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第15回 チャリオット

<登場人物>


グノー    主人公の兄弟子

レピダス   黒虎騎士(銀弓のレピダス)

ストレニウス 赤鬼騎士(重戦車のストレニウス)

ソシウス   斧使いの大男(旋風のソシウス)

フィディア  祖母の家へ帰る少女(譚詩曲のフィディア)

グレーティア 主人公

プエラ    主人公の幼なじみの娘



ビルトス   主人公の師(本名ダーナ)

デスペロ   魔法宰相

ホスティス  ヘテロ国魔法宰相

コンジュレティオ 軍総司令

トラボー   反乱軍首魁


歴山太子   パテリア大国王子

蘭公主    パテリア大国王女


コレガ    黒虎騎士、レビダスの友

ソダリス   黒虎騎士、レピダスの友


ブバルス   赤鬼騎士団団長

ファコス   赤鬼騎士

クラデス   赤鬼騎士


トリス    ストレニウスの父親

ソロア    ストレニウスの妹

ビリー    ストレニウスの兄貴分

マリラ    ビリーの妻


カリディアス ルミエ知県,行政長官

ガナイ    カリディアスの養子


 黒虎騎士のコレガとソダリスは王都フローレオの西門をでるとビダ街道を西に向かいました。目的地はレピダスがいたとされる町でした。幽霊探査という馬鹿げた命令でしたが公主の命とあれば従わざるを得ませんでした。このことを宰相に伝えると、やもう得ないことであるとして許可をされ、ほどほどに引き上げて来るようにと指示を受けたのでした。

「今度の任務は困難を極めるぞ」

 コレガは馬上からソダリスに語りかけました。併走して馬に乗っていたソダリスはけらけら笑いました。

「あいつ、死んでも俺達を振り回しやがる」

「今回の任務は徒労に終わるのは確実だというのに、俺達は何をしているのか」

 コレガはやってられないと首を横に振りました。

「本来であればカプトに出没する女盗賊を退治に向かったはずだったんだが」

「あそこならフローレオからヒパボラ河を北に登ってたところにあるが、ウラナは遙か西にあるからな。辿り着くまでが大変だ」

「その間、女盗賊が大人しくしてくれればいいのだが」

「こそ泥程度でならいいのだが、仲間を引き連れ政府の金庫を狙うからかなり悪質だ」

「変装がうまく、カプトの警備隊は捕まえきれないらしい。その上体術すぐれどんなところにも侵入してくるという」

「捕まえ甲斐があるというものだが、今回はおあずけだな。被害が報告されないことを祈るしかない」

 王都フローレオを抜けるとすぐ大河ヒパボラ河にぶつかりました。この河の川幅は長く対岸は遠くにありましたが、とてつもなく長く白い橋が渡されていたのでした。魔法の力で河の中に次々と柱がうち立てられ、それを足がかりに橋が造られました。強固なため今日まで壊れることはありませんでした。防衛の観点からは容易に都に進軍される危険性をもったものでしたが、経済優先の考え方がこの様な橋を存続させていました。

「これから行く先は、アウダックの反乱の現場に近い。解体した反乱軍について調査をしたおくか?」

 コレガは提案をいたしました。

「それは他の奴らが調べているだろうから無意味だな」

「本当に物見遊山になるぞ」

「お前は仕事熱心だな。それではどうだアウダックを倒した男でも調査するか」

「あの槍の男か・・・」

 コレガは少し考えました。

「あの男、今は一匹狼だが徒党を組み初めかねないからな」

 ソダリスは謎の男に警戒の念をもっていました。

「確かにあの腕前は脅威だ。報告されるように本当に我国に娘を捜しにやってきたのか」

「嘘だろうな。反乱軍の首魁を倒した後、やつは北へ向かったようだ」

「北か、無法地帯に隠れたというわけか」

「あそこには前政権の残党がかなりいる。化け物の地帯に住んでいることから、かなりの技の持ち主だらけだ」

「前政権の上級魔法使いたちがいるとも聞く」

「今では彼奴等黒社会の元締めだ。なかなか手強い相手だ」

 対面からやってきた乗り合いの馬車は彼等とすれ違い王都の方へと走り去ってしまいました。

「そういや、ルーバス地方に怪しい動きがあるらしい」

 すれ違った馬車の乗客を横目で追ったソダリスは言いました。

「やつらいよいよ行動に移る気だな」

「連中はヘテロと結びついているからな、準備万端といったところか」

「軍の主力はヘテロのにらめっこのままだし、守備部隊だけで守れるかどうか」

「反乱者は主に前政権の残骸といったところだな、過去十五年に渡り叩きのめしたがまだまだ屈していないという訳だ」

「間者はとっくに入り込んでいるだろうな」

「それは周到に、内通者がいる」

「しかし、こうも内乱が多発してはな。何が原因だ」

 コレガは疑問を投げかけてみました。

「昔に帰りたがっているやつが多いてことさ。前政権の王は政治に無関心で風流に耽った道楽者だった。だから王になれたともいえるが、王のもと議会において政治運営がなされている建前なんだが、領主が好き勝手に領地でやっていたというのが実体だった。王はお飾りで領主の軍団の前には非力であったんだな。この時我らが王が立ち上がり強力な軍団を創り上げ領主を滅ぼし、東方の国の制度を参考に中央集権的な国をうち立てたという訳だ。結構手荒いことをしたからな恨まれているてことかな。もちろん15年もたって治まらないというのは火を点けて回っているヘテロという存在もあるが。」

