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Five Aura Story  作者: 星野将俊
第一章
8/8

(8) 試作品

 巧の家は透の家からは徒歩で10分ほどしかかからない、透の家と同じ一般住宅地区の一角にある。

 坂本家の家訓の一つ、「一般消費者の目線でモノを考える」という力を育成するため、高級住宅街に居を構えず、一般住宅街に居を構えている。

 外観は周囲の家とさほど変わらないが、大企業の社長の家ということもあり、よく見ると目立たないようにセキュリティ装置が設置してあるのがわかる。

 入り口に設置しているセキュリティ端末にVPTをかざすと、少し待ってからセキュリティ端末から表示される仮想ウィンドウに黒縁眼鏡を掛けたショートヘアの女性が映る。

「透様、お待ちしておりました」

 言葉とともに電子ロックが解除される。

(相変わらず葉月さんは堅いな・・・)

 仮想ウィンドウに映った女性――坂本家の使用人、葉月・ガルシア――に対しては幾度か呼び捨てにしてもらってもかまわないといっているのだが、彼女は巧と親交が生まれた小学校低学年の頃からずっと様付けで呼ばれている。

 葉月は巧が生まれてまもなく坂本家に引き取られた孤児で、不在がちな両親に代わりもう一人の使用人と共に巧を育ててきたという経歴もあり、主人である坂本家の人間及び親しい友人に対して様付けを行っている。

 とはいうものの、透にとっては巧と一緒に世話になっているお姉さん的な存在であり、立場というものがあったとしても様付けは行き過ぎという気もする。

 ちなみに巧と付き合っているらしく、二人きりのときだけ巧のことを「巧さん」とさん付けにしているという話を巧から聞いたが、今の堅苦しい雰囲気からは信じられない。

 そんなこんな考えながら、透は2階の巧の部屋のドアをノックする。

「来たね」

 巧が部屋から顔を出し、透を部屋へ招き入れる。

 巧はデスクの椅子に座り、透がベッドに腰を下ろしたところで口を開く。

「さっきも軽く聞いたけど、そっちの首尾はどんな感じ?」

「まずはFBIの監視下から外れた感じかな?一応、位置追跡は今もされてるけど、行動には支障が無くなったけど、その見返りに捜査の手伝いをすることになった」

「手伝いって、『気功瞳』を使って犯人探しをするってことかい?」

「まぁ、そういうこと。教授曰く、後ろ盾となるものが必要になってくるだろうからコネを作れってよ」

 そう言うなり透はベッドに倒れこむ。

「教授の言いたいことはわかるけどさぁ」

「確かに色々とコネがあってもいいかもね。友人として僕はできるだけ手助けしたいと思っているけど、僕ができるのは色々な試作品を用意するくらいだからね」

「そうだ、見せたいものってなんだ?」

 ベッドから体を起こし巧へ向き直る。

「これだよ」

 巧がデスクの上にある箱を開け、中から数枚の金属板を取り出し、一枚を透に向かって放り投げる。

「なんだこれ?新しいカード型VPTにしては大きいな」

「新素材でできたプレートさ。オーラの伝導率が従来品よりも40%向上していて青のレベル2程度でも用意に変形が可能っていうことなんだけど、実際にどう・・・」

「うおっ!?」

 巧の説明を聞き、金属板に青のオーラを流した瞬間に金属板がどろりと溶け、透が驚きの声を上げる。

「大丈夫そうだね。コントロールの練習をすればこんな風に・・・」

 巧はプレートにオーラを流し、器用に招き猫の人形を作る。

「あと、青だけじゃなくて、他のオーラの伝導率も含めた総合的なオーラ伝導率が40%向上しているから他のオーラにも応用が利くから透の能力なら使い方の幅はかなり広がるはずだよ」

