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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第2章 つかの間の休息とそれを裂く者
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脱走した植物を追え!④

 裏庭から出ると、モルドーレが通ったルートを示すように、隊員たちが倒れていた。それは本部の建物の中へと続いている。俺たちは、それを辿って建物の中に入った。


「どこだよ、くそっ!」


 廊下にも、モルドーレに襲われたであろう隊員たちが倒れていた。しかし、モルドーレの姿はない。


「これ、誰か本当に食われたやつとかいないのかよ?」


 俺は、頭から噛みつかれたフォグリアを思い出した。噛まれただけなら痺れるだけで済むが、それだけで済まなかったら大変だ。


「いや、あいつは水で育つんだよ」


 しかし、エイドはさらりとそう答えた。


「え……水?じゃあ、何で噛みつく必要があるんだよ?」


「あれは単なるストレス解消の意味しかないよ。だから、本当に食べたりはしないんだ」


 そうなのか。ストレス解消のために噛まれてはたまったものではないが、とりあえず少し安心した。

 しばらく廊下を走ると壁に突き当たり、左右に通路が分かれていた。どっちに行ったのだろうか?どちらを見ても襲われた隊員の姿はなく、いいことではあるのだが目印がない。

 仕方なく、エイドは二手に分かれることを提案する。


「俺は、とりあえず右を探す。お前は左を頼むよ。何度も言うようだけど、見つけたらすぐ俺を呼ぶんだぞ……って、いないし」


 エイドが言い終わるのを待たずに、俺はもう左側の廊下を突き進んでいた。


 しばらく廊下を走っていると、見覚えのある男性がこちらに歩いてくるのが見えた。


「あれは、ヴァイルか?」


 嫌な奴に会ってしまったな。

 ヴァイルは俺の姿を見ると、あからさまに嫌そうな顔をした。

 

「何事だ、騒々しい。廊下を走るとは、マナーも分からんのか……おぉ!?」


 また何か言われるなと覚悟した時、俺たちがいる直線の廊下ではなく、俺から見て左側の別な通路から、モルドーレが突然現れた。

 ヴァイルがモルドーレに気がついたときには、時すでに遅く。これまた頭から食べられてしまった。だが、エイドが言っていたように肉食ではないようで、しばらくモゴモゴした後、床に吐き出した。そして、ヴァイルが歩いてきた方へとまた逃走を始める。

 急いでそれを追いかけようとした俺の目に、モルドーレに噛まれて動けなくなったヴァイルの姿が映る。それを見て、俺は思わず動きを止めた。


「え……」


 ヴァイルの髪がなくなっていた。フォグリアの時はそんなことなかったし、もしかして……カツラだったのだろうか?


「わ、私の……か、髪がぁ……」


 ヴァイルは床にうずくまりながらも、痺れているだろう手で必死に頭を隠している。これ、俺たちが無傷でモルドーレを捕まえられたとしても、ヴァイルが果たして黙っているだろうか?やばいやつを襲ってしまったな。

 だが、それはまた後で考えよう。とにかく、今はあいつを捕まえないと。すすり泣いているヴァイルの横を通過し、俺はモルドーレを追跡する。

 モルドーレは、突き当たりを左に曲がった。俺もすぐにその後に続く。廊下を曲がってみて、俺は青くなった。


「ルーテル!?危ないぞ、早く逃げろ!」


 そこにいたのは、5名の男性隊員に囲まれたルーテルだった。ルーテルはモルドーレに気がつくと、驚いて腰を抜かしてしまった。まずい!

