第13回 矛と盾
<登場人物>
ビルトス 主人公の師(本名ダーナ)
グノー 主人公の兄弟子
グレーティア 主人公
プエラ 主人公の幼なじみの娘
レピダス 黒虎騎士団(銀弓のレピダス)
ソシウス 斧使いの大男(旋風のソシウス)
フィディア 祖母の家へ帰る少女(譚詩曲のフィディア)
デスペロ 魔法宰相
コンジュレティオ 軍総司令
ホスティス ヘテロ国魔法宰相
トラボー 反乱軍首魁
ハレエレシス 反乱軍参謀
フィデス トラボー配下魔法使い
ファルコ トラボー配下武将
ムルコ 麻薬組織の防御魔法使い(ウルマの兄)
ウルマ 麻薬組織の防御女魔法使い
湖の北端にあるのがウラナの町でした。湖の中に町があり、小さな島は隙間なく家々が立ち並び小さ区画を作り他の島と島は隣接していて恥橋で繋がっていました。川づたいに湖と繋がって拡張したもの違って最初から町全体が湖の中に計画されたものでした。というものも岸と町までには長い橋で繋がっており、その道は真っ直ぐ町の一番大きな島を貫いていて行政府まで延びていたのです。つまり行政府のある島を中心として周囲の島に町が拡張していったものなのでした。町と岸の間にはかなりの隔たりがあり町全体が島なのは遠目によく分かり、長い橋が水の中に立てられた様は水の中に立つ壁のようでした。この町に陸から入るには北方南へと通じる本道と北東、南西の道の三本のみとなり後は舟を利用するしかありませんでした。
ハレエレシスがいた町もクリークが複雑に走って湖と一体化したようでしたが、ウラナは湖の真ん中に町が埋没してしまったかのような外観をしていました。何故湖の岸でなくわざわざ湖の真ん中に橋を架けてまで町を作るのかグレーティアはまったく理解でしませんでした。単に敵からの防衛の為なんでしょうが、すごく不便に思えのでした。これに反しフィディアは湖に浮かぶ幻想的な町に一目惚れ、勝手に頭の中で物語りを作り描いていました。
東の橋に辿り着くとそこは往来が激しいところでした。町への入り口が橋であるためか人の流れも圧縮され人や物でごったがえしているといったところでした。もちろん北の橋は行政府に直接通じる政治道のためか横幅も広く馬車が悠々として通れるものでしたが、東の橋は庶民の生活道路のためか荷馬車の往来が激しいものでした。それに単に往来が激しいだけでなく、只でさえ狭い橋の左右の欄干の近くには無秩序であるかのようにあちらこちらに物売りが店を開いているのでした。これらはどこから湧いて出たか分からぬように出現し知らぬ間に霧散してしまうようなものでした。
荷馬車のゴトゴトいう音や呼び込みの声が響き渡りまだ町に入った訳でもないのに一同は到着した気分になりました。
この時橋の欄干にもたれかかりぼんやりと遠くを眺めていた一人の男が一同を見かけると少し驚いたように顔をつきだすと慌てて町に走り出したのでした。しかし人の多さのため一同はまったく気づかず見落としてしまったのでした。
長い橋を渡り町に入ると建物だらけで、両側を押さえつけられたように息ぐるしい通りを抜けると一気に広場へと抜けました。島一つ一つに広場があるようで家々がこの空間を守って建っているかのようでした。広場を横断し再び狭い通路に入り抜けるとそこには橋が架かっていました。となりの島へ渡る橋で、その先にはこちら同様建物が壁のように建ち通路が口を広げていました。端の下では人を乗せた舟がゆったりと通過していき、その様子を一同は珍しそうに眺めました。
今度の島の道は同様に狭く何回も折れ曲がっており惑わしているかのようでした。こうしていくつかの島を渡ると南端にある島に辿りつきました。今回の宿は湖が見渡せる町の縁に建てられたところのもので、部屋から眺める景色は青く澄み安らぎを与えてくれました。
「結局、あの爺さんからは何も収穫なしだな」
ソシウスはコップの水を飲み干しました。
「そうよ、今日は嫌な一日だったわ。じろじろ見られるし。偏屈そうな老人に会ったりで」
プエラは相変わらず不満たらたらでした。
「確かに曖昧なままだったな。しかしヒントはもらった」
「そんなものあったか。結局こいつが何故狙われているかはっきりしないじゃないか」
「ハレエレシスは何かを知っていたようだ」
レピダスは確信したような口調で言いました。
「知っていただと。確かに謎めいたことを言ってやがったが」
「ようするに魔法宰相デスペロは瓊筵戦争を研究していた。今回のことはこれに纏わることということだ」
