表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/88

第8回 町の防衛線

<登場人物>

ビルトス   主人公の師

グノー    主人公の兄弟子

グレーティア 主人公

プエラ    主人公の幼なじみの娘

レピダス   黒虎騎士団(銀弓のレピダス)

ソシウス   斧使いの大男(旋風のソシウス)



コンジュレティオ 軍総司令

ホスティス  ヘテロ国魔法宰相


 町を少し北にいった所に陣がありました。丘陵地の段差が発生しているところの高台に柵をもうけ迎え撃ちさらにここを突破されると町にて防衛する計画のようでした。平坦地が多く守りにくい地形でもそれなりに防衛に手だてを立てられるというものでした。

200人もの兵士が陣地を強固なものに作り上げていました。幾重にも張り巡らされた柵は怪物とはいえど簡単には突破できないでしょう。兵士達は来るべき戦いに備えて調練を繰り返していました。指揮とともに一斉に空を覆うほどの矢が放され地面に突き刺さり、逃れる場所などないように見えました。

 しかし強固に見える陣も弱点だらけでした。その第一が防衛陣の外側に回って突破されてしまうことです。平時の備えであれば長い防衛網を築くことが出来るのでしょうが、その時間的余裕もなくやもう得ない事でした。

「そう言えば名前を聞いてなかったな」

 ソシウスは馬から下りた男に話しかけました。

「こちらもな」

 男は切り返しました。

「なるほど、それはそうだ。俺はソシウス。そして相棒のグレーティアだ」

「グレーティアというのか」

 男は標的だった者の名前を知り、そこで自分のことを語る気になりました。

「俺はレピダス」

「なにか聞いたような名前だな」

 ソシウスは記憶の奥からなにかを取り出せなく不満そうな顔をしました。

「銀弓のレピダスと呼ばれている」

「なに!まさか」

 思わず斧を落としそうになりましたが、興奮気味にソシウスは叫びました。

「どうしてだ。黒虎騎士であるお前がここにいる。というより何故命を狙った」

 しかしそれには男は答えず陣内の一角を指しました。

「そこにいるのがこの町の軍務官だ。紹介するから大人しくしていろ」

 そう言うと二人を軍務官の前に連れてきた。

 軍務官は険しそうな顔で兵の配置について思索している真っ最中でした。人の命が彼の腕にかかっており、作戦のミスは多くの命を奪うことになるのでした。しかも一瞬で勝負は決しやり直しは利かないのです。町まで平坦地がが続くなかでこの場所は岡が張り出し怪物の群を集中させやすい所にありました。怪物が一点集中すれば少ない兵でも倒すことは可能でした。しかし陣の幅は狭くそこに集まってくれるのかが心配でした。だからといって広げて兵を分散させては意味がありません。陣の両先端から通過されてはこの陣そのものが無かったも同然になってしまう危惧もありました。(騎兵による追い込みも必要か)そう考えていたところレピダスが戻ってきたことに気が付いたのでした。

「その分では、だいぶお悩みのようで」

「その通り。頭がくらくらする。魔法使いでもいればいいのだが人間だけで怪物退治はしんどい」

「特効薬を持ってまいりました」

 軍務官は愉快そうにレピダスに顔を向けました。すると彼の後ろに大男と法衣を纏った子供が控えていることに気が付きました。

「それが秘伝の薬というわけか」

「お待ちかねの魔法使いです」

「その子供がか?」

 軍務官は悦ばしい気持ちと不安な思いが混じり合って、どう言っていいか言葉が出ませんでした。

「歳は若いですが、中級レベルの魔法が使えます」

「それは本当か?だったら使えるが。歳は10才を少し越えたぐらいだろう?恐がりはしないか」

「大丈夫です。以外と肝が据わっていて少々の事では動じません」

「しかし大軍を見ては怖じ気づく」

「既にケドルス200頭と戦い殲滅しています」

「まことか!」

 軍務官の顔が真剣なものに変わりました。

「このもの達は自らを怪物ハンターと称しています」

「怪物退治を生業としいるとはな。しかしそうなると報酬だが」

「それは大丈夫です。私との間に契約が成立しています」

軍務官はしばし目をつむり思索したあと、足早に作戦図に前に向かうと、黄色い駒を一つ取り上げ真ん中に力強く置いたのでした。この時作戦は魔法使いを中心に据えたものに変更となったのでした。


