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クラウン=コア  作者: 桜花シキ
第一部 プロローグ
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初任務①

 長い長い年月をかけて繁栄した世界『エターノヴァ』──人間(ヒューマ)、エルフ、人魚(マーメイド)、ドワーフ、オーガ、ドラゴン……他にも、まだまだ多くの種族がこの世界で暮らしている。

 さらに、長い年月の末に混血種(ハーフ)と呼ばれる者たちが現れ、世界中に広がりを見せていた。本当に様々な混血種(ハーフ)がいるため、彼らが何と何の混血種(ハーフ)なのか見た目で判断することは非常に難しい。種族の垣根を越え、互いに助け合うことを選んだ彼らは、ひとつの組織を作り上げた。

 

 世界防衛組織『アブソリュート』──誰かの役に立ちたいという意志を持つ者ならば、基本的に誰でも志願可能な組織だ。

 入隊試験は一応あり調査書(経歴や、入隊希望先など)、筆記試験、入隊希望先で必要な実技の試験、個人面接が行われる。ちなみに、入隊資格は15歳以上であること。しかし、これらをクリアして入隊しても、途中で訓練に耐えられなくなって辞めてしまう者がかなりいるらしい。

 アブソリュートは、組織を取りまとめる最高司令官をはじめとし、役割ごとに分かれた5つの隊の隊長がそれを支えている。

 隊の種類は、主に戦闘任務の前線で戦う『戦闘部隊』、怪我などの治療を得意とする『救護部隊』、荷物や人員の運搬を担当する『運搬部隊』、情報収集を仕事とする『諜報部隊』、そして司令官と最も密接に関係し、任務の作戦を考える『作戦部隊』だ。

 アブソリュートが請け負う仕事は、実に様々。被害を及ぼしている危険生物(モンスター)の討伐任務やら、お尋ね者の捜索やら、未開の土地の探索やら……誰かの助けになることならば、基本的に何でもやるのがモットーだ。

 ただし、任務といっても制限はある。戦闘任務参加可能になるのは入隊後3年以上が経過した時。これは、個人差はあるものの、大体3年ほどで最低限必要な知識や技術を身につけられるように講義や訓練が計画されているためだ。それに該当しない隊員は、安全面の問題から戦闘任務以外を請け負う。

 任務は、受理されれば料金は基本的にとらないため(商業目的のもの等は除く)、組織に持ち掛けられる相談や依頼は後を絶たない。そうなると、資金源はどこなんだと言いたくなるが、世界各国から支援金を受け取っているので何とか成り立っている。

 

 アブソリュートは世界中に支部を抱えているが、支援金の多くを出してくれているアイテール王国に本部を構えている。アイテール王国は、天高くそびえる城がシンボルの国だ。城を含め、この国のカラーは白。本部、支部は関係なく、建物はその土地の景観に合わせることになっているため、本部の建物も白だ。

 また、隊員には制服が支給されるが、ひとりひとりオーダーメイドで作られているため個人差がある。

 だが、その制服には、隊員なら銀色、隊長なら金色の隊員証コアバッジをつけることが義務づけられている。コアというのは魔法を使う際に必要となる、体内エネルギーのようなものだ。空っぽになってしまうと生命活動が停止するとも言われている。隊員証コアバッジが示しているのは、それをつけている者が扱うことのできる魔法の種類だ。

 魔法には、火、水、土、風、光、闇の6種類があり、ひとりひとり使用できる属性も、量も違っている。つけられている石の種類で、誰が何の魔法を扱えるのか一目で分かるようにすることが隊員証コアバッジの目的だ。これにより、誰がどんな力を使えるのか、隊員同士で認識しやすくなる。

 そして、隊員証コアバッジにすべての石を持つ者のことを総称して、全属性使い(コアマスター)と呼んでいる。全属性使い(コアマスター)は珍しく、普通はなかなか見かけることのない存在だ。しかし、アブソリュート内部には、そういう者たちが割と多い。それというのも、自分から志願した者だけでなく、アブソリュートから直々にスカウトされることも少なくないからだ。コアマスターにも力の差はあれど、軒並み高い数値を示すので、何かと重宝されている。

 だが、いくらアブソリュートに全属性使い(コアマスター)が多いといっても、隊員全体に占める割合はほんのわずかだ。

 彼らに頼らずとも、同レベルかそれ以上の力を持った隊員たちが、数年前まではかなり入隊してきていた。

 しかし──



──アブソリュート最高司令官室

 文字通り、最高司令官ネオ=グランソールが通常、仕事を行っている部屋だ。種族としてはエルフだが、人間(ヒューマ)の女性と結婚し、2人の子供がいる。

 彼の仕事は、任務関係のみならず、組織運営や支部の偵察など、とにかく幅広い。50歳目前となった今は前線から退いているが、昔は作戦部隊隊長で戦闘任務でも多大な功績を挙げていたそうだ。彼もまた、数少ない全属性使い(コアマスター)のひとりである。


