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第63回 離 間

<登場人物>


グノー    主人公の兄弟子エピストローペのグノー魔法使い

メディカス  僧侶(酔遊仙のメディカス)防御魔法、治療魔法、躰術

ホーネス   スカラ国戦士(神槍のホーネス)槍の使い手

レピダス   黒虎騎士(銀弓のレピダス)弓、双頭槍の使い手

デュック   元宰相の子(斜行陣のデュック)参謀、双鞭の使い手

アスペル   女盗賊(黒豹のアスペル)スリング、手裏剣、メイスの使い手

ストレニウス 赤鬼騎士(重戦車のストレニウス)双手剣の使い手

ソシウス   斧使いの大男(旋風のソシウス)バトルアックスの使い手

エコー    ヘテロ青竜騎士(鎚人馬のエコー)風の魔法使い、ヴォーハンマー

フィディア  芙蓉記伝承者(譚詩曲のフィディア)竪琴


グレーティア 主人公

プエラ    主人公の幼なじみの娘



ビルトス   主人公の師(本名ダーナ)

デスペロ   魔法宰相


紀朱王    パテリア国国王

芥子菜王妃  パテリア大国王妃

歴山太子   パテリア大国王子、嫡子

那破皇子   パテリア大国王子

蘭公主    パテリア大国王女


プロディティオ デスペロ配下上級魔法使い、那破皇子支持者


トラボー   反乱軍首魁 舜皇子

マレボレ   トラボーの養父

ハレエレシス 反乱軍参謀、ブルマの乱首謀者

フィデス   トラボー配下魔法使い

ファルコ   トラボー配下武将

アミコス   反乱軍参謀、竪琴の使い手、元魔法省官吏

ファクルタス 反乱軍魔法使い、ブルマの乱生存者

アルゴン   反乱軍武将

オティス反乱軍武将

ホルディウム 反乱軍財務


 政府軍はハレエレシスの計略により、怪物の群れと遭遇し、大きな痛手を被っていました。如何に精鋭の政府軍とはいえ、怪物相手に太刀打ちできるものではなく、命からがら逃れるのがやっとでした。散り散りばらばらになった軍勢は、次第にビダ街道の関の東に集結し、支城は負傷兵で溢れかえっていました。衛生兵が不眠不休で当たっても間に合わず、怪我の具合によって振り分けると、軽傷のものは随分と待たせ、なんとか凌いでいました。王都から医師団と医療物資が急遽送られたものの、支城までは遠く、未だ到着していませんでした。

 怪物との遭遇地には、多くの兵士が取り残されていましたが、救助は難しく、近隣のハンターを急遽招聘すると、捜索に当たらせました。彼らは巧みに怪物の群れをかいくぐり、兵士を発見しましたが、重体な兵士が多すぎで、救出がはかどりませんでした。

 那破皇子は、敵の計略にかかり再び大敗を被ったことに、砂を噛む思いでした。城内を回り、苦しみながらも手当を待つ兵士に声を掛け勇気づけていました。

 そんな、慌ただしい城内で事件が起きました、城内の一室で王の遺体が発見されたのでした。

 那破は驚き、直ちに現場にいってみると、首の無い体が床に横たわっていたのでした。衣服や体つきから、紀朱王だと断定すると、皇子は泣き崩れたのでした。そうして怒りがこみ上げると、警護の兵を呼び寄せ、詰問したのでした。賊が如何にして、城内に潜入し王を殺めたのか、謎だらけでした。敵兵が人で溢れかえった城内に、潜入することは不可能ではなかったのでしたが、あまりに大胆な犯行に、身内の裏切りを疑ったほどでした。

 兵士は、配置や見回りの状況を説明しましたが、それが正しいのなら王が自部屋から殺害現場まで、目撃されず移動するのは困難で、彼らが嘘をついているのではないかと思えたのでした。皇子は彼らの失態の責任を取らせようとしましたが、ふと、王の死について疑念が生じたので、彼らを拘置するだけにとどめ置き、後日その謎を解き明かそうと考えたのでした。

 皇子が不審に感じたことは、王の争った形跡がなかったことでした。王の剣は鞘に収まったままであり、心臓以外の傷は無かったのです。背後から襲うので有ればわかるのですが、正面から攻撃されて何の抵抗をした様子もないのです。王は無抵抗に刺された、これが結論でした。 犯人が大きな首を提げて、逃げ出すのは困難と判断した皇子は、城内をくまなく捜索させましたが、首は見当たりませんでした。そうこうする内に、メディスにて紀朱王の首がさらし者にされているとの報告がなされると、ほどなく真正政府より塩付けの王の首が送られてきたのでした。

 皇子は驚き、首を検証してると、腐敗が始まっていましたが、父王であることが分かったのでした。彼は再び泣き崩れると、直ちに首を胴体と合わせ、フローレオに送ったのでした。

 王の死が報告され、遺体が王都に運び込まれると、王族や臣下が集まり崩御を悲しみました。王の葬儀は、反乱軍との交戦中でしたので仮の葬儀が行われ、その時、塔にに幽閉されていた蘭公主は解放されたのでした。芥子菜王妃は悲しみのあまりに体調を崩しましたが、蘭公主の慰めに、気を取り直すと仮葬儀を持ちこたえ再び床についたのでした。

