第6回 過去からの伝言
<登場人物>
ビルトス 主人公の師
グノー 主人公の兄弟子
グレーティア 主人公
プエラ 主人公の幼なじみの娘
ソシウス 斧使いの大男(旋風のソシウス)
ホスティス ヘテロ国魔法宰相
センド公 元領主
アビエス センド公に仕える豊穣の魔法使い
三人がカーボに向かって町の通りを進んでいたところ傍らに項垂れて石の腰掛けている男に出逢いました。
その男はじっと動かず、なにか気が抜けたように川の流れを見ていました。
「よお。元気にしているか」
ソシウスが気になったのか声を掛けましたが、男はその声に反応せずに目をうすぼんやりと開いたままでした。
「おい!聞こえているのか」
ソシウスは声を荒げました。
やがて男は虚ろな目で彼を一瞥するとため息をしたのでした。
「なに、この人?」
プエラがかみ合わない二人の間にはいって来ました。
「近所に住む絵描きさ」
「ふーん芸術家なんだ」
興味深そうにプエラは見つめました。
「しっかりしろよ。そんなことだから女房に逃げられるんだろうが」
すると今まで自分の世界に浸りきっていた男が、突然大きく目を見開きソシウスに顔を向けたのでした。
「違う、違う逃げたんじゃない」
男の必死の声が飛んでまいりました。
大人しそうな男が食いつかんばかりに大声を張り上げたので一同は戸惑い顔を見合わせました。
「ちょっとあんた。可哀想じゃないの慰めてやんなさいよ」
責めるようプエラはソシウスの脇を肘でつつくと、馬鹿馬鹿しいといった表情でソシウスは優しく語りかけました。
「そう落ち込むなよ。奥さんちょっと用事で留守にしているだけだから。直ぐに帰ってくるさ」
「それは無理です」
ぽつりと男は言いました。
「そう否定されるとなあ。なんで無理なんだ」
男は悔しさで堪えきれない表情を致しました。
「妻はさらわれたんです」
「人攫いですって。本当なの」
プエラが顔を見合わせるとソシウスは小さく首を振りました。
「ねえ、絵描さん。どうしてそう思うのかしら」
しかし返事がありません。
「だから、さらわれたじゃないんだって」
いい加減にしてくれとばかりにソシウスは頭ごなしに言いました。
「目撃をされたのですか?」
大人しく様子を窺っていたグレーティアが優しく問うと男は顔を見上げました。
「見たんだ。領主の息子が町にやって来るのを。そのあと妻はいなくなった」
しかし彼女にはその意味がよく分かりませんでした。
「なるほどな。そう考えるのも無理はない」
反対にソシウスは納得したように頷きました。
「どういうこのなのよ。私さっぱり分からないわ」
不満そうにプエラは詰め寄るとソシウスは事情を説明したのでした。
「ここの領主の息子てのが、簡単にいうと女たらしなんだ。さらったというか財力をみせつかせ女をころりと落としてしまうんだ。噂では何人もの女がついていってしまったらしい。」
「そうなんだ」
「でもな、こいつの女房はそんな女じゃねえ。誠実で働き者だった。そんな領主の息子についていくような軽薄な人物じゃねえ」
「となると、なにが起こったのかしら」
プエラは風采の上がらない男を見やり、捨てられたのかしらと思いました。
ソシウスは男の肩を軽く叩くと
「俺達は今からその領主の息子が居るカーボに行くところだ。もし奥さんを見かけたら、あんたが心配していると伝えておこう」
そういうとロバの手綱を掴んで道を歩み始めました。
彼女等も近寄りがたい男の雰囲気にそっとその場を離れていきました。
道を少し歩み始めたときブエラが後ろを振り返ると、男は以前と同じように俯き川を静かに眺めているのでした。
ソシウスの町を出て北に向かう道は畑中を突き抜けていました。森は遠くに遠ざかり広い平野に並木道が走っていました。遠くには農作業に従事する農民が見受けられ、犂を引っ張る馬が畑を行ったり来たりしおり、そこのところの地面がどんどん耕されていくのでした。背後から荷馬車が追い越して行きました。前に去り行く農業資材を積み込んだ荷台には子供等が揺れる車体と過ぎゆく景色にはしゃぎながら座っています。
子供達は彼女等を見つけると荷台から身を乗りだして一生懸命手を振りました。見知らぬ旅人に嬉しくなったのか無邪気です。やがて荷馬車は本道から右に曲がり畑道に進んでまいりました。あの大地の先にあの家族の畑があるのでしょう。
森の中の道と違って開墾された土地は周囲が見渡せます。道の遠くから人が近づいてくるのもよく分かります。山から下る緩やかな斜面が広がり、先に行くに従って平坦地になっているのでした。
昼をだいぶ過ぎ夕方も間近い頃一行はカーボの町にたどり着きました。
カーボはマーレと比べれば遙かに大きい町でした。町全体が城壁で囲まれ人の往来も多いのでした。畑道を辿って並木に導かれるようにやって来ると眼前に灰色の城壁が立ちふさがるように横たわって見えるのです。マーレの町にはこの様なものなどなくどこからでも侵入可能の節操のない町並みなのですが、ここは重要な町であり人の災禍をうけこのような強固な姿をもった都市になったのが分かりました。
