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Five Aura Story  作者: 星野将俊
第一章
5/8

(5) 取調べ

 病院で螺子の除去と止血を施され、腕に包帯を巻かれた透は今、一人でFBIが警察から間借りしている取調室にいた。

 椅子の背もたれに体重を預け、天井のライトをぼんやりと見つめ、自分のこれからの境遇について考える。

(う~ん、何で俺が襲われたのかわかるまでは、軟禁されるのかな。まぁ、またあの爆弾魔に襲われるのも嫌だけど、しばらくここに缶詰ってのも嫌だな)

 それにしてもと、自分を保護したFBIの二人のことに考えを移す。

(井川って人はまともな感じだけど、イーストウッドって人はほんとにFBIなのか?病院に行ったらすぐに看護婦をナンパしに行ってたみたいだし、井川さんが連絡するまで車に戻ってこなかったし・・・)

 イーストウッドの人格的な問題からFBIという組織に疑問を抱いていると、ドアが開き二人の男が入ってくる。

 一人は口髭を生やし筋肉質な感じの中年の男、その後ろいるのは井川だ。

「ディビット・スミスだ」

 口髭の男は名を名乗りながら透に手を差し伸べる。

 透は無言でスミスと握手をした。

 無表情で瞬間的にオーラを使い、力を込める。

 だが、ごつごつした手の印象とは裏腹にスミスが繊細な力加減で握り返してきたことに透は表情に出さなかったが驚いた。

 スミスは透の対面の席へ座りVPT――多機能携帯端末――から仮想ウィンドウを幾つか展開し、口を開く。

「透・高倉君。君の事はいろいろと調べさせて貰った。父は会社員、母は料理教室を開いていて、現在は公立高校に通い、年齢は16歳、11月11日生まれ、成績は平均してBプラスで悪くは無く、オーラ実習に関してはAプラスといたって普通の学生だ」

 スミスはここまで言うと、一呼吸置き、仮想ウィンドウから透へと視線を移動する。

「さて、ここまでは合っているかな?」

 口調はやさしげだが、顔が強面なので脅迫めいた言葉に聞こえる。

「ええ、合ってますよ。こんな短時間でそこまで調べられるなんて流石FBIですね。でも、俺自身なんでいきなり攻撃されたのかわからないのに、俺に尋問されても困るんですがね・・・」

 頬杖を付きながら透はスミスへ不満を漏らした。

「君自身はそう思っているかもしれんが、相手がどう思っているかは別問題だ」

 スミスは眉一つ動かさず言葉を続ける。

「次は君の交友関係についてだ。ドラゴンスレイヤーが関与する可能性があるとするなら次の二人の人間との関係だ。一人はスロープイノベーションの御曹司、巧・坂本。もう一人はオーラ研究の権威である、ジェイムズ・クォート教授」

 二人の名前が出たとき、表情にこそ出さなかったが内心では焦りを感じた。

 その二人と自分しか知らない『気功瞳』のことが他の人間に知られたかもしれない。

 もしそうなれば自分は実験動物のように扱われ一生を終える可能性が十分にありうる。

 オーラバランスは現代科学をもってしてもせいぜい百分の一までしか計測不可能だが、透は一万から十万分の一までの精度でオーラバランスを感じることが出来る。

 それに加え計測も瞬間的に終わり、オーラバランスだけでなく、他人がオーラを使用しているかどうかをも感知することが可能というおまけ付きだ。

 秘密を知れば喉から手が出るほど自分を欲しがる人間は山ほどいるだろう。

 スミスはそんなことを考えている透を無視して話を続けた。

「だが、スロープイノベーションと繋がりを持つという目的に行きつくとしても君を介するよりは坂本家の家事手伝いの娘を使ったほうがまだ効果的だ。社長の息子の友人という縁遠い関係の人間を使って企業に脅しをかけるほど彼らも暇ではない」

 透はスミスの言葉尻しか聞いていなかった。

 スミスが再び一呼吸置くのにあわせて椅子に座りなおす。

 三度スミスが言葉を放つ。

「となると残りはクォート教授になるわけだが、その前に家が近いということ以外に君と教授が何故友好関係を築けたのか、その理由を教えてくれるかな?」

「その前に聞いていいですか?俺に黙秘権はあるの?」

 スミスの問いかけに透は映画や刑事ドラマなどでよく登場する常套句を口にする。

「ミランダ警告か。確かに君が容疑者であれば君にも黙秘権や公選弁護人を選ぶ権利がある」

 だが、とスミスは否定形の接辞の後に言葉を続ける。

「現段階では君に何の容疑もかかっていない。我々はあくまでテロリストから君を保護しているに過ぎない。今は君と重要人物との関係から何故君が狙われたのかを知り、対策を立てねばならん。それが我々の仕事だ」