 仮葬儀にて太子は、次期王としての威厳を臣下に示し始めていました。歴山太子は儀式が終わると、直ちに宰相デスペロを呼び、反乱軍への対応を検討しました。

「陛下の死は不自然過ぎるが、反乱軍を如何にするかを優先しよう」

 太子は地図を広げると、宰相に切り出しました。

「お兄様、それは逆なのではありませんか。誰が殺めたのか調べるのが先です」

 不満げに蘭公主は太子を睨みました。

「そう噛みつくな。犯人は必ず突き止める。まず我々は速やかに軍を立て直す必要がある。南の賊の成功に呼応して、反乱を画策する者達が現れる恐れがあるのだ」

「ソサ、カプット近郊の反乱分子が蜂起する可能性があるでしよう。我々はメディスを押さえられ西部は支配圏外となりました」

 宰相デスペロは地図を指し示しました。

「なんとしても、メディスを奪還しなくてはな。敵には優れた軍師がいるようだな。怪物をけしかける作戦は誰でも思いつくものだが、複数の群れを操り、一点に集めさせるなど至難の業をやってのけている」

「今、その怪物がビダ街道に散らばり、我々の西への進軍の妨げとなっています。ハレエレシスは防衛壁として怪物を利用しています」

「真正政府と名乗る賊軍の人材はどうなのだ?」

「あまり恵まれているとは言えません。フィディス、ファルコなる中核となる武将はいますが、あまり知略に優れているとは言えず、他の将は投降の将だらけです。魔法使いに至っては脱獄囚だらけです。これだけの規模の反乱にしたのはハレエレシスの知謀による物でしょう」

 すると太子は笑いをこらえて、地図を丸めました。

「なんだ、簡単ではないか。そのハレエレシスを除けばよいではないか。それだけの軍師であれば古参の部下は不満を持っていることであろう。デスペロ直ちに、フィディス、ファルコとハレエレシスとの関係を探らさせよ」

 この時、宰相は武人気質の那破皇子と違って、太子は一癖も二癖もある人物であることを実感したのでした。


 この頃、トラボー等反乱軍は政府軍主力が大打撃を受け、当分の間西にに進軍できないと分かり胸をなで下ろしていました。しかも、反乱軍と政府軍の間には怪物の群れが散在し、壁を作っていましたので、この間に軍の強化や防御陣の構築を急いでいました。彼らは多くの人足を集め、一気に造り上げよとしましたが、資金難に陥り、土塁を盛った簡単なものになったのでした。そこでマレボレは反乱軍の財政が厳しいと知り、フィデス等に代わり、その原因を探るべく、財政担当のホルディウムに尋ねたのでした。その返事は軍師であるハレエレシスが、資金を多額に使っており、メディスの土木工事に回す金がないことでした。マレボレは、国家規模の資金がトラボーも知らない間に軍師によって流用され、その使用目的は分からないことに、はなはだ呆れたのでした。

 彼は直ちに、トラボーやフィデス、ファルコ達のもとに戻ってくると、この事を協議したのでした。

「殿下、盗人等から天下を取り戻そうとしていましたら、いつの間にやら身内に盗賊が潜んでいましたぞ」

 マレボレはそう言うと、ホルディウムが説明した財政状態を語ったのでした。これまで支配地を拡大するに従って、その財政力は増し、多額の資金が彼らに集まる様になっていましたが、それに従って、軍師による使途不明金が膨らんでいました。トラボーは国家レベルの資金が流失しているのに、我が目を疑いました。

「軍師はいったいこれだけの資金を何に使われたのか」

 根っからの軍人であるファルコは、財政には無頓着なので、裏でこの様なことが成されていたことに、裏切られたような気分になりました。

「我々の知らない所で、この様なことが成されるのは問題ではないか」

 フィデスは眉を寄せました。

「軍師には、何かの考えがあるのであろう。敵を寝返らせる賄賂として、使用したに違いない」

 トラボーはハレエレシスを擁護しました。老人の貢献を十分理解していた彼は、憎めなかったのでした。

「しかし殿下、軍師と言えど、主の知らないうちに、金が消えたのは問題です。その使い道について問いただすべきです」

 マレボレが諫めると、フィデス等も同意したので、トラボーはやもうえず軍師を呼んだのでした。

 ハレエレシスは北のカプットの政府軍の動きを調べていると、トラボーから火急の用があるとの連絡を受け、メディスに戻ってみると、一同が揃って待ち構えていたので、これはなにかあると悟ったのでした。

「宰相殿、殿下より、貴殿がこれまで多大な貢献を成されたことは十分承知しています。貴方を軍師としたのも、信頼があるがゆえにです。しかし、財政を見ると、そこは火の車。その原因は貴方が膨大な予算を、食っているからです。その事はお認めになられますな」

 マレボレはトラボーに代わり、一同の前に立ちハレエレシスに厳しく尋ねたのでした。

「確かに、その通りだ。それは仕事に対する私の労賃だ」

 ハレエレシスは平然と返しました。

「報酬と言われるか!」

 マレボレの口から唾が飛びました。

「軍師、なにか理由がるのではないか。訳を説明してもらえないか」

 トラボーは懇願するように、軍師を見ました。

「かつて、仲間にお誘いの時、私は申し上げたはずです。あなた方が目的の為に私を利用するように、私も目的のために、あなた方を利用すると。お忘れかな?」

「そうであったが・・・・」

 トラボーは口ごもりました。

「そんな関係でしたのか?」

 マレボレはトラボーに顔を向けました。

「そういう約束であった」

 トラボーは悩ましげにしました。

「そうだったとしても、これはやり過ぎではないか。国家規模の資金が消えるとなると、我々に報告があっても良さそうな物ではないか」

 フィデスは不満を漏らしました。

「ここは皆押さえてほしい。私には軍師の力が必要だ。ただその報酬については交渉したい」

 話がこじれ、内部の争いに展開しそうなので、トラボーは皆をなだめたのでした。

「軍師、もう十分蓄えも有ることでしょう。領地を差し上げるという条件で、今後も仕えてもらえないだろうか?」

「確かにその通り。これ以上は要求しますまい。そうですな、残りは隠棲できる庵でも頂戴すれば十分です」

 ハレエレシスは資金の用途について、トラボーが追求しなかったことに、心ながら感謝していました。巨人が完成した現在、資金を使う必要性がなくなっており、彼の目的は達成されていたのでした。

