第79回 パテリアの至宝
<登場人物>
グノー (勾陳星 エピストローペの)主人公の兄弟子 魔法使い
メディカス (太常星 酔遊仙の)僧侶防御魔法、治療魔法、躰術
ホーネス (玄武星 神槍の)スカラ国戦士槍の使い手
レピダス (青龍星 銀弓の)黒虎騎士弓、双頭槍の使い手
デュック (貴人星 斜行陣の)元宰相の子参謀、双鞭の使い手
アスペル (太陰星 黒豹の)女盗賊スリング、手裏剣、メイスの使い手
ストレニウス (白虎星 重戦車の)赤鬼騎士双手剣の使い手
ソシウス (六合星 旋風の)斧使いの大男バトルアックスの使い手
エコー (天空星 鎚人馬の)ヘテロ青竜騎士風の魔法使い、ヴォーハンマー
フィディア (天后星 譚詩曲の)芙蓉記伝承者竪琴
グレーティア 主人公
プエラ 主人公の幼なじみの娘
ビルトス 主人公の師(本名ダーナ)
デスペロ 魔法宰相
コンジュレティオ 軍総司令
紀朱王 パテリア国国王
芥子菜王妃 パテリア大国王妃
歴山太子 パテリア大国王子、嫡子
那破皇子 パテリア大国王子
蘭公主 パテリア大国王女
ウーマー デスペロ配下上級魔法使い
ウレペス デスペロ配下上級魔法使い
プロディティオ デスペロ配下上級魔法使い、那破皇子支持者
セラペンス ビルトスと死闘した上級魔法使い
ペコー セラペンス配下
カエルリウス ベロックスに負けた政府の一級魔法使い
コレガ 黒虎騎士、レビダスの友
ソダリス 黒虎騎士、レピダスの友
ブバルス 赤鬼騎士団団長
ファコス 赤鬼騎士
クラデス 赤鬼騎士
ガイウス将軍 先鋒 旧政府反乱軍の南下を阻止
エレミアス将軍 知将 ヘテロ戦で窮地を救う
ペラギウス将軍 猛将 勇猛果敢な武将
ティモティウス将軍 多数の敵将を倒した実績有り
ユリウス副将 総司令の息子
アラヌス 将軍 最古参の将
カズパルス将軍 元親衛隊
ヘンリクス将軍 防御が強い軍
レオポルドゥス将軍 重騎兵軍
スプリウス将軍 勇猛な将
プロクロス将軍 混成魔法軍
ヨハネス将軍 軽騎兵軍
ドルスス将軍 猛将
ゲラシウス将軍 混成魔法軍
ヴィクトル将軍 純粋魔法軍
ホスティス ヘテロ国魔法宰相
ベロックス 青竜騎士団長
ローサ ホスティスの養女
チューバ 白狼騎士(ローサの警護係)
トラボー 反乱軍首魁
ハレエレシス 反乱軍参謀、ブルマの乱首謀者
フィデス トラボー配下魔法使い
ファルコ トラボー配下武将
アミコス 反乱軍参謀、竪琴の使い手、元魔法省官吏
ファクルタス 反乱軍魔法使い、ブルマの乱生存者
アルゴン 反乱軍武将
オティス 反乱軍武将
ホルディウム 反乱軍財務
センド公 元領主
アビエス センド公に仕える豊穣の魔法使い
フレイト グレーティアの兄
クリプトン 前宰相の長子、ドムス家当主
ケミクス ドムス家の三男
クプルム ドムス家の五男
オリス 怪物ハンターリーダー
ベル オリスの仲間若年
ウルムス オリスの仲間、剣士
モータ オリスの仲間、風の魔法使い
ドクトリ オリムメガラの魔法使い、古代魔法を復活させようとしている
ゲオルゲ デュックの後見役、配下
アウダック 反乱軍首領(鎮圧される)
アクイロ 元政府所属魔法使い
モリウス アクイロの息子
コンスピロ 那破皇子の世話役
クロレア 蘭公主のお世話役
トリス ストレニウスの父親
ソロア ストレニウスの妹
ビリー ストレニウスの兄貴分
マリラ ビリーの妻
アビア フィディアの祖母
イーリス ストレニウスの妻
ニガンダ グノーの弟子、魔法使い
カリディアス ルミエ知県,行政長官
ガナイ カリディアスの養子
サンテス カプットの知府(行政長官)
ローム ナティビタス知府
マリタ ロームの妻、デスペロの娘
バリダス 虎の爪首領
モルタリウス 虎の爪序列2位
タブラス 虎の爪序列3位
テルパ 虎の爪序列19位 上級(下)魔法使い
ムルコ 麻薬組織の防御魔法使い(ウルマの兄)
ウルマ 麻薬組織の防御女魔法使い
スパーバス ベラ家家長、魔法属性の武器使い
ツタメア スパーバスの妻、幻術使い
ラバックス ペラ家長男 高利貸し
オディーマ ベラ家長女、幻術使い
アクセンド ベラ家次男、魔法属性の武器使い
ミケーネ アルマロス
ゼノビオス アルマロス
シャヘル 冥界の王 十人の妖魔の主
ウーマー 妖魔一位(抽腸獄 月光の)宰相の配下
コスタ 妖魔二位(穿肋獄 ミトラの)死者を甦らす
ハスタ 妖魔三位(針山獄 一角獣の)ホーネスの宿敵
アエヌス 妖魔四位(焼手足獄 セルヌノスの)ローサ陣営の妖魔
ラング 妖魔五位(抜舌獄 魚色の)大蛇に乗る
ベネノ 妖魔六位(毒蛇獄 美粧蓮歩の)女性、二匹の獣を連れる
カーサー 妖魔七位(鋸解獄 紅蓮刀の)巨像に乗る
グラッシス 妖魔八位(寒氷獄 黒海馬の)怪鳥に乗る
ベナ 妖魔十位(血汚獄 サキュバスの)意馬心猿の術使い
パテリア国最大の貿易港フォルムに、東方より船が着きました。
ラウド海を渡ってきたその船は、巨大な貨物船で、外海の荒海に耐えうる、丈夫な竜骨をもった船でした。大きな白い帆には、船主の波打った家紋が描かれ、マストからは沢山のロープが張り巡らされていました。
船は、倉庫群の近くにある桟橋に、ゆっくりと近づき、船上では、接岸しようと船員が慌ただしく、動き回っていました。
その甲板には、一人の若者が、物珍しそうに、港の様子を眺めていました。
若者の名はニガンダ。師匠のグノーが妖魔の技によって、動けなったため、替わって、此の地にやってきたのでした。
彼にとって、この様な港は、旅の中で何度も訪れたことがあり、珍しい物ではありませんでしたが、彼を非常に興奮させたのは、ここが、彼の旅の目的地だったからでした。
ニガンダは海風を浴びて、大きく息を吸うと、満足げに息を吐いたのでした。
「ここが、先生の故国パテリアか」
若者の目には、パテリア国の建物が、異国情緒を感じさせたのでした。
港の一角にパテリアの旗がはためいており、その下に目を向けると、珍しいパテリアの服装の人々が、沢山往来しているのが見て取れました。
「なんと、魔力が強い国だろう。この国に近づくに連れて、力が漲ってくのがわかる」
ニガンダは掌を見つめ、ほとばしる魔力に、魅了されていました。