「それじゃ俺達が火を消して回っても、終わらないな」

「おかげで俺達は失業しないだろう」

 ソダリスは愉快そうに笑いました。

「そう言えば知府が殺された事件は知っているか」

 思い出したかのようにコレガは言いました。

「赤鬼騎士の連中の事件だな。頭がおかしくなった騎士が長官を暗殺したということだが」

「報告では有能な知府の死を悼むものだったが、実際は逆だったようだ。王位を奪取した時の仲間によからぬ奴が混じっていたということらしい。まあ、最初は善良でも王に委ねられた地で癒着していったもかもしれんが。我々自身も政治の魔力に変質し始めているのかもしれん」

「我々が錆び付き初めているだと。残念ながらその詳細については知らないのでなんとも言えないが」

 ソダリスは少々不満そうな顔をしました。

「珍しいな。それじゃ俺が語ってやろうか」

 コレガは自慢げに胸を張り

「金は払をないぞ」

 とソダリスは応じたのでした。



 半年も前の事、首都フローレオでは西方に起こったアウダックの乱に総司令コンジュレティオを向かわせるかどうかで協議が行われていました。南方より流れ住み着いたアウダックはシルバ近辺より無頼漢を集めると瞬く間の勢力を拡大し、ビダ街道の一角を手中に収め見過ごすわけにはいかない状態になっていました。このまではラセオ河のベトは兵站を遮断されガッリアを前に孤立状態となってしまいます。この事態にコンジュレティオは早々に解決すべく遠征の準備取りかかっていました。ところが東方ヘテロにて怪しい動きがあるとの報告を受け、予定を変更せざるを得なくなったのでした。

 ヘテロは先の戦いの後、一年ほどムルティ山脈の反対側に退き南下する様子もありませんでした。籠もって動こうとはぜず、パテリアには平穏な日々が過ぎていたのでした。今回なんの前触れもなく動き始めたのはアウダックの乱に乗じてユンクタス河下流の支配をもくろんだものと推し量られました。さらにヘテロに近いルーバス地方にて反乱が芽生え始めておりこれが連動してしまうと収拾がつかないこにもなりかねませんでした。

 アウダックの乱を平定後ヘテロの軍を迎え撃てば、後方の憂いもなく戦えるというものでしたが、軍を西に向かわせ戦いの後、東に急ぎ転進させることは兵を無駄に疲弊させてしまい戦いを不利なものとしたしまいます。さらにキャンプスを敵の支配下に置かれるおそれもあり無謀なことは出来ませんでした。ヘテロが小規模な軍事行動であれば良いのですが主力が登場ともなれば、こちらも主力を投入しなくてはなりません。ヘテロの軍は強くその機動力は脅威でした。

 結局協議の上出た結論は、主力はヘテロの南下を阻止するため東に向かい、かつルーバス地方に睨みを効かせるといったものでした。西のアウダックは勢力を拡大させているとはいえ組織化さてたものでなくばらばらの行動が見られ、ルースやアデベニオ近辺の兵にコンジュレティオ軍の一隊を加えてたもので拡大を抑えるには十分との判断がありました。


「団長こんな時、俺が抜けて大丈夫なんですか?」

 引き締まった筋肉を持つ青年は親指で自分を指しながら、不服そうに言いました。

青年は体も大きく、背中に背負った太い長剣が飾りでないことは誰ににも分かることでした。

「かまわん。お前はイプセにてやれねばならぬことがある。ついでに故郷のルミエに帰ってくるがいい」

 青年に負けず大男の団長は、重い鍛錬用の道具を両手で持ち上げていました。

「しかし、内外に敵を控え余剰の兵はいないはず」

「今度がお前の初陣になるはずだったことは分かる。急ぐことはない。戦いは瞬時に終わることもあるが、何日も待つこともあるのだ」

 赤鬼騎士団の団長ブバルスは余裕の表情でした。

 この騎士団はコンジュレティオ配下の精鋭部隊でした。総司令配下には優れた将が数多おりそれだけでも勇猛な軍団でしたが、さらに危険な任務す遂行するために組織されたのがこの騎士団でした。この訓練は厳しく、どの様な悪条件でも戦えるようにと鍛えられていました。

 青年の名はストレニウス。数々の修練に耐えて、先頃団員として認められたのでした。重い長剣を軽々と操り、同じ騎士仲間5人を相手に薙ぎ倒したことから、重戦車とのあだ名を付けられていました。その能力は戦場にて遺憾なく発揮されるはずですが、今は機会もありませんでした。それ故かワインレッド甲冑はまだ煌びやかに光沢を放しており、幾多の戦いを経たものでないことを物語っていました。

 浮かない顔をしたストレニウスに陽気に語りかけるものがありました。騎士のファコスと騎士クラデスでした。

「まあ団長の命なら、従うしかないな」

「せいぜい今のうちに女遊びでもしたおくんだな。戦場では騎士は規律が厳しいぞ」

 二人はけらけら笑いました。

「そんなに女の尻追っかけているように見えますか?」

「見える」

「酷いなあ」


 このようにしてストレニウスは初陣の機会を失い、イプセにつまらぬ用の為都を後にしたのでした。これについては何時死ぬかもしてない戦いを前にして一度故郷に帰しておこうという団長ブバルスの親心があったことを彼は知る由もありませんでした。