「そんな昔のことが関係してくるのか?」
「もちろんだ。魔法宰相が必死になるくらいにな」
「あの戦いはパテリアが山間の小さな国だったものから大きな国になる時のものです」
フィディアが話しに加わりました。
「なんだ、よく知っているな」
「はい私はその芙蓉姫の譚詩曲全て謡えます」
「それは本当か?」
「はい、伯父さんの口伝ですが」
「だいたいどんな話しなんだ」
ソシウスが問いかけました。
「姫の恋の物語ですが」
「なんだそりゃ」
「物語に色恋は必要か・・。しかし国盗りのお話だったはず」
レピダスは記憶を辿っていました。
「そうですね。芙蓉姫の生まれたパテリヤは山間の小さな国でした。当時大小無数の国が乱立し大きな国が辺りを併合していっていました。パテリヤも大国に脅威にさらされており風前の灯火といった感じです」
「芙蓉記の譚詩曲については俺も聞いたことがあるが、単なる戦いの連続であったという記憶しかない。突然姫が魔法を使い始め周囲の国を滅ぼしてゆく展開だったはず」
「それは魔との契約によってですね」
「契約?それはなんだ」
「え、はい物語で国が滅びそうになった時、姫は魔と契約を結ぶあれですけど・・・」
「そのような話は聞いたことがないぞ。そんな話があるのか?」
「私の口伝ではあります」
「変わっているな。他のとは何処が違う?」
「そうですね一般の譚詩曲より随分長いのです」
「流布しているものの方がが簡素化したのか、あるいは簡単だったものを誰かが複雑化させたのか」
「私の伯父はさんは、王都フローレオで魔法博士に教わったと言っていました」
「なんだって!」
レピダスは杯を落としました。
「それって、爺さんところで聞いた名前だな」
「問題の人物の口伝ということですね」
グレーティアは博士と言われる謎の人物の姿を思い描きました。
「その話しでは姫はどんな契約を結ぶんだ?」
「迫り来る軍勢を追い払い国を守るという契約です」
「なるほど追いつめられていたようだな。でその見返りとして姫は何を要求されたんだ」
「それが魂でもなく、世界の支配者になることを誓わされたようです」
「姫には何の損失にもならないが、それが要求なのか?」
「はい、さらにパテリアが永久に続くことの約束があったようで、魔は常に姫の傍らにおり守り続けているということです」
「確かにこの国は不思議なことに長寿で滅んでない。よその国は随分入れ替わりしているが」
そのような者によってこの国は建国され守られていたと言う話は、それまで治安を維持してきたという自負があるレピダスには受け入れ難いものでした。
「だがよう、まだまだ相棒に結びつきそうもないぜ。女魔法使いによって滅びるとの予言でもあるのか?」
「それは御座いません」
「なんだつまらんな」
「怪物たちが出現することに関してなにか伝えられていますか?」
グレーティアが訊ねました。
「少ない兵を補ったというものがあります」
「怪物を使ったということですね」
「となると、呼び込んだ可能性があるな」
「魔法宰相は女魔法使いの災い一つとして怪物たちが活発に動き始めることをあげていた。女魔法使の存在が呼び込む原因なのか」
レピダスは怪物達と女魔法使いの関係に思索しました。
「確かに、怪物か活発化しているが相棒が召還なんかしていないぜ」
「そうだが、勝手にあちらの方から集まっているてことはないのか」
ソシウスは言葉に詰まりグレーティアの方を向きました。彼女は困惑した表情で沈黙しました。
「だがよう、他の女魔法使いがいてそいつが原因の可能性もあるはずだろう。第一こいつは男魔法使いなんだんだぜ」
「それはそうだが・・・」
「馬鹿ねあんたたちビルトス先生はアデベニオに逃れよと言われたのよ。メディカス老師が全てをご存じのはずよ」
論議は無意味だと言わんばかりにプエラは手厳しく言いました。
部屋でくつろいでいるとベランダから外を眺めていたプエラは小舟がゆっくと過ぎゆく様をみて自分たちも乗ってみたいと言い出しました。最初はグレーティアを誘いましたが、先ほどの話で気乗りしないようすなのでフィディアを誘って外に飛び出して行きました。もう夕暮れ近くで日も沈みそうなので迷子になっては大変とソシウスは呼び止めようと宿を出て近くの桟橋にあとを追いかけました。
