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銀色の軌跡  作者: 黒猫
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第1話 送致

R-18ではないです。

皆さんに楽しんでもらえたら嬉しいです。

世界は産業革命以後、人口が急速に増加するに従い化学や物理、数学といった数式や記号で世界が語られ始めた。



それに追従して自然は自治体や国家、更には世界レベルで守らなければ、消滅の危険さえ帯びてきている様になってきた。




俺みたいなちっぽけな存在の全てがある、この地球からすれば人類はまるでオーソドックスなファンタジー小説に出てくる『魔族』みたいに思えてくる。


だって、そうだろう?際限なく資源を消費するだけ消費し、自然を破壊して星を喰らっている様なんだから。


人類は、科学的に言えば哺乳類に分類されるのだろうが、行動で分類し生殖行為という点を除けばウィルスに酷似している。


星に巣食った病原体のように、宿主を喰らい続けて自らの存在基盤の危機すらもいとわず増殖を繰り返している。







…教師のいつもと変わらずの睡眠誘導音波に抗いつつも窓の外、夏と呼んでも差し支えない程のうだる暑さの先にある少しガスった空を見上げながら、そんなとりとめもない事をツラツラと考えていた。


「…ジ、…ト…ジ、…オィ!って、聴こえてんだろ!!今、舌打ちしたの聞こえぞ!氷室冬司!!」


あー…、なんか横から俺を呼ぶ声が聞こえる…


七月初旬なのに五月蝿いハエ…もとい、腐れ縁の八重山七海 が喋ってきた。



「…五月蝿い。喚くな。潰すぞ。」



「うわ…っ、恐っ!!こんなにも暑い今の時期に、寒々しく刺々しいお言葉っ!涼しくもないし、寧ろ、凍死する!!」


「はぁ…、お前…周り見えてんのか?」


当然、今は授業中。一人立ち上がって叫んでいたこの女に冷やかな視線が集中していた。


「はぅあっっ!!す、すいません!

…くっ!個人戦で挑んでいた私に対して団体で応戦するとは…しかも攻撃は精神系攻撃のフリーズアイ(冷たい視線)ですか!?もう寒々しいのは名前だけにしてよ!」


「今の発言で自分で攻撃力あげてんじゃねぇか…


はぁ…、じゃ言わせてもらうが七海こそ毎回返り討ちにされるのに性懲りもなく突っかかって来んの止めろ。


あと、ゲームのし過ぎだし、ふざけるのは名前だけで十分だ。いっそのこと七転八倒に改名したらどうだ?」



「くっ!どうだ?じゃないよ!私より上手い事全然言ってないのに…何この敗北感(泣)」



そしてやっと席につき、講義室が静けさを取り戻した。


これだけ煩くしても平気なのは、七海の立ち回りのうまさ、性格の良さと黙ってればかなり可愛い容姿のお陰だと思う。


小さいときから非公認ファンクラブがあるのは、本人だけが知らない事実。



そして、入学から今日までずっと過激派と化した一部の連中にあらゆる方法で挑まれ、時には奇襲され、そして撃退し続けたオレは、力はもちろん頭でも暫く負けていないくらいには自然にきたえられた。