 陣が敷かれている丘陵の高台に三人はいました。陣より前は急激落ち込み、その先は平地で遠方まで続いています。その低くなった平地の中に狭い高台が孤島にようにあり、ここに魔法使いを置き怪物を迎え撃つ作戦でした。魔法の攻撃の巻き添えを兵士が食らっては馬鹿げたことでもあるし、そのほうが魔法使いも技が心配なく出せるからでした。兵士の役目は魔法使いが取りこぼした怪物を弓矢で殲滅することでした。この作戦は魔法使いの負担が大きく危険なため、それを想定して兵士による作戦にいつでも切り替われるようにされていました。ケドルスとの戦いにおいては相手が戦意喪失し八方に逃げてしまうことがないのが利点でした。それは怪物の性格が最後の一頭まで戦いを挑んでくるほど好戦的だからで、四散した敵を追跡したり陣地を大きく迂回して移動する心配を幾分しなくていいのでした。その代わりとして、集団での攻撃はすさまじく息を付く暇もなく戦わなくてはならないのです。

「ここが我々の持ち場だ。ご覧の通り孤立無援、周囲は怪物の群一色になるという寸法だ」

 草原の中に島のように盛り上がった山に立ちレピダスは案内をしました。

「本陣から放されこんな前に配置されるとはな。まるで生け贄じゃないか」

 疑いの眼差しをソシウスは向けました。

「特等席だと言ってほしいな。安心しろ俺も此処にいる」

「それでもこの島には3人しかいないんだぞ。大丈夫か」

「だから魔法使いがいるんだろ」

 レピダスは周囲を確かめていたグレーティアを顎で指しました。

 彼女は真剣な眼差しで周囲を見渡し、その距離を測っていました。

「ご覧の通り、窪地とはいえかなり広い。敵に散開されては魔法の技が届かないはずだ」

 心配していた事を男は指摘しました。

「中級の下位レベルでは遠くに技を放せないないのは仕方ないことだ。だが安心しろ幸いにもケドルスは仕掛けると逃げるどころか凶暴になって集まってくる。だから届かない心配は無用だ」

「馬鹿野郎、それじゃ俺達がますます危険てことじゃないか」

「怖いのか?」

 レピダスが嘲るように笑うとソシウス挑むように睨み付けました。

「問題なのは、そんなことじゃない。俺から弓で射られそうになったことでも分かるだろが魔法を使って次の魔法を出すまでの時間が長いということが最大の問題だ。一部の怪物を消し去っても、その間他のケドルスは距離を縮めてやがて間近に迫ってくるだろう」

 彼女は先の戦いで危機に陥り怪物の出現で救われた事を思い起こしました。たしかに男に言うように、単発的にしか技が出せず文を生成するのに時間がかかるのも事実でした。ビルトス先生は大勢の魔法使いを相手に並列的に技を繰り出すことが出来ましたが、そのようなことはまずは出来ません。上級魔法使いであれは遠くから広範囲に怪物を倒すことが出来ることでしょうが今の自分にはとても真似ができるものではありませんでした。

「この岡の周囲には壕と柵があり、ある程度のまとまった時間防いでくれるだろう。この間出来るだけ倒すんだ」

 グレーティアは小山の一番高い部分に立ち、それより一段低い所に右にソシウス左にレピダスが位置をとりました。

 背後を見渡すと幾重にも張り巡らされた柵の向こうにには弓を持ち構えた兵士が並んでたっていました。全ての人の目が前方岡の裾を此方に向かっているであろうケドルスの姿に集中いたしました。彼方から一頭の馬が陣に疾走し怪物が間近に迫っていることを報告しました。

そこにいる全ての者に緊張が走り、だれもが唾を飲み込みました。

 いよいよ怪物達の戦いが始まろうとしていました。


 この戦いの場所の小高い丘の上に少女は立っていました。心地よい風が髪とスカートをなびかせます。帽子を飛ばされないように右手で押さえると少女は屈託のない顔で満足そうに下界を見下ろしました。眼下にあるのは幾重にも柵で囲まれた陣地でした。その先端には離れ小島のように陣がありました。捜し物でも見つけたように軽く指さすと、敷布を広げて座りました。左手に提げたバスケットを地面に置くと中から飲み物やら食べ物を取り出しむしゃむしゃと食べ始めました。

 (私を置いていったバツよ)