彼が辿り着いた時は二人はもう舟の中で、彼女たちは此方に気がつくと盛んに手を振っていました。静かな湖面を滑るように舟は進んでいき、赤い夕日が空を染め夜の到来を報せ東には強く輝く星が一つ現れました。やれやれと暫くと彼女等の遊ぶ様子でも眺めているかと岸にあぐらをかき、夕日を映りだした湖面の様をぼんやりと眺めました。気がつくと目の前を別の舟が通り過ぎました。彼女等の舟はだいぶ沖に進み、その距離からは多分町の全景が捉えられたとこでしょう。ここから町の灯りが見え始めたので湖上から見る景色は星のように点在する灯り群の姿でしょう。俺も乗って行くべきだったかなと彼女達の舟を眺めていたのでしたのですが、そこで彼は奇妙なことに気がつきました。というのも彼女達の乗った舟は船頭が二人も乗っていたのです。他の舟は一人漕ぎ手が乗っているだけなのですが一人はガイドであろうかと怪しんでいると、二艘の舟が近づいてくるとその舟を囲むように停止したのでした。この様子に怪訝な様子で沖を眺めていたソシウスは彼女たちが男達の囲まれ乱暴をされ始めたことに驚き慌てて舟で追いかけようとしました。その時グレーティアの探査の魔法を思いだし、急いで宿に立ち戻るとグレーティアとレピダスを連れてくると急いで後を追いかけました。
「相棒。捕捉したか」
「ぎりぎり捉えています」
「あいつら何処に向かっている」
「わかりません。西南西の方向に間違いはありませんが。そこに何があるのか」
「こんなところに人攫いがいるとはな。身代金目的でないのは確かだろう売買だろうな」
「あいつらとっ捕まえたら叩き殺してやる」
「いきり立つなよ。見失っても闇の奴隷市場で再開できる」
レピダスは涼しい顔でした。
舟が随分と離れていたためか、人攫いの舟の者達はまったくグレーティア達を警戒ししている様子もなくゆっくりとしたペースで走っていました。その後を気が付かれないようにレピダス達は追跡し、やがて湖畔の古城らしき所に到着しました。古城といっても崖をそのまま利用したかのような粗末な城であり、そう思えるのは自然の岩肌とは別に積み上げられた石の壁があったからでした。それも大半崩れたものでした。
グレーティア達は人攫いの舟より離れた位置に舟を繋ぎ止め岸辺に通じる道を後を追いかけました。道は登りでこぼこしていて走って追いかけると息を切らしてしまいます。崖の頂上までくると辺りは開け城の広場のような所に出ました。見渡しても人攫い達の姿はもうすでになく、廃墟の石積みの壁が崩れかかってあるだけでした。
「見失ったか」
ソシウスが残念そうに言いました。
「そうでもないぞ。なにやら気配があるぞ」
もう暗くなった周囲にレピダスは警戒するように促しました。
「右に5命名、左に5名隠れています」
グレーティアの探査が走りました。
「なるほど、それじゃ俺が左、右はレピダスお前ということで」
「まあ、お前一人だけども良さそうだがな。仲良く一仕事といくか」
一同が広場の中央まで歩いたとき、一斉に剣や槍をもった男どもが一斉に襲いかかってきました。待ちかまえていたかのようにレピダスとソシウスは走り出しそれぞれの群に飛び込んで行きました。勝敗は5対1の不利な状況のはずですが瞬く間に二人は全員を片付けると何事もなかったかのようにグレーティアの所に戻ってまいりました。
「この分だと、俺達が侵入したことは知られているぜ。こそこそする必要性はなくなったな」
「人質がいることを忘れるな」
レピダスは釘を刺しました。
「左の通路の方向です。何人かが待ちかまえているようです」
「安心しろ。この手の連中は俺の敵じゃない」
「だといいがな」
レピダスは薄笑いをしました。
狭い通路を走って広いところにでるとそこで待ちかまえていたのは十数人の男達でした。ソシウスは今度は一人で相手をしようと堂々と前に進み出相手を挑発しました。この言葉に賊は飛びかかってくるかと思いきや反応がまったくなく、ソシウスがとまどっていると一人の男が前に出て来ました。
「いかん、ソシウス下がれ!」
背後から異変を察知したレピダスが叫びましたが間に合わず、男から火炎の玉が飛んできたのでした。男は魔法使いでした。いくら武芸のほどに自信があっても魔法使いあいてでは不利です。自らの過信に気が付いた時は目の前に火の渦があり万事休すの状態でした。しかし火炎は吹き飛ばされ何かと何かがぶつかり合う轟音がしたのでした。この時グレーティアはとっさに雷撃を放し、火炎の攻撃が到達する前にこれをたたき落としていたのでした。
「相棒、お前の仕事だぜ」
魔法がぶつかる威力にはじき飛ばされ尻餅をついていたレピダスは斧を肩に担ぐとその場を離れました。