そして講義がおわり、帰路についても七海は落ちこんだままだった。



「…いい加減に機嫌直せよ。そんなんで一緒に帰っても辛気くさいだけだろーが。」


「…だって、毎回返しに愛が感じられないんだもん…」


「愛って…それに、“もん”って…。あのなぁ、幼馴染みにそんなもん期待すんな。」


「なんでよぉ!(泣)私だっていい加減心が折れるよ!」


俺の身長は185cmで、コイツの身長は160cm。当然、下から上目遣いで見つめられる状態になる。

その上、潤んだ目が合わされば幼馴染み耐性があっても攻撃力はかなり高い。


「…うっ。…わかった。だから泣くな…。はぁー。今回はキツく言い過ぎた。何か食いモン買ってやるからいい加減に機嫌直せ。」


そう言うと、若干食い気味に…

「やった!!じゃ、帰り道からはチョット外れるけど、イイお店見つけたんだ!き・の・う!」


と、言い放った。

まぁ、何時もの事だしあの表情を見られるなら悪くない。

いや、好物かもしれない。


「んな事だろうと思ったよ。で、どんなの店なんだ?」


だけど、そんな事言うと調子に乗るからなるべく言わない。今回も口にはせずに先を促した。


ちなみに俺は、七海のセンスや感受性には一目置いている。多感も極まれば五月蝿くなるのかもしれないが…


とにかく自分が興味を持ったものなら、大抵はその道のプロ顔負けの知識だったり技術だったりを習得したりするから世の中分からない。


「うーんとね、ケーキが売りの喫茶店なんだけど、今回は一言で表すと“アンティーク”かな。店構えもインテリアも店員さんのファッションも。中世の西洋?みたいな」


「あぁ、だからカフェじゃなくて喫茶店なのか。確かに微妙に格調高くなった気がする。


でも、七海の嗜好から考えるとメイド喫茶って感じを想像してしまうんだけど?」


「いや、言わば今回は本物なのだよ!冬司くん!!まぁ、だからって決してアッチが偽物という訳じゃないんですけどね~?」



「いや、乱歩の小説よろしく俺の名前を挟むな。じゃあ、サービスも期待できそうだな?」



「そうそう!なんたってバトラーまでいるんですから、上流貴族になれるってもんですよ!」


「いつもながら、お前の感嘆詞の乱用には辟易するが、今回は大目にみても良さそうだな。楽しみだ。」


話していると細い路地を抜け、高級住宅街に入るとその館はあった。


まさに『館』なのだ。


「これは…凄いな。俺らの年代で入っても大丈夫なのか?」


「平気だよ?密かにウチの大学で話題になりつつあるんだから」「おぉ…。建物はゴシック調か。本格的なんだな。インテリアやサービスも期待できそうだ。」


「でしょ?!

あー!我慢できない!!

先に入ってるわよー!!!」


さっさと走って中に入ってしまったので、俺は焦らず外観や前庭を観ながら入口に向かった。










…はずだった。










しかし、ドアを開けた瞬間に黒い光に包まれ、手放した意識を取り戻すとそこは真っ白な空間に浮かんでいた。










「あっ?…どういう…ことだ?」










と、呟いたが何がなんだかわからない。夢…ではなさそうというのは分かるのみ。



しばらくし、床に着地したので混乱する頭を落ち着けるために、体を確認し周囲を見回した。



「よっ…し。体に異常はないな。

誰もいないのか…?」



体を動かし、異常を確認してから周囲を見回し呟いた。










「いやいや、ここに居るよ。」




誰も居なかったはずの背後に突然半透明の男か女かよく分からない人(?)が現れた。




「誰だっ!」




こんな空間にいるのと半透明って時点で怪しいのに、突然現れて背後を容易く取られた事に動揺した。



…が、向こうは何か知っていそうな顔でニヤついているので、情報を聞き出しやすくするために平常心を心掛けた。



「落ち着いたかの?まず、自己紹介といこうかの。我は、主の在った世界の創造者の一柱。


空を創りし神じゃ。


と、言っても主の世界を創るにあたり、担当したのが“(くう)”に象徴されるものだったが故にそう他の連中からは呼ばれておる。


が、幾つか創った別の世界ではまた違った名で呼ばれておるわ。」



そう自分の存在を明かすと、徐に俺の頭に手を置いた。



「この空間や主が在った世界の状況など、わからんことだらけであろう?


直接イメージをおくるから楽にしておれ。」



そして、目を閉じて力を抜くと同時に膨大な量の情報が頭に雪崩れ込んできた。



「う!ぐっ…。あ、頭が…わっ、われ…る。

くっ…!、はぁはぁ…、そ、そうか…アナタの存在は未だに理解しがたいが、しかし…。


元の世界は無くなった…んだな。」



頭をかき混ぜられたような激痛に耐えると、昔から知っていた知識の様に、与えられた情報を否応なしに理解した。



その情報の要点を抜き出すと…



傍国で行われると話題にもなった、人工ビッグバン生成観測の実験中に事故が起こり、地球を中心として新な宇宙が生まれた。



それに伴い瞬間的にあまたの存在が欠き消えた。


しかし、空の神が創った幾つかの世界の中でも霊格が段違いに高いその世界を消滅させるのは避けたかったようで、取りあえず空の神と一番波長が合う俺をココに喚んだとのことだった。


空の神と会ったことで、神気にあてられ肉体・精神・知力等といった人としての性能が共に高くなり、将来性が未知数に高い存在になった。


神としては、俺たちの世界の善良で将来有望な若者を別位相世界…有り体に言えば、


異世界におくる事にしただけらしい。


…それに選ばれたのが、俺…なのだそうだ。





「この空間は異世界へ行くための謂わば調整空間で、家族とか友人はもう消えたってことか…」



って、事は七海も…



そこまで考えると、俺は不覚にも涙が浮かんだ。



だが、今は話を聴いておかないと取り返しのつかない事になりそうだったので、気持ちに蓋をし後で考えると決め、話を聞き直した。



「付け加えれば、これだけ霊格の高い世界から強制的かつ意図的に個の肉体を維持したまま送るのは、凄まじい力を要する。


故に、これから送る人類は、男女一対とした。



霊格の低い世界から高い世界に送る場合は、惑星規模でいくつか送ることが出来るのだから比すればこの労力わかるであろう?



