表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第20章 大事なものを守るために
103/152

望まぬ対峙③

 先攻部隊としてアイテール城への潜入を試みていたメディアス、フォグリア、ゼロ、ラウディ、サナキの五名は、その目前で足止めを食うことになった。

 スピード重視型であるサンダーバードで、なおかつ運搬部隊のエースであるサナキの操縦とあっては、目的地付近までたどり着くのは最短の時間で済んだ。しかし、問題は目的地近くに着陸したサンダーバードから降り、徒歩で移動しようと準備していた時に起こった。


「この先へは行かせんぞ」


 彼らの前に立ちふさがったのは、白いフードを被った誰か。しかし、その声にサナキは聞き覚えがあった。ありすぎた。


「オボロ……だな?」


 サナキの問いかけに、相手はフードをとった。濃い緑の長い三つ編みが揺れる。少し悲しげに目を伏せながら立ちふさがる女性は、間違いなくサナキの幼なじみだった。

 竜族の姫アリアリスと共に姿を消した彼女。その行方を追うも、見つけられずにいた。

 そんな彼女が目の前にいる。聞きたいことは山ほどあった。


「……サナ?」


 しかし、オボロの後ろから、顔を覗かせるようにして様子を窺う少女を見て、言おうと思っていた言葉は吹っ飛んだ。


「姫様!! オボロ……お前、自分が何をしているか分かってるんだろうな。姫様の護衛であるはずのお前が、分からないはずがないな?」


 オボロは無言を貫く。いつもと様子の違うふたりを見て、アリアリスはおろおろしている。


「姫様、なんでここにいるんです?」


「一緒にくれば、サナに会えるからって言われて……」


 ちらり、とアリアリスはオボロを見上げるが、視線が交わることはなかった。


「みんな、先に行ってくれ。ここは、オレが引き受ける」


 大きく一呼吸して気持ちを落ち着けたあと、サナキは仲間たちを先へと促した。躊躇う者もいたが、絶対に退く気のないサナキを見て、従った方がよいと判断する。ゼロを先頭に、サナキ以外の四名は任務に戻った。

 オボロは、サナキが残ればそれでいいのか、他の者たちを追う素振りは見せない。


「お前、あいつら放っておいてよかったのか? 命令されてるんだろ?」


「私は、お前に話があっただけだ。あいつらは取り逃がしたことにすればいい」


 淡々とオボロは答える。悪い予感は的中したなと、サナキは心の中で舌打ちした。

 姫様と共に消えたのは、自分が逆らえないカードを手元に置いて、何か交渉を持ちかけるためだろう。共に守ろうと誓ったアリアリスを使ってまで必要なことなのかと、内心苛立っていた。


「それで、オレに話って?」


 苛立ちを抑えながら問いかける。


「……戻ってこい、サナキ。なぜ、あんなやつらのせいで、お前が私たちの元から去らねばならなかった」


 そう訴えかける声は震えていた。やはり、彼女がこのような行動に出たのは、自分が危うく密猟者たちに捕まりそうになり、それがきっかけとなって竜の集落を離れたことにあるのだと確信する。

 彼女の言うように、あの事件がなければ自分が集落を離れることはなかったかもしれない。だが、それはあくまできっかけであって、集落を離れるという決断をしたのは自分自身だ。だから、オボロの考えとサナキの考えにはすれ違いが生じていた。


「オボロ、きちんと話せないまま出てきたオレにも責任はある。お前と、こんな形で再会することになるとは思ってなかった」


「こんな形でしか、お前を連れ戻す方法が思いつかなかったんだ」


「お前は、何を言われたんだ? どうしてあちら側にいる?」


 ディオスとの繋がりは知っていると、サナキは暗に伝えた。オボロもサナキに隠す気はなかったのか、順を追って話し始める。


「お前が竜の集落を離れて1年後のことだ。お前がいなくなってから、私の中にはどうにも納得できないモヤモヤした感情が巣くっていた。それでも、いつものように、集落の近くを見回っていた。その時に、怪しい飛行物体を見かけたものでな。お前の一件もあったから、追跡したんだ」


 だが、それがばれて逆に捕まってしまう。自分もここまでかと諦めたオボロだったが、彼女を捕まえた人物は密猟者ではなかった。


(君は、竜族だね? ああ、そんなに警戒しないでいい。私たちはお忍びで視察していただけ。驚かせてしまったお詫びに、お茶でもどうかな?)


 それが、王の視察の付き人として同乗していたディオスとの出会いだった。


「ディオスは、不思議な男だった。その日は少し話して帰ったが、気が合ってな。また会う約束をして別れた。それから何度か話すうちに、あいつの計画を知ったんだ。気が合うなどと……あれは、あの男の口車に乗せられただけだったのかもしれないが」


 自嘲気味にオボロが笑う。


「だが、たとえあの男に利用されているだけだったとしても、あの男が全属性使いコアマスターを優遇していることは紛れもない事実。不当な扱いをされている全属性使いコアマスターが守られる世界を創る――それが、あの男の願いだ」


「つまり、俺みたいなやつが守られる世界ってことか?」


 オボロは答えなかったが、それは肯定ととってよいだろう。そこまで聞いたサナキは、呆れたように吐き捨てる。


「オレはディオスの仲間になんてならない。全属性使いコアマスターが守られる世界? あいつが創ろうとしてるのは、全属性使いコアマスター以外どうでもいいって考えが横行する世界だ。せっかく、オレたちの先祖が積み上げてきた共存できる世界をぶっ壊す以外の何物でもねぇだろ。それに、勝手にオレが集落にいられなくなった可哀想なやつだとか思ってんじゃねえよ」