敵の男は女から雷撃が繰り出されたので意外な顔をしました。しかし薄暗くなったいたとはいえその姿は女のものであることははっきり分かりました。面白い者が相手だと馬鹿にしたような態度で男は進み出ました。
「女が魔法の真似事とは恐れ入った。痛めつけた後、可愛がってやるぜ」
男が火炎の魔法を繰り出すと、すかざずグレーティアも雷撃を放し圧倒的力で火炎を吹き飛ばし男を消してしまいました。その先の城の石壁には丸い大きな穴が空きました。
この魔法使い通しの戦いを見ていた男どもは身の危険を感じ逃げ去ってしまいました。
「まあ、俺達だけ労働では不公平だ相棒にも体動かしてもらわなくてはな」
言い訳にも似たことを述べるとソシウスは何事もなかったかのように先を行きました。しそのまま進むと道は緩やかに右に曲がり両脇に高台がある場所にでました。
「あの上から右に2名、左に3名で此方を狙っています」
高台を指し示しグレーティアは相手の様子を伝えました。
「となると俺の出番となるな」
レピダスは弓を片手に前に進みでました。敵との距離はまだだいぶあり、しかも相手ては高台の上にいます。多分相手は一同が真下を通過する時点で上から射殺すつもりでいるようでした。レピダスは3本と矢を右手も持つと涼しい眼差しは輝きを持ったものに変わり立て続けに放されたのでした。左の高台で次々の起こる悲鳴。異変に気が付いて右側の敵が何事が起こったのかと身を乗りだしたところ二人とも射られて下に落ちてしまいました。
「たいした野郎だぜ。一方的だな」
三人がそのまま急ぐと今度は8人の男達が待ちかまえていました。この集団は今までのような片手に剣をもつだけの軽装のものでなく、装備を十分着けた者達でした。胸、頭部、腕、足と防具は揃っており、左手には盾を持ち右手には刀を持っていました。
これには一太刀では治まらないであろうこと3人は覚悟しました。一同は前に進むと武装した者達は一塊りになって盾を前面に突進してきました。密集した集団の動きに前面からの強力な圧力を感じソシウスは攻撃の術を失われたかのようでした。押し潰されるのを避けようと横に逃れやっとのことでかわすと、向きを変えて再び突進して敵を満身の力を込めて盾の突進を迎え撃とうとしました。
「横を狙い分散させるんだ!」
レピダスが指示を与えるとソシウスは理解しとっさに作戦を変更しました。相手の縦の攻撃は強力なものでしたが、その分横や背後の防衛はまったく手薄でした。これは集団で動くためでしょうか、攻撃の切り替えも素早くは出来ない様子でした。寸前で転身し振り向きざまに斧を振ると側面の敵を捉えました。敵陣形が崩れ歪な形となると前面の圧力も弱まりました。ここでレピダスは素早く敵背後に回り込むと背中から双頭槍を突き刺し、これに対応するかのように密集陣は解かれ個々人の戦いとなりました。こうなると動きで速いソシウスとレピダスの攻撃は効果を出し始め、防具の弱い部分から敵を切りきざんでいったのでした。戦いが終わったとき盾を持った8人の遺体がころがり二人は手こずったものの無傷でした。
先に進むと上り坂になっていて先は見えませんでした。狭い通路で横に逃げ場はなく三人は坂を登り始めたところ前方に巨石が押し出されてくるのが分かりました。その石は明らかに此方に転がしてしまおうという考えが読みとれました。しかし横に待避は出来ず背後の安全地帯まで戻るのには遅すぎました。
「不味いな。彼奴を転がされたら逃げ場がないぞ」
「グレーティア粉砕出来るか?」
「砕くことは出来るでしょうが割られた石が再び転げかねません」
「だとしてもあれよりはましだ」
「石を動かす魔力は強ければいいのですが、まだ小石を動かす程度ですので砕くしかないでしょう」
グレーティアは前に進み出、次第に地面に轟音を立て加速して転がってくる巨石に相対しました。彼女が呪文を唱えると坂の上を雷鳴が轟き稲光とともに白い閃光が走りました。巨石は光に包まれたかと思うとその圧力に屈し体を割られいつつもの破片になって坂の上に吹き飛ばされました。
「おまえ、この前の風の魔法使いの時より威力増しているぜ」
「そうですか」
「俺もそう思う。ケドルスの時これだけ威力があったらもっと楽だったのだががな」
レピダスも満足げに頷きました。
坂を上りきるとあの岩を落とした者達が飛び散った石の餌食になって倒れていました。ことどどころうめいを上げている者達いましたが、それらに構いはぜす先に進みました。