城門に近づくと、ますます城壁は見上げるほどに高くなっていました。よくこれほどのものを積み上げたものです。壁の上には旗がはためき、上から見下ろす人の姿がありました。城門には兵士が待ちかまえ不審者がいないか見張っています。
変化のない退屈な日常の仕事にやや機械的に処理していた二人の守衛は、見知らぬ旅の二人の娘を見つけると陽気にしつこいくらい語りかけたのでした。
特にグレーティアは質問の集中砲火を浴びて返答に困ってしまいました。話の内容は詰問といった任務によったものというより、女性にお誘いの声を掛けるといったものでした。
それは放っておいたら何処までも続くようで、彼女らの背後からソシウスは大きく咳きをしなかったら止まることを知らないものでした。
二人の守衛は女性の連れが大きな男で不愉快そうに此方を見ていたので、仕事の顔に立ち戻り三人を通したのでした。しかし去り際にまたここにおいでと誘いの言葉は忘れませんでした。
ここで彼女等は邪魔だと思っていたソシウスの意外な効果を見いだしたのでした。
城門をくぐって中にはいると家々が立ち並ぶ町並みがありました。
碁盤の目状に町の中を通路がはしり計画的に整備されたものでした。マーレの田舎町に比べれば人の数といい建物の数はもちろん上回るているのは当然としても整然と整えられた町並みは美的なものを感じさせました。
町の中央部にある広場はゆったりとして優美な作りがされていました。あちらこちらにある彫像も優れた芸術家の手によるもので、それらが宮殿でなく広場や通りに立ち並ぶのは為政者の美へのこだわりを感じさせるものでした。町行く人も厳しい顔のものは見受けられずどこかのんびりとした空気を漂わせる町でした。
「さーて。カーボに到着したが。今夜一夜を過ごしたら明日早朝ここを立つとしよう」
ソシウスは辺りを見渡し警戒しました。
「こんなに人がいるんじゃ。誰が追っ手か分からないわね」
プエラは困ったように指を頬に置きました。
「まあ、そうだがここはマーレと繋がる町の近くに位置する。用心にこしたことはない。それに敵の魔法使いも殺していることで。この町に目が向けられているはずだ」
「この町はマーレとどんな位置にあるの」
「この町は盆地になったこの辺一帯の中心の町だ。主要道は西に行く道が2本、そのうち一本が一旦南に向かいアグラチオの山々の北を西に向かいベナールへ向かう道。つまりお前達がやって来た道というわけだ。東に向かう道はホーレンの町に至る。この町には南北に道は走り北はビタ街道に繋がり南は南下し途中左右の分離し東はコメの港町へと向かい、西はの道はアグラチオ山系の南を西に走りマーレに達しさらに西に向かう。こんな感じかな。敵の探索網はマーレを東西に走る道路づたい、さらにホーレンの南北に向かう道筋、さらにコメから東へ向かう道筋に張り巡らされたはずだ。お前達の山越えの選択は正しかったといえる。しかし運悪く魔法使いと遭遇してしまったので、探査の目はこの一帯に張り巡らされたはずだ」
「私たちは、あなたの町で長居をしてしまったという訳ですね」
グレーティアは反省しているようでした。
「あれは仕方ないだろう。打撲や火傷を負い旅は不可能だった。とにかく宿に姿を隠すとしよう」
促すようにソシウスは手綱をとり一同を宿に導こうとしました。しかしいつの間にやら3人の若い男が近寄ってきて、彼の横を素早く通り過ぎると彼女等に語りかけたのでした。
「見ない顔だね。町の娘じゃないんだろう。どこから来たの?」
追っ手ではと少し緊張が走りましたが、彼等の様子を観察してみるとなにも考えてなさそうなただの軽薄な若者にしか思えませんでした。そうなるとなれなれしい態度が少しうっとおしくなるもので彼女等は無視して歩き始めました。
「変なことしないよ。この町初めてなら案内しようと思ってさ。どうかな」
彼等はなお食い下がります。
「結構です」
グレーティアが返事すると、男は絶望したかのような大げさによろけてして見せました。
「あんたたち、邪魔なの」
プエラが厳しく言うと
「あ、俺達この娘が目当てなんで」若者等が返事したものだからプエラの怒りの炎が燃え上がりました。プライドをずたずだにされて若者の首を絞めかねない様子にあわててソシウスが割り込んできました。
「おい、俺達になにか用か」
しかし若者達はそれには気にも留めずに彼女を腕を掴むと無理矢理、美味しい店を知っているからとひっぱり回そうとしました。その時です。男達が驚くような仕草をして手を放しました。彼等は何が起こったのか分からず豆鉄砲を食らったような表情をし硬直いたしました。あまりにも驚くことが起きたのでしょう若者達はすごすごとその場を離れて行ったのでした。
