安心した」


「無茶するなぁ」


「俺は、足止めをしたらいったん態勢を整えようと思っていたんだがな。その前に、あいつ・・・が出てきた」


「なるほどね……」


 エイドは苦い顔をして頷いた。

 アンヴェールであれば、一度に何頭相手にしようが、さほど変わらないのだろう。ファスと身体は同じはずなのに、アンヴェールの戦闘能力の高さは異常だった。入れ替わると使用できるコアも変わるようで、兄同然のエイドにもその明確な理由は分からない。

 それはともかくとして、エイドたちにアンヴェールのような荒療治はできない。できても、住民の安全を考えれば躊躇するだろう。焦らず地道に、確実に動きを止める。

 

「じゃあ――始めるよ」


「無理はするなよ」


「了解」


 エイドは、プリゾナ鉱山に被害を与える可能性が高そうな3頭を選んで、自分に注意を向けさせる。その少し後方で、メディアスがいつでもサポートできる態勢を整えていた。



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