 スミスは机に肘を付き、両手の指を組み、人差し指の上に鼻筋のあたりを乗せ、口元を隠すような体勢でそういい終えると、息を大きく吸い込みゆっくりと吐き出した。

「話の続きだ。君が教授と親しい理由を話してくれるかね?」

 しばしの沈黙が狭い室内を征服し、透は目を閉じ、何処まで話したものかと思案し、重く口を開いた。

「俺のプロフィールでオーラ実習の成績がAプラスってありましたよね?」

「ああ、確かに」

「教授によるとそれは俺のオーラバランスで同量な色が複数あって、多色のオーラを同感覚で操作することが可能だからって話。教授は俺が小さい頃に俺自身気付かなかったそれを見抜いて、研究材料として利用価値があるから俺と親交を保っているわけ。まぁ、小さい頃は知りあいだということを理由に教授の実験に無償で協力していたけどね。流石にいまじゃ無料で実験に協力なんてしないけど」

 ほう、と、感心した声を上げ、スミスは後ろに控えている井川に問いかける。

「井川、お前は報告でこの子がオーラを使用していたと書いていたが、実戦でのオーラの使いようはどうだった?」

「確かに、実技がAプラスであることは間違いないでしょう。爆破を回避しようとして斥力を使っていましたが、発生させた斥力と跳躍距離が割に合わないほどの距離だったので嘘ではないと思います。跳躍の直後に一瞬ですがフラッシュを使用していましたから、少なくとも白、黒、黄の3つのオーラをほぼ同時に使用していたのは確かです」

 スミスは透から視線を外さずに、井川の報告を聞く。

「なるほど、どうやら本当のようだな」

「嘘を言っても仕方ないでしょ」

 透はあきれたような仕草をして、再び背もたれに体重を預けて頭の後ろで指を組んだ。

 スミスはクォート教授の過去の論文のリストを仮想ウィンドウに映しながら、

「クォート教授の論文でもオーラの同時使用やオーラレベル完全一致による相互作用に関するものが多いのは君が絡んでいる可能性が大いにありうるというわけか。クォート教授の他に君のオーラバランスについて知っている人間はいるのかね?」

 透はどうごまかして言おうか頭を掻きながら考える。

「ん~、巧は気付いてるんじゃないかな。あいつ、頭もいいし勘も鋭いから。でも、わざわざそのことを周りに漏らすような性格じゃない。他の奴が気付いている感じはないかな。だから知ってるとしても、教授と巧の二人だけだと思う。教授もわざわざ他の人に言ったりしない人だし」

 透の返答を聞きながら、仮想ウィンドウを展開していたスミスは口髭をいじりながら思案を巡らせた後、

「まだ裏が取れていないが、ドラゴンスレイヤーがクォート教授に接触を試みているという情報が入ってきている。表向きは五龍会関連施設の爆破に見せかけているが、クォート教授の奥方も被害にあっている。偶然かもしれんが、君とドラゴンスレイヤー結ぶ接点があるとするとクォート教授しかいない。奴らが君のオーラバランスを知っていて接触したという線は限りなくゼロに近いが、クォート教授と繋がりの深い人間が被害に会うのは二人目だ。そちらの線と見たほうがいいだろう」

 スミスはそう結論付けると、展開していた仮想ウィンドウを閉じ、席を立つ。

「ちょっと待ってくれよ!それじゃ俺はどうなるんだ?このまま事態が収束するまで此処に居ろっていうのか?」

 透は慌ててスミスを引き止めた。

「せめて着替えとかを取りに一旦帰らせていただけないもんですかね?それに、ドラゴンスレイヤーが教授に接触したかどうか知りたいなら俺を連れて行って直接聞いたほうが早いと思うけど」