「相棒、魔法使ったろう?」
ソシウスがそっと囁きました。
「弱い雷撃をね」
「そりゃー痺れたろうなあ。にしてもこの町は平和というかなんというか。さかりのついた奴が多いな」
彼は苦笑しました。
一方プエラは魔法で焼き殺せばよかったのと叫いていました。
彼女も蠅のようにつきまとう男に碧碧していましたし、どうしたものかと考えました。
ふと周囲を見渡すと少し離れたところに女性が佇み此方を食い入るように見ているのに気が付きました。不思議がっているのか、日常の出来事として眺めているのか定かではありませんでした。しかし今の事件の一部始終を知っていたとしても魔法が用いられたとは分からないでしょうから案ずることもあるまいと彼女は思いました。
広場に何時までもいるとまた誰かと関わり会わなくてはなりません。早々にこの場を立ち去ろうとしました。しかしその期待に反して、どこから呼び止める声がしました。
「ソシウスじゃねえか!」
声がした方向を振り向くとかっぷくの良い軍服姿の男が陽気な顔をして立って居ました。
「不味いな」
ソシウスは呟きました。
「元気だったか」
その隊長の記章をつけた男はがっちりと抱き合うと高らかに笑いました。
隣町の事です。ソシウスの知り合いに出逢っても当然でした。
「英雄のお出ましだな。話は聞いて居るぞ。怪物を一人で仕留めたんだなってな。お前は一族の誇りだな」
どうやらソシウスの親戚のようでした。するとプエラはそっと彼女に耳打ちしました。「彼と一緒にいるとかえって目立つんじゃない?」
「のようだけど、彼の土地勘がなければ包囲網から逃れることも難しいし。このまま様子を見よう」
親戚らしき男は初めて二人の連れに気が付きニヤニヤしました。
「おいおい可愛娘二人も連れているのか。いいとこ見せようてわけだな。よし賞金の受け渡し場所に案内してやる。ついて来な」
そういうと男は部下とともに嫌がるソシウスを引っ張って庁舎に連れて行きました。 庁舎は神殿でも有るかのように荘厳な作りになっていました。
神話をモチーフのレリーフが壁一面に施されており、石柱は綺麗なラインをたもって起立していました。
通された部屋は行政長官の部屋でした。
細工の人形のように横に奇妙に張り出した鼻鬚に顎髭をもった人物は中心に据えられた机からゆっくりと歩み寄ると親しげに語りかけました。
「ジェヴォーを倒したとはそなたのことか。なるほど英雄に相応しい風貌だのう。旋風のソシウスと呼ばれているとか。報告が誤りでないことは会ってみて分かるぞ」
「それは恐縮いたします」
「なんであんな怪物が現れたのか、まったくわからない事だらけでなあ。怪物の生息地から離れたこの町では対抗策を準備していなかったのだ。今回はお主の力で解決できたので一安心したという訳だ。今後は攻撃魔法を使える者を雇わなくてはならないと思っているよ。そうだ、腕を見込んでだがこの町に仕えぬか。その力量眠らせるには惜しい」
「ご厚意には感謝致します。只今請け負った仕事がありまして、お受けできません」
「そうか、残念だ。では賞金にてその礼とさせてもらう」
賞金が運ばれ長官はそれを差し出しとソシウスは恭しく受け取ると、これで無事に終わりやっと宿に帰れそうだと彼は胸を撫で下ろしました。
これ以上目立っては逃避行が失敗してしまいます。
「おおそうだ。大切なことを忘れていた」
早々に立ち去ろうとする彼等を長官は引き留めました。まだなにがあるというのだろうかと怪しんでいるとそんなことはお構いなしに長官は高笑いをしながら皆を招き別の部屋に連れて行きました。
そこには禿げ頭に大きく広がった赤い鬚つけた人物がソファーに座り茶を楽しんでいました。
長官は親しげにその人物に話しかけ、噂の人物を連れてきたことを伝えました。
禿げの男は訪問者に驚き立ち上がると一行のもとまで近づいてきました。
「貴方が一人で何頭ものジェイヴォーを退治にした猛者か。会えて嬉しいぞ」
溢れんばかりの笑顔で手を取って挨拶するので、半ば強制的に連れて来られたとはいうものの親しみを覚えたのでした。
「ここの領主だったセンド公だ、郷土に勇気ある男がいるというので感激されてな。賞金を受け取りに来さい紹介してほしい申されてな」
元領主とはいえその地位は高く、本当であれば椅子に腰掛け顎で動かすようなもですがこの人物は謙虚なる人のようでした。
「物珍しいことがあるとつい気になり怪物退治の話直に聞きたくてなあ。どうだろうか儂の屋敷来てももらえんか」
ソシウスにとっては身分が上の人物から慇懃に声を掛けられ恐縮してしまい、返事に迷い彼女等のを振り返りました。
「いやいや、其方のお嬢さんたちも大歓迎だ。どうかな?」
選択権がソシウスではなく彼女等にあると読んだ元領主は優しく語りかけました。
彼女らは急な申し出に躊躇いたしましたが、お互いに頷き会って受けたのでした。