 しかしこの事がストレニウスの運命を変え、敵となって騎士団にまみえることになるとはこの時は誰も想像もつかないことでした。


 ユンクタク河のイプセより西、ヒュームス平原の南端にルミエという町がありました。この町は穀倉地帯である平原が海に果てるところのにあるためか、農産物や魚介類が採れる豊かな土地でした。この町がストレニウスの故郷でした。

 故郷を発ってもう五年が過ぎていました。町の様子は昔と変わりなく穏やかな空気が流れていました。ルミエはイプセなど大きな町比べると規模は小さいのでしたが、この一帯を統治するための府が置かれ、中心的な町でした。北を見渡せばどこまでも広がるヒュームス平原。麦の畑が彼方まで広がっています。ヒュームス平原は大穀倉地帯で、この国の食の源泉でした。パテリアの東に位置しヘテロに近いところから、パテリア国はヘテロの南下によりこの一帯を抑えられては食を支配されることになるので大変警戒していました。ルミエの南には広がる海がありました。水平線の彼方には見知らぬ国があるようなのですが、青い海に青い空が見えるだけでした。

 ストレニウスが町の門まで来たとき子供に出逢いました。最初見かけたとき誰だか分かりませんでしたが、五年前はまだ小さかった子が今は背も高くなっていたことに驚き、過ぎた年を感じました。また昔よく町で見かけふさふさのおじさんの頭がつるつるになっていたのでこれもそうなのかと彼は小首を傾げました。町の大通りを外れ裏通りに進むと生家はもう間近でした。ここまで来ると顔見知りの人々に出逢い、相手は彼を見ると驚いたように近づいて来ました。ストレニウスは赤鬼騎士となったことは近所で知れ渡っているようで、子供達が集まってきて憧れの眼差しを向けたのでした。

 家に辿り着くと、庭は道具で散らかり放題で、なにやら一生懸命家を修理しているようでした。梯子の先を追いかけると屋根に乗り金槌を打つ人の姿がありました。

「親父かえったぜ」

ストレニウスが呼びかけると、屋根の上の男は腕を止め下を見下ろしました。そこにはたくましく成長した息子の姿がありました。

「おまえ帰ってきたのか」

 突然の帰宅に父親のトリスは驚き、嬉しそうな顔をしました。

「イプセに用があって、ついでに此方に回ってきたというわけさ」

「そうか、家の中に入っていろ。直ぐ降りてくる」

 家の中は五年前とさほど違いはありませんでしたが、相変わらずの散らかり放題で片づけるということを知らないようでした。彼の記憶では母親が生きていたころはもっと整理された部屋でした。ストレニウスがソファーに勢い良く身を投げ出すと、その振動で周囲のがらくたが床に転げ落ちました。

 その落ちた音を聞きつけて、奥から娘が怪訝な顔で出てまいりました。彼女は床に落ちたものを呆れたように拾い上げる男の姿に目を大きくしました。

「お兄ちゃん!」

 妹のソロアは駆け出すと、おもいっきりストレニウスに抱きつきました。せっかく拾い上げたものが辺りに散乱しました。

「突然帰ってくるだなんて、どうして連絡くれなかったの」

「俺は仕事に来たんだ」

「まあ、いいわ。どう私大きくなったでしょう?」

「まったくだ。見違えた」

「お兄ちゃんも騎士殿ね。私、鼻高々だわ」

「お前は母親か」

「もちろんよ。お兄ちゃんは女に惚れやすいから私の監視つき」

「よせやい」

 兄弟の会話を父親のトリスは楽しげに聞きながら近づいてきました。

「どうだ飲むか?」

 父親が差し出したのは、地酒でした。アルコール度は低く、この地方の果実の薫りがする酒で、一般的にお茶代わりに飲まれていました。

 ストレニウスは乾いた喉を癒し、久しぶりの味に満足した様子でした。

「五年も経つと一人前だな。見違えるほどたくましくなったな」

「親父それは褒めすぎだぜ。俺はまだ見習いだ。その証拠に使いっ走りをしている」

「なんだちゃんと仕事もらっているじゃないか」

「赤鬼騎士は戦ってどんだけなんだよ。敵に名を知られる位でないとな」

 ストレニウスは反発しました。

「お前の動機は女にもてたいからじゃないのか?」

「じゃないの?」

 妹のソロアはまねをしました。

「馬鹿をいえ。親父、俺の理想を知らないな」

「いやなに。お前がやたら女に浮かれちまう性格を知っているからな」

 皮肉っぽくお父さんは言いました。

「いつそんなことがあったか」

「六つの時から女好きだ」

「お兄ちゃん早すぎる」

 ソロアは声をあげました。

「嘘だ!」

 息子のふてくされた顔をみてお父さんは愉快そうに笑いました。その後父親は息子の騎士団での修行の様子を訊ね、息子はいろんな出来事を語って聞かせたのでした。

「そういや、兄貴は元気にしているかい?」

 ストレニウスが訊ねると、父親は少し戸惑った表情をみせ、静かな語り口調で伝えました。

「彼は少し困った状況に置かれている」

「なにかあったのか?」

 ストレニウスは兄と呼ぶ人物は実の兄ではありませんでした。近所の年上のビリーという者で、幼いときから彼を可愛がっていつも一緒に遊んでいたので、ストレニウスは実の兄のように慕っていたのでした。彼が赤鬼騎士見習いに採用された時たいそう喜んだのはこの人物でした。ストレニウスはかつて近所の綺麗なマリラというお姉さんに憧れの心をもっていました。しかし歳も離れていて恋愛の対象でもなく、彼女が選んだのが兄と思っていた人物でした。ストレニウスは淡い恋心を砕かれてしまったのですが、その相手があのビリーなので深く納得し二人を祝福したのでした。兄はこの町の書記官となり社会人の一歩を歩み初め、自分は遠く都に去ってしまったのでその後の事は知り得ず、二人がその間に結ばれて幸せな生活をしているとばかり思いこんでいたのでした。