 そうプエラは呟くと眼下の緊迫した空気とちがって暢気な様子で鼻歌だのを歌ったのでした。

「あ、来た来た」

 演劇が始まるかのように、舞台に登場した無数の群にプエラは大はしゃぎしました。ケドルスが蟻の群のように繋がって移動しており、遠くで見かぎり羊の群となんらかわりなく牧歌的な風景のなかに取り込まれていました。

「グレーティアがんばって」

 少女は豆粒の様に小さく見える姿に盛んに手を振りました。


 岡の上でこれから起こることに胸躍らせはしゃいでいるプエラとちがい、陣地の三人はまだ見えぬ敵に鼓動が高鳴っていました。

「いいか、岡に挟まれ奴らは密集した状態でこの草地に出てくる。町までの間には結構森があるのでなんとしてもこの開けた場所で仕留めてしまいたい。戦いはさほど時間を取らずに決着するだろう。すなわちケドルスの消滅か我々の滅亡のどちらかだ」

 レピダスの言葉が余計に緊張を引き起こします。この人も必死なのだとグレーティアは思いました。

そうこうするうちに岡のふもと付近の林からケドルスが姿を現しました。開けた草地に一頭が迷い羊のようでしたが、そうこうするうち森の中からどんどん湧き出てきてあたりはケドルスの灰色の姿で覆われてしまいました。

群は押し合いへし合いし狭くなった所を抜けると広い草原に広がっていきました。

「お出ましのようだぜ。半端な数じゃないな」

 ソシウスは背中に身震いのようなものを感じました。

 次第に近づいてくるケドルスの群。草地は灰色に塗り替えられいきます。

「たった三千頭だ。気にするな」

 レピダスが軽く言ってのけました。

「200頭に手こずっていたのは誰だった」

 皮肉をこめてソシウスは言葉を返します。

「なにこの魔法使いのお嬢さんが残り2700頭退治してくれるから大丈夫だ」

 到底信じていると思えない、不安を楽しんでいるかのようでした。当のグレーティアは何も語らず、増えつつある怪物の群を凝視したまま動こうとはしませんでした。まだ、怪物は魔法の射程からだいぶ離れているようでした。

「慌てるな、十分引きつけろ。最初の一撃が最大の戦果をもたらす。ここで出来るだけ仕留めるんだ。攻撃を受けた途端あいらはこちら目がけて疾走してくるはずだ」

 怪物は放っていたら何処までも増えそうで黙って見ていることは、衝動を抑えることに必死にならざるえを得ませんでした。

暫く沈黙は続き、遠くでケドルスの鳴き声が塊になって響いてまいります。

その静寂が破れて草原に一条の雷光が突き抜けると群の真ん中が消し飛びました。グレーティアの放った最初の一撃でした。

ケドルスの群の中、肉片が飛び散り他の怪物の体に降り注ぎます。それにより群は狂喜に満ちたものと変身しケドルスのけたたましい声が響きわたりました。小石を投げ込まれた魚の如く、群は一斉に動き出し地響きとともに激しい勢いで迫ってまいりました。

静から動への一瞬の群の変化でした。

「よし、今ので500頭は仕留めた。一気に倒すぞ」

 レピダスは興奮気味に叫びました。

 戦いの火蓋を切られました。迫り来る怪物の群に幾度と無くグレーティアは攻撃を仕掛け群の数を削り取って行きました。しかし、最初の一撃と違って怪物は散開しており一回に倒せる数も減っていきました。しかも怪物は仲間が次々に砕け散って行くというのにお構いなく闘争心は衰えることもなく、むしろどんどん凶暴になっているかのようでした。血の匂が怪物を刺激しているようでした。

 拡散し迫りつつある敵に彼女は雷撃を拡散して放しました。小さく散らばった雷撃は多くの怪物を捕らえましたが、明らかに威力は落ちていました。雷撃は骨を砕く事もなく激しい勢いで怪物を貫き、体から煙を吐き出させました。焦げるような匂いが辺り充満し、ケドルスは疾走姿勢のまま地面に転がり落ちました。そして周囲の怪物は体が痺れたようになり緩慢動きをしていました。

 此処までの戦いでケドルスは千頭は姿を消していました。しかし残り三分の二を残して陣地まで到達させてしまい1千はグレーティア達の陣を目指し、もう一千はその背後の兵士達の陣目出して突入しました。

ケドルスは陣地にとりつくやいなやレピダスは弓をもってこれを迎え撃ちました。彼の背後には沢山の矢が揃えてあり、限界まで放すことができたのでした。

 レピダスの矢は驚きべき早さで放されました。矢を放した瞬間次の矢がつがえられ途切れることなどなかったのです。しかもその放された矢はケドルスの眉間を的確にとらえ勢いよく走り込んだ怪物は目を見開いたまま次々に崩れ落ちたのでした。