 ハレエレシスは許されて、下がりましたが、マレボレは金が返還されなかった事に不満を覚え、彼が今後も、裏切りを行うのではないかと疑いの目を向けたのでした。


 その夜のこと、魔法使いを束ねていたファクルタスがハレエレシスのもとを尋ねてきたのでした。金にまつわるいざこざの後であったので、旧友が尋ねてきたことに彼は喜びました。上等の酒を用意させると、向かい合わせに二人は座ったのでした。

「お偉い方が騒がしいが、何かあったのか?」

 フィデス等がなにやら囁き合っているのを、聞き及び、ファクルタスは不審に思い尋ねました。

「儂が、資金を使い込みすぎたので、怒っているのじゃよ」

 ハレエレシスは小さく乾杯をしました。

「お主が、金に執着があったとはな」

「誤解するな。全部巨人作成に費やされて、儂は一文無しだ」

「では道楽遊びが過ぎた奴と言おう」

 ファクルタスは茶化しました。

「あの巨人、儂はこの目で見たぞ」

「どうだった?」

「山の様に大きく、不気味な存在であった」

「飲まず、食わず。眠らず、戦う者か。本当にそうなのか?」

「分からぬ、生き物であれば、必ず眠るものだが」

「アミコスは肉片から巨人を何体も造り上げたんだよな」

「そうだ、私は彼に渡したとき瓶に入るほどの小さな物だった。それを巨大なものに育て上げた」

「大した物だ。我々は単に破壊したりする魔法だが、奴の魔法は何かを作り出す」

「その点は、アミコスが居なくては、達成出来なかった」

「肉片のオリジナルは、完成した巨人と同じなのだろうか」

「姿は同じだろうが、欠落した部分が多いだろう。能力の大半が失われているだろうが、それでも驚異的だ」

「しかし、その様に優れた物を、かの人物は放置してたらしいな」

「魔法博士のダーナが手を付けなかったはずだ。あまりにも資金を使いすぎる。仮に彼が政府内でこの計画を提案したとしても、却下されていただろうな」

「ならば、完成させた、おぬしはただ者はないな」

「そうとも、なにせ魔王の戦いをひっくり返そうとしておるのだからな」

 ハレエレシスの瞳が踊っていました。

「お主の話には、ちとついて行けないところがあるが、道楽にのめり込んでいるのは分かる」

「分かるか」

 二人は笑いました。

「ところで、お主に巨人の作成を依頼したゼノビオスに何故応じたのか?謎だだらけの男なのだろう」

「借りがあってな。昔、カップトの坑道での強制労働で助けられたことがあった。儂は地下の坑の中に閉じ込められ、そのまま死ぬはずだった。そこに彼はやって来て、儂を助けてくれたのだ。どういう魔法を使ったのか分からないが、他の魔法使いの追従を許さないほどの力を持っていることは分かった。その後、隠棲していた庵を訪ねてきて、瓊筵戦争の事情を説明され興味が湧いたのだ」

「命の恩人という訳か。エルガスツルムの独房に閉じ込められいた俺を助けてくれた、お主と儂の関係みたいなものだな」

 ファクルタスは自身と照らし合わせて、分かったようでした。

「ところで、今日はなんの用事で訪ねてきたのだ」

「そうだった。実は別れを告げに来た」

 ファクルタスの言葉に、ハレエレシスの杯が止まりました。

「なんと言った?」

「暇したいのだ」

 ファクルタスは真剣な顔をしました。

「そうか、惜しいな。囚人集団がまとまってきたのもお主のお陰だったのだが」

「聞いてくれ。俺たちはもう、老人なのだぞ。いつまでも野山を駆けて猟は出来ない」

「いいのか、お前を牢にいれた復讐は返せたのか?」

「王は死んだ。それ以上の何を求める」

 ハレエレシスは納得したようすでした。

「ならば、この杯を退官の祝いとしよう」

「すまない。これはお主に忠告だが、頃合いを見て隠棲したどうだ。長く政治の舞台に上がっていると、不幸に見舞われるぞ」

「確かにお前の言うとおりだが、その荒海にもまれて沈んでしまいそうな若いのがいてな、気がかりなのじゃ」

「お主は、世話焼き婆さんみたいだな。舜皇子のことだろうそれは」

「そうだ。最初は利用するだけだったのはずだったのだが、情がついてしまった」

「舜皇子は本物なのか?」

「残念ながら偽物だ。彼の若者に恨みの根を生やさせた悪い人物が居る」

「養父のマレボレだな」

「ご名答。あの者の呪縛からトラボーを解放させてやらねばならぬ」

「それでは反乱に荷担しなかった方が、彼のためになったのではないか?」

「その通りだ。その舞台に乗せたのは、儂の責任だ」

 こうして二人は飲み明かし、翌朝ファクルタスは何処かへと旅だったのでした。


 仮の葬儀を終えた歴山太子は直ちに軍勢を引き連れ、政府軍が集まる支城へとやってきました。南北の丘陵に挟まれたビダ街道沿いに立つこの城は、パテリアが南北に分裂した際の争奪戦が行われた場所でした。政府軍の大軍はこの狭い城内に入れきれず、大軍が平地に野営しており、負傷者が城内に運び込まれ病院と化していました。

