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銀色の軌跡  作者: 黒猫
3/3

第3話 魔操

楽しんでもらえたら嬉しいです。

宜しくお願いします。

目を閉じ気持ちを落ち着ける…


すると、自分の回りにそよぐ風の音、肌で感じる空気の冷たさ、風に靡く葉の音、靴底から伝わる土の感触、森に満ちる木々の香り等が、五感を通して伝わる。


そんな自然の恵みを感じつつ、空気に充ちる魔力を感じながら、更に自分の中に意識を集中した。



すると、今まで暗闇に支配されていた視界に不意に光が見えてきた。



それは、最初は小さなものだったが徐々に大きくなり、終いには視界を埋め尽くす程の大きさになった。



「…ル!アーダル!!魔力を練りすぎよ!早く抑えて!!」


ベナスタスさんの声が耳に入り、目を開けると俺は銀色のオーラに包まれており、俺を中心に凄まじい風が噴出するかの様にステッラ=フロースが横倒しになろうとしていた。


ベナスタスさんは、そんな魔力の波をさけるように手をこちらにかざして防ぎながら、そう叫んでいた。



「どうやって抑えるんだ!」



「目を瞑ってる間、何か変化があったはずよ!それをなるべく元の状態に近づけるの!!でも、完全に元に戻さない様に注意してね!」



それを聞くと、俺はまた目を瞑った。



(…元の状態に完全に戻しちゃダメ…なら、こうか…?)



俺は見えていた光を萎ませると、ベナスタスさんからの詠唱が聴こえてきた。



「大気に充ちるマナ。

集い、集えよ、集いたまえ。

光り、輝く、鮮やかに。

光輝煌めく、始源の光。


祖なる種族、ルークスよ。


我が指し示す方角に舞い踊れ、表すは概念の言霊。

フルゴル=サルタートル、ラエティティア、ピウス、クレーメンス…


我は真なる姿を望む、答えよ。顕す言霊。

ウィワートゥス、シンプレックス、プールス。フォルティス…


終に全天を纏め上げる言霊を述べる…。スプリームス=リーベルタス!!」



そう詠ったかと思うと、暗闇の中、絞っていた光が人の形になり話しかけてきた。



[初めまして。


貴方からは心地よい光を感じ、願われた要素を持つ僕たちが集まったよ。


僕たちが何かは感じてるだろうから言わないね。


今度は僕達願われたように君にお願いがあるんだ。


一緒にいてもいいかな?]



(これは妖精の集合体か?もしそれらが言っているのなら…答えは決まってる。)




「あぁ。勿論だ。これから生を終えるまで共に歩もう!」



そう心の中で強く思うと、喜びや嬉しさ等の心地よい感情が伝わってきくる。



[ありがとう!


でも、折角こうやって話せたのに残念だけど、もうこれからは殆どこうやって話せないんだ…


でも、キミの中に流れる血のように僕達は絶え間なくキミの全身を駆け回ることになるよ。


…って、承諾してくれた瞬間にそんなことは理解できてると思うけど、こうやって人と同化するときは最終確認するのが妖精の太古からの習わしなんだ。


それじゃ、これから宜しくね。我が宿主さま。]


そう伝えてきた後、光のヒトガタは消えていった。



そして、瞑っていた目を開けてみると俺から発せられていた魔力の波は収まっており、代わりに俺の体がミオの比ではなくらいに光輝いていた。



「余りに強い魔力だったから、思わず強制魔操定着の詠唱までしちゃったけど、ここまであの子達が喜んで貴方に従うなんて…


この様子だと、危険をおかさなくても後少し待っていれば自然と定着したかもしれなかったわね〜


あ、危険って言うのは普通は、強制的に定着させると反発するものなのよ。


だけど、貴方にはそんな様子も全くないわ。



…ほら、もう魔操が出来るようになったなら貴方にも自分の周りを飛び交う光が見えるでしょ?


それが妖精の子達よ。



さっきは言いそびれたけど、貴方たちは初めて魔操出来るようになったわけだし、ちょっと説明するわね?