「先生が申される様に、ここは魔法世界の中心。此の地であったならば、先生も妖魔に苦戦することもなかったはずだ」
ニガンダは口惜しそうな、顔をすると、自分に与えられた使命の達成を誓うのでした。
彼の目的は、パテリアの至宝を、ワルコの下に届けることでした。彼の師のグノーは、世界に散らばった、至宝を探し求め世界を長年の渡り旅をして、やっとのことで、揃い集めのてのでした。そして、その大事な物を、弟子のニガンダに託していました。
ニガンダは至宝が入ったた箱を大事に、守っていましたが、彼自身は秘宝と言われるものが、なんであるかは、全く分かりませんでした。しかし、それが、大きな力を秘めているというのは、何となく感じていました。
彼は、船を下りると、検問所のところに向かいました。乗っていた船が貨物船だったせいもあり、一般船の入国管理をしている場所までは随分と離れて居ました。やっとたどり着いてみると、審査待ちの人々が列を作っており、ニガンダはため息をつくと、観念したように、荷物を地面に置いて、自分の番を待ったのでした。
パテリアの検問は、出国に厳しく、入国は甘いと聞いていたので、彼は簡単に済むと思っていたのでしたが、かなりの間待たされ退屈してました。やっと彼の番になると、役人は怪訝な顔で、彼を見つめたのでした。
「お前一人か?」
「そうですが。何か?」
「若造が一人でパテリアだと。誰かと一緒だったのか?」
「え、まあ。師匠とでしたが・・・」
面倒くさいなと、ニガンダは無愛想にしました。
「それで、その師匠は何処だ」
「東の国です。そこから先は俺一人で来ました」
「なるほど、師匠はどうかしたのか?」
「師匠は旅が出来なくなり、替わって俺がこの国に使わされました」
役人は、事情を飲みこみ同情して、ニガンダを早々に検問を通過させようとしましたが、もう一人の役人は、任務に忠実でした。
ニガンダに、荷物を置かせると、手荷物検査を始めたのでした。衣服と干物以外なんにもない袋でしたので、直ぐに終わるはずでしたが、役人は袋の底に、箱を見いだしたのでした。
「この箱はなんだ!」
役人は箱をわしづかみすると、ニガンダの目の前に差し出しました。
「届け物の箱ですが?」
「何処で盗んだ!」
役人は怖い顔で、ニガンダを睨み付けました。
「俺は盗人なんかじゃない」
「ならば、お前の師匠とやらが、盗人に違いない。この箱をもって、仲間の所に向かうつもりだったな」
「いったい、如何したのだ?」
もう一人の役人が、同僚が興奮して、若造を問いただしたので、心配して止めに掛かかりました。
「これを見てくれ、王家の紋章だ。これは王家の財宝に違いない」
指し示す、箱の表面に、確かに王家の紋章が施されていました。
役人は困惑した顔をすると、若者に優しく話しかけました。
「坊主、これは、王家の物だ。普通の者が持てるものではない。知らずに持たされていたのであろう。師匠が何者であるか知らぬが、今回はお前を見逃してやろう。ただし、この財宝は没収だ」
役人は、若者に好意的な、裁きを与えたのでしたが、ニガンダは激怒しました。
「師匠は盗賊なんかでない。人の物を勝手に差し押さえる、あんたたちが、泥棒ではないか」
「我らを侮辱するか。ならば聞こう、この財宝を何処に運ぶつもりだった」
箱を持った役人は、ニガンダを追求します。
「ナティビタスの・・・」
この時、ニガンダは不味いことを口走ったのではないかと察しました。
「あそこには、反乱軍の偽王女がいると聞く。さては正当性を証明する道具として、この王家の財宝を使うつもりだな」
役人の顔は警備兵の方に向かっていました。
「残念だが、坊主、こここに拘留させてもらう。じっくり話を聞いてから、国に入れるか判断する」
「俺は急いでいるんだ。冥王が復活し、ふたたび地上にやって来ようとしているのに、なんて脳天気な人達だ。師匠はパテリアを救うために、俺を使わしたのが分からないのか」 ニガンダはこらえきれなくなり、思わず叫びました。
「冥王だと。若造の妄想は止まるところを知らないな。どこのおとぎ話に夢中なのか、知らないが、大人の世界では、反乱軍との大戦争が行われているのだ。我が国王は崩御され、西部では激闘が繰り広げられいる。現実の世界は、冥王などのお呼びもしないほど、残酷なものだ。分かったか」
「瓊筵戦争について知らないのか?」
ニガンダは、頭を叩かれたようでした。
「何処の戦争だ。ヘテロとの戦争なら腐るほどあるがな」
これでは、話にならぬと判断したニガンダは、師に禁じられた魔法を使うことにしました。
彼は、目をうつろにすると、二人の役人の心理を操作したのでした。
役人は、意識が朦朧として、ニガンダの思い通りに動き始め、ゆっくりと箱をニガンダに戻そうとしました。しかし、その心理操作の魔法はいきなり打ち破られたのでした。
驚き、ニガンダが顔を向けると、そこには魔法使いがいました。
「驚いたな、こんな若造が幻術を使うとはな。パテリアの外から来たというのに、鮮やかな腕前だな」
魔法使いはゆっくりと近づくと、役人を正気に戻したのでした。
「俺たちはいったい・・・」
「この小僧に操られたんだよ。その箱を渡さなかったのは幸いだった。こいつは一目散に逃げたことだろう」
入国に並んでいた人々は、魔法使いが登場し、なにやら雲行きが怪しくなったので、遠巻きに離れて行きました。
魔法使いが、蛇のようにロープを地面に走らせ、ニガンダの体に巻き付かせ、捕縛しよとしましたが、彼は一気に魔法のロープを引きちぎったのでした。
「魔法で引きちぎるとはな。あくまでも抵抗するか」
魔法使いは、若造相手とはいえ、手加減しないと決めました。そして、紅蓮の炎が湧き起こると、それはニガンダを襲いました。
彼は素早く身をかわすと、その炎を、操り、魔法使いに投げかけてみせました。魔法使いは、自分の技を帰されたので、驚き、技を解除すると、若者に目を向けました。
すると、ニガンダは魔法の力で、役人の持った箱を引き寄せると、逃げの体勢に入ったのでした。
しかし、これを見た魔法使いは、逃がしてはならないと、地面を軟化させ、ニガンダの逃走を防ごうとすると、ニガンダの足は地面にとられ、身動きができない状態になり、彼は焦ったのでした。この時、彼は妙案を思いつき、逆に魔法の攻撃を利用し、広範囲に地面の軟化を引き起こしたのでした。