「突破されるぞ。背後の陣に向かった奴を何とかしてくれ」

 レピダスが弓矢を一瞬止めて指示をいたしました。

 通り過ぎたケドルスは兵士200人が守る陣地を強襲しはじめてり、ほどなく到達するところでした。そこを守る兵は総数200といっても半数が臨時の兵で修練度は極端に劣るものでした。柵がある程度防いではくれますが、兵士が恐怖心によって崩壊しはしないか心配でした。弓は一斉掃射で何頭怪物をとらえるかまったく読めません。

 この問いにグレーティアが出した答えが弱い雷撃でした。

ただし一群を全てを捉える極端に拡散した雷撃でした。

ケドルスの群は勢いを落とし体を痙攣させながらヨタヨタと歩きました。先鋒の一団が速度を落とすと背後からきたものは行く手をふさがれ極端な密集状態が出来ました。

このことが分ていたのか、一斉に陣内から矢は放され空を埋め尽くしたかと思うと落ちて群れの中に雨の様に降り注いだのでした。

「これで半数は倒したはずだ」

 その言葉は僅かな希望をもたらしましたが、陣の柵を破壊しながら怪物達は鼻息も荒く次々の押し寄せて来たのでした。

壊された柵を伝って怪物は高台に登ってきました。それを待ち受けたかのようにソシウスは仁王立ちで待ちかまえていました。

柵を飛び越えて侵入してきた三頭の怪物は旋風が走ったかと思うと首と胴体に分かれて地面に落ちました。

しかしこれで終わりではありません。次から次へと新手は登場してくるのです。それでもソシウスは息もつかぜすケドルスを切り伏せ辺りには怪物の屍が累々と積み上がり、返り血であたりを真っ赤に染めたのでした。血が幾層にも降りかかり彼の服は血糊でべたつきしたたり落ちていました。

 一方弓を使って倒していたレピダスも敵が柵を壊し目前にせまってくると獲物を双頭槍に持ち替えました。この獲物は接近戦を得意とした槍です。怪物が侵入してくると縦横無尽の動きにて次々刺し殺して行きました。

 鬼神のごととくの二人の働きでしたが、かれらはあくまでも魔法使いの護衛が主たる明務であり、怪物退治の全ては頂上にたつグレーティアにかかっていました。

彼女も持てる力の全てをだして魔法の呪文を唱えたのですが、怪物の動きは早く想像通りにかなり追いつめられていました。やむなく初めての試みで呪文を並列して放つことに試みました。不完全に放されたいた魔法は次第に形を整え少しずつケドルスを押し返し始めました。四方八方に放された魔法は怪物のみならず地面に後を刻みながら、辺りを粉々にうち砕きました。地面には魔法の爪痕と砕け散った肉片が散乱していました。

ケドルスは次第にその頭数を減らし残るは300頭。

動きが鈍くなった怪物めがけ200人の兵士からの一斉掃射がありました。

ここに魔法使いは一撃を与え全てのケドルスを消滅させたのでした。

 兵士から歓喜の声があがり、嬉しさのあまり飛び跳ねてました。

ソシウスとレピダスは限界まで戦い、全てが終わったことを知るとその場に崩れ落ちました。短い時間の戦いのはずが何時間も戦い続けたような疲労感が体に襲います。

グレーティアはというと短い間に極度の緊張と精神の集中力を強いられ、それから解放されたかと安堵の表情を浮かべ地面にへたり込みました。

 周囲を見渡せば緑の草地だったところは、陣地を中心として放射状に地面がめくれ上がり地肌を覗かせ、怪物の粉々になった肉片があちら此方に散らばっていました。背後の陣地の前にはケドルスの死体が帯状に横たわり無数の矢が突き刺さっており兵士が死にものぐるいで戦ったことがわかりました。グレーティアのいる陣地の回りには切り刻まれバラバラになった死体が転がりそこから流れ出た血は合流しあい小さな流れを作って下手に流れていました。

 辺りに静けさが戻り兵士達がまだ息があるケドルス留めを刺そうと陣から出ようとしたときでした。

岡の麓より響き渡る怪しい足音。

空気を振るわして響いてくる低い音は危険なものが近づいてきたことを予感させました。再び陣内の緊張が走り兵士達はその音の方向を凝視いたしました。やがて林の中から現れてきたのは馬二頭を横並びにしたような大きさの怪物でした。