…で、今、見えてる子達が貴方の魔力の流れを整えて、魔力を操作しやすくしてくれるの。


宿す妖精の子は、一人か二人が普通。だから特に問題はないの。問題っていうのは維持するのには子の数に比例して魔力を食う事。


これを常時消費魔力というの。


まぁ、妖精達にしたら食事みたいなものね。



そして、魔法を行使するときに消費する魔力を行使魔力と言うわ。



そして、元々持っている魔力を潜在保有魔力と言うの。



まぁ、一般的に魔力といえば、潜在保有魔力を指す。

それは行使魔力と常時消費魔力として使われるの。、のどちらかを指すか両方を刺すことが多いわ。



だから、宿した妖精の子が多ければ多いほど、日々消費される魔力は多くなるの。


生まれながら妖精に好かれる魔力を持つ子がいるんだけど、時々、自分の魔力量より常時消費量が勝ってしまって魔力量が増えるまで封印する。…


まぁ、分かりやすく言えば妖精を冬眠させるわけ。

まぁ、貴方達なら問題はないだろうけどね。



あと、妖精を体内に取り込んだときに会話したかも知れないけど、次に会話する可能性があるとしたら保有魔力限界を越したときかしら。

まぁ、そんなのは文献にしか載っていないぐらいの話だから、魔操の義しか会話する機会はないと思っていいわ。



あ、そうそう。因みに、魔力を練っていたときにどんな変化があったか教えてもらってもいいかしら?



あぁ、それと、体に浮かんでる模様が魔操ラインと呼ばれているモノよ。」





…かなり長い説明だった…


しかし、何事も基本は大事だから真剣に聞き、質問されたことに答える。



神殿で初めて会った俺達なのに、ここまで親切にしてくれるとは地球でミオから聞いた、「エルフは協調性がないという話」は、やはり創作物の本物差か…とも、人間の方が総合的にヒドイんじゃないか?とも思いながら、最後に言われたと自分の体に現れた魔操路を見た。


すると、体の中心から体の末端にまで角張った迷路の様な白く光る細いラインが幾筋も走っているのが見てとれた。


…うん。イルミネーションのコスプレなんて斬新だ…はは…

と、負の思考に入ってしまいそうだったが別の事を考えてまぎらわす。


(…そう言えば、ミオの魔操路は川の形みたいな丸みを帯びた幾何学模様だったけど、個人個人で違うのか…?後できいてみるか。)


また、俺は先ほど目を瞑ってから見た光景についての見解を教えてくれた。



「ふむふむ…その大きくなった光りが貴方の潜在保有魔力ね…


でも、もしそうなら視界を覆い尽くす程の光なんて桁外れもいいとこよ。


まっ、あくまでも私の予想だからちゃんと測定しなきゃ分からないけどね〜。


それに、ミオみたいに休みもしないで平然としてるし…


貴方なら大精霊も向こうから寄ってきそうよね。


ふぅー…全く…。

二人ともとんでもない子達ね〜


魔操の儀を執り行った者冥利に尽きるわ。」



あはははっ!

と、俺達の結果に満足したのかイイ笑顔を浮かべた。


その笑顔を見て、改めて感謝を述べしながら先ほどの疑問を問い掛けてみた。



「そう言ってもらえると、こっちも有り難いよ。

魔操の義、執り行いありがとう。


そうえば、質問があるんだが、ミオの魔操路は川の形みたいな丸みを帯びた幾何学模様だったけど、個人個人で違うのか?」



「ん?そうよ?今まで見たことなかったの?


力の練り方、魔力の大きさ、宿った妖精との相性や自分の属性。


その他にも色んな条件によって魔操路の形やラインの発光の強さや色等がきまってくるの。


もっとも慣れてくれば、魔法を行使したときの魔操路の光なんて一瞬で、すぐに消えちゃうから見たこと無くても不思議じゃないんだけどね。




それよりも変なのよね…

ミオは、属性が特殊みたいなのよね…


魔操路が角張ってるし、発光色も、髪と瞳の色も氷属性にしては蒼すぎるわ。



それに、アーダルは光属性だと思ったけど、普通は白髪のはずなんだけど、銀髪だし。




だけど、それにしては二人とも妖精の子と相性良すぎだし…


ねぇ…、王都に着いたら、私の部屋で詳しく調べさせて、く・れ・な・い?」



やはり、俺とミオの容姿はかなり珍しいようだ…


しかし…、今はそんなことよりも急にベナスタスさんが、正面から俺の体にその豊満な胸を押し付けて、俺の右肩に頭を預けながら耳に息がかかる距離で囁き、左の耳を指でなぞる。