「彼の妻が無頼漢に言い寄られ困っているのだ」

「なんだそれは?」

 ストレニウスの心の中から不愉快な気持ちが沸き上がってまいりました。

「いかんともし難いことなんだ」

「なんだ。その諦めたような言葉は。そのふざけた野郎は誰なんだ!」

「ガナイという人物だ。誰も逆らえない」

「逆らえない?どいういう事だ」

「一年前行政長官・知県が突然亡くなって、代わりやって来たのがカリディアスという人物だ。噂では道化だったのが、王に気に入られ役を任されたということらしい。まったく不適切な人物で評判は悪い。賄賂を要求する奴なんだ。問題なのがその養子だ。ガナイは欲しいと思ったら難癖をつけ、権威を笠に強奪するやからで、疫病神なんだ。その魔の手に二人はかかってしまったと言うわけだ」

 ストレニウスにはさっぱり分からない名前でした。

「その疫病神が二人にどうしたんだ」

「マリラを狙って家に押し掛けるらしい。あの娘も美人だからな。しかし人妻に言い寄るとはとんでもない奴だ」」

 これを聞いたストレニウスは心中穏やかでなく、人妻に手を出す悪党はぶちのめすに決まっていることだと、彼は怒りの炎を燃え上がらせたのでした。

「親父、ちょいと兄貴のところに行って来る」

「まて、騒動を起こす気か!」

「心配しないでくれ。事情を訊くだけだ」

 勇ましく家を飛び出ようとしたストレニウスでしたが、はたと立ち止まってしまいました。後ろを振り向くとにっこり笑って妹を手招きいたしました。

「ソロア。兄貴は今何処に住んでいる?」

「もー。お兄ちゃんてそそっかしいだから。それでは保護者の私が連れていってあげるとしようかしら」

 ソロアは椅子から、ぴょこんと立つと外に飛び出て行きました。その後を追いかける息子の姿を見て、騎士とはいってもまだまだ子供だなとトリスは思いました。


 ビリーとマリラの若い二人の新居はそう離れたところには有りませんでした。ストレニウスがその家に近づいていくと、家の門でなにやら言い争いをしているようでした。周囲の者は関わり合いを恐れてか遠巻きにしていました。

「俺様がわざわざ訪問してやってのに、なんだその対応は」

 ゴボウみたいにひょろひょろして浅黒い男は胸を反って家の主に詰め寄っていました。その男の後ろには体格の良い4人の男が控えていて、周囲ににらみを効かせていました。

(こいつ等がガナイて奴なのか)ストレニウスは思いました。

 家の主はビリーでした。彼はガナイに胸元を掴まれされるがままでした。その様子を遠くからストレニウスは静観してみることにしました。するとガナイの取り巻きがビリーに対し突きや蹴りを放し始めたのでした。しかしこれに逆らうことなくビリーはじっと耐えていました。

「なにやっているんだ兄貴は、どうして手を出さない!」

 歯ぎしりをしながらストレニウスは怒りに燃えました。

「お兄ちゃん、警備の人呼びましょうよ」

「無駄だな。あそこの隅に二人既にいる。親父の言っていたように誰も手を出せないらしいな」

 ソロアが示された方を向くと、確かに警備の男が暴行がなされるのをただ傍観しているだけなのが分かりました。彼女が其方に気を取られていると、ストレニウスの大きく叫ぶ声がしました。

「そこの糞野郎共、止めないか!」

 辺りのものはその声に驚き、ビリーから視線をストレニウスに移したのでした。

 無抵抗のビリーを殴っていたガナイは腕を止め、自分に罵詈雑言を与えた人物を凝視したのでした。

「貴様か。俺様を愚弄した奴は」

 ガナイは眉間に皺を寄せてストレニウスを睨み付けました、

「そうだ。俺はお前が手を出している人物の弟分だ。いい加減止めてもらおうか」

 堂々と言い放った言葉に周囲の者は驚き、これから起こることに固唾を飲みました。するとガナイの屈強な手下は合図を受けて、全員ストレニウス目がけて走り寄って来たのでした。ストレニウスの周囲の人々は飛び跳ねるように退き、彼と妹だけがそこに取り残されたのでした。

「待て!お前達の相手はこの俺だ」

 再び声が響き渡りました。声に主はビリーでした。かれはよろめきながら立ち上がると近くにあった棒を手に取りました。その姿は先ほどとは打って変わって堂々としたものでした。