 この突如の出現に中央で指揮をとっていた軍務官は指揮棒を落としてしまいました。

「あれは、カッタではないか。報告は受けておらんぞ」

 軍務官は自体の急変に狼狽えいらだちを隠せませんでした。

「先の偵察では、そのようなものは警戒エリアにはいませんでした。まさに今ここに出現したとしか思えません」

「そのようなことがあるものか。我々は対ケドルス用の防御陣を構築したのだぞ。それがあれに通用すると思うか」

「弓の一斉攻撃を加えれば」

「カッタは表面を堅い皮膚で覆われている。矢など通用しない。しかも重量があるので柵など踏み倒していくであろう」

「ならば槍で」

 ここで軍務官は何かを思いだしたように、明るい表情を取り戻しました。

「儂としたことが魔法使いの存在を失念していた。あの魔法使いの小僧は無事か?」

「はっ。レピダス殿が守りきられたようです」

「よし、作戦の継続を旗で報せろ。我々は投げ槍にて応戦だ」

「偵察部隊は他に怪物の存在がないか調べよ。それから早馬にて町にカッタの出現を報せるのだ」

 矢継ぎ早に軍務官は指令を出すと自らが槍を手にしたのでした。


 林からその後怪物は姿を表しその数20頭あまり、ケドルスと比べその数は少ないのでした。

「今度のは数が少ないな」

 ソシウスは安堵の声をあげました。

「カッタはケドルスを食用としているんだ。甘く見ると殺られるぞ」

 レピダスは厳しく戒めました。

「すると、この死体の匂いを嗅ぎつけ集まったということか?」

「のようだな」

「だったら死体の後始末お願いしたらどうなんだ」

「お前その後どうする」

「何処かにこいつら消えるんじゃないのか」

「次に近い餌場は町だろうが!」

 レピダスはソシウスの安易な考えに怒りを覚えました。

「もう一度戦わなくてはならないようですね」

 二人の会話を聞いていたグレーティアは決意を固め立ち上がりました。

 彼女が見つめる先には地面を叩き、低い地響きをさせ迫り来るカッタの姿がありました。その姿は平原を疾走する岩のようでした。

「こん度の奴は散開する恐れがある。俺は馬で彼奴と戦う。お前達はここで戦え」

 そういうとレピダスは足早にグレーティアのいる陣地を離れていきました。

「大丈夫だグレーティア。今度の奴は数が少ないから俺達で十分さ」

 全身血で真っ赤なソシウスは陽気に笑いました。


 砂煙を上げて20頭は草原を走り抜けます。やがてケドルスの死体に辿り着くと貪るようにそれを食らいました。大きな顎に鋭い牙で噛みつかれた死体は骨の砕ける音とともに食いちぎられ形を変えていきました。カッタ達の食欲旺盛な姿に兵士は恐怖心で固まってしまいました。

 陣近くで重なって倒れたケドルス食らっていたカッタは周囲に人の大きな叫ぶ声がして顔を上にあげると無数の槍が飛んでき、体を突き刺したのでした。

二頭は苦痛の叫びをあげると、夢中で食らいついていた仲間は動きを止め仲間の異変に気が付いたのでした。18頭が呼応するように雄叫びをあげ怪物達は仲間を傷つけたとものに対しに怒りの炎を燃やしました。

 カッタの動きはそれまでとは一変し素早い動きで陣にせまり一気に柵を破壊したのでした。恐怖のあまりに逃げ出す兵士たち。

兵士は怪物に踏みつぶされ 槍は牙でへし折られてしまいました。


 グレーティアは敵意なく分散し死体をあさっている怪物をどう倒したらいいか悩んでいました。襲ってくるわけでもないし食事をしているだけの存在に争いを仕掛けるということは後ろめたい感じがしたのでした。でもその迷いをうち消すかのように突然人間側から戦いの火蓋は切られ、カッタののんびりとした様子は一変し怒り狂った猛獣と化していました。その巨体に反して動きは早く柵は軽く粉砕され陣内に簡単に侵入されたのでした。兵士が襲われる姿をみた彼女は雷撃を放すとカッタは上半身を砕かれ大きな音を立てて崩れ落ちました。さらに一頭が陣内に侵入を試みたので技を放すとそれは体を砕かれの前後の一部をを残して坂に転げ落ちました。