ベナスタスさん位キレイな人にこんな誘惑されたら、俺も男だ、了承しそうになる。



あ、危なかった…

何とか断ったが免疫が無ければ頷いていただろう。


迂闊に違う世界からきたなんて言ったら、面倒に巻き込まれるのは目に見えている。



そして、ミオが目を覚すまでベナスタスさんの猛攻は続いた…


それは、暫くしてミオが目を覚ますまで続いた。


目を覚ましたことに気づくと流石に離れていってくれたが、魔操の義よりもはるかに疲れた気がする…



「んん…、あふぁあぁぁ〜…。

少し寝たらやっと楽になってきたよ。


待っててくれてありがとね。」



ミオは声に張りがないし、俺の疲れに気付いていないことから、やっぱりまだ本調子ではない。



ベナスタスさんが言うにはこれだけ短時間で順応するだけでも、十分規格外らしいが。


ん…?…ってことは、オレはそれ以上ってことか…

なんだか、人間をやめられそうだ…



「気にしなくていいのよ。


その分だとあとちょっとで完全に順応して、調子を取り戻すでしょ。


本調子に戻ったら教えてちょうだいね?


それまで初級魔法の行使の仕方について話しているから聴いてるだけでいいわ。。」



そういうと、ベナスタスさんの講義がはじまった。





「まず、魔法行使の手順を大まかに話しましょうか。


最初は魔力を練る事からはじまって、魔操路に魔力を流す。次に、大気の魔力…コレはマナとか魔素とかよばれてるわ。

それと行使魔力を混ぜて、最後に目標の座標に向かって現象を発現するの。」



うん。ホントに大まかだ…でも、何をすればいいかはわかった。


ベナスタスさんは事も無げに言っているが、地球から来た俺達にとっては全く分からない感覚なのが問題だ…



「二人とも魔力を練ることは出来てるから、魔操路に魔力をながすところからね。


もう今は光も消えて私からは見えなくなってるけど、貴方たち自身は体に張りめぐった魔操路を集中すれば分かるはずよ。


まずは、集中してソレを感じ取ってみて。


だけど、魔力の練りすぎに注意してよ。」


それに応え、俺達は目を瞑って集中した。


体の芯に意識を集中して魔力を練るときとは違い、体の中に複雑な分子模型のように張り廻っているイメージを持って集中した。


何故かこれが一番正確な気がしたのだ。




「ん…?コレか?」


やはりイメージ通り、体に浮き出た魔操路を立体的にしようなものがあることがわかった。


「…あ。私も分かったかも…」


ミオに聴けば、やはり魔操路の模様を立体的にしたものが体にあるとのことだった。


「やっぱり感覚掴むの早いわ。じゃ、次のステップに進みたいんだけど、ミオの体調はどうかしら?」



「うん。大分回復したよ〜。まだ本調子とまではいかないけどね。」



「まぁ、今くらい魔力が安定してれば大丈夫でしょ。


さっきまで、魔操路を魔力が駆け巡ってたの。

魔操路に魔力がなだれ込んだためね〜


あ、出来れば体に満遍なく魔力を満たせる量を練ってみてね。」



「うん!わかったよ〜

じゃ、次行ってみるよー!」


「了解した。」



…ってか、ミオさん?。

いつからド○フターズの一員になったんだよ…



元気になったのはいいが、こっちの人には分からないギャグ(?)に、オレはミオに冷やかな目でたしなめた。



そんな事をしつつも、疑問に思った、魔操路をどう見てるのかを尋ねてみた。



「…ベナスタスさんは、どうやって俺達の魔操路をみているんだ?」



「あぁ、コレ?

これは一応、中級魔法に分類されてる《透魔過視》を使っているのよ。


中級って言っても、魔力の操作だけだから属性は関係ないわ。


貴方たちなら焦らなくてもすぐ覚えられるわよ。


でも、今からは基本属性の初級魔法を覚えてもらうつもりよ。


1・2種類の属性魔法を使えれば、学院に入るには十全だからね。」



そして、俺達にとって初めてとなる魔法をつかう為の実技講習が始まった。



「それじゃ、何の魔法を教えようかしら…。


う〜ん…そうだ!