それにこういう場合、送られた者は枷が外れたように今まででは考えられないような力に目覚める。


まぁ、イメージとしてはつけていた重りが急に外れたようなものだな。」



…なるほど、大体はわかった。


だが、感情的には納得できない!



なんで、一部の人間の性で強制的に異世界に送られなきゃならないんだ。と、理不尽さに腹がたった。



すると、

「まぁ、理不尽に思うのも当然だ。



しかし、どこであろうとも理不尽な事で満たされておるのは変わらんだろう。それは主も分かっておろうよ。



それは異世界でも同じよ。理不尽な事は消えん。



主の世界でも、少し前までは差別・迫害などは当たり前だったろう?



…まぁ、とは言うもののふせげなんだ私の責任もある。幸い、主の回りには良い魂が多かったようじゃな。


主の身近な善良な魂だけは、主がこれから行く世界に、生まれ変わらせてやろう。


しかし、その者らには記憶はない。それに生まれ落ちる時間は過去か未来かは決められん。



ただ、主らの助けになるよう我の言葉を聴けるような力を与えておこう。


ちなみに、その他の魂はまた別の世界で生まれ変わるから安心せぃ。」



まさか、俺がそんなお助けキャラ有りのファンタジーな人生をこれから歩む事になるとは…



「…そうか。

異世界行きもわかったし、他の連中も生まれ変わるなら、少しは救われるか…。



しかし、俺の助けにって…良いのか?えーっと…世界への過干渉だったか?とかにあたるんじゃないのか?」


七海が良くしていたこういった類いの話では、神様は世界へ干渉しすぎてはいけないとか聞いたことがあったのだ。まぁ、七海からの受け売りだが。



「主らの世界は、ちと優秀すぎたからの。我達は早々に干渉をやめただけじゃ。それが、そういう考えに至ったのじゃろう。他の世界はそうはいかん。助力せねば直ぐに闇に傾く。」



そういうと、苦々しい顔をした。



「そういうもんなのか…」



まぁ、神には神の悩みがあるのかと、一応納得しておく。


そして次にこれから行く世界についてと今までの質問、異世界入りするにあたっての要望をした。


「良かろう。我も元々それについては予想していたことだ。しかし、我にも出来んことはあるからな?それは承知せぃ。



…しっかし、泣き叫ぶ程度はするかと思っておったが、予想よりタフよのぅ。


順応性と精神力の高さのなせる技か?


