第82回 聖剣の霊廟
<登場人物>
グノー (勾陳星 エピストローペの)主人公の兄弟子 魔法使い
メディカス (太常星 酔遊仙の)僧侶防御魔法、治療魔法、躰術
ホーネス (玄武星 神槍の)スカラ国戦士槍の使い手
レピダス (青龍星 銀弓の)黒虎騎士弓、双頭槍の使い手
デュック (貴人星 斜行陣の)元宰相の子参謀、双鞭の使い手
アスペル (太陰星 黒豹の)女盗賊スリング、手裏剣、メイスの使い手
ストレニウス (白虎星 重戦車の)赤鬼騎士双手剣の使い手
ソシウス (六合星 旋風の)斧使いの大男バトルアックスの使い手
エコー (天空星 鎚人馬の)ヘテロ青竜騎士風の魔法使い、ヴォーハンマー
フィディア (天后星 譚詩曲の)芙蓉記伝承者竪琴
グレーティア 主人公
プエラ 主人公の幼なじみの娘
ビルトス 主人公の師(本名ダーナ)
デスペロ 魔法宰相
コンジュレティオ 軍総司令
紀朱王 パテリア国国王
芥子菜王妃 パテリア大国王妃
歴山太子 パテリア大国王子、嫡子
那破皇子 パテリア大国王子
蘭公主 パテリア大国王女
ウーマー デスペロ配下上級魔法使い
ウレペス デスペロ配下上級魔法使い
プロディティオ デスペロ配下上級魔法使い、那破皇子支持者
セラペンス ビルトスと死闘した上級魔法使い
ペコー セラペンス配下
カエルリウス ベロックスに負けた政府の一級魔法使い
コレガ 黒虎騎士、レビダスの友
ソダリス 黒虎騎士、レピダスの友
ブバルス 赤鬼騎士団団長
ファコス 赤鬼騎士
クラデス 赤鬼騎士
ガイウス将軍 先鋒 旧政府反乱軍の南下を阻止
エレミアス将軍 知将 ヘテロ戦で窮地を救う
ペラギウス将軍 猛将 勇猛果敢な武将
ティモティウス将軍 多数の敵将を倒した実績有り
ユリウス副将 総司令の息子
アラヌス 将軍 最古参の将
カズパルス将軍 元親衛隊
ヘンリクス将軍 防御が強い軍
レオポルドゥス将軍 重騎兵軍
スプリウス将軍 勇猛な将
プロクロス将軍 混成魔法軍
ヨハネス将軍 軽騎兵軍
ドルスス将軍 猛将
ゲラシウス将軍 混成魔法軍
ヴィクトル将軍 純粋魔法軍
ホスティス ヘテロ国魔法宰相
ベロックス 青竜騎士団長
ローサ ホスティスの養女
チューバ 白狼騎士(ローサの警護係)
トラボー 反乱軍首魁
ハレエレシス 反乱軍参謀、ブルマの乱首謀者
フィデス トラボー配下魔法使い
ファルコ トラボー配下武将
アミコス 反乱軍参謀、竪琴の使い手、元魔法省官吏
ファクルタス 反乱軍魔法使い、ブルマの乱生存者
アルゴン 反乱軍武将
オティス 反乱軍武将
ホルディウム 反乱軍財務
センド公 元領主
アビエス センド公に仕える豊穣の魔法使い
フレイト グレーティアの兄
クリプトン 前宰相の長子、ドムス家当主
ケミクス ドムス家の三男
クプルム ドムス家の五男
オリス 怪物ハンターリーダー
ベル オリスの仲間若年
ウルムス オリスの仲間、剣士
モータ オリスの仲間、風の魔法使い
ドクトリ オリムメガラの魔法使い、古代魔法を復活させようとしている
ゲオルゲ デュックの後見役、配下
アウダック 反乱軍首領(鎮圧される)
アクイロ 元政府所属魔法使い
モリウス アクイロの息子
コンスピロ 那破皇子の世話役
クロレア 蘭公主のお世話役
トリス ストレニウスの父親
ソロア ストレニウスの妹
ビリー ストレニウスの兄貴分
マリラ ビリーの妻
アビア フィディアの祖母
イーリス ストレニウスの妻
ニガンダ グノーの弟子、魔法使い
カリディアス ルミエ知県,行政長官
ガナイ カリディアスの養子
サンテス カプットの知府(行政長官)
ローム ナティビタス知府
マリタ ロームの妻、デスペロの娘
バリダス 虎の爪首領
モルタリウス 虎の爪序列2位
タブラス 虎の爪序列3位
テルパ 虎の爪序列19位 上級(下)魔法使い
ムルコ 麻薬組織の防御魔法使い(ウルマの兄)
ウルマ 麻薬組織の防御女魔法使い
スパーバス ベラ家家長、魔法属性の武器使い
ツタメア スパーバスの妻、幻術使い
ラバックス ペラ家長男 高利貸し
オディーマ ベラ家長女、幻術使い
アクセンド ベラ家次男、魔法属性の武器使い
ミケーネ アルマロス
ゼノビオス アルマロス
シャヘル 冥界の王 十人の妖魔の主
ウーマー 妖魔一位(抽腸獄 月光の)宰相の配下
コスタ 妖魔二位(穿肋獄 ミトラの)死者を甦らす
ハスタ 妖魔三位(針山獄 一角獣の)ホーネスの宿敵
アエヌス 妖魔四位(焼手足獄 セルヌノスの)ローサ陣営の妖魔
ラング 妖魔五位(抜舌獄 魚色の)大蛇に乗る
ベネノ 妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩の)女性、二匹の獣を連れる
カーサー 妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀の)巨像に乗る
グラッシス 妖魔八位(寒氷獄 黒海馬の)怪鳥に乗る
ベナ 妖魔十位(血汚獄 サキュバスの)意馬心猿の術使い
西都メディスを政府軍が奪還していたころ、古都ナティビタスでは、協議がなされていました。 議題は冥王軍の出現時期と、その対策についてでした。
この会議がなされたのも、魔法城の制御室で、映像を環視していたドクトリが、怪物等の動きに変化が現れたのに気がついたからでした。
「集まってもらったのは他でもない。ドクトリが冥王が地上に現れるのが間近では無いかと、訴えてきたからだ。直接ドクトリに説明してもらおう」
一同を前に、語ったのはレピダスでした。