アーダルとミオは何を覚えたい?」



手を叩いて、良いこと思いついた!と言わんばかりの表情で言われても、この世界で育った人間ならいざ知らず、こちらはこの世界に着いてまだ幾らも経っていない。


だから、どんな魔法があるのかすら知らない。



(あの神様、知識をくれるならあと少し詳しい知識をくれよ…


って、言っても贅沢言ったらホントにバチがあたりそうだ。


う〜ん…


やはり朝までには何か会得しておきたいから、取りあえず覚えやすそうな生活に使えるものと、攻撃か防御に使えそうなものを覚えてみたい。


生活水準は地球より低いし、魔獣に襲われるこの世界では生活に役立つモノと身を守るモノがいいか。)



取りあえず、そんな考えをベナスタスさんに伝えてみた。



「うん。なるほどね…


それなら…


先ずは、光の初級魔法イルミノーと《ラディウス》を覚えてもらおうかしら。」



「すまんが、それはどんな魔法なんだ?」



「あら?

聞いたことないかしら?


《イルミノ》は指定した場所に灯りを創るものよ。


で、《ラディウス》の方は知らなくて当然と言うか…、


ま、まぁ、取りあえずやってみましょ!


それじゃ、始めるから頭を。」



この世界では、一部の者は自分が経験した事を何らかのかたちで他者に伝達することができる。


どうやらベナスタスさんは、その“一部の者”で、頭に手で触れる事で伝達するようだ。



何故もう1つの魔法を説明しないのか疑問に思いながら、教えてくれるだけでもありがたいと、疑問を一先ず脇に置き素直に差し出された手に頭をつけた。



「私は当然会得していないけど、使われたことがあるからその記憶を渡すわ。


まぁ、例え私が会得していても、貴方たち程の魔法のセンスがあれば、私の会得したものをそのまま伝えるより、私が見たものだけを伝えて、自分達でアレンジしながら会得した方が威力や効果があがって、発動時間も短くなるの。



それに…、ステラ様とも友人になったんだから最低でもこれくらいはやってもらわないと、ステラ様に釣り合わないわ。」



確かに、一国の姫の友人なんだから何かしら秀でるものがないと、ステラが民衆にどう思われるかわからない。



気合いを入れ直し、《イルミノ》の記憶を受け入れた。



すると、戦争のような情景に自分がいるような感覚が広がり、大群に囲まれた男が手を前に掲げると全身の魔操路がひかり、何かを唱えたかと思うと、光球が現れ辺りをうめつくさんばかりの光が迸り目の前が真っ白になった。



「ふぅ…どう?


ちゃんと見えたかしら?


ソレは指定した座標に光源を発生させる魔法よ。


一般に生活魔法とかいわれてるけど、大概の人は少ない魔力で発動してるから、部屋の灯りくらいにしか思ってないわ。


だけど、魔力を込めれば込めるほど明るさは増すの。

だから戦闘時なら、瞬時に大量の魔力を込めることにより、相手の目を潰すことさえできるのよ。


詠唱は、敵に悟られないようにするために独自のものを使うから分からなかったと思うけど、どんなものかはわかったでしょ。」



(…なるほど。それで、詠唱が聴こえなかったのか…


それにしても、初級魔法であっても込める魔力を多くすれば、威力が上がる。か…


…ん?


ってことは、他の魔法でも同じか?)


そう考え、その考えがあってるか確認してみた。




「えぇ。理論的にはそうよ。

ただ、初級魔法と中級魔法の間、中級魔法と上級魔法の間には分厚い壁みたいなものがあるの。


だから、初級で中級以上の威力や効果をだそうとすると、かなりの魔力を消費するけど、初級の効果を大きく使いたいときは戦闘中などであるから、あとは修練あるのみ。


それに、上級魔法の一部とその上のランクまで行っちゃうと、発動するだけで、とんでもない量の魔力を必要とするから、その辺になると威力云々より発動出来るかどうかになるわ。


…と言っても、古代以上を発動できるって確認されてる人数は、今では片手で数えられる位になってるわ。

因みに、そういう人たちは“戦略級魔士”って呼ばれてるの。


私の御師匠様もそうなのよ。」



「へぇ…そりゃ会ってみたいな。


ところで、古代ってさっきみた《葬炎》よりもすごいのか?」



「当たり前じゃない!