魔法使いは、自らの技で身動きが出来なくなり、彼だけではなく、周囲にいる人々が、地面に足をとられ、身動き出来ない状態になっていたのでした。
仕方なく、魔法使いは技を解き、別の手でニガンダを捕らえようとしましたが、これを予期していたニガンダは、検問所から一目散に逃げたのでした。
まんまと、してやられた魔法使いは、地団駄踏んで悔しがり、その後を追いかけたのでした。
検問所を突破し、フォルムの市街地に逃げた、ニガンダは、裏路地を走りまくって、一息つきました。知らぬ国の真っ只中で、追われる身になってしまい、心細いかぎりでしたが、なんとしても、彼はナティビタスに行かねばなりませんでした。
気を取り直し、再び、走り始めらニガンダは、大きな通りで、警備兵に出くわしました。しかし、入国の検問所より離れて居たので、事件を知りはしないだろうと、堂々と通り過ぎようとしたところ、警備兵が彼の姿を見て、仲間に話しかけたのでした。
この様子に、ニガンダはパテリアの情報伝達の早さに驚き、捕まってはならないと、一目散に逃げたのでした。しかし、警部兵は彼を追いかけ回し、とある広場へ誘い込まれたのでした。そこには、魔法使いと警備兵の一団が待ち構えてしました。
「逃れは出来ないぞ。大人しくしろ」
魔法使いは入国の検問所にいた魔法使いとは違いました。ニガンダの周囲の四つの竜巻が起こり、それは次第にニガンダに迫ってきました。ただの風の渦とは見えなかった彼は、小枝を拾って投げつけみると、それは粉々になって砕け散ったのでした。
「なかなか、勘のの良い奴だな。お前は中級の魔法使いを翻弄して、逃れたようだが。今度はどうはいかぬぞ。私はフォルムを守護する唯一の上級魔法使いだ。今度ばかりは逃れられんぞ」
竜巻はどんどん、ニガンダに迫り、激しく彼の服は、はためきました。苦しくなったニガンダは、は気合いとともに、力を放すと、四つの竜巻は吹き飛ばされてしまいました。
竜巻が一瞬にて、消し去られたので、魔法使いは口を開けました。
「馬鹿な、この若い奴。上級魔法の技を返せるのか?」
パテリアの国では、長い訓練のあと、上級レベルに到達するのはほんの僅かで、そのレベルに至った頃は、歳も取り、若い上級魔法使いなどいないのでした。しかも、一般にパテリアの地は強力な魔法使いが育つのですが、その周辺国では、離れるに従って、魔力は落ちてくるものなのです。しかし、異国から来た若者は、上級レベルに達していました。
かつて、パテリアには、宰相デスペロの魔法を受けきった、天才の名をを欲しいまました、グノーという子供がいたことは、知られていました。宰相の魔法は上級の最上級の魔法で、彼とは比較にならないものでしたが、同様の才能をもった若者が目の前にいるのだと、魔法使いには分かりました。
「嫉妬をさせるな」
魔法使いは笑うと、渾身の一撃を、ニガンダに放しました。
ニガンダはとてつもない威力の魔法が放されたので、必死で交わしました。咄嗟の防御で魔法の威力は身に受けませんでしたが、彼の周囲の地面は大きく凹んでしまいました。
「このおっさん、本気だ」
冷や汗を掻いた、ニガンダは、どうやって切り抜けるか必死で考えました。魔法使いの魔法は、威力があったものの、師のグノーの魔力と比べたら、雲泥の差ほどの違いがありました。ですから、日頃から師匠の技を見ていたニガンダは、この様な状況にあったものの、冷静に判断をしてました。
しかし、魔法使いはもっと狡猾でした。上空からの圧倒的魔力の攻撃を加え、ニガンダの注意をそちらに向けさせると、密かにニガンダの足下の地面を軟化させ、足首まで埋らせると、もとの石畳に戻したのでした。ニガンダは足が固定されたことに驚き、技を解こうとしましたが、それは敵わず、しかもなにやら息苦しくなってきたのでした。
魔法使いは、空気を奪い、窒息死させるつもりのようでした。ぐずぐずしては、ここで命を失ってしまうと、ニガンダは一撃で魔法使いを退けなくてならないと思い、ある決心をしました。
彼は、師の技を見よう見まねで、使ってみました。ニガンダの前に、剣と杖、杯に硬貨が並ぶと、頭上に星辰が浮かび上がり、それは回転を始めると、無数の流星として、魔法使いに落ちていったのでした。
魔法使いは、防御を敵わず、粉砕され気絶したしました。ニガンダの放った魔法は師の得意技である、禁断の魔法イル・バカットでした。
師の使う、それとは雲壌の差ほどの違いはあったものの、一級魔法使いを気絶させるほどの威力をもっており、辛うじて危機を脱したニガンダは、その場を一目散に逃げたのでした。
魔法の国の魔法使いは、手強いと感じだニガンダは、出来るだけ発見されないように、壁に隠れ、周囲を見渡しながら城外を目指しました。
彼が、城門まで至った時、声を掛ける人物に出くわしたのでした。
「その門を突破するのは難しいなあ」
ニガンダは驚き、振り返ると、数人を従えた人物が立っていました。
「貴方は?」
「隣国ヘテロ国の商人さ。魔法使いとやり合っていたのを見させてもらったよ。若いのにたいした腕前だ」
目の前の男は商人に見えませんでした。数々の修羅場をくぐり抜けた、年季を感じさせていました。
「それが、分かる貴方も、魔法使いですね」
「まいったな。その通りだ。ヘテロの魔法使いだ。先ほどの魔法が気になってな後を付けさせてもらった」
男は青竜騎士団のベロックスでした。
「あれは、完全なものじゃない。師匠のが本物だ」
「師匠は禁断魔法の使い手か」
ニガンダは、誘導されていることに気がつきました。
「あんた達は、俺を捕らえるつもりか」
ニガンダが身構えると、ベロックスは微笑ました。
「誤解して貰っては困る。難儀しているので助けようと思っただけだ」
「信用できないな」
「パテリアの魔法軍を侮ってもらっては困る。彼の門を突破したとしても、強力な諜報網が、お前を逃さない。大勢の魔法使いに包囲され、捕縛されるのが関の山だ」
ベロックスは真実をそのまま語っているようでした。
「そうなのか?」
「我らはパテリア国と戦ってきた。なかなか侮りがたい存在だ。ところで、騒ぎの元だが、お前が大切に守っているのは、パテリアの至宝だろう」