「どういうことだ?」

 スミスは持ち上げかけた腰を下ろし、透の話に耳を傾けた。

「さっき、教授の論文でオーラの相互作用によるものが多いって言っていただろ?教授にとって都合のいい実験体である俺が居なくなったら教授の研究も滞るわけだ。教授の性格からいってあの人は研究のためならテロリストにも手を貸すことを厭わないけど、唯一の例外として、かなりの愛妻家だから奥さんを危ない目に遭わせた奴らに手を貸すことは無いと思うけどな」

「なるほど、愛妻家とは知らなかった」

「まぁ、教授は普段からほとんど無表情だからね。でも、研究室に遊びに行ったり実験の協力をしたりしたときに、研究のこと以外には奥さんの話しかしない人だよ。それにさっきの口ぶりから言って教授がドラゴンスレイヤーと関係があるのか問い合わせてるけど返答が無いって感じだったよな?俺を使ってそれを直接聞くのはアリだと思うんだけど?」

 無表情でのろけ話をする様を思い出し、辟易した表情で透はスミスへの説明に補足した。

 スミスは再び口髭をいじり、目を細めて透を見遣った。

「よかろう、帰宅を許可する。ただし、ここのアレックス・井川を護衛として君に付け、24時間警護にあたらせよう。異論は無いかね?」

「課長!」

 井川が講義の声を上げるが、スミスはそれを手で制し、

「本件の指揮権限を持っているのは誰だ?お前か?」

「いえ・・・」

 井川は不満げな表情を崩さなかったが、それ以上反論はしなかった。

「では、改めて言おう、井川、お前にこれからこの子の警護に当たることを命ずる」

「わかり・・・ました・・・」

 いまだに納得いかないという口調で井川が返事をすると、スミスは無言で席を立ち、取調室を後にした。

 スミスと入れ替わりにイーストウッドが取調室へ入ってきて井川の肩を叩く。

「まぁ、今は運が悪いと思って受け入れるしかないよ井川ちゃん。この坊やが可愛い女の子だったら喜んで代わってあげるけど、残念ながら男じゃそんな気にはならないねぇ」

「あのさぁ、不満なのはこっちも同じなんだけど、いかにも被害者は自分だけってな感じなのは辞めてもらえませんかね?それにいい年こいた大人が坊や呼ばわりする子供の目の前でそんなやり取りをするのは教育上良いとでも思ってるんですか?」

 二人の大人を半目で見ながら透は皮肉った。

「坊やもそうカリカリしなさんな。こっちも貴重な人員をお前さん一人に割いてるんだぜ?いうならVIP待遇だ。まぁ、俺は坊やが攻撃されたのはドレイクの奴の逆鱗に触れちまうようなことをたまたま言っちまったからだと思うがな」

「俺は歌を歌ってただけだぜ?それすら駄目って言うことか?」

「坊や、人のトラウマとか逆鱗ってのは何が引き金になるかわからねぇから恐ろしいんだ。いくらいい女でもそいつの気に食わないことをちょっと言っただけでヒステリーを起こして関係がおじゃんになるなんてことざらにあるんだぜ?」

 チッチッチと人差し指だけを立てて、軽く腕を振りながらイーストウッドは熱弁した。

 まあいいやと、透は背もたれに預けていた体重を前方に移動させる反動で立ち上がり親指を立ててドアを指し、

「とにかく家まで送ってくれよ。早いとこ母さんにも事情を説明しないといけないし」

 井川は今日、何度目かわからない溜息を付いて、透と引き連れて駐車場へと足を向けた。


 透の母、恭子・高倉は井川がFBIだと自己紹介すると驚きながら流れるような動きで透にチキンウィングアームロックを極め、透を組み伏せてキャメルクラッチをかけた。

「この、馬鹿息子!FBIの世話になるってどんなことをしたのよ!」

 透はキャメルクラッチのため口を開けず、母の腕を叩きタップアウトしたが、恭子は一切力を緩めない。

 井川は恭子の動きがあまりにも自然な流れだったため、呆然とその様子を見ていた

 透が井川のスーツの裾を引っ張ることで、事態に気付き、咳払いを一つし、

「あの、お母様、透君が何かをしたわけではなく、彼が爆破事件に巻き込まれたので念のため警護をすることになっただけです」

 井川の言葉を聞き、恭子は力を抜いて立ち上がる。

「あら、そうだったの。てっきり、うちの息子がなにかしでかしたのかと・・・」

「そんなに自分の育てた子供が信用できないのかよ・・・」

 首をさすり、息苦しそうに透が反論する。

「疑うならまず身内から、他人を疑う前にまずは自分の身の潔白を証明すべきよ」

「弁明をする機会すら与えなかったくせによくそんなことが平然と言えたもんだ」

 そう毒付く透を無視して恭子は井川へと向き直る。

「ええと、お名前は?」

「アレックス・井川です」

「井川さん、護衛なら今日は家に泊まるんでしょう?夫の書斎にソファベッドがあるからそれを使ってくださいな。それと夕食はまだでしょう?新料理を作ったんだけど作りすぎちゃったから一緒に食べましょう」