センド公の屋敷は町の中にはありませでした。町より少し西に行った所にありました。
屋敷というより城で、しかもカーボみたいな城塞都市というものでなく支城といったものでした。軍事のための建物で厳めしい形をしていましたが、城に近づくにつれその様相は柔らしいものとなりました。というのも草木があちら此方に植えられ城の灰色の肌を覆いつくし、みずみずしい緑に赤や黄色青などの花々が咲き乱れていたからでした。どこから引き込んだのか、城内に水路が走っており水面が鏡のように空を映しだし睡蓮の花が白く咲いていたのでした。夕方になり城全体は赤みを帯び始めていましたが、日の高い時間に訪れると鮮やかな色彩を放っていることでしょう。
城の中も同様で無機質な壁に装飾のない明かりとりなど優美さとはまったく無縁な建物であったことが一目でわかりました。しかし今はあちら此方に彫像など珍しい美術品が据えられ華やかさに満ちたものとなっていました。
元領主は庭をたいそう自慢をし、どんな味気ないものでもすばらしいものに変えてみせれると、いかにこの庭を造るのが大変であったとか時々自らが剪定をするのだとか話してみせた。あまりにも気さくなので本当にこの人物は領主だったのだろうかと一同疑念が浮かばないことはありませんでした。もっともだからこそここに付いて来てしまったのですが。
しかし家族の反応は少し違っていました。特に領主夫人は身分の違いについてこだわりが強く、旅の彼等を蔑視の眼差しを向けていました。夫が愉快そうにしているので表面状は笑ってみせてはいましたが目が笑っていませんでした。それは領主の息子も同様でその妻とともに闖入者に不満で、元領主である父親の酔狂に怒りの念をもっているようでした。それと違ったのが一番下の息子でした。かれが一番父親に似たのでしょうか、陽気ににこにこしていました。特にグレーティアに夢中でいろいろ話しかけてきます。食卓の場が明るくなるのはいいことですが、ここにきても質問責めにあうのだろうかと彼女は苦笑いいたしました。この息子が噂に登場する女好きの領主の子なのでしょう。
少し席を離れて女性が席についていました。領主の家族の様ではありませんでした。少し知的な趣の女性で、服装からしてなにか重要な職務にある人のようでした。
酒が酌み交わされていくと、酒の潤滑油により領主の口は饒舌になりソシウスも緊張から解き放されてきたのかさかんに語るようになりました。特に怪物を倒した件では領主も大はしゃぎ。ソシウスの斧を見てはこんな大きなものを振り回せるとは信じられんと自ら持ち上げては感嘆しました。酒が入り領主とソシウスの馬鹿騒ぎの場となった食卓に夫人は愛想をつかして席を立ち、同様に息子夫婦も自室に去ってしまいました。
下の息子は残ってはいましたが、酒にめっぽう弱いようでテーブルにとろけたように崩れ、それでも必死にグレーティアを口説いていました。ろれつが回らなくなり寝入ってしまうと寝室に運ばれていってしまいました。
「私、あんまりしつこいので貴方が昼間みたいに雷撃をお見舞いしはないかと心配したのよ」
運ばれたのを見届けると微笑みながら女性は意外なことを語りました。
「まさか」
「そう、町で見たのよ」
あの時彼女等を凝視していたのはこの女性なのでした。
「誰にも分からないはずなのにどうしてですか?」
「やあねえ、私も魔法使いなのよ。分かるに決まっているでしょう」
「女性の魔法使いと会うのは初めてで、気が付きませんでした」
「アビエスというのよろしくね」
「グレーティアです」
二人は自己紹介をしたところ、それを見ていた領主が陽気に語りかけました。
「紹介しよう。彼女は我が家専属の魔法使い。儂の所の宝なんだ。豊饒の魔法が得意で我が領地に実りをもたらしてくれる。この豪勢な暮らしも彼女のおかげなんじゃ」
領主は自慢げに言うと、気分をさらに良くしたのか杯の酒を飲み上げました。
「そんな訳で、領地の農作物の生長を助けるのが仕事なの。結構地味なのよ」
「でもそれは大切なことなのでは。でなかったら領主からこんなにも優遇されませんし」
「時々思うの。こう火炎とか出してはではでに怪物退治もいいかなって」
「それは危険と隣り合わせですよ」
彼女がたしなめるとアビエスは確かにと相づちを打ちました。
「でも私は攻撃魔法が仕える娘がいるのが信じられないわ。今回貴女が初めて。どんな訓練をしたの」
「どんなと言われても普通です」
「資質なのかしら」
アビエスは腕を抱えました。まったく理解できないといった様子です。
「攻撃魔法てそんなに珍しいのですか?」
「それはそうでしょう。現に女性でその魔法を使う人誰がいるの。危険なのよ私たちには」
「危険てどうなるんですか」
「発狂してしまうの。私の友人で攻撃魔法を修行した仲間がいたの。本当にしっかりした意志の強い娘だったわ。でも次第に感情面の起伏が激しくなり奇行をとるようになったわ。最後は自殺してしまった」