「どうしてそれを」
ニガンダは狼狽えました。
「ワルコ十将の神具。そろそろ故郷に戻ってくるころだと思っていた」
「これが欲しいのか」
「我々には無用の長物だ。その神具の持ち主を、我々は迎えに行くのだ。だからお前にはナティビタスに行ってもらわないと困る」
「ナティビタスに行くのか?」
「そうだが、どうする、ついてくるか?」
ニガンダは躊躇しました。
「このまま、見知らぬ土地で、パテリアの諜報網を逃れてたどり着くことができるかな」
ベロックスは不敵な笑いをしました。
ニガンダは、しばらく思案し、決心しました。
「西も東も分からない土地。ここはあんた達を信じることにした」
「賢明な選択だ」
ベロックスは、体を転じると、ついてこいとばかりに指で招き寄せました。
ニガンダは急ぎその後を追いかけたのでした。
フィディアは、古都ナティビタスに仲間とともに留まっていましたので、自分の近況について祖母アビアに手紙を送りました。もちろん、彼女は文字を書けませんでしたので、ドクトリに代筆を頼み、元気にしていることや、旅での出逢いや仲間のことについて、書き送ったのでした。
祖母は、心配していた孫娘の近況がわかり、安堵したものの、手紙の中に書かれた、グレーティアについて気がかりとなり、いてもたってもいられず、老骨にむち打って古都に向かうことにしたのでした。
この連絡受けた、フィディアは驚き、仲間に相談すると、怪物ハンターのオリスに依頼して、アビアを迎えに向かわせたのでした。
オリス等がアビアの家を訪ねてみると、既に彼女は出立しており、人相風体を聞いた彼らは、慌てて後を追いかけたのでした。程なくアビアに追いついたオリスは、彼女を守ってナティビタスに向かったのでした。
オリスは、年老いたアビスが、直ぐ南で反乱軍と政府軍の戦争がおこなわれている、こんな危険な時期に、何故ナティビタスに向かうのか理解出来ませんでした。訪れた家には草木の手入れがされ、完全に隠居生活のはずが、追いはぎ、強盗が出没する中に飛び込んでいくなど、正気の沙汰とは思えません。しかも、長旅には耐えられそうもなく、病気になってしまわないか心配でした。
徒歩で向かっていた古都への行程を、馬に乗って移動することになったものの、やはり老人には無理があり、オリスたちはやっとのことで古都ナティビタスに到着したのでした。
古都の大通りを進み、王宮の前に来てみると、フィディア達が待ち構えていました。
幸せそうな笑顔のフィディアに、祖母はたいそう喜び、抱き合うと喜びを噛みしめたのでした。
アビアは末の息子の忘れ形見が、元気にしているのが、なによりも嬉しく、三男の息子に引き取られ、後妻がはいったあと、音信不通になっていたので心配していたのでした。
フィディアにしてみれば、継母に虐げられていたのを、グレーティア達に助けられ、祖母のもとに向かうつもりが、仲間と離れがたく、祖母を選択しなかったことに少し負い目をかんじていました。しかし、祖母が本当に自分を愛してくれているのだと分かると、嬉しくて仕方が無いのでした。
アビアはフィディアを守ってくれた人々に感謝すると、ビルトス先生について尋ねはじめたのでした。彼女にとって、それは孫娘と同様に大切なことでした。
「ビルトスは亡くなったのですか?」
アビアの顔に陰が覆いました。
「弟子を助けるために命を落としました。大勢の政府の魔法使いの攻撃にあい、敢えない最期と聞き及んでいます」
レピダスは、彼女の絶望的な表情に、なんと言っていいか分かりませんでした。
「あの方は、空に一番星が登る頃、アデベニオを目指すと申されていました。私は、再び出会えることを期待し、約束の日まで待っていましたのに」
「残念なことですが。しかしビルトスの弟子はその志を継いでいます。政府の追跡を逃れ、アデベニオに至り、ビルトス氏の最終目的地であった、古都ナティビタスに至ったのです」
「孫の手紙に載ってた、グレーティアという娘ではありませんか?」
「その通りです」
「その名は、私が赤ん坊をビルトス氏に預けた際、私が付けた名前です。ビルトスの弟子ならば、私が待っていた娘に間違いありません」
「貴方が、名付け親なのですか?」
「違います。それは偽名なのです。追っ手から逃れるため、私が名付けました」
レピダスは、この婦人はグレーティアの過去を知る人物だと確信しました。
「それでその娘はどこにいるのです」
「王宮の中に居ますよ」
「直ぐに逢わせてください」
アビアは、気持ちを押さえきれない様子で、レピダスは仲間とともに彼女をグレーティアに引き合わせることにしたのでした。
メディカス老師に、心の指導を受けていたグレーティアは、フィディアの祖母が挨拶に来たと聞き及び、身を整えると、出迎えました。
すると、アビアはグレーティアの顔を見ると、感情が抑えきれなくなり、大粒の涙を流して、泣き崩れたのでした。これには周囲の者も呆気にとられ、どう対応していいか迷ってしまいました。すると、近くにいたアスペルは優しく彼女を助け起こすと、ハンカチを渡したのでした。
「おお、ビルトス。貴方は使命を全うしてくれたのですね。貴方が命を賭して、守ってくれたことに感謝します」
グレーティアは、事情が分からず、どう宥めればよいか悩みました。
「初めまして、私はグレーティアと申します。貴方がフィディアのお婆さんですね。彼女の竪琴は皆を和ませています」
「孫が、貴方と一緒にいるとは、なんという偶然でしょうか。私の代わりにあの子が仕えていたのでしょう」
「仕えるなど、私は王宮で、そういう役回りを演じているだけなのです。本当の姿と違って困っています」
グレーティアは偽王女の役回りを、恥ずかしくて、仕方ありませんでした。
「なにを申されます。その上品なお顔立ち。亡くなられたお母上にそっくりですよ」
アビアのその言葉に、グレーティアは心臓が脈打ちました。
「失礼ですが、グレーティアの素性について何かご存じなのではないでしょうか。よろしければ話していただけませんか」
レピダスが、かねてからの疑問を、彼女にぶつけてみました。
「ビルトスが素性を全く教えずに、育てたことは分かりました。私が全てを申し上げましよう」
