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Five Aura Story  作者: 星野将俊
第一章
4/8

(4) 始まり

 透は鼻歌を歌いながら学校の近くの音楽用品店へと向かっていた。

 音楽用品店へは学校から歩いて15分程度のところにあるが同じ程度の距離にショッピングモールがある。

 大抵の学生はそちらに行くため、透の歩いている道は人気がほとんど無い。

 今日は透の他には少し前にいるトレンチコートを羽織っている男しかいない。

 今は6月の中旬、気温は20度を越す夏日だ。

(こんな暑い日によくそんな格好をしてられるなぁ)

 赤のオーラ――温度操作系――の能力でコートの内側を冷やしているのが感じ取れたので特に不思議には思わなかったが、オーラの使用状況に関心する。

(赤の、レベル7かな?流石にレベル7あたりになると常時周囲の気温を一定に保つくらいくらいのオーラを使い続けるのは簡単なんだろうか。俺ならよくて数秒、確実に1分も持たないだろうな)

 無色の透は相変わらず鼻歌を歌いながらトレンチコートの男に関心の眼差しを向けていた。

 一般的にオーラは人間の目には見えず、自身が使用するオーラしか感知することは出来ない。

 透は無色ではあるが全ての色のオーラレベルが均一であるためなのか、他人の使用するオーラや、周囲の生物のオーラバランスを感知することが何故か出来る。

 まだ幼いころはオーラを感知できることが当たり前で誰にでもできることだと思っていた。

 だが、どうも周囲の認識と違うと気付いた小学校のときに、幼馴染の巧にオーラを感じることをこっそりと打ち明けると、通常、他の人間が発するオーラを感じることのできるのは純色レベルの人間であり、感知できるもの色も純色であるオーラの色と同じだということを聞かされかなりショックを受けた。

 そのことに関して近所に住む大学の教授には誰にも口外しないようにと注意を受けている。

 教授と会った際にこの自分の能力で無ければわからない教授の秘密を知っているため、教授とは秘密を共有しあう妙な関係になっている。

 その教授によると自分のこの能力は『気功瞳』と呼ばれ、過去にも同じ能力を持った人間がいたらしい。

 もっとも、百数十年前の記録であり、検証等が行われたわけではなく、本人がそのように吹聴していただけだということもあって、実際にオーラを感じることが出来たのかどうかは信憑性に欠けるものがある。

 『気功瞳』といってもオーラが「視える」わけではなく、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚とは別の第6感として機能しているため、目を瞑ったり、耳を塞いだりしてもオーラを感じることが出来る。

 言葉にして説明するにしても「視える」といったほうが理解させやすいのはわかるが、もうちょっと語呂のいい言葉は無かったものかといつも思う。

 それ以外にも教授からは無色でもオーラバランスが完全に均一なことから『完全透明』である事もわかっている。

 教授曰く、レベルが全く同じ色の場合は能力の同時使用が容易であり、オーラの相互関係により実際のレベルよりも一回り高いレベルと同等の能力を扱えるらしい。

 『完全透明』の自分の場合はオーラレベルが全てレベル2だが、実際にはレベル3と同等の強度のオーラを使えることになっているらしい。

 だが、レベル2が3になったところで無色には変わりないため、あまり意味が無いのではないかと思う。

 持続性や遠隔操作を考えるとやはり濃色や純色のほうが使い勝手いいだろう。

 基本的に非接触物に対して作用するような力の使い方は学校のオーラ実習では行われない。

 無色では基本的に接触している物体にしかオーラで影響を与えられず、なおかつ瞬間的、長くても数秒程度しかオーラを使い続けることは出来ない。

 断続的に使い続けることは可能だが、精神的な負担も大きくなるので日常生活で長時間能力使用をすることはほとんど無い。

 そういう意味合いがあり、透は何気なくトレンチコートの男を見ていた。

 よく観察すると、オーラによる温度操作はトレンチコートの内側全体ではなく、体表面のみであることがわかる。

 能力操作の精度がすごい。

 透は益々名も知らぬ男に関心を覚えた。

 いままで自分の周りでここまでの精度でオーラを使っている人間を見たことが無かった。

 教授の実験に付き合って濃色の人間を見たことはあるが、実際に能力を行使しているところは学校の実習か病院くらいのものでたまたま見かけた男がものすごい精度でオーラを使用していることに感動している。

 そんなことを考えていると、鼻歌で歌っていた歌のサビまできたので軽く呟き始める。

「さあ行こう、未知なる世界へ、何処でもない場所へ・・・」

 父親が好きな歌手の曲で自分もこの曲は好きである。

 もっとも、曲はいいのだが、サビしか覚えていないため、そのほかの部分は鼻歌である。

 だが、ふと気付くと口ずさんでいる。

 と、サビの1フレーズを気持ちよく歌い終えたところで、前を歩いていたトレンチコートの男が足を止めていることに気付く。

 視線を男に向けると、男は眼をこれでもかというように見開き、ものすごい形相でこちらを凝視している。

 それに驚き、透も足を止める。

 見ず知らずの男にそんな驚かれることはしていないはず、

(俺、そんな驚かれるほど音痴じゃないはずなんだが・・・)