「では儂から説明するとしよう。政府軍を撃退した後、この魔法城の能力も更に増大してきた。これは頼もしい限りだ。この前の戦闘にて、人や物資を瞬間に移動させる仕組みは古都近郊に限られていたが、今や西都メディスまで至ることになった。つまり我々は古都を中心として、南は王都フローレオの先、西はメディス、アデベニオ、東はトラクタウスまで瞬時に移動できるようになったのじゃ。今後もこの能力は強くなり、やがてパテリア全土を自由に移動できるようになるであろう」
「面白い。政府軍が西都に釘付けの間に、王都を攻めることが出来るてわけだな」
愉快そうに、ストレニウスは声をあげました。
「馬鹿言え、人手不足で支配なんかできるものか。山賊並みに荒らして終わりだ。俺は古都でさえ重荷に感じる」
デュックは不機嫌でした。
「残念ながら、我らの目的は国を盗ることではない。冥王こそがその相手だ。ドクトリの続きを聞こうでは無いか」
両者を制するように、レビダスは言いました。
「この移動の能力だが、魔法城がひっきりなしに動かしているのは怪物だ。以前、冥界の怪物と地上の怪物が東部、南部、西部でぶつかったが、このときは怪物は群れだって地上を移動し、両軍が抗戦している。その後の状況から、引き分けに近い結果で、なんとか冥王軍の進撃を食い止めているのいが分かったが、今回は少しちがう、怪物の群れが魔法城の力によって次々に、古都近郊に集められているのじゃ」
「大変だわ。古都が怪物であふれてしまうということね」
アスペルは不安そうでした。
「確かに問題だ。我らが居ることは古都市民の命を脅かすことになる。これは政府軍との戦いの結果が、示している。いまだ古都近郊の農地は荒らされ、復旧できておらす、あと何ヶ月かかることやら。再びここで戦いとなると、壊滅的な事になるだろう。それに以前に、怪物で覆われたら交易が止まってしまうぞ」
デュックはアスペルの言葉に合わせました。
「その問題は確かにあるが、儂がここで述べたいのは、魔法城が怪物を強制的に移動させているということじゃ。本来怪物は群れだって移動するもの、ブロック単位でひっきりなしに移していることは、魔法城が守備固めを急いでいるということじゃ」
「するてーと、冥王軍の進撃が迫っているという訳か」とストレニウス。
「その通り、前回は国境近くであったが、今回はパテリアの領土内に出現する可能性が高いのじゃ」
「場所は分かっているの?」アスペルが尋ねました。
「それは不明じゃ。恐らくヒパボラ河中流域のどこかであると推測はするが」
「西都近郊で冥界の怪物が出現したときは、雲が立ち上がり、続々と獣が出現したと聞く、フィディアの譚詩曲でも同様な表現があった。雲などの兆候が洗われるに違いない」
「では、このままここに居たのでは、古都の市民に被害がでるので、別のねぐらを急いで探せということかな?」デュックは推測しました。
「それは、少し違う」ドクトリが言うと、レピダスが付け加えました。
「我々の目標は、冥王軍の撃退だ。冥王軍は政府軍より遙かに強く、強力な魔法を持つ。普通の城にいては太刀打ちできるものではないので、対冥王軍の城として構築されたナティビタス城で戦うのが上策だ」
「魔法城かなんか知らないが、ここには沢山の人が生活をしているんだ。冥王との戦いに巻き込んで良いのか」
「君の意見は正論だ。しかし、パテリア全土の、いや世界にとって益かどうかとなると別問題だ。我々が負けてしまっては、地上が焦土となりかねない」
「つまり、古都は全体のために見捨てろというのか」
デュックの目が、厳しくなりました。
「そうだ、妖魔も侮りがたいし、我々の味方の怪物も先の戦いで数を減らしている。なによりも冥王の力が全く不明だ」
「そもそもの疑問だが。冥王が地上を支配して焦土と化すると推測するのはどのような理由からだ。根拠がないではないか。案外今と変わらないと思うが」
「貴方は殺風景な部屋が好きだったとする。もし新しい家を手に入れたとして、その部屋が物で溢れていたとするなら、そのままにしておきますか」
「地上を冥界と同様にするというのか。しかしそれは我々人間の反応から推測したにすぎない」
「可能性があれば、対応するのが筋というもの。相手がそうでないなら剣を収めればいいだけのことでは」
「では、あくまでも古都で戦うというのだな。難民が発生するぞ」
「それはデュック、貴方が居るので安心だ」
「避難先を探せというのか」
デュックは大いに不満でした。
二人の言い争いが収まったところで、再びドクトリが語り始めました。
「魔法城の装備については徐々に解明されつつあるが、冥王にとどめを刺す武器が手元に無い。この問題を解消せねばならない。丁度、魔法城の移動エリアが拡大したことにより、この作業は容易になった。探索隊を編成し、聖剣を探し出してはどうかな」
「ドクトリの意見には賛成だ。しかし、妖魔が襲ってくるのも心配。少人数しか出せないが」
レピダスは慎重でした。
「聖剣グラディウスについては、在処は分かっているんじゃないのか」
ストレニウスが怪訝な顔をしました。
「聖剣の二本あるうちの雄剣だけな。カーボからアセドまで向かうサンダビアの山中だが、偶然でな。正直なところ良くわからん」
ソシウスが当事者なので、現状を述べました。
「情けないな」
「面目ない。しかし、旅の途中ハレエレシスなる老人が、剣が俺たちを選んだと言っていたな」
「面白いな、その爺さん事情通だったりしてな。剣が選んだってことは、再会できるんじゃないか?」
「だといいのだが」ソシウスは自信なさげでした。