「そうでしたか」
グレーティアは攻撃魔法が使えるのは本来自分が男性だからであろうと思い至りました。だとすれば当然のことでアビエスが考えているほど意外なことではなかったのです。
ここで領主の話に聞き入っていたプエラが話に加わってきました。
「ねえ、元領主てどういう事?」
「領主の地位を追われたということでしょうね」
アビエスがセンド公に聞こえないように囁きました。
「今この国の支配者はクーデターによってその地位を強奪したのよ。彼等は強力な軍隊によって封建支配から中央集権支配に仕組みを組み替えていったの。逆らう領主は領地ごと取り上げ廃棄し、従う領主には地位は奪ったもののある一定の領地の所有を認めたというわけ。見てのとおり当地の領主は早めに服従の意を示したので多くの領地と城の所有を認められたというわけ。カーボ庁舎も出入り自由なのも信頼されているということね」
「順風満帆のようで以外と苦労しているのね」
同情するようにプエラは呟きました。
「領主は見かけによらず流れを読む力があるようですね」
「あのつるつる頭のおじさんが?」
意外そうにプエラは大笑いしている領主を眺めました。
「まだ支配力があるうちにそれを手放し、財を守れたのは相当の決断力と判断して良いのでは」
「貴女ただの魔法使いには思えないわね。普通の娘の言葉とは違うわよ。いったい何者なの?」
二人の話を聞いていたアビエスは疑念を向けました。
何者それはグレーティア自身が訪ねたい事でした。いまはっきりしていることは港町から一歩も出た事のない田舎者だということでした。
「見ての通りです」
やむなく拒否したと捉えかねない返事をいたしました。
「見ての通りというと、何処か知性的なのよね。良いところの家でしょう?」
「それはどうでしょうか」
「まあいいわ」
これ以上詮索はしないとアビエスは素っ気ない返事をしました。
「すまんな儂はこれでおいとまする、世話係りは残して行くのでゆっくりくつろいでくれ」
それまで英雄談義に花を咲かせていたセンド公も酔いがだいぶ回ってきてよろよろと立ち上がると執事に助けられて足取りもおぼしく立ち去ってしまいました。
領主につき合っていたソシウスもだらなく椅子にもたれかかっています。
「連れも出来上がったみたいです。ここもお開きですね」
そうグレーティアが言うと
「それじゃお部屋を案内するわ」
とアビエスも応じました。
用意された部屋は上等の部屋でした。ふかふかのベッドにプエラは大はしゃぎ。羽毛入りというのがたいそう気に入って何度も抱きしめていました。
ソシウスはというと寝室に辿り着くと崩れるように眠ってしまいました。今の彼には床でも寝具の上でも同じでしょう。
「まだ少し早いので庭でも散策しませんか」
アビエスがグレーティアを誘いました。しかしこの様な夜更けに庭にでても暗いだけです。いったいなにがあるというのでしょうか。彼女が心配そうな顔をしたのでアビエスは魔法の明かりを点しました。
「これなら大丈夫でしょう。見せたいものがあるの、ついてらっしゃい」
この方が魔法使いであることを忘れていた自分に愚かであったと少々恥かしい気持ちになりました。
アビエスに導かれるまま夜の庭に出ると石像や木々に照明が点されていました。一番綺麗なのは彫像から流れ落ちる水に照明があたりきらきら輝いているところでした。太陽に照らされた庭とは違い暗闇に浮かぶ光の数々は落ち着いた感じの静寂を作り出していました。
「なかなか綺麗ですね。夜に見る町の灯りのようです。私たちの為に準備されたのですか?」
「来客が有った時はね。でも私が貴方に見せたいものはこんなものじゃないわ」
そういうとアビエスは彼女をさらに奥に連れていきました。そこは庭というより整備以前の城の空き地といえるものでした。これから整備をしようとしているのか資材があちら此方に置かれていました。まるで庭の裏方見学にでも来たかのようです。
空き地の先は城の作りがどんどん荒くなっていくのが分かりました。手前の煉瓦は形も整い洗練された作りになっていましたが、奥のものは表面も荒く形も歪になっていました。先には過去の城の一部が待ちかまえているのでしょう。
「ここよ。城の古い建物は地面の下に埋もれてしまっているのだけれども、ここの部分だけが表に現れているの」
示された先をみると煉瓦で組み上げたというより大小さまざまな石を組み合わせ積み上げたものであることがわかりました。きっと古い時代なのは確かと思えましたがそれがどれくらい昔なのかが分かりませんでした。
「煉瓦前の盛り土でなく石積みの城だけどね。この反対側見て欲しいの」
この反対側になにがあるというのだろうかと、回り込んでみると奇妙にねじ曲がった石がありました。近づいてよく確かめると石が溶けて流れているのが分かりました。それは石で有ることを放棄し水になって何条の流れをつくりそのま冷えて固まってしまったことを示していました。