 丘陵には新しい墓が次々に建ち、被害の甚大さを物語っていました。太子は城内の負傷兵を慰問すると、丘陵に向かい黙祷してのでした。

 那破皇子は、これま自分が最前線で奮戦し、兵士達を鼓舞したり、労めったりして頑張ってきたのに、王都で道楽に興じていた太子のお株を奪うような振る舞いに、不愉快な思いを抱いていました。彼は、太子を蹴落とし、自分がこの国の王になってやるという思いを隠したまま、兄に従順に接しました。

 太子は、メディスを奪われた出来事について、心の傷をえぐるかのように、詳細に那破皇子に尋ねました。太子は責めたてはしませんでしたが、その問いは、如何に判断したかとか、皇子の力量を問うような質問であったので、那破は悔しさで震えました。

 太子はメデスを奪われたさいの一切の出来事を理解すると、おもむろに竪琴を抱え、奏で始めました。

 兄太子の不可解な行動に面食らった皇子は、この人はなんだろうかと、怪しみました。

暫く、目を閉じ奏でていた太子は語ったのでした。

「ハレエレシスという男、私は欲しくなったぞ」

 太子の言葉に、那破皇子思わず口が開いてしまいました。

「兄上、ご冗談を」

「私は本気だ。その計略に実行力。見上げた物だ」

「逆賊に何を申される。兄上はナティビタスの娘を欲しがったり、今度は怪しげな老人ですか」

 皇子はむきになって非難しました。

「本気も本気。娘は后にするつもりだし、ハレエレシスは臣下にしたい」

「兄上は自由奔放しすぎます。亡くなった父王もお嘆きですぞ」

「お前は頭が固くていかん、その固定概念がいいようにもて遊ばれるのだ」

 那破皇子は、この兄を王にしたはならないと、顔にはださなかったものの心に誓ったのでした。

「負傷した兵士の面倒は看てくれたようだが、ハレエレシスの動向について探りはいれていたのか?」

 この質問に皇子は狼狽えました。メディスの敗戦、怪物の襲撃、王の死と不幸が襲いかかりそこまでの余裕がなかったのでした。

「まず足下を固めるつもりでした。未だ情報を得ていません」

 皇子は悔しさで、歯ぎしりしました。

「分かった。では私の調査を供に聞くとしよう」

 太子はそう言うと、部下を呼びました。

「短期間であったが、敵の動きはわかったか。報告せよ」

 男は一礼すると、語り始めました。

「太子より頂戴しました資金で、反乱軍の要職の人物を買収しました。情報の信憑性は高いと思われます。軍師のハレエレシスと古参の武将との間に以前から不和があり、これを偽皇子のトラボーが取り持ち、なんとか運営してきていたようです。トラボーの養父マレボレがやって来ると、両者の軋轢は増し、トラボーも押さえきれないようになっています。

 ハレエレシスは独善的に、計画を立て、実行するので、後を追いかける古参の武将は不満が大きくなったと思われます。先頃これに拍車を掛ける出来事が起きました、ハレエレシスの軍資金の流用が発覚しました。莫大な資金が何に消えたのか不明のまま決着され、古参の武将に強い疑念をもたらしたようです」

「面白い。蓄財にうつつを抜かす人物とは思えないが。嫌われているのは渡りに船だな」

 太子は愉快そうでした。

「新たに資金を使わす、その金でハレエレシスを買収せよ」

「太子、恐れながら、かの男、清廉潔白で信義に篤い人物と思われます。受け取らないでしょう」

「それでいいのだ。他の者に分かるように、何度も訪れるのだ。本人が潔白な人物だとしても周囲はそうは見ない」

「狙いは、何でしょう」

「離反の計だ。ハレエレシスは寝返ったと、古参の者に思わせれば良いのだ。上手くいけば我々は最大の障害を除くことが出来る」

 太子の狙いが分かると、配下の者は直ちに向かったのでした。

「仲違いは敵に利用されるのだ。この前の怪物の襲撃で気がついたことはないか?」

 弟皇子は太子の問いが分かりませんでした。

「先の戦いで父王は、我が軍の同様の問題をハレエレシスに利用されたのだ。総司令が亡くなった後、後継を、レオポルドス将軍とヨハネス将軍が争った。両者とも相手の下に立つのは嫌いなようだからな。反乱軍はわざと負けて見せ、両者を競わせ怪物の終結地帯におびき寄せたのだ。総司令の座を争う心理が強く働いていなかったら、ここまで罠に嵌まることもなかったはず」

 太子のの教え諭すような態度に、皇子はむかつき、唇を噛みました。

「兄上はこれからどう成されるのです。このまま兵を帰還させるのですか。それともメディスを攻められるのですか」

「無論、メディスの奪還だ。北に迂回して目指す」

「私であれば、魔法使い団を先頭にビダ街道を西に最短を目指しますが」

「それでは、散らばった怪物が元に戻らない。反乱軍は怪物を刺激して、この地に集めたのだ。怪物達は興奮が収まれば、元いた場所に戻っていくであろう」

「そう成りますかな」

「もちろんだ。私は怪物の気持ちが分かるのからな」

 皇子の冷ややかな反応に、太子は戯けました。


 メディスにいるマレボレのもとに一通の書状が届きました。直ぐに彼は書面を開き、一読すると満足そうな顔をしました。彼は書面を手に急ぎ、庁舎内を歩き回り、フィデス等を探し出したのでした。