しかも、イメージを送っても気絶しないとは…


くっくっく…


いやはや、主には驚かされるわ。初めは大概気絶するはずなんだがな。」


耐えたのは、主らの世界では…キリストとシッダールタ…だけじゃったな。

と、ホントに嬉しそうに笑った。


「はっ?!世界的宗教の開祖??マジか…。」


そんな大層な事を教えられると、俺はこれから何か使命を与えられるんだろうかと考えたが、後で聴こうと先送りにする。


とりあえず、話を進めよう。



「まず、これから向かう世界について教えてくれ。」



ふむ。というと、また頭に手をおいた。



すると、今回は嘘のようにすんなり頭に入ってきた。


どうやら最初をクリア出来れば、後は何でもないらしい。


そして、理解したところによると、これから行く世界はどうやら所謂、剣と魔法の世界らしい。


もう少し詳しく話せば文明は中世ヨーロッパの神話風で魔法により形作られているようだ。




「七海がいたら喜びそうな展開だな…」




そんなことを思いながら、与えられたイメージの整理を進める。





これから行く異世界の人類は、神や大精霊と呼ばれる存在を信仰し、声を聴ける一部の人や、力を使える人を道標に発展しているらしい。



人種は、ヒューマン・エルフ・ドワーフ・人獣・竜人がいるようだ。


また、魔族や魔獣といった存在もいるようで、この二つの勢力が争っているらしい。





地理はというと、北大陸と南大陸があり、その間には海が広がり中央諸島がある。



北大陸は、三国に別れ、魔族が支配している。


極地のヴァンパイアが治める常闇の氷原ニヴル


中央のアンデットやデビルが治める湿原の荒野ヘルム


南端のドラゴンが治める灼熱の雷原ヘイム



対する南大陸は、4か国から成る。



東を治める武力に秀でた武国ガルズ


中央付近から南にかけて治める精霊の力に秀でた聖国アルフ


西を治める魔力に秀でた豊国ヴァナ


南大陸の北部に横たわる地帯を治め、中央諸島と他の南大陸との国交の経由地である商国フレスト


武国・聖国・豊国・商国に囲まれた、永年中立不可侵国家ユグドラシル魔法学院。



そして、大陸の間にある海に浮かぶ中央諸島は、主に4か国ある。


これらは西から東に掛けて横並びの位置関係にあった。



ドワーフの祖国、鍛冶国ヴェリール


エルフの祖国、森林国家スヴァルト


ヒューマンの祖国、技術国家ガルズ


竜人の祖国、山岳国家ヘイム




これら9つの国の内、中央諸島の4か国だけは両大陸との国交を持つ、謂わば緩衝地帯になっている。



また、南大陸の人々の常識として、北大陸から南大陸に入るには商国ビフレストを通り様々な審査を通らなければ入国許可がおりず、入国に時間がかかる程度。



逆に南大陸から北大陸へ渡るには唯一の玄関口であるムスペルを経由しなければならない。



何故なら、ムスペルの南側以外の北大陸周囲は複雑な海流によって削られた自然のネズミ返しがついた高さ500mの岸壁に囲まれているのだ。



しかし、過酷な環境のムスペルなだけに、入国するためには中央諸島を巡り、暑さ対策と雷対策の準備をしなければならない。



もし、北大陸を踏破しようというものが居れば、まずムスペルから北に移動しヘルムとの間にある標高1万mのギンヌ山脈を越えることになる。


そこを越えたとしても次に待ち構えるのは大半が沼地で、気を抜くとアンデットに食われる。


そんなロクに休むことも儘ならない土地が続く。


時折顔を覗かせる荒れた台地には、魔族の中でも知能が高く残忍だと言われているデビル種が都市を作っているようで、休んだり補給するためには知り合いの手引きが必要になるので、滅多に南大陸の者は入れない。


更に運よく二ヴルに入っても同族以外の血を好み、大好物がヒューマンの血と言われている力の大魔族ヴァンパイアが統治している。


奴隷制度が根強く残っておりヒューマンを見つけると奴隷狩りに会うような土地と伝えられている。


その為、北と南は直接の国交が無いというのが世間一般の認識。



…と、いう時代の異世界に送られるようだ。




「北欧神話みたいだな…」



七海は中学に入った頃から、ゲームや小説の影響で様々な神話も覚えていた。俺との会話の最中に時々挟んでいたから俺も少しは覚えてしまっていたようだ。





「…と、こんなとこか。じゃあ、次は質問させてくれ。」


そう問いかけると、質問が分かっていたかのように空の神は答え出した。




「良かろう。まずは、お主の対じゃな。これは、正直、誰でも良い。

主に希望があればそやつで構わんよ。希望が無ければ、主に近いスペックの女を蘇らせる。が、主は例外的に高性能じゃからのぅ。主と比すれば他は似たり寄ったりじゃ。誰ぞ心当たりや気があるものが居れば、そちらにした方が良かろうて。」

で、誰がいいんじゃ?と聞いてきた。




俺はやはりというか当然というか、一人の女の名前を呼んだ。


「八重山七海」


すると、俺の横に光が集い人の形に形成されたかと思うと、この空間に入る少し前まで一緒に居た七海が記憶のままの姿で眠っていた。




「ふぅ…。ついでに主に与えた情報と同じものを与えておいた。あと他に質問は…あぁ、言葉と文字か。


これに関しては世界共通の言語と文字があるな。また、部族間言語、精霊言語、魔法言語といったものがあり、各々の文字がある。面倒じゃ、これらも与えよう。」




すると、今度は七海と俺に手をあて知識を伝えてきた。




「ふぅ…これで分かるはずじゃ。


あとは…、我との通信手段か…。これから送る世界には、大精霊が管理する神が顕現できる聖地がある。


そこに行けば会えるであろう。それに我らの声を聴こえる者もいるでの。」




そこまで聞いて、さっき疑問に思ったことを教えてもらうために聞いた。

「なぁ、そこまで至れり尽くせりだと、何か為し遂げなきゃならない事があるのか?」



「むっ…。やはり、気付いたか…。それは、残念ながら世界への過干渉になる故教えられぬ。が、お主らの運命に既に組み込まれておるから今は知らずともいずれ分かる。それに、主のスペックなら楽じゃろうて。」