「グレーティアさん。貴方の本当の名前は翡翠姫です。今の名前は偽りの名で、あなたはパテリア国先王のご息女なのです」
「双子の王子、王女。一人は舜王子、もう一人は翡翠王女。あれなのか?」
デュックは声を上げました。
「その通りです。この方は、先の王の忘れ形見なのです」
「おいおい、俺たちは本物を担ぎ上げていたのか」
デュックは、周囲を見渡し、大笑いしました。
「かつて、私はフローレオの王宮に仕えていて、お后さまの近くでお世話をしていました。紀朱王が反乱を起こしたとき、宮中は炎で覆われ、お后様は翡翠姫を私に託されました。王やお后、その王族は殺害されたのですが、双子の子は難を逃れたのです。おそらく王子もどこかで生き延びているはずですが、それは他の者が預かっているはずです。何故か宰相デスペロは姫の殺害に躍起になっており、守り切れなくなった私は、ビルトスに預けたのです。ビルトスはデスペロが執拗に命を狙う理由を知っており。デスペロと同等の魔法使いである彼こそが、姫を守ってくれるのだと信じたのです」
「にわかに、信じがたいのですが」
グレーティアは困惑しました。
「いきなり、お姫様と言われても信じられないのは無理もないことです。ですが、貴方の兄弟子のグノーは全てを知っていますよ。ビルトスはあの弟子を、いつも側に置いて可愛がっていましたから」
「それは、人違いではないですかねえ。名前が偶然同じだっただけで」
ソシウスは困った様に、問い直しました。
「そんなことはありません。ビルトスの近くに居たこと、名前が同じ事、なによりもお后様にうり二つです。なにを間違えましょうか」
「ご婦人、グレーティアも、混乱している様子です。今日はお孫さんとゆっくりと語り合われたらどうでしょううか」
アビアは、赤ん坊だった子が、大きく成長していた姿に感動し、我を忘れていましたが、見ず知らずの者から、素性を聞かされてた、グレーティアが平常心であることが出来ないことは無理からぬこととして、今日は引き下がることにしたのでした。まずは、孫娘のフィディアと、語り合わなくてはなりませんでした。こうして、アビアがフィディアとともに下がると、仲間はこの事態を話し合ったのでした。
「あの婆さんの事を信じるのか?グレーティアは魔法の力で変化させられているだけなんだぜ」
ソシウスは不満そうでした。
「馬鹿言え。俺が前から言っているだろう。グレーティアからは女の香りがするって」
「お前は、俺のふんどしの臭いでも嗅いでいろ」
ストレニウスがからかうと、ソシウスはますますいきり立ちました。
「婦人は姫をビルトス氏に預けたと言う、しかし、グレーティアは男の子として育った。これはどういうことだ」
レピダスは矛盾を解こうとしていました。すると、ドクトリがグレーティアに尋ねたのでした。
「君は、政府の魔法使いによって、変化の魔法を掛けられたのだね。それはどの様にしてかね?」
「ビルトス先生の亡骸を、集めようとしていたところ、半死の男が技を掛けたのです」
「しかし、それは難しいな。一級魔法使いでも、パテリアの何処を探しても変化の術を使えるものはいないはずだ。使えるとしたらそのものは天才だ。まして、その様な高度な魔法を半死半生の者が使えるはずがない」
「しかし、私はなんらかの技を受けました」
すると、ドクトリは静かに笑いました。
「それは、変化の術を破ったのであろう」
「まさか・・・・」
グレ−ティアはその可能性は否定できませんでした。
「ビルトス先輩か誰かが、グレーティアに変化の術を施していたのじゃよ。それを政府の魔法使いが破った。本体の姿にしてしまえば、宰相デスペロが追跡できると判断したのだろうな。なにせ、ワルコとは女性だからな」
すると、レピダスが賛同しました。
「私も宰相から命令されたことは、娘の暗殺でした」
こうなると、グレーティアは押し黙ってしまいました。
「馬鹿馬鹿しい。本物の姫様は赤ん坊の時亡くなってしまって、代わりにグレーティアが引き取られたのではないのか?」
ソシウスは納得しませんでした。
「それならビルトス先輩は、グレーティアにアデベニオへ逃れるように言わなかったたはずだ」
「ドクトリ、どうしてビルトス氏は、グレーティアに変化の術を施していたのでしょうか」
「追っ手に発見されないように、と言う理由が考えられるが、先輩のことだ、それは主たる理由ではないだろう」
「では、何があるのです」
「分からない。恐らくそれは瓊筵戦争の勝敗に関係したものだろう」
すると、デュックが打ち消すように、言いました。
「そんなことどうでもいい。俺たちの神輿として担がれてくれればいいんだ。本物の姫様だろうが、何かであろうが。俺たち役にたってもらえればいい」
「こいつ、何を言いやがる」
ソシウスは怒って、デュックを睨み付けました。
アビアのもたらした、グレーティアの素性は、信じがたいものでしたが、彼女が昔後宮務めであったこともあり、信憑性が高いものでした。仮にビルトスが殺害されなかったとしても、グレーティアは変化の術を解かれ、師匠とともに古都目指して旅をすることになていたでしょう。
数日後、老骨に鞭を打って旅をしてきた為でしょうか、アビアは体調を崩し、寝込んでしまいました。孫のフィディアは大層心配し、つきっきりで看病してました。しかし、アビアは長年の気がかりから解消されたせいもあるのでしょうか、死への旅を始めようとしていました。自分がもう長くないと悟ったアビアは、グレーティアへの面会をもとめ、彼女の寝室で、最期の会話がなされたのでした。
「姫様、有り難うございます」
アビアは寝床から、起きようとしましたが、体が動きそうにありませんでした。
「どうぞ、そのままにしてください。私が近くに座りましょう」
そういうと、グレーティアはアビアの横に座りました。