 もしかしたらと思い、透は歌っていた曲のグループ名を口にした。

「Go to Heaven好き・・・」

 そこまで口にして透はその続きを言うことが出来なかった。

 男がトレンチコートの内側から何かをこちらに投擲し、男の指先から投擲物体に向けて赤のオーラが走る。

 一瞬、風景が白黒になり、時間がスローになったような錯覚に陥る。

 頭の中で激しく警報音が鳴り響く。

 何かはわからないが危険だということだけは直感で理解する。

 白――肉体操作系――のオーラで筋力を強化し、屈みこみ、黒――重力操作系――のオーラを後方への跳躍と共に斥力を発生させ通常ではありえない大跳躍を実現する。

 着地間際に青――状態変化系――のオーラで靴底を軟質化させ、衝撃を吸収する。

 着地と同時に黄――電磁波操作系――のオーラで閃光を起こし、相手の目を眩ませることを試みる。

 閃光とほぼ同時に投擲物体が爆発する。

 透は両腕をクロスさせ、頭をガードし、赤――温度操作系――の能力で熱風から身を守るよう前半身に展開する。

 轟音と煙と熱風と共に飛来した小さな何かが右腕に食い込み、激痛が走る。

 透は痛みに小さな呻き声をあげたが、すぐに2回目の跳躍のために身を屈める。

 爆破地点はいまだに煙に覆われているが、男は再び何かをこちらに投擲したようで、先ほどと同じように男の指先から赤のオーラが伸びているのを感じる。

 爆発が起きる前に透は2度目の跳躍を行い、さらに距離をとってそばにあったゴミステーションの影に身を潜め、様子を伺う。

 男が2度目の爆発を行うために集中するのを感じ取った透は蹲って表面積を小さくした上で軽い斥力フィールドを張った。

 男が爆破のためにオーラを使って爆弾らしきものに着火する。

 2度目の爆発は先ほどとは違ってほとんど音はしなかったが、先ほどとは比べ物にならないほどの炎を伴う爆発が起こり、透の隠れているゴミステーションのゴミにも炎が燃え移る。

 トレンチコートの男のほうは赤のオーラを用いて凄まじい熱風をやり過ごしたらしく平然とこちらに歩を進めているのが感じ取れる。

(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ・・・)

 脳内で危険信号が最初の爆発の時点で真っ赤になったままだが、警鐘が鼓動に呼応するかのように大きくなっている。

(どうする?戦う?そんなこと出来るわけが無い。空手をやってるからって、爆弾持ってる奴に素手で殴りいけるわけねぇだろ。そういうのはアニメやコミックだけだっての)

 などと考えていると、3つ目の爆弾が投擲されたらしく、トレンチコートの男の手から三度赤のオーラが伸びる。

 透は呪いの言葉を呟きながら、蹲った状態からクラウチングスタートに似た体制を経て脱兎の如くトレンチコートの男に背を向けて走り出す。

 地面を噛み締める瞬間に白と黒のオーラを同時使用し、一気に加速。

 3度目の爆発の爆風を背に受け、更に加速する。

 トレンチコートの男がその場から動く気配は無い。

 加熱を目的とした赤のオーラを使用するような気配も無い。

(追って・・・来ない?助かった・・・?)

 と、気を緩めた瞬間、後方からの乾いた音と左にある建物の壁から何らかの衝突音が同時に聞こえ、思わず足を止めて振り返る。

 振り返る最中にも乾いた音と衝突音が響く。

 トレンチコートの男が拳銃を手にこちらを狙っていた。

「マジかよ」

 3度目の発射音が先か、銃弾がこちらに向かってくる様が見えるのが先か、透は死を覚悟した。

(俺の人生短かったな・・・こんなことなら、モルモット扱いでもいいから自分の力を公表して徹底管理された生活のほうがよかったかもな・・・)

 などと思いを馳せる暇も無く、何かか頭上から飛来して地面に突き刺さる。

 トレンチコートの男が発射した銃弾は何かによって透の頭を通過する直線上から大きく逸れ、明後日の方向へ向かう。

 透は飛来した何かが地面に衝突した衝撃に軽く吹き飛ばされるが、すぐに体制を立て直す。

 トレンチコートの男に気を取られていたおかげで今まで気付かなかったが、上空から濃い黒のオーラを纏った人間が男と透の中間地点付近へ降りてきている。

 ゆっくりと空から現れたスーツ姿の男は火の海を斥力フィールドで押し広げながら、爆発によって罅割れたアスファルトへ降り立った。

(何だ?あいつ・・・黒すぎる・・・あれは純色クラスか?いやいや、そんなことより、あいつが俺の敵か味方かどっちなのかってことが問題だろ。こっちを向いていないってことは警察か何かだと思いたいが・・・)