ニッ!と、笑顔を見せつつそう言った。




神も笑顔で誤魔化すのか…と、少し呆れた。



それから幾つか質問に答えてもらい、要望を伝えようとした時、七海も起こした方がイイと考え揺すって起こした。


「おぃ!七海!起きろ!!」


「ん…。ふわぁ~って、あれ?お店…は??ここドコよ!!」


まだ、理解しきっていないので説明し記憶の整理を促すと、これから要望を出すけど何か考えておくように伝え、



空の神に向き直った。


「まず、姿と名前だが与えられたイメージだと、このままは異世界ではかなり変なはずだ。だから名前を変えて、姿も変えてほしい。それと、魔力をくれ。」




「それもそうか。神に名を与えられれば、称号もつくしな。姿は…二人とも相当にイイと思うが…よし。髪と目の色を変えてやろう。」

と、いうと俺の目と髪は白銀に。七海の目と髪は青銀になった。




「髪と目の色は魔法属性を表す。魂の属性が表れ普通ならその色に対応した魔法しか使えない。



緋色は火属性、蒼色は水属性、黄色は土属性、翠色は風属性、といった具合にな。


属性については、新しい世界で詳しく学ぶとよかろうが、魔法を行使する上で基本的な事を教えておこう。


…と、言ってもあちらではその基本の考えが忘れられておるかもしれんがな。




単色の者は純属性と呼ばれ、その色に対応した魔法しか使えないが、混成属性の者には使えない戦略級魔法や古代魔法も修練次第で使用可能じゃ。


この者は、主らの時代にはすでに希少な存在になって居り、長い年月で基本属性は混じりあい、何種類か混じって生まれるこの混成属性が大半を占めている。


混成属性者は、基本元素の他にそれらを元にした派生属性を使用可能じゃ。土と風で雷とかな。


この者たちは基本属性は中級程度しか習得出来ないが、派生属性なら上級まで習得可能じゃ。



そして、今は戦略級魔術を使用できるものは数少なく、古代魔法使用可能者に至っては片手で足りる人数しかおらん。



じゃから、実質上級までが主力なのじゃ。その事から、派生属性も純属性として数える者も居るぐらいじゃて。



そして、みたところ主の色は、全ての属性の基である光の純属性。

これは全ての属性が純属性レベルで使用可能の上、発現者は珍しい。


まぁ、黒目黒髪という魔力を有さない者よりは有りうるがな。


女は…、銀が入っている故に全属性使用可能じゃな。


しかし、水属性が強く出ているため水系属性のみ純属性レベルの行使が出来るようじゃ。


他は混成属性者と同レベルということのようじゃ。


あぁ、水“系”属性とは、水は勿論、派生の氷、霧、または雪などの水の状態変化の属性が練習次第では古代級まで使用可能という事じゃ。


うーん…、髪と瞳の色は水の純属性の者とは違い完全な蒼ではないから、公には氷属性としておくのが無難じゃろう。


また何とも面白い魂の属性じゃな。






さてと、名じゃが…


主は、アーダル=ヴェラス。高貴な光と言う意味じゃな。



そして、女はミオ=プラキドゥス。静かな水と言う意味でどうじゃ。」




長い説明を終え、必死に聞いていたお陰で疲れたが、予想外に美しい名前を貰ったおかげで気を引き締めなおせた。


七海は…って、もうミオか。


ミオは少なくともまんざらでも無い表情だ。


「アーダル!私、ミオだって!改めて宜しく!!」


…もう名前に馴染んでるって、どうなんだ?

