表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第3章 募る不安と忍び寄る影
18/152

連続爆破事件の調査③

「ああ、それとさ、メディ」


 火薬を採取し終えたエイドは、その袋を危険生物モンスターの皮で作られた茶色のウエストポーチにしまいながら振り向いた。 


「どうした?」


「巫女様について。メディ、番人ガーディアンの男が最後に言い残した帽子の男が、爆破事件の犯人の可能性が高いって報告書に書いてたみたいだけどさ。確かに、爆破犯はそいつじゃないかって、俺も思う。でも、巫女様はもうそいつといないんじゃないかな」


 確かに、報告書にはそう書いていた。しかし、それだけでは犯人を特定するまでには至らない。それはメディアスも分かっていたが、ないよりはいいかと書いたまでだった。何より、瀕死の彼が必死に伝えてきた情報である。無碍にするわけにもいかない。

 しかし、その爆破犯が巫女をさらったことはほぼ確定だが、巫女はもう一緒に行動はしていないのではないか。それがエイドの考えだった。


「どういうことだ?」


 エイドの言葉に、メディアスは眉間にしわを寄せる。


「巫女様は、結構な有名人だよ。目撃情報くらい、あってもいいんじゃないかな?それなのに、今そういう話はない。でも、爆破事件は巫女様がいなくなってからも、小さいけど何件かあるんだよね。その近辺の検問も調べたんだけど、やっぱり巫女様はいなかったって」


 ノエル=ホーリーは、彼の言う通り世界に名の知れた少女だ。高価に取引されるプリゾナを目当てに、商人や富豪がよくここを立ち寄るが、その際に彼らの目にとまったことがその始まりだった。

 彼女は、簡潔に言えば美人なのである。人当たりもよく、ウルカグアリにやってくる者たちの中には、彼女目当てもかなりいたらしい。富豪などは、自分たちの家で行われるパーティーにぜひ招待したいと言い、彼女もウルカグアリのプリゾナを高く買ってくれるお得意様として、その誘いを強くは断れなかった。

 パーティーに参加した折には、やはりその容姿から噂はすぐに広がり、彼女の知名度は望まずして高まっていったのだ。それを心配していたのは、他でもない彼女の家族。プリゾナ目当てにしろ、彼女目当てにしろ、誘拐でもされたらどうしようと気にかけていた中起こった今回の事件だ。こんなことなら、あの子を外に出すべきではなかったと後悔しても後の祭り。


 そんな知名度の高い彼女の情報が、まったくないというのも確かに不自然だった。組織でも、犯人の移動ルートを考えて検問を設置している。聞き込み調査もまた然りだ。それに加えて、頼まなくても、彼女のことを気に入っていた富豪たちも捜索に協力しているはずである。


「つまり、この先まだ爆破事件が続くようなら、犯人と巫女は別行動をとっていて、犯人には協力者がいる。そういうことか?ちなみに、その爆破事件の現場は?」


「それが、アイテール国の領土から完璧に出てるんだよね。アブソリュート支部の方にも連絡して、検問を増やして調べてる。検問通過者のリストも、後で確認しないとなぁ……」


 ファスが初任務で赴いたニュクス、そしてここウルカグアリもアイテールの領土に入る。アイテールは世界の中でもかなり大きな国で、出入国者も多い。それを全部調べるとなると、エイドの落胆の理由が伺える。

 検問所では、通過者に巫女がいないかはもちろんのこと、危険物を所持していないかや、ライセンスがあればそれも見せてもらっている。火薬を持っていたり、ライセンスの埋め込みチップに火のコアが記録されていれば、怪しんでおかなければならない。とはいえ、協力者がいるとするならば、そいつに預けてしまってる可能性もないわけではないが。ともかく、巫女がいなかったというのは、まぎれもない事実だ。


「国から出た、か。巫女が検問を通っていないとなれば、協力者の線が確かに濃いな……。犯人は逃げたが、巫女はまだアイテール内に残っているということか」


「それも可能性のひとつではあるけどね。ただ……どうだろう。国内の調査もかなり大人数でやってるし、アイテール内に巫女様を隠しておける場所があるのかどうか……別の場所なら、まだしもね」


「何か掴んでいそうな物言いだな」


 メディアスは、エイドが何か知っているのではと疑った。鋭い視線を向けられたエイドは、困ったように笑う。長く彼の傍にいてメディアスが分かったことは、彼にも苦手なことがあるということだ。それくらい普通なのだが、彼の場合はどれも器用にこなすので、弱点という弱点がなかなかない。しかし、ひとつだけ。彼は、隠し事ができない。とにかく、顔に出る。諜報部隊員としていかがなものかという弱点を、メディアスは見つけてしまっていた。