「この先に大勢のものが集まっています。用心したほうがいいでしょう」
「となるといよいよ本殿に突入というわけだ」
「そうだな此処で俺は別れる」
レピダスは道を変えようとしました。
「まてよ此処きて逃げ出すのか」
「馬鹿を言え。このまま三人突っ込んで人質はどうする。盾にとられてはなにも出来ないぞ」
厳しい口調がレピダスが発せられました。
「それもそうだな。俺が悪かった。俺達が敵を引きつけるからお前は救助してくれ」
ここでレピダスは別行動となり、二人は真っ直ぐ敵の待ちかまえる場所に辿り着いたのでした。そこは競技場でしたのでしょうか真ん中の平らかな空間を残して回りは段々の階段状の席になっていました。競技場には松明が点され辺りは昼のように明るいのでした。
客席らしきものの間に通じている道を通って二人は底の部分まで降りてきたのでした。
平らかな空間の真ん中には恰幅のいい一人の男が立っておりその周囲のいは数十人の男達にがいました。観客席からは歓声があがり多くの男がこれから始まることを楽しげに眺めていました。
ソシウスを先頭にグレーティアは中央に向かって歩み、相手との顔を間近で確認でみるほどに近づきました。恰幅のいい服を肩に羽織った男はにやにやした表情でグレーティア達を眺めました。そして隣に控えていた男に話しかけました。
「この女です。間違いありませんぜ兄貴」
「そうか、お前は下がってこの様子を眺めていろ」
控えていた男は足早に去ってしまいました。
「俺の名前はムルコ。お前達を待ちかねたぞ」
男は冷たい目をグレーティア達に投げかけました。
「お前か人攫いの親玉は。娘二人を帰してもらいに来たぞ」
「まあ、慌てるなあの娘には手出しはしない。あれはお前達をおびき寄せるための餌にすぎん」
「餌だと。すると俺達に用があるというのだな」
「お前でなく後ろに娘に用がある」
「なに!どうしてこいつなんだ?」
「その娘に妹を殺されてな。復讐しよと思ってな」
「妹?」
なんのことだか分からないソシウスは真剣な顔をした男の見つめました。
「ウルマという方ではないでしょうか?」
グレーティアは問いかけました。
「有り難いな。敵に名前を憶えてもらってな。恨みの返しがいがあるというものだ」
「あれは避けられなかったのです」
「お前が面白がって粉々にしたとは聞き及んでいる」
「それは違います!」
必死弁解しょうとグレーティアはいたしましたが相手は聞く耳を持ちませんでした。
「あいつとはな子供の頃ひもじい思いをして、今やっと裕福な生活を出来るようになったんだ。事業に失敗し新たな出発をし軌道に乗りかかったところをお前がやって来て打ち壊していった。あいつも口惜しかったに違いない。あいつに防御魔法を教えたのは俺だ。今度は俺がお前を粉砕してやる。死より惨めな姿にしてやろう。麻薬の味をたっぷり味わせ男どもの慰めものにしてやる。その容姿なら男どもも大喜びだろうて」
「けっ。ふざけるな悪党の逆恨みてやつかよ」
ソシウスが割ってはいりにらみ合いが行われました。すると親玉の男から魔法が発動したのがグレーティアには分かりました。それはかつて対戦したウルマの防御魔法より遙かに強力で自分で主張するだけあってあの女性の師匠といっても可笑しくありませんでした。
「その魔法はメディカス直伝ですか?」
「ほうあの老師か。違うな闇社会のものだ。妹はそう思いこんでいたが」
ムルコは手を挙げると空中に無数の矢が舞っていました。観客席がら放された矢は隙間なく空間を埋めそのままグレーティア達を襲い地面に無数の矢が刺さりました。しかしその矢はグレーティア達に当たることなく矢を避けることができました。
「攻撃魔法で消し去ると思ったが、まさか防御魔法が使えるとはな」
ムルコは相手が同じ技を使ってきたので、意外な展開に愉快になりました。合図を送ると5人の男が武器を持って前に進んで来ると、ソシウスも駆け出し斧を豪快に振りました。
両者は走り寄るとあっという間もなくソシウスは5人に取り囲まれてしまいました。ソシウスはその中を縦横無尽に動き回り敵を切り倒そうとしましたが叶いませんでした。男達には防御魔法が施され傷つけるっことは出来ないのでした。しかしこれはソシウスについても言えることで5人の男はソシウスを殺そうとしましたが体を傷つけることは叶わないのいでした。
「この戦いは、引き分けですよしましょう」