古代なんてちゃんとした知識と魔操センス、魔力の三拍子揃わないと発動しないわよ。


それに、私も一度だけ見たけど大地に裂け目をつくるほどの威力なんだから…


だから、《葬炎》クラスはせいぜい一人で発動させられても上級魔法どまりよ。


さっきは火系属性術者があんまりいなかったからあんな大人数でやったけど、あの人数でやったら中級止まりね。」


(…あれで、中級止まり…)



俺は、魔法の威力についてのイメージを上方修正すると同時に、これから教えてもらう魔法に胸が高鳴った。



すると、さっきまで静かにしていたミオが急に喋りだした。



「ホントに?!私も早く教えてほしいな〜」



「じゃ、ミオは…《クーラリオ》と《アクアーリウス》を覚えてもらおうかしらね。」



「ん。りょーかい!して、それは如何なるものなのだい?!」



…はぁ。期待感でいっぱいなのはわかるが、キャラが崩壊してるぞ…



「ま、まぁ、そう慌てないで。って、近い近い!」



ミオは、唾がかかるぐらいベナスタスさんの顔に近づいていた。



「ミオ…嬉しいのは分かるがちょっと落ち着けよ…」


「これが、落ち着いてられるかってんだいっ!


魔法だよ?魔法なのだよ?!ま・ほ・う!!」



こうなったミオは、アレをしないととまらない…



俺は、ベナスタスさんからミオを強引に引き剥がすと抱きつき耳元に吐息を吹き掛け、背中を指でなぞった。



「ふぁ…。ぁん…。


…って!何すんの?!」



うん。効果はバツグンだ。



「ほら、少しもどったろ?ベナスタスさんが明らかに困ってたろうが。」



すこし顔が赤いのは、興奮が冷めやらないせいだろうか?



「ふぅ…じゃ、落ち着いたようだから説明するわよ?