しかし雷撃も兵士達を叩きそうで陣地に向けて放すのは躊躇されました。怪物に陣内に侵入されては手の施しようがありません。

 そのとき陣に集まったカッタの近くを走りぬける姿がありました。レピダスでした。

疾走する馬の上からレピダスが矢をつがえ放すと、怪物の体に突き刺さりました。

通常では堅い革に阻まれ矢は通じないはずなのですが、正確な腕を持つレピダスは可動部分の僅かな隙間を狙って当てることができたのです。

 自分たちの回りを走り回るレピダスに怒りを顕わにした怪物は陣内の兵士を忘れ彼を追いかけ始めました。草原を疾走するレピダス。彼の背後には十数頭のカッタが全速で追いかけています。レピダスは背後に向けて矢を放すと、それは目を射抜き一頭が脱落しました。さらに放すと鼻先を射抜き怪物は逃れていきました。

 円周を画きながらレピダスは走り抜けると怪物は一つの集団となってきました。ここでグレティアはレピダスの意図を悟りこの一団に雷撃を放しました。5頭あたりが粉々に吹き飛び残りは追うことを止め四散しました。

レピダスは反転し馬上から怪物の目を狙って射抜いていきました。動きの鈍った怪物めがけ雷撃を放し一頭ずつ倒していくと残りは四頭ほどとなっていました。

しかしこの三頭のむかった先は陣地の翼の先でここに防御陣はありません。慌ててグレーティアが遠目ながら技を放すと一頭は仕留めたものの二頭は逃がしてしまいました。

さらに一頭は逆に陣地に突っ込み柵を壊し兵士を薙ぎ倒し混乱を巻き起こして去ってしまいました。

三頭が逃れた方向が町だったのでレピダスはあわてて後を追いかけました。

「どうやら三頭逃がしちまったな」

 今回は傍観するだけだったソシウスは言いました。

「町の方向に逃げたようです。プエラが心配です。直ぐ追いかけましょう」

「まてまて、ここは俺の出番だ。お前が人前に出ちゃまずいぜ。倒して置くからゆっくり帰ってこい」

 そう言うとソシウスは足早に去ると馬にまたがりレピダスを追いかけました。


 レピダスは馬を疾走させ逃げたカッタ追いかけました。怪物にとって魔法使いは天敵みたいなものです。そこから離れるのは自然の理ともいえました。しかしよりによって逃げた方向が町の方向とはいささかいただけませんでした。町までの道にはいくつもの林はあり視界が開けてきません。このまま見失ってしまうのではと危惧していたところ林を抜けて田畑の広がる地帯に出ました。左をみるとあまり遠くない位置にカッタを発見しました。

しかし同時に町は目の前で緩やかな斜面を下っていくと到着してしまいます。急ぎ追いつき行く手を阻み侵入を防がなくてはなりません。町の防御もケドルスを想定して弓主体であったので町の戦力を期待は出来ません。しかも兵士や屈強な男は前戦にいて町には戦闘に不慣れな者やら老人や女子供といったものばかりなのでした。

しかしカッタの速度は早く、追いつき攻撃を加えるには十分な時間はありません。もう町まで間近です。やもうえず背後から矢を放したものの怪物の皮膚に弾かれ効果はありませんでした。こうなると接近し双頭槍で直接頭に突き刺して殺すしかありません。

全速力で追いかけやっと怪物の横に並んだときは町の門の前でした。

 カッタの一頭に狙いを定め接近すると怪物も疾走しながら鋭い牙で襲いかかってきます。それをかわし力一杯槍を振り下ろすと頭部の硬質の皮膚をうち破り見事に突き刺さりました。カッタは前足を崩し巨体が地面を転がりました。

レピダスは一頭を始末し次の二頭を狙おうとしたところ、敵は門の中にはいり一歩及びませんでした。

その瞬間、地面が崩れレピダスは勢いのついたまま馬から放りだされたのでした。馬が足をとられたのはケドルス用の罠でした。町の周囲にはトラップが施されておりこれにかかってしまったのでした。レピダスの体は宙を舞い穴に落ち、そこに仕込まれた尖った杭によって体を貫かれたのでした。そのままレピダスは杭に刺さったまま宙づりのまま動けなくなったのでした。