「この野郎、痛めつけたのに反省してないな。ぶっ殺してやる」

 ガナイは剣を抜き放すとビリー目がけて斬りつけました。するとどうでしょう、棒は旋風のように舞い、うなりを上げて剣をたたき落とすと、しこたまガナイを打ち据えたのでした。これに手下の四人は驚き、ストレニウスから向きを変えビリー目がけて突進してきたのでした。するとビリーは稲妻の様な早さで移動すると、瞬時に四人を倒したのでした。男達は地面に転がり、うめき声を上げていました。

「さすが、兄貴だぜ。本気を出したか」

 ストレニウスの白い歯が輝きました。

「久しぶりだな。みっともないところを見せたようだな」

「いいや、我慢て奴を教えてもらったさ。ところで彼奴等どうする」

 ストレニウスが地面に転がっている連中を指し示すとビリーは少し厳しい顔をしました。

「こうなったら覚悟をする必要があるかもしれないな。少し釘を刺しておこう」

 こう言うとビリーはガナイの所に歩み寄り、彼の目の前に棒を突きだしたのでした。

「ガナイ殿、我妻にもう構わないで頂きたい。お約束いただけますかな?」

 ガナイは震え上がり、大きく首を立てに振ったのでした。

「ではお帰り下さい」

 この言葉にガナイは恐る恐る立ち上がると、仲間を引き連れてその場から逃げるように消えていったのでした。


 カリディアスは庁舎を後にして屋敷に戻ると、息子の四人の付き人が包帯を体に巻き付け痛々しい格好でいたので驚いたのでした。何事があったのかと問い糾すと町を散策していたとこを、因縁をつけられ一方的に殴られたとのでした。息子も巻き込まれたというので、あわてて彼の部屋に行ってみると床に伏して唸っている息子の姿を見つけたのでした。

「大丈夫か?」

 カリディアスは心配そうにベッドの近くに座りました。

「お父上」

 ガナイは痛くて動けない仕草をすると、今にも泣きそうな顔をしました。

「お前はどうしてこんな目にあったのだ」

「町で綺麗な人を見かけ、そのあとをついていったらある一軒の家に辿り着いたんです。そこで訊ねていくと門前払をうけ、けんもほろろでした。」

「してその美しい女というのは誰だ?」

「ビリーとかいう男の女房です」

「なに。人妻か?」

 カリディアスは呆れたような表情をしました。

「お父さん。そう言わないでくださいよ。それは美しい女なんです」

「だがもう他人のものだぞ」

「あの男よりほんの少しは早く出逢っていたら。もう彼女は僕のものだったのに」

 追い焦がれるようにガナイは胸に手をやりました。

「お前を打ち据えたのは許し難いが、仕方がないことだ。お前も我慢せい」

 そう言うとカリディアスはその場を後にしました。するとガナイの付き人が追いかけてきて語り初めたのでした。

「お待ち下さい閣下」

「何用だ」

「この件につき申し上げたきことがありまして」

「よかろう、語ってみるがいい」

「若様をご避難なく。あれはビリーという男が悪いのです。最初、女は自分のことを独身の娘たと称して、若様をたぶらかしたのです。なんどか家に通ったところ、ある日亭主の名乗る男が登場し、人の女に手を出したのは誰だと強請ってきたのです」

「なに、美人局に引っかかったか」

「しかも、最初から若様を狙った犯行でして、良い鴨と思ったようです。金を要求するとき、お前の親父は人々を苦しめ財を貪る悪党だから、俺が浄化してやるからよこせと申していました」

「けしからん」

 カリディアスはすっかり言葉を信じてしまいました。

「その時です。父親は本当は宮中の道化だ、政治の真似事をやって偉そうにしているが頭はからっぽだ。畑の案山子みたいだと笑っていました。この町にやって来た寄生虫だから駆除をしたやらねばならないなどとも。そうして金を持って来るように若様を痛めつけたという訳です」

「儂をよくも愚弄しおったな。目にもの見せてくれよう」

 過去のことを引き合いに出され、カリディアスは怒り心頭に発しました。足早に屋敷を去ると庁舎めがけて舞い戻りました。


 翌日、ストレニウスが家族を前に都の話しをしていると、血相を変えたマリラがやって来ました。

「あら、マリラさん。そんな慌ててどうなさったの?」

 妹のソロアが出迎えると、マリラは彼女の手をとるとおろおろし始めました。父親のトリスが何事かと側に寄って来ると彼女は泣き出しそうな顔をしました。

「主人が。謀反を企んだものとして捕らえられたのです!」

「なんだって!」

 トリスは声を張り上げました。

「同僚の人が急ぎ、連絡して下さったもののどうして良いか分からなくて」

「ビリーがまさかそんなことを」

「あの人はそんなことはしません」

「そうよ。そんなことするはずないわ」

 ソロアも口を揃えました。

「そいつは、この前の意趣返しだな」

 ストレニウスがトリスの背後から語りかけました。

「ガナイを痛めつけた件だな」

 トリスは眉間に深い皺を寄せました。

「彼奴等、反省するどころか報復してきやがった」

「その話が真実か調べてみるとしよう。もし本当ならビリーの命はない」

「ああ、おじさま」

 マリラまよろめきました。

「ここにいなさい。ガナイから隠れたほうがいい」


 トリスが集めた情報ではビリーは庁舎でいきなり捕まえられたあと、拷問を受け自白を強要されたそうでした。そしてカリディアスの前に引き立てられると大した審議もなく罪状を言い渡されエルガスツルムに送られることとなったという事でした。