 炎と共に押し広げられた煙にむせながら、透はトレンチコートの男とスーツ姿の男の動きを待った。

「FBI対テロ対策課だ!おとなしくしろ!」

 スーツ姿の男がトレンチコートの男に宣告する。

「お前がドラゴンスレイヤーのメンバーだということは調べが付いている。観念してお縄に付くんだな!」

 助かった。

 透は一息付き、とりあえずは安全が確保されたことに安堵した。

 それと同時に今まで忘れていた痛覚が機能し始め、何かの破片が食い込んだ腕を押さえ、傷口を確認する。

「螺子?」

 小さな螺子が浅く右肘近くに食い込んでいる。

 腕を屈伸させると痛みが走るが、幸い出血もたいしたことは無く、白のオーラで代謝を高めればすぐに出血は止まりそうだ。

 街灯の影に移動し身を潜めながら再び様子を伺うと、空から現れた男とは別の白の濃色もしくは純色と思われる人間がドラゴンスレイヤーの男に肉薄していた。


(騒ぎを起こしたとはいえ、いくらなんでも来るのが早すぎる・・・)

 ドラゴンスレイヤーの男――コードネーム『ドレイク』――は間一髪で接近戦を挑んできた男の左フックを間一髪でかわすと、懐からマグネシウムを角砂糖よりやや小さめの大きさに固めて薄いフィルムで包んだものと、煙幕用爆弾を懐から抜き出す。

 その二つを投擲し、まずはマグネシウムを過熱、強烈な閃光が発生し、接近してきた男の目をつぶすことに成功する。

 続いて煙幕用の試験管を爆発させ、周囲を煙に包み込む。

 最後に空中から現れた男に向けて音響爆弾を投擲し、爆音を起こすと同時にその場を後にした。


 接近戦を挑んだ男――ブルース・イーストウッド――は至近距離で突然の膨大な光量を眼に受け、低い呻き声を上げた。

 続けて発生した煙を思い切り吸い込むことになり、呼吸が乱れる。

 音響爆弾の有効範囲から外れていたらしく、聴覚を頼りにしてドレイクの追跡を行うこともやぶさかでなかったが、

 

(今は、民間人の保護を優先すべきだ)

 イーストウッドは追跡を諦め、視覚、呼吸系を回復すべく、まずは両目に白のオーラを集中させる。

 井川も煙を斥力フィールドで左に流しつつ、左斜め上に引力球を作り出し、周囲の煙を集中させいち早く煙を晴らそうとするが、音響爆弾の影響もあり、集中力を欠き、普段よりも幾分効率が落ちていることを実感する。

 一刻も早く煙を晴らし、ドレイクの追跡をしたいが、視界を奪われたことに変わりは無く、煙が晴れた頃にはドレイクの姿は何処にもなかった。

 井川はドレイクがいないことを確認すると、引力球によって固められた煙を解放し、煙球は静かに流れ落ちる砂のようにアスファルトに吸い寄せられる。

 井川はゆっくりと眼を押さえているイーストウッドに近付いた。

「大丈夫ですか?」

「ああ、閃光弾のようなもので視覚をやられただけだ。それより、民間人の保護を。場合によってはそいつから何か情報が引き出せるかもしれん」


 透は事の一部始終を街灯の影から見守っていた。

 1,2秒間の長い閃光の後、音も無く先ほどの爆発よりもすさまじい量の煙が立ち上り、爆音が響きわたった。

 黒の純色だと思われる男が斥力と引力という、相反する力を同時に使用している。

(流石に純色ともなると、あれくらいはお茶の子さいさいってわけか)

 トレンチコートの男のオーラが遠ざかるのを感じつつ、透は黒のオーラを器用に操る男に視点を移す。

「FBIのテロ対策課とかドラゴンスレイヤーとか言ってたけど、あのコートの奴はテロリストってことか?でも、なんで俺がテロリストなんかに狙われないといけないんだよ・・・」

 ドラゴンスレイヤーという組織は度々ニュースで目にするので子供の頃から名前だけは知っている。

 だが、自分が狙われるようなことをした覚えもない。

 『気功瞳』について知っているのは自分と巧と教授の3人だけだし、そんな力があるからといって、拉致されて協力を強要されることはあるだろうが、いきなり命を狙われるというのは話が飛躍しすぎている。

 そうこう考えているうちに黒の純色の男がこちらに近付いてくる。

 透は立ち上がり、服に付いたほこりを軽く払う。

「君、怪我は無いかい?これから用事があったかもしれないが君の身柄を保護させて貰う」

 黒の純色の男――アレックス・井川――はこちらの意思など関係無いというように決定事項を突きつけてくる。

「怪我は腕に軽く、身柄の拘束ってのは病院に行くくらいの余裕は持たせて貰えるんですかね?」

 怪我をしていない左腕を軽く振りながら不満を露にして答えた。

 井川は肩をすくめながら、

「それくらいは構わんさ、が、我々も病院に同行させていただくが」

「逃げられないのはわかってますよ。それよりこんなところで立ち話するくらいなら早いとこ病院に行きたいんですけど・・・」

 井川は右腕の出血を見て、なるほど、と呟いて、自分達の乗ってきた車へ透を乗せ病院へ向けて走り出した。

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