「お優しい姫様。お后様にそっくりですわ。お后様は貴方のような優しい眼をした方でした。姫様はご両親のことをご存知ありませんが、陛下、お后様はたいそう慈悲深い方でした。陛下は芸術を好み、繊細な方で、民の暮らしをが心配されるような方でした。お后様は、美しい方で、謙虚で慎ましく、聡明な方でした、私共の女官にも親しくしておられ、気配りができる方でした。そして、お二人は姫様をかわいがり、愛していらっしゃいました。世の中では、放蕩王とか傾国の女とか罵っていますが、決してそのような方達ではありません。ですから、失望なさいますな。私が以前姫様を見たのは、まだ赤ん坊の時。あれから再びお会いできる日をずいぶんと待ち焦がれたものです。立派に成長した姫様の姿を拝見しまして、私は務めを解放された気分です。姫様は古都の王宮に住まわれ、頼もしい者達に守られています。私はもうなにも思い残すことは御座いません。姫様、私の寿命も尽きようようとしてます、どうぞお幸せになってくだざい。わたはお后様のもとへ旅立ちます」
こう言って、アビアは意識を失い、静かに息を引き取ったのでした。
妖魔九位、黒海馬のグラッシスは、帝都フローレオに居ました。妖魔第一位のウーマーの呼びかけに応じたものでした。千年前の、オレアの王都だった地点より、河寄りにすこしばかり移動した土地に、その帝都があったので、彼は、物珍しく辺りを散策しました。
蟻塚を観察するかのように、一通り眺めた後、グラッシズは城内のウーマーの屋敷に向かったのでした。
「来たか、寒氷獄」
机に向かい書き物をしていたウーマーは気配を感じ、筆を止めたのでした。
「相変わらずの、人間のまねですかい」
グラッシズは、呆れたような仕草で、中に入ってきたました。
「面白いぞ、人間は。領地をめぐり争いばかりしている」
「そいつは既に見学済みですよ。あまりにもいがみ合っているので、当事者同士で話し合わせようと、会わせてみたのだが、問答無用で片一方が片一方を殺しちゃってね」
「パテリア王が殺されたのはお前の仕業であったか」
ウーマーは、戦場から伝わる奇怪な事件が、どうやって引き起こされたのか分かりました。
「人間てやつは、地獄でしごかなければ駄目だな」
「彼らはどうして、冥界を目指すと思う?」
「好きなんでしょう。薄暗いところが」
「面白いことに、全員が冥界の目指すようではないのだ」
「初耳だ。すると地獄好きが冥界にやって来てるてんですか」
「人間は、生きていた時の思いののまま、その先を選ぶようなのだ」
「どういうことで?」
「つまり生きている時は、手に支えられ水の中に一定の深さににある物体といえる。死んで、手から放されると重い魂は水の底に、軽い物は上に浮き上がる。そんな理屈だ。
魂に重い物は一番底に、少し軽い物はその上にと階層を作る」
「なるほど、冥界で人間達が階層に散らばっているのは、そういう理由か。しかし痛めつけられに地獄にやってくるとはね。自虐趣味なんですかね」
「この地上はそれが快楽だったのだ。人間は苦痛であると気がつかず、それに溺れていき魂を重くしていくのだ。肉体から解き放され、その魂のまま冥界を目指す」
その時、もう一人の妖魔がウーマーを訪ねてきた。
毒蛇獄、美粧蓮歩のベネノだった。
「ベナと一緒ではないのか?」
「あの娘は、あたしにライバル心があってね。避けているみたいなの」
「女同士だからか?」
「なんというか、私達愛を語るでしょう。私は愛増の愛の事が、愛だと捉えているけど、ベナは性的な愛が本当の愛と考えて居るの。それで意見が一致しないのよ」
「愛とはなんとややこしいものだな」
「あらでも大人気なのよ。人間は何かというと愛を叫ぶわ」
ウーマーはベネノが、愛について話始めようとしたので、制しました。
「二人を呼んだのは他でもない。ワルコの僕を始末してもらいたい」
「やっと、許しがでたか。怪物同士の戦いは飽き飽きしてましたぜ。一気に全員始末してしまいましょう」
「千年前の事を忘れたのか?」
「確かに鋸解獄のカーサーがやられて、怒りの任せて報復に向かったのだが、太常星に返り討ちにあい、あんたに助けられた」
「覚えてくれたようだな。それとお前の最期は」
「オリュントスで宰相に化け、国を弄んでいたが天空星に発見され、倒された」
「その通りだ。油断してはならない。今回はターゲットがある」
「なんだ条件付か?」
「そうだ、千年前の戦いで、我々は敗退したが、厄介な存在について気がついた」
「勾陳星でしょう。彼奴は三人がかりだったと聞く」
「確かに、奴は別格だったが、もう一人、天后星がいる。彼女が問題なのは、魔法の規則とは別の、術式を使うからだ。魔法は文字と数式を併用し、どちらかというと文字に傾倒するが、天后星は数式つまり論理式に傾向するのだ。物の本質が何であるかを放棄し、物と物との関係式を中心に捉え、応用するのだ。これは我々妖魔にとって厄介な存在なのだ。先の戦いにおいても、俺は足を無くし、冥王は顔に被害を受けた。このような技が地上に増えてはならないのだ。瓊筵戦争で、私は天后星と発明争いを演じて見せたが、瞬く間に地上は可笑しな道具で溢れたしまった。あのまま続ければ、冥王様と同等の破壊力を秘めた物を作り出しかねない」
「なるほど、それでは天后星を始末するのが、今回の目標というわけだな」
「その通りだ」
「呼ばれた訳はわかりましたが、ベナがいないのですが」
ベネノはあまり乗る気ではないようでした。
「彼女には別の役目を用意している。天后星の殺害は最初から二人にやってもらうことにしていた」
「その方が、よろしいでしよう。あの娘がいては、足手まといになりかねませんから。しかし、天后星の始末に、二名は必要ないのでは?」
「確かに、一人で十分だろうが、ベネノには、主として魔法城の守備について調査をしたきてもらいたい。というのも、魔法城相手に人間共はかなり苦戦していたからな。千年前に天后星は我らの実力を知っているので、同様な守備を構築しているの違いないからな。後日、冥獣で攻め込むさいの参考にしたい」
「それでは、寒氷獄をサポートするとするわ」
こうして、グラッシスとベネノは、ナティビタスを目指して発ったのでした。
しばらくして、やって来たのは血池獄サキュバスのベナでした。彼女はいたずらっ子のようにそっと、戸口からのぞき込むと、忍び足で中に入ってきました。
ベナはウーマーを驚かそうと、後ろから近づいてくると、抱きつきましたが、自分が抱きついたのが犬であったので驚きました。
「それは犬というものだ。何故か人間に共生している。気に入ったか」