「なんてことだ。大罪人ぢゃあるまいし。エルガスツルム送りだと」

「そこはなんなんだ親父?」

「孤島の牢獄さ。ここに入ったら最後、出るときは遺体だ。しかも海に捨てられる。数々の凶悪な犯罪者がここに収容されているが、魔法の力を封じる奇妙な場所なので上級魔法使いも収容されていると聞く」

「不味いな、そんな所に行っては救えないな」

「庁舎内の牢獄を襲うしかあるまい」

「二人でか?」

「馬鹿を言え。お前がそんなことに荷担しては、赤鬼騎士団から追放される。儂達でやる」

「まさか、おつさん達で」

「馬鹿にするな。儂達は数々の戦場を生き延びた戦友だ。いざとなったら昔の姿に戻るだけだ」

「お父さん無茶は止めて。殺されちゃうわよ」

 娘のソロアは猛反対しました。

「ビリーの親父は我々の良きリーダーだった。その一人息子の命が危ないとするなら救わなくてはならないだろう。」

「親父・・・」

 ストレニウスは止めることが出来ませんでした。

「戻ってきてよ」

 ソロアは父親に抱きつくと懇願しました。

「必ずビリーを連れて戻ってくる。お前達はマリラと共に旅の仕度をしていくように。もしもの時はお前達で古都ナティビタスに逃れ、友人アミコスを頼るように」

 そういうと父親のトリスは剣を取り表に出ていったのでした。


 ストレニウスは逃亡用の馬車を用意していました。これは軽装の馬車で三頭馬で引っ張ぱるので、速度も速く追っ手を振りきるのは十分でした。その為に家財道具はほとんど積むことは出来きず、ほとんどの物は家に置いたままになってしまいました。月は三日月で今宵は暗く潜んで行動を起こすには最良の日でした。ストレニウスは父親達の帰りをマニラとソロアと共に城外の林で待ちました。陽気に話すこともなく、ランプに灯りにみんなの思い詰めた顔が照らし出されていました。時々ソロアは待ちきれないように道に飛び出して行きますが、真っ暗な闇があるだけでした。

 こうして長い夜が過ぎゆき少しうたた寝をし始めたとき、遠くから息を切って走ってくる者達の足音がしました。ストレニウス達は飛び起きると林から道に向かってみると、三人の男が立っていました。

「連れてきたぜ」

 ビリーは二人の肩に抱きかかえられ、弱々しくやっと立っているようでした。拷問の後でしょうか体は傷付き痛々しい様子でした。抱いている二人の男も刀傷で傷付き服が血で汚れていました。二人が彼を差し出すとマリアは駆け寄りビリーに抱きつきました。恋人の再開でした。

「お父さんは何処?」

 ソロアが訊ねると、二人は口ごもって申し訳なさそうに言いました。

「残念だが、救出のさいしんがりを務めていたにでおそらく」

「お父さん・・・」

 ソロアは泣き崩れてしまいました。ストレニウスは妹をそっと抱き起こすと涙を拭きました。

「親父の遺言があるだろう。もしもの時は分かっているだろう?」

 妹は小さく頷きました。

「おじさん達の馬も用意してあるが」

「儂はトリスの代わりにお前さん達と一緒に古都ナティビタスに向かう。こいつは町に潜んで、さらされる友の遺体を取り返すつもりでいる」

「父の遺体を・・・」

 ストレニウスは少し考えました。

「ぐずぐずしている暇はない、追っ手がくるぞビリーを乗せて直ぐ出発だ」

 おじさんが指図すると一同は慌ただしく馬車に乗りました。馬車にはビリーとその妻マリラそして妹のソロアが乗りこみ、御者席にはおじさんが手綱を持って待機しました。

「お兄ちゃん、早く」

 ソロアが兄をせかすとストレニウスは首を横に振りました。

「仕事を思い出したんでな、すまんが先に行ってくれ。古都ナティビタスには必ず訪ねてくるくるから」

「なに馬鹿なこと言っているの。私はお兄ちゃんまで亡くしたくないの」

「俺は赤鬼騎士だぞ。信じろ。」

「でも」

 ソロアは少し涙目になりました。

「おじさん、宜しく頼みます」

「そうか分かった。達者でな」

 馬車は動きだし次第に加速して行きました。

「お兄ちゃんきっとよ。待っているから私!」

 去りゆく馬車から身を乗りだし妹が大声で叫びました。その声を残して馬車は闇へと消えてゆきました。


 翌々日、事件は起きました。牢屋を襲った反逆者一味の遺体を通りにさらし者としていたのですが、何者かが持ち運んでしまったのでした。この時、遺体を餌に犯罪者一味をおびき寄せるつもりで兵士を近くに潜ませていたところ、全員切り殺されていたのでした。だれも生きて逃れたものはおらず、戦いは一瞬で決まった様子でした。このことに町ではなかなかな手練れが襲ったのであると噂をしていたのでした。