愛着とか…まぁ、なかったのかもな。俺も散々、七転び八起きとかいってきたし。



俺は、若干名前に愛着があったがもう元居た世界には戻れないのだから名残惜しくても新な名前でやっていくしかないと切り替え、新たな門出に互いに挨拶する。



「あぁ。宜しく、ミオ。

そして、空の神、名前ありがとう。大事にする。」




「ふふっ。気に入ったみたいで良かったわ。」




さて、ミオは何か要望はあるかの?と、空の神が聞くと…


「うーんと、魔法学院に入れる年齢にしてください。」



と、いった。

まぁ、魔法の使い方なんて分からないし妥当な線か…


俺は、納得するとこちらを見ている空の神に頷いた。




「そうか…。それでは魔法教育が始まる16才位にしてやろうかの。」




すると、若干背が縮み、俺は170cm程度でミオは150cmちょっとという位になった。




「こんなとこかのぅ。あと、もう知っての通り、あちらは戦いが日常の一部じゃ。武器・防具は、選別としてくれてやるわ。神器ってヤツじゃな。

気難しい奴等じゃが頼りになるじゃろう。


おっ、そろそろ時間じゃ。それでは、異世界の門を開くぞ。」



そういうと、空の神が光だし辺りが見えなくなった…。










光がおさまるとソコは朽ちた遺跡の祭壇の上だった。


また、隣で横たわっているミオを起こす。



「おぃ!大丈夫か??」



「ん…、んふわぁ~。よく寝た。って、ここが私たちのスタート地点なんだね!あー!楽しみ!!」


確かに、未知への期待は大きいが不安もまた大きい。ミオは昔から自分を鼓舞するために虚勢を張る。


事実、手を膝の上で握り締めよくみると微妙に震えている。


俺は、それに気づかないようにして肩に手をおいた。


「ここから新しい人生が始まるんだ…。なにがあっても二人で乗り越えていこう」


そう、ミオと自分が落ち着くようにつぶやいた。










気を取り直し、先ずは、この遺跡から出なければ。と、考える。



何も考えずに外に出るのは危険すぎるので、まずはココがドコなのか何か手掛かりになるものはないかと辺りを見回した。



すると、今までは気にしていなかったが、魔法の行使以外で照明など無いこの世界において、不思議な事にお互いの顔や今いる祭壇の広間を見回せる事に気付いた。



壁も床も仄かに光っているようだ。



数秒、二人揃ってこの光景に呆けた後、素性の口裏合わせだけはしようと話していると何かの鳴き声が響いてきた。



魔獣か?!と、一気に警戒レベルがはねあがる。


辺りを見渡すと、祭壇から降りる階段の前に、二対の武具と服が置いてあった。



俺は刀の様に反った透明な刃が付いている白銀の剣と肘近くまである白銀のガントレットを装備。


一緒に置いてあった服は、忍者が着ていそうな黒装束みたいな形だが、両袖はなく色は白地。


両側を金と銀の刺繍で蔓草が織り成し、ついている胸当てまでそれがのびているというかなり凝った意匠だった。

そして装備すると体にあわせフィットした。

もう一対は、宝石のような美しい石が幾つか埋め込まれた背丈ぐらいはある銀色の(見る角度によっては青く見える)杖。


そして、それと一緒に置かれていた服は裾に向かうにつれて白から濃紺にグラデーションがかっている生地に草のような模様が金と銀の刺繍で施されたローブだった。



それらをミオが身につけると、こちらも丁度良くフィットした。








そして己の武器を確認し、軽く動くと部屋唯一の入口の方から誰かの走る音と悲鳴が響いてきた。


あと、50mってトコだな。


そう感じるとミオも分かったようで、互いに目配せした後、各々の武器を構えた。



「きゃあぁぁああっ!だ、誰か助けてぇー!!」



叫びながら、祭壇の間に転がり込んできた女性を守るため、俺たちの後ろに彼女をやると間もなく虎のような魔獣が現れた。



襲い掛かってきたが、ミオの杖で突かれ距離を取った。



一見すると、虎なのだが黒地に白い模様で、丁度ホワイトタイガーの色を逆にしたような獣だった。しかし、醜く歪んだ顔で吼えると口と爪から黒い靄を出し始めた。


「なぁ、キミ。守ってやるからコイツの事を知ってるだけ教えてくれ。」


と、落ち着けるように笑顔と冷静な口調で話した。


すると、さっきまで怯えていた目に活力が戻ってきた。


「…は、はい。名前はマーブルタイガーで討伐ランクはBです。


影に入り、影から影への移動が可能な事が大きな特徴でです。魔獣特有の障気を纏う部分は牙と爪で、噛まれたり切り裂かれると直ぐに壊死します。


あとは…えーっと…


あっ!光属性が弱点だったはずです!」


ミオと再度目配せし、魔獣に向き直る。


そして二人で名乗りをあげた。


「神月無双流アーダル=ヴェラス、推し通る!!」


「同じく!神月無双流ミオ=プラキドゥス、参る!!」



そして、二人はマーブルタイガーに向かっていった。



俺は、初めて感じる弾丸の様な自分のスピードに驚きつつも接敵し、飛び掛かってきた魔獣の懐に入ると抜刀した。


胸の辺りをある程度まで切り裂いたが、鋼のような体毛に阻まれ致命傷には至らず、爪によるカウンターまで仕掛けられたが、またも弾丸の様な速度でかわし、すれ違い様に胸とは真逆の背中を切りつけた。