「それなんだか分かる?」
「いいえ。何故この様な」
彼女は何が原因か分かりませんでした。
「それはね魔法で溶かされたの」
「魔法でですか」
「それは多分火炎の魔法によって溶かされたものよ。信じられない高温の魔法がこの城めがけて放されたといっていいわ」
岩を溶かすほどの高温の魔法があるのだろうかと彼女は思いました。
「それはね、はるか昔この国の黎明期に起きた瓊筵戦争の爪痕なの」
その戦争については学んでいました、まだこの地方が沢山の都市国家だったとき弱小国家に過ぎなかったものが辺りを併合し巨大な一国家を誕生させたということを。その時の戦いを瓊筵と言いました。しかしそんな遙か昔に起こった戦争の遺物を目の当たりにするとは驚きでした。しかも現在の自分たちの魔法を遙かに越えた技がなされていたことに驚愕しました。
「いい、その魔法、女魔法使いが放った技よ」
「そんな、攻撃魔法は女性に無理と貴女は言われましたよ」
アビエスは少々頭を掻きました。
「そうなのよね。そこのところがよく分からないの。この地方の伝説によるとこの技を使ったのは芙蓉姫。つまり後のこの国の初代女王「炎王」なのよ。彼女の一撃によって城は溶け落ちたようなの」
「しかしそれは伝説でしょう」
「でも事実がここにはあるわ。誰か放ったのよ、とてつもない技を」
確かにこの証拠は消し去ることはできませんでした。はるか古代の出来事を伝える貴重な資料なのは間違いない事実です。
「それで、私は貴女に興味があるの。あなたも攻撃魔法の使える女魔法使いでしょう」
「かいかぶりです。こんなの人間業ではありません」
彼女が強く否定したのでアビエスはそれ以上言えませんでした。
「まあ、それは良いわ。庭に戻りましょう」
庭の奥から戻るとき二人は押し黙ったままでした。アビエスは若い娘さんを混乱させてしまった事に反省しました。
グレーティアが寝室に戻るとふかふかのベッドで気持ちよさそうにプエラが寝入っていました。ソシウスの家に何日か逗留していたもののやはり疲れのためか深く寝入っているようでした。彼女も横になり今日の出来事を思い起こしました。
黎明期の芙蓉姫は本当にあのような技を使えたのか、師ビルトスの技を遙かに越えて計り知れない力をもつそんなことがあるのか。本当に信じがたいことでした。
それに女性の魔法使いは困難が伴うと伝えられているのに一方ではまったく反対の事があるのでその矛盾に当惑してしまいます。
自分の場合は術をかけられこの様な姿になっているだけなのでこれとは全く関係はありません。しかしそこまで技は到達出来るのだと気づかされました。そして追っ手の魔法使いから逃れるだけでなく早く強くならなくてはと彼女は心に決めるのでした。
翌朝グレーティアは庭に行ってみるとアビエスは木々や草花に向かって手を差し伸べています。静かに近寄っていくと、足音に気が付いたのかアビエスは此方を振り向きました。
「あら、お早いのね」
「おはようございます」
二人は互いに軽く会釈すると仲良く並びました。
「なのをしておいでなのです?」
「これ?これは豊饒の魔法の一つ、草木と会話しているの」
「会話ですか」
「そう、お体は元気?問題はない?と尋ねているのよ」
「そんな会話ができるのですか」
「そうなの、凄いでしょう」
「其方の方が実用的ですね」
「お褒めの言葉有り難う。嬉しいわ」
技が終了するとアビエスは懐からあるものを取り出すと彼女に手渡したのでした。
「これはなんなんです」
「アデベニオのトゥーリス寺院のクリスタルよ」
「クリスタル?」
「貴方のお仲間の旋風の勇者は怪我だらけね。随分戦いをしてきたという感じ。これは瀕死の状態の者でも治すことができる秘術が込められているの。私は平和な生活だから必要ないし、むしろあなた達旅の者に役に立つものと思うの。もちろん一回だけの使用だけどね」
「アデベニオのトゥーリス寺院はどんなところですか」
「あらそれに興味あるの?あそこは精神や肉体を治療する秘術があるところよ。女性の魔法使いなら一度は訪れるわ。山全体に霊気は満ちみちているの」
グレーティアはもっと寺院について尋ねたかったのですが、不審を買ってはいけないと自制し、クリスタルを有り難く頂戴いたしました。
するとアビエズは思い出したかのように語りかけたのでした。
「この庭には昨晩の美しい照明だけでなく、不思議な音色を出すものがあるの。行ってみない?多分気に入ると思うのだけど」
「そうですね」
昨日少々感情的になったのをグレーティアは反省していました。