 座り込んだルーテルに、モルドーレが襲いかかる。


「きゃあ!」


 その時、ルーテルを囲んでいた隊員たちが一斉に前に出る。


「命に代えても、ルーテルちゃんを守れ!」


 あれは、ルーテルのファンクラブの会員たちだろうか?彼らなら、モルドーレを止めてくれるかも……そう思ったのは淡い期待だった。

 ルーテルの盾になった隊員5名のうち1名は例のごとく頭から噛まれ、他の4名は足代わりの根で弾き飛ばされ、壁に激突して気を失ってしまった。


「大丈夫!?」


 ルーテルが噛まれた隊員の傍に寄る。唯一、まだ意識のあったその隊員は、ぶるぶる震える手で親指を立てて笑った。


「ふ……ルーテルちゃんが無事なら、俺たちの想いたましいは不滅……」


 しかし、そのままそいつも気を失ってしまった。まだ、モルドーレはルーテルをロックオンしたままだ。ルーテルの危機は、未だ去らず。

 モルドーレは、再度ルーテルに攻撃を仕掛けようとした。このままでは、ルーテルまで噛まれてしまう。


「ルーテル!」


 とっさに、俺はルーテルの前に立った。別に俺はファンクラブの会員でもなんでもないが、幼なじみとして、放っておけないと思う気持ちは、彼らと同じだろう。


「ファス!?」


「下がってろ!」


 “倒すこと”が目的なら武器も使えるが、今回は“無傷で捕まえること”が目標だ。目の前には、すでにモルドーレの大きな口が迫っている。その刹那の時に、モルドーレを無傷で、しかも自分も噛まれずに捕まえる方法など、思いつくはずがなかった。

 案の定、頭から食べられはしなかったものの、頭を庇うために出した右腕を噛まれてしまった。でも、こいつは何としてでも捕まえる。

 運のいいことに、モルドーレは右腕に噛みついたまま動きを止めた。捕まえるなら、今がチャンスだ。何とかモルドーレの口から腕を引き抜き、最後の力でモルドーレの頭を上から抑えつけた。床に押し付けられたモルドーレは、ジタバタと根っこを動かして抵抗する。思いのほか、こいつは力が強い。俺もすぐフォグリアみたいになるだろうし、このまま抑え続けることはできないだろう。かといって、ルーテルに頼むわけにもいかないし……エイドを呼んできてもらうか。そこまでもてばいいが。


「ファス!」


 そんなことを考えていると、グッドタイミングでエイドが走ってくるのが目に入った。騒ぎを聞きつけたのだろう。さすがに行動が早い。


「エイド、いいところに!早くこいつを何とかしてくれ。もう追いかけるのはこりごりだからな……」


 とにかく、助かった。もう体が言うこと聞かなくなってきてるからな。

 エイドに抑えるのを代わってもらうと、俺はその場に倒れ込んでしまった。本当に全身が痺れるんだな、こいつの毒は。まぁ、命には別状なさそうではあるが。


「ファス、ごめんね……私のせいで……」


 ルーテルの方を見ると、泣き顔になっていた。


「別に……お前は、むしろ被害者だろ」


 今回の件に関して、ルーテルも、そのファンクラブの会員たちも被害者だ。何も悪くない。

 それに、別に泣くほどのことじゃないだろう。大げさだな、いつものことながら。


「お前もやられたのか……呼べって言ったのになぁ。でもまぁ、今回は仕方ないか」


 ルーテルが無事であることを確認したエイドは、俺の方を見て笑った。


「な、なんだよ……」


「何でもないよ。ルーテル、こいつの口を塞ぎたいから、長めのロープもらってきてくれないかな?あと、誰かファスを運んでくれる隊員もね。俺は、こいつを移し替えないとだから」


「分かった、すぐ行ってくるね!」


 すぐに返事をし、ルーテルは廊下をダッシュしていく。

 ルーテルの走っていく後ろ姿が見えなくなってから、エイドは俺の方を見て、また笑った。


「たぶん、ルーテルがお前の看病してくれるよ」


「だ、だから……それが何なんだよ?」


「素直じゃないなぁ」


 何か言い返してやりたいが、痺れて話すのが大変だ。もどかしい。口が上手く動かないので、俺は精一杯睨んでやった。


「分かったよ、もう言わないから。とにかく、今回は本当によくやったよ。お疲れ様」


 エイドはそれ以上ルーテルに関しては触れず、代わりに俺をねぎらった。


「エイド、ロープもらってきたよ!」


 そこへ、ロープを持ったルーテルと、体格のいい男性隊員とが走って戻ってきた。これで、ようやくこの件は片が付きそうか。


 その後、モルドーレは無事に新しい植木鉢に移し替えられ落ち着きを取り戻し、俺を含む負傷者は救護室に運ばれた。

 そして、これは救護室に運ばれてから聞いた話だが、モルドーレの口の中から、歯に引っかかったカツラが出てきたという。


読んでいただき、ありがとうございます。

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