 恭子は井川の返事も聞かずに、家の奥へと消え、透は新料理という言葉を聞いて顔をゆがませたのを井川は見逃さなかった。

「なぁ、新料理ってそんなに不味いのか?」

「成功率7、8割ってところかな。今は父さんが出張中だから失敗作も全部食べろと強制させられるのが怖い」

「成功率が7割もあるなら大丈夫なんじゃないか?」

「シミュレーションゲームだと99%の確率で成功するはずの行動が失敗するなんてよくあることだぜ?それに、成功時のリターンに対して失敗時のリスクが割にあわない」

 透は肩を落としながらそう言い、井川を食卓へ案内した。


 幸い、今回は小当たりといったところで、不味くはないがイマイチな味ではあった。

 恭子自身も料理の味に不満を持っているようで、ぶつぶつと調味料や調理法について独り言を呟いている。

 量も3人で食べるには丁度いい量だったので、透は味を気にせず、さっさと自分の分を食べ終えると、

「明日の話をしたい。書斎で待ってるから食い終ったらさっさと来てくれよ」

 と井川に言い残し、食器を片付けてリビングから姿を消した。

 井川は恭子の話に適当に相槌を打ち、食事を終え、恭子に書斎の場所を聞き、自然な感じで書斎へと向かった。

 書斎へ入ると既に透がソファに寝そべり携帯端末から展開した仮想ウィンドウを閉じ、身を起こす。

「よし、それじゃ、明日のことについて話をしよう」

「何故お前が仕切るのかはあえて問いはしない。それで、話とは?」

「所謂勤勉な学生である俺の学業の保障と、いつ教授に会って話を聞くかって事さ」

「勤勉、ねぇ・・・」

 井川は半目で透を見て、呟いた。

 それに対し、透は軽く手を振り、

「まぁ、本題はそこじゃなくて、教授にいつ会うかってところだよ。親交があるとしてもいきなりじゃ教授も会ってくれないからな。立ち話くらいだったら応じてくれるだろうけど、そうはいかないだろ?」

「確かにその通りだが、教授の方で都合のいい時間なんてわかるのか?」

「あんたが書斎に来るまでの間に聞いておいた。明日の放課後なら余裕があるとさ」

 ほうと呟き、井川は透に対して初めて関心を示した。

「先程の仮想ウィンドウは教授にアポを取るためのものか。ずいぶん手際がいいな」

「そりゃこっちも身の潔白と自由がかかってるんでね」

 肩を竦めながら透はそう言って立ち上がる。

「んじゃ、今日はもう寝るから。あ、毛布はそこに出してある。ソファ倒し方はわかるよな?」

「大丈夫だ。それよりさっきの話だと俺は放課後まで暇って事か?」

「校内に不審者がもぐりこまない様に警備するなり、今日の現場に行って情報収集するなり自由にすれば?一応学校の警備システムは結構厳重だから安心していいと思うけどね。とにかく、放課後になったら連絡するよ」

 透は欠伸をしながらそういうと書斎を後にした。

「座学はBプラスでも実技はAプラスか・・・」

 井川は一人、ドアを見ながらそう呟き、透の動きを思い出す。

「それにしてもよく目の前で爆発が起きてもパニックにならず、オーラを使うことが出来たな。それに爆発のタイミングがわかっているような動き・・・。まるで未来が見えているような感じだったが、オーラの同時使用が可能な人間はあんな動きが可能なのか・・・。いいや、流石に偶然だろ」

 言っているうちに馬鹿馬鹿しくなった井川は自分も眠るためにソファの背を倒し、毛布を被って横になる。

 そして、明日の行動についてしばしの間考えているうちに襲ってきた睡魔に逆らわず、井川はそのまま眠りに付いた。


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