 海の見える料亭にて、空に突き出た高楼でガナイは叫いていました。

「どうして、思い通りにならないのか。女は手に入れ損なうし踏んだり蹴ったりだ」

「ぼっちゃん、そう嘆かれませんように」

 太鼓持ちは慰めました。

「王都フローレオならば、女もよりどりみどりだというのに。こんな田舎ではどうしようもない」

「そうおっしゃらずに。直ぐに次の女が見つかりますから」

「今回のように、人妻だと厄介だぞ」

「分かってます」

「天にも昇る気持ちにさせてくれ」

「お任せ下さい」

 そう言うお男は一礼しその場を去りました。一人残ったガナイは連れてくる女に期待して杯をあおるとしゃっくりをしました。見下ろす景色には海の白波の中に漁船が漂い、海鳥が空を滑空してまいりました。かれは少し酔いも回ってうとうととしました。

「坊ちゃん、気持ちよくさせてご覧にいれましょう」

 どこからか声がしました。 もう、連れてきたのかと後ろを振り返ると、カーテンを押し開けて姿を現した大きな男が立っていたのでした。その男の目は爛々と輝き、双手剣から炎でも出てきそうに殺気にみなぎっていました。

「おまえは?」

 酔いも一気に醒め、気迫に圧倒されガナイは思わず尻餅をついてしまいました。助けを呼ぼうと声を上げようとしましたが、何故だか喉がからからに乾き声になりませんでした。

「権威を笠に着てしたい放題。そろそろ精算といこうかね」

 慌ててガナイは走りだそうとしたところ、それより早くストレニウスは走り寄ると一振りでガナイの両足を切り落としたのでした。切られた両足は床にゴトリと落ちて、支えを無くした胴体は血を吹き出しながら転げ落ちました。痛さより身の危険を感じてガナイは両腕で必死に体を這わせ逃げようとしましたが、ゆっくり近づいてくるストレニウスに追いつかれ両腕を切り落とされてしまいました。両腕は左右に離ればなれになり、胴と首だけになったガナイの顔は恐怖でゆがんでいました。

「この三本目の足が悪さをしやがるんだな」

 ストレニウスはそう言うと剣を突き刺しえぐりました。そうしてガナイの胴体をテーブルの上に手荒く乗せると、魚でも捌くかのように首を切り落としたのでした。首はテーブルから床に転げ落ち切り口を上にして止まりました。ほんの少しの間ガナイの瞳は瞬きをしましたが直ぐに動かなくなりました。


 カリディアスはガナイが殺されたことに激怒し、兵士を総動員して犯人を捕まえようとしました。しかし成果は無くガナイの首は発見されずのままでした。二日後、政府専用高速輸送車がルミエを発ちすこし行ったところで、何かを引きずって走っていたことに気づきました。停車すると鎖に繋がれた丸い物を車の後ろに発見しました。ぼろぼろになったそれは、白いものに肉片らしき物と毛が付着していて、なにか頭蓋骨のようでした。気持ち悪くなった運転手は鎖ごとそれを遠くに投げ捨てたのでした。



 カリディアスは誰にも気づかられずガナイが殺されたこと。その少し前にみせしめとして晒した遺体が持ち去られるという事件があり、この時謎の人物に伏兵が何も出来ぬままに全員殺されたことになどから、ただ者でないものが事件を引き起こしていると感じていました。


「派手にやりあがったな」

 痛快そうに男は言いました。

「あいつには当然の報いだ」

 ストレニウスは鼻息を立てました。

「しかし、これで犯人がお前であることに辿り着くのも、そう遠い話ではない」

「そうだな。それでもガナイには罪を償わせなくてはならなかった。これで町の娘も安心して通りを歩けるというものだ」

「高い代償を払ったことになったぞ。せっかく赤鬼騎士団に入れたというのに」

「どうせばれるならもう一仕事をしてやる。これが最初で最後の赤鬼騎士としての仕事になる」

「まさかお前、カリディアスを殺るつりか?」

 男は予想もしてなかった事に、耳を疑うように問いかけました。

「当然だろう。民を苦しめる悪党野郎はあの世にいってもらうぜ」

「しかし彼奴は多くの兵で守られている、果たしてそこまで辿りつけるやら」

「それについては考えがある。まあ見ててくれ」


 謎の殺人事件発生後、カリディアスは庁内の守備を強化し不審者を厳しく取り締まっていました。とはいっても昼間のまだ日も高い頃です、闇に隠れて侵入するのと違って怪しい人物が近づこうものならたちまち分かってしまいそうです。そのため警備もややゆるみがちになっていました。

 庁舎正面玄関を警備していた兵は馬にまたがりゆるくりとこちらにやって来る大きな男に気がつきました。その男は赤い甲冑に背中に大きな双手剣を提げ、マントをはためかせながら近づいてきました。守衛はその装束から男が赤鬼騎士であることが直ぐに分かりました。

「警備ご苦労。カリディアス殿に火急の用にて参った。お通しいただけるかな」

 男の落ち着いた態度に、失礼があってはならないと守備兵は急ぎ道を開けました。彼等は庁内の奥に進み行く騎士の姿に、何事があったのかと興味深げに囁きました。

庁舎の中では一定の間隔を保って警備の兵が配置されていました。ここで何事かあればたちどころに多くの兵が集まって来るあろうことは予想がつきました。此処まで三重の塀が取り囲んでおりその出口は狭いものとなっていました。庁内に入るのも難しいとこですが、逃れることも難しいそうでした。庁内の建物の正面玄関は白くて広い階段になっていました。ストレニウスはここで馬から降りると、しっかりとした足取りで階段を登って行きました。建物に入るとき呼び止められはしたものの、赤鬼騎士であることが分かると道を通され、難なく敵の間近に近づきました。