 

「鋭いなぁ。ま、ちょっとね。ただ、どうやったらそんなことが可能なのか、いまいち分からなくてさ。確信が持てるまでは、黙っておくよ」


 とはいえ、顔には出るが話す気はまだないらしい。


「そうか。……注意は怠るなよ。諜報部隊は、危険なやつと接触する可能性が高い。相手に不利益な情報を手に入れれば、消されるぞ。そういうやつを、過去に大勢見てきたからな」


 一見、戦いの前線からは縁遠いように思われがちな諜報部隊だが、任務中に消息を絶つ隊員が後を絶たない。エイドの先輩でも、同期でも、それは変わらなかった。心配されると思いメディアスには話していないが、エイド自身もそれで前に危険な目にあったことがある。

 その時はまだエイドも18になったばかりで、任務参加がようやく本格的になってきた時期だった。まだ2年前の話であるが、その2年の間に数多くの任務をこなしてきた彼は、その時のことを思い出すと、まだ若かったなぁなどと年季の入ったことを考える。とにかく、後先考えずに危険な調査に足を突っ込んでしまったことは反省していた。メディアスも移動中に言っていた通り、意外とエイドは無茶をするのだ。


「うん、気をつけるよ」


 苦笑いを浮かべながら、エイドは頷いた。


 今回の任務の目的は果たしたため、エイドとメディアスは鉱山を後にした。

 そんな鉱山から出た2人のもとに、番人ガーディアンの男性が血相を変えて走ってくる。しかし、足がもつれて途中で地面に転がってしまった。その男性のところへ、エイドたちは慌てて駆け寄る。メディアスが手当てをしようとかがんだのだが、その男ががばっと上半身を起こして叫んだ言葉に、その手が止まった。


「タルトゥーガだ!」


 その言葉に2人は慌ててプリゾナ鉱山内部を見渡すが、そこには仮死状態となったまま、再び封印されたタルトゥーガたちが大人しく眠っている。封印がまた解けたというわけではないようだ。

 そうなると野生だ。どの危険生物モンスターでもそうだが、誰の手も加えられていない野生の個体は凶暴性を増す。危険生物モンスターの定義として、『意思疎通が難しく、危険性の高い被害を及ぼし得る』というものがある。医療目的で組織で飼われているモルドーレは、意思疎通は難しいとしても、管理さえきちんとしていれば気性は大人しく、弱体化し、危険性は極めて低い。そう、きちんと管理さえしていれば。


 タルトゥーガは組織でもさすがに飼育していないが、封印されているものも飼育されている個体と同じように弱体化している傾向にある。長い間、動きを封じられていた分、いくらか大人しくなっているのだ。とは言っても、この街には甚大な被害を及ぼした。

 それが、今度はさらに危険性の高い野生のタルトゥーガだ。前回のことを知っているメディアスは険しい顔をする。険しい顔をしながらも、先ほどの男性が転んだ時の怪我を治療してやっているのは、さすがと言うしかないのだが。

 フォグリア曰く危険生物博士モンスターマスターのエイドも、実際に相手にするのは初めてだった。封印されている個体を見たことはあるが、この辺一帯のタルトゥーガは番人ガーディアンたちがそうして管理しているため、野生のものは最近確認されていない。近づけば封印されることを理解しているのか、だんだんその生息域は遠ざかってきていたのだ。

 

 それが、また戻ってきたということは、何らかの理由があるだろう。例えば、何者かに追いやられて来た――などといった。2人の頭に、まさかこれも一連の事件と関係があるのではないだろうかという思いがよぎる。

 

 しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。騒ぎが大きくなっている方向を見れば、ウルカグアリに残っていた隊員たちが、すでにその対応に追われていた。

 治療を手早く終えたメディアスも立ち上がり、そちらに目をやる。今回は調査目的で来た2人だが、帰還するまでに起こったことは、例え任務外のことであってもできる限り対処するよう義務づけられているのだ。しかし、今回は討伐目的で来たわけではないため、手が足りない。戦闘部隊員の数も前回と比べて少数だ。この状況だ、誰かがすでに本部に救援を要請しているだろう。

 ならば、それまで被害は最小限に抑えなければならない。


「メディ、サポート頼むよ!」


「分かっている」


 エイドは腰に差していた桜と不知火を抜き、タルトゥーガの元へと駆けだす。その後ろを、少し離れてメディアスが追った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