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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第3章 募る不安と忍び寄る影
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連続爆破事件の調査①

 ファスとフォグリアの様子を確認した後、エイドとメディアスは同じ任務に就いていた。

 その任務というのは他でもない、例の爆破事件についてである。これから2人が向かうのは、数日前にファスたちが赴いた任地、ウルカグアリだ。

 治療を終えて帰れる状態になった患者を送り届けるという仕事もあるが、メインは事件の原因解明ということだった。爆破事件について、まだ犯人の有力な手掛かりはない。加えて、組織でも懸命に探してはいるものの、行方不明の巫女も未だ見つかっていなかった。

 

 ウルカグアリの件だけでなく、ここ最近、こういった謎の爆破事件が大小合わせて相次いでいる。さすがに何かの関連性があると判断した組織は、何名かの隊員たちにその調査を依頼していた。その中に、エイドも含まれている。

 ウルカグアリの任務の時、エイドはニュクス村の事件の再調査を行っていた。そのため、ウルカグアリの様子は報告書に書かれていたことしか知らない。書いたのがメディアスであるため内容は非常に詳しかったが、やはり直接自分の目で見ないことにはと、メディアスを連れ、エイドはウルカグアリに足を運ぶこととなった。


「悪いな、メディ。でも、状況を説明してもらうなら、お前が一番分かりやすいからさ」


「構わない。後からまた説明する手間が省ける」


 必要ならば、その時の任務に参加していた隊員を連れて行ってもいいと言われ、彼を指名したのはエイドだった。エルフィアも操縦士として同行してくれることになったが、彼女は操縦の方に集中していたため、地上の様子はメディアスの方が詳しい。

 メディアスが忙しいことは、エイドもよく分かっている。無理を承知で頼んでみたのだが、予想に反して快諾してくれた。仕事に対しての厳しさは鬼と恐れられるメディアスだが、その受ける受けないに関しては、割と考えて動いている。外部から見れば凄まじい量の仕事をこなしていても、それは本人の許容範囲らしい。それを超えて仕事が降ってきた場合は、きっぱり断るのだと言う。本人曰く、考えなしにやたら目ったら任務を請け負っていると、いつか体調を崩して余計に迷惑がかかる、ということだった。そのセリフは、どこかの誰かを指して言っているようにも聞こえるが。

 何はともあれ、今回の任務はまだメディアスの許容範囲内に収まっていたのだろう。

 

 歩きながら話しているうちに、離陸準備の整ったフェニックスの元へとたどり着いた。2人の到着に気がついたエルフィアが、機体の中から顔を出す。


「エイドさん、メディアスさん、準備がよろしければ、乗ってください」


 ウルカグアリの患者は、すでにフェニックスの中に乗り込んでいた。まだ全員が帰れるというわけではなかったが、本部に残っている患者たちも、もう少しすれば帰還できるだろうとメディアスは言った。

 エルフィアの操縦するフェニックスにエイドとメディアスも乗り込み、任地を目指す。その道中、番人ガーディアンたちの表情はすぐれない。それもそのはず、タルトゥーガの被害を受けただけでも相当のダメージであるのに、何者かによって爆破事件が引き起こされ、鉱山の番をしていた仲間たちも爆発に巻き込まれて犠牲になり、そのうえ巫女まで消息を絶った。とても明るい気分にはならないだろう。


 そんな番人ガーディアンたちと少し距離を置きながら、エイドとメディアスは並んで立っていた。


「それにしても、メディと一緒に任務なんていつぶりだろうね?」


 ふいにエイドが話しかける。その問いに少し考え込んでから、メディアスは口を開いた。


「そういえばそうだな。18歳を越えたあたりから、もう記憶がない」


「本格的に任務に参加するようになってから、仕事も明確に分かれてきたからね」


 親しげに話す2人の会話を聞いて、目線は前に向けたまま、操縦桿を握るエルフィアは尋ねた。

 

「以前は、お2人で任務もされていたんですか?」


「まぁ、そんなときもあったね。メディには世話になりっぱなしだったけど」


「そうなんですか?」


「こいつは、結構な無茶をやらかすからな。捜索任務の時だったか……危険な場所まで入り込んで、危うくこっちが捜索願を出されるところだった」


 メディアスが昔のことを思い出し、深いため息をつく。エルフィアはそれを聞いて意外だ、という反応をした。エイドもその時のことを思い出したのか、困ったように笑いながら頭をかく。