 本日、彼が作戦部隊と話し合っているのは、優秀な戦闘員の不足問題。ネオを中心とし、作戦部隊の隊長と副隊長が議論している。


「最近の新米どもは……どうにも骨のないやつらが多すぎる!最近では、以前ならば難なくこなしていた討伐任務も失敗続きではないか」


 そう文句を言ったのは、ドワーフの男。副隊長ヴァイルだ。背は130cmほどで、最近は丸々と太ってきている。昔からそうだったが、いちいち言葉に棘があることで有名な男だ。

 若いころは、自分こそが作戦部隊の隊長になるのだと豪語していたようだが、結局そうはならなかった。副隊長の座に収まった後も、何かと隊長に対して突っかかっている。ヴァイルからすれば後輩なので、嫉妬のような感情も渦巻いているのだろう。


「仕方ないでしょう。強い戦闘員が毎年いるわけではないのだから」


 金色の髪を頭の上で団子状にまとめた、人間(ヒューマ)の女性。隊長であるソワンは、そうなだめながらも頭を悩ませていた。ヴァイルの言う通り、確かに戦闘員の不足は今後の組織運営に大きく関わる。


「戦闘員はあらゆる任務で必要だ。戦闘部隊員以外にも戦闘参加させることで、今は何とか凌いでいるが、いつまで耐えられるか……」


 ヴァイルは面白くなさそうに、首を横に振った。


全属性使い(コアマスター)以外でも、素質のありそうな者をスカウトするしかないか」


 2人の話を聞いていたネオがため息をつく。


「しかし、それでは即戦力になりませんぞ。──ソワン=オプセルヴェ、作戦部隊隊長として、あなたはどう思う?」


「確かに、間に合いませんね」


「でしょう?ですが、将来的にはそれも行っておいた方がよろしいかと。──それで、現時点での打開策を提案したいのですが」


 ヴァイルはソワンの方に視線を送った。何か企んでいる。ソワンは嫌な予感がした。訝しげな顔でヴァイルに尋ねる。


「どういった策でしょうか?」


「──ファス=ウィズの力を借りるという案だ」


 それを聞いたソワンは机をバンと叩き、思わず立ち上がって大声を出した。


「待ってください!あの子は、まだ15歳です。ここに来て、数ヶ月しか経っていないんですよ?とても、実戦で使えるような──」


「彼がどんな力を持っているのか、あなたが一番ご存じのはずだ」


 ファスというのは、ソワンが10年前から訳あって預かっている、人間(ヒューマ)とエルフの間に生まれた、黒目黒髪のハーフエルフだ。今年、アブソリュートの戦闘部隊に入隊したばかりである。

 “訳あって”と言うだけあって、彼は特別な事情持ちだ。


「あれは……いつも使える力ではありません。期待するのは無駄というものです」


 預かっているだけとはいえ、10年間も一緒に暮らしてきた大事な家族。実の息子と、なんら変わらずに接してきた。

 その子を、戦いに出さなくてはならない。自分の立場からすれば、私情に流されるなどもってのほか。しかし、反射的に抵抗を試みてしまう。

 だが、ヴァイルもそう簡単には引き下がらない。


「それを除いてもだ。戦闘部隊内でも、十分実践で使えると噂になっているそうではないか」


「しかし!」


「元々、彼を生かしておいたのはそれが条件ではなかったのかね?本来なら、あのような危険因子を放っておくべきではないのだ。役にも立たず、ただ我々に害を及ぼすだけなら──」


「少し黙れ、ヴァイル」


 度が過ぎるヴァイルに、ネオはぴしゃりと言い放った。静かに言ったはずの言葉だが、誰が聞いても委縮するであろう威圧感を含んでいる。


「……はい」


 さすがのヴァイルにも、ネオの一喝は効いたらしく、大人しく黙り込んだ。

 ほっとしたソワンだったが、それは一瞬だけだった。


「しかし、ヴァイルの言うことも一理ある」


「司令官!」


 ネオの発言に、一度は安堵したソワンがまた声をあげる。

 ネオは、そんなソワンの心中を察しながらも、ヴァイルの策が有効であることは理解していた。それをふまえて、ネオは提案する。


「だが、我々が判断してよい問題ではあるまい。直接、彼にどうするか決めてもらう。それで手を打ってもらえないだろうか?」


 2人の視線が刺さる。自分の立場上の問題や、それとは裏腹の感情がごちゃごちゃになりながら、ソワンの頭を駆け巡った。  

 悩んだ末、渋々彼女は頷き、部屋から出て行った。




「あ、母さ……ソワン隊長、どうかしました?」


「エイド……ファスはどこかしら?」


 ファスを探すため廊下を歩いていたソワンは、諜報部隊員であり自分の息子でもあるエイドと鉢合わせた。組織の中でも優秀な隊員として噂され、黒い制服の左胸につけられた銀の隊員証(コアバッジ)には、赤・青・黄・緑・白・黒すべての石が輝いている。彼もまた、全属性使い(コアマスター)なのだ。諜報部隊員でありながらも、あらゆる分野に関してバランスよくこなせる器用さを持っているため、いろいろな部隊の助っ人としてよく働いている。