 適当な相槌を打ちながら透は溶かしたプレートをボール上にしたり、棒状にしたりしている。

「もう少し軽ければいうことなしって感じだな、これ」

「やっぱりそこが気になる?」

 巧は透の感想をメモし、

「他に気になるところがあったらどんどん言ってね。あと他に必要なもののリストアップが必要かな?」

 新たな仮想ディスプレイに試作品リストを映し出し、巧が唸る。

「とりあえずスタンガンと防弾ジャケットは必要かな?あとは追跡用の足も欲しいよね」

「防弾ジャケットって物騒だな・・・」

 透が片手で顔の右半分を覆う。

 それに対して巧はカラカラと笑いながら、

「物騒なことをしようって言うんだから仕方ないさ」

「そりゃそうだけど、やっぱり現実を突きつけられるとな・・・」

「そうだ、防弾ジャケットが必要ならヘッドギアもいるよね?」

「もう、好きにしてくれ・・・」

 透はそう言うなり、再びベッドに倒れこんだ。


 二日後、再び巧の家。

 今回、巧は自室ではなく、玄関先で透を出迎える。

「まだ、FBIの人から呼び出しはかかって来てないみたいだね?」

「ああ、おかげさまでこっちは平和な日常を過ごせているってわけだ」

 頬杖を突きながら透が答える。

「一昨日頼んだものが来たって聞いたけど、やけに早いな」

「急いでもらったからね。一つを除いて地下に運んであるからまずは地下へ行こう」

 巧は透を地下の一室へ案内する。

「この部屋は入ったこと無いな・・・」

「そうだった?」

 透が部屋に足を踏み入れるとその部屋はドラマで見たような殺風景な部屋だった。

 塗装されていないコンクリートに見える素材の壁、おそらく本物だと思われる銃が置かれている棚、紛れも無く射撃場だった。

「いや、さすがにこんな場所なら忘れることは無いって」

 言いつつ近くに置いてある銃を手に取る。

 思ったよりも軽く、銃弾もよく見ると金属製ではなく、ゴム製である。

「そこに置いてあるのは護身用の銃だから銃身も強化プラスチック製だよ。そしてこれが今日届いた試作品」

 巧は1丁の銃と2つの弾倉を手に透の隣に立つ。

「まずこっちの弾がガス圧式のスタン弾丸。有効射程距離は20mくらいだから過信はしないこと」

 巧は一つの弾倉を持ってそう言いながら、表示した仮想ウィンドウを操作し、ドアとは反対側となる壁に人型の的を表示させる。

「弾丸には針状の電極があって、命中すると50万ボルトの電圧が発生する」

 巧が銃に弾倉をセットし、狙い定めてトリガーを引くと、銃弾は的の心臓あたりを通過し、後ろの壁に突き刺さる。

「1箇所に当てただけでも相手の動きを制限できるけど、2,3箇所に当てれば大抵の人間はショックで気絶するくらいの威力はあるから、連射したほうがいいかな?」

「本格的に物騒だな」

 巧はスタン弾丸を銃から外して渡し、続いてもうひとつの弾倉の説明に移る。

「こっちもガス圧式なのも含めて射程距離もスタンガンとあまり変わらない、オーラペイント弾丸。透明で無臭のバクテリアが一定時間特定のオーラを放出する」

「バクテリアがオーラを?」

「制御できるのが人間だけという話であって、他の生き物もオーラを持っていることは確認済みだからね。このバクテリアは空気に触れると黒色のオーラを放出する特性を持っている。FBIの人が純色だというならバクテリアが放出するオーラを感知できると思う」

 再び巧は銃に弾倉をセットし、狙い定めてトリガーを引く。

 今度は頭の眉間辺りを通過し、弾丸は後ろの壁で破裂し、スライムのようなものが壁に張り付いた。

「ん、確かにオーラを放ってる。でも、集中しても弾丸のからはオーラを感じないな」

「透でも弾丸からはオーラを感じ取れないか。僕も詳しい構造まで解らないからなんとも言えないね」

 巧は肩をすくめてそう言うと、他に届いた試作品の箱を開ける。

「これが防弾ジャケットだね。説明によると一定以上の強い衝撃に反応して圧縮された空気が膨張するエアバッグ式。ブロックごとに動作するから同じ箇所に衝撃を受けない限り複数回使えるものだよ」