「前はだよ、前は。今はそんなに無茶なことはしてないって」


「どうだかな」


「ふふ、お2人は仲がいいんですね」


 そのやり取りに、エルフィアは微笑む。


「まぁ、幼なじみだしね」


「最初に会ったときは気に入らない奴だと思っていたが、分からないものだな」


「はは……面と向かって言われたもんね。あれは効いたよ」


 淡々とした口調に、エイドは苦笑いを浮かべる。


「初めて会ったのは、いつだったんですか?」


「基礎教育前期だから……6歳とか、それくらいだったよね?」


「ああ。その後、後期が終わる15歳まで同じ学校だったな」


 アイテールを含め、他いくつかの地域では、基礎教育を受けるために学校に通うことが一般的だ。

 基礎教育には前期と後期があり、前期は6歳から10歳まで、後期は11歳から15歳までの子供たちを対象としている。前期と後期では、学校は別だ。

 前期は学区が決まっているが、後期は自分が希望するところに試験を受けて入学する。とはいえ、10歳そこそこで進路を決めろというのも大変な話なのだが。


「アイテールには、いくらでも学校あるのに被ったんだよね。メディは別のところに行くと思ってたんだけど」


「アブソリュートに入隊するための教育が受けられる学校だったからな」


「あ、志望理由同じだ」


 前期と違い、専門性の高くなる後期は出入りが激しい。それというのも、途中で将来何をやりたいかが決まって、その専門の学校へと転校していく生徒が非常に多いからだ。

 2人の通っていた学校も転入生が多いことで有名で、2人のように初めからここを希望していた生徒は珍しい。年によっては、転入以外の子供が誰も入ってこなかったこともあるという噂だ。最初からここを希望していて、なおかつ今アブソリュートに所属しているということは、10歳にしてすでに自分の進路を決めていたことになる。

 どうしてそんなに幼いころから進む道を決めていたのか、エルフィアは聞いてみたくなった。


「お2人は、どうして組織に?」


 その問いかけに、2人は一瞬固まってしまった。何かまずいことでも聞いてしまったのかと、内心エルフィアは焦っていた。

 エイドは、ちらりとメディアスの方を見る。床を見つめたまましばらく考え込んでいたメディアスだったが、


「……興味のある分野だったからだ」


と、そう答えた。エイドがファスに教えたメディアスの過去は、本人の口から語られることなどそうそうないことだ。メディアスは、個人情報を管理する役職に就いていた関係もあり、ファスがどこの出身なのかを理解していた。そして、そこが自分の村と同じように滅んでしまったことも。ファスに対して、自分と過去が似ているなどと話したのも、どこか自分と重なる部分があったからかもしれないが、それは本当に珍しいことだった。

 メディアスの育ての親が救護部隊の隊長だということを、もちろんエルフィアは知らない。彼女だけでなく、ほとんどの隊員がその事実を知らないだろう。学校へは隊長の実家から通っていたようだが、その実家には隊長の奥さんである優しい老女が住んでいて、メディアスの世話をしてくれていた。夫婦に子供はいなかったため、本当の子供のように可愛がってくれたという。隊長は忙しく、たまの休暇に帰ってくるくらいだったため、一緒にいるところを見た事がある者は少なかった。そのため、メディアスと隊長の繋がりを知る者は、エイドやフォグリアなどといった昔馴染くらいだ。

 本人が明言したことはないが、メディアスが組織の、しかも救護部隊を選んで入隊したのには、少なからずそういった過去が絡んでいるのだろう。


 何だか重い空気になってしまったが、それを裂くようにエイドが話し始めた。


「うーん……俺も興味があった分野だったからかなぁ。まぁ、母さんと父さんの影響も、少なからずはあったけど」


「エイドさんの母親は、ソワン隊長でしたね。ええと……父親というのは?」


 エイドが話し出したことに救われた気持ちになりながら、エルフィアはその話に食いつく。


「父さんは、あまり知られてないのか。父さんも組織員なんだよ、事務専門だけど」


「そうだったんですか。事務なら、顔を見たことはあるかもしれませんね」


「そうかもね。まぁ、そんなわけで組織は割と身近だったんだ。母さんと父さんのことは尊敬してたし、同じ道も悪くないかなと思ってさ」


 エイドの言葉にメディアスはピクリ、と眉を動かす。


「──それは言い訳だろう。お前こそ、本当なら別な所を希望していただろうに……あいつの影響は大きいな」


「何か言った?」


 ぽつりと漏らした独り言のような呟きに、エイドは首を傾げる。


「いや、何も。──さて、お喋りはここまでだ。見えてきたぞ」


 そんなエイドから視線を逸らし、メディアスは腕を組んだまま顎で外を指す。

 眼下では、爆破の影響で入口付近は形を変えてしまっているが、ウルカグアリの象徴であるプリゾナ鉱山が美しい七色の輝きを放っていた。久々の故郷に、暗く沈んでいた番人ガーディアンたちも窓に張り付いている。

 しかし、それよりもまずエイドの目を引いたのは、地面に形成された大穴だった。


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