完全に頭に来た様子のマーブルタイガーは、ミオや逃げてきた女の子に背を向け、剣を構えて牽制する俺と睨みあった。


その隙を逃さずに、ミオが飛び魔獣の上から背中の傷に目掛けて杖を突き刺した。


貫通したその瞬間、光が迸りマーブルタイガーは消滅。後には、透明なカードが残ったので一応回収しておいた。



こうして初の戦闘は、思ったよりもスムーズに終了したのだった。


実は、俺もミオもウチの流派、古武術神月無双流の師範代だったりする。


この流派は、剣術・棒術・弓術・徒手空拳を基本としている。


お互い獣は山での修行中に何度も討伐して夕飯にしてきたので、その経験が役に立ったようだ。


そして俺とミオは助けた女の子の所へ戻ると、声をかけた。


「大丈夫か?どこか怪我はないか?」


女の子はフルフルと頭を横に振り異常なしを主張すると、突然…


「あ、ありがとうございました!


そ、それにしても…すっ、スゴいですっ!!


ランクBって言いましたが、フルレイドのチーム討伐でのレベルですよ?


それをたった二人で…。しかも、あんなにアッサリと…いったいあなた方は…?」何者なんだ、と言外に聞いてきた。


俺は、一瞬言葉に詰まったがすかさずミオがフォローしてくれた。


「私達はビフレストの東から来たのよ。魔法学院に行きたいんだけれど、後ろ楯がいなくてねぇ…」


と、打ち合わせ通りに何食わぬ顔でスラスラと話した。ミオのこう言う所は正直、凄いと思う。


「あっ!そうだったんですか!学院は確かに貴族かギルドで有望な方しか入れませんものね~。」


「そうでしょ?だから、取りあえず修行と魔獣討伐しながら旅してるのよ。ところで、貴女は?」


と、彼女の素性を確認した。すると…



「あっ!申し遅れました!私、聖国アルフ第3皇女ルクス=ステラ=シルウェストリスと申します。以後、お見知り置きくださいね。」




「はぁあぁぁ!?」

「えっえぇぇ?!」




俺達が驚くのも無理もないと思う。


異世界入りして直ぐに要人と会うとか…ご都合主義もいいとこだろ。


「そ…、そうか…。ところで、何故その皇女様がお供も連れずにこの遺跡へ?」


「護衛の者逹なら、神殿の外にいます。


実は、あまり知られていませんがココは王家の託宣神殿と呼ばれる場所でして、100年に一度、神の声を聴く力を持った王の娘だけが託宣を受けにこの託宣の間に入る事ができるのです。


それが今、託宣の間に入ったら、託宣の最中しか光らないはずのこの部屋が光っていました…


それに、この広間に入れたこと。

恐らく、あなた方を連れ帰るのが今回の託宣だったのでしょう。」










…はっ?