二人は池の周りに木々が立ち並ぶ場所を抜けて別の庭へと出ました。ここは地面に緑の芝生が広がっていて回りを白い石が囲んでいました。朝の光に照らされて木々が鮮やかに映ります。朝の涼やかな風が木々を通り抜け二人の間を駆け抜けて行き、その先では小鳥たちが地面に降り立ち忙しそうのはね回っていました。敷石には人らしき形の影が落ちており、その影の元を追っかけると人の背丈ほど石群にありました。それは庭の左右に向かい合って八体の白い彫像が立っておりどこか荘厳な感じがいたしました。
「では演奏会とまいりましょう」
アビエスは演技たっぷりに申し述べました。そして彫像めがけて手を打ったのでした。すると音は彫像に反響し複雑な音となって帰ってきました。
「どう面白いでしょう。ではこれはどうかしら」
この度は立て続けに手を打つと音は奇妙な変化を作って音の高低を作り出しました。
「一緒にやってみましょう。きっともっと変化が起きて綺麗な音色になるから」
言われるまま彼女は二人して手を叩いてみると、音は石像に反響しシャボンの泡を思い起こさせるような透き通った音色の返してきました。二人は嬉しくなってリズムを付けて叩いてみると今度は風が流れさるような金管の音が響きわたりました。
叩けば叩くほど音はどんどん複雑になっていろんな音色を出すようです。
「これはなんなのです?」
「私も分からないの。ただ黎明期の建物から発見された石像らしいわ。音楽でも楽しんでいたのかしら」
グレーティアは古い時代の遺物になにか不安を覚えました。
二人は宝石箱のような音色に楽しくなってきましたが、彼女は別の音の変化に気が付きました。それは反響した音が止まらなくなっていたことでした。しかも音は反響する度どんどん高音になって行き耳障りなものとなってきました。金属と金属がこすれるような音がしたかと思うと耳をふさがないと立っていられない位のものになりました。
この時、これは音を楽しむものでないと二人には分かりました。しかしその時は既に遅く反響はどんどん拡大し押しとどめるには間に合わないものとなっていました。
暫くすると石像自体が白く光り始め唸り初めました。
「どうしたのかしら、今までこんな事なかったのに」
苦痛に耐えながらアビエスは止める方法を探していました。するとなにやら地面を叩く音がだんだん近づいてまいます。その音は敷石に少しずつ傷をつけて次第に力を増しているのが分かりました。頭を割るような音になんとか耐えていたところを地面を揺るがすような見えないものが迫ってきて二人はなんとかかわしたのでした。
音はそのまま通過し背後の大きな木を粉砕してしまい、幹が小さく砕けて辺りに散らばりました。
この彫像の正体がわかりました。それは兵器でした。知らないとはいえとんでもないものを呼び起こしたようです。
叉再び地面を叩く音が響いて他の木々悲鳴をあげて砕け散りました。
「早く止めないと、あれは危険だわ」
焦りの言葉はアビエスからこぼれます。
そしている間にも庭のものは彫像を残して次々に粉砕されていきます。
「私がやってみます」
グレーティアは進み出ると雷撃の一撃を放しました。稲光と空気を裂く音が響き、彫像の一体が閃光を受けて砕け、あたりに小石となって散らばりました。
「あなたの技、人を麻痺させる程度と思っていたら稲妻に威力をつけることが出来るのね」
アビエスはその技に感心したようでした。確かにこの間までは稲妻を体内に通すレベルだったのは確かです。あの魔法使いとの激戦の後、魔法の言葉に変化が生じていたのでした。
「その若さで、中級レベルの技が出せるだなんてどういうことよ」
「ほかの彫像を早く壊さないと」
彼女は厳しく言葉を遮りました。
再び放った雷撃は彫像にはじき出されました。
「もう効果なくなったの」
悲鳴にも似た言葉が漏れました。
「先ほどは不意打ちだったので成功しましたが、あちらも防御態勢にはいったようです」
複数の雷撃が彫像を襲いましたが外されてしまいます。
「打つ手なしね」
「いいえ、攻撃された以外の彫像が協力し合って防いでいるようです」
「ということはどうするの」
「協力させないだけのことです」
彼女はきっばり言いました。
少し間があって放された技は七本の稲妻でした。閃光が散らばったかと思うと一瞬にし七体の石像は粉々に砕け散ったのでした。
石像が作り出していた耳障な音は消えうせ辺りに静けさが戻っていました。アビエスは塞いでいた手を戻すと喜びのあまり抱きつきました。
周囲を見渡すと庭が見る影もなく戦場のあとでもあるかのようにいろんなものが変わり果てた姿で転がっていました。二人はとんでもなく庭を壊してしまったことに、どう申し開きすればいいのだろうかと困ってしまいました。やがて城に響き渡った轟音を聞きつけたも者たちが駆けつけて来ました。最初は警備の兵士でしたが、庭師や掃除婦やら城内の者が集まってきた。もちろんプエラやソシウスも駆けつけたのですが、明らかに魔法の戦いがあったと言わんばかりの惨事に隠密行動どころかこんなに公衆の面前にさらけだしてはいかがしたものかと痛いところをつきました。