大きな犬は、尻尾を振りながら、口から息を吐いていた。
「ケルベロスがもっとすてきだわ」
驚かすのが失敗したので、ベナはふて腐れて、犬を肉の塊にしてしまいました。
「おいおい、そいつは血統種だったんだぞ」
ウーマーは、その塊を大事に抱くと、呆れたような顔をして、消しました。
「早速だが、捜しものを頼みたい」
「また捜し物なの?」
「探して欲しいのは焼手足獄のアエヌスだ。冥獣を率いてヘテロを襲ったはずだが、以降連絡がないのだ。様子を見てきて欲しい」
「彼ねえ、そう言えば、なにか不満たらたらて感じだったわね。今頃、暇つぶしでもしているかもね」
「奴には次の仕事が待っている」
「ヘテロと言えば、千年前に勾陳星の奴に遭遇した土地だわ。剣を探しに行って私、倒されたのだったわ。なんか因縁めいた土地よね。あの勾陳星たら、私の愛を受け付けない堅物だったわ」
「勾陳星では倒されても仕方あるまい。今のところ彼の男の存在は確認出来てない。おそらくパテリア近郊にいないだろう。安心してヘテロに向かうといい」
「そうするわ。彼の洞窟いまでもあるのかしら。楽しみだわ」
そういうと、ベナは踊るように、ウーマーの部屋から飛び出したのでした。
怪鳥に乗った、グラッシスとベネノは古都ナティビタス近郊に降り立ちました。暗闇でしたが、都の灯りが城壁からもれ、明るく空を照らしていました。
「これが、ワルコの居城か」
人間の蟻城のはずが、ただならぬ物をグラッシスは感じていました。
「ウーマーの言っていた、魔法城のようね。私は千年前に直に見たことはなかったけど、おそらくその当時よりさらに強化されているわ。強力な結界が張り巡らされている」
ベネノは慎重に、城の様子を覗った。
「城の周囲は可変式の空間が広がっている。迷路のように張り巡らされているので、冥獣で襲っても、城壁までたどり着けないようだな」
「でも、どうやらワルコ等は使いこなせてないようね。あちらこちらが固定されているわ」
妖魔のい目には、可変の空間が、見て取れました。
「それは好都合。このまま城内に潜入するとするか」
「城内部は結界がさらに強くなっているわ。油断は禁物よ。一気に城内にジャンプしては危険だわ。人に化け城門から入る方がよさそうね」
二人は、旅の男女に化けると、城門を潜り、中にはいりました。夜だというのに、繁華街には灯りが点り、往来には人の姿がありました。
「酒という飲み物で、人は夜、理性を放棄するようだ」
千鳥足の男が鼻歌を唱いながら、去っていきました。
「人間は快楽を求めるのよ、煙草で頭を酔わせるみたいよ。阿片なんかは大好物らしいわ」
「人間とは下らぬものだな」
グラッシスは店の前で、騒いでいる人間を、肉片にしたい衝動にかられました。
「止しなさい。ワルコに感づかれるわ」
ベネノが忠告したのも、無理はありませんでした。城内には結界が頑強に張られ、水の中にいるかのように、動きにくかったのでした。妖魔にとっても初めての経験でした。
「冥界に結界があるように、ワルコの居城にも結界があるというわけか」
「千年前には、ワルコはこの様なものは作らなかった。おそらく、これはワルコの力を使って天后星が創作したもの」
「なるほど、厄介な奴だな。いの一番の仕事がこれなのは、理解出来た」
「天后星は未だその能力を発現していないようよ。仕留めるのは容易いことだと思うけど。この結界のなかでは身動きがとれないわね」
「この魔法城は千年前の天后星の遺産なのだろう。使いこなせてないのは幸いだった」
妖魔は通りを進み王城の前に至ったのでした。城門の前には大きな通りが伸びていましたが、誰もいませんでした。
天后星の所在につて、宛てが無かった彼らは、人間の記憶を抜き出し、この都で起こったこと、誰が支配しているのかを聞き出し、結界の張られ方などを吟味し、目標が王城内にいる可能性が高いと結論づけたのでした。
翌日、二人は小動物に変化すると、王城内に潜入し、天后星を探し回ったのでした。王宮内は警備兵も少なく、本来の姿に戻った妖魔達は、後宮の一角でワルコの僕達を発見したのでした。
「この気配は、ワルコ将に違いない」
グラッシスは柱の陰に身を潜め、中庭の一角の様子を覗ったのでした。
「天空星と六合星、それに人間が二人。この広間には結界が引かれていなわ。彼らの会話から、ここで魔法の修練をしているようだわね」
「ならば好都合。彼奴等をここで始末するとしよう」
「止しなさい。目標は天后星よ」
しかし、グラッシスは完全に相手を侮って、堂々と戦いを挑んでしまったのでした。
「あの馬鹿。堂々と姿を現すなんて、なんて目立ちたがり屋なのかしら。仕方ないわ、私は結界の状況を調べて回るとしましょう。寒氷獄が、あの者達に負けるとも思えないし」
ベネノは、そう呟くと、姿を消したのでした。
ドクトリはエコーの技に感嘆していました。この若者はついこの間まで、中級レベルの魔法を使う程度だったはずなのに、今は一級魔法使いのドクトリが唸るほどの魔法力を秘めた力を習得していたからでした。ドクトリはエコーがこれだけの力をもつのならば、禁断魔法についても、安全に運用できるのではいかと、思っていました。
「完全に、儂を超えてしまったな。パテリアの宰相デスペロでさえ、苦戦を強いられるだろ」
「パテリアの宰相殿は祖国ヘテロの宰相様と同格の実力と聞き及んでいます。私など、まだまだ及ぶはずなどないでしょう」
エコーは謙遜をしてみせたが、魔力が強くなっているのは、実感していました。
「頼もしい限りだな、いつまでも魔法城に頼ってもいられないからな」
ソシウスが、満足げに言うと、隣のビリーも賛同しました。
すると
「その程度の魔力で、安心だとは、片腹痛い」
と、柱の陰から、見慣れぬ衣装の男が現れたので、ソシウスたちは目を見開きました。
「どうやって宮殿に・・・」
ドクトリは、魔法城が全ての人間について監視しているなずなのに、それをかいくぐって来た者がいたので、驚きました。
「結界が四方八方張り巡らされていたので、鬱陶しかったがな」
妖魔のグラッシスは堂々と、彼らの前に姿を現したのでした。
「お前は何者!」
警戒して、ソシウスが訪ねると、グラッシスは不敵に笑いました。
「俺は、妖魔第九位、寒氷獄のグラッシスだ」