 何か調べ物をしていたらしく、図書館から借りてきたであろう分厚い本を右脇に抱えていた。彼は、危険生物(モンスター)についての情報を集めるのが趣味なので、おそらくまたその関連本だろう。


「ファスなら、たぶん訓練場です。ファスに、何か?」


 ひとりっ子だった彼は、5つ下のファスのことを本当の弟のように可愛がっている。今回の話は、今しなくてもいずれ彼にも伝わるだろう。なら、自分の口から話しておこうと、ソワンは口を開いた。


「あなたにも、話しておいた方がいいわね」


 廊下を2人で歩きながら、ソワンがここまでのいきさつを話す。ファスの話がソワンの口から出た時、エイドは思った通りの反応を見せた。


「ファスを戦闘任務に参加させる!?決定事項なんですか?」


「それはファスの返答次第だけど、断ればヴァイルが黙っていないはずだわ」


 ヴァイルはファスのことをあまりよく思っていない。出会い方が最悪だったせいもあるが、近寄るのを避けている。ヴァイルにしてみれば、早いところファスを遠ざけたいのだ。

 これでファスが断ろうものなら、昔のことやらなにやらを引っ張り出してきて、何としてでも戦場に送り出そうとするだろう。

 そうなりそうだということは、エイドにも分かった。どうにもファスが戦闘参加するしかないというのなら、エイドには次の行動が決まっていた。


「それ、もし避けられないのなら──」



****


「ファス」


 休憩中、俺の名前を呼ぶ金色の髪の人間(ヒューマ)が姿を現した。彼のことは、よく知っている。俺が世話になっている、オプセルヴェ家のひとり息子だ。兄貴面していて、お節介。まとわりついてきて鬱陶しいと思うこともあるが、まぁ……悪いやつではない。

 訓練場の鉄の扉から、エイドはこちらに歩いてきた。とりあえず今日の自主練は終わっているし、話を聞く時間はある。


「エイド、俺に何か用か?」


「ちょっとな。司令官がお前を連れてこいって」


 エイドは笑っていたが、それに何となく違和感を感じ取る。


「司令官が?……エイド、お前理由知ってるだろ」


 俺がそう言ってやると、エイドは少し驚いた顔をして息を吐いた。


「ばれたか。それで、お前としては何だと思う?」


 エイドはそう聞いてきた。

 思い当たる節がないわけではない。おそらくそうであろうと思われる理由が、頭の中に思い浮かんだ。


「最近、ヴァイルが俺の周辺をうろついてたのには気づいてる。もし、あの人が絡んでるんなら大体想像はつくさ。そろそろ言い出すとは思ってた」


「ご名答、その人絡みだよ。戦闘任務のお誘いだってさ」


 エイドは、覚悟していた俺の様子を見て、少し悲しそうな顔をする。

 

「入隊してすぐに戦闘任務への参加、か……。デモリス隊長以来だって話だぞ」


「デモリス隊長が?」


 デモリスというのは、俺の所属する戦闘部隊の隊長のことだ。全属性使いコアマスターでもあり、相当な強さだという話だが、直接その戦いぶりを見たことはない。月に一度の定例会の時に、遠くから見かけたことがある程度だ。


「そうらしい。でも、お前には断る権利もある。ここに入ったのだって、強制的だったしな。本当にいいのか?」


 エイドはこう言ってくれるが、俺はここに入隊した時からこうなることは分かっていた。いいも何も、俺はここから逃げられない。


「ああ。それは、仕方のないことだと思ってる。“あいつ”がいる限りはさ」


 そう、“あいつ”がいる限りは、ここにいることが最善なのだ。


「お前が納得してるんなら、いいんだけど。まぁ、何か困ったら兄貴を頼れよ」


「別に、困ってない。心配しすぎだぞ、エイド」


「お前は“兄さん”って呼んでくれないよなぁ。“あいつ”は普通に呼んでくれるんだけど……」


 そう言ってエイドは笑う。

 その態度が理解できなかった俺は、低い声でエイドの話を遮った。

 

「“あいつ”の話は、やめろ」


「──何でそこまで嫌うかねぇ」


 エイドは意味が分からないという顔をして、また笑う。

 その様子に、俺は思わず声を荒げた。


「お前こそ何で……何で笑って話せる!?“あいつ”はお前を──」


「ストップ。まだ気にしてるのか?」


 話を途中で遮り、エイドは呆れた顔をした。こちらにしてみれば、そうしたいのは俺の方だ。

 しかし、このまま話していても、エイドはずっとこの調子だろう。


「……もう行く」


 俺は、諦めてネオの所へ行くことにした。


「ふぅ……分かったよ」


 エイドはやれやれと言うように、早足で最高司令官室に向かう俺の後ろをついてきた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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