 町の門の上からこの様子を見ていた者が慌て助けようとしましたが、町に侵入した二頭によって守備隊は混乱にいたり彼は忘れ去れました。


 ソシウスが町に到着したときは町から逃れる人々の姿がありました。手に何も提げている訳でもなく身一つで郊外に移動しているので、町の中に怪物が侵入したのだと悟りました。門の直ぐ近くには怪物が横たわったおりまずは一頭いなくなったことは確実でした。門を走り抜け町の中に入ると、家々が破壊され食い殺された人の一部が転がっていました。レピダスの姿がないので不審に思ったのですが、家々から火の手が上がっていたので事態は急を要すると判断し怪物の姿を追い求めました。人が逃れる方向に逆らってさらに馬を進め町の中心部の広場に辿り着くとそこを徘徊する二頭を発見しました。

(残ったのは二頭か。すると彼奴は食われちまったのか)

 馬から降りて大斧を肩に担ぎ広場の反対の端から大股で堂々と怪物めがけ歩を進めると、カッタもケドルスの血で真っ赤になった男の存在に気が付きました。二頭の怪物は獲物の匂いに首を起こすとうなり声を上げました。

 二頭は起きあがると左右に別れゆっくりと間合いをつめてきます。

(なるほど大きさとしてはジェヴォーの二倍といったところか。その堅い皮膚がご自慢だというわけだな)

 ソシウスは不敵な笑いを浮かべて大地を踏みしめ闘気を燃やしました。誰もいない広場には二頭と一人がにらみ合い、戦いの始まりを待っていました。

一陣の風が吹き洗濯物らしき布が広場を舞うと戦いの火蓋は切られました。

二頭が一斉に左右から挟むように疾走します。公園の敷石は重い重量に変形し、怪物び足跡を残しました。怪物は大きな体をぶつけてきましたが、ソシウスはそれをかわし斧をすくい上げると怪物の腹は裂けはらわたが外にあふれ出ました。一頭の動きが止まり威嚇の行動をしました。かまわずソシウス突進し牙をむいた顔に跳躍すると怪物の額を真っ二つに切り裂きました。怪物の重いからだが崩れるように地面に倒れました。残った一頭は強靱な顎で何度もソシウスを襲い彼を近づけさせませんでしたが、出した顎を少しずつ斧で切り刻みでいったので嫌がって前足で踏みつけようとしました。するとソシウスが素早く懐深く侵入すると、右前足可動部分を振り抜くと革を残して足が断ち切られてしまいました。前足を無くし怪物は前に倒れると、待ちかまえたようにソシウスは首を断ち切ったのでした。カッタの首から吹き出す血によってソシウスの体はさらに真っ赤に染められました。

 戦いは終わりました。ここで彼は戦いに継ぐ戦いでかなり疲労していることに気が付きました。戦いの緊張により忘れ去っていたものが一気に甦ったようです。

顔を濡らしているのは汗ではなく血でした。体がべたべたして気持ちがよくありません。

ソシウスは噴水までやてくると思いっきり池に飛び込み体をごしごし洗い始めました。気持ちよく浸かっていると家の窓がおそるおそる開かれるのがわかりました。怪物に声がしなくなったので怪しみ様子を窺っているのでしょう。やがて家の入り口から人々が外に出てまいりました。ずぶ濡れの服を着たままソシウスはその場を立ち去りました。背後では人々が動かなくなった怪物をおそるおそる確かめていました。


 宿屋に行ってみるとプエラの姿がありません。まさか逃げ遅れたのではと狼狽えソシウスは町のあちらこちらを探したのですが見あたりませんでした。もしや郊外に逃げたのではと慌てて門のところに行き、それらしい姿を追い求めたのですが見いだすことは出来ませんでした。どうしたものかと頭を抱えていると罠の穴が目にはいりました。

使われたような後があったので、怪しみ近づいて覗き込んでみると無惨なレピダスの姿をがありました。

 遺体でも引き取るか、と穴に降りてみると微かに息を感じることが出来たのでした。杭に貫かれこれでは助からぬであろうと分かっていましたが医者を求め町を訪ね歩きやっのことで医者探し当て罠のところまで連れて来たのでした。

 しかし杭が背中から貫通しまだ生きている事自体が不思議なことである医者は残念そうに言い、杭から抜き取って助けてみたものの出血は酷く手の施しようがありませんでした。

医者はまだ助かる希望のあるものを求めてその場を去り、ソシウスはせめて木陰の涼しいところで最後を迎えさせようとレピダスを運んでいったのでした。

 水を求めるレピダスに椀に水を汲み与えると、この男を自分は殺そうとしたのだなと思い起こしました。憎むべき敵ではあったものの人のため無謀な戦いを挑む心には畏敬の念が起こりました。