《クーラリオ》は治癒魔法ね。


んで、《アクアーリウス》は水を操る魔法よ。」



ベナスタスさんの説明が若干おざなりになっているのは気のせいだろうか…


そんな風に二人を眺めていると、ベナスタスさんがミオの頭に手をおいた。



「…ぉおぉぉ!すっごいね!傷がにゅるにょりゅ〜ってなって、するすべの肌になったよ!?」


難解な擬音語だが、映像を巻き戻したみたいになったって事だろうか…



ともあれ、こうして残る《ラディウス》、《アクアーリウス》の記憶授与はおわり、詠唱と魔操の講義にはいった。



この2つの記憶授与は、かなりの驚きと修得出来るかの不安があったのだが…



「さて、ミオがこれ以上壊れない内に詠唱と魔操について教えるわ。


まず、詠唱だけど私や御師匠様が使ってる言語は、“ファテオ”っていうの。


エルフの古語ね。


これで集まってほしい精霊の名をよんで、次に現してほしい現象を端的に伝えるの。


例えば、水を出したいなら、手をかざして…


《祖はアクア。集い現れよ。インウンド》」



すると、かざした手の前に水球ができた。


「コレは、ただ水の元素を水の精霊に集めてもらっただけ。


これを修練すれば、短詠唱から術名、無詠唱になるわ。


今みせた詠唱は、長詠唱っていうの。簡単な魔法だから短詠唱みたいだけどね。


それで、長詠唱の特徴は起こってほしい事を事細かに精霊に伝えるから、うまく伝わればその通りになる。


逆に言えば、その通りにしかならないわ。


対して、短詠唱、術名、無詠唱になるにしたがって、自由度は増すけど確固としたイメージと、魔操の技術が必要になるの。


…って、大体の人は教わるけど、私はイメージと精霊との親密度によると考えてるわ。」



仲が良ければこっちの考えも察してくれるってことか。



「親密になるには対話が近道だけど、魔操の儀の時に説明した通り、普通なら同化した精霊とまた会うことは出来ないから、対話はできない。


だけど、精霊への誠実さ、高度な精神集中と精霊がどれだけ術者を好きになってくれてるかによって、対話できるようになる。



反応してくれなくても、精神集中をして呼び掛け続ければ、いつかは応えてくれるから根気が必要になってくるのよ。


まぁ、好きな人を振り向かせるのと同じね。


ただ、しつこすぎたり、無理矢理だったりすると答えてくれなくなることもあるから、そこは注意が必要だわ。」



それら注意事項をきくと、詠唱を考える時間に入った。


するとミオが俺に近づき耳打ちをした。



「(アーダル!ベナスタスさんが詠唱の時に使ってる“フォテオ”って、どっかで聴いた単語だとおもったけど、ラテン語じゃない?)」



…たしかに。

地球にいた頃、大学に入って一番最初にミオに無理矢理とらされた講義がラテン語だった。



「そう言えば、そうだったな。講義をとった後でスグに単語を覚えさせられたっけな。


辞書覚えろとかあり得ないだろ。」


「でも、最後には覚えたじゃん。まっ、私は1週間かかんなかったけど!」


「お前は空想が生き甲斐だったもんな。それが現実になってるから人生わかんないもんだよな。」



学生をやっていた頃、教授の課題の半年で辞書の単語をおぼえろとかいう馬鹿げたモノを課せられたのだった。


ミオはちょうどその頃、古代ヨーロッパに興味を持っていて、1ヶ月でおぼえろとか言ってきたのだった。


当の本人は、5日で覚えたのだから人間の底力は侮れない。



その後、単語中毒になったミオに付き合いギリシャ語までおぼえさせられたのだ。



あの期間はもう思い出したくないな…



「さっ。そろそろ話はやめてね。」



笑いながら怒る人を俺は現実に初めて見た。



「は、はぃいっ!」

「あ、あぁ…」



ミオよ…

そりゃビビりすぎじゃないか?


「じゃ、まずは詠唱をしてみて。さっき言った基本を忘れなければ大丈夫よ。


私は“フォテオ”をつかったけど、突き詰めちゃえば、自分の思いや考えが媒介の精霊たちに伝わればいいのよ。


最近の精霊学の研究じゃ、あの子達は独自の言葉は持ってなくて、私達一人一人が身に付けている言葉をかりて自分達の思いや考えをこちらに伝えているらしいわ。」



「わかった。じゃ、先ずは俺がやってみるか。」



俺は目を閉じ、集中し、体の中を魔力が澱みなく流れていくイメージを保ち、前に出した手のひらに集まるように魔力を操った。



「うん!魔力の操作は上出来よ。そしたら、魔力の出力を上げていって!!」



それを聞き、俺は、体の中にある力の塊から吸い上げるように魔操路に流し込んでいった。



「ちょっ…、ちょっと!アーダル!!練る魔力が多いわ!」



俺の体の中を妖精が嬉々として巡り、周りを精霊達だろうか?それらが嬉々として集まり、その感情があまりにも気持ちよかったので、ベナスタスの注意が聞こえなかった。


すると、周りに集まった精霊達からこの広場に光球を惑星のように浮かび上がらせ動かすビジョンが伝わってきた。


そのビジョンがあまりにも美しかったので、試してみようと思い浮かんだ言葉を唱えた。



「「光の元素よ。世界を形作る、元素達よ。

我が思いを顕せ。


煌めき輝き、悠久の時に虚空に漂い、世を照らす。


《イルミノ》


虚空をめぐる光、光を放つ星のように、我らを巡れ。


闇夜を照らし、我らを守り、辺りを廻る…



《アストロフェギア》」」


すると、森の中ぽっかりと空いたこの広場に宇宙にうかぶ星々が顕れたように、大小様々な光球が浮かんだ。



「なっ!複唱だけでも難しいのに、新しい魔法を創るなんて…


しかも聴いたことのない言語だったわね…」



俺は精霊達からビジョンを見せられたことを話し、言語の事はうやむやにした。


「やっぱり、アーダルは精霊に好かれてるみたいね。


精霊から感情が伝わってくることはあるけど、ビジョンを見せられるなんて、相当好かれてなきゃ無理よ。


それに、すべての元素を呼んだでしょ?


アーダルって…もしかして、すべての属性がつかえるんじゃない?」



うっ…バレた…

でも、すべての属性が使える人間はいないわけじゃないだろう。

ただ、あの神が言ってた最高レベルの魔法まで使えるヤツはいないのだろうが。


まぁ、隠してた訳じゃないし。初めて魔法が使えるようになったんだから知らなかったって事にしよう。



「それは分からないが、それって、そんなに珍しいのか?」



「当たり前じゃない!魔法に長けたエルフでさえ、100年に1人生まれるかどうか…今知られてるだけでも10人程度しかいないっていう存在なんだから!!


聖都に帰ったら調べてみるわよ!