「吉報ですぞ」

 彼らは足早に近づくマレボレに気がつき、何事と、様子を覗いました。

「これをご覧下さい。ガッリア国が動き出しましたぞ」

 マレボレの差し出す書状を受け取ると、フィデスは一読して唸ったのでした。

「これで我らの足下は盤石なものになるだろう」

「どうしたのだ?」

 気になったファルコは隣に並び、のぞき込もうとしました。

「我々がメディスを制圧したので。ガッリア国が軍を送ることに決定したようだ。今回は怪物に大暴れさせ、政府軍主力の進軍を止めたが、それも何時逆転されるか気が気ではなかったのだが、これで安心だ」

「我らの母国が動き出したからには、西の境界であるベトは直ぐに落ちるであろう。援軍はビダ街道を東進し、このメディスに至るに違いない」

 二人は緊張から解放されたようでした。

「まだ、喜んでばかりは出来ませんぞ」

 マレボレは諭しました。

「政府軍が北から迂回して進軍する件であろう。山間を抜けてくるので、大軍で通過することは出来ない。途中いろんな仕掛けを施ているから、時間稼ぎは出来るであろう」

「そんな事ではありません。ハレエレシス殿の事です。あの方はガッリアの介入を喜ばれないでしょう」

 二人は初めて、そのことに気がつきました。

「確かに、彼の老人。反対するだろうな」

「軍師をこのまま放置されるのですか。彼の人物舜皇子に替わって天下を手にしようとしているのではありますまいか」

「そこまでの、野望は持って居ないだろうが。発言力が強いのは事実だ」

「皇子の信任が篤いので、我々としても如何ともしがたい」

 ファルコは手を挙げました。

「舜皇子は騙されておいでなのです。操り人形にならないうちに、かの人物を放逐せねばなりません。これまでなんの後ろ盾無しに反乱を起こし、軍師の言いなりのままでしたが、ガッリアが背後に着けば、政府軍がきたとしても安心です」

「確かに、局面を打開するために、これまで老人の力が必要だったが、もういらない。母国が本当に動くのか確認してから、老人を追い出すとしよう」

 三人の意見は一致し、時期を覗うことにしたのでした。


 政府軍の野営地では、進軍を前にして、移動の為の準備が行われていました。怪物から逃げ帰った兵士も多く、武具を持たない兵士もいたりして準備にてまどっていたのでした。

 早くに準備を整えた兵士達は暇をもてあまし、こっそりと原っぱで球技を楽しんでいたのでした。すると、兵士の状態を見回りしていた太子がこれに気がつき、連れの者を率いて、彼らのもとにやって来たのでした。

 太子が大勢の護衛を引き連れ、蹴球に興じていた彼らまで真っ直ぐに、やって来たので兵士達は凍り付きました。これに気がついた、隊長は大慌てして、馬を走らせ原っぱに急行すると、太子の前に跪いたのでした。

「殿下、気が緩んでいるあの者等には私がきつく罰を与えますが故に、お許し下さい」

 隊長は必死の訴えをしました。

 太子は、その姿を馬上から見下ろしていると、馬から降りたのでした。

「罰?なんのことだ。楽しそうにしているではないか」

 太子の涼しげな言葉に、隊長は見上げました。

「ずるいではないか。私も混ぜろ」

「はあ?」

 隊長は豆鉄砲を食らったようでした。

 太子は警護の者に、兵士達が武器を所有していないか確認させると、自ら球を小脇に抱えると兵士達の中に入っていきました。太子は兵を二つに分けると、自ら片方のチームに入りました。警護の者に審判を任せると、試合を始めました。最初は太子に遠慮しながらプレーしたいた兵士も何度も、太子に罵倒されると、次第に本気になって球を追いかけました。

 この遊びは、町の祭りで大々的執り行われる球の取り合いの行事が、簡素化し少人数で出来るように変化したものでした。ターン制で攻撃守備と繰り返し行われ、相手の陣地に到達した数の合計で勝敗を決めるものでした。

攻撃側が球を置くと、合図と供に、攻撃側が球をもって駆け抜けようとしますが、守備陣がよってたかって、つぶしにかかります。太子はこの球技には、慣れ親しんでいたので、兵士達が襲いかかるのもものともせず、吹っ飛ばすとそのまま敵陣に突入したのでした。その走り抜ける早さは驚異的で燕の様に敵をすり抜け、ゴールラインまで球をはこんだのでした。太子の華々しい活躍があったものの、味方の守備がザル状態で、せっかくの得点が守備の失態によって帳消しになったのでした。

「負けた・負けた」

 太子はすがすがしい顔で、兵士に別れを告げると、共を連れて去って行ったのでした。

「道楽太子であると聞いていたが。ここまで自由奔放とは思わなかった。ひとまず首が付いているのを感謝しなくては」

 隊長は頭を叩きながら呟きました。

 このことは、将軍に報告され、そして那破皇子の耳にはいることになりました。

「また道楽者が遊びほうけているようだ」

 那破皇子は蔑視の言葉を発すると、剣で机の脚を打ち削りました。太子には自分がふさわしいのだと、怒りがこみ上げてきたのでした。このまま行けば兄が王となり、自分は臣下の身分になってしまう。皇子には焦りに似たものを感じていました。