「こいつにはお世話になりたくは無いな」

 透は顔を顰めながら防弾ジャケットを受け取る。

「それでこれが同じくエアバッグ式のヘッドギア。もう一つはここじゃなくて表で説明しよう」

 巧はヘッドギアを棚に置くと、透を招いて地下から出る。

 玄関から出る前に、巧は底がやや厚めの靴を透の前に出す。

「これは電磁及び重力制御のローラーブレード。今は車輪が出てないけど、靴に微量の電流を流すことで車輪が出る仕組みになっている。ちょっと外で試してみよう」

 歩道に出てから、言われた通り、靴に黄のオーラを使い、電流を流す。

 内側に折り畳まれた車輪が出ようとするのを感じるが変化は無い。

「あれ?なんも起きないぞ?」

「言い忘れてた。軽くジャンプしてからやってみて」

「ジャンプ?」

 軽くジャンプしてから電流を流すと靴底に折り畳まれた車輪が飛び出す。

「おっと」

 車輪で着地したため軽くバランスを崩し、街灯に手を突く。

「なるほどね。車輪がこんな感じで出るのか。これは慣れが必要だな」

「起動したときと同じ方向に電流を流すと車輪が回転する。逆方向に電流を流すと車輪が引っ込むから注意して。あと、一昨日見せた新素材を使っているから重力制御も簡単にできるはずだよ」

 どれどれ、と透はまず黄のオーラで電流を流す。

 車輪が回転し、よろよろと多少ふらつきはするがゆっくりと前進する。

「お、思っていたよりも強いな」

「あんまり過信せず、基本的にはローラーブレードだと思ったほうがいいよ。坂道を登ったりとかするときの補助やスピードを調整したい時なんかにオーラを使ったほうがいい」

「そうだな。特にスピード落として角を曲がるときなんかは便利そうだな」

 多少慣れてきて、車通りの少ない車道で円を描くように走りながら透は感想を言った。

 巧は透の様子を見てメモをとりながら、

「とりあえず今回手配したものはそれで最後。他にこんなものがあったらいいと思うものがあれば言ってね。それじゃ後は地下で銃の練習をしよう」

 透は再び軽くジャンプをして、車輪を折り畳み、靴を指差しながら、

「これ以上必要なものって言われてもちょっと思い浮かばないな。とりあえずこいつの制御と銃の命中率さえ上げれば自分の身を守るには何とかなると思う。実際にドンパチやるのはFBIの優秀な捜査官殿達のお仕事だよ」

 それにと付け加え、袖を捲くり、

「一昨日のこいつの方が俺にはしっくりくるし面白くていいね」

 腕に巻きつくような篭手上に引き伸ばした新素材を巧に見せる。

「気に入ったみたいだね。それ」

「ああ、慣れると簡単に薄く引き伸ばしたりもできるし、元々それそれなりの硬度があるから形を整えた後はオーラを使わなくてもいいし、続けてオーラを使えばもっと色々できるからな」

「そんなに気に入ったならそのまま使い続けてみる?」

 久々に見る親友の無邪気な笑顔に巧は笑顔で問いかける。

「いいのか?」

「一応名目としてはテスト期間延期ってことにしておくよ。それに他の製品とは違ってその素材はこっちに送ってきた段階で用済みといえば用済みなんだ」

「マジか!?そいつはありがたいね」

「もちろん定期的に報告とかをしてもらうけど」

 透はそんなことでいいのかと快諾すると、意気揚々と地下の射撃場へ向かった。

 しかし気分とは裏腹に銃の扱いは難しく、止まっている的でも射程ギリギリのところで命中率1割未満という散々な結果に終わり、意気消沈したまま巧の家を後にした。


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