「いや、声を聴くんだろ?あ、聞こえたのか?!」



「いえ、私はまだ経験が浅いのでどうするのが最良かが分かる程度です…」



「そ、そうか…

それで、連れていくのがベストだと思ったのか?ミオ、どうする??」



「ん~、良いんじゃないかな??一応、私達皇女様の命の恩人なんだから。」



と、いうと皇女は一気に嬉しそうな笑顔になり…



「皇女じゃなくて、ステラで良いですよ!あっ、それに!と、歳も近いみたいですし、お、お友達になってもらえたら嬉しいでしゅっ!!」



あ、噛んだ…


噛んだね…




…と、俺とミオは目線で会話した。幼馴染みスキルというヤツだ。



「わかったわかった。じゃ、俺はアーダルでいい。ヨロシク。」



「私はミオね!宜しく!!って、大丈夫?」



「…だ、大丈夫です…

そ、それよりも!こちらこそ、宜しくお願いします!」


自己紹介も終わったところで、祭壇の間ならぬ託宣の間を出た。


これから外に待たせている護衛と合流するそうだ。



「ねぇ、ステラ~。何で一人で託宣の間に来たの?」



「この神殿自体、本来神の加護があるものと王族しか入ることが出来ません。そして、託宣の間に行くに連れて神気が強くなり護衛が役にたたなくなるのです。」


「ん?じゃあ何故マーブルタイガーなんかいたんだ?」



「私もよく分からないのですが…、恐らく神殿の力が弱まってきているのかも知れません。」



「えっ!ソレってマズいんじゃないの?」

と、今度はミオがおどろいた。



「えぇ。ですので、御母様にご報告して、アーダルさんがさっき拾われたサピエンティア=カードを見せて頂きたいのです。


アレは討伐者、もしくは討伐者がいるパーティーしか手に出来ませんよね。


それ以外の者が許可もなく触れると、神罰として電撃がはしったり、呼吸出来なくなったり…


と、異国の方ならあまりご存じないかもしれませんが、この国では、かつてサピエンティア=カードを使った拷問も行われたので、王族は滅多にカードに触れられないのです。」



成る程…、このカードがサピエンティア=カードって言うのか。




「見せるのは構わないけど、こんな小さなモノどう見せるの?手を離すと文字が消えちゃうよ?」


「それは渡す前に、その人の顔と名前を思い浮かべて念じれば、その人には読めるようになるはずです。


ご存知なかったんですか?」


確かに、討伐して回ってるのにカードの使い方をしらないのはマズい。



「俺らは、今まで二人で旅してたから他人に見せるときなんてカードを売るときだけだったんだよ。奥義を編み出して、免許皆伝すればギルドにも入れてカードを作ってもらっていいらしいんだが…」


咄嗟のでまかせだが、何とか大丈夫だろう。


「そうそう。私たち、それを編み出す為に魔法学院に行こうと思って飛び出してきたのよ。お陰で、身元保証されてなくて強い魔獣を倒せばギルドも認めてくれると思って討伐しまくってたってわけよわけよ。」


昔から付き合いの成せる技、阿吽の呼吸で辻褄を合わせた。


「そうなんですか~。じゃ、御母様にお願いしてみましょうか??」


「本当かっ!?」

「マジでっ?!」


入学の大変さは知識として知っていたが、いきなりネックだった後ろ楯を得られるチャンスだ。喜ばずにはいられない。



「ですが、恐らく騎士と戦って頂く事になると思うのですが…」


あぁ…そりゃ、世の中そんな甘くないよな。

一瞬、落ち込みそうになった。

しかし、まぁ、でもさっきは試運転だったし大丈夫だろうと、気を持ち直した。


申し訳なさそうにしているステラにミオが声をかけた。


「大丈夫だよ。多分!さっきのだって余裕だったし!!」


し、しかしっ!と、更に不安そうに俺らを見てきた。…若干、熱っぽい瞳で見られているのは気のせいだろうか…もう少し様子を見ようと、何でもない風にいった。


「ミオの言う通りだな。魔族や魔獣ならまだしも、普通の騎士には負けんよ。ほら、もうすぐ出口だぞ。」


うぅ~…と、唸ったが、暗い通路を曲がるとその先に明かりが見えた。


すると、ステラはそっちに気をとられ、出口に走った。


転ぶなよ~!っと、声をかけると俺達はその後ろを歩いて出口にむかった。


すると、ミオが話しかけてきた。


「ねぇ、騎士って強いのかな?アーダルはどう思う??」


「そうだな…。まだ何とも言えんが、俺達ならマーブルタイガー程度を一人で倒せるだろうし、余程の使い手じゃなきゃ大丈夫だろ。でも、気は抜けんが。」


フルライドのチーム討伐でランクBだと、個人討伐ならランクA~S相当だろう。相当強いが、倒せないヤツがいないわけじゃない。それはミオも分かっていたようだ。


「そうだよね。上には上がいるだろうし~。まぁ、やってみてから判断したって何とかなるでしょ。」


「まぁ。魔法とか使われたら困るけどな。ステラの護衛に魔法の基礎でも教えてもらうか。」


「おっ!それ良い考え!!感覚的なモノを覚えられたら、私達なら何とかなりそうだしね!


それはそうと、あの娘の魂は地球人なのかな?」


そういうと、さっきまでの真剣な顔はどこかへ行き、代わりに面白いものを見つけた様な顔で俺を見てきた。


俺は興味ない風で、どうだかな。と、かえしたが…


「ねぇ!あの娘、アーダルに惚れてたよね!地球にいた頃からかなりの人気だったしね~。異世界補正も掛かって、磨きがかかったんじゃない?」


どうする~どうする~??と、ニヤニヤしていてムカついたので…頭を叩いた。


「五月蝿い。何言ってんだ。行くぞ。」


そう言って歩を進めた。


「ちょ、チョット待ってよ~!!」


遅れてミオがついてきて、俺達はようやく新世界の空気を吸った。




楽しんでもらえたらありがたいです。


次回もお楽しみください。

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