「殿下、気を安らかに」

 諫めたのはプロディティオでした。

「太子が常識外れの行動を取られることは、皆承知していることです」

「亡き王は何故兄上を太子にされたのであろうか。私が王には一番ふさわしいはずなのに」

「単純に、長子という理由からでしょう」

「馬鹿げて居るぞ。お前は私を王にしてみせると言ったが、その時は何時だ」

「その時期は分かりません。大臣や知事、将軍等に働きかけ手は居ますが、それが実るのは先のことでしょう」

 プロディティオは正直に答えました。

「忌々しい」

 皇子は拳で壁を殴りました。

 翌朝、太子は那破皇子に、兵を率いて北に迂回しメディスを目指すように指示いたしました。そして自らはビダ街道の支城に留まることを宣言しました。諸将は太子自らが大軍を率いて進軍されると思っていたところ、弟君に譲られたので、どうなされたのかと囁き合いました。

 那破皇子はこれは兄が臆したのであると、思い、この機会に諸将に支持を自分に傾けさせようといたしました。彼は早速、諸将と共に支城を出立したのでした。一方太子は支城に籠もると、さいころ遊びに興じたのでした。


 この頃、反乱軍の主力が集まるメディスでは、ハレエレシスに陳情を申し述べにくる有力者は庁舎にひっきりなしにやってきてました。これらに老人は丁寧に対応すると、危害を国民に加える事は無く、今まで通りの商いが出来ると教え諭していました。

 彼を訪れる者の中に、堂々と政府の使いがやってくる事があり、これにはハレエレシスは呆れました。

「敵である、儂のもとに、何故いらっしゃった」

 軍師は怪訝な顔をして、使者を迎え入れまた。

「ハレエレシス様には知恵深き方と知り、太子が私を使わしました」

「道楽者と噂の彼の太子がかな?」

「左様に御座います」

 使者は深々と礼をしました。

「それでどの様な使いなのだ?」

「ハレエレシス様を太子の陣営にお迎えしたい件です」

 これには、軍師開いた口が塞がらなかった。

「儂は反乱軍の参謀じゃぞ。それを分かっておいでかな?」

「そのこと、太子はご承知のことです。太子は先の怪物を利用した作戦の見事さに感心されております」

「王が殺されたというに、恨みを持たぬのか?」

「私どもの耳には、さらし者にされた王の首を返されたのは、軍師殿であることは分かっております。なんで恨みましょうか。むしろ感謝する次第です」

「儂が太子の誘いに、乗って来るとでも思うか?」

「します。軍師殿は反乱軍の中で孤立無援になりつつあります」

「儂がか?」

「古参のフィデス将軍、ファルコ将軍は軍師の活躍を喜ばれていない。その溝はますます深まるばかりです。加えて、皇子殿の養父マレボレが、貴方と皇子を引き離そうとしています。このまま、反乱軍の中にいてはいずれ粛正されるでしょう」

「良く調べたものだな」

 ハレエレシスは諜報力に舌を巻きました。

「義理人情に縛られては、自らの身を危うくします。功績は高い内に去るべきなのです」

「合い分かった。残念ながらそれには応じられない」

 そうして始めての使者と階段は終わりました。

 ハレエレシスは、これは離間の計であると悟りました。

 歴山太子は放蕩息子と聞き及んでいましたが、策士であることを彼は見破りました。強敵が現れたことに、唸ると、これからの戦いが容易ならざるものになると覚悟しました。そして政府軍が大挙して北からメディスへ向かったのは罠であることを、読んだのでした。

 その後も再三、政府の使者は訪れ、品々を送ったのでしたが、ハレエレシスはほとほと疲れ、面会を拒絶したのでした。

 このことは自然とマレボレの耳に入り、彼は軍師を疑いの眼差しを向けたのでした。

マレボレは部下に命じハレエレシスの身辺を探らせ、やっと動かしがたい証拠を手に入れたのでした。

 多額の横領が発覚し、それでもも平然と振る舞う老人に、彼は敵意を燃やしていました。彼は赤ん坊のトラボーを長いことかけて育て上げてきたのに、最近現れたハレエレシスがいいように、利用していることに不満を抱いていたのです。

 ハレエレシスの訪問者の中に、反乱軍のメンバーや地域の有力者と違う、謎の人物の出入りが確認され、その者が伝書鳩で送ろうとしていた書状を盗み取ることが出来たのでした。