グレーティアは提案しましたが、ムルコは耳を傾ける様子もなく指を鳴らすとソシウスに異変が起きました。敵の振り下ろした刀が服を裂いたからでした。切られたソシウスはとっさに防御が解除させられたことを悟り素早く転身すると離れた位置から五人に相対しました。
「小娘、防御魔法は解除も出来るてことを知らなかったか」
ムルコは自分の技を見せつけるように自信満々の態度をしました。その時ソシウスが突進し五人の真ん中に立つと疾風のごとき煌めきが走り5人が一気に薙ぎ倒されたのでしした。一瞬の出来事にムルコは驚き、気を抜いた瞬間魔法が解除され一瞬を突かれたことを悔しがりました。
「貴様の防御魔法は妹より優れているということか。ならばこれでどうだ」
ムルコの防御魔法が強まり仲間を強化しました。離れた距離であるのに再びソシウスは傷を負わせることが出来なくなりました。
「くそーこれじゃ体力消耗するだけだな。レピダスの奴二人を救援してやがるかな」
武器か使えないのでソシウスは手当たり次第に相手を地面に投げつけたのでした。
その頃プエラとフィディアは狭い部屋に閉じこめられていました。フィディアはうつむいて涙目でしたが、プエラはつまらなそうに天井を眺めていました。入り口のは見張り番がいてとても外にはでられそうにもありませんでした。
「あたし達どうなるかしら。きっと何処かに売り飛ばされるのよ。お話だったらどんなことも楽しいけど本当にこんな風になると惨めだわ」
フィディアは呟きながら鼻をかみました。
「もーめそめそしない。帰ったらここの名物一杯食るのよ」
「ご馳走て・・」
「ここの名物は魚料理よ多分。煮るのかしら焼くのかしら」
「それどころじゃ・・・」
「揚げるのかもしれないわ」
納得したようにプエラは首を縦にふりました。
「でも紐でくくられて動けないのに夕食のお話なんか」
フィディアが悲壮な顔をするとプエラはにっこり笑って自分を括っていた紐を解いてしまいました。自信満々に立ち上がったプエラをみてなにが起こったのかフィディアはさっぱり分かりませんでした。
「はい。この通り。すぐ解いてあげるね」
フィディアの紐を断ち切られ彼女は自由になり、おもわずプエラに抱きつきました。その時離れたところから歓声ががおこりました。
「グレーティア達が来たんだわ。ほらフィディア見学よ」
声に反応しプエラはフィディアに満面の笑みを浮かべました。
「見学て・・・私たち囚われているんですよ」
「大丈夫なんとかなるって」
そう言うとプエラはドアの隙間から外の様子を窺いました。細い隙間には一人の男が番しており、他に誰もいないようでした。その上騒がしい外の様子が気になるのか落ち着かない様子で番をしているこのなど忘れているかのようでした。美味い具合にドアは錠がかけられてなどおらず出入りは自由でした。しかし男がそう聞き分けがよく直に二人を通してくれる保証もなく仕方ないので近くの石を拾うとそーっと歓声に釣られて仕事を忘れた監視係りの背後に立ち思いっきり頭を打ちました。男は崩れ落ち床にころがりました。
「この人大丈夫かしら」
フィディアが心配そうに倒れた男を心配していましたがプエラはお構いなしに道を皆に向かって歩みました。通路を二度三度曲がると前が開けて競技場のような広場の上に出て、下では人が集まり騒いでいました。
「フィディアお祭りよ」
プエラは低い杯塀から身を乗りだし楽しげに叫ぶとフィディアの手をとり観客の一番上に腰掛けさせたのでした。フィディアはまた直ぐに捕まってしまいはしないかとおどおどとし、やもえずプエラの隣に腰掛けると下の様子を眺めたのでした。そこで行われている光景はお祭りや演劇のたぐいでなくなにか争っているように見えました。しかも男女二人をみんなで囲んで斬り合いのような仕草をしていました。フィディアが下の様子を怪しんでいると背後から声がしたのでした。
「心配してやってくれば、お前達なにしてるんだ?」
呆れたような声の主はレピダスでした。
武器が通用しないので相手を投げ飛ばしていたソシウスも相手が何度も立ち上がってくるし複数の人間に相対していたので体力自慢の彼も息切れし始めていました。この事態にグレーティアも不味いと考え、魔法の発動者を直接倒さなくてはと決心したのでした。目の前にいる男は自信に満ち恨みに燃え上がっていました。
グレーティアは最大の雷撃をその男に向かい放すと無数に裂けた稲妻が閃光と雷鳴を轟かせ走りぬけました。男の全身を稲妻が襲いましたが男は球体に包まれ無傷で周囲に砂煙を上げただけでした。
「なかなかいい雷撃だ。しかし俺には通用しない」