そうこうするうちに城主、こと前領主がやって来ると、変わり果てた庭に渋い顔をしていたのですが二人の前にくると高笑いをしたのでした。
「酷い目にあったようだな」
領主の顔は笑みを浮かべていました。
アビエスはどう説明したらいいか戸惑い言葉が出ません。
「これは古の兵器なんじゃ。あまりにも彫像が古風でよかったので忠告を無視して、この庭に運びいれたものなのだが、やはりまずかったようじゃのう」
どうやら元領主は彫像の正体を知っていたようです。
「あの彫像は兵器なのですか?」
「その通り、黎明期のころ昔この地を治めていた王は迫り来る芙蓉姫の軍団から自国を守るべく罠を仕掛けた。占領された地に彫像を残し、姫が近づいたところを暗殺するといったものだったのだ。しかし王のもくろみは甘く、彼女は過ぎ去った後には溶けた岩が転がっているといったものだっんだな。儂がかろうじて残ったものをコレクションにしたのだが危険すぎたようだな」
二人は領主の収拾趣味に呆れるばかりでした。しかし壊した責任を追及される様子もなく胸を撫で下ろしたのでした。
三人は旅の支度を始めました。
プエラはふかふかのベッドとさよならするので寂しそうですし、ソシウスは昨日の酒が少し残っているのかおとなしめでした。
「あの石像を雷撃で壊したのか。以前より威力が増したみたいだな」
「あらそうんなもんじゃないのよね。もっとすごくなるのよね、グレーティア」
二人は魔法の力が強くなった事を喜んでいるようでした。
威力は増しましたしかし以前戦った魔法使いの火炎に比べればそれは弱々しいものでした。あの兵器は年代が経ち力を失ったのでなんとか壊すことも出来たのでしたが、作られた時代であればそれは多分不可能だったでしょう。魔法についてはまだまだ未熟と言わざるをえません。追っての魔法使いが現れれば退けることは出来ないでしょう。相変わらず逃げることしか出来ないのが現状でした。
「実は先ほどの騒ぎである人物を見かけたんだ」
ソシウスは少し真剣そうな顔をしました。
「なによ、またあんたの親戚?」
「おまえたちも知っているだろ、しょぼくれ画家の探していた女房さ」
「ということは、さらわれたって本当だったの?」
「そうなのかは分からないが、ここに居るのは確かだ」
城内を探索という訳にもいかないのでアビエスを訪ね相談することにしました。
意外なことに彼女は全てを知っているようでした。ご亭主が領主の息子にさらわれたと心配してる告げると、彼女は笑いました。
説明によると若様は好色家というより無邪気なのだとか、若い女性を見かけると大はしゃぎで一生懸命話しかけるのも子供みたいな行為の現れであることでした。最近、領地の畑を視察に行た帰りに行き倒れの女性を発見し城に連れ帰ってきたとのこと。拾った女性は十分な食事をとっておらず栄養が足りず、また病のため衰弱していていたので城に留めおいたというわけでした。
「それが事実とするなら人攫いどころか命の恩人となるな」
ソシウスが考え込みました。
「そのご亭主がどれほどの画家か見てみるとしましょう。城主はご覧なようにたいそうな美術趣味。才能が有れば仕事を得ることが出来るでしょう。もっとも今回はとんでもない作品をお持ちと分かりましたが」
「奴は貧乏でそれは願ってもない機会だ。女房殿には大変苦労をかけたようだし、そろそろ本領発揮させなくてはな」
「頃合いをみて使いを送りましょう。そうそう若様は絵描きの奥さんにもう興味はありませんから。ご安心を。最近は旅の魔法を使える娘に御執心ですから」
意地悪く彼女は微笑みました。
もうここに長居は無用です。三人は手短に元領主に分かれを告げると早々に旅立って行きました。領主は物好きで城の門まで見送るとその消えゆく姿を観ていました。
そしてアビエスに静かに語りかけたのでした。
「どう思う?あの娘が、奴らが殺害しようとしている者なのか」
「多分間違いないでしょう。魔法が使える娘はそういませんから」
「我々は雛鳥を見たというわけだな」
領主センド公は感慨深そうにいいました。
「連絡をしないのですか」
「なにを馬鹿な。何故我々が奴らに協力する。」
「追求されませんか」
「隠居者に興味はあるまい。それに儂は天下、国家だのに振り回されるのは嫌いだ」
はるか昔に起こった出来事が語られました。現代は過去と繋がってそこにあるものですから、この物語も過去ので過去の出来事が重要になってきます。
ここまで来てやっと旅らしくなってきました。はたしてこの先そんな事件が待っているのでしょうか。
ですます調の文章いかがでしょうか。読みにくい!かつ文章が下手くそというのが持たれた感想でしょう。
でもこの作品は童話であるという設定から、ぬるくてのったりとした表現でこの先も書いて行きます。ご容赦ください。
さていよいよ次回は二人目の仲間の登場となります。