 ソシウスがレピダスの死を看取っていると遠くから彼の名前を呼ぶ声がしました。盛んに手を振っている陽気なプエラの姿がありました。まったく怪物騒ぎはなんのその、もしや郊外に花摘みでも出かけていたのではと疑わせるほどの脳天気さです。その近くにはグレーティアが一緒にいて何故かバスケットを持っています。何処かで合流したのでしょう。二人を捜す手間が省かれたようなものです。しかしこのまま見たら少女達が郊外にピクニックに行った帰りみたいに見えます。グレーティアがあれだけの活躍をしながらお礼の言葉一つもらえないのはなにか不憫に思えました。もっともその方が此方とは好都合。怪物を倒した魔法使いが、この娘であったと気が付くものは誰もいないというものです。

周囲を見渡せば怪物が退治された情報は伝わり、町から逃れた人々が舞の戻って来ていました。この人の流れにのれば、逃亡者は姿を隠せるというものです。それにこの事を知る人物は虫の息にありました。


 グレーティアは無惨な姿のレピダスに驚きの顔を隠せませんでした。命を狙っていた男に真から心配するとはソシウスにとって馬鹿げたことでしたが、救う手だてについて相談する彼女に真顔で説明するしかありませんでした。既に医者を連れてきており匙を投げられたことを告げると彼女は次第に色を失っていくレピダスを哀れそうに見つめていました。

 その沈み込んだ表情にソシウスは暫くなにも言えないでいましたが、気を取り直そうと声をかけようとしました。その時グレーティアは何かを思いだしたようにポケットを探るとクリスタルを取り出したのでした。

 それは女魔法使いのアビエスからもらったクリスタルでした。今がこれを使うときであると彼女は思いました。

「それは滅多に手に入らないものだぞ。いいのか?助けたことが仇になって帰ってくるかもしれないぞ」

 ソシウスは念を押します。でも彼女の決心は変わらず、それを使うことになんのためらいもない様子でした。

 レピダスの胸にクリスタルを当てると、彼女は解放の呪文を唱え封じ込まれた力を呼び起こしました。クリスタルから放された光がレピダスを覆うと大きく開いた傷口にどんどん光の粒子が入り込み形をなしてきました。それに従って彼の顔色も赤みを帯びたものと変わって行きました。三人はその光景に見とれ、攻撃魔法とは対極にある技のすばらしさを実感しました。やがてレピダスを覆っていた煌めきは数を少なくしていきやがて消失いたしました。それと同時に胸にあったクリスタルは役目を終え砕け砂粒のようになって大地に帰っていきました。

 レピダスの杭に貫かれた傷跡は何処にも見あたらず、つい先ほど死の淵にあった者であるとは到底思えないものでした。やがてレビダスは眠りから覚めたように起きあがると複雑な顔をして彼女を見つめたのでした。

「俺は敵の筈」

 レピダスは言いました。

「のようですね」

 そっけなく彼女は答えました。

「これで三度目だぞ」

 どうして良いのか分からないように、レピダスは首を振ると立ち上がりました。少しよろめいて右手を木に添えて体を支えると背を向け歩き始めました。

「礼は言わない」

 そう背中越しに言うと顔を合わせないまま林の方に去っていきます。その背後からソシウスは呼びかけたのでした。

「約束の報酬は忘れるなよ」

 男は背中を向けたまま右手を挙げると笑って林に消えていきました。


 漫画を描く時の脳と小説を書く時の脳の使う場所というものは違うようです。

小説を書くときは元気な時でないとへたばってしまいますが、漫画の場合小説で疲れた後でも案外描けます。やはり小説と言うものはお手軽なようでかなり難しいものではないかと思います。

小説と漫画どちらがお手軽に書けるかといったら「漫画」ですかね。


 漫画では最初にネームという下書きがあって、この時点で漫画の全てが決まってしまうのですが(その後のペン入れは清書みたいなもの)同様に小説の場合も推敲して完成させていくというのがまともな書き方というものでしょう。しかし、この翡翠記は全ての過程をはぶいていきなり完成となっているのでかなり荒い作りといえます。

 読み直して、書き換えれば少しだけ良い作品になるものなんでしょが、文章力がないのでこの訂正が出来ないので結局そのまま投稿しちゃってます。

 さて次回は敵のボスが一寸だけ登場します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