「行政長官、知県のカリディアス殿の所は何処であるか?」

 堂々とした態度に、案内係は圧倒され来客を知県に知らせることもなくそのまま案内いたしたのでした。そのころカリディアスは商人の貢ぎ物に満足げに眺めていました。取り巻きも閣下の人徳の賜物と賞賛して、話が弾んでいました。

 そこに案内係りが連れたきたストレニウスが表れ一同は驚きの表情をしました。

「貴方が知県のカリディアス殿か」

 不意の訪問に固まったカリディアスでしたが、相手が赤鬼騎士であると分かると激怒する気持ちを抑えて表面上穏やかな態度を見せました。

「左様、私がカリディアス。騎士どのがこんな田舎町におこしとは、なにか御座いましたか?」

「実はよからぬ歌が流行っておってな、謀反の詩だが知っているか」

「存じませんが」

「出所を辿ってみるとここにあたったと言うわけだ」

「ここですか。ここには私たち以外おりませが」

「のようだな。ところで国に仇なす奴を俺が退治するが宜しいか?」

「それはもちろんです。是非」

「嬉しいぞ。では」

 一同が作り笑いをしようとしていたところ、騎士の背中に背負った双手剣煌めき、うなりを上げて振り下ろされました。取り巻きのものが気づいた時はカリディアスは袈裟切りに真っ二つにされ、体から血が勢い良く噴き出していました。突然の修羅場に一同は凍り付くようにかたまり、声も出ませんでした。二つに切られたカリディアズの体は左右に音を立てて床に落ち、ストレニウスはその体を踏んづけると首を切り取りました。騎士はその首に顔を近づけると、消えゆく相手の意識に最後の言葉を投げかけました。

「お前にピッタリの仕事を紹介しよう」

 そう言うとストレニウスは首を袋に詰め込むとなに事もなかったかのように部屋をあとにしたのでした。この様子に商人等は立ちすくんでいましたが、やがて騎士の姿が見えなくなると我に返り大声で守衛を呼んだのでした。

 ストレニウスが馬の近くの階段まで戻ってきたところ、賊潜入の報は伝わり庁内の大勢の者達が集まって来たのでした。たちまちのうちにストレニウスは取り囲まれてしまいました。

「お前達のボスは死んだ。俺はお前達にはなんの恨みもない」

 しかし守衛は一斉に襲いかかり、ストレニウスはやむなしと呟きました。ストレニウスが重くて大きい双手剣を一振りすると守衛達は衝撃に耐えられなく剣を落としてしまいました。休む間もなくその背後からは槍をもった兵士が一斉に攻撃をしてきました。騎士は槍の穂先を切り落とし、体当たりをして数名を吹き飛ばしました。

「これ以上したら、死ぬことになるぞ」

 ストレニウスは警告をしたものの、数で勝っているものにその忠告は届きませんでした。四方八方から襲いかかってきたので、彼は本気で戦うことを決意いたしました。訓練された赤鬼騎士の戦闘能力は高く、一人で数十名の兵士を相手に縦横無尽の動きを見せたのでした。たちまち庁舎の白い階段は血で染まり、多くの兵士が屍と化しました。

 一通りの戦闘が終わるとストレニウスは馬に跨り出口の門を目指しました。しかしそこにも多くの警備の兵が待ちかまえており、出口を塞いでいました。彼は猛然と馬を走らせると、守備兵を蹴散らし、瞬時にして数名の兵士を床に転がらせたのでした。こうして三つの門を血の海に変え突破すると、広場には10騎の騎兵が待ちかまえていました。

そどうやら馬の機動を生かした戦いを仕掛けてこようとしていることはよく分かりました。ストレニウスはこれに動じることなく、逆に彼等目がけて突進をかけたのでした。馬がすれ違った瞬間、首が宙を舞い、次の馬からは剣を持った手が転げ落ちました。反転し次なる敵に向かうと、騎兵は手に持った槍ごと二つに割られ、あるものは馬から引きずり落とされました。10騎の敵はあっと間に粉砕され、赤鬼騎士の強さを証明するようなものでした。こうして追っ手をことごとく粉砕してストレニウスは何処へ消えたのでした。


 数日後、農地の畑に季節はずれの案山子が立っているのが発見されました。鳥を脅かすはずのものが逆に鳥を呼び寄せていたので不審におもった農夫が近づいてみると棒と布で出来ている案山子の頭が本物の人間だったのでした。その顔は目玉も鳥によって啄まれ見るも無惨な姿で農夫腰を抜かしてしまいました。農夫は気味悪がってその場を離れましたが、去り際に振り返ると案山子が道化のように笑って見えたそうでした。 

 やっと書き上がったのですぐさま公開しました。

なんといっても漫画作成の後に書いちゃうのでなかなか進みません。読者の方にはずいぶんお待たせして申し訳ありません。

 今回主人公は一度も登場しませんでしたねえ。とはいってもストレニウスも重要な人物なのでこれでいいのです。ゆっくり始まった物語もどんどん話が複雑になってきました。

さて、ストレニウス兄弟はばらばらになりましたが、中編あたりで再び再会する事になります。古都ナティビタスに主人公達が向かうことになるので必然といえます。ただし読者の方々が覚えていてくれるか心配です。

 孤島の収容所のエルガスツルムも記憶してください。再び登場します。

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