ふぅ…じゃ、次はミオね。やってみて。」



そう言われると、ミオが俺に話しかけてきた。



「(アーダル、アーダル!アレって日本語だよね?

やっぱ日本語のがいいのかな?)」


「ん?そりゃそうだろ。

一番イメージしやすいんだから。


ミオもそうなんじゃないか?」



「ん〜?


単語だけなら、他の言語じゃだめかなぁ?」



でた…ファンタジー思考。略して、ファン思ー(ファンシー)。


とかアホなことを思ってると、ミオは地球にいた頃自分の興味が向いたものを会得する際に見せた超人的な集中力で自分の世界をつくった。



「…うーん…」



こうなっては納得するまで時間がかかるのをオレは知っている。

なぜかって?小さい頃、友達連中とかくれんぼした時に捨ててあったクローゼットに入ったオレは、イタズラで七海(現:ミオ)に閉じ込められて、その時七海が夢中になっていたゲームの誘いがあったとかで忘れられ、2日後発見されたオレは衰弱し入院した過去があるからだ。


そんな事を知らないベナスタスさんは嬉しそうに…


「うんうん。

最初はそうやって悩むものよ!

アーダルがあんなだからミオも同じだったらどうしようかと思ったんだから」



…とか喜んでいる。


それに“あんな”呼ばわりってどうなんだ…?



そんなやり取りを幾度か繰り返しているとミオが徐に手をあげ宣言した。


どうやら今回は意外と待ち時間がなくて快適だった。それでも三時間はかかったが。


俺の時間感覚もバカになってるのだろうか…


「…よっし!じゃ…ミオっ!いっきまーす!!



…って、ア○ロ?アム○なのかい?!

でも、放映されたヤツは言っても、いきます!とか出ます!だったけどな!!



…とか言えば、変な方向にまた飛んでくから言わせとく。





そして、おもむろに手を枝の折れかかった樹に向けると詠唱をはじめた。



「水より生まれし、幾多の生命。我の呼び掛けに応え、生の息吹を与えよ。


水の理、流れの理、癒しの理…


《クーラリオ》」



魔操路は魔法を発現するとき、通常体に描かれている魔操路すべてが光る。

それを体の中心から掌へと順番に明滅させた。



「う〜ん…、おもしろい魔操だけど…

ミオ!もっと魔力練らなきゃダメよ!」


しかし、その直後、蒼白く光る粒子が折れた箇所に集まったかとおもうと、折れた箇所が元に戻っていた…



「やった!成功したよ〜♪」



「…えっ?!何で!何で、あんな少ない魔力で発動したのよ?!」



「さぁ?やりやすいように魔法つかっただけだも〜ん!」



「だも〜んってなぁ…


その説明じゃ全然わかんないぞ。


なんか具体的にわかったら俺たちに教えろよ?」



「ん〜…やりやすいようにって…、生気か魔力の流れが見えてるってことかしら…?


でもあの感じは生気の流れが見えてるのかしら…

そんな人ありえないのに…


全く納得いかないんだけど、覚えたての人に詳しい説明も無理か…」



ベナスタスさんは最初こそマイワールドに入って考察、答えがでないことがわかりガックリしたようだが、気持ちを切り替えるとまた講義がスタートした。


俺は、ミオ自身が魔操の仕方を工夫しただけだとおもうが、ミオ本人じゃないと詳しいことはわからないか…




そして、残る2つの魔法を予想の遥か斜め上のバージョンで会得した俺達に、ベナスタスさんは使用禁止令を出した…


なぜかというと、俺の放った《ラディウス》は、密林に遠くまで続く、とても見通しの良い道を何本か作ってしまったし、ミオの《アクアーリウス》は、俺たちが練習していた広場に納まりきらないくらいの範囲を砂漠化させていたからだった。


まぁ、当然だよなぁ…

ベナスタスさん曰く、もうすでに違う魔法らしいし…俺もこんな危険なもの使いたくない…


膨大な魔力の性で、小さくするのが難しいとか他の人が聞いたら刺し殺されそうだが。












そんなこんなで、講義が全て終わる頃には、空が白み始めており、ヘトヘトになりながらも野営地にもどった。


皆さんの評価を見られるのでモチベーションがあがります。


読んでいただくだけでも嬉しいです。


Pointや感想を頂けると、もっと嬉しいです。


次回も宜しくお願いします。

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