 それは短く、このように書かれていました。

「交渉は成功。ハレエレシスは仲間になりました」

 この文面に、マレボレは歓喜しました。すぐさまフィデス達のもとにやって来ると、このことを伝えたのでした。

「老人が裏切るだと!」

 ファルコが声を上げました。

「これは本物か?」

「正真正銘本物です。私は軍師の動きを探らせていたところ、何度も政府の使者が訪れているのを発見しました。そこで、使者の部屋を調べていたところ、この様なものが」

「本当に我々を裏切る気なのか」

 フィデスは慎重でした。

「何をおっしゃいます。かの人物は自分の事しか考えないのです。横領の後、いよいよ我々を敵に売るつもりなのです」

「確かに、我々と老人には打算のつながりしかなかった。この様な行動を起こすのも当然であろう」

「では如何する?」

 ファルコが問いました。

「彼の老人は我々の陣立てを全て知っている。生かして去らせる訳にはいかない」

「そうなるか」

 ファルコは剣に手をやりました。


 三人は直ちにトラボーの元へと向かい、ハレエレシスが敵に寝返ったことを伝えたのでした。しかし、トラボーはにわかに信じがたく、慎重なは判断を求めたのでした。

「皇子、何を躊躇なされるのです、今あの男を追い出さなくては、戦いが始まって、我々に牙を向けられたからでは遅いのですぞ」

 マレボレは必死に説得しました。

「しかし、軍師には我々に尽くしてくれた実績があるではないか。何かの間違いではないのか?」

「何をおっしゃいます。それは自分の利益の為ですぞ、その証拠に多額の横領をしていたではないですか」

 トラボーは迷いました。

「他の者はどう思う」

「私はマレボレ殿の申される通りだと思います。我々はメディスを手に入れ軍師の力を必要としません。そろそろ自立する時期かと」

 フィデスが答えると、続いてファルコも口を開きました。

「俺も同感です。軍師には功績に見合う金は支払い済みです。ここでご引退頂いても何ら問題は無いはずです」

 この言葉にトラボーは迷いを打ち消し、同意したのでした。


 トラボーはハレエレシス呼び寄せ、草花に溢れた庭園の席で話し合いをしたのでした。

「この様な所にお呼びとは何事ですかな?」

 屋外で待ち構えていたトラボーにハレエレシスは、何かあると感じました。

「軍師、まずは席にて一献」

 勧められ、ハレエレシスは向かい合いに座りました。

「この様な、町の中に見事な庭園があるものですね」

「そうですな。しかし、その中にもメディス独自の様式がるようですなあ」

 トラボーは穏やかに話していましたが、他の三人は飛びかからんとするような、厳しい顔をしているのをハレエレスは見て取り、思い切った話し合いが行われるであろうと推測しました。

「軍師には、なにかと助けて頂き、ここまでこれたのは、貴方のお力によるものです。しかし、いつまでもご老人に若い者がすがっているわけにも行かず、自身の力で道を歩むことを決意いたしました」

 やはりかとハレエレシスは納得しました。

「そうですか。しかし、皇子大丈夫ですかな。既にあなた方は太子の離間の計にはまっておいでですぞ」

「それはどういう事です?」

 トラボーは身を乗り出しました。

「太子は遊戯などに現を抜かす道楽者という噂がたっていますが、実態はとんでもない策士です。この件はマレボレ殿がまんまと利用されたと読みます」

「まさか」

「太子は、私を除き作戦を優位に保とうとしているのです」

 ハレエレシスの真剣な顔にトラボーは動揺しました。

「お言葉ですが軍師殿。私が騙されたとは聞き捨てならないお言葉ですが」

 非難されたマレボレが口を挟んできました。

「あなた方は、隣国ガッリアの軍事力を借りようといるが、虎を家に招き入れているのがお分かりにならないのか?」

「何故それを!」

「そうでなければ軍師は勤まりません」

「お言葉ですが、隣国の力を借りるのが何故悪いのですか」

 今度はフィデスが口を挟みました。

「貴方は、いったい誰の臣下なのです。ガッリアの王なのか、それともパテリア王なのか」

 借り物の将に過ぎないと言うことを、案に指したので、フィデスは激怒しました。

「パテリア政府軍の軍事力は強大で、対抗するにはガッリアの力が要る。それだけの事だ。いらぬ疑いをもたれるのは不愉快だ」

「皇子、ハレエレシスの言葉に騙されてはないませんぞ!」

マレボレが唾を飛ばすと、ハレエレシスが応戦しました。

「マレボレ殿こそ。いい加減、皇子を解放されてはどうです。王が亡くなったので復讐は済んだはずです」

 この言葉に、マレボレは慌てて、ますます怒りを表ししたのでした。

 怒号が飛び交う話し合いになったので、トラボーは両者をなだめ、座らせたのでした。

「双方の言い分は、分かった。しかし不仲の状態では国の運営は上手くいかない。そこでだ、誠に申し訳ないが軍師どのには役を退いて頂きたい」

 ハレエレシスの失望した表情に、あわててトラボーは付け加えました。

「これは軍師殿に一時的に退いて頂くということで、これまでの貢献を無視したわけではありません。老後を安んじて暮らせるよう、計らいますので、ここは折れて下さい」

 トラボーの懇願にハレエレシスは、断念しました。

「歩むべき道は自ら決めるもの。それがどの様な結果をもたらそうと、それが正解なのかもしれませんなあ」

 ゆっくりハレエレシスは立ち上がると、一礼して去っていったのでした。トラボーはその後ろ姿を見つめ、自分が三度請い、やっと手に入れた軍師を失うことに、複雑な思いをもったのでした。


 庁舎城を去ったハレエレシスは、その足で馬に跨がり急ぎ、メディスをい脱出しようとしました。彼が身辺をかたづける間もなく、急ぎ脱出を計ろうとしたのは、フィデス等が密かに暗殺を企てていると、読んだからでした。

 その読み通りに、フィデス達は、配下の者を引き連れ、ハレエレシスを亡き者とせんと部屋を襲ったのでしたが、そこはもぬけの殻でした。勘の良い軍師にフィデス等は舌を巻くと、直ちに城内外を調べさせました。すると、西門の番兵が単身馬を走らせるハレエレシスの姿を目撃していました。

「流石、彼の老人抜け目ない」

 ファルコは馬に跨がると、西門から、遠くに伸びるビダ街道を見ました。

「西となると、自分の庵を目指したか」

「なら良いが、そう見せかけ。東に進路を変え政府軍に逃げ込む可能性がある

これが一番厄介だ」

 フィデスは強い危惧を抱いていました。

「では俺は西を目指す。お前は東を探してくれ」

 そう言うと、ファルコは手勢二十人ほどを引き連れ、西門から飛び出していったのでした。ハレエレシスはビダ街道を西に向かっていたのでしたが、幹線道を逃げたのではいずれ捕まってしまうであろうと考え途中、進路を北にとったのでした。

 しかし、彼の行動は農作業をしていた村人に目撃され、運悪く後を追いかけて来たファルコに知られることになりました。道を外れ農道を走ったハレエレシスは、少し安心したのか、馬の足を緩めたのでした。しかしその間、ファルコ達はどんどん追いついてきていて、間近に迫っていたのでした。