一同は、フィディアの譚詩でしか知らなかった妖魔が、目の前に現れ、息を呑んだのでした。
「お前達が、現代のワルコの僕か。千年前の奴らはなかなか、手強かったが、お前達はどうかな」
グラッシスは、エコーとソシウスを流し見しました。
すかさず、エコーは攻撃態勢に入り、攻撃魔法がグラッシス目がけて放されたのでした。しかし、その魔法はグラッシスに片手によって、容易く防がれたのでした。
渾身の魔法が、効かなかったでエコーは、妖魔の実力をまざまざと見せつけられたのでした。
「天空星、お前は千年前が優れていたそ」
グラッシスはエコーとソシウスを振り切り、ドクトリの背後に立ったのでした。
「さて、お前の記憶から、天后星の居場所を頂くとするか」
瞬く間に、ドクトリの記憶から情報は引き出され、苦痛からドクトリは膝をついたのでした。
「さて、居場所は分かったところで、ついでに、お前達を始末するとするか」
グラッシスは一気に、ソシウスを葬り去ろうとしましたが、その姿を見失ってしまいました。その瞬間、背後から、突如、大斧が飛んできたので、彼は驚き、身を転じたのでした。
彼はウーマーから六合星は他の僕と違った能力をもつと聞き及んでいたので、その術であることが分かりました。しかし、妖魔が幻惑され敵の姿が分からなくなるとは異常でした。
結界の中で、飛び跳ねては危険だと、考えたグラッシスは本来の目的を優先することにしたのでした。
「仕留めそこなった」
ソシウスは、バッジの力を借り姿を消したのでしたが、妖魔を退治できなくて悔しがりました。
グラッシスは、ワルコの僕を侮ったことを後悔し、再び任務に戻り、天后星を探しました。ドクトリの記憶から、おおよその場所が特定出来たので、その場所に行ってみると、少女を発見したのでした。天后星はフィディアと呼ばれ、普通の少女でした。周囲にはなんのトラップもなく、裸同然の防備でした。
あまりの無防備さに拍子抜けしたグラッシスは、このままなぶり殺しにするのが詰まらなくなりました。そこで、彼は精神的に苦しめて殺す、面白い殺し方はないかと思案したものの、なにも思い浮かばなかったのでした。グラッシスは、なにか言いヒントはないかと、フィディアの背後に忍び寄ると、彼女の記憶を読み取ったのでした。
「この娘、自分がワルコの僕であると知らないとは。これでは、普通の人間ではないか。抽腸獄のウーマーが警戒していたが、その必要も無い。脅威の発明も出来ないようだし、無害といっていい」
警戒するべきは、千年前の天后星の遺産であると、分かったグラッシスは、いっきに背後から心臓を貫くと、風穴の開いた胸に竪琴を抱かせ、魔法の力で、腕を動かし竪琴を鳴らさせたのでした。演奏が好きなフィディアへの、グラッシスの悪ふざけでした。そうして天后星暗殺の目的を達成した彼は、結界を調査しているベネノを探したのでした。
その頃、ソシウス達は、城内に妖魔が潜入したので、慌てて、王宮内を走り回り、仲間の無事を確認して回ったのでした。グレーティアの前には妖魔を出現しておらず、なんの危害も加えられていませんでした。他の仲間に前には妖魔の現れた形跡はありませんでしたが、フィディアだけは違っていました。
ソシウス達が、彼女の部屋に行ってみると、だらしなく竪琴が鳴り響いており、その音が精気のない音でしたので、急いで近づいてみると、フィディアは背後から心臓に、貫かれて、既に絶命していたのでした。そして動くはずのない右手が竪琴を奏でていたので、妖魔の仕業だと分かったのでした。
無残なフィディアの最期に、アスペルは悲しみましたが、ソシウスは烈火の如く怒りました。彼はドクトリに、魔法城の力を借りて、妖魔の位置を探しだろうとしましたが、神秘の力を借りても不可能でした。妖魔は巧みに探索網をくぐり抜け、逃げていたのでした。
一方、ストレニウスは赤鬼騎士の技を駆使して潜入者を追跡していました。彼はエコーと供に僅かに残った気配を追いかけ、妖魔にたどり着いたのでした。
「鼠共め。よくも仲間を殺ってくれたな!」
言うやいなや、ストレニウスはグラッシスに襲いかかりました。彼の赤鬼騎士の剣は、奥義まで達しており、並の者では一撃で倒されてしまう鋭いものでしたが、妖魔はこともなく交わしたのでした。
「人間離れした技だな。しかし俺には通じない」
グラッシスが魔法の技を放すと、ストレニウスは必死で飛び回り、避けました。王宮の建物が次々に破壊され、土煙が立ちました。
続いて、エコーが攻撃に加わったものの、結果は以前と同じで、魔法は通じず、すると別の妖魔のベネノが攻撃に加わったので、二人は追い詰められてしまったのでした。
「なるほど、ワルコの将だわ。魔法の攻撃を交わし続けるだなんて、たいした物だわ。もうここいらでいいでしょう。早く帰りましょう」
ベネノはグラッシスを促したが、彼はまだ、遊び足りないようでした。グラッシスは強烈な魔法をストレニウス達に浴びせると、彼らは立てないくらいに傷つきました。
「これくらいで、今日は止めるとするか」
グラッシスはベネノに、急かされ、舌打ちをすると、王宮を後にしたのでした。
こうして、天后星であったフィディアは、その能力を発現することもなく、その才能を胸に抱いたまま、世を去ったのでした。
王宮でフィディアと祖母のアビアの葬儀がひっそりと執り行われて居るとき、グレーティア達を訪ねて来た者がありました、東方より師にに替わりパテリアの秘宝を持ち帰ったニガンダでした。彼の到来は一歩遅く、既にワルコの将一名を失っていたのでした。
彼の到着が、今一歩早く、妖魔の到来に間に合っていれば、妖魔を撃退することは十分可能でしたが、運命はそちらを選択してはいませんでした。
物語が停滞していましたが、やっとアップです。
主人公側で初めての犠牲者が出ました。
弱者とか良い人は真っ先に、殺されるのが本当ではないかと描いて見ましたが、あまりにも非情すぎたかも。しかし、それは当初の予定とは、若干早くなっただけですね。
今回、主人公の素性が明かされました。なんだつまんない、と思われたでしょうが、第一回あたりの解説で書いたように、この作品は童話ののり、なので当然、王子様、お姫様は登場します。