「サナキ、そんなつもりは……」


「姫様までさらって、オレが言うことを聞かなかったら盾にするつもりだったんだろ?」


 自分に対して怒りをあらわにするサナキに動揺しつつも弁明を試みたが、その一言で黙ってしまう。その通りだった。


「オレは、お前との約束を果たそうとしただけなんだよ」


 顔を歪め、サナキは悲し気に言う。


「一緒に姫様を守ろうっていう約束をさ。それなのに、そう言ったお前が姫様をこんなことに使うなんて、約束を守ろうと必死になってたオレが馬鹿みてぇじゃん……」


 その言葉に、オボロははっとする。それは、確かに自分が言ったことだった。


「今のお前には、オレしか見えてない。守るべきはずの姫様も、お前を心配してる仲間たちの顔も、ちゃんと見ようとしてない。どんな気持ちで姫様がここまでついてきたのか、考えてみろよ」


 そこでようやく、自分の背に隠れるようにして様子を窺っていた少女と目が合った。


「オボロの言った通りサナには会えたけど、やっぱりサナ、まだ怒ってる?」


 幼いアリアリスは、勝手に会いに来てサナキに以前怒られたことを思い出し、まだそれで機嫌が悪いのかと心配しているらしい。オボロが自分を利用しようとしていたことなど、まったく考えていない無垢な瞳。これほど無害で、心に突き刺さるものはない。

 オボロも、アリアリスが幼いころから傍で成長を見守ってきたひとりだ。護衛であると同時に、妹のように可愛がっていた。


「私は、お前の意志も、姫様の信頼も、自分の言葉すらも……踏みにじったのだな」


 うなだれるオボロの顔を、アリアリスが心配そうにのぞき込む。サナキも、それ以上は何も言わなかった。十分、彼女にも事の重大さが分かっただろうから。


 もう少しこのまま静かに放って置いてほしいところだが、あいにく今は国を巻き込んでの大騒動の最中。ディオス側についていると思しき、城の兵士の制服を着た集団がこちらに近づいてくる。


「うわー、空気読めよな」


 口では軽く言いながらも、緊張が走る。オボロとアリアリスもそちらに顔を向けた。

 集団はある程度接近したところで銃の照準をサナキたちに合わせる。それを見たオボロも構えるが、それより先に動くものがあった。


「ふたりをいじめないで!」


 オボロの背に隠れていたアリアリス。彼女がふたりの前に走り出て叫ぶと同時に、巨大な竜巻が巻き起こり、放たれた銃弾を巻き込む。

 呆気にとられるふたり。お前がやったのか、とオボロを見たサナキだったが、自分ではないとオボロは首を横に振る。そうだとするならば、これはアリアリスがやったのか。幼いとはいえ、さすがは竜族の姫君。風に愛された子だ。


「こんな私のことも、あなたは守って下さるのですか……」


 ぽつりと、自分の前に立つ小さな背中を見つめながらオボロは呟く。小さくとも、それはいずれ竜族を背負って立つ長となる者の背中だった。


「ぼーっとするな。姫様を守るぞ、今度こそ一緒に!!」


「ああ!!」


 サナキの声で我に返ったオボロは、覚悟を決めたように向かい来る敵と対峙する。

 そして、サナキはアリアリスを連れてサンダーバードに乗り、オボロと共に反撃を開始した。


****


 一方そのころ、海に現れた大水母クヴァレの対応に追われているソワンたちは、水中に潜って身を隠しながら攻撃を繰り返す厄介な相手に苦戦を強いられていた。


「ソワン隊長、攻撃がなかなか当たりません!」


「持久戦になれば、数の多いこちらが有利です。相手に疲れが見えるまで耐えますよ!」


 口では隊員たちを鼓舞しつつも、水中は相手に有利なフィールド。隊員たちの顔にも疲れの色が見えていた。休憩させてやりたいが、他の場所にも人員は裂かれており、こちらに増援を期待するのは困難だった。 


「我々も協力しましょう」


 はっ、と海岸近くから欠けられた声に、ソワンは振り向く。

 そう名乗り出たのは、ルーテルの父親オルシアを筆頭とした人魚たちだった。


「あなたは、ルーテルの……」


「あいつは、以前うちの大事な大事な娘を危険な目に合わせた憎き相手。黙って見てなどいられません」


 オルシアの周りからどす黒いオーラのようなものを感じ、仲間の人魚たちは若干引いている。


「もちろん、まともに戦ったら戦力にはならないでしょう。しかし、海の中で自由に動ける我らなら、あいつを水面までおびき寄せるくらいのことはできると思います」


「しかし、危険では?」


「このまま何もしなくても、自分たちの住処が荒らされているんです。危険に代わりはありません。それならば、自分たちの住処を守ることを他人に任せるのではなく、我々も動くべきでしょう」


 他の人魚たちも同意するように頷く。

 危険は承知でも退く気はないようだ。確かに、彼らの住処が荒らされているのだから、何もしていなくとも危険はある。だったら、早期解決のために協力しようというのは頷けた。

 それに、とオルシアは話を続ける。


「それに、自分の子どもが戦っているのに、私が動かないわけにはいきませんよ。本当はすぐにでも娘の元へ駆け付けたい気持ちでいっぱいですが、私にはそれもできません。今回だけは、あなたの息子さんに娘のことを任せます。今回だけは!」


 今回だけは、とそこを強調してから、オルシアたち人魚は海へ潜っていった。


「……あの子の親としては、約束しかねますかね」


 オルシアの姿が見えなくなってから、ソワンは苦笑しながら呟く。

 子どもたちが頑張っているのに、先に諦めるわけにはいかない。もうひと踏ん張りだ。自分をもう一度鼓舞すると、ソワンも戦闘へ戻って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