「調査隊の一人はソシウスに決まりだな。他一名を加えて探索してはどうだろうか」
レピダスが提案すると
「その一人は俺だ」
と、ストレニウスが立候補しました。
「駄目だ、君にはこの城の警護にあたってもらわなくてはならない」
「なんでだ、それにはもっと強いホーネスの旦那がいるじゃないか」
ストレニウスは不満げでした。
「獣の王がナティビタスの近郊に集まってくる、彼らとグレーティアは交信を試みなくてはならない。その不慮の場合に警護としてホーネスが同行しなくてはならないのだ」
「だったら、私が同行するわ」
手を上げたのがアスペルでした。
「貴方か。婦人と従者の格好で行けば、お尋ね者とは誰も気がつかないかもしれませんな」
レピダスは賛同しましたが、気に入らなかったのはデュックでした。
「反対だ、アスペル。聖剣が危険な物として妖魔も目を付けている、奴らに遭遇したらどうする。やめるべきだ」
彼の必死の訴えに、彼女は素知らぬ顔をしました。
「大丈夫よ。パテリアの至宝を持って行くから。もしかして二人で行くから妬いているのかしら」
「馬鹿を言え」
デュックはむくれました。
「よし決まりだな、俺とデュックで、市民の避難先の確保と、待避の準備を始める。メディカス老師には、人々の不安を取り除くべく協力をお願いします」
老師はにっこりとしました。
こうして、聖剣の探索が始まったのでした。
協議が終わった後、デュックはアスペルを引き留め、彼女を広間の隅に誘うと話し合ったのでした。
「なあ、アスペル。ここから逃げないか?」
デュックは真剣な顔を向けました。
「何を言っているのデュック。また弱気になって」
「今度は本当に危険だ」
「聖剣探索のこと?」
「それもあるが、ここで大決戦が行われることだ」
「そのために、探索に行くんでしょう」
アスペルは平然としていました。
「冥王との戦いなんだよ。フィディアの譚詩曲を聞いたことがあるだろう。芙蓉姫の諸将は誰一人として生き残らなかったんだよ。それほど冥王軍は強いんだ」
「だから聖剣を探しに行くのでしょう!」
「俺たちがやらなくても、誰かがやるさ。こんなことで命を落とすなんて馬鹿馬鹿しいと思わないか?」
「デュック。貴方、分かってないわ。私たちが行わないで誰がするというの!」
「パテリアには国軍というものがある。彼らは俺たちから政権を奪って、全土を支配した。彼らこそ、侵略者から国土を守るのが筋てもんじゃないか。俺たちは、賊に過ぎない」
「これは国と国、政府と反乱者のの戦いではないわ、国とか反乱軍とか、関係ないのよ。それを退ける力が私たちにはある。だから戦うのよ」
「君は自分の幸せを願ったことはないのかい?平穏な日々の生活。畑には作物が育ち、家には竈から煙が立ち上る。子供達が庭を走り回り、君が微笑む。そんな幸せを」
「私を家庭に押し込めたいというの?子や孫に囲まれて幸せ、なんて私があこがれているとでも」
「いや、それは俺の願いだが」
「デュック。貴方は優しい人だわ。あなたが宰相だったら民に優しい政策をすることでしょうね。でもね、それでは国は守れないの」
「手厳しいよ。君は怖くはないのかい。俺は怖いよ、逃げ出したいくらい」
「正直な人ね。でも、人は時には自分に嘘つきに、ならなければならないの。怖くないと思い込ませるの」
「俺は君を失いたくないんだ!」
「有り難う、そこまで思ってくれるんだ。でもね、同様に私も失いたくないんだ、故郷を」
「お願いだから、俺の為に、一緒に逃げてくれないか」
「ねえ、デュック。家庭に憧れるでしょう。貴方の家に居る私は、守られているのかしら」
「もちろんだとも、君を守ってみせる」
「だったら、守って頂戴。ここが私の家よ」
デュックは彼女を説得出来ず、うなだれてしまいました。
アスペルとソシウスが聖剣探索に出発すると、デュックは古都および近郊の町の移転先を探していました。そこは政府の支配地で、どうやって避難民を受け入れさせるかは、難しい課題でした。
政府軍を破って、その武力を誇示して、高圧的に交渉してもよいのですが、むしろ反乱軍の支配を逃れて出来た難民という名目の方が受け入れやすいのではとも思えたのでした。
考えすぎて疲れたデュックは、疲れた体を、椅子に投げ出すと、そのままウトウトと船をこぎ始めたのでした。
どのくらい経ったのでしょうか。一人の男が、背を向けてたたずんでいたのでした。
「お前は誰だ!」
飛び跳ねて、デュックは掛けてあった剣をとりました。
「お目覚めですかな。まあ、剣はお納め願えますかな」
振り返った男は黒く深い鎧を身にまとっていました。
妖魔でした。
デュックはゆっくりと、身構えました。
「俺を襲いに来たか!」
「警戒するのも、当然のことだな。俺は妖魔四位、焼手足獄のアヌエスだ」
妖魔は、人間の礼をしました。
「ご挨拶とは、ご丁寧なことだな]
皮肉っぽくデュックは言いました。
「俺はお前の命を奪いに来たのではない。話しに来たのだ」
「話し合い?お前等がか。この前、容赦なく、仲間を殺害しておきながら、手の平返したような態度は信じがたいが」
「疑うのも無理は無い。だが考えてもらいのだが、もし本当に俺がお前を暗殺に来たとするなら、寝ていたお前は、目を覚ますことなどなかったはずでは」
言われてデュックは、暫く考え、納得し剣を収めました。
「確かにその通りだな、だが妖魔を完全に信じることはできない。話だけは聞こう」
アエヌスは近くにあった椅子に腰掛けると、デュックにも座るように促しました。デュックは、仕方なく対面で腰掛けることにしました。
ワルコの将と妖魔が、向かい合わせで座るなど、滑稽なことでした。
「俺は、お前が見込みある奴だと思って、我が陣営に誘いに来たのだ」
「笑止な。俺が冥王の手先になるとでも?」
デュックはせせら笑いました。
「違うな。ヘテロの宰相ホスティス陣営に来ないかと誘っているのだ」
その言葉に不意打ちを食らって、デュックは状況がつかめませんでした。妖魔とヘテロが、結びつかなかったからでした。
「ホスティスは、冥王と手を結んだのか?」
「違うな。両陣営は関係は無い」
「すると、どう言うことだ。妖魔がホスティス陣営に誘うとは」
「そうだ。俺が冥王陣営から、ヘテロ宰相の陣営に鞍替えしたからだ」
戦いを二極で考えていたデュックは、大きな衝撃を受けました。
「お前は、冥王を裏切ったのか!」
「裏切ったというべきか、冥王様については、今でも尊敬している。しかしワルコとの戦いについて、疑問が生じたのだ」
「疑問だと。面白い」
「我々は何故、戦い合うのか。千年前の戦いで両陣営とも、消耗戦を繰り返した。そして、今回も又だ。この戦いは、冥王様が地上を欲し、ワルコが地上を守るという簡単な構図なのだろうか。そして、その戦いを見下ろすかのように、天井には輝く星々がたたずんでいる。あの星は怪しく輝くのだ。何かを待つかのように。そして不安にかき立てられるのだ。俺はその正体を確かめるべく、大空に飛んだが、近づくことさえ困難だった。お前は、このまま冥王軍との戦いになり両陣営ともつぶし合うのを望んでいるのか?」
アヌエスの言葉に、デュックは心を動かされ始めました。
「戦いに疑問を持っただと、俺は逃げることばかり考えていたが」
「その離脱しようという心構えが気に入ったのだ。エコーより、アスペルなる女性と逃避したがっているとは聞いている」
「あいつ、余計なことを」
デュックは舌打ちしました。
「お前達は、新たに人として蘇ったが、我々妖魔は、そのままの姿で再生した。だから千年前の戦いも鮮明に記憶している。我らは不毛につぶし合ったのだ。当初、我々はワルコノ将の存在に気がつかず、冥王様の地上支配の地ならしとして、地上にやってきた。そこでワルコの将と遭遇し戦いになったのだ。結果は両軍共倒れで終わったのだが、その戦いは千年後に持ち越された。そして今回だ。俺は千年前の戦いを振り返り、背後で動く人物の存在に気がついた」
「背後?なんだそれは」
デュックは新たな情報に、聞き耳を立てました。
「ミケーネという、謎の女だ。この女は冥界で何度か見たことがある。冥王様の近くで良からぬことを吹き込んでいた。この戦いは、この女によって仕組まれたと推測する。また同じくワルコ陣営についても、ワルコである芙蓉に近づき、戦いに導いていたのであることは、分かっている。両陣営を行ったり来たりしながら、焚きつけているのがこの女なのだ」
「なるほど、千年前にそのような者が、うごめいていたのか」
「千年前だと。今もその女は背後で動いているのだぞ」
「信じられぬ。おれはその女に会っているのか?」
すると妖魔は笑って、説明した。
「もちろんだ。お前達は、ビルトス博士なるものの計画により、ワルコがナティビタスまで到達したと思い込んでいる。しかし、計画がうまくいくとは限らないだろう。予想外の状態が発生するかもしれないし、本人の気が失せてしまうこともありえる。ワルコを守り、支える人物の存在があってこそ成し得るものだ」
「確かに、お前の言うとおりだが。そんな女など居なかったぞ」
デュックは、どう思い巡らしても、そんな企みをいだいた女を思い起こせなかったのでした」
「ワルコの傍らにあって、旅の始まりから見守ってきた女を知らないか?」
妖魔は顔を近づけて来ました。
「まさか、あの娘だというのか・・・・」
出した答えに、デュックは頭を打ち抜かれました。
「その通り、それがミケーネだ。旅を通じてワルコは成長し、目的地に到達した。女は次の計画を進めるべく、姿を消した」
「信じられぬ。あの娘が俺たちを操っていただなんて」
「天后星を、不遇の環境から救い出したのも、あの女だったのであろう。旅の課程でワルコの将も揃えた。ワルコはあの女に守られ、ここまできたのだ」
「しかし、もうあの娘は居ない。故郷に帰ると言っていたが」
「ワルコの将はほぼ揃い、魔法城にも入城した。精神的支えは、高僧の者がいる。そこで十分と判断したのであろう。あの女の次の一手は、冥王様を動かすこと。近いうちにワルコと冥王様の戦いが始まる」
「許せぬ。俺たちを虚仮にしやがって!」
「まあ、そう怒るな。あの女は、計画にズレが生じていることに気がついていない」
「どういうことだ」
デュックは身を乗り出しました。
「ワルコ陣営でもない、冥界陣営でも無い、第三の陣営だ。すなわちヘテロ宰相ホスティスを中心とする陣営が興ったということだ。我々は両陣営が消耗したところを漁夫の利を得る計画を持っている。それによってミケーネの策略を打ち砕くのだ」
「なるほど、それでお前はホスティスに肩入れしているという訳か」
「いや、これは冥王様の為でもある。そもそも冥王は地上など欲してはおられぬ。我々妖魔にとっても、地上は眩しく暑い。冥界がここちよいのだ。わざわざ地上に出向き、環境を冥界と同じに改造しするなどの、疲れる仕事など望まぬのだ。それをミケーネが、冥王様をけしかけるのだ。冥王様はワルコとの決戦を決意されているだろう。まったく性悪女だ。宰相ホスティスの指摘で気がついたのだが、戦いを通じて、我らは魔法の力が、落ちているようなのだ。このまま戦い続ければ、存在そのものが霧のように薄くなっていく可能性がある。だから俺としては、第三勢力に荷担し、劣化を防ぎたい」
妖魔の言葉に、惹かれたのか、デュックは、アヌエスに親しみを感じ始めていました。
「貴方の言葉には、誠がある。戦いは無意味なことだ。阻止をしなくてはならない」
「納得してもらえると思っていた。我らの陣営に加わるか?」
「無論だ。俺は平和に暮らしたいだけだ」
「では宜しくな」
妖魔が、人間の儀礼を真似て、手を差し出すと、デュックは躊躇無く、握りました。
「このままヘテロに連れて行きたいが、何かの仕事の途中であったのだろう?」
「住民の避難場所を探す仕事だな。ほぼ目処はついている。後はゲオルゲに頼むとしよう。それより心配なのが」
「女なんだろう」
「その通りなんだが、俺としては彼女を連れて去りたい」
「ならば、説得しかないだろうな」
「しかし、生憎、彼女は聖剣グラディウスの雄剣を探しにいっている」
「あの、剣か」
「彼女は愚かだ。地上を、冥王の魔の手から、真剣に守ろうとしている」
「滑稽なことだな。しかし、彼女は危険状況にあるかもしれない」
「どういうことだ」
「ワルコの聖剣は、隠された剣だ。天后星が安置したのであろうが、そこには仕掛けがあるはず。ワルコ以外が近づけば罠が発動するはず。しかし、その前に所在地が不明だが」
「サンダビアの山中にあるとの話だったが」
「サンダビアの山中というか、冥界と地上の境目だ。位置が変化する。巻き込まれれば二度と地上には戻れないぞ」
「なんだって。彼女を止めなくては」
デュックは焦りました。
「待て、どうするつもりだ。西部までどうやって行くつもりだ」
「それは・・・」
「おれが連れて行ってやる。俺たちは魔力については、お前達より上だからな」
こうして、デュックはワルコの陣営から去ったのでした。
ナティビタスの魔法城の転送能力で、移動したソシウスとアスペルは、西都メディスの近郊、ウンダ河右岸に降り立ちました。メディスでは政府軍が西都を取り戻し、反乱軍を南に追い戻して、本拠地ガミネティオに迫っていた頃でした。
政府の目は、南の反乱軍と、西の国境を脅かしているガッリア国軍に向けられ、二人への警戒が緩んでいたこともあり、難なくビタ街道を西に進み、南下しホーレンにたどり着いたのでした。ここは東の戦争とは無縁の静かな地方の町でした。さらに南に進むと港町コメに至り、南西に向かうと、グレーティアの故郷、港町マーレに至るのでした。
ホーレンを後に、西に向かうと広い盆地の出ます。この盆地の中心にはカーボといいう町が有り、盆地の北面には、目的地サンタビア山がいくつの山を従えて居ました。
カーボから道を南にとれば、ソシウスの故郷が有り、その道を通って、グレーティア達は逃避行をしたのでした。カーボの町に近づいたとき、ソシウスは、旅が、間近ののようで、遠い昔のようで、感慨を覚えました。
二人は、お尋ね者であることは変わりなく、悟られないように、婦人とその従者の姿に変装し旅を続けてきました。途中、治安が万全ではありませんので、数人の追いはぎに出くわす事もありました。この場合、従者であるソシウスが、賊を退けるべきところですが、アスペルも只の女性ではありませんでした。ソシウスの出番もなく、電光石火の動きで、賊達が瞬きする間に、始末してしまいました。
普通は、婦人の旅は、従者一人では心許ないものですが、彼女一人でも百人のお供を連れて行ったいるようなものでした。
カーポの門まで近づいた時、後ろ方から、ソシウスを呼ぶ声がしてきたのでした。ソシウスが振り返ると、血相を変えた、軍服姿の男が駆け寄ってきたのでした。
「おじさん」
軍人の親戚でした。
「馬鹿。町の門に近づくんじゃ無い。お前だってバレバレなんだよ」
男は手招きして、林の陰に隠れさせたのでした。
「お前は、ここでは有名人なんだぞ。犯罪者としてな!」
子供を叱るような口調でした。
「そうですか?変装はしてるんですが」
「そんな大男は目立つ上に、地元なんだぞ。気がつかないはずがないだろう」
おじさんはあきれ顔でした。
「まったく、お前という奴は英雄になったかと思うと、反逆者になっちまうんだからな。噂はここまで鳴り響いているぞ。政府軍に勝ったんだってな」
男は快活に笑いました。
「ああ、何故か勝ってしまった。でも俺たちは政府軍以上の敵と戦わなくてはならないんだ」
「なんだそれは、ヘテロ国か?」
「違うんだ、冥王なんだ」
「夢でも見ているのか。まあ、俺なんかに秘密は言えないよな」
「いや、おじさん。違うんだ」
ソシウスは説明しようとしましたが、おじさんは止めました。
「いいてことよ。ところで今度は婦人の護衛か?。この前の美人の少女はどうした」
「まだ、ナティビタスにいるけど」
「そうか、分かれていないんだ。お袋さんは、お前が、女の尻を追っかけて、戻ってこれないところに行ってしまったと、嘆いていたぞ」
「それは、誤解だ。仕事上のパートナーだよ」
「ま、連れとことには間違いないんだな。ところで、夫人を連れて町に入れないぞ、どうする」
「だから変装して・・・」
すると、ソシウスは小突かれました。
「まったく、お前は昔から、話をちゃんと聞かない。バレバレなんだよ。そうだ、センド公の屋敷を訪ねたらどうだろう。お前を大層気に入っていた」
そう言うと、おじさんは、アスペルに話しかけ、それを薦めたのでした。
「優しい親戚を、持っているのね」
カーボを迂回した時に、アスペルは、ソシウスに愉快に話しかけたのでした。
「世話焼きのおじさんでね。何組のカップルを作り上げるかが、趣味なんですよ」
「まあ、面白い」
アスペルは微笑みました。
「おじさんの提案どおりに、センド公を訪ねますか」
「そうしましょう。政府軍に関する噂をもっているかもしれませんからね」
センド公屋敷にて、ソシウス一行は大歓迎をうけました。お尋ね者であることで、ソシウスには一抹の不安がありましたが、センド公の明るさは、それを吹き飛ばしてしまいました。
豊穣の魔法使いアビエスとも、久しぶりで、センド公の一家の食事に、同席を許されていました。センド公はワインを片手に、その後の旅の経過を聞くと大喜び。政府軍を撃退した話になると、感嘆してました。
センド公の息子は相変わらず、色目使いで、アスペルに目を合わせていましたが、それだけでした。ソシウスとしては、坊ちゃんが、アスペルに手を出さないことを祈っていました。どうなるかは、一目瞭然でしたから。
「ほう、その冥王が攻めてくるのを撃退するために聖剣を探しておられるのか」
センド公は、ソシウスの親戚とは違い、真剣に話しに応じていました。
「そうなんです。二つの聖剣のうち、雄剣がサンタビア山にあるんです」
「場所を特定されているのですか。それは良いことだ」
センド公はブドウを摘まみました。
「しかし、山中で何処かはわからんのです」
「でも、範囲は絞られています。時期に見つかるでしょう。そうだ、山で過ごすために装備は準備させましょう」
「有り難うございます」
そこまで話すと、センド公は何かを思い起こしたようでした。
「そう言えば、少女が聖剣を求めて、ここに訪ねて来たことがありました」
「いったいそれは?」
アスペルは、思わず声を上げてしまいました。
「ご心配なく。貴方たちがお探しの剣とは違います。それはマーレの近くのアグラチオ山なんです」
「グレーティアの故郷じゃないか。そんな近くに」
ソシウスは血相を変えました。
「我が家に絵画がありまして、その山の絵から、場所を特定した賢い娘でした」
「それは宰相の娘ローサに違いないわ」
「同感だ」
「アグラチオ山を優先すべきかしら」
アスペルが思案をすると、センド公は鎮めました。
「残念ながら、すでに聖剣をてにいれたようですよ。その娘から礼状が届いています」
アスペルは肩を落とし、落胆しました。
「俺たちの目的は、サンタビア山ですよ」ソシウスが宥めると、
「そうね」とアスペルは気を持ち直しました。
ソシウスとアスペルが寝室に案内されて去ると、センド公は魔法使いのアビエスに語りかけたのでした。
「ビルトス博士の計画は、順調に進んだようだ。いよいよ冥王との決戦が始まる。しかし、どうやら秘密兵器は手に入れていないようだな。あれは完成したのだろうか?でなければ聖剣を手に入れたとしても、敗れる可能性はある」
「大丈夫です。空に星々が輝いているんです。導かれないわけがありません」
「ゼノビオスはそう言ったのか?」
「彼は、裏で動いています。ミケーネを出し抜くために」
センド公は安心し、空を見上げると、六つの星が、空に瞬いていました。
サンタビア山を彷徨ったソシウスとアスペルは、どうしても聖剣の祠を発見することができませんでした。
三人が逃避行のために選んだ道は、山中の一本道で、その傍らに、祠はあったのです。祠に遭遇後、レピダスの攻撃を受けた訳で、さほど離れた位置ではなかったはずです。
しかし、その姿はどうしても探し出せないのでした。山中で出会う旅人もおらず、尋ねることもままならぬことでした。
ほとほと疲れたソシウスは、あれは夢だったのだろうかと、自分に問いかけました。すると、西の山々に太陽が姿を消しそうになったので、アスペルはキャンプを張る準備を始めたのでした。
ソシウスも柴を近くの森からかき集め、日が完全に落ちたころには、赤々とたき火を燃やしていたのでした。アスペルは、持参した食材で、豆料理をつくり、息を尽かせたのでした。
旅の途中で訪問した庵の老人、ハレエレシスなる人物は、剣の所在はだれも見つけることは出来ないと言っていました。本当にその通りです。あの老人が言うように剣のほうから姿を現したのでしょうか。まったく分かりません。
あれは、山道からから離れた斜面にある祠でした。草が茂る白い神殿みたいなものでした。それ以前にもソシウスはその建物を見かけたことがありました。だとするとグレーティアが居なければならないことはありません。
しかし、何故だか見当たらないのです。悩んで、そのままソシウスは寝込んでしまいました。翌朝、朝日が東の山に登ると、ソシウスは背中を掻き、背伸びをしました。するとどうでしょう。草むらの中に白く輝く建物の一部を見いだしたのです。
ソシウスは目を擦り、朝日に照らされた、神殿のような建物を凝視しました。
「見つけたぞ。アスペル」
ソシウスは大はしゃぎ。寝ていたアスペルを起こすと、一目散に祠に向かったのでした。
「この建物で間違いないの?」
初めて見る建造物に、アスペルは興味津々でした。昨晩、キャンプを張る前には、このあたりには何もなかったはずです。それは彼女も確認してました。しかし、朝になると姿を現していました。まったく不思議なことでした。
「間違いない。これだ。その前に腹ごしらえしよう。中に入って長時間働かなくてはならない可能性もある」
「そうね」
二人は手早く、食事を済ますと、祠の入り口を目指したのでした。
入り口の大きな扉は、閉じたままでした。それは押しても引いてもびくともぜず、ふたりの侵入を防いでいました。
「前の時はグレーティアが魔法の力で、開けたんだが」
ソシウスもこれには困りました。
「この神殿は天后星のミュージカが作成したのよね、だったら私たちの持つパテリアの秘宝である羽根に反応するのではないかしら」
彼女は閃き、羽根をかざしてみると、扉は開きました。しかし、その先は二人が予想したものとは違いました。
壁とか床が、空虚な空間に浮かんでいるみたいな光景だったのです。
「俺が以前来た時は、普通の通路だったのだが、なんだこの不思議な空間は。危なっかしくて先に進めないぜ」
奇妙な光景に、ソシウスは躊躇しました。
すると、アスペルは猫のような、身軽さで、空間に浮かんだ、床や壁を飛び移っていったのでした。
「この程度は大丈夫よ。ロープを掛けたから、伝ってくると良いわ」
かつて怪盗として名をはせたアスペルにとって、造作もないことでした。
「しかし、この破片は変だわね。何者かによって壊されたみたいだわ。この霊廟自体が、この奇妙な空間の中に作られていたのね。壊されて外の様子が分かるようになったというわけかしら」
「こんなことが出来るとなると、妖魔か」
「その線はありだわ。あの聖剣は彼らにとって邪魔な存在。処分しに来たかもしれないわ」
「そんなことさせるものか」
二人はさらに奧に進んでいくと、平たい床の破片が散らばる地帯と到達したのでした。
「ここが大広間ね。見覚えある?」
「よく分からないが。この広さはあっただろう。聖剣が安置されていたのは、奧のほうだったと思う」
空間に浮かぶ、漂う床の破片に飛び移り、それらしき場所に至りましたが、聖剣は見いだせませんでした。
「やはり駄目ね。聖剣は持ち去られたと考えるのが良さそうね」
「一足遅かったか」
ソシウスは悔しがりました。
「聖剣は冥界に持ち去られのでしょう。ここは一端、古都に帰還し、皆の判断を仰ぎましょう」
そう彼女が言った瞬間、空虚な空間に、流れが生じたようでした。浮かんでいた建物は大きく揺れ動き、流されていったのです。
二人は破壊された建物の破片にしがみつき、振り落とされないよいうに頑張りました。
そのまま、どんどん流され、次第に暗い世界に向かっていったのでした。
そして、別の世界という岸に引っかかり、止まったのでした。
「とにかく陸地だわ。このままいたら、空虚な空間に取り残されてしまうわ。一端降りましょう」
アスペルの提案にソシウスも賛同し、二人は見知らぬ世界に、降りたのでした。
薄明かりの世界でした。洞窟のように涼しく、静かでした。
「何処だ、ここは?」
あたりを見渡し、道を探ろうとしましたが、岩が転がっているばかりでしした。
身の軽いアスペルは、そんな中でも軽々と走り抜け、風の流れを読み、大地の音を聞き、道をみいだそうとしました。
「こっちよ。この先から音が響いてくるわ。何なのかは分からないけど。脱出するヒントを得られるかもしれないわ」
彼女の目指す方向に向かっていくと、次第に大きな空間となって、その音は何かを建造するするかのような、音に変わっていったのでした。
それが、人為的な音であると確信するようになると、二人は身を隠すように前進したのでした。
「これは、いったい何かしら?」
岩陰から、アスペルは顔をだすと、様子をうかがいました。
そこには、巨大な城のようなものが、建造されており、多くの亡者が使役されていたのでした。
「ここは地獄だ!」
二人は敵地のまっただ中に、流されていたのでした。
「聖剣を探すつもりが、地獄でこんなものを見つけ出すとはね」
「ここは、危険だ。立ち去ろう」
ソシウスが、逃げることを提案しましたが、アスペルは違いました。
「これは恐らく魔法城に違いないわ。これで、私たちに攻める気だったのよ。この城をの乗っ取れないかしら」
「無茶を言わないでくれ」
ソシウスは悲鳴をあげました。
「原理はナティビタスと同じはずよ。どこかに制御室があるはずだわ」
そういうと、素早く飛び出て、岩陰を伝い、城内に潜入したのでした。まだ本稼働してなかったのが幸いしたといえました。
アスペルの、建物を登って行く姿は、黒豹のようでした。暫くすると、ソシウスが必死に追いかけている先で、爆発のような音がしたのでした。
彼は驚き、凝視すると、アスペルと妖魔が激しく戦っているのが、見て取れました。
慌てて、ソシウスは斧をひっさげると、救援に向かったのでした。
妖魔の繰り出す刀は、素早く、空気を切り裂いていました。アスペルも驚くべき早さで、動き回り、回避すると、反撃を試みていました。
ソシウスは、妖魔の背後から、襲いかかると、妖魔は間一髪で回避したのでした。
「驚いたな。ワルコの将が二匹も潜入しているとはな。ようこそ地獄へ。俺は妖魔七位、鋸解獄のカーサーだ。歓迎する」
「有り難うよ。ちょいと尋ねるが、出口はどっちだ?」
「なんだ、お前達は迷子か。なるほど、俺が魔剣グラディウスの残骸を、拾ってきた時に、ついでに祠を破壊したのだが、あれに乗って流れ着いたのか」
「そうか、お前が建物を破壊したのだな。聖剣は何処にある?」
「一度に二つの質問をするんじゃない。急ぎすぎなんだよ」
「悪かったな」
その言葉に、合わせるように、妖魔をアスペルが襲いました。妖魔は刀ではじき返すと、彼女の胴をかすめて、切りつけたのでした。
「聖剣はだなあ。お前達が来た空虚の海に投げ捨てたよ。あの剣は意思をもっている、地獄に置くには危険だし、かといって破壊はできない。だから部屋を破壊して空虚な海にぶちまけた。だれも回収はできないだろう」
「貴様!」
怒って、ソシウスは斧を振りましたが、妖魔は巧みに交わしました。するとそこまで戦っていた、アスペルは何か閃いたのか、全速力でどこかに向かったのでした。
「怖くなって逃げたのか・・・」
刀を止めて妖魔カーサーは、暫く静観していたのですが、その行く先が、祠の残骸の方だと気がつくと、嫌な予感がして、アスペルの後を追いかけたのでした。
ソシウスは、二人に取り残された形となり、慌てて追いかけたのですが。岩場を素早く走り抜ける二人には、追いつかず、その差を広げたのでした。
流れ着いた場所まで戻ったアスペルは、空虚の海がまだ冥界に通じているので安堵しました。彼女は、妖魔が聖剣は意思を持っているとの言葉に、閃いたのでした。神殿の扉が開いたように、パテリアの至宝の呼びかけに、応じてくれるのではないかと。
試してみる価値はありました。
彼女は、空虚の海に浮かぶ、建物の破片に飛び移ると、軽々と奧に進み、羽根をとりだしました。そうして紐で括り、一方は残骸に括り付け釣り糸のように、海に垂らしたのでした。反応はありませんでした。
そうこうするうちに、妖魔カーサーが追いつき、彼女の姿を見つけると、せせら笑ったのでした。
「なかなか良い発想だ。しかし剣が釣れるかは賭だな。一方、俺には僥倖だ。これでお前は、ワルコの鎧を纏うことができなくなった。鎧に付与された魔法を使われては、俺も命を落としかねなかったからな」
そう言うと、カーサーは空虚の海に浮かぶ残骸に飛び移ったのでした。妖魔は激しく彼女を襲い始めました。残骸から残骸へと激しく両者は飛び移り、電光石火の動きを見せていたのですが、次第にアスペルは追い詰められてきたのでした。動きが緩慢になり始めた彼女を見て、妖魔はとどめを刺そうと魔法を繰り出して来たのでした。ラ・トーレという禁断の魔法でした。
その瞬間、「アスペル!」と叫ぶ声が聞こえました。彼女が振り返ると、デュックが叫んでいるではないですか。彼女は目を見開き、声を上げようとしましたが、その時魔法の技によって消失したのでした。
妖魔は勝ち誇っていました。
アスペルを追って、地獄までやってきた、デュックは間に合いませんでした。彼は雄叫びをあげると、狂ったように、妖魔のカーサーに襲いかかりました。
カーサーはワルコの僕が三人も潜入していたのに、驚きました。しかし、デュックが理性を失って、羽の力を使わず、襲いかかってくるので、冷静になりました。
一息ついて、次は仕留めようとした時、背後に立つ気配を感じたのでした。
慌てて振り返るとそれは仲間の妖魔アエヌスでした。
「お前か、驚かすなよ。今まで何処に雲隠れしてたんだ、サボりは厳禁だぞ。ウーマーの奴がお冠だ」
「あの男を仕留めるつもりか?」
「当然だ、彼奴は敵だぞ。手出しは無用。俺一人で大丈夫だ」
次の瞬間、妖魔カーサーは、背中から胸に風穴を開けられたのでした。苦痛に顔をゆがめてカーサーが振り返ると、襲ったのは妖魔アエヌスでした。
「すまんな。今、彼奴を始末されては困るのだ」
「貴様、裏切ったのか!」
カーサーは倒れ込みました。
そこに、デュックが駆けつけて、その様子を見て、動揺したのでした。
「討ったのか?」
「しなければ、お前が始末されていた。ワルコの衣を纏い、魔法の技で、彼を始末してくれ。このままでは、私が裏切ったことが、知れてしまう。ワルコの技であれば自然だ」
仇が呆気なく始末されたので、デュックは理性を取り戻し始めていました。彼は羽根を取り出し、鎧を纏いました。そして禁断の魔法イル・ソーレで微塵にしたのでした。
悲しさがこみ上げてきたデュックは、彼女が最後に居た場所である、祠の残骸まで、やってくると、白い羽根に聖剣が集まっているのを見て、大粒の涙を流したのでした。
「命を賭けて、任務を貫徹したという訳か」
聖剣を拾い集めるデュックの姿を見て、アエヌスは感想をもらしました。するとそこにソシウスがやってきて、二人を見て目を丸くしてました。
二人が親しげに、立っていたからでした。
「妖魔!いやそれよりアスペルはどうなった」
暫くの沈黙の後、デュックは語りました。
「彼女は逝ったよ。これを残してな」
そう言うと、デュックは悲しみをこらえ、聖剣をソシウスの手に渡したのでした。
「何があった。あの妖魔は。それにお前が、この妖魔と親しげなのはなんだ?」
ソシウスは状況判断に苦しんでいると、いきなり妖魔アエヌスによって地上に引き上げられたのでした。元居た祠の入り口でした。
「彼女はもういない。どこにもな。彼女こそが、君らと俺をつなぐ架け橋だったんだ。これで、お別れだ」
そういうと、デュックは妖魔に連れられ、いずこかへと姿を消したのでした。
呆然とする、ソシウスの前に、空からゆっくりと、アスペルの羽根が舞い降りて来たのでした。それは白く純白に輝いていました。
翡翠記を随分長いことお休みしてました。
インターネットで動画なんかを見ていたりすると、小説を書く時間がなくなってしまうのです。出来なくなったのは小説だけではないのですよ、ゲームもぱったりです。
変わらすにゲームを買うのですが、1時間ほどやったあと、ぱったりとなります。
どうしたものですかね。
本は少々読みはしますが、小説類ではありませんね。
虚構に浸っている暇はありません。
そんな訳で、妄想の局地。小説作成なんかは、止まってしまうんですね。
ところが、正月連休で、仕事の疲れが取れたのか、なんか書きたくなりましてね。
一日部屋に籠もり、書き上げましたよ。
不思議なことに、一年もほったらかしにしていたのに、話の流れは覚えているんですよ。
読んだ本は忘れやすいものですが、自分が作成したものは、詳細に記憶しているものですね。
「小説は妄想力だ」
次回作品は、二ヶ月内にアップしたいものです。