 とある村にたどり着いた時、背後から多くの蹄の音が鳴り響いたのでした。ハレエレシスはこれには驚き、森へと逃げ込んだのでした。ファルコ等は村人等に、見知らぬ老人がやってこなかったかと尋ねると、ほんの少し前に森に消えていったと聞き及び、逃がしては成らぬと兵に手分けして追わせたのでした。

 しかし広い森で、捜索は難航し、やっと足跡を見つけ、それを追跡すると船着小屋にたどり着いたのでした。そこには、ハレエレシスのものと思われる馬が、一頭繋がれていたのでした。ファルコは配下は小屋を取り囲ませると、ドアを蹴破り中に入って見ると、そこはもぬけの殻でした。すぐ外に飛び出し、辺りを見渡すと、桟橋には舟の姿は無く、ハレエレシスが河に逃れたことを知り彼は悔しがりました。


 一方、間一髪で危機を逃れたハレエレシスは舟上にありました。彼の後ろでは船頭は櫂ををこいでいました。彼は森を抜け河沿いを走っていると、偶然に渡し場に出くわし、ウンダ河の対岸に逃れようとしたのでした。この様な人通りの少ない場所に船着き場があったのには、少し疑問がありましたが、火急の事態では詮索する暇もありませんでした。水上に逃れたハレエレシスは胸をなで下ろすと、小さく揺れる舟に身を任せたのでした。

「あんな所を一人旅とは珍しい、どうなすった」

 岸から遠く離れた河の中で、船頭は話しかけました。

「なあに、道に迷ってな」

「馬を岸に置いてきたが、直ぐに戻って来るのかい?」

「いいや。そうだ、あの馬は、あんたに差し上げよう」

「本当ですかい。なかなかの馬ですぜあれは。気前がいいね。身なりからいくと、大層裕福な人に見えますぜ」

「そう見えるか?」

「たんまり懐にお金をお持ちのように見えます」

 この言葉にハレエレシスは嫌な予感が走りました。

「ここに持って居るのは小銭じゃよ。家には大金があるがな」

「それは羨ましい。しかし庶民には小銭が貴重でね。ついつい目の前の金に手が行くのでさあ」

 ハレエレシスはゆっくりと剣に手をやりました。

「それは惜しいことじゃな。むざむざ大金を逃すことになるが」

「こんな人気の無い場所を旅をされるのは危険ですぜ。世の中は悪党だらけで、金品を狙った奴やがごまんといます」

「忠告ありがたく承った」

「俺としては、考えたんでさあ。爺さんはいずれ誰かに襲われてしまうてね」

「ほう」

「そこで、その前に俺が頂戴してしまおうと決めました」

 ハレエレシスは振り向きざまに、船頭に切りつけました。しかし、船頭はそれを予期していて、交わすと、大きく舟を揺さぶったのでした。足もとが揺れて立っても居られなくなったハレエレシスは、大きくよろけ、尻餅をついてしまいました。すると船頭は彼に飛びつくと心臓を一刺ししたのでした。

 ハレエレシスは苦痛に顔を歪め、事切れました。

 船頭は薄笑いをすると、ハレエレシスの懐から金品を盗り、遺体は河に投げ捨てたのでした。


 一方、メディスのトラボーは、フィデス等を見かけない無いので、不審に思い、マレボレを問いただしたのでした。するとハレエレシスを追いかけていったことがわかり、彼は狼狽えました。直ちに伝令を走らせ、追跡の中止を命じると、両名の帰還を待ちました。

 最初に帰って来たのは、フィデスで、なんの成果も無く疲れ得ている様子でした。トラボーは彼の表情から、ハレエレシスが無事であることを察し、問いただすことを止めました。次に帰って来たのはファルコで、こちらは苦々しい表情をしていました。

「軍師は無事か?」

 トラボーの問いに、ファルコは顔を歪めました。

「その通りです。私は追いつけませんでした」

 これを聞いてトラボーは、深く安堵し、ファルコを下がらせたのでした。

 青年にとってハレエレシスは良き師でもありました。配下の仲違いから、分かれる事になってしまいましたが、彼については敬愛していました。

 政府軍との戦いが決着し、国が安定したら、再び老人を呼び寄せ、親しく語り合いと思っていたのでした。

 ハレエレシスが難を逃れ、生きていてくれた事に感謝するとともに、これから自分の力で難局を乗り切っていこうと決意したのでした。再び再会したとき、軍師は自分の成長を喜んでくれるであろうかと、彼は期待に胸を膨らませたのでした。

 トラボーが見上げる空には、第三星、トリアドが燦然と輝いていました。



 政府軍と真正政府軍(南の反乱軍)の戦いが続いてしまいました。肝心の主人公達のナティビタスがお休み状態ですが、真正政府の成立を長々と描いてまいりましたので、やはりその転換点はきっちり描かさせてもらいました。

 ハレエレシスの巨人作成の動機ですが、以前お話いたしましたが、当初設定を変更し、背景の組織や歴史など無くしたので、ちょっと簡単なものになりました。ですが、理由としてはこれで良いと思います。

 トラボーがハレエレシスを仲間に迎入れる場面は、第十二回でした。こういう結末となってしまいました。隠居しとけば良かったー。

 ハレエレシスがトラボーとともに庵を出たのは、ワルコを直に見たためでした。またこの時、酷く狼狽したのはプエラがいたからでした。ですからソシウスにバッジを渡すさい、知られてはならないと厳命したのでした。

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