涼しげに男は言い放しました。二度三度雷撃がムルコに向けて放されましたが彼は無傷で、この様子に周囲の男達は大歓声で彼の実力に歓喜したのでした。ムルコの技はウルマより精巧に出来ていました。基本の反復の周期をもった円運動のサイクルの数式であることには違いがありませんでしたが、ウルマの周期は緩やかな基本の波形を描いていましたがムルコの技は複雑に変化する波形をもったものでした。その変化の形式の作り出す触手によって雷撃は無力化させられていたのでした。
「くそ、お前の雷撃が通じないとは」
口惜しそうにソシウスが言いました。
「こうなったら、仕方有りません逃げましょう」
「敵に尻を向けるとはな」
「そうではありません。防御魔法が届かない位置に誘き出すのです」
「なるほど」
「どうした俺に魔法が通用しないのが分かったか」
雷撃が止んだのでムルコは余裕の表情をしました。
「ではこれでどうです」
グレーティアは雷撃を放ったのは地面でした。衝撃が地面を襲い大きな砂煙を舞い上げました。不意を突かれたムルコは目の前が真っ白になったので、逃がしてはならないと砂煙に向こう側に駆け寄って行きました。すると前面に敵の二人を追って15名ばかりの部下達が追いかける姿があり、慌てて男達を止めようとしましたが間に合いませんでした。
ムルコの不安は適中し部下は彼から極端に離れてしまったので、女魔法使いによって防御魔法を解除されてしまっていたのでした。そんなこととは知らない配下の者達はいきなり反転して襲ってきたソシウスにふいをつかれ彼の旋風のごとき動きの中に切りきざまれたのでした。大勢の部下を殺され頭に血が上ったムルコは残り30名の配下を率いるとグレーティア達を追いかけました。
「作戦は成功したがあの大将部下といっしょに追いかけて来やがってるぜ」
「レピダスは二人の保護に成功したようです」
「そうか、それでは舟に戻るとするか」
しかし彼等は来た道とは反対の方向に追いつめられていたのでした。背後から追ってが迫って来て次第に彼等は崖に行き場を失いました。
「まずい後ろは崖だ。真下が湖なら飛び込むことが可能だが水はちょいと離れてやがる」
「囲まれては不味いのでこうしましょう」
「どうするんだ?」
すかざすグレーティアはソシウスの手をとるとおもいっきりジャンプしました。いきなり手を引っ張られソシウスは体勢を崩してばたばたとし、二人は宙を舞いどんどん下に落ちていきました。地面が大きく眼前に迫って来たときグレーティアは突風起こし二人を下から押し上げたのでした。土煙が崖の下に立ちその中なら二人は出てまいりました。地面に着く瞬間グレーティアは防御魔法を使いその耐性を強化し落下の衝撃から二人の身を守ったのでした。崖に追いつめたことのより油断したムルコは突然二人が飛び降りたことに驚きあわてて崖の端にかけ寄り下を覗き込みましたが暗くて様子はよくわかりませんでした。部下が松明で崖の下をを照らすとやっと敵が無事であることを確信しました。その様子を上から眺めていたムルコは非常に悔しがり急いで崖の下い降りるよう部下に指示いたしました。
「まさか飛び降りるとはな」
「申し訳ない。驚かせてしまって」
「まあ、いいってことよ。どうする舟に戻るか」
「それはよしましょう。レピダス達が舟に着くまでここで粘らなくてはなりません」
「それもそうだな」
「それに敵は私たちの宿泊場所について知っています。ここで決着を付ける必要性があります」
「しかし、お前の雷撃は通じなかったぞ」
「私に考えがあります。防御魔法の弱点を突くのです」
「美味い手があるのか?」
「地の利を生かした戦い方です」
そうは言ってもあたりは薄暗くその様子はよく分かりませんでした。そこでグレーティアは青く小さく輝く探査の目を呼び出すと四方に走らせました。
「探査の目でみたところあの場所が最適のようです。うまくおびき寄せましょう」
「とはいってもこんな闇の中、相手も気が付かないぞ」
「そこの所に消された松明が残っています、それに火を点け水辺で舟を探しているふりを致しましょう」
こうしてわざと追ってを待っていたところムルコが引き連れてきた者達は眼前に迫ってきたのでした。
「舟を探しそこなったか。もう逃げられんぞ」
勝ち誇ったようにムルコは二人の前に登場しました。彼の回りには30名ほどの男達が控え今にも飛びかからんとしていました。ここでグレーティアは雷撃を放しその足を止め距離を保ちました。
「もう戦いは止めませんか。私は争い事は嫌いなのです」
グレーティアは呼びかけました。
「馬鹿な。妹の敵を許すはずなどないだろう」
「妹さんはそうして命を失ったのです」
「雷撃は通じないのにその自信はなんだ。追いつめられての空威張りかもう一度雷撃を仕掛けてみろよ。防いでやるからよ」
「仕方ありません。ではお望みのように雷撃を放しましょう。お恨みなきように」
二人は向かい合いグレーティアは渾身の雷撃を放し、ムルコは防御魔法を最大に出力したのでした。ムルコには自信がありました。この娘の魔法は全て防ぐことが出来るし時間の問題であると確信したいました。グレーティアの雷撃が飛んできた時余裕でこれを防ぐつもりでいましたが雷撃が飛んでいったところは彼の所でなく大きく外れた崖の方でした。予想外の展開に驚いたムルコは瞬間罠にはめられとことを肌で感じました。理由は分かりませんでしたが直感といったものです。慌てて退こうと思った瞬間轟音とともに崖が崩れて来たのでした。
(敵の狙いはこれだったのか)
崩れ落ちてくる崖を目前にしてムルコは敗北の二文字が頭を過ぎったのでした。不安定な形でそそり立っていた崖は雷撃を受けて耐えきれなくて大きく音を立てて崩れていき、ムルコ達を完全に埋め尽くしてしまったのでした。大きな崩壊が起こって辺りには砂煙が舞いグレーティアたちは顔を手で覆いました。やがてそれも治まると目の前には小高い山が出現していました。
「彼奴死んでしまったのか?」
「いいえ。死んではいません。多分この土の中で防御魔法によって生き延びているでしょう」
「とすると土の中からはい上がってくるのか」
「それは外部からの助けなくては無理でしょう。土の中でいつまでも魔法を発動続けられません。そのうち息が出来なくなるでしょう」
「窒息死という訳か」
「彼の防御魔法は攻撃魔法ではうち砕くことは出来ませんでした。それで魔法の代わりになるものによって戦ってもらったという訳です。これが彼の防御魔法の弱点です」
静けさの戻った岸辺にソシウスが持った松明が辺りを照らし、小さく岸を叩く水音だけが辺りに響いていました。その二人を見つめる男がいました。岩の影に隠れ一部始終を来届けた人物は拳を強く握りしめ歯ぎしりをしていました。
「姉ご、だけじゃなく兄貴までやられるとは。こうなったら親分に報告するしかない。あの娘こんどこそとちめてやる」
男は決意を胸に秘めると足早にその地を去ってゆきました。
船着き場ではレピダスがプエラとフィディアを乗せてグレーティア達を待っていました。いつでも逃れる体勢でしたが、ソシウスがゆったりとした足取りで歩んでくるのを見かけたとき警戒の必要もないことをレビダスは悟り安堵に表情を浮かべました。
「なかなか手こずったぜ」
ソシウスは疲れたように肩に担いでいた斧を舟に置きました。
「分かっている。全部見ていたからな」
「なんだ。高見の見物か」
「そう起こるな。この嬢ちゃんたちが観客席の一番後ろで見ていたからな。そうならざるを得ない」
「てっきり部屋に監禁されているとばかり思っていたが、その暢気さはなんだ」
「プエラの方はお前達が飛び降りたのでそれを見ようと追っかける始末。ぶつくさ言うのをなだめて連れてくるのも大変だったのだが」
「それも難儀なことだ」
ソシウスは少しレピダスに同情心が起こりました。
「ということで、運動のあとはお食事よ。早く宿に戻りましょう」
プエラは陽気にレピダスにオールを差し出しました。
「人使いの荒い奴だな。反省してるのか」
ぶつくさ言いながらソシウスは舟をおもいっきり漕ぎました。オールの軋む音を響かせ舟は前進しました。もう日は落ちて辺りは暗く遠くに町の灯りが煌めいていました。湖面にはその町の姿が映しだされゆらゆらと揺れていました。
三行書いては眠ってしまい。こいつの繰り返しでちっとも先に進みませんでした。眠いと知らないうちに意識て飛んでしまうですよね。はっと気がつくと二時間後なんてことあります。
今回の敵の料理の仕方は難しかったです。というのも守ってばかりでそれらしい攻撃がないくせに倒しがたいからでした。
主人公が根性で魔法で粉砕するという正攻法もあったのですがそれは採用せず、なんとか別の方法を考えました。他の案ではパクリと怪物に人飲みということも思い浮かびましたがこれは採用しませんでした。
ウラナの町はテスココ湖のテノチティトランとヴェネチアをミックスして想像しました。
次回はフィディアに